HCFMに生かせる「組織における幹部養成のコツ」

―文献名―
松尾睦.成長する管理職.東洋経済新報社 2013

―要約―
 この本でのマネジャーの定義とは「組織全体あるいは組織内の明確に区分できる一部分(部署)の業績について責任を持つ人物」。そのマネジャーに到るための「経験と能力のつながり」「経験の決定メカニズム」の調査を実施

 調査はある会社A社の部長・事業部長クラスのマネジャー914名を対象にした調査で、担当者時代・課長時代・部長時代それぞれにおいて「どのような経験から、いかなる能力を獲得してきたのか」「どのような目的で仕事に臨んだか」「上司からどのような支援を受けたか」の自由記載をしてもらい292名から回答を得た。同時にA社の人事部に回答したマネジャーのうち「優れた業務遂行能力を有し、特に高い成果を上げ続けてきたエース人材」を抽出してもらい、このエース人材の自由記述を基に質問表を作成。
作成された質問票を用いて再び上記の914名に調査を実施し、「どのような経験から、いかなる能力を獲得してきたのか」「どのような仕事で仕事に臨んだか」「上司からどのような支援を受けたか」について5段階の測定尺度を用いて回答を求め、315名から回答を得た。
A社の分析結果を検証するために、別の11社の課長クラスのマネジャー209名に同様の調査を実施し、全員から回答を得た。

<マネジャーの経験の分類> 1章
 マネジャーの仕事経験は「変革に参加した経験」「部門を超えて連携した経験」「部下を育成した経験」の3つに集約された。変革と連携は先行研究で指摘されている「発達的挑戦」と対応するものであったが、育成の経験はこの研究で指摘されたものである。また変革、連携、育成の経験をキャリア段階ごとに見て行くと育成の経験は増えるものの、変革の経験が少ないままであった。

<マネジャーの能力の分類> 2章
 上記の経験から、「目標共有力」「情報分析力」「事業実行力」3つの能力が抽出された。
 今回出たマネジャーの能力の類型は、ミンツバーグの「対人」「情報」「意思決定」の次元から説明出来るもので、その役割モデルとフィットしていた。
 また様々な考察から事業実行力(単なる意思決定や行動ではなく、事業活動において新しい価値を生みだす意思決定や行動)は目標共有力と情報分析力と密接に関連していたが、事業実行力は目標共有力や情報分析力と比べて獲得スコアが低かった。

<マネジャーはどのような経験からいかなる能力を獲得しているのか> 3章
 調査の結果、『部門を超えた連携、変革への参加、部下育成』という3つの経験が複合的に『情報分析力、目標共有力、事業実行力』という能力を高めていた。
 上記のうちで特に強い関係が見られていたのが『部門を超えた連携⇒情報分析力』『部下育成⇒目標量有力』『変革への参加⇒事業実行力』という対応であった。

<何がマネジャーの経験を決定するか> 4章
 「経験の決定メカニズム」では、『過去の経験、自身の持つ目標の性質、上司の支援』が経験に影響を与え、特に『過去の経験』が最も強く影響していた(経路依存性:path dependence)。
 つまり早い時期に上記の3つの経験を積んでおくほど、その度も同様の経験を積みやすくなる「経験の好循環」に入り、逆にこれらの循環に入れないと成長はしにくくなる。
 この循環に入るためには、挑戦や好奇心を重視する「学習志向の目標」と、新しい知識やスキルを獲得したいという「成果志向の目標」を持ち、上司の支援(特に通常は会うことが難しい社内外の上位者やキーパーソンと対話する機会)を得ることであった。マネジャーのもつ「学習志向の目標」は変革や連携の経験を促し、「成果志向の目標」が部下育成の経験を後押ししていた。

<マネジャーの成長メカニズム> 6章
 優れたマネジャーを育成するために情報系の学習(部門連携⇒情報分析力)、目標系の学習(部下育成⇒目標共有力)、実行系の学習(変革参加⇒事業実行力)の3つを連動させて積ませることが大切となる。
 また若いころから挑戦的な経験に身を投じることで「経験の好循環」に入ることができ、その後に経験する同じような挑戦的課題で更にその能力を成長させることが可能となる。
 経験の好循環に入るためには学習志向と成果志向の目標を両立し、社内外の上位者との対話機会を持つことが重要となる

―考察―
 情報系、目標系、実行系という経験学習の類型は面白かった。
 特に日本で少ないと言われている実行系(変革参加の経験⇒事業実行力)の経験をHCFMでどのように提供できるかを考えてみると、レジデントや一般スタッフの時代から変革活動に参加するチャンスを提供することがあげられる。
 経路依存性という考え方も印象的で、一度ある経験をするとその次にも類似の経験学習をする傾向があるという指摘は、マネジャーになってからの経験学習を意識化するのではなく、レジデントや一般スタッフの時から情報系、目標系、実行系の経験学習を意識したほうがいいという考えになった。
 おそらく目標系の学習は家庭医療専門医になる過程である程度担保はされているものの、実行系の学習と情報系の学習の両者は意図的に積まないと漏れ落ちるであろうと考えられた。
 また通常は会うことの難しい上位者との対話の機会が成長を後押しすると言う指摘からは、FMSのみならず、様々な機会で各サイト長や上級スタッフ、また日本の様々なリーダーと出会うチャンスを組織的に提供する必要性も感じた。

【開催日】
2015年5月20日(水)

マスク着用と患者の相談行動心理

―文献名―
田村恵理、岸本桂子、福島紀子.薬剤師のマスク着用が患者の相談行動心理に及ぼす影響.薬学雑誌.2013;133(6):737-745

―背景-
 院内でビデオレビューを行った際に、マスクを着用して診察していたのを見た指導医から「マスクを着用すると表情が見えなくなるので、着用しない方が良いのでは」というコメントを受けた。マスクに感染症予防の十分なエビデンスがないことは知られていたが、マスクを着用することについて、患者の目線からは「表情が見えづらく、コミュニケーションが取りづらい」という意見と、「しっかり感染対策をとっている、安心できる医院」という意見の両方があるのではないかと考えた(実際、インターネットの相談サイトでは上記の議論がされていた)。
 今回、医師ではなく薬剤師で調べられた研究ではあるが、「患者の相談行動心理」という家庭医にとっても重要と思われる問題を取り上げた文献が見つかったので、読んでみた。

―要約―
【諸言】
 患者の保有する病原体が空気中に飛び散った場合に、医療従事者のマスク着用が感染予防となるかの科学的根拠は明らかになっていない。また、患者の医療従事者に対する印象については、看護師の領域では複数報告されているが、研究結果には一貫した傾向がみられていない。医師の領域では、小児患者とその両親にとって、マスクと透明なフェイスシールドのどちらが懸念要素となるか調査しており、表情が見えるフェイスシールドの方がよい選択である可能性を示した。
 薬剤師は看護師や医師などの医療従事者と同様に、マスクを着用する医療職である。しかし、マスクをすると顔の一部分が隠れ、薬剤師の表情が見えづらくなることが、患者が薬剤師に相談し難いと感じる要因になる可能性が考えられる。本研究では、薬剤師と信頼関係を構築していない患者にとって、薬局薬剤師のマスク着用が服薬指導時に患者の相談行動を妨げる要因となるか検証を行う。

【方法】
 協力の得られたドラッグストアで2012年8月2,3,9,10,13,14日に調査を実施。研究への参加同意が得られた来店者を被験者とした。服薬指導映像を映像a(マスク非着用)と映像b(マスク着用)の2種類用意し、被験者には映像aを視聴後その映像について質問紙に回答、次に映像bを視聴後その映像について質問紙に回答とした。質問紙の測定内容は、主要アウトカムとして(1)薬剤師に対する相談意思、副次的アウトカムとして(2)薬剤師に対する印象、その他に(3)被験者属性とした。(1)として6個の下位尺度で構成される「相談行動の利益・コスト尺度改訂版(全26項目)」を使用した。6個の下位尺度は「1.ポジティブな結果(8項目)」、「2.否定的応答(6項目)」、「3.秘密漏洩(3項目)」、「4.自己評価の低下(3項目)」、「5.問題の維持(3項目)」、「6.自助努力による充実感(3項目)」である。(質問紙の内容は文献のFig.1参照)

【結果】
 映像aと映像bで、下位尺度ごとに対応のあるt検定を行った結果、「5.問題の維持」のみ有意差がみられた(p=0.025)。また、「5.問題の維持」について多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、被験者属性の「年齢」「マスク使用頻度」が有意に関連していた。

【考察】
 「5.問題の維持」は、相談を行わずに自分一人で悩んでいる場合に問題が維持されるかどうか、被験者の思考を測る下位尺度である。研究結果からは、自分一人で悩みを抱え込む傾向にある患者にとっては、薬剤師のマスク着用が服薬指導時の相談行動を妨げる要因となる可能性があると言える。
 また、多重ロジスティック回帰分析の結果から、マスクを着用する習慣がない患者ほど、薬剤師のマスク着用によって相談行動が妨げられる傾向にあること、また年齢は負の因子として相関していたため、若年者に比べ高齢者層では薬剤師のマスク着用が相談意思に及ぼす影響が小さい可能性がある。

―考察―
 研究については、被験者が服薬指導している2種類の映像を順次見るという形式なので、実際に対面するのと印象が異なる可能性、また先に見た映像aへの質問紙回答を基準に次の映像bへの質問紙回答をするという順序効果が生じる可能性については、文献の考察でも触れられていた。そして、研究自体が薬剤師について調査されたものなので、家庭医ではまた違った結果になる可能性もあるが、参考になる点も多いと感じた。
 研究結果で有意差の見られた項目は少なかったが、「5.問題の維持」に関する質問内容は「相談すると、相手が真剣に相談に乗ってくれる」「相談すると、相手が励ましてくれる」「悩みを相談することは、自分の弱さを認めることになる」となっており、家庭医としては無視できない部分かと思われた。
 一方で、マスクを着用することにより「きちんと感染対策をしている医療機関だな」と思ってもらえる、といったマスクによるポジティブな反応についてはこの研究では検討されておらず、特にインフルエンザ等の流行時期にはマスクを着用した方が患者にとっては好印象なのでは?という疑問は拭えなかった。

【開催日】
2015年5月20日(水)

ピーナッツアレルギーのリスクのある乳児へのピーナッツ負荷試験

―文献名―

George Du Toit M.B, et.aRandomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergyl. N Engl J Med 2015; 372:803-813February 26

―要約―
背景:
 西欧では小児のピーナッツアレルギーの有病率がここ10年で倍増している。また、ピーナッツアレルギーはアフリカやアジアでもみられるようになってきた。そこで筆者らは、ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児におけるアレルギー発症の予防に対して、ピーナッツを摂取する方法と摂取を回避する方法のどちらが有効かを調べた。

方法:
重度の湿疹、卵アレルギー、またはその両方を有する乳児640人を、生後60ヶ月までの間、ピーナッツを摂取する群(ピーナッツ群)と、摂取を回避する群(回避群)にランダムに割り付けた。対象となった小児は、生後4ヶ月以上11ヶ月未満だった。プリックテストによるピーナッツ抽出物への反応の有無によって、測定可能な膨疹が観察されなかった群と、直径1~4mm膨疹が観察された群に層別化し、ランダム化した。プライマリアウトカムは、生後60ヶ月時点でピーナッツアレルギーを有する参加者の割合とし、群ごとに独立に評価した。

結果:
プリックテストがベースラインで陰性だった530人では、生後60ヶ月時のピーナッツアレルギー有病率は、回避群13.7%、ピーナッツ群1.9% であった(P<0.001)。プリックテスト陽性であった98人では、同様に回避群35.3%、ピーナッツ群10.6%であった (P=0.004)。重篤な有害事象には群間差はなかった。
ピーナッツ特異的IgG4抗体の上昇はピーナッツ群でみられ、回避群では同IgE 抗体価の上昇がみられた。プリックテストでの膨疹がより大きいこと、ピーナッツ特異的IgG4/IgE比がより小さいことは、ピーナッツアレルギーの発症と関連していた。

結論:
ピーナッツに対するアレルギーのリスクが高い小児において、ピーナッツの摂取を早期に開始することで、アレルギーの発症頻度が有意に低下する。

【開催日】
2015年4月15日(水)

“研究をやる前の自分とやり終えた自分が変わる”ということ

―文献名―
質的研究の方法 いのちの<現場>を読み解く 語り手:波平恵美子 聞き手:小田博志 春秋社 2010年

―要約―
以下、印象に残った文章の抽出
第一部 質的研究のコツを聴く
第一章:質的研究とは何よりも「問題を発見する」ことに強みがある。たてた