医師・患者関係の深さを測定するスケールの開発

【文献名】

Matthew J. RIdd et al. Patient-Doctor Depth-of-Relationship Scale: Development and Valication. Ann Fam Med 2011;9:538-545.

【この文献を選んだ背景】

 継続性とともに深まっていくのが患者と医師の関係性と言われている。John Saltz著「Textbook of Family Medicine」においても一人の医師による継続性(longitudinal continiuity)と患者-医師関係について述べられている。Annals of Family Medicineにおいてこの患者・医師の関係性の深さを測定するスケールが紹介されており、興味深かったため紹介したい。

【要約】

<目的>
 患者・医師間の継続性はその関係性よりもその時間の長さで計測されてきたため、同じ医師にかかりつづけることがよりよい患者のケアにつながるのかどうかを示すエビデンスは乏しかった。患者・医師間の継続性を関係性の視点で計測する既存の方法には限界があり、筆者らは患者・医師の関係性の深さを特異的に測定する患者自記式のスケールを新しく開発した。

<開発の方法>
 質問紙の草稿を患者と直接面談してテスト。その後2回のパイロットテストを実施した。最終稿を家庭医の通常外来を受診した患者に記入してもらい、さらに患者の一部には(test-retest reliabilityを高めるため)フォローアップで(同じ質問紙に)回答してもらった。
これらの結果からスケールの骨格、妥当性、信頼性を評価した。

<結果>
 草稿の表面的妥当性(※1)は11名の患者との直接面談によって確かめられた。
パイロットラウンド1(対象者375名)、2(対象者154名)におけるデータは質問紙表を改良・短縮化するために用いられた。最終稿は8つの質問項目からなる1つのスケールにまとまり(figure2 
)、良好な内的信頼性を示した(Cronbach’s α=0.93)。主要調査(対象者490名)では同じ医師にかかり続けることは患者・医師関係の深さと関連しするが、その関係性の深さは直線的ではないことが示された(figure4)。一部の患者で実施した(対象者154名)試験・再試験信頼度は良好であった。

<結論>
 Patient-doctor Depth-of-Relationship Scaleは新しい、概念的にしっかりした質問紙表であり、患者にとっても記入しやすく精神測定的にもしっかりしたスケールである。今後の研究がこのスケールの妥当性をさらに高め、患者・医師関係の深さが患者のケアの改善に関連するかどうかという問いに対する答えをもたらすであろう。

【考察とディスカッション】

 考察によると、これまでも患者・医師関係を測定しようとする試みはあったようだが、単発の外来を対象としていたり、関係の長さ(longitudinal)を対象としていたり、セッティングが2次医療機関であったり、と不十分なものであったという(John Saultz著 Textbook of Family Medicineに紹介されている測定ツールもlongitudinalなものを測定していた。)。こういったスケールが開発されたことにより、一人の医師による継続性(→関係性の深まり)が患者ケアの改善と関連するかどうか、グループ診療との比較はどうか?など興味深い問いへ答える研究が発表されるかもしれない。
 また、継続性の長さが医師-患者関係の深まりと相関するのであれば、一人の医師による継続性が患者中心の医療の技法におけるコンポーネント5(=患者-医師関係の強化)と統合された概念に発展していく可能性も考えられる。

