プライマリケアにおけるタイムマネージメント:「時間がない」のはホント?

―文献名―
Tanner J Caverly, Rodney A Hayward, James F Burke
Much to do with nothing: microsimulation study on time management in primary care
BMJ 2018;363:k4983 | doi: 10.1136/bmj.k4983

―要約―
【目的】『総合診療医は決断の共有や予防医学に割く時間がない』という主張の信頼性を調査する
【デザイン】Monte Carlo microsimulation study
【セッティング】米国のプライマリ・ケア
【参加者】National Health and Nutrition Examination Surveyから導き出された、米国の年間労働時間と
患者パネルサイズ(2000人の患者)を代表する1000人の総合診療医
【主要アウトカム】予防的介入において決断を共有する際に、必要な時間と実際に利用可能な時間
(prevention-time-space-deficit)
【結果】総合診療医は平日、予防的ケアを話し合う時間を平均29分有する(各受診者には2分少々のみ)が、
彼らは予防に関する決断の共有を全て終わらせるのに6.1時間必要である。全ての参加者は
prevention-time-space-deficit(平均5.6時間の欠如)を経験している。しかし、この時間の欠如は
個人的な時間を減らして仕事にシフトすれば簡単に克服しうる。例えば、入浴の頻度を1日おきに減らす、
彼らのことをあまり好きでない年長の子供達との時間を削る、などである。
【結論】この研究では、総合診療医が個別のケアのための価値ある時間を浪費しているという疑惑を確認している。
プライマリ・ケアの権力者は、ひとたびこの個人的な時間の多さについて情報提供されたなら、総合診療医が
個人的な時間をもっと臨床的な需要へ再分配することを説得する方法を試し始めることが出来るだろう。

【開催日】2018年12月19日(水)

急性期小児疾患における意志決定

―文献名―
‘So why didn’t you think this baby was ill?’ Decision-making in acute paediatrics.
Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2018 Mar 1. pii: edpract-2017-313199. doi: 10.1136/archdischild-2017-313199.

―要約―
Introduction:
小児の急性疾患の診療の核については不明な点が多いです。重篤な疾患に出会う確率は低いですが、見逃すと致命的となります。今まで有効なバイオマーカーとスコアリングシステムの探索を行っていたにも関わらず、小児の重篤な疾患を鑑別するための診断ツールに大きな変革はありません。
詳しく調べるか、経過観察するか、治療するかの判断は医師の経験に基ついています。
不要な入院を防ぎ、安全にかつ効果的に子供たちに介入する意思決定はどのように作られるか?
この記事では小児急性疾患における意思決定のアートと化学について臨床医と教育者が無意識に
使っているプロセスを理解し、概念化させることを目的とします。
A common problem:遭遇する可能性は低いが、重篤な急性疾患の鑑別は重要である。急性小児疾患の見逃しは責任が大きいにも関わらず、診断のプロセスを複雑にする4つの要因があります。
1小児生理学の性質:小児の生理学的評価(バイタル)は複雑です。バイタルの基準値が設定され、それを知っていることは重要です。しかし専門家の意見に基つかれて作成されているため正常範囲内に異常な子供が含まれていることも多々あります。つまり基準値は普段の状態や診察内容などの他の一連の流れも含めた傾向が確立された際に有用となるものです。これは流れが確認出来ない可能性があるプライマリケア医、救急医には困難なことがあります。
大事なのは病気の全体の程度を裏つけるためにバイタルを利用することです。
2コミュニケーションの多様性:小児の診療で重要なのは病歴です。ここで注意として、病歴を保護者から聞く際に、保護者の不安(主観)によって、プレゼンテーションが強く影響することを知っておく必要があります。
また検査、診察の難しさもあります。(例:4歳児の脳波の検査が正しいのか?2歳児の腹部診察での号泣の意味など)。どの情報を取り入れるか理解するためには経験が必要です。また、意思決定に関しては患者のプレゼンテーション
を分析し統合的に判断する必要があり、その際には「リスク」についても適切に説明されなければなりません。
病気の診断に関しては医師の努力が依然に必要ではあるが、意思決定を行う際の最適な方法については今後決められるべきである。
3臨床医の経験則:ヒューリスティックは完璧ではないが、十分に実用的な問題解決アプローチです。経験豊富な臨床医が膨大な病歴と検査から得られた情報を融合させて無意識に行います(table1)。トラップを回避するためには直観的思考よりも分析的思考が重要ですが、緊張性気胸のように直観的思考が必要な場合もあるし、分析的思考が過度だと親に混乱を与えてしまう可能性があります。この中でバイアスに対する1つの対策がベイズの定理の適用です(figure1).事前確率を見積もり、検査を行い、検査後確率から診断に至る方法です。
4外的因子の影響:医師と保護者の病気に対するアジェンダが異なることが多々あります(table2)。例えば頭部外傷では親は被曝のリスクから子供を守るよりもCTスキャンをとることを優先することがあります。また、有熱者では安全に帰すために髄膜炎を否定する医師と咳を治して欲しい保護者のようなアジェンダのズレも影響しています。
病気の発生の影響:小児における一貫した課題は重大疾患になる確率が低いことです。医師は安心のために過度に検査をするか直観に基つくのかに直面します。有病率が非常に低い疾患で所見がない場合は検査の意義は低い一方で、特定のプレゼンテーションを持つ疾患では検査の意義は高い。小児の診断決定ツールはあまり有でない。英国で使用されているNICEの有熱のガイドラインは感度、特異度ともに乏しい。頭部外傷ガイドラインは感度を犠牲にすることなく特異性を達成した稀なツールである。疾患の発症は年齢でも異なる。例えばアトピー性の喘息は5歳未満では稀であり、3歳の子供の喘鳴の再発はウイルスに起因するものと誰もが考えるだろう。しかし年齢が変わるとその確率も変化してくる。喘息のリスク因子として確定したものもなく最近の英国呼吸器学会でもアトピーの家族歴は貧弱な指標と示しています。
まれな疾患と一般的な疾患を区別するための明確なツールはなく、一般的な疾患の方が明らかに多い。稀な疾患のネガティブを証明できないことは小児診療の意思決定における最大の課題の1つです。
上級意思決定と直観の利用:小児急性疾患の診断は、テストや意思決定ツールに頼ることが出来ないので上級意思決定への道をガイドラインは示しています。上級意思決定とは子供を安全で正確な臨床評価を受けるプロセスである。仮説を確認するか否か検証するテスト(hypothetic-deductive technique)やベイズの定理のような教育的、数学的アプローチに沿うことは、正しいという本来の感覚です。このゲシュタルト(どちらにもとれる感覚)と直観の両者の利用は上級意思決定の中核的な実践です。スクリーニングツールは未経験者を助けるが、すべての患者に適応するものでもない。臨床的な直観を発達させる能力は、患者経験が最も大事である一方でフィードバックプロセスやエラーから学ぶことも重要である。その教育戦略についてbox1に記載があります。子供を見る臨床医の間では多くの暗黙の知識が存在します。これはエビデンスベースの外にあり、ガイドラインには含まれません。デルファイ法(熟練の意見を集約する)などのツールを使用することで知識を有効な方法で抽出することが可能になります。
これによって患者経験から生まれる重要な要素が明らかになる可能性があります。これは今までグレーの領域を解明するかもしれない。経験から生まれる大規模なコンセンサス・オピニオンの発表は意思決定プロセスの重要な要素の開発に大きく関わるだろう。
結論:小児診療の意思決定はいくつかの要因によって影響されます。子供/親に依存するもの、臨床医に依存するものがあります。認知バイアスを意識し上級意思決定者へのアクセスを行い、臨床実践における直観の役割を理解することは急性小児科診療の転機を改善する上で重要です。医師は最良の決定を行うために可能な限り公表されたエビデンスを利用すべきです。暗黙の知識の開発と適応は、現在は理解不十分な部分ではあるが、意思決定における最も重要な要素の1つとなる可能性がある領域です。

