更年期障害における血管運動症状に対してのSSRI vs SNRI

―文献名-
Laura Morton Newhouser. SSRIs vs. SNRIs for Vasomotor Symptoms of Menopause. Am Fam Physician. 2022 Apr 1; 105(4): 430-431.

―要約-
Q.
SSRIとSNRIは更年期の血管運動性障害の治療に有効か?
A.
SSRIとSNRIはどちらも更年期の血管運動症状を緩和するのに有効である。(推奨度A)
2つのクラスの薬物を直接比較した研究はない。SNRIはより多くの有害作用と関連している。SSRIはタモキシフェンの代謝を阻害する可能性があるため、乳がんの女性にはベンラファキシン(イフェクサー)が好まれる。

2015年のSRでは、27〜78歳の女性3490名を対象に、血管運動症状に対するSSRIとSNRIの有効性を評価した。(「ほてり」回数は0〜50回/週)活動性がん患者、ホルモン療法、抗うつ薬、精神作用のある薬剤を内服している人は除外されている。ベンファラキシンがSNRIの第一選択で、効果発現が最も早く、(1週間までに単独で41%減、プラセボに対して26%減、P<0.001) 吐き気、口渇、便秘などの副作用もより頻繁にみられた。SSRIのパロキセチン(パキシル)は、プラセボと比較した場合、ほてりを最も軽減した(10mgで40.6%、20mgで51.7%;それぞれP =0 .0006およびP = 0.002)。 2020年の4つのRCTの検討ではSNRIやSSRIを含む6つの介入が検討された。もっとも血管運動症状を改善したのはエストラジオールだったが、ついでSNRIであるベンファラキシンが効果をみとめた。 14回以上の血管運動症状/週を有する閉経前後女性1005人が対象。介入は、エスシタロラム(レクサプロ)10~20mg/日、ヨガ、有酸素運動、オメガ3脂肪酸1.8g/日、17-β-エストラジオール0.5mg/日、ベンラファキシンXR75mg/日、不眠症の認知行動療法(CBT-I)であった。アウトカム評価には、Menopause-related Quality of Life scale(MENQOL)およびそのサブスケールを用いた。結果としては、エストラジオール、エスシタロプラム、不眠症の認知行動療法、ヨガでベースラインからのMENQOL全体の有意な改善が認められた。もっとも効果が高かった(スケールの大きな改善がみられた)のはエストラジオールであった。結論としては、以上の結果より、更年期障害に関連したQOL改善のために、女性は自身の症状や好みに応じて様々な治療戦略から選択することができることを示唆するものであった。 (日本で使われているエスラジオールはエストラーナテープ0.72mgを2日ごと貼り替え)

北米更年期学会の2015年のエビデンスに基づくポジションペーパーでは、更年期の血管運動症状の治療について、いくつかの異なる非ホルモン療法の選択肢を検討した。学会は、SSRIとSNRIの両方が生理的更年期症状(加齢によるもの)および外科的更年期症状(外科手術後)を大幅に緩和すると結論づけた。SSRIではパロキセチン(パキシル:10〜25mg/日)、エスシタロプラム(レクサプロ:10〜20mg/日)、シタロプラム(セレクサ:10〜20mg/日)が最も症状を軽減し、SNRIではベンラファキシン(イフェクサー:37.5〜150mg/日)とデスベンラファキシン(プリスティック:100〜150mg/日)が有意に作用したと述べている。SSRIは初期の副作用(特に吐き気とめまい)が少ないが、タモキシフェンの代謝を損なうことが指摘された。このため、乳癌の既往がある女性にはベンラファキシンが好まれた。

【開催日】2022年12月14日(水)

1日1回降圧薬の朝投与と就寝前投与の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
―文献名―
Isla S Mackenzie, Amy Rogers, Neil R Poulter,et al.Cardiovascular outcomes in adults with hypertension with evening versus morning dosing of usual antihypertensives in the UK (TIME study): a prospective, randomised, open-label, blinded-endpoint clinical trial.Lancet.2022;400:1417-1425.

