プライマリ・ケアにおける抗うつ薬の効果と耐用性のシステマティック・レビュー

―文献名―
Klaus Linde: Efficacy and Acceptability of Pharmacological Treatments for Depressive Disorders in Primary Care: Systematic Review and Network Meta-Analysis.Annals of Family Medicine  2015 vol. 13 no. 1 69-79

―要約―
目的:
 この研究の目的は、プライマリ・ケアのセッティングにおいて、どの抗うつ薬がプラセボと比較してより効果的なのかを調査し、抗うつ薬の種類によってその効果と耐用性の違いがあるのかを究明することである。

方法:
 私たちは2013年12月までに発表されたMEDLINE, Embase, Cochrane Central of Controlled Trials (CENTRAL), PsycINFOの文献を調査し、プライマリ・ケア医による成人のうつ病治療の無作為試験についてレビューを行った。直接的、あるいは間接的なエビデンスを結合しながら、従来のpairwiseメタ分析と、ネットワークメタ分析の両方を実施した。一次アウトカムは治療への反応(うつ病スケールで50%以上の改善、あるいは症状のスケールでの改善)と、副作用による研究の中断とした。

結果:
 計66個の研究(15161人)がinclusionされた(Figure 1)。ネットワークメタ分析では、TCAs、SSRIs、SNRI(セロトニン-ノルアドレナリン再取込阻害薬)、SARI(低用量セロトニンアゴニスト+再取込阻害薬=トラゾドン、レスリン®)、オトギリソウ抽出物(セント・ジョーンズ・ワート)がプラセボと比較して有意な効果があることが分かった(Table 3)(odds ratio 1.69~2.03)。これらの薬剤間での統計上の差異は見出せなかった。rMAO-As(モノアミン酸化酵素阻害薬)とオトギリソウ抽出物は、副作用による中断という点では、TCAs、SSRIs、SNRI、NRI(ノルアドレナリン再取込阻害薬)、NaSSAs(ノルアドレナリン作動性-特異的セロトニン作動制約)に比べて中断は少なかった(Table 4)。

結論:
 TCAsとSSRIsは他の薬剤に比べて、プライマリ・ケアのセッティングでの効果という点で確固たるエビデンスがある。しかし、プラセボと比較した効果の大きさでは比較的小さい。他の薬剤(オトギリソウ抽出物、rMAO-As、SNRI、NRI、NaSSAs、SARI)はいくつか良好な結果があるものの、それらを明確に推奨するには最近のエビデンスでは限界がある。
 限界として、出版バイアス、ネットワークアナリシスによる限界、プライマリ・ケアのセッティングでの文献が少ないこと、効果判定が平均6週間であることから、プライマリ・ケアのセッティングにおける長期的な効果と耐用性については今後さらなる研究が必要。

【開催日】
2015年3月4日(水)

診察での抵抗、両価性、葛藤への対応

序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
―文献名―
ビル・オハンロン著・宮田敬一訳:インクルーシブセラピー 敬意に満ちた態度でクライエントの抵抗を解消する26の方法,2007

―要約―
序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
 そこで、初めは360度あった自己が、例えば267度の自己になってしまうが、そのストーリーの周囲には常に本来の生の体験の材料があり、そこには私たちがまだ発展させていない潜在力が含まれている。これを「インクルーシブセルフ」と呼ぶ。(図:イングル―ジブセルフ 表示)
 このインクルーシブセルフは、私たちがインクルーシブセラピーを用いるときに、豊饒さを引き出す源泉となる。その人が体験の中で、分離したり、価値を下げたり、自分のものでないとしているいかなるものに対しても、招待し、許しを与え、含んでいくことで、インクルーシブセルフを扱うようデザインされている。

インクルーシブセラピーの3つの基礎的方法
1.クライエントの体験などへの許可やそうしなくてもよいという許可を与える。(許可法)
2.一見正反対や矛盾に見えるものが葛藤なく共存する可能性を示す。
3.過去にそうだった、現在そうである、将来そうなるだろうと話すときに、正反対の可能性も考慮に入れる。
 26の方法はこれら3つから応用的な方法やテクニックを選び出したもの。
許可法
許容は、インクルーシブセラピーの最初の基礎的な方法で、ほとんどのセラピストはおそらくすでにこの方法を用いている。なぜなら感じてはならない感情や考えてはならない考えやしてはならない行動のために行き詰まり、セラピーにやってくるのだから。
1.1 許可を与える
クライエントが持つかもしれない、ありとあらゆる体験や感情や思考や空想に対して許可を与えてください。感覚、不随意的な思考、感情、イメージなどの無意識な体験は大丈夫だと、クライエントに知らせてください。もちろん、それらと「計画」および「行動」(すべてが大丈夫とは限らない)との区別には常に注意する。
用例
クライエント : 私は時々、夫と子供から逃げ出すことを空想するんですよ。
セラピスト : 他の女性たちが同じことを言うのを聞いたことがありますよ。そういった場合、結婚生活や家庭生活のいくつかの局面と失望を結び付けすぎることからくることが多いんですが。それがあなたにもあてはまるかどうかはわかりませんが、しかしそのような考えをもつのはいいと思います。もちろん離別を「企てる」ことと実際にそうすることは、全く別物ですよ。

【開催日】
2015年1月21日(水)

とらわれた過去から開放させるには、どのようにアプローチしたらよいのか?