【開催日】2018年12月19日(水)

家庭医療・古典シリーズ  家庭医の外来の「ルーチン、ドラマ、セレモニー」とは一体何か?

-文献名-
Miller WL. Routine, ceremony, or drama: an exploratory field study of the primary care clinical encounter. J Fam Pract. 1992 Mar;34(3):289-96.

-要約-
<サマリ>
背景:家庭医の診療ではしばしば家族システム理論と生物心理社会モデルを用いるが、忙しい外来診療においてはそれらの適応の仕方には違いがある。
方法:4人のグループ診療のうちの2名の家庭医によって日々の診療マネジメントの例示を同定しする。共同での質的研究を使ってその過程を探索する。鍵となる人物となる2名の家庭医と看護師の管理者への半構造化インタビューも用い、人類科学的なインタビュー技術を用いてテーマ分類を行なった。結果として生じた臨床上の出会いの類型化と意思決定の分類を参与観察と鍵となる人物からのレビューを用いて評価を行なった。最終結果は医師患者関係の過去の文献との比較で行った。
結果:3つの臨床上の出会いの類型が同定された。
 ●ルーチン:単純、単回、短時間外来、契約上の診療、生物医学モデルのみで対応
 ●セレモニー:誓約的、儀式的なスタイル
 ●ドラマ:精神的な問題を含め、衝突や感情を扱う状況 
結論:臨床上の出会いを分類することは、家庭医にとって家族システムの考え方を忙しい日々の診療に統合するための助けとなるであろう。これらの発見は今後の未来の研究、臨床研究、教育など多くのものに応用できる。
――――――――――
<結果の詳述>
外来の4つの定型分類
 ●1、ルーチン:『型通りの単純作業』
  ➢「シンプル」「簡単」「ありふれた風邪」「飯の種」
  ➢日常の感染症、小外科、保険書類関係、保証を提供するもの
  ➢解決するのが容易で比較的身体的問題のみの外来