―要約-
【背景】降圧薬を夜に内服することは、朝に内服するよりも良好な転帰をもたらす可能性が研究で示唆されている。TIME(Treatment in Morning versus Evening)試験は、高血圧患者において、通常の降圧薬を夜に内服することが朝に内服することと比較して主要な心血管疾患の転帰を改善するかどうかの検討を目的とした。
【方法】TIME試験は英国で行われた前向き実用的分散型並行群間試験で、少なくとも1種類の降圧剤を服用している高血圧の成人(18歳以上)を対象に行われた。対象者は、制限、層別化、最小化なしに、通常のすべての降圧剤を朝(6:00~10:00)または夜(20:00~0:00)に服用するよう1:1で無作為に割り付けられた。複合主要評価項目は、血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中による入院とした。評価項目は参加者の報告またはNational Health Serviceのデータセットへの記録リンクによって同定され、治療割り付けを盲検化した委員会によって判定された。主要評価項目は、無作為に割り付けたすべての参加者からイベントが最初に発生するまでの時間として評価された。安全性は少なくとも1回の追跡調査票を提出したすべての参加者を対象に評価された。
【結果】2011年12月17日から2018年6月5日の間に、24,610人がスクリーニングされ、21,104人が夜間投与群(n=10 503)または朝方投与群(n=10601)にランダムに割り付けられた。試験参加時の平均年齢は65.1歳(SD 9.3)、参加者は男性12,136人(57.5%)、女性8,968人(42.5%)、白人19,101人(90.5%)、黒人/アフリカ系/カリブ系/ブラックブリティッシュ98人(0.5%)(1,637人(7.8%)からの民族の報告なし)、そして2,725人(13.0%)に心疾患の既往がありました。試験終了時(2021年3月31日)の追跡期間中央値は5.2年(IQR 4.9~5.7)であり、夜治療に割り付けられた10,503人中529人(5.0%)、朝治療に割り付けられた10,601人中318人(3,0%)がすべての追跡調査から除外された。主要評価項目であるイベントは、夜間投与群362名(3.4%)、朝方投与群390名(3.7%)で発生した(100患者年当たり0.72イベント[95%CI 0.65-0.79]、未調整ハザード比0.95[95%CI 0.83~1.10];p=0.53 )。安全性に関する懸念は確認されなかった。
【解釈】降圧薬を夜に投与することは、朝投与と比べて、主要な心血管アウトカムに関して差がなかった。患者に適切な降圧薬を選択し、好ましくない作用を最小限に抑えた都合のよい時間に服用できるようアドバイスできます。
【discussion】すべての参加者は、割り当てられた投与時間を認識しており、このことが行動や報告に影響を与えた可能性がある。さらに、参加者が報告した有害事象は不完全であり、想起バイアスや報告バイアスの影響を受ける可能性がある。また夜間投与群では朝投与群に比べてアンケート調査からの離脱率が高かったため、群間比較において実際の有害事象発生率が過小評価された可能性があります。したがって、これらの自己報告による有害事象のデータは慎重に解釈されるべきであると考えます。そして高齢者、高血圧の家族歴がある人、高血圧治療薬の服用数が多い人、社会的剥奪度が低い人ほど家庭血圧測定に参加しやすく、一方、BMIが高い人および喫煙者は家庭血圧測定に参加しにくい傾向があることが示された。したがって家庭血圧のデータは、TIME試験の無作為化集団を必ずしも完全に代表しているわけではありません。TIME試験は、夜間高血圧やその他の日内血圧変動障害に関する試験ではなく、これらの集団における投与時間について助言するためには、さらなる研究が必要である。

【開催日】2022年12月7日(水)

COVID迅速検査の陽性・陰性による、有症状から3ヶ月後に患者が報告した健康状態の比較

―文献名―
Association of Initial SARS-CoV-2 Test Positivity With Patient-Reported Well-being 3 Months After a Symptomatic Illness. JAMA Netw Open. 2022;5(12):e2244486.

―要約―
重要性
SARS-CoV-2感染後の長期的な後遺症は「より良い健康状態」に影響を与える可能性があるが、これまでにそんざいしている調査データは主に個々に分離した症状や医療利用についてのみである。

目的
SARS-CoV-2感染症検査で陽性もしくは陰性と判定された有症状成人の身体的、精神的、および社会的な健康状態に関する患者報告アウトカム(PRO)を比較すること。

デザイン、環境、参加者
本コホート研究は、進行中の多施設共同前向き縦断レジストリ研究(The Innovative Support for Patients With SARS-CoV-2 Infections Registry[INSPIRE])の中間解析として計画されたものである。
参加者は2020年12月11日から2021年9月10日まで登録され、FDA承認のSARS-CoV-2検査を受けた時点でSARS-CoV-2感染を示唆する急性症状を有する成人(18歳以上)の構成されている。
解析には、29項目のPatient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS-29;身体機能、不安、うつ、疲労、社会参加、睡眠障害、疼痛干渉など7つの下位尺度)およびPROMIS Short Form-Cognitive Function 8a尺度による質問からなるベースライン調査、および3ヵ月後の調査を完了した最初の1000人を含んだものである。

観察研究における暴露
登録時のSARS-CoV-2の状態(検査結果が陽性または陰性)

主要評価項目と測定法
COVID-19検査が陽性の被験者と陰性の被験者のPROMISスコアの平均値を、記述的および多変量回帰分析で比較した。
結果
1000人の参加者のうち、998人中406人(40.7%)が18~34歳、972人中644人(66.3%)が女性、984人中833人(84.7%)が非ヒスパニック、974人中685人(70.3%)が白人であった。

陽性群では712人中282人(39.6%)が,陰性群では275人中147人(53.5%)が,3か月後のフォローアップ時に身体的,精神的,社会的な健康状態のいずれかが持続的に悪いと報告した.

調整後,健康状態の改善については,社会参加に関してのみ,陽性群 vs陰性群で統計的・臨床的に大きかった(β = 3.32,95% CI,1.84-4.80,P < 0.001);他の健康状態の領域の変化は群間差はなかった. 陽性群における健康状態の改善は、18~34歳の参加者(例:社会参加:β=3.90、95%CI、1.75~6.05、P<0.001)および外来でCOVID-19検査を受けている参加者(例:社会参加:β=4.16、95%CI、2.12~6.20、P<0.001)に多くみられた。

結論・関連性
この研究では、COVID-19の陽性群と陰性群の参加者は、3ヵ月後のフォローアップで、身体的、精神的、または社会的な健康状態が持続的に不良であると報告した。臨床的に意味のある改善が見られる人もいたが、多くの人は3ヵ月後に中程度から重度の健康障害を報告した。これらの結果は、COVID-19の後遺症を検討する際に、COVID-19陰性者の対照群を含めて比較することの重要性を強調するものである。

www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し,つつ加筆修正しました。

【開催日】2022年12月7日(水)

EFの保たれた心不全患者(HFpEF)に対するSGLT2阻害薬の効果

―文献名―
Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction Stefan D. Anker N Engl J Med 2021; 385:1451-1461

