~患者が考えるプライマリケアの近接性、継続性、協調性の特徴とは?~

【文献名】

Jeannie L. Haggerty, et al. Practice Features Associated With Patient-Reported Accessibility, Continuity, and Coordination of Primary Health Care. Ann Fam Med. 2008 March; 6(2): 116-123.


【要約】

(目的)

プライマリヘルスケアのリフォームが行われる前に、患者にとっての近接性、継続性、協調性を左右する診療組織、医師の診療に寄与しているものを同定するためのプライマリヘルスケアの多角的調査を行った。



(方法)

・プライマリヘルスケアクリニックをカナダケベック州において都市部、準都市部、へき地、remort locationにおいてそれぞれランダムに選んだ。

・それぞれのクリニックで4人までの家庭医、総合医を選び、研究者が4つのクリニックの待合室に詰め、20人の患者を連続サンプリングし、PCAT(Primary Care Assessment Tool;http://www.jhsph.edu/pcpc/pca_tools.html)を用いて、以下について調査した。



*first-contact accessibility: 初診の近接性(突然の発症に対して迅速にケアが得られているか)

*relational continuity: 関係性における継続性(患者それぞれの特徴を知っている医師との継続した関係性)

*coordination continuity: 協調性の継続(医師と専門医との間の協調性)

・医師は診療の側面を報告し、秘書やディレクターはクリニックの組織的な特徴について報告した。

・Hierarchical regression modelを用い、クリニックにおいて定期通院している患者の二次解析を行った。



(結果)

100か所のクリニックが参加し(61%の回答率)、221人の医師、2725人の患者(87%の回答、追跡終了率)に対して実施した。

PCAT score 1点:definitely not、2点:probably not、3点:probably(最低ラインと設定)、4点:delinitely
first-contact accessibility:初診の近接性…平均2.30(施設側の問題20.3%、医師側の問題3.2%)

これがもっとも問題があった。
急病に対して1日以内に診療を行うか、助言を行ったのは、たった10%であった。

平均24日(中央値19日)であった。

近接性は10人以下の医師(10人以上いると-0.21点)、看護師のいるクリニックで(+0.12点)、24時間毎日電話対応に応じるクリニック(+0.30点)、他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)、夕方の診療を行っていること(+0.07点)が良い結果となった。



relational continuity: 関係性における継続性…平均3.35(施設側の問題8.8%、医師側の問題6.7%)
他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)や夕方診療(+0.05点)がこられにも有利に作用していた。継続性に価値を見出し(+0.09点)、コミュニティに対して親和性を感じている(+0.05点)医師はよりよい関係性の継続性を育んでいた。それゆえにaccessibility-oriented style(ウォークインが多く(ウォークインが50%未満に比較して70%以上だと-0.14点)、患者数が多くなる(1時間当たりの平均診察患者数が3.4人以上になると-0.03点))が継続性を妨げる要因にもなっていた。

coordination continuity協調性の継続…平均3.30(施設側の問題2.4%、医師側の問題6.3%)
これはさらに他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.04点)や継続した電話対応(+0.16点)やPT/OTの存在(+0.12点)との関連があった。また、医師が病院にパートタイムで診療に行っている場合で50-70%程度を自クリニックにて診療を行っているケース(+0.09点)やクリニックにおいて幅広い手技(+0.02点)を実施している場合により良い結果となっていた。



(まとめ)

クリニックがどのように組織されるかで医師が近接性、継続性を達成できるかが決まってくる。両方を手にする特徴は夕方診療と電話対応、他のヘルスケア機関と正式な運営上の連携を得られていることであった。

(DISCUSSION)
理想的なfamily medicine groups(FMGs)モデルの特徴は、8~10人の医師がいて、看護師がいて、夕方診療を行い、nurse help lineとつながる情報リンク(電話対応可能という意味か?)があり、他の施設とのケアを正式な形態でシェアしていることである。
医師が一か所以上の施設で働くと、専門家との個人的な関係性強化につながるということも分かった。



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【開催日】
2010年12月22日(水)

~ジェネラリストの重要な役割であるコーディネーションの今後を考える~

【文献】
Stille CJ: Coordinating Care across Diseases, Settings, and Clinicians: A Key
Role for the Generalist in Practice. Ann Intern Med. 2005 Apr 19;142(8):700-8.