 ●2、ドラマ:『不穏で緊迫した感情が蠢く場面』
  ➢「複雑」「困難」「問題」「話が終わらない外来」「悪い知らせを伝える」
  ➢不確実性が高い場面、衝突が生じる場面、医師―患者の合意が難しいとき、家族内の対立、アドヒアランスの不良、がんや糖尿病、ダウン症の告知
  ➢時間がかかる脅威を感じる外来で、その後も頻回の受診を必要とする。家族図が助けとなる。
  ➢早期にこれはドラマだという認識を持つと、患者さんが帰る間際の「先生、実は」という状況を減らすことができ、またその外来の最後に今後に続く何回もの受診の価値を伝えることができる。
  ➢問題解決は必要としない

 ●セレモニー:『儀式・祭事』
  ➢内容から2つに分かれる。
 ●3−1、移行期セレモニー(特別な機会での式事:結婚式、お葬式的な?)
  ➢新しいドラマの最初の幕開け、「予定の破壊者」であり「隠されている時間爆弾」。
  ➢ルーチンの中でドラマであると早期に認識し、以下の4つのステップを踏むことが重要 
    1.医者が患者を信頼していることを患者に知ってもらう
    2.医師は患者が最も恐れていることを取り扱う
    3.「一生のお願いだから聴診器を当ててください」への診察の実施
    4.医師は、希望を与えて、次回までに何か出来ることを提供する 
  ➢移行期の説明を受け、不安について学び、家族との再会・和解を開始し、さらに害が生じないように長期間の診療を準備
 ●3−2、維持期セレモニー(定例”Do”式事:朝礼、お歳暮的な?)
  ➢プロトコールに沿った対応、いつも通りの対応、
  ➢これも医師の快適さ・不快さでさらに2つに分かれる。
    ✧3-2-a.維持期好意的セレモニー 
     ●慢性疾患の管理・マネジメント、患者とのホラ話・噂話の交換 
    ✧3-2-b.維持期絶望的セレモニー
     ●「腹を立てている患者」、「孤独な患者」と評される。
     ●不要なビタミンB12注射や疼痛緩和注射などの不快な定期マネジメント(出来上がってしまったパターン)
 ●移行期も維持期も両方ともに、定められ繰り返される型や構成となっている。儀式的であったり、良し悪し関係なくパターン化された繰り返しのプロセスである。(McWhinneryは、シャーマン的な振る舞いと表現)

【開催日】2018年10月24日(水)

診察時間の長さは患者の満足度と関連しない

-文献名-
Elmore N, Burt J, Abel G, et al. Investigating the relationship between consultation length and patient experience: a cross-sectional study in primary care. Br J Gen Pract. 2016.

-この文献を選んだ背景―
 昨年度から当診療所では午後1診体制をとっており、3時間で30名前後の診察を、関注等の処置を含め原則1人で行う必要がある。また、午前の3診体制においても、自分自身の役割として外来を円滑にまわすために混み具合を見ながらある程度メリハリをつけて診察を行うことが増えてきた。一方で、短時間の診察であっても、患者の真の受診理由をできるだけ早く捉えて適切に対応することができれば、必ずしも患者の満足度が下がるわけではないという実感もあった。
 そこで、最近生涯学習のために始めたRSSリーダー(feedly®)のLatest headlines from BMJで、Research Newsとして本文献が取り上げられていたため関心を持った。

-要約-
【背景】
 プライマリ・ケアにおいて、より診察に時間をかけることが、これまでケアの質向上や健康関連アウトカムの向上と関連づけられてきた。しかし、診察時間の長さ(consultation length)と患者体験(patient experience)の潜在的な関連性については、エビデンスがほとんどない。

【目的】
 診察時間の長さと、患者が報告する医師のコミュニケーションの質・医師に対する信用性(trust)と信頼性(confidence)・全体満足度の関連性について調査する。

【研究デザインとセッティング】
 イギリスの13箇所のプライマリ・ケア施設において、440例の診察をビデオ録画し、患者体験に関する質問紙を用いて分析した。

【方法】
 研究に参加したGPの診察を受けた患者から、診察の録画と質問紙の記載について同意を得た。診察時間はビデオ録画により計算された。線形解析(患者・医師の背景を調整)により、患者体験(コミュニケーションの質・信用性と信頼性・全体満足度)と診察時間の長さの関連性を調査した

【結果】
 診察時間の長さと患者体験に関する3つの尺度の間に関連は認めなかった(すべてP>0.3)。診察時間追加分数あたりの調整スケール変化率は、コミュニケーションの質0.02(95%CI -0.20−0.25)、信用性と信頼性(95%CI -0.27−0.41)、全体満足度(95%CI -0.46−0.18)であった。(Table2-4)

【結論】
 コミュニケーションに関する患者体験尺度と診察時間の長さの間に関連性は認めず、ときに患者は非常に短い診察において良好な体験を報告した。しかし、より長い診察時間は、臨床的効果や患者の安全性といった、良質なケア達成のために同じく重要な側面のためには必要かもしれない。とくに複雑性の高い患者に対して、より長い診察時間がもたらす利益についてはさらなる研究が必要である。