―要約―
【背景】
SGLT2阻害剤は、駆出率低下を伴う患者の心不全による入院のリスクを低下させるが、心不全と駆出率の保持を伴う患者への影響は不明である。
【方法】
この二重盲検試験では、NYHAクラス II ~ IV のEF40% を超える心不全患者 5,988 人を、通常の治療に加えてエンパグリフロジン (商品名ジャディアンス1 日1 回 10 mg) またはプラセボに無作為に割り付けた。主要アウトカムは、心血管死または心不全による入院の複合アウトカムである。
【結果】figure1,figure3,table2
中央値 26.2 ヶ月で、エンパグリフロジン群の患者 2997 人中 415 人 (13.8%)、プラセボ群の患者 2991 人中 511 人 (17.1%) で主要転帰イベントが発生した (ハザード比 0.79:95% 信頼区間 0.69 ~ 0.90:P < 0.001)。この効果は主に、エンパグリフロジン群の心不全による入院リスク低下に関連していた。エンパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無にかかわらず患者で一貫しているように見えた。心不全による入院総数は、プラセボ群よりもエンパグリフロジン群の方が少なかった (エンパグリフロジンで 407 人、プラセボで 541 人; ハザード比 0.73:95% 信頼区間 0.61 ~ 0.88: P<0.001)。合併症のない生殖器および尿路感染症と低血圧が、エンパグリフロジンでより頻繁に報告された。 【結論】 エンパグリフロジンは、糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が保持されている心不全患者の心血管死または心不全による入院リスクを低下させた。 【limitation】 ・心血管死亡や全死亡には有意差がない ・以前のARNIのHFpEF患者に対する試験(患者集団・観察期間が同等)でも心血管死と心不全入院の結果に差がある ・死亡以外の中断例が全体の23%あり、有意差をなくしている可能性がある

【開催日】2022年11月9日(水)

プライマリ・ケア医のためのLONG COVID -最新情報

―文献名―
Greenhalgh T, Sivan M, Delaney B, Evans R, Milne R. Long covid-an update for primary care. BMJ. 2022;378:e072117.

―要約―
<知っておきたいこと>
 “Long COVID”は一般的である。
 マネジメントの中心は、支持的で全人的なケア、症状のコントロール、治療可能な合併症の発見である。
 多くの患者はGPによって効果的に診療、支援され得る。

<定義>
「Long COVID(以下、LC)」: SARS-CoV-2感染後、他の診断では説明のつかない症状が長引くことを指す
注:これは患者グループ(https://www.longcovid.org/)によって作成された病名で、機関によって定義が異なる。
米国国立医療技術評価機構(NICE) >
“ongoing symptomatic covid-19”(4-12週続く症状)&“post covid-19 syndrome” (12週以降の症状)
米国疾病管理予防センター(CDC) > “post-covid conditions”(感染から4週間を超えて続く症状)
WHO >“post covid-19 condition” (感染から3ヶ月以上経過し、少なくとも2ヶ月続く)
厚生労働省 >「COVID-19罹患後症状(いわゆる後遺症あるいは遷延症状)」
本稿ではこれらを包括して記載している。

<疫学>
2022年半ばには、英国の成人人口(15 歳以上5,400万人. 2021年)の約70%(草島訂正:感染者2390万人なので45%)がSARS-CoV-2に感染した。約200万人が4週間以上症状あり、81万人(LC患者全体の41%)が1年以上、40万人(19%)が2年以上症状あり。3回以上のワクチン接種者ではLCの割合は低くなるが、有病率は、デルタ変異型で5%、オムロンBAで4.2%と高い。

<症状>
複数の症状(Table1)は、労作後倦怠感(PEM)または労作後症状増悪(PESE)は日常生活動作困難、運動耐容能低下、労働能力低下につながり、生活の質を低下させる。最も一般的な症状は、患者の表現によれば「今までで一番ひどい時差ぼけと二日酔いのような」倦怠感である。

<患者から聞かれやすい質問>
Q:「LCの原因は?」 
A:明確な理由は不明。重症患者に多く見られるが、軽症やや無症状でも発症する。リスク因子は、入院歴、35-69歳、女性、貧困地域に居住、医療・福祉・教育機関に勤務、肥満、既往症を2つ以上持つこと。

Q:「プライマリ・ケアチームは、何をしてくれるのですか?」
A:「不確実性が高く、決定的治療法はないが、GPは次の理由から効果的な支援を行うことができる。包括的で全人的医療を継続的に提供できる。併存疾患の管理を行うことができる。社会的な支援サービスへ繋げることができる(協働)。メンタルヘルスケアを提供できる。疾病診断書の記載や職場への情報提供ができる。」

Q:「良くなっているかはどうすればわかりますか?」 
A:「最良の方法は、患者が良くなったと感じるかどうか」

Q:「いつになったら治りますか?」 
A:「回復過程は多様、予測は困難。4週間を超えて症状のある者の2/3は、12週までには回復することが予想される。」

Q:「専門医に診てもらう必要があるのでしょうか?」 
A:「ほとんどの患者はプライマリ・ケアで効果的に対応できるが、レッドフラッグ(心疾患、中枢神経、自殺の恐れ)の際は緊急紹介が必要。」

Q:「治らなかったら、どうしよう?」 
A:「ほとんどの患者はゆっくりであるが、回復する。リハビリテーション、作業療法、心理的サポートが提供されている。今後、DMや心不全のような慢性疾患のケアモデルも必要かもしれない。」

【開催日】2022年11月9日(水)

高齢者へのベンゾジアゼピン処方を減らす方法

―文献名-
Donovan T.Maust, Linda Takamine et al. Strategies Associated With Reducing Benzodiazepine Prescribing to Older Adults: A Mixed Methods Study. Ann Fam Med. 2022;20:328-335.