―文献名―
ビル・オハンロン著・前田泰宏監訳.可能性のある未来につながる新しい4つのアプローチ トラウマ解消のクイック・ステップ,2013

―要約―
イントロダクション
トラウマを扱っている書籍の多くは、人に与えられたダメージに焦点を置いている。そして、こういった「ダメージを受けた」人々は長くて困難な回復への道のりに直面するよう導かれる。こういった伝統的なアプローチはしばしば治療に何年も要する。

近年の脳の可塑性に関する研究で、脳は生涯を通じて変化し、進化し続けることが示された。これは年齢がたっても脳は変化し適応するということであり、脳は継続的に繰り返されるパターンに適応し、ついにはそれを規範として受け入れるということを示している。これはトラウマ治療においてよい面でもあり悪い面でもある。つまり、トラウマ治療により症状が改善される可能性を示している一方で、治療のために何度も何度もトラウマに注意を向ければ、脳の回路のなかにより深くトラウマを焼き付けることになるかもしれないという可能性を示唆しているのである。

トラウマと治療に関する神話と誤認
『神話1:トラウマを経験した人は皆、PTSDを発症する』
アメリカにおいて60.7%の男性と51.2%の女性がDSM-Ⅳの項目を満たす外傷的な出来事を少なくとも1回は経験しているが、PTSDの一般的な生涯有病率は7.8%だった(Breslau.1998)
『神話2:PTSDを発症した人はセラピーでのみそれを解消できる』
PTSDの発症後、最初の12ヶ月で症状が大きく改善していき、その後の6年間ではゆるやかに改善していく。治療した人としなかった人を比較した場合には、治療をした群ではPTSDの罹患期間が約半分になった(Kessler et al.,1995))
『神話3:トラウマを追体験させて、それを同化させるような援助を行う、長期の除反応セラピーが最も効果的なアプローチである』
研究ではある一つのアプローチがすべての人に対して役に立つという考えは支持されていない。今回のアプローチ方法がその一つである。
『神話4:トラウマはネガティブな結果しかもたらさない』
DSM-Ⅳの診断基準に合致する外傷的な出来事の結果として、成長体験の報告の方が精神障害の報告の数よりもはるかに多く、また外傷的な出来事を体験していた人のほうが体験しなかった人よりもポジティブな変化を報告していた(Tedeschi & Calhoum,2004)

4つのアプローチ
① インクルーシブセラピー(Inclusive interventions)

我々は皆、可能性に満ちた未分化な状態で人生を始め、さまざまな経験から自分自身の中で「正しいもの」「正しくないもの」を区別し、「正しいもの」を取り入れ(例:『~であるべき』)、他者と自分を区別していき「統合された自己」(アイデンティティーの形成)に至る。そのプロセスの中で、トラウマ体験をすると自分自身の諸問題やそういったトラブルを体験した部分(感情、記憶、感覚等)を分離していくことがある(悲しみを感じない、など)。しばらくはそれで問題ないのだが、社会に出た際その分離された部分が突然戻ってくることがある(例:フラッシュバック、悲しみを感じない人が突然涙がとまらなくなる形等)。そもそも分離された部分は自分自身であるため、「~であるべき」「~しなければならない」などの制限的、強制的になっている部分を承認し、包含していくアプローチが必要となる。

② 未来による牽引(Future pull)
大抵のトラウマ治療は人々を過去に向かわせる。つまり失われた体験を取り戻すために以前に戻り、それを追体験することでトラウマを解消しようとするが、人はポジティブな未来と自分の中の変化に関する青写真をすでに持っている。そのため、過去を未来に方向転換させたり、望んでいない現状を望ましい未来に言い換える(例:今までは~だったんですね、本当は~を望んでいるんですね)。

③ パターンチェンジ(Pattern changing / breaking)
トラウマ体験後の問題の顕著な特徴の1つとして「体験や行動の繰り返し」がある。トラウマ体験後の経験の何らかの規則性を見つけ、小さなパターンの変化を起こす(例:ストレスが溜まったら紙に書く、リストカットしたくなったら人形を傷つける等)

④ 再結合(Reconnecting interventions)
大抵の外傷後の問題の中心的な鍵となる特徴の1つは、解離と断絶である。トラウマのサバイバーは自分自身の感覚全般から解離することが知られている。つまり、彼らは出来事が起こっているということを頭では理解しているが、防衛反応としてそういった出来事を直接的に深く体験したり、あるいは感じたりするということができない(例:離人症)。そのため、個人やコミュニティ、自然やアートなどと再び結びつけることが有効である。
地震の期間中に誰かと一緒にいることがPTSDの防止となる(Armenian, H. At.2000)
PTSDの患者の中で、集団的治療をした人たちは、個人で治療した人たち(31.3%)よりも有意に高い率で回復した(88.3%)。

