“研究をやる前の自分とやり終えた自分が変わる”ということ

―文献名―
質的研究の方法 いのちの<現場>を読み解く 語り手:波平恵美子 聞き手:小田博志 春秋社 2010年

―要約―
以下、印象に残った文章の抽出
第一部 質的研究のコツを聴く
第一章:質的研究とは何よりも「問題を発見する」ことに強みがある。たてた問題の答えを見出すだけではなく、それまで気づきもしなかった問題の存在に気付き「問題を発見」することによって、研究全体の発展に貢献することができる。
・問題意識と研究課題は分けておく

日常生活の中にある問題意識を「研究課題」にするためには、自分の抱き続けている問題意識を自分のなかで整理しておく(自分の動機付けがどこにあるかを明確にしておく)ことが必要です。
・質的研究は手仕事、まずは素材に向き合う
 データを繰り返し、繰り返し見て、そのなかで研究計画書を作りながら考える。
・問題意識を持ち続けること。それは優れた発想を生む。
 「なぜ、あのように男泣きに泣いていた父が、弟の骨を見て笑ったのか(4歳6ヶ月の時)」 
 質的研究の上で優れた、意義のあるRQを立てるためには、自分の興味関心のある問題あるいは、
 時には幼い時から抱いている疑問や体験の中から生じた問題を簡単に捨てないことである。
第二章:質的研究の強みは、問題を発見することである。そのためには「相対化」する視点を獲得することが必要になってくる。相対化の視点とは、対象を、対象をみる自分自身とは全くことなる存在として扱う「客観化」とは違い、対象をみている自分、対象について語る自分自身も暗黙に含んだものの見方のことである。それは、地図を描いたり地図をみる行為に似ている。
・「距離をおく」ということ

 自らを「よそ者」の視点で見てみる。Making the familiar strange 自分にとっては当たり前の  
 ことを奇妙と捉える。これは相対化ということでもあります。自分が生きている状況を相対化することが問題、そして研究課題の発見にもつながる。
・質的研究では多様なものをデータとする
あるテーマについて書かれたものだけを集めて、それをよんで自分が納得したかどうかを書いてもらう。同時に、自分の考えがいかに人の受け売りなのかということに気付き始める。一般言説の霧が晴れれば研究課題は見えてくる。それはデータ分析であると同時に、自分自身の思考の相対化にもつながる。
・データの持ち味を活かす
 質的研究によって得られた結論とは、もとにある生データを推測させるようなものでなくてはならない、という考えが常に私にはある。
 いい研究というのは、対象についての本質が言い当てられる、読んでいて「よくわかった」という「眼」をあたえてくれる研究なんだと思います。そのためにも、データ自身が「語り始める」ように繰り返し読むことが大事。
・「語ってもらえる私」になる
 インタビューのとき「いかに聞きすぎないか」にも気を配る必要がある。

Intermezzo 子どもの時の体験と「プロの『よそ者』」への道
 その研究テーマに取り組まざるを得ない、抜き差しならない状況で始めている印象があります。
 人類学者とは「プロのよそ者」だという表現があるが、子供って「世界のよそ者」なんですね。
–色々なことを感じているけれど、まだ人に伝える言葉にできない。しかしそれを既存の言葉にあてはめて終えてしまうのではなく言葉にならない自分のひっかかりを大切にして、保ち続ける−それは自分にとって意味があるだけではなく他の人たちの言葉にならない思いをひらくことにもなる・・・

第二部 経験を聴く
第5章 当事者の切実さを忘れない。なおかつ当事者と異なる視点を忘れない。
質的研究の場合、問題発見は大胆に行い、一方、データ収集、整理、分析には細心を心がける。一部の文化論のように、飛躍だけでは次が続かない。
質的研究は社会に概念的資源を提供する役割がある、と表現したい。すなわち現場で生きている人たちがうすうす気づいているのだけど、言語化していない点を「言い当てる」という役割ですね。
・ひらめきの知、アブダクション

どうしてリンゴが木から落ちるのかを説明する理論枠組みを生み出す思考の展開のこと。そこには現象レベルからの飛躍、ひらめきがある。量的研究は演繹的であるのに対して、質的研究は帰納的だと言われます。しかしアブダクションはそのどちらでもない第三の推論様式なのです。
・手間暇をかけること
書いていることにきづくのは100あるうちの3読めばわかる。書いていないことに気づくには、やはり30とか40とか読まないと気がつかない。

【開催日】
4月16日(水)

‘POLST'(Physician orders for Life-Sustaining Treatment) OHSUでの終末期・延命治療についての取り組み

【概要】POLSTとは
 
・Physician Orders for Life-Sustaining Treatmentの略語 
 
・’End of life'(敢えて終末期と訳しませんでした。)における医療の質の改善のために考慮されたプログラムで、患者の希望を聞き出すための効果的なコミュニケーション、色彩がはっきりした紙への行いたい医療の記載、その希望に対する医療者の遵守が土台となっている。