―要約-
【イントロダクションと研究の目的】
高齢者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)の安全性の問題は30年以上も前から知られている。 BZD処方を減らす様々な介入が行われてきたが、米国におけるBZDの使用量は横ばいが続いているが、米国のある退役軍人(VA)の団体の高齢者ではBZDの処方を2013年から2017年にかけて約1/2にまで減らしたという成功事例もある。この期間はVAPDSIという向精神薬の安全性と効果に関するQI活動が行われていた。その活動のフェーズ2(2015-2017)では1/3の医療機関が特に高齢者のBZD処方を減らすことを優先して取り組んだ。
この研究ではVAの医療機関内で適用された現実世界におけるBZD処方を減らす取り組みを調べるためにデザインされた。 第一に量的手法を用いてBZD処方減少というアウトカムにより各医療機関の順位付けを行った。BZD処方減に優先的に取り組む医療機関(priority facilities)がよりBZD処方の減少幅が大きいという仮説を立てた。 第二に量的研究の結果にある背景を知るために質的手法を用い、各医療機関で行われた具体的なBZD処方を減らすための方法を探った。

【方法】
量的手法の部
Veterans Health Administration Corporate Data Warehouseというデータベースを用いてVAPDSIのフェーズ2の期間BZDの長期使用者のコホートを作成した。各医療機関のBZD処方を患者1人、1日当たりのロラゼパム量に換算し経時的に計測。医療機関をBZD処方減に優先的に取り組むpriority facilitiesとnonpriority facilitiesに分類し後ほど結果の項で示すようなグラフに表した。
質的手法の部
量的手法の部で高い結果を得た医療機関(high-performing facilities)と低い結果にとどまった施設(low-performing facilities)複数をインタビュー調査の対象とした。医療機関選定には多様性を持たせるため施設規模や地理的な位置も考慮した。当初はpriority facilities から6施設、nonpriority facilitiesから6施設選定する意図があったが、その仮説に反して複数のnonpriority facilitiesが高順位を獲得しており、5施設加えてインタビューを行う事とした。各医療機関のPDSIの代表者に電話での半構造化インタビューを行い、BZD減量のためにどのような方法をとりそれはなぜ採用されたのか、障壁は何だったのかなどの情報をちょうしゅした.

【結果】
Table1:   患者の情報。
Table2:   全体の結果。
Figure1A: 医療機関毎のBZD処方の減少幅と順位をグラフ化したもの。
(Priority facility のみならず nonpriority facilityも上位にたくさん並んでいることが注目点)
Figure1B: インタビュー調査に選定された施設のみを表示したもの。
Table3:   インタビュー調査に選定された施設における取り組み。質的手法の部においてBZD処方減に積極的
に取り組んでいるかどうか、ではなく減量のためにどのような手法を選択しているのかで
high-performing facilitiesとなるかlow-performing facilitiesとなるかが分かれることが
示された。本研究ではそれを受動的手法(Passive Strategies)と能動的手法
(Active Strategies)とに分けた。

【ディスカッション】
本研究の限界
・ RCTではないため、特定の手法を用いることが医療機関の成果に帰する、という述べ方はできない。
・ 量的手法の部では地域の現場で観察されたBZDを計測したわけではないため、真に患者のBZD暴露が減ったかどうかを反映していない可能性がある。
・ 長期間のケアにおけるBZD処方を考慮していない。
・ 各医療機関のPDSI代表者にインタビューしたため、最前線の現場のスタッフが経験している手法を完全II反映していない可能性がある。
・ 退役軍人という集団で行った研究であり、この結果が非退役軍人のヘルスシステムや若い患者にまで一般化できるかは不明である。

【開催日】2022年11月2日(水)

人工甘味料と心血管疾患のリスク

-文献名-
Charlotte Debras, 2 Eloi Chazelas, Laury Sellem. Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Santé cohort. BMJ 2022; 378: e071204

-要約-
Introduction:
 WHOは、1日のエネルギー摂取量のうち遊離糖(単糖類および二糖類)の割合を5%未満にすることを推奨している。添加糖の代替として登場した人工甘味料は、砂糖を使わなくても甘みを再現できるため、遊離糖のカロリーを抑え、消費者に高く評価された。各人工甘味料の許容可能な1日接種量は、欧州食品安全機関(EFSA)、米国食品医薬品局(FDA)、または食品添加物に関する合同専門家委員会によって設定されている。それにも関わらず、それらは依然として論争の的となっており、現在EFSAやWHOを含むいくつかの保健当局による再評価を受けている。
 これまでの研究では、人工甘味料を含む飲料の摂取と心血管リスク増加の影響が示唆されたが、これらの関連性に関するエビデンスのレベルはWHOによって低いと見なされている。さらに、人工甘味料入り飲料は人工甘味料の総摂取量の一部に過ぎないため、因果関係研究ではすべての食事源を考察することが重要である。
 本研究の目的は、定量データを使用して大規模な前向き研究を実施し、すべての食事源からの人工甘味料の全体的な関連性を調査することとした。

Method:
 参加者は、ウェブベースのNutriNet-Santéコホートの103,388人の参加者(平均年齢 42.2±14.4、女性 79.8%、904,206 人年)。人工甘味料の食事摂取量と消費量は、工業製品のブランド名を含む 24 時間の繰り返しの食事記録によって評価された。
 主な結果は、甘味料 (連続変数としてコード化され、log10 変換) と心血管疾患リスクとの関連性を測定し、多変数調整 Cox ハザード モデルによって評価された。

Results:
 人工甘味料の総摂取量は心血管疾患のリスク増加と関連していた (1502 件、ハザード比 1.09、95% 信頼区間 1.01 ~ 1.18、P = 0.03)。高消費者(性別の中央値を超える)と非消費者の絶対発生率は、それぞれ10万人年あたり346と314だった。人工甘味料は、脳血管疾患のリスクと特に関連していた (777 イベント、1.18、1.06 ~ 1.31、P = 0.002; 発生率は、高所得者および非消費者でそれぞれ 10 万人年あたり 195 および 150)。アスパルテームの摂取は、脳血管イベントのリスク増加と関連していた (1.17、1.03 から 1.33、P=0.02; 高値者および非消費者における発生率は、それぞれ 100,000 人年当たり 186 および 151)。