今江先生図①

今江先生図②

今江先生図③

-考察とディスカッション-
【考察】
 本研究では、診察時間の長さと患者体験(コミュニケーションの質・信用性と信頼性・全体満足度)は関連しないことが示されたが、結論にも記載されている通り、ケアの質との関連については不明である。単純に時間をかければ患者は満足するわけではないことが示唆された一方で、短時間の診察でもケアの質が担保されるかどうかについては、家庭医の臨床能力・カルテ記載・扱う健康問題の複雑性・患者との継続性など、様々な観点から考える必要がありそうだ。

【ディスカッション】
 みなさまの実臨床での経験や実感とともに、本研究の結果や限界、診察時間とケアの質の関連等について、自由にディスカッションをお願いします。

【開催日】
 2016年11月2日(水)

マスク着用と患者の相談行動心理

―文献名―
田村恵理、岸本桂子、福島紀子.薬剤師のマスク着用が患者の相談行動心理に及ぼす影響.薬学雑誌.2013;133(6):737-745

―背景-
 院内でビデオレビューを行った際に、マスクを着用して診察していたのを見た指導医から「マスクを着用すると表情が見えなくなるので、着用しない方が良いのでは」というコメントを受けた。マスクに感染症予防の十分なエビデンスがないことは知られていたが、マスクを着用することについて、患者の目線からは「表情が見えづらく、コミュニケーションが取りづらい」という意見と、「しっかり感染対策をとっている、安心できる医院」という意見の両方があるのではないかと考えた(実際、インターネットの相談サイトでは上記の議論がされていた)。
 今回、医師ではなく薬剤師で調べられた研究ではあるが、「患者の相談行動心理」という家庭医にとっても重要と思われる問題を取り上げた文献が見つかったので、読んでみた。

―要約―
【諸言】
 患者の保有する病原体が空気中に飛び散った場合に、医療従事者のマスク着用が感染予防となるかの科学的根拠は明らかになっていない。また、患者の医療従事者に対する印象については、看護師の領域では複数報告されているが、研究結果には一貫した傾向がみられていない。医師の領域では、小児患者とその両親にとって、マスクと透明なフェイスシールドのどちらが懸念要素となるか調査しており、表情が見えるフェイスシールドの方がよい選択である可能性を示した。
 薬剤師は看護師や医師などの医療従事者と同様に、マスクを着用する医療職である。しかし、マスクをすると顔の一部分が隠れ、薬剤師の表情が見えづらくなることが、患者が薬剤師に相談し難いと感じる要因になる可能性が考えられる。本研究では、薬剤師と信頼関係を構築していない患者にとって、薬局薬剤師のマスク着用が服薬指導時に患者の相談行動を妨げる要因となるか検証を行う。

【方法】
 協力の得られたドラッグストアで2012年8月2,3,9,10,13,14日に調査を実施。研究への参加同意が得られた来店者を被験者とした。服薬指導映像を映像a(マスク非着用)と映像b(マスク着用)の2種類用意し、被験者には映像aを視聴後その映像について質問紙に回答、次に映像bを視聴後その映像について質問紙に回答とした。質問紙の測定内容は、主要アウトカムとして(1)薬剤師に対する相談意思、副次的アウトカムとして(2)薬剤師に対する印象、その他に(3)被験者属性とした。(1)として6個の下位尺度で構成される「相談行動の利益・コスト尺度改訂版(全26項目)」を使用した。6個の下位尺度は「1.ポジティブな結果(8項目)」、「2.否定的応答(6項目)」、「3.秘密漏洩(3項目)」、「4.自己評価の低下(3項目)」、「5.問題の維持(3項目)」、「6.自助努力による充実感(3項目)」である。(質問紙の内容は文献のFig.1参照)

【結果】
 映像aと映像bで、下位尺度ごとに対応のあるt検定を行った結果、「5.問題の維持」のみ有意差がみられた(p=0.025)。また、「5.問題の維持」について多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、被験者属性の「年齢」「マスク使用頻度」が有意に関連していた。

【考察】
 「5.問題の維持」は、相談を行わずに自分一人で悩んでいる場合に問題が維持されるかどうか、被験者の思考を測る下位尺度である。研究結果からは、自分一人で悩みを抱え込む傾向にある患者にとっては、薬剤師のマスク着用が服薬指導時の相談行動を妨げる要因となる可能性があると言える。
 また、多重ロジスティック回帰分析の結果から、マスクを着用する習慣がない患者ほど、薬剤師のマスク着用によって相談行動が妨げられる傾向にあること、また年齢は負の因子として相関していたため、若年者に比べ高齢者層では薬剤師のマスク着用が相談意思に及ぼす影響が小さい可能性がある。

―考察―
 研究については、被験者が服薬指導している2種類の映像を順次見るという形式なので、実際に対面するのと印象が異なる可能性、また先に見た映像aへの質問紙回答を基準に次の映像bへの質問紙回答をするという順序効果が生じる可能性については、文献の考察でも触れられていた。そして、研究自体が薬剤師について調査されたものなので、家庭医ではまた違った結果になる可能性もあるが、参考になる点も多いと感じた。
 研究結果で有意差の見られた項目は少なかったが、「5.問題の維持」に関する質問内容は「相談すると、相手が真剣に相談に乗ってくれる」「相談すると、相手が励ましてくれる」「悩みを相談することは、自分の弱さを認めることになる」となっており、家庭医としては無視できない部分かと思われた。
 一方で、マスクを着用することにより「きちんと感染対策をしている医療機関だな」と思ってもらえる、といったマスクによるポジティブな反応についてはこの研究では検討されておらず、特にインフルエンザ等の流行時期にはマスクを着用した方が患者にとっては好印象なのでは?という疑問は拭えなかった。

【開催日】
2015年5月20日(水)

Healthを尋ねる

―文献名―
Marian R, Stuart PhD and Joseph A, Lieberman Ⅲ MD, MPH.The Fifteen Minute Hour: Therapeutic Talk in Primary Care 4th  Edition.Chapter 8 Accenting the Positive: Putting an Affirmative Spin on the BATHE Technique.