・1991年に、オレゴンにて延命治療に対する患者の希望が尊重されていないことに問題意識を感じた医療倫理分野の専門家が活動を開始し、1995年にForm(書式)が初めて出版された。
 
・現在では、オレゴン州では、POLSTを用いていることが、ケアの基準として受け入れられており、全てのホスピスと95%の高齢者施設において採用されている。2004年にはPOLSTのメンバーが、USの国のタスクフォースとして、国内への流布・政策整備・リサーチの実施のために、活動を開始した。

・現在のUSAにおける、POLSTプログラムの採用状況は図1のとおりである。

【POLST Formの記載内容】

・「POLST Oregon sample」「POLST newest 日本語」にそれぞれオレゴン州のサンプルとその日本語訳があります。
 
・確認するのは主に以下の3点
  
①心肺停止状態の時のCPRをするかどうか 日本での従来的なDNARかどうか、に該当します
  
②①ではなかった時の、医療をどこまで希望するか
    1.緩和処置のみ施行     ;対症療法のみ
    2.限定された医学的処置の施行;通常の治療を行うが、気管内挿管・長期の生命維持・ICU治療などは行わない
    3.積極的な治療       ;侵襲的な処置も全て行う
  
③人工的な栄養と輸液の投与
    1.一切行わない 2.期間を限定して行う 3.長期的に行う
 
④抗生物質投与(州によって項目として独立していない場合もあり)
   1.使用しない。症状緩和のための場合は行う
   2.侵襲的な投与は行わない(筋肉内・静脈内は行わない)   3.積極的に行う
 
⑤話し合いに参加したメンバーの記載

【実際にどのように使用されているか?】

・オレゴン州では、ある年齢を超えた患者全員に対して推奨されているとのこと。電子カルテのAlertとも連動しているクリニックもあるようで、聴取していない場合は、Alertが出るようにされているところもあるとのこと。
 
 ※HPでみる限りは、オレゴンは非常に進んでいるようで、プログラム全体としてPOLSTの推奨としているのは、「進行した慢性進行性の疾患を持っている人、翌年に死亡あるいは意思決定能力が失われる可能性がある状況にある人、また、自分が受けるケアについて意思表示を明確にしたいという要望を持っている高齢者ならだれでも」、となっています。
参考;http://www.ohsu.edu/polst/developing/core-requirements.htm
・実際には、希望を書いた紙を、平時は患者自宅の冷蔵庫などに貼ってあって、救急隊が現場到着した際に、その紙を同時に持っていく、というような感じになっているそうです。(外出時はどうしているのかは聞いてきませんでした)

・法的効果も認められており、実際にPOLSTに反して蘇生をして、生き返った当人が訴訟をしたケースもあるとのこと。

・記載はもちろん強制ではなく、患者(あるいは代理人)の自発的な判断に基づく、とあります。

・延命治療への配慮は全ての患者においてなされるべきだと日ごろから感じている。内科的疾患で入院した際にDNARを確認した際に、「今まで話し合ったことがない」と答えた家族には退院後に一度きちんと話すように勧めたり、悪性疾患の診断を受けている患者の定期外来で、近い話題が出たら、確認してカルテに記載するよう努力はしていた。

・このようなフォームの活用することで、家族・本人との話し合いの場は持ちやすくなるし、より具体的な話をする機会を持てるだろう。継続性や関係性構築に長けている家庭医なら、「不要な心配」をかけることなく話題を切り出す役割としては適任と思われる。

・しかし、このようなフォームが本当に効力を発揮するためには、多彩な段階の治療への要望に対応するための複数の場(ホスピス・入院病床)や、それに寄り添える価値観を持ち、多彩な段階の治療を実践できる医療スタッフが存在することが必要だろう。POLSTのようなシステムと実際の受け皿が両輪になって、初めて走り出すもので、片方だけの過剰な整備では、フォームを形骸化させるもととなる。

・その一方で、こうした類のイノベーションにおいては、フォームの導入が、もう一方の「車輪」の整備のきっかけになる可能性(例えばACLSのように)があることも鑑みる価値はあると思う。現場で患者の個別化されたケアの実践に取り組み家庭医としては、システマティックでなくとも、出来ることがあるように感じる。
    
  例えば、我々にでも以下のような活動は出来るかもしれない。
      
       都市部;自分が受ける治療に対して希望があり意識が高い患者とのコミュニケーションに利用する
      
       郡部;こうした概念自体の存在をチームでシェアして、特にリスクが高くかつ地域から出ていく可能性が低い集団(グループホームや特養の利用者)に関わる職種と勉強会やシステムの導入を試みる

・皆さんの普段のこうした分野でのプラクティスや工夫・実践・経験についてお伺いしたい。

111219

【開催日】
2011年12月7日

韓国におけるプライマリ・ケア医の供給とポピュレーションヘルスのアウトカムの関係

【文献名】

Juhyun Lee, MD, MPH et al. The Association Between the Supply of Primary Care Physicians and Population Health Outcomes in Korea. Fam Med 2010;42(9):628-35.