Discussion:
 NutriNet-Santé コホートでは、人工甘味料の総摂取量は、全体的な CVD および脳血管疾患のリスク増加と関連していた。アスパルテームの摂取は脳血管イベントのリスク増加と関連し、アセスルファムカリウムとスクラロースは冠状動脈性心疾患のリスク増加と関連していた。この結果は、追加の砂糖を人工甘味料に置き換えても CVD の結果に利益がないことを示唆している。
 この研究は、大規模なサンプルサイズ (n=103,388) に基づいており、すべての食事源からの人工甘味料の摂取と CVD リスクとの関連性を前向きに調査した。食事摂取量を完全に測定する方法はないため、分類バイアスを排除することはできない。ただし、この研究で行われた人工甘味料消費量の評価は、大規模な集団ベースのコホートにおける個人レベルでの包括的な評価だった。NutriNet-Santé 研究は、正確で質の高い食事データを備えた疫学コホートである。食事の記録は、訓練を受けた栄養士とのインタビューによって以前に検証されており33、エネルギーと栄養素の摂取量に関する血液と尿のバイオマーカーに対して検証されている。世界中の疫学研究では、一般的に食事頻度アンケート(24 時間繰り返した食事記録よりも精度が低いことが知られている)、またはベースラインでの限られた数の記録またはリコールを使用している。

【開催日】2022年10月12日(水)

生活習慣と非認知症余命の関係

-文献名-
Klodian Dhana, et al. Healthy lifestyle and life expectancy with and without Alzheimer’s dementia: population based cohort study. BMJ. 2022; 377:e068390. (doi: 10.1136/bmj-2021-068390)

-要約-
Introduction:
 近年、生活習慣の改善によるアルツハイマー型認知症(AD )の予防が注目されているが、これは生活習慣が認知機能の低下を遅らせ、ADのリスクを低減する可能性があるデータが増えてきたことに起因する
 しかし、良い生活習慣は認知症リスクの低減だけでなく寿命の延長にもつながり、寿命が延びれば高齢者が増える。認知症のリスクは年齢が上がるにつれて指数関数的に増加する
 ライフスタイルへの介入によって、ADを遅らせることは可能かもしれないが、全体の有病率や認知症とともに生きる年数は変わらないか、むしろ増えるかもしれない
 そうであれば、医療専門家、政策立案者等は将来の医療費とニーズを十分に計画する必要がある

Method
<研究デザイン、セッティング、ポピュレーション>
 本研究は、一般集団におけるアルツハイマー型認知症の危険因子を評価するためにデザインされた前向き集団ベースコホート研 究 で あるChicago Health and Aging Project(CHAP)内で行われた
– 1993年から2012年の間に、シカゴ南部に住む65歳以上全員が対象になり、全対象者の約78.7%の6,157名がenrollされ、2000年にsuccessive cohortsで4,645名が追加。Totalで10,802名がenrollされた
 認知機能評価は3年毎に最大6回実施され、AD freeはin homeインタビューと臨床評価の結果認定された
 今回の解析では2,110名のAD freeと339名のAD患者のtotal 2449名が対象となった。

<生活習慣因子のアセスメント>
 5つの生活習慣因子(①食事(Mediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay[MIND]食事スコア)、②認知的活動、③中~強度の身体活動、④禁煙、⑤中程度以下の飲酒)について、有する場合は1点, 有しない場合は0点でtotal 5点でスコアリング
– ①食事は、MIND score 上位40%(概ねMIND score >7.5)を1点とした
– ②認知活動は、過去~現在の読書、美術館訪問、カードゲーム、ボードゲーム(checkers)、クロスワード、パズルからなるcognitive activity scoreに基づいて、上位40%以上を1点とした
– ③身体活動はウォーキング、ガーデニング、体操、自転車、水泳である。週150分以上で1点
– ④喫煙については、今吸っていなければ1点
– ⑤飲酒は、男性は30g /日以下、女性は15g /日以下で1点(缶ビールなら2本or 1本)

<統計学的分析>
 Multistate life tableを用いた分析を行った
– AD free→AD、AD free→death、AD→deathの3つのそれぞれのtransitionパターンについて、生活習慣毎の男女別ハザード比を生存分析で分析
– 回帰モデルは年齢、人種、配偶者の有無、教育、APOE ε4変異の有無、併存疾患で調整
– 全人口に対する生命表と 、健康的な生活習慣因子の数(0~1、2~3、4~5点)ごとに3つの生命表を作成

<アルツハイマー型認知症の診断>
 Cognitive performance testの 2つ以上の機能の障害と、神経科医が判断する認知機能の低下がADの診断に必要とした
 AD診断は、NINCDS(National institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)およびADRDA(the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)のprobable Alzheimer’s diseaseの基準により判定


 アルツハイマー型認知症がある場合とない 場合の女性および男性の平均余命

(Martha C.M. et al., Alzheimers Dement. 2015 Sep; 11(9): 1015–1022. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011)

Result

Discussion
 本研究は、生活習慣因子の余命だけでなく非認知症余命に与える影響を考慮するための定量的データを供給するという意味で価値がある
 既存研究で教育レベルの高い人の非認知症余命が長いというstudyもあるが、今回は教育レベルで調整を行った上で、生活習慣等のリスクファクターの非認知症余命への影響に言及した論文であることも特徴
 Limitationとしては、①生活習慣因子の評価がbaselineしかできておらず、フォローアップ中には行われていないため、生活習慣のその後の変化や、認知症による生活習慣の変化を捉えられていない、②不健康な人はstudyに参加しなかったり参加までに死亡している頻度が多いと考えられ、不健康な生活習慣をもつ人々のpopulationを過小評価している可能性、③生活習慣の評価は自己申告制であること、等がある

【開催日】2022年10月12日(水)

有痛性の糖尿病性神経障害に対する併用薬物療法

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です
-文献名-
・Tesfaye S, Sloan G, Petrie J, et al.
“Comparison of amitriptyline supplemented with pregabalin, pregabalin supplemented with amitriptyline, and duloxetine supplemented with pregabalin for the treatment of diabetic peripheral neuropathic pain (OPTION-DM): a multicentre, double-blind, randomised crossover trial”
・Lancet. 2022;400(10353):680. Epub 2022 Aug 22.