【開催日】
2014年12月10日(水)

ルシファー効果とは? ~普通の人がダークサイドへ堕ちるとき~

―文献名―
フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか. TED2008・23:16・Filmed Feb 2008 
著者はアメリカの心理学者で、スタンフォード大学の名誉教授。
 http://www.ted.com/talks/philip_zimbardo_on_the_psychology_of_evil?language=ja
 (内容理解のために、以下のジンバルド氏のインタビューサイトも参考にした。
  ・人が悪魔になる時――アブグレイブ虐待とスタンフォード監獄実験(1)~(2) )

―要約―
<善良な人が悪人に変貌することはいかに簡単かを理解すべきである>
 善悪の境界線は不動で、むこうとこちらには多きな隔たりがあると信じている人が多いが、その境界線は可変性があり、浸透性が存在する。エッシャーの素晴らしいだまし絵は、白に集中すると天使が見えるが、じっくり見ると悪魔が見える。
 神のお気に入りの天使はルシファーであったが、神に従わず権限への究極の抵抗を始め、天国から追放された。そしてルシファーはサタンとなり悪魔となった。いわば悪を保管する場所をつくったのは神である。この「天使から悪魔」の宇宙的変貌の物語には、普通の善良な人間が悪の根源へ変貌する人間性を理解するためのヒントがある。

<個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する>
 「アブグレイブ事件(2004)の非公開写真」や「スタンフォード監獄実験(1972)」からの考察。アブグレイブ事件では普通のアメリカ兵が信じがたいような虐待を行っていた。また自分が過去に行ったスタンフォード監獄実験でも、瓜二つの減少があった。いずれからも立てた仮説は「関わった人は通常は善良な人で、原因は”腐った樽(環境)”」ということであった。決して「環境が正常で、”腐ったリンゴ”のような人間が混ざっていただけ」ということではない。
 アブグレイブ事件では、職務として多数の調査報告を読み、兵士の鑑定人として面会し精神鑑定を行った。そこでわかったことは、関わった兵士は、もともと本来の任務の訓練を受けておらず、虐待の場所が軍事情報の中心地にも関わらず情報が無いまま、周囲の取り調べの上官から「犯罪者の意思を砕け、尋問に備えるために弱らせて、自己制御をはずさせろ」と圧力をかけられ、一線を越えさせられてしまったこと。この複数の状況の力は時に強大で、感情移入や利他主義、道徳性が機能しなくなり、普通の人どころか善良な人までもが悪に手を染めてしまう。ただし、あくまでその状況下のみ。個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する。

<ルシファー効果とは、普通の人にある複数の条件が揃ったときに恐るべき行動を取る仕組み>
 その中で発見した『ルシファー効果』は、善人が悪人に変貌する過程である。
●その悪が”(やむを得ない)強烈な状況の産物”であると証明されると、その状況の中にいる人間の自由な意志や責任能力が減退 [例:アブグレイブでは囚人の暴動が起き、手当たりしだいの拘束が始まり、収容所の人数も定員200名に1000名と看守たちの限界を超えていた]
●同時に強い恐怖やストレスがベースに持続していると意思決定能力と責任能力を喪失 [例:アブグレイブの周囲では砲撃戦が続き、働く兵士は皆、強い恐怖とストレスに晒され、また看守たちは12時間勤務で週7日休日なしの勤務であった]
●そのベースから(通常は制限されている行為が無条件となるように)ある制限が解除(一線を越えることが容認)されると人間性が喪失、情緒的な衰弱状態に転落 [例:犯罪の中核の看守はそうなる前には『精神に異常を来たしたもの、結核の患者、大人と子供が混ざっていて監獄の管理上どうか』と疑義を呈していたが、上官から『ここは戦地だ。自分の任務を果たすため、必要なことは何でもやれ』と命ぜられた。また『収容者の抵抗を打ち砕くために、通常は憲兵に許されていないことを実行する許可を与える』と言明された。]
●この傾向は、無力感を持った(苦痛を受けた)人間が、誰かを支配する(苦痛を与える)人間になるときに顕著
 [例:虐待した看守たちは任務ための特別な訓練を受けていない予備役であり、軍隊の最下層の集団として扱われており、自らも本当の兵士では無いと自覚している。無力感を持っている人間が、誰かを支配する力を握ったとき、その地位に値する人間であると証明するように力を乱用する。]

<悪を予防するための、悪と紙一重の英雄的な精神と想像力>
 予防や対処としては、現状が道徳的に間違っていると周囲と同意形成すること。(悪魔になる人も元々は英雄で)その英雄的な精神や英雄的な想像力を戻してもらう(我にかえる)ことが必要。
 英雄的行為も悪魔的行為と同様で、普通の人の非日常的な行為である。英雄的に振舞うことは、群衆から離れて異なったことをするということで追放のリスクが伴う。アブグレイブの虐待を止めた下等兵も告発後は3年間隠れないといけなかった。英雄は孤立するリスクを減らすため同意形成した複数人集まることが重要。
 状況には力があり、同じ状況が悪意の想像力をかきたて悪の加害者にすることもあれば、英雄的な想像力を刺激し英雄に押し上げることもある。違いは「1.周囲が受け身の時にこそ行動を起こす、2.常に自分中心ではなく社会中心に行動する」こと。