―要約―
新しいBATHE法を理解するために、以下に例を示す。

 Eさんは、63歳の女性で、糖尿病、高血圧、軽度うつ、不眠があり、定期診察を受け、処方内容を調整することになっていた。彼女の日常の症状を聴取し、処方内容を見直した後で、Dr.Sは、「前回の診察から今日までで、最も良かったことはどんなことでしたか?」と尋ねた。Eさんは、怪訝そうにDr.Sを見つめたが、「何もいいことなんて無かったわ」と答えた。「OK、素晴らしいことは無かったかもしれませんね。ただこの数日で、ちょっと良いことはなかったですか?」するとEさんは笑顔を浮かべて、「そういえば…、孫から手紙が届いたわ。彼女は8歳なの。」「なるほど!それはどうして起こったんでしょうね。」とDr.Sが尋ねたところ「そうね、きっとあの子は私に連絡を取りたかったのよ。あの子は私のことが好きだから。」Eさんに笑顔が戻って来た。Dr.Sは、そのことに関して最も感謝していることを聞きたいと思った。すると、「私は、あの子のことを愛しています。とてもかわいい子なんです。あの子がいてくれることに感謝しています。息子夫婦がもっと近くに住んでくれればと思うけど…」とEさんは答えた。Dr.Sはどうやったら、Eさんがお孫さんとうまく関われるようになるかを尋ねた。「やっぱり、手紙と折々の電話、訪ねてみることかしら。」Dr.Sは「それは素晴らしいプランですね。こうしたことを話してくれて感謝しています」と答えた。そして、「それと、定期的な運動もしましょうね。最低30分程度のウォーキングがおすすめです。また、お孫さんと会う時には、何か体を動かすような遊びをされたらいいですね。」と付け加えた。Eさんは診察室を出る際、微笑をたたえていた。

長先生図5

 これまでのBATHE法(左表)は有効性がありながらも臨床家にとって、毎回持ち出す必要がないと考えられる嫌いがあった。そこで、毎回の診察室でもルーチンで用いられる新しい枠組み(ポジティブBATHE法(右表))が編み出された。
 ポジティブ心理学は、通常の人間の強さや善行に関する科学研究である。患者の人生におけるポジティブな側面に焦点を当てることが重要とされる。その焦点の当て方、エビデンスに基づいた枠組みとして、ポジティブBATHE法がある。ポジティブな感情つまり、感激、決心、ひらめきといったものは、健康や寿命に影響する。ポジティブな考え方は、免疫力を高め、抑うつ気分を振り払い、身体的、精神的健康を高めてくれる。ポジティブな感情な人は、ネガティブな感情の人よりも健康的な取り組みを行なうことが多い。
 感謝に関しての質問は、うまくいっていることに焦点を当てる技法である。うまくいっていることを発見し(Discover)、起こりえる最良のことを想像して(Dream)、戦略を立て(Design)、そしてポジティブな結果をもたらす(Deliver)。
 また、ポジティブBATHE法は治療手段の一つで、頻回受診の患者や、慢性疾患のある患者に推奨され、人生におけるポジティブな側面に焦点を当てる様に設計されている。BはBestであり、「今週(または、前回の診察から今日までで)最高に良いことがありましたか?」と尋ねる。AはAccountであり、「この良いことをどう説明しますか?」、TはThankfulnessを表し、「この良いことのどんなところに一番感謝しますか?」、HはHappenであり、「より頻回にこの良いことが起こるにはどうすればいいですか」、EはEmpathy, Empowermentを表し、「それは素晴らしい、あなたならできますよ」となる。
 人生において、よりポジティブな面に目を向けさせる一つの手法としては、毎日、3つよかったことを書き出すというものがある。感謝の気持ちはより健康状態を高める。患者は、自分自身の個性の長所を自己認識し、その長所を活かして行くように勧められる。
 赦し、つまり、過去の憤怒や妬みなどをやり過ごすことは、精神的、身体的に健康状態を改善する。患者は赦しの心境に達するように、プロセスを理解した方がよい。つまり、自分を傷つける者を特定し、想像の中で、彼と向き合い、なぜ不愉快な事が起こったかを理解し、相手の立場、自分の立場からそれぞれ対話させ、赦す決意をし、自身の苦悩・痛みをやり過ごすことができれば、人は赦しの境地に至り、精神的、身体的反応は変化して行く。個人の苦悩・痛みのポジティブな面とは、赦しの過程を導いてくれるということである。
 知足とは、様々な問題を解決しようとする中で常につきまとうストレスを軽減する手法として知られている。常に自身の振舞いや考え方の型を変化させて行く事の難しさは承知の通りである。しかし、ネガティブな結果はいつでも学びの糧となる。現実的楽観主義は、ポジティブな結果に至らしめ、健康の質を改善する。最後に、医師は希望を常に処方するべきである。