【要約】
《背景として》
コー ディネーションはプライマリケアの原則の一つであるが、アメリカにおける医療システムでは徐々に複雑化する医療の中で提供するのが難しくなってきている。 研究や臨床においてそれを推進していくためには、さらなるエビデンスが必要である。ジェネラリストはケアをコーディネートし、ほとんどの患者に対してのケ アのハブとして機能し、臨床医同士のコミュニケーションを改善し、チームアプローチを実施し、患者と家族の関係性を統合し、医療情報を統合するために診療 すべきである。ジェネラリストの診療において中心的要素であるが労力を要する。今後、コーディネーションの本質的要素を同定し、健康度を改善する上で有効 であることを示していく必要がある。
《方法》
5人の臨床医(総合内科医3名、家庭医1名、小児科医1名)によるボランティアグループを作り、コーディネーションについての文献をレビューし、recommendationを作成した。5度の電話会議と頻回のe-mailのやり取りを6カ月にわたり実施した。
その結果、ジェネラリスト診療の観点から以下の問いに対しての研究が選ばれた。
1.コーディネーションがヘルスケアを改善するエビデンスにはどのようなものがあるのか?
2.コーディネーションする際にジェネラリストの診療はどのような役割を果たすべきか?
3.ジェネラリストとスペシャリスト間の協働においてどのような改善をすればよいか?
4.最良のコーディネーションを提供するためにはどのようにチームを構成すればよいか?
5.コーディネーションにおいて患者とその家族はどのような役割を担うべきか?
6.医療情報はコーディネーションにおいてどのように役立つのか?
彼 らはレビュー後にrecommendationとさらなる研究の必要性を指摘した。その後2003年national grantees’ meentingにて100人以上のscholars,mentors,nationally achnowledged expertによって議論され、その内容も結果には盛り込んだ。
《結果》
Consensus Recommendations
1.健康を改善するためのコーディネーションは価値があるということを証明し、コーディネーションモデルにおいて最も有用な要素は何かを同定するために更なる研究が必要である。
2.ジェネラリストはほとんどの患者に対してコーディネーションの医療的側面から適切なハブとなる必要がある。
3.ジェネラリストとスペシャリストは適切なタイミングで、しっかりと計画立てられたケアを保証するためにより密接に協力しあい、コミュニケーションをとらなければならない。
4.ジェネラリストは患者やコミュニティに対して適切で見えやすいチームを構築しなければならない。そしてそのチームを維持しなければならない。
5.コーディネーションにおいて患者と家族の役割はヘルスケアシステムによって育て、盛り上げられなくてはならない。
6.ジェネラリストは知識量を増やすためのコミュニケーションとアクセスを良くするために合理的な情報活用システムを構築すべきである。

【開催日】
2010年9月15日(水)

~スティグマ 慢性疾患に対して個人や社会が与えるインパクト~

【文献】
アイリーン・モロフ・ラブキンら著.”第三章:スティグマ”.クロニックイルネス.医学書院,2007,p43-64

【要約】
《イントロダクション》
スティグマは社会的な”烙印”であり、負の価値判断を与え社会的アイデンテンティを損なわせるものである。
この概念に関して、私たち一人一人が自分の思いと行動を注意深く検討する必要がある
「正常な人々」は誰でも、故意にまたは別の方法で異なる人々をスティグマ化し、社会の中での自分の安定感を最大限に確保しながら自分たちの不安を最小限にする傾向を持つ
<社会的アイデンティティ>
社会的アイデンティティは以下の3つを含む ①身体活動②仕事上の役割③自己の概念
これらのどれかを変化させるものが個人のアイデンティティを変化させ、スティグマが生じる
<乖離としてのスティグマ>
期待される社会的アイデンティティと、現実の社会的アイデンティティの乖離や差異がスティグマとして定義される
  ・損なわれたアイデンティティ
   病気だけでなく、その病気が与える脅威、それに伴う罪や恥の意識がスティグマとなる
    例:アルコール依存症、AIDS患者、てんかん、ダウン症、高齢者でさえも
スティグマの存在下では個人の価値がスティグマの影響を強く受けるため、その疾患の持つ多様性も無視されてしまい、またその他の個人的な特徴も覆い隠されてしまう
  ・顕在型と潜在型
顕在型は目に見える手掛かりを伴う 潜在型ははっきりと欠陥が見えない
 <スティグマの類型>
① 身体的相違(身体障害者、高齢者など) ・・・期待と現実の身体的状態の差異
② 特徴的な欠点(AIDS、同性愛など)・・・社会的認識や文化からの派生
③ 偏見(女性、国籍など)・・・別カテゴリー・グループの特徴への歪んだ認識
これら3つは重複し、それぞれが強化される。また一度スティグマが付与されると、その原因が取り除かれたとしても、その歴史のみで永久にアイデンティティが損なわれる。
<スティグマとしての慢性疾患>
スティグマは社会の価値観と慢性疾患の現実の衝突から生じる。
また病因を特定できないという特徴は、多くの慢性疾患においてスティグマの一因になる。
スティグマは本人とその家族の不公平な治療に結びつく可能性がある。
《スティグマのインパクト》
<スティグマを付与されている人による他者への反応>
  無視、孤立、二次的利得、抵抗、素通り、偽装工作
<スティグマを付与されていない人々への、スティグマを付与されれている人々への反応>
  価値の値引き、ステレオタイプ、レッテル貼り
<保健医療職者のスティグマへの反応と態度>
  スティグマは学生時代の教員やスタッフに感化されやすく、また実際に出会ったクライエント
との出会いや相互作用で変化する
また医学生は自分の健康問題に付与される社会的スティグマを過度に認知し、それを開示する
ことで自分の専門職としての立場が危ぶまれるのではという深い懸念を持つ