【開催日】
2014年8月13日(水)

「レジリエンス」の鍛え方

―文献名―
久世浩司. 「レジリエンス」の鍛え方.実業之日本社.2014

―要約―
久世浩司 慶應大学卒業。P&Gでマーケティング責任者として国内外で活躍。応用ポジティブ心理学準修士課程修了。

 
<レジリエンスとは>
失敗を怖れて行動回避する癖を直し、失敗しておちこんだ気持ちから抜け出し、そこから目標に向って前に進むことのできる力(もともとうつ病の若年化という、学校教育における問題に対処するため発達した経緯あり)
 
<なぜレジリエンスが必要か>
1職場でのうつ病は深刻
2グローバル化で世界のエリートが相手
3どう働いていいかわからない。「がつがつした働き方」が「無茶な働き方」としかイメージできない
レジリエンスがある人は、高いレベルでの自己洞察があり、自己の強みをいかせる土俵で仕事を注意深く選択し、感謝の念や仲間とのつながりを意識的に大切にし、自分らしくオーセンティックな働き方を体現している
 
<失敗>
失敗の真の問題は、失敗した後に生まれるネガティブな感情に支配されること。ネガティブな感情を持つこと自体はごく自然のこと。これが繰り返されると蓄積していき「学習性無力感」となってしまうのが問題。
<失敗の分類>
 ①予防できる失敗:責めない前提でのヒヤリハット報告 ポジティブに建設的にフィードバック
 ②避けられない失敗:自分の責任を過剰に感じることはない
 ③知的な失敗:歓迎すべき価値ある失敗なので自分を責める必要はない。
<失敗の後の対応>
 1)失敗経験をしたら上記の3つに分類すること
 2)不必要に自責の念を持たないこと
 3)失敗の種類に応じて適切な対応をとり、積極的に学習すること
 
<レジリエンスを鍛える7つのステップ>
 1)ネガティブ感情の悪循環から脱出する
 没頭できることを探し、フロー体験を取り入れることでネガティブ感情の悪循環を断ち切ることに役立つ
  ①運動系:水泳、ダンス、ジョギング、ウォーキング、武道、チームスポーツ、トレッキング、早足散歩 
  ②呼吸系:深い深呼吸を繰り返す。ヨガ、瞑想。マインドフルネス。
  ③音楽系:演奏や視聴。
  ④筆記系:自由記述、内省的記述、日記
 2)役に立たない7つの思い込み(思い込み犬)を手なずける
 ・正義犬:公正、「~ベキである」。公正でないことが起きると怒り、憤慨、嫉妬の攻撃系感情を生み出す 
 ・批判犬:他人を非難し批評しがち。曖昧な状態に耐えられない。怒りや不満の感情が生まれる。
 ・負け犬:自分と他人を比較しするが、他人と比べられることをおそれる。羞恥心、憂鬱感を生み出す
 ・謝り犬:悪いことを「自己関連づけ」し自分を責める。罪悪感、羞恥心から自尊心・自己評価が下がる。
 ・心配犬:1つでもうまくいかないと将来も全て失敗してしまうと不安になる。悲観的思考の癖がある。
 ・あきらめ犬:自分で状況をコントロールでき無いと考え、根拠の無い決めつけをする。不安、憂鬱感、無力感等の感情を生み、行動への意欲を低下させる
 ・無関心犬:物事や将来に関しても無関心で、面倒を避ける。自分と周囲の意欲喪失の原因となる。
 以上から自分の思い込みパターンを過去の事例から分析し、その原因となった原体験をさぐり、アンラーニングする。
 3)自己効力感をあげる
  ・成功体験を持つ ・うまくいっている人の行動を観察 ・他者からの言葉 ・高揚感を体験する
 4)自分の強みを活かす
  ・レジリエンスがある人は、① 自分の強みは何かを把握している、 ②自分の強みを平時から磨いている、 ③自分の強みを有事に活かすことができる。
  ・自分の強みを3つ見いだす
  ①自己診断の強み三大ツール
     VIA-IS(無料) ストレングス・ファインダー(有料)  Realise2(高額だが弱みも分析できる)
   ②コーチング
    強みを引き出す5つの質問
     ・最も大きな達成/成功は何か?      ・自分移管して最も好きな点は何か?
     ・何をしている時に最も楽しく感じるか?  ・どんな時に自分らしく感じるか?
     ・自分がベストで最高のときはどんなときか?
  ・弱みへの効果的な3つの対処方法
    ①弱みが仕事の目標達成に不可欠であれば、最小限の時間と努力で克服する方法を考える
    ②苦手をアウトソーシングする
    ③自分の弱みを補ってくれるパートナーと組む 
 5)心の支えとなるサポーターを作る
   サポーターがいると長期にわたり違いをもたらすことが研究でわかっている(カウアイ島の研究)
   家族や隣人とよい関係を保ちサポートされることで、孤独な環境に住む人よりも7年長生きする(研究)
   最も大切な5人を選ぶ。その時「あなたにとって大切な人は誰ですか?」「過去に大変だった時期に親身人相談してくれた人は誰ですか」「時には叱咤激励をしてくれたサポーターは誰ですか」という問いに答えながら考える
 6)感謝のポジティブ感情を高める
  1 感謝日記を書く 1日の終わりに感謝したことを思い出し、日記として書く。なぜこのよい出来事が起きたのかについてじっくり考え、感謝の気持ちを持ちながら日記を閉じる
  2 3つのよいことを思い出す:その日のうまくいったこと3つを回想する。そしてありがたい、運が良かったと感じる内容を箇条書きで記述する。なぜうまくいったかについても理由を考える。
  3 感謝の手紙を書く 自分が過去にお世話になった、助けられたひとで感謝を伝えられなかった人を選ぶ。その人に向けて感謝の気持ちを表す手紙を書く。どんな親切を行い、行為ある態度を示してくれたのか回想し、その結果どんな好影響を自分の人生に与えてくれたのかも言及する。その人がいなければ今の自分がどう変わっていたのかについても考える。書いた手紙は本人に手渡しか送付か、そのままにする。
 7)痛い体験から意味を学ぶ
  精神的な痛みを伴う体験の後に訪れる自己成長のプロセス。逆境体験を一歩引いた視点での内省が必要
  レジリエンス・ストーリーを作る
   1 被害者でなく、再起した者の立場で物語を形成する。被害者的に物語っては行けない。
   2 精神的な落ち込みから抜け出したきっかけは何かを回想する。 
   3 ゼロの状態からいかにして這い上がってきたのかに着目する。どのようなレジリエンンスマッスルを使用したのか書いていく
   4 書いた物語を眺め、これらの体験にはどのような意味があったのか、自分に対してのどんなメッセージが隠されているのかを高い位置から探求する作業をする。
   Qこれらの経験から何を学んだか? Qこれらの経験は、その後にどんな意味を持っていたのか? 
   Q俯瞰することで何か共通している者や大きな流れが見えるか?を考える