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【開催日】

2012年12月28日

~ナラティブ・セラピーの紹介とillnessを聴く意味と深み~

【文献】
「ナラティヴ・セラピーの世界」 日本評論社1999年 第一版  小森康永ら編著

【要約】
≪概念≫
人間は解釈する生き物である。つまり、私たちは人生を生きるとき、自分たちの経験を積極的に解釈しているということである。明瞭な何らかの枠組みを頼ることなしには経験を解釈することはできない。
こ の枠組みを構成するのが、ストーリーである。そしてそのストーリーは「経験」「意味」「行為」というものが円環になった状態である。経験することで、その 意味付けがされ、それが行為へつながる、という一連の流れがストーリーである。認知療法との違いは、このストーリーが個人の中にあるもの(認知の歪みな ど)ではなく、家族をはじめとする様々な人々との相互作用によって絶えず構成されつつあるという考え方である。(ここにナラティブセラピーが家族療法を出 自とする由縁がある)そしてこのストーリーの書き換え(リ・ストーリング)が治療の内実となる。
≪背景≫
・社会構成主義的な主張「現実は社会的に構成される」という前提に立つ。我々の思いや他者との交流を通して現実を我々は経験する。
・日常生活は、何よりもまず言語による意味づけによって維持されている。会話の機構は現実を維持すると同時に、絶えずそれを修正する。また自分を語ることが自分を構成することであり、自分自身を経験することでもある。
・人間の病いは、基本的には意味をもつものであり、そしてすべての臨床的な実践は、本来的に解釈を伴ったものである。
≪ナラティブ・セラピーの姿勢≫
・ リフレイミング「ある具体的な状況に対する概念的および感情的な構えや見方を変化させることであり、それは同じ状況下の『事実』の意味を規定する古い枠組 みを代えて、それよりも良い、もしくは同等の他の枠組みを与えて全体の意味を変えてしまうこと」(責任はセラピスト)ではなくて…
リ・ストーリン グ「今まで認知されがたかった問題解決の具体例である『ユニークな結果』が明らかにされると、そのユニークな結果を説明させる質問、それに伴う人間関係を 再描写するように誘導する質問をして、新しいストーリーを築いていく方法」(すべての人が意味を作り上げることに協力する責任)
「リフレイミングとは対照的に、リ・ストーリングは過去と現在そして未来を抱合するより広い意味の文脈に適応される。」
・ 無知の知とは、セラピストの旺盛で純粋な好奇心がその振る舞いから伝わってくるような態度ないしスタンスのことである。話されたことについてセラピストが もっと深く知りたいという欲求をもつことが『無知』ということで、その欲求を相手に表すことが『無知の姿勢』となる。セラピストはクライエントによって常 に教えてもらう立場にあり、この『教えてもらう』立場こそ無知のアプローチを端的に表している。
・理解の途上でとどまり続けること:セラピスト自身の理解の範囲に限界があることを認識する。
・クライアントの語るローカルな言葉を使用する。
・無知の立場をとる場合、セラピスト自身がどのような「自己物語」を生きようとしているのか?という問いかけの深さが、対話する二人のコミュニケーションの相互作用に反映される。

≪実際の技法≫
・会話的質問「この病気にかかったと思ってどのくらいですか?」→「この病気にかかってどのくらいですか?」(その会話が広がるという焦点をもつ質問。相手のもつ現実に立った会話としてのやりとり)
・Bio‐Psycho‐Socialの各レベルで治療者と患者の間で視点が共有され、折り合いをつける。
・「老い=衰退である」「社会の抱く女性らしさ」などの神話に対して自己認識し、無知の知の姿勢で面接をする。

【開催日】
2010年9月29日

~Motivational Interviewing(動機づけ面接法)とは?(その2)~

【文献】
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 著 松島義博、後藤恵 訳
動機づけ面接法 基礎・実践編. 星和書店,2007.

【要約】
動機づけ面接法(Motivational Interviewing)の精神
もし動機づけ面接法が人とともに在る方法であるならば、その底に流れている精神は、人間の在り方を規定する人間性の本質を理解し、経験するところにある。人が面接の過程をどのように理解し考えるかは、面接の方法に大きな影響を与える。
(1) 協働性:動機づけ面接法の精神の、鍵となる構成要素の1つは、協働性である。動機づけ面接法は、勧告よりも探求を、説得や議論ではなく援助を提供する。動 機づけ面接法の人間関係は、希望や意志(これはたいていの場合、2人の間で異なる)の出会いであるともいえる。自分の意見や身に備わっているものに気がつ かないうちは、全貌の半分しか見えていないのである。
(2)喚起性:協働的な役割を維持するには、面接者が何かを与えるのではなく、当事者その人 の中に、知恵や洞察力、あるいは現実的経験を見出し、引き出すことが必要である。動機づけ面接法の過程は、教え込み・植えつけるのではなく、誘いだし・引 き出す。それは、個人の心の中にある「変化への動機」を見いだし、呼び覚まし、奮い立たせることである。
(3)自律性:問題行動を続けるか否か、 どういう行動を選択するかは、本来その人自身が責任をもって決めるべきことである。つまり動機づけ面接法は個人の自律性を尊重する。心の中にある動機を強 化し、外側から変化を強制するよりも、むしろ自分自身の目標と価値観に従って、内側から変わっていくように援助するのが、最終的な目標である。このよう に、動機づけ面接法が正しく行われると、カウンセラーではなく、クライアント自身が変化について話し始める。
4つの一般原理
(1) 共感を表現する:この共感の根底にある態度は、「受容」である。受容は同意や許可とは違う。個人の意見に同意や支持をせずに、その人を理解し受容すること は可能である。逆説的ではあるが、人をありのままに受容する態度は、その人を自由にして、変わる方向へ導く。一方、非受容的態度は、変化の過程で人を身動 きできなくさせる。行き詰った両価性の状態は、病的で有害な防衛ではなく、変化に当たって一般的な人間的経験とみなされる。