【開催日】
2015年1月14日(水)

高齢者における低い機能的健康リテラシーと死亡率の関連:縦断的コホート研究

―文献名―
Sophie Bostock, Andrew Steptoe, Association between low functional health literacy and ortality in older adults: longitudinal cohort study, BMJ, 2012;344:e162

―要約―
Objective 
 To investigate the association between low functional health literacy (ability to read and understand basic health related information) and mortality in older adults.

Design 
 Population based longitudinal cohort study based on a stratified random sample of households.

Setting
 England.

Participants
 7857 adults aged 52 or more who participated in the second wave (2004-5) of the English Longitudinal Study of Ageing and survived more than 12 months after interview. Participants completed a brief four item test of functional health literacy, which assessed understanding of written instructions for taking an aspirin tablet.

Main outcome measure
 Time to death, based on all cause mortality through October 2009.

Results
 Health literacy was categorised as high (maximum score, 67.2%), medium (one error, 20.3%), or low (more than one error, 12.5%). During follow-up (mean 5.3 years) 621 deaths occurred: 321 (6.1%) in
the high health literacy category, 143 (9.0%) in the medium category, and 157 (16.0%) in the low category. After adjusting for personal characteristics, socioeconomic position, baseline health, and health behaviours, the hazard ratio for all cause mortality for participants with low health literacy was 1.40 (95% confidence interval 1.15 to 1.72) and with medium health literacy was 1.15 (0.94 to 1.41) compared with participants with high health literacy. Further adjustment for cognitive ability reduced the hazard ratio for low health literacy to 1.26 (1.02 to 1.55).

Conclusions
 A third of older adults in England have difficulties reading and understanding basic health related written information. Poorer understanding is associated with higher mortality. The limited health
literacy capabilities within this population have implications for the design and delivery of health related services for older adults in England.

【開催日】
2014年8月13日(水)

贈り物の心理学~皆さんは患者さんからの贈り物をどう捉えていますか?

―文献名―

「贈り物の心理学」 成田善弘著 名古屋出版会 2003年

―要約― 

P89 この頃病院に「職員に対するお心付けは固くお断りする」という張り紙をみる。患者からの贈り物をある種の賄賂とみてそれを拒絶する、正当な料金以外は受け取らないという姿勢であろう。
また近年は患者の権利意識が高まり、患者は医療の施しをうける存在ではなくユーザーであると考えられるようになり、医療が商品視されるようになると、買い手である患者が、売り手である医療者に贈り物をするなどは考えられなくなりつつある。しかし、わが国には様々な時や場合に贈り物を贈るという習慣が定着している。他家を訪問するには手みやげを携えていくのが常識とされているし、世話になった人たちへの中元、歳暮を贈る事は慣習になっている。医師に贈り物をする患者の中には、医師に世話になっていると感じている人もいるであろう。そういう患者達は医療を商品と見なすのではなく、そこに医師の善意や尽力を感じているのだろう。

P91 ある時期から方針を変更し、常識の範囲で判断して特別に高価な物でない限りよろこんで受け取ることにした。というのは、贈り物を謝絶することで患者との関係が安定する事は少なく、むしろ患者を傷つけ関係を不安定にする場合が多いと感じたからである。贈り物を贈るのは、歴史的、文化的慣習であり、また医師の善意や尽力に対する謝意であり、さらには贈り物を通して、自分の気持ち(感謝・愛)、人格が医師に伝わる事を望むからである。それを断ることは、医師が患者とは歴史と文化を共有しないと告げることであり、自分の行為は善意に基づくものではなく、単なる業務であり商品の提供だと告げることであり、患者の気持ちや人格は受け取らないと告げることである。

P94 (精神療法)治療中の贈り物は一般に無意識的に動機付けられた行為である。患者は自分が価値あると思う何らかの好ましい現実の経験を治療者にも共有して欲しいという願望は意識している。しかし贈り物が、治療者に自分の現実世界の喜びを共有する現実の対象になってほしいという願望を表していることには通常まったく気付いていない。

P175 贈与交換は単なる物のやりとりではない。ものを媒介として贈り手と受け手のコミュニケーションである。ものを贈る側も受け取る側も、好意や信頼に根ざした人格的関係によって結ばれ、双方の間には互酬性の原理もしくは互酬性の規範によって、返済の期待や返済の義務が生じる。贈り手は受け手に返済を期待し、受け手は贈り手に返済の義務を負う。こうした交換当事者双方の思惑や感情が錯綜する結果、贈与交換の生活はますます複雑になっている。
(内観療法は、してもらったらして返すのが当然という事が前提として強調されている日本であるため発達したのかもしれない)