【実施日】
2014年7月9日(水)

新型うつ病

- 文献名 -
 「新型うつ病のデタラメ」 中島聡

- この文献を選んだ背景 -
 最近産業医活動の一環として産業医として関わっている企業の職員に対してうつ病レクチャーを実施した。その中で新型うつ病について総務や管理職の方から質問が多く見られた。これまで新型うつ病について勉強する機会がなかったため、上司に相談したところ本書を紹介された。

- 要約 -

 本書は一般向けに書かれた書籍であるが、新型うつ病を理解する上で非常に役に立つとのことで上司の精神科医である友人から推奨された書籍であった。内容は新型うつ病と従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病)を比較し新型うつ病と従来のうつ病の違いと新型うつ病に対する筆者の対応が記載されている。筆者は精神科医としてキャリア33年、1996年から沖縄で精神科クリニックを開業している。本書では最近新型うつ病の患者が増えてきており社会問題になっていることを指摘している。
いくつか重要と思われた箇所を以下に抜粋する。

①新型うつ病の臨床経過

・症例1:40歳男性、市役所職員、ガス関係の技術者で10年間勤務していたが畑違いの公園管理科に転属になりそれを期に仕事を休みがち、気分の落ち込みを訴え受診した。「夜は行こうと思うが、朝になるといいや休んでしまえという気持ちになり休んでしまう」とのことで休職の診断書を希望。理由を尋ねると「行きたい気分になれないから」と述べる。診断書を発行し4ヶ月休職後、異動の確約をもらい復職し異動したが、その半年後また仕事に行けなくなったと受診。希死念慮も出現し上司に相談したら休んだ方が良いと言われたとのこと。1ヶ月の休職診断書を発行し再び休職し、休職が決まったときはやったーという気分だった。その後も復職と休職を繰り返すようになり、「ずっと休んでいたい」と訴えるようになった。出社するように促すと「アルコール漬けになっているから内科に入院して食生活を整えたい」と訴えるようになった。アルコール専門の精神科による治療を勧めると受診しなくなり終診となった。薬物療法として抗うつ薬と抗不安薬および睡眠薬を用い、また2週間に1回の臨床心理士によるカウンセリング(支持的性格のもの)も行った。

②従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の臨床経過

・症例2:41歳女性、独身、事務職として長く勤務している。1ヶ月前から特にきっかけなく「イライラして、気分が滅入り、集中力もなくなっている、食欲もなく1ヶ月で体重が3kg減った、夜も寝れない」とのことで受診。「仕事をやりたくない」という気持ちはないが、「人とはあまり会いたくなくテレビ新聞はあまり見る気になれない。普段の感じとは全く違う」とのこと。元々の性格は「きちんきちんとやらないと気が済まない」タイプ。軽いうつ病ですと伝えしっかりとした休息と服薬が必要であることを話し、抗うつ薬と抗不安薬、睡眠薬を処方。1週間後非常に明るい表情で「もう治っている感じです。食欲もでてきた」との反応。その後も経過良好で半年ほどで内服通院中止となった。