(2) 矛盾を拡大する:当然ながら動機づけ面接法の目的は、人をあるがままに受けいれて、そのままであり続けさせるものではない。動機づけ面接法は古典的なクラ イアント中心カウンセリングと違う方法をとり、両価性を解決するという目的をもって、指示的に行われる。全面的に探索的な、クライアント中心のカウンセリ ングは、人生の悩みなどを解決するなどの目的に用いられる。
そのための原理が、クライアントの観点から現在の行動と幅広い目標や価値観の矛盾を創 り出し、拡大することである。相談に来る人の多くは、すでに現在起きていることと、起きてほしいと望むことの間の、重要な矛盾について認識している。しか し彼らは同時に両価的状態にあり、接近‐回避葛藤にとらわれている。動機づけ面接法の目標は、矛盾を利用し拡大して現状維持の惰性に打ち勝つまで深化させ ることである。これは個人の内側で達成することが重要で、外側からの強制や動機に頼らず、その人自身の内側で矛盾を理解し、変化を選ぶことを追求する。そ のために、現在の行動が妨げている個人の目標や価値観を同定し、明確にすることが重要である。

(3)抵抗に巻き込まれ転がりながら進む:変化を引 き起こすという観点から見て、最も好ましからざる状況は、カウンセラーが変化の必要性を提唱し、クライアントがそれに反対して議論する場合である。直接的 な議論は、クライアントを「変化の反対の立場」に立たせて話をさせ、防衛的に議論させることによって、実際に「変化と反対の方向」に押しやる。(カウンセ ラーが正論を言うと、両価性の立場にあるクライアントはどちらの有用性も感じているため、正論と反対側の立ち位置にならざるをえない)
クライアン トが抵抗を示した時は、カウンセラーが戦略を変えるべき時を示す信号であると考え、思考の枠組みを少し変えたり、ひっくり返したりすることによって、変化 へのはずみをつけることができる。動機づけ面接法では、個人は十分な洞察力と問題解決能力をもった自律的な人間であると想定されているため、抵抗に巻き込 まれながら転がるように進むことで、クライアントを問題解決の過程に積極的に巻き込んでゆくのである。

(4)自己効力感を援助する:カウンセラーが上記の3つの原理に従って面接をすれば、人は自分が大きな問題を抱えていると認識するであろう。しかし、変化の可能性や希望がないと思えば、どのような努力もせず、カウンセラーの努力は無駄に終わるであろう。
カ ウンセラーの変化に対する期待は、治療の結果に強力な効果を及ぼし現実になる。つまりカウンセラーがクライアントの変化する能力を信じていると、予測が的 中して現実になるのである。動機づけ面接法の4つ目の目標は、障害を乗り越えて変化を成し遂げる能力に対する、クライアントの自信を深めることにある。自 己効力感は、変化に対する個人の責任のもう片方の側面である。

【開催日】
2010年9月22日(水)

~Motivational Interviewing(動機づけ面接法)とは?(その1)~

【文献】
動機づけ面接法 基礎・実践編
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 著   松島義博、後藤恵 訳