《スティグマを付与された人へのインタベンション》
 <自己への反応:態度を変えること>新たなイデオロギーで認識信念パターンを変化させる
 <スティグマとサポートグループ>”同類”の人々に生き方とコミュニティを提供する
 <支援者グループの創出>”事情通”による繊細な理解と、恥を感じさせられることのない関係
 <アドボカシイ>権利擁護によるサポートと代理人機能はスティグマ払しょくの手段となる
 <障害の定義の変化>かけがえのない人として対応されたり、重要他者によって受け入れられたりすることで、スティグマを付与された人が自分の価値について認識を変える
 <専門職者の姿勢:治療とケア> スティグマの管理において①能動受動モデル、②指導協力モデル、③相互参加モデルのどれが適切かを決定することが重要。また医療職者に意識化されていないカテゴリー化やステレオタイプを明確にして修正するプログラムが必要。
  公衆の意識を高めるために”こんなことにならないように”というメッセージはスティグマを増強する作用を持つことを認識する
《スティグマに関するクライエントの望ましいアウトカム》
 心理社会的影響(例:孤立、自尊心の低下、関係の低下、落ち込み・引き籠り)を被らないこと

【開催日】
2010年9月8日(水)

~家庭医は一回の診察でいくつの問題に対応しているのか?~

【文献】
John W.Beasley MD,et.al: How Many Problems Do Family Physicians Manage at Each Encounter? A WReN Study .Ann Fam Med. 2004 Sep-Oct;2(5):405-10.
文献へのリンク

【要約】

目的
 実は家庭医がどれくらいのproblemを同時に扱っているかはしっかりと調べられてこなかった。
 この論文の目的は、一回の診察で家庭医がいくつのproblemを扱っているかを明らかにすることと、それが実際にカルテと請求にどれくらい反映されているかを比較することである。実際にここには解離があり、家庭医のケアの複雑な側面を明確にしたい。

方法
Wisconsin Research Network(WReN)の29人の医師を対象とした。29人の内訳としては、9人が教育を行う医療機関勤務、20人が地域の医療機関勤務で、その20人の中で12人が僻地勤務であった。患者は18歳以上とした。
医師は連続して診た患者20人に対しての各人の診療の後にproblem logを記載してもらった。problem logはカルテのコピー、請求書のコピーとした。
●Problemは情報を収集し、かつ、意思決定を下した問題と定義した。
  ・例えば咳についてカルテに記載はあるが、それ以上何もなされていなければ咳は検査、治療が必要なかったと判断される。
  ・例えば糖尿病性の神経症のように部分症であるproblemも別に扱われていれば、糖尿病とは分けてproblemとする。
  ・既にある問題(糖尿病)も、他の問題(足関節捻挫)で緊急時の対応をした診察の際に扱われなければproblemとしならない。
  ・もともと分かれていた問題、例えば咳、胸痛も最終的に問題として肺炎などに統合されれば、1つのproblemとする。
 ・患者とは別の人物に対しての問題(例えば夫のうつ)もproblemとして扱う。
●カルテを調査していく際には、
 ・十分に記載がないとリスト化はしない。
 ・例えば既往に狭心症があっても、それ以上記載がなければだめ。
●請求書を調査していく際には、
 ・診察の際に提出される請求書に記載があるかどうかで判断する。