③新型うつ病と従来のうつ病の違い

・従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の核となるのは症状の異質性、経過の異質性、医師患者関係の異質性の3つである。

・症状の異質性には「生気的悲哀」と「悲哀不能」がある。「生気的悲哀」とは心的というより、むしろ身体的なものとして感じる悲哀感であり、しばしば頭の重苦しさや胸のもやもやした圧迫感など体に局在する憂うつ感として訴えられる。「悲哀不能」とは単なる気分の落ち込みではなくむしろ悲しむ事も喜ぶこともできないような感情が全面的に遮断された状態。

・経過の異質性には「了解不能」という異質性がある。これがなくストレス的な出来事からそのまま「なるほど、そういう状況ならひどく落ち込んでも無理はないだろう」と了解できるようなものはうつ病ではない。途中まではかなり了解出来るものであっても経過をよく見ればどこかに、たいていは発症に至る最後のところに「それにしてもどうしてここまで」あるいは「それにしてもどうして球に」と感じさせるような不連続がある。

・医師患者関係の異質性:うつ病患者の悲哀は了解不能である。うつ病ではなく抑うつ体験反応の人の悲しみは、聞いていて自然に感情移入でき、こちらも気の毒になるようなことが普通だが、うつ病患者の悲しみはどうにもついて行けないと感じられるような性質がある。

・新型うつ病とは逃避的な傾向によって特徴づけられる、抑うつ体験反応である。

・精神科医の中でも新型うつ病の位置づけは議論されているところで時に身体的不定愁訴の中に生気的悲哀感のような訴えが混じることがあることを根拠に新型うつ病は内因性の軽症うつ病であるという主張もある。しかし筆者は新型うつ病に見られる異質性はあまりにも弱く異質性とは言えないと主張している。

④新型うつ病がもたらした社会的弊害

・休職のための診断書:新型うつ病は復職が近づくと「また落ち込みが強くなってきた、不安になってきた」など症状が強くなり休職診断書の更新を希望する場合が多い。十分に回復するまで復職させないとなると本人に治療意欲が高い場合は問題ないが、そうでない場合は疾病利得につながってしまいいつまでも休職を続ける事になりかねない。休職中も復職出来るようにしっかり気持ちの準備をするように促し、ある程度以上症状が強い場合は別だが、単に症状がなくなっていないから、本人が希望するからといって安易に更新しないことも治療的配慮として必要。

・傷病手当金のための診断書:休職しても給料の6割を受け取ることが出来る。症状が固定している必要はなく、その時期に就労出来ない状態であったかがポイント。とくに新型うつ病の場合、病気の影響と自己責任の判別をしっかりする必要がある。本書の例では「自分の好きなことがやりたいので、夜ついパソコンでいろんなサイトを見たりゲームをしてしまう。それで朝眠い。夜になって仕事に行かなかったことを反省する」という場合は診断書発行していない。

・しばしばもらえる障害者年金:障害を残す疾患やけがの結果初診から1年半以上経過して、症状固定した場合に国から支給される年金。従来型のうつ病で遷延化し症状固定するものは15%前後、新型うつ病で障害が固定することはまずあり得ない。

開催日:平成25年12月4日

ベンゾジアゼピン使用による認知症リスク

【文献名】 
文献タイトル:Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study. 
雑誌名・書籍名:BMJ 2012;345:27
発行年: September 2012

【要約】
Objective 
To evaluate the association between use of benzodiazepines and incident dementia.

Design 
Prospective, population based study.

Setting 
PAQUID study, France. Participants 1063 men and women (mean age 78.2 years) who were free of dementia and did not start taking benzodiazepines until at least the third year of follow-up.

Main outcome measures 
Incident dementia, confirmed by a neurologist.

Results 
During a 15 year follow-up, 253 incident cases of dementia were confirmed. 
New use of benzodiazepines was associated with an increased risk of dementia (multivariable adjusted hazard ratio 1.60, 95% confidence interval 1.08 to 2.38). Sensitivity analysis considering the existence of depressive symptoms showed a similar association (hazard ratio 1.62, 1.08 to 2.43). A secondary analysis pooled cohorts of participants who started benzodiazepines during follow-up and evaluated the association with incident dementia. The pooled hazard ratio across the five cohorts of new benzodiazepine users was 1.46 (1.10 to 1.94). Results of a complementary nested case-control study showed that ever use of benzodiazepines was associated with an approximately
50% increase in the risk of dementia (adjusted odds ratio 1.55, 1.24 to 1.95) compared with never users. The results were similar in past users (odds ratio 1.56, 1.23 to 1.98) and recent users (1.48, 0.83 to 2.63) but reached significance only for past users.

Conclusions 
In this prospective population based study, new use of benzodiazepines was associated with increased risk of dementia. The result was robust in pooled analyses across cohorts of new users of
benzodiazepines throughout the study and in a complementary case-control study. Considering the extent to which benzodiazepines are prescribed and the number of potential adverse effects of this drug class in the general population, indiscriminate widespread use should be cautioned against.