【要約】
なぜ人はかわるのだろう?
・  「動機づけ」への関心は、「なぜ人は変わらないのだろう」と考えるときに始まる。これは、健康管理に携わる人々、教師、カウンセラー、両親および福祉行 政や司法組織で働く人々に共通する疑問である。明らかに、していることがうまくいっていない、あるいは自己破壊的で、第三者の立場から見れば他により良い 方法があるにもかかわらず、なお当事者が同じ行動を繰り返している。このような嗜癖行動は、破壊的であると本人がわかっていても、あえて続けているのが特 徴である。罰を重くしてもそれを防ぐことはできない。人間は、必ずしも賢明で、常識的であるとは限らない。
・ しかし、人が変わることも少なくない。そのため創造的で魅力的な問いは「なぜ人は変わることができるのか?」である。時とともに人は、新しい生き方に順応していく。
・  なぜ人は変わるのであろうか?援助職に携わる人は、援助・カウンセリング・治療・助言や啓蒙活動の結果、人が変わると考えがちである。しかし、変化は自 然におこる。以下のような多くの推定への疑問やいくつかの嗜癖行動の研究などから、「動機」を人が変化する基礎と捉えることができる。
① 正式な介入(カウンセリングや治療)によって生じる変化は、特殊な変化の形式というよりは、むしろ自然の変化を反映している。それにもかかわらず、どの程度の変化が起こるかは、治療者との人間関係に非常に強く影響される。
② 比較的短時間(新しい対処技術を習得したり、性格の変化を経験するには短すぎる時間)のカウンセリングでさえ、変化が起こりうる。
③ 行動の変化は、治療の初期の段階で起こり、平均的には治療の時間や回数はあまり関係がない。
④ どの臨床家に治療を受けるかは、治療の中断・継続・持続および治療結果に対する、重要な決定因子である。
⑤ 特に共感的なカウンセリングは変化を促進し、共感性がなければ変化を妨害される。
⑥ 自分が変化できると信じる人は回復してゆく。カウンセラーが変化を信じていると、実際に回復する。改善の見込みがないと言われた人たちは回復率が低い。
⑦ 「変化を語る」言葉は重要である。変化への動機を反映した言葉や決意の表明は、その人の回復を予見させる。一方、変化に反対する言葉は回復に支障をきたす。どちらの言葉も人間関係(カウンセリング)に深く影響される。
・ 「変化の動機づけは、基本的に不快の回避による」と信じている人たちがいる。十分に深い間んを与えれば、人が変わるというのである。この見方によれば、人が変わらないのはまだ十分に苦しんでいないから、ということになる。
・  人の建設的な行動の変化は、その人の内的価値、重要なこと、大切にしているものに触れた時におこる。人はしばしば行き詰まるものであるが、それは必ずし も、自分の状況の不利な価値を認めないからではなく、むしろ2つの方向を感じている(両価的感情)からである。人が、その迷いの森から抜け出すには、その 人の経験とその人自身の立場から見て、本当に大切なことに従って、道を探さなくてはならない。

アンビバレンス(両価性)
・  両価性は一般的な人間的経験であり、変化の正常な過程の1段階である。この両価的葛藤を病的状態と誤って解釈し、その人の動機、判断力、知識、精神状態 に問題があると結論するのは、安易な方法である。なぜなら、その人を教育し、正しい行動をとるように説得するだけでよい、ということになるからである。実 際、人が変わっていく過程で、両価的状態を経験し行き詰まりの気持ちを経験するのは、普通のことである。
・ 両価性の中で身動きが取れないとき、 問題は持続し、重篤化する。人が変わるためには、この両価的葛藤を解決することが中心的課題であり、両価的状態を検討することは行き詰まりの核心に触れる ことである。これを解決するまでは、変化は遅々として進まず、たとえ変化しても長続きはしないであろう。
・ 「葛藤」は多くの心理学理論の重要な概念で、主に以下のように分類される。
① 「接近-接近葛藤」…同じくらい魅力的なものから1つだけを選ぶときに経験する葛藤
② 「回避-回避葛藤」…2つの嫌のことから1つを選ぶときに経験する葛藤
③ 「接近-回避葛藤」…この葛藤は人を身動きできない状態にさせる特別な性質をもち、強いストレスとなる。この状態では、人は1つの対象に引きつけられると同時に、抵抗感をもっている。(愛さずにいられない、でも愛したら生きてゆけない)
④  「二重接近-回避葛藤」…2つの対象のそれぞれに、心を奪われるほどの好意と同時に強烈な抵抗感を抱き、その間で引き裂かれる。対象Aに接近するとAの 短所が次第に見えてきて、逆に対象Bの長所がすばらしく思えてくる。そこで、方向転換して対象Bに接近し始めると、今度はBの欠点がはっきり見えてきて、 Aが魅力的に見えてくる。
・ 「接近-回避葛藤」を、自分ひとりの力で解決するのは至難の業であろう。人が変わるには、両価性の解決が鍵であり、 事実両価性が解決されれば、変化は容易に起こる。しかし、ある特定の解決法を強要する(直接的説得や、特定の行動に対して罰を与えるなど)と、逆説的反応 が引き起こされ、減らしたい行動をかえって増やすことさえある。