日本社会では、ハレの日に食物をやりとりすることは多い。日本語の「もらう」という言葉は、元々は多くの人が食物によって不可分の関係を結ぶ事を意味したという。人と飲食を共にするという事から「酒もり」の語もできたという。

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【開催日】
2014年4月23日

コーチングスキルを医療現場に活かす

― 文献名 ―
 メディカルサポートコーチング 奥田弘美+木村智子 著 中央法規

― この文献を選らんだ背景 ―
 医療現場において、コミュニケーションは非常に重要であり、私たち家庭医の舞台でもそれは例外ではない。むしろ他の専門医に比べても外来に重きをおいている分、その比重はより重いと言っても過言ではない。私は自身のコミュニケーションスキル向上などのために数年前より商業ベースでコーチングを修練しており、すでに認定コーチ資格&認定メディカルコーチ資格もとっているが、なかなか医療現場に適応できるスキルがまとまっている一冊がこれまでなかったと感じていた。今回手に取った書籍が非常に入門的でありつつも、医療現場に実行可能な中身が例示されつつまとまっている良書であると感じたため、スキルのまとめをしつつ、紹介する。

― 要約 ―

 ※本書は以下の構成となっている。(タイトルは中村で若干改変)
 第1章:メディカルサポートコーチング総論(対患者、対スタッフともに使える基本スキルを記載)
 第2章:セルフサポートコーチング(主にセルフケアの観点を記載)
 第3章:マネジメントコーチング(主に上司・部下間のコミュニケーションを記載)
 第4章:ホスピタリティコーチング(主に患者に使える、職種別のコミュニケーションを記載)

この中から、今回は第1章に記載されている、主に「対患者」に対するコーチングスキル手法をとりだして、列挙して紹介する(それ以外は本著を手に取ってみてください)。

1. 「モデリング」
 自身がロールモデルとする同職種をイメージし、「その人なら今の状況でどう行動するか」をイメージすること。こつは「貴方が理想のモデルに近づくために、今すぐ出来る小さな行動は何か?」という問いを立て続けること。

2. 「ゼロポジション」
 コーチングの「聴く」スキルの超基本の型。①先入観を持たない、②最後まで聴く、③口を挟まない、④非定型接続詞(でも、しかし、など)を使用しない、⑤沈黙を待つ、⑥聴き手に徹する、などから構成される。実際の医療機関ではこれを忠実に実行すると時間と集中力の観点から不可能のため、この基本形をもちながら応用スキルを併用していくこととなる。ここぞ!というシーンで力を発揮する姿勢。

3. 「ペーシング」
 相手と自分の共通点を多く作るスキル。人は自分と相手が「同じ」な点が多いほど安心感、親密感をいただく性質があることを利用します。①話し方を合わせる(スピード、大きさ、トーン、雰囲気など)、②言葉遣いや態度を合わせる(フランクな人にはフランクに・・・)、③動きを合わせる(相手が胸を押さえて痛むと話す時にはこちらも胸に手を当てて話しを進める)などから構成。

4. 「オウム返し(バックトラック)」
相手の言葉の語尾を繰り返す有名なスキル。効果は「貴方の気持ちを私は共感しながら受け止めていますよ」というメッセージを持つ。

5. 「あいづち うなずき」
 「はい」という返事とうなずきのこと。効果は「貴方の話をもっと聞かせて」とおいうメッセージ。会話は拡大傾向に向かうため、外来を収束方向に向かわせる時には少しセーブが必要です。

6. 「Open or Close question」
 これも有名なスキルで、Closeが「はい」「いいえ」で応えられるもの、Openがそうでないもの。使い分けが大切。少し落とし穴なのが、「すごく緊張した人にいきなりOpenを浴びせると実に答えにくい」ということです。Closeのほうが緊張状態の人も答えやすいという長所があるので、初見で緊張状態の方には最初には答えやすいCloseをあびせて(例:今日は○○ということについての相談ですね?→ ハイ など)、その後にOpenを行う(そして、問診後半はまたcloseへ)という絡め手を使うなどの応用があります。

7. 「過去型(否定型)質問 or 未来型(肯定型)質問」
 Openの応用編です。Whyや過去系を用いた質問、「~しなかったのは」などの否定語句が入る質問は相手に「責められている、非難されている」という意味を与えます。結果「すみません、~だったので・・・」という言い訳が多くなります。これでは行動変容も起こしづらいです。
 よって、同じ質問も可能な限りWhy以外の語句で、未来に向かうタイプの質問に切り替えることがこのスキルの本旨です。これはかなり意識しないと出来ないので、まずは自分へ問いかける練習から始めるとよいでしょう。
 例:「どうして運動できなかったのだろうか?」→「明日から少しでも運動できるためにはどうすればよいだろうか?」
 例:「なぜあんなミスをしたのだろうか?」→「少しでも挽回するために、明日から出来ることは何だろうか?」

8. 「塊をほぐす」
 相手の発言に「抽象的な語句(だいたい、そこそこ、微妙に、いつも など)」が出てきた時にその言葉の塊を分解して具体化していくOpen question応用スキルです。貴方の「いつも」とあいての「いつも」は異なることがしばしばあり、そのギャップを埋めることで相手との気持ちの連帯感とその過程における相手の気づきを生むという効果があります。ほぐした塊は再度サマライズして相手に伝えるとさらに効果的です(これを「塊を再構成する」と呼びます)。