-要約-
Background:
糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、よく見られる症状で、しばしば強い苦痛を伴う。ほとんどのガイドラインで、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが、DPNPの鎮痛治療の第一選択薬として推奨されているが、どれが最良かとか、併用すべきかに関する比較試験のエビデンスはほとんどない。そこで、DPNP の治療のための第一選択薬のさまざまな組み合わせの有効性と忍容性を評価することを目的とした。

Method:
OPTION-DM は、英国の 13 のセンターの多施設無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、1日平均疼痛数値評価尺度 (NRS) が 4 以上 (尺度は 0 ~ 10) の DPNP 患者を対象としたものである。参加者はランダムに割り当てられ (1:1:1:1:1:1)、 6 または 12人 の順列ブロックを使用して、サイトごとに階層化された所定のランダム化スケジュールで、3 つの治療経路の6つの順序付けられたシーケンスのうちの1つを受けるように割り当てられた: つまり、アミトリプチリンにプレガバリンを追加(A-P)、プレガバリンにアミトリプチリンを追加(P-A)、デュロキセチンにプレガバリンを追加(D-P)にいずれかで、各経路は 16 週間継続した。単剤療法は 6 週間行われ、現在の臨床実践を反映して、鎮痛が十分でない場合 (NRS > 3)には、併用療法が追加されました。いずれの治療も、最大耐用量 (アミトリプチリンは75 mg/day、デュロキセチンは120 mg/day、プレガバリンは600 mg/day)まで漸増して調整された。primary outcomeは、各経路の最終週における 7 日間での1日あたりの平均の痛みの差とした。この試験は、ISRCTN、ISRCTN17545443 に登録されている。

Results:
2017 年 11 月 14 日から 2019 年 7 月 29 日までの間に、252 人の患者がスクリーニングされ、140 人の患者が無作為に割り当てられ、130 人が治療経路を開始し (84 人が少なくとも 2 つの経路を完了)、primary outcomeについて分析された。 16 週目の 7 日間平均 NRS スコアは、3 つの経路すべてにおいて、ベースラインの平均 6.6 (SD 1.5) から 16 週目の 3.3 (SD 1.8) に減少した。 平均の差は、D-P 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、P-A 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、0. P-A 対 D-P では 0 (98.3%信頼区間 –0.4 ~ 0.4) であるため、有意な差はなかった。 併用療法を受けた患者の平均 NRS 減少は、単剤療法を続けた患者よりも大きかった (1.0 [SD 1.3] vs 0.2 [1.5])。 有害事象は単剤療法では予測可能だった。P-A 経路ではめまい、D-P 経路では吐き気、A-P 経路では口渇の有意な増加が観察された。
Background:
糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、よく見られる症状で、しばしば強い苦痛を伴う。ほとんどのガイドラインで、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが、DPNPの鎮痛治療の第一選択薬として推奨されているが、どれが最良かとか、併用すべきかに関する比較試験のエビデンスはほとんどない。そこで、DPNP の治療のための第一選択薬のさまざまな組み合わせの有効性と忍容性を評価することを目的とした。

Method:
OPTION-DM は、英国の 13 のセンターの多施設無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、1日平均疼痛数値評価尺度 (NRS) が 4 以上 (尺度は 0 ~ 10) の DPNP 患者を対象としたものである。参加者はランダムに割り当てられ (1:1:1:1:1:1)、 6 または 12人 の順列ブロックを使用して、サイトごとに階層化された所定のランダム化スケジュールで、3 つの治療経路の6つの順序付けられたシーケンスのうちの1つを受けるように割り当てられた: つまり、アミトリプチリンにプレガバリンを追加(A-P)、プレガバリンにアミトリプチリンを追加(P-A)、デュロキセチンにプレガバリンを追加(D-P)にいずれかで、各経路は 16 週間継続した。単剤療法は 6 週間行われ、現在の臨床実践を反映して、鎮痛が十分でない場合 (NRS > 3)には、併用療法が追加されました。いずれの治療も、最大耐用量 (アミトリプチリンは75 mg/day、デュロキセチンは120 mg/day、プレガバリンは600 mg/day)まで漸増して調整された。primary outcomeは、各経路の最終週における 7 日間での1日あたりの平均の痛みの差とした。この試験は、ISRCTN、ISRCTN17545443 に登録されている。

Results:
2017 年 11 月 14 日から 2019 年 7 月 29 日までの間に、252 人の患者がスクリーニングされ、140 人の患者が無作為に割り当てられ、130 人が治療経路を開始し (84 人が少なくとも 2 つの経路を完了)、primary outcomeについて分析された。 16 週目の 7 日間平均 NRS スコアは、3 つの経路すべてにおいて、ベースラインの平均 6.6 (SD 1.5) から 16 週目の 3.3 (SD 1.8) に減少した。 平均の差は、D-P 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、P-A 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、0. P-A 対 D-P では 0 (98.3%信頼区間 –0.4 ~ 0.4) であるため、有意な差はなかった。 併用療法を受けた患者の平均 NRS 減少は、単剤療法を続けた患者よりも大きかった (1.0 [SD 1.3] vs 0.2 [1.5])。 有害事象は単剤療法では予測可能だった。P-A 経路ではめまい、D-P 経路では吐き気、A-P 経路では口渇の有意な増加が観察された。