【開催日】
2012年10月24日

沈黙の中での苦悩:プライマリ・ケアの現場でうつ病患者が症状を打ち明けない理由

【文献名】

Robert A. Bell, et al. Suffering in Silence: Reasons for Not Disclosing Depression in Primary Care. Ann Fam Med. 2011;9(5):439 -446.



【この文献を選んだ背景】

日本の重要な社会問題として自殺があり、その原因となるうつ病の早期診断・治療がプライマリ・ケア医の仕事として期待されている。ただ外来の場面で診断することは簡単ではなく、時には診断が遅れたり、複数回の面接を重ねてようやく診断に至るCaseも少なくない。今回うつ病患者がその症状を語らない要因を分析した興味深い論文を見つけた。外来の問診の改善やFCG(Finding Common Ground)に至るプロセスの参考になったため共有する。



【要約】

<目的>

 うつ病の症状は患者から打ち明けられないことが多い。そこでこの研究ではうつ病がプライマリ・ケア医に明らかにされない患者個人の理由を調査した。



<方法>
California Behavioral Risk Factor Survey Systemの中から、ランダムに選びだした対象者のうち2008年1月から6月に回答し再調査に承諾を得た1054名の成人を対象に、2008年の7月から12月にかけてフォローアップ調査として電話インタビューを実施した。
回答者に、うつ病の症状の非開示理由、うつ病に関する信念、患者背景、健康状態、将来うつ病を診断された時の反応の予想を訪ねた。打ち明けの障壁となる特徴の分析は、記述的かつ推計統計学的(抽出された部分集団から母集団の特徴・性質を推定)手法を用いた。



<結果>
電話回答者の43%に一つ以上の非開示理由があった。もっとも多い理由は、①医師から抗うつ薬を推奨される心配によるもの(22.9%;95%CI,18.8%-27.5%)であった。

 そのほかの理由は順に、②プライマリ・ケア医の診療範囲外とみなしているから(15.6%)、③診療録が他人に見られるかもしれないから(15.4%)、④カウンセラーや心理士に紹介されるから(13.7%)、⑤精神科医に紹介されるから(13.4%)、⑥精神科患者とみなされたくないから(11.8%)、⑦個人的な情報を伝えたくないから(9.1%)、⑧診療中に泣いてしまう・もしくは感情的になるかもしれないから(7.6%)、⑨うつの話題をどう切り出していいかわからないから(6.4%)、⑩身体的な問題から話題をそらしたくないから(5.3%)、⑪うつ病の症状を伝えることで医師から低い評価をされるかもしれないから(3.6%)と続いた[Table2]。

うつ病の治療歴があるかどうかは、うつ病が打ち明けられない様々な理由の背景であった。例えば、治療歴がないうつ病患者は②プライマリ・ケア医が診る病気であるとはみなしていなかった(P=.040)。そして⑤精神科医に紹介されるのではとの悩みを持っていた(P=.036)。それ以外にも治療歴がない群は①、治療歴がある群は③⑧の理由が反対の群と比較して多かった[Table3]。

また無症状・低症状(PHQ-9が0~9)の患者に比べ、中等症~重症(PHQ-9が10~27)の患者は11の障壁のうち10でより多くの障壁を抱えていた(all P values=.014)[Table4]。
報告された非開示理由の数は、患者背景(女性、ヒスパニック、低い経済状態)、うつ病に関する信念(スティグマとみなす、コントロールできないものとみなす)、症状の重症度、うつ病の家族歴が無いことから予測された[Table5]。



<結論>

多くの成人から、うつ病のエピソード中にプライマリ・ケア医に対してはっきりと助けを伝えることを妨げうる考えが記述された。患者が症状を打ち明け、医師がうつ病について尋ねることを促進するための介入方法を開発するべきである。



【開催日】

2011年9月21日

うつ病の重症度と生産性の低下

【文献名】

Beck A, et al. Severity of depression and magnitude of productivity loss. Ann Fam Med. 2011;9(4):305-311.



【要約】

<目的>

うつ病は仕事における労働性の低下、つまり、休職、生産性の低下、仕事が長続きするかとの関連が深い。ただ、大規模で多様な患者層において、重症度の異なるうつ病が職務への障害の程度にどのように関連しているかを調べた研究はほとんどない。今回、うつ病治療を開始した患者におけるうつ症状の重症度と生産性低下の関係性を評価することとした。



<方法>

ダイアモンド(DIAMOND:Depression Improvement Across Minnesota: Offering a New Direction)イニシアチブ(州民発案)、つまり、州を挙げてのうつ病ケアの強化を目的とした質向上協働活動に参加する患者からデータを取得した。抗うつ薬を新規に処方された患者について、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9-item screen)にてうつ症状の重症度、WPAI質問紙(Work Productivity and Activity Impairment)にて生産性の低下、更には健康状態や基礎情報などを評価した。