9. 「Iメッセージ(We メッセージ)」
 同じ内容でも主語を変えることで伝わり方が異なるというスキル。日常最も使用されるYouは「断定・評価・決めつけ」の意味が入り、誤解のリスクに注意が必要となります。
 Iメッセージは意図したメッセージが100%受け取られる安全な言い回しで、コーチングで重宝される手法です。一方、WeメッセージIメッセージの強化型で肯定の内容のみで使用するのが無難です。Weメッセージの否定内容のダメージは大きいためです。

10. 「承認する」
 褒めることに代表される「相手のよいところを認める」ということを相手に積極的に伝える姿勢のスキル。相手が頑張っていることなどを見つけたら、すかさずその要素を拾い上げて言葉に出して承認することで、相手の意欲、やる気を高める効果を得ます(行動変容を求める相手できわめて有効です)。

11. 「枕詞」
 相手にとって聴きたくない情報を伝えるときにワンクッションを入れるというスキル。「重要なことなのですが~」とか「私の意見としてですが~」などで相手の了承を得て相手に聴く準備をしてもらうことでショックを緩和する効果があるとされます。医療面接では特に重宝するスキルです。

12. 「一時停止」
 ゼロポジションの対局に位置する相手の会話を中断する「枕詞」の応用スキル。①相手が話すべきテーマから外れた時、②時間がないとき、などに発動します。「大変申し訳ないのですが~」などの枕詞を用います。割り込むタイミングは一文節が終了する切れ目に滑り込ませることです。

13. 「要望する」
 相手に「~してはどうですか」ということを伝えるスキル。コーチング的ポイントは2点。①は「枕詞」の使用(これは要望なのですが~)、②相手にあくまで選択権があることを伝えること、です。ただし医療現場ではどうしても受け入れてもらいたいタイプの要望もあるため、その場合は③受け入れてもらいたい旨を明確に伝える、となります。

14. 「まとめと同意」
 最後に要点要約して、相手から同意を得るスキル。「これからどう考えてどう行動するか」をまとめて、相手の同意を得るようにすることで、誤解防止などにもなります。

15. 「応用:コーチング的医療面接のための3ステップ」
 コーチングは一つの構造化されたコミュニケーション手法なのですが、外来でこれを実践するとなると、少し工夫が必要です。本書では3つのシンプルなステップで外来応用を試みようとしています。
 ①マイゴールの設定:どの目標を目指すか?例:HbA1cを6台へ。
 ②マイアクションプランの決定:どの段階にいる?何を準備する?例:今は8台。食事療法・・・
 ③行動をサポートする:サポート体制の整備 例:定期外来構築、各種行動変容スキル・・・

― 考察とディスカッション ―
 これらのスキルは既に患者中心の臨床技法などを実践する際に、おのずと実践しているものも多いのではなかろうか。しかし、普段あまり意識していないスキルがあるのであれば、非常に使えるものとなっているため、ぜひ活用してみてもらいたいと感じている。皆様の中で日常の外来でこれらのスキル(もしくは他のコミュニケーションスキル)の声かけが奏功した事例などはありませんでしたか?

開催日:平成25年7月10日

医師患者関係の深さの評価

<文献>
 Patient-Doctor Depth-of-Relationship Scale:
Development and Validation

Matthew J. Ridd Annals
of Family Medicine 2011 November/December
2011 vol. 9 no. 6 538-545

<要約>

【PURPOSE】 
 Because patient-doctor continuity has been measured in its longitudinal rather than its personal dimension, evidence to show that seeing the same doctor leads to better patient care is weak. Existing relational measures of patient-doctor continuity are limited, so we developed a new patient self-completion instrument designed to specifically measure patient-doctor depth of relationship.
【METHODS】
 Draft versions of the questionnaire were tested with patients in face-to-face interviews and 2 rounds of pilot testing. The final instrument was completed by patients attending routine appointments with their general practitioner, and some were sent a follow-up questionnaire. Scale structure, validity, and reliability were assessed.
【RESULTS】
 Face validity of candidate items was confirmed in interviews with 11 patients. Data from the pilot rounds 1 (n = 375) and 2 (n = 154) were used to refine and shorten the questionnaire. The final instrument comprised a single scale of 8 items and had good internal reliability (Cronbach’s α = .93). In the main study (N = 490), seeing the same doctor was associated with deep patient-doctor relationships, but the relationship appeared to be nonlinear (overall adjusted odds ratio = 1.5; 95% CI, 1.2-1.8). Test-retest reliability in a sample of participants (n = 154) was good (intracluster correlation coefficient 0.87; 95% CI, 0.53-0.97).
【CONCLUSIONS】
 The Patient-Doctor Depth-of-Relationship Scale is a novel, conceptually grounded questionnaire that is easy for patients to complete and is psychometrically robust. Future research will further establish its validity and answer whether patient-doctor depth of relationship is associated with improved patient care.

開催日:平成25年6月5日