【要約】

<Background and Objectives>

Several studies reported that primary care improves health outcomes for populations. The objective of this study was to examine the relationship between the supply of primary care physicians and population health outcomes in Korea. 



<Methods>

Data were extracted from the 2007 report of the Health Insurance Review, the 2005 report from the Korean National Statistical Office, and the 2008 Korean Community Health Survey. The dependent variables were age-adjusted all-cause and disease-specific mortality rates, and independent variables were the supply of primary care physicians, the ratio of primary care physicians to specialists, the number of beds, socioeconomic factors (unemployment rate, local tax, education), population (population size, proportion of the elderly over age 65), and health behaviors (smoking, exercise, using seat belts rates). We used multivariate linear regression as well as ANOVA and t tests. 


<Results>

A higher number of primary care physicians was associated with lower all-cause mortality, cancer mortality, and cardiovascular mortality. However, the ratio of primary care physicians to specialists was not related to all-cause mortality. In addition, the relationship between socioeconomic variables and mortality rates was similar in strength to the relationship between the supply of primary care physicians and mortality rates. Accident mortality, suicide mortality, infection mortality, and perinatal mortality were not related to the supply of primary care physicians.

<Conclusions>

The supply of primary care physicians is associated with improved health outcomes, especially in chronic diseases and cancer. However, other variables such as the socioeconomic factors and population factors seem to have a more significant influence on these outcomes.



【開催日】

2011年6月8日

電子カルテにおけるDMコントロールサポートシステムの効果

【文献名】
Patric J. O’Connor et al. Impact of Electronic Health Record Clinical Decision Support on Diabetes Care: A Randomised Trial, Annals of Family Mdedicine, Vol.9, Jan/Feb 2011

【要約】
<目的>
成人の糖尿病患者におけるHbA1c、血圧、LDLのコントロールにおいて、電子カルテによるDMサポートシステムの効果を調べた

<論文のPECO>
P 11のクリニックにおいて了承を得た41人のプライマリケア医がみている2556人のDM患者
E 診察時に電子カルテに基づいた臨床サポートシステムを利用する(HbA1C推移と治療オプションなど示したメモをカルテに挟む)と
C 同システムを使わないのに比べ
O HbA1c、血圧、LDLのレベルが改善されるか

<結果>
HbA1cレベルはコントロールと比較して‐0.26%, (95%[CI]-0.06% to -0.47%)改善された。収縮期血圧はよりよいメンテナンスの割合だった(80.2% vs 75.1%,P=.03)が、拡張期血圧のメンテナンスの割合は境界域(85.6% vs 81.7%, P=.07)で、LDLのレベルは差を認めなかった。介入群の医者の94%が満足し、中等度の割合で介入終了後1年後もこのサポートシステムを使用していた。

<限界点>
ベースラインのDMコントロールが比較的よいグループで、臨床的な改善は極めて緩やかだった。より少ないインセンティブによる代わりの研究が必要。この介入における効果のメカニズムをより詳細に解明する必要がある。
 
【考察とディスカッション】
ある意味でAuditの効果を測定している研究だと思うが、(多少は)介入の効果があるということが分かった。このような質改善につなげられることが電子カルテを導入することの利点の一つと感じた。
 
以下全体でのディスカッション
デンマークは7割のクリニックにおいてGP用に開発された単一の電子カルテを利用。国を挙げて電子カルテにアラーム機能を持たせている。
 
【開催日】
2011年4月27日

Journal Club 開設!

平成22年度が始まりました。

医療法人 北海道家庭医療学センターは今年で独立3年目。

組織も大きくなり、北海道内6カ所の診療所を運営することになりました。

後期研修を終え、各診療所を支えるスタッフ医師、フェロー医師も合計13名!

これまでは各診療所レベルで学び、家庭医としての診療のレベルアップを図ってきましたが、今年度からは学びを共有し、互いに深め合う場を設け、センター全体で診療のレベルアップをして行こう、ということになりました。


そこで新規に設置されたのが「組織学習委員会」です。

委員長は私山田(更別村国民健康保険診療所)。


長年勤めてきた後期研修プログラムの責任者を離任し、新たなチャレンジであります。

企画第一弾は「Journal Club」です。

13名のスタッフ医師、フェロー医師が持ち回りで家庭医療に関する新たな知見を紹介、議論していく企画です。
週1回、1時間で2例。

このブログで内容を紹介して参ります。