<結果>

現在労働している771名の患者からのデータを分析した。基礎情報や健康状態を補正した一般線形解析では、うつ症状の重症度と生産性の低下の間に直線的な強い関連性があり、PHQ-9の1点の上昇に対して、平均で1.65%の更なる生産性低下が認められた(P<0.001)。軽微なうつ症状でさえも職務能力の低下と関連していた。フルタイムとパートタイムの雇用形態の相違、自己報告による労働状態の相違(まぁまぁ、悪い v.s. 素晴らしい、非常に良い、良い)もまた、生産性の低下と関連していた(各p<0.001とp=0.45)。



<結論>

この研究により、うつ症状の重症度と職務機能の間の関連性は明らかであり、軽微なうつ病でさえも生産性低下と関連していることが示唆された。雇用者にとって、幅広い重症度の幅を持つうつ病労働者に対して効果的な治療を提供することは有意義であろう。



【考察とディスカッション】

うつ病と労災、特に自殺との関連性が日本ではここ数年強調され、産業医活動でも重視されている。もちろん、生産性への影響は感覚的には理解しているものの、こうした具体的データを確認したのは初めてであった。現在の職場では時間外労働時間によって機械的に対象者が選別されているが、必ずしも労働時間と関係なく、うつ病の初期症状を示している方を積極的にピックアップし、産業医面談を受けるよう活動することに意義があると予想される。具体的に、職場内講習などの開催を考えてみたい。


The PHQ-9 is a depression assessment tool which scores each of the 9 DSM-IV criteria as ‘0’ (not at all) to ‘3’ (nearly every day):
 
the PHQ-9 assessment tool been validated for use in Primary Care

the questionnaire is designed to assess the patient’s mood over the last 2 weeks:
over the last 2 weeks, how often have you been bothered by any of the following problems?
1) little interest or pleasure in doing things? 
2) Feeling down, depressed, or hopeless?
3) trouble falling or staying asleep, or sleeping too much? 
  
4) Feeling tired or having little energy?

5) poor appetite or overeating?

6) feeling bad about yourself – or that you are a failure or have let yourself or your family down?
7) trouble concentrating on things, such as reading the newspaper or watching television?
 
8) moving or speaking so slowly that other people could have noticed? Or the opposite – being so fidgety or restless that you have been moving around a lot more than usual?

9) thoughts that you would be better off dead, or of hurting yourself in some way?
 
for each of the nine tested criteria there are four possible answers: 

Not at all = 0 points

Several days = 1 point
More than half the days = 2 points
Nearly every day = 3 points

the maximum total score is 9×3 = 27 points and the patient’s score is thus a score out of 27 (e.g. 16 points = 16/27)
    depression severity is graded based on the PHQ-9 score:
0-4 None
 
5-9 mild
 
10-14 moderate
15-19 moderately severe
20-27 severe
この研究では7点以上を抑うつ症状ありとした。




【開催日】

2011年9月8日

気分・不安障害のスクリーニングにおける質問紙の有用性

【文献名】
Bradley N. Gaynes et al. Feasibility and Diagnostic Validity of theM-3 Checklist: A Brief, Self-Rated Screen for Depressive, Bipolar, Anxiety, and Post-Traumatic Stress Disorders in Primary Care. Ann Fam Med 2010;8:160-169.

【要約】
<背景>
気分障害・不安障害はプライマリ・ケアにおいてはもっとも頻度の高いメンタルヘルスの問題であるが、見過ごされていたり、きちんと治療されていない。スクリーニングのためのツールがこういったメンタルヘルスの問題の発見に貢献しうるが、取り扱う疾患の数が多いため利用可能なツールは限られている。

<セッティングと対象>
2007年7月から2008年2月までに米国の大学の家庭医療クリニックを受診した18歳以上の647名の患者

<デザイン>
横断研究

<方法>
利用したチェックリストはこちら
Mini International Neuropsychiatric Interview (MINI)を診断のスタンダードとして用いた。
クリニックを受診する患者を随時参入。待合室でチェックリストに記入していただいた。
診察後に医師と患者双方にチェックリストの実用性に関する質問紙への回答を頂いた。
受診後30日以内にリサーチアシスタントが患者に電話し、MINIを実施。

<主要なアウトカム>
M-3チェックリストの大うつ病性障害、双極性障害、何らかの不安障害、PTSDに対する感度と特異度。

<結果>
(1)診断に対する妥当性
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(2)実用性
患者が待合室でM-3チェックリストに回答するのにかかる時間は5分未満であり、うまく回答できないと回答したのは1%未満であった。83%の医師が30秒以内に記入されたチェックリストを確認することが出来、80%以上の医師が有用であると回答した。

<結論とディスカッション>
M-3チェックリストの測定特性は既存の単疾患スクリーニング用のツールと比較しても有用であり、かつ何らかの気分障害や不安障害の存在をスクリーニングするだけではなく、特定できる可能性もある。

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また既存の多疾患スクリーニングツールに加えて双極性障害とPTSDもスクリーニングの対象とすることができる。実用性についても本研究では問題はなかった。
Table3

【開催日】
2011年4月20日