変化を促進する
・ 人間は「ものごとを正したい」という、本能的な願望をもっているようである。介護や医療、教育などの職業に携わっている我々は特に「ものごとを正したい」傾向が強く、この傾向が我々を自分の職業に引きつけたのかもしれない。
・  両価的状態にある人が両価性の板挟みにあるとき、「ものごとを正したい」反応をもっている人に一方の解決法を助言されると、自然に反対の立場を強く主張 する。そして自分の言葉を聞くことにより、さらに反対の行動が引き起こされてしまう。そのため両価的状態にある人に対しては「正したい」反応をなるべく控 えることが大切であることが分かる。これは氷の上で車を運転する場合に覚えなくてはならないことに似ている。 
・ 変化に対する「重要性の認識」 の根本には、矛盾がある。矛盾がなければ、動機も生じない。矛盾は、現在の状況と望んでいた状況の違いであり、現在起きていることとこうであってほしいと 希望していた目標との違いである。これは、2つの「認識」の違いと考えることもでき、この矛盾の度合いが大きければ、変化の重要性も大きくなる。
・  矛盾と両価性は、明らかに重なるところがある。矛盾がなければ両価性は生じない。そこである人たちにとって、変化への第一歩は「両価的状態になること」 である。矛盾が拡大すると、初めて両価性が強くなる。そこで矛盾が拡大し続ければ、変化の方向へと両価性が解決される可能性がある。このように理解すれ ば、現実には両価性は変化への障害物ではなく、むしろ変化を可能にするものである。
・ 抵抗や反発を招く言葉のやりとりがあるように、クライアン トが「変化を語り」初め、実際に変わっていくような対話もある。動機づけ面接法(Motivational Interviewing)とは、クライアント中心主義的であると同時に、両価性を探索し解決することによって、心の中にある「変化への動機」を拡大す る、指示的な方法である。
・ 動機づけ面接法は、ある状況で使えば効果があると立証されている。しかし今までの研究データでは、なぜ、どのように して、この方法が効果を現すのかという点は明らかにされていない。またこの方法は、すべての問題行動やカウンセリングに効果的な特効薬であるというわけで はない。他のカウンセリング技法とともに使える、1つの方法である。「この面接方法はどのような人たちには不向きか」という限界も明らかではないが、治療 を強いられ腹を立てている人には、動機づけ面接法が特に効果的で、治療初期で抵抗が少なく怒りのレベルが低い人には動機づけ面接法よりも認知行動療法など が効果的であると報告されている。
・ 基本的に動機づけ面接法は、変化を触発することを目的としている。ある人にとってはそれだけで十分である が、継続した援助が必要な場合には動機づけ面接法の後で、他の治療法を用いて治療を継続するのが自然である。しかし、驚くべきことに、後に続く治療法が動 機づけ面接法の原則と一致していなくても効果があると報告されている。したがって、最も効果的な統合的治療法は、初めの相談で動機づけ面接法を治療への導 入としてもちいることであろう。また、治療中に問題が生じた時などの「動機づけ」の課題が生じるたびに、背景にある動機づけ面接法を用いて新しい課題の解 決を図ると良い。

【開催日】
2010年8月4日(水)