患者カルテと請求のために提出された診断名をこれらのproblem logにある情報と比較した。

結果

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女性 351人 problem 3.1個  男性 213人 problem 2.9個 (P=0.27)
  定期受診 3.2個  定期受診以外 2.4個(P<0.01)   7%が患者以外の人物と関連したproblem   精神的な問題、薬物、中毒などの問題はあまり請求書には反映されていなかった。(仮説通り)    例えば、高血圧はlogでは96回出てきて、請求書には74回記載あり(77%)。    精神的問題などはlogで137回出てきて、請求書には58回の記載のみ(42%) (P=0.02) 医師は一回の診察で平均3.05個の問題を扱ったと報告し、カルテ上には2.82個、請求上は1.97個であった。全ての対象患者の中で37%が3個以上の 問題があり、18%が4個以上であった。65歳以上の患者においては、平均3.88個であった。糖尿病患者では、平均4.60個であった。 限界  最も明確な限界点は、医師の自己記入方式をとっていることである。  医師らは本研究の仮説を理解しながらの診療を行っている。  カルテ記載しか見ていないことで、漏れがあるかもしれない。 レビューを一人でしか確認していない点も限界あり。 Problemの数をどのように決定していくのがよいのかという標準的手法が確立していない。 一つの州での研究ということで一般化できない可能性あり。 結論  家庭医療では多くの健康問題を並行して扱っているが、請求上のデータは正確に反映されていない。結論としては、家庭医療と、質評価の方法やガイドラインの推進、教育、研究、管理運営、資金などとが釣り合っていないことが分かった。 本研究などの結果を踏まえ、いくつかの領域では概念を再構築する必要がある。 ①質評価やガイドラインでは疾患特異的な項目だけを診るように縮小していくのではなく、患者全体に着眼するようにすべきである。 ②医師の教育、とくにプライマリケア領域に進む医師に対する教育は、従来の単一疾患orientedな教育モデルではないものにすべきである。 ③家庭医療におけるリサーチは単一疾患の問題に対するものではなく、全人的問題に着目するようにすべきである。 ④Administratorsとfunderはケアは多くの問題をはらんでいるということに注目すべきである。 【開催日】 2010年7月28日(水)

~家庭医の診療の包括性に対する予測因子~

【文献】
Wong E, Stewart M. Predicting the scope of practice of family physicians. CAN FAM Physician 2010:56:e219-24.

【要約】
目的
 診療所で働く家庭医の診療の幅と関連する要因を同定する
デザイン
・ 2001年のカナダ家庭医療学会による全国家庭医勤務調査の横断調査に対する2次的な単変量及び多変量解析
セッティング
・ カナダ
参加者
・ 診療のほとんどを診療所で実施する家庭医
1次アウトカム
・ 診療の地理的条件、及び、診療所を基盤とする家庭医によって提供される12の医療サービスの数で表現される診療の幅スコア(SPS:Scope of practice score)
・ 12の医療サービス
麻酔
慢性疾患のマネジメント
救急医療
施設在住の高齢者に対する診療
在宅医療
入院ケア
緩和ケア
予防医療
患者が他の医療機関・福祉サービスを利用する際の調整
メンタルヘルス(精神療法とカウンセリング)
外科サービス(一般外科、外科補助、小外科)
周産期ケア(出生前、分娩、分娩後)

結果
・ 多変量解析モデルでは参加者の中でのSPSの多様性の35.1%を説明することができた。州の違いや地域が郡部かどうかという要素が、SPSの多様性の 30.5%を説明していた。男性、若年、グループ診療、入院ベッドへのアクセスの良さ、臓器別専門医へのアクセスの悪さ、大学などでの教育ユニットにおけ る診療、混合型診療報酬支払い、専門研修終了後の更なる系統的教育、診療現場での多様な医療職種の参加は高SPSと相関があった。

結論
・ 地理的要因が家庭医診療の幅の最大の要因であった。医師自身の要因、周辺の医療資源の使いやすさ、診療組織自体の要因はいずれも関連は弱かった。地理的要 因が診療の幅にどのようにそしてなぜ影響しているのか、そして、住民のニーズと独立した診療の幅の広さが住民に利益を与えるのかどうかを調べることが重要 である。この研究は、家庭医療を刷新しようとする努力の中でも、混合型診療報酬支払い、多様な医療職種の参加を促進する試み、グループ診療を養成する試み を支持していると考えられる。

【開催日】
2010年7月28日(水)