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
私たちの知る限り、これはこれまでで最大かつ最長の直接対決のクロスオーバー試験である。3つの治療経路と単剤療法のすべてが同様の鎮痛効果を持つことを示した。併用療法は忍容性が高く、単剤療法では疼痛管理が不十分な患者の疼痛が改善された。
 OPTION-DM は単剤療法と併用療法の比較として設計されたわけではないが、このデータは、DPNP 患者に対する第一選択薬の併用療法を推奨する説得力のある事例を示している。P-A 経路は TEAE による中断が最も少なく、これらの結果は決定的なものではないが、DPNP の第一選択治療として P-A 経路が最良の選択である可能性があることを示唆している。
 この試験では、プラセボ群が存在しないことが制限と見なされる場合がある。しかし、これらの薬は世界中で一般的に使用されており、現在、無作為化プラセボ対照試験から得られた有効性に関する多数の証拠に基づいて、National Institute for Health and Care Excellence などの規制および諮問機関によって承認されている。さらに、プラセボ群を追加すると、このすでに長く厳しい試験の期間が長くなり、患者および市民参加パネルとの協議の後、倫理的に正当ではないと感じた。実際、プラセボ群を含まない別のクロスオーバー併用試験では、単剤療法と併用療法の両方でNRSの痛みが同程度に減少することが示された。
 もう1つの制限は、3つの経路すべての主要な結果データを提供する患者は59%に過ぎず、少なくとも2つの経路を完了する患者は64%と、比較的drop-outが多いことである。この主な理由は、長い研究期間 (51 週間) であり、患者の時間に対するかなりの要求 (例えば、年次休暇の延期など) であった。それにもかかわらず、欠損データ (理由による欠損を含む) の影響に関する感度分析は、これがバイアスを引き起こすのではなく、主に差の精度に影響を与えたことを示唆している。さらに、治療経路間のウォッシュアウト期間を長くすること (例えば 2 週間) が望ましいと思われたが、この長くて要求の多い試験ではこれは非倫理的であり、害やさらに大きな研究の中止につながる可能性があると感じた。最後に、この研究は、キャリーオーバー効果を検出する統計的な検出力を備えていませんでしたが、16 週間という長い治療期間の終了時に、これが主要な結果に影響を与えた可能性は低い。

選んだ論文が研究論文ではない場合、introduction、discussionに準じた内容を含めるようにしてください。

【開催日】2022年10月5日(水)

「最善を望み、最悪に備える」予後に関するコミュニケーションに対するがん患者さんの希望

-文献名-
Masanori Mori, et al. Adding a Wider Range and “Hope for the Best, and Prepare for the Worst” Statement: Preferences of Patients with Cancer for Prognostic Communication. Oncologist. 2019 Sep;24(9):e943-e952. doi: 10.1634/theoncologist.2018-0643. Epub 2019 Feb 19.

-要約-
【背景】
進行がん患者と予後について話し合うことは、臨床医にとって最も重要な会話の一つである [1] 。がん患者の大多数は、予後に関する情報の提供を望んでいる [2] 。予後について誠実に話し合うことで、患者は自分の病気について正確に理解し、現実的な予後の認識を持つことができ、患者とその家族が十分な情報を得た上で決断することができるようになる [3-6] 。いくつかのガイドラインでは、進行がん患者とのコミュニケーションについて早期に誠実な話し合いを行うことが推奨されている [1、7、8]。しかし、臨床医は過度の楽観的な情報を伝えたり、進行がん患者と予後について決して話し合わない傾向がある [9, 10] 。効果的なコミュニケーションに対する複数の障壁の中には、医師が繊細なコミュニケーションを苦手とすることや、異なる対処スタイルを持つ患者の好みが異なる可能性があることが挙げられる [9-11]。したがって、予後に関する議論における様々なフレーズに対するがん患者の嗜好とその要因を系統的に理解することは、腫瘍医が予後を伝える際に安心感を与えるのに役立つと考えられる。
先行研究では、予後について議論する際に例となるフレーズを用いるか用いないかで様々な概念を提案し、そのうちのいくつかについてがん患者の嗜好を調べている:生存期間中央値(時間的)、典型範囲(中央値の半分から倍) [11-13] 、最高/最低例(中央値の4分の1から3-4倍) [14-18] 、一定期間の生存確率(確率的) [19-23] など明示的開示、特定のイベントまで生存可能(例, 誕生日、記念日)[13]、時間枠の単位(月、年など)[13、20]、非開示[11、13]などである。また、患者の情報ニーズを探ることの重要性 [1、8]、追加的説明(例:不確実性や制約が伴うこと [13、20])、前向きな発言(例:「最善を望み、最悪に備えて」 [hope/ prepare] [8、24])も提案された。しかし、これらの概念に基づき、予後情報を伝えるための実際のフレーズに対する患者の嗜好を系統的に調査した研究は、我々の知る限りではまだない。さらに,予後情報を伝えるフレーズに対する患者の嗜好が,どのような基本的特徴によって決定されるのかについては,ほとんど知られていない。我々は,より広い範囲の明示的な情報を伝えるフレーズやhope/prepareを付加したフレーズは,それぞれ新規性 [14-18] と希望維持のための臨床的重要性 [8, 24] からより好まれるであろうし,患者の対処スタイルが明示的な情報の有無に対する好みに寄与すると仮定している。そこで、本研究では、予後情報を伝えるフレーズに対するがん患者の嗜好を様々な概念で系統的に検討することを主な目的とした。具体的には、より広い範囲の情報を明示したフレーズや、hope/prepareを付加したフレーズがより好まれるかを検討した。また、これらのフレーズに対する患者の嗜好と、患者の根底にある対処スタイルが関連するかどうかを検討した。
【材料と方法】
外来がん患者412名を対象に、予後情報を伝える13のフレーズ(例:中央値、標準範囲、/または最良/最悪の場合のフレーズ、希望/準備の文言の有無)に対する好みを6段階(1=全く好まない、6=非常に好む)で自己評価させた。人口統計学的データとCoping Inventory for Stressful Situationsを評価し、多変量回帰分析を行った。
【結果】
様々な範囲を含む表現では、中央値と典型的な範囲を含む表現(3.4 1.2;3.3-3.6) や中央値のみを含む表現(3.2 1.3;3.1-3.3) よりも、中央値、典型範囲、ベスト/ワーストケースを含む表現(平均SD、 3.8 1.3;95% confidence interval [CI], 3.6-3.9) が好まれた。希望/準備文については、中央値、標準範囲、不確実性、希望/準備文を含む文言の方が、含まない文言(3.5 1.2;3.4-3.6) より好まれた(3.8 1.4;3.7-3.9).多変量解析では、タスク志向の対処は、明示的な情報を含むフレーズの好みと有意に相関していた。

文言例(Table1参照)
“あなたと同じ状況の平均的な患者さんを考えると、約2年だと思いますが、平均的な患者さんでは1年から4年と幅があるかもしれません。ただし、これはあくまでも平均値から推定したものですので、具体的にどうなるかはわかりません。私たちは、あなたが平均よりも良い結果を得られるよう、最善を尽くします。逆に、平均より早く進行した場合は、想定外の事態に備えるのが良いと思います。” (具体的な期間、典型的な範囲、予測の不確実性を与える。最善を望み、最悪に備えることを提案する)

【臨床的・研究的意義】
がん患者から予後について尋ねられたとき、臨床医は中央値、典型的な範囲、最良/最悪のケースなどの明確な情報を提供し、hope/prepareの文言を含めることがある。しかし、実際の生活では、生存期間を正確に推定する能力を持たないことが多い [39] 。例えば、今後の治療に対する反応によって予後が著しく変化する可能性がある場合や、患者が回避的対処戦略を積極的に採用している場合など、予後の明示的な開示が適切でないと考えられる場合には、臨床医は明示的な情報の開示を控えることができる。しかし同時に、その時点で正確な予後予測が困難な理由を説明し、患者の情報ニーズを探り、不確実性の中で何ができるかを共に話し合い、定期的に予後予測のコミュニケーションの適切性を再評価することが必要であろう。
本研究は、今後の介入研究の基礎となる可能性がある。具体的には、いくつかの仮説について今後確認する必要がある。予後に関する明示的な情報をより広範囲に追加することは、がん患者の予後認識を向上させるとともに、より多くの思いやりを伝えることになるか?hope/prepareステートメントは、患者が精神的苦痛を感じることなくACPにうまく参加するのに役立つか?予後の明示的な情報開示の範囲を広くし、hope/prepareを追加することは、進行がん患者がEOLや人生の完成に向けてより良い準備をするための効果的なきっかけとなりうるか?これらの重要な臨床的疑問に答えるための確証的な知見を得るためには、無作為化されたビデオビネット研究や臨床試験が有望であろう。
【強みと限界】
本研究の強みは,サンプル数が比較的多いことと,既存の概念に基づいて開発された様々なフレーズを系統的に比較したことである.しかし、本研究にはいくつかの限界がある。第一に、便宜的なサンプリングを行い、ウェブ上の調査会社を通じて最初の412人の回答者を分析したため、回答率や非回答者の特徴を抽出することができなかった。第二に、本研究に参加したがん患者は、比較的若く、パフォーマンスステータスが良好で、ある程度のコンピュータリテラシーを持っている可能性があることである。したがって、彼らは現実の世界のがん患者を代表していないかもしれない。第三に、これは本質的に記述的な研究であり、我々は明確に検証されていない、あるいはあらかじめ定められた臨床的に意味のある差の大きさを持つ嗜好尺度を使用した。したがって、患者さんの様々な嗜好を臨床的・統計的に有意に厳密に比較することはできなかった。興味深いことに、大多数の患者は、ある文と別の文に対してわずかな好みしか示さなかったが、これは、極端な回答を避けながら黙認的な回答スタイルを示すアジア人患者の傾向を反映しているのかもしれない[40]。第四に、「広い範囲」と「希望/準備」ステートメントの両方が一般的な予後情報を与えるので、このような予後開示によってテーラーメードの治療アプローチが可能になると言うことは難しいかもしれない。さらに、本研究は、推定生存期間が2年という仮想的なシナリオに基づくものである。この結果は、ヴィネットの時間枠や患者集団の違いによって影響を受ける可能性がある。したがって、臨床医は、我々の知見を一般的なガイドとして使用し、個々の患者のニーズや状況にうまく対応するようにコミュニケーションを修正することが推奨される。第5に,本研究は横断的な調査であり,これらのフレーズが予後情報を伝達する効果を決定することはできなかった.今後,臨床医への信頼,患者が感じる臨床医の思いやり,コミュニケーションへの満足度,不安などの臨床的に重要なアウトカムやACPに関連する長期アウトカムに対する効果を明らかにするための介入研究が必要である。最後に、予後に関するコミュニケーションは数回の面談を必要とする場合があり、個人差や文化的な差異を考慮する必要がある。したがって、我々の知見を一般化する際には注意が必要である。
【結論】
全体として、より広い範囲とhope/prepareステートメントを含むフレーズは、含まないフレーズより好ましいことがわかった。がん患者から予後について質問された場合、特に課題志向型対処を行う患者には、より広い範囲とhope/prepareステートメントを用いた明示的な情報を提供することができるかもしれない。

【開催日】2022年10月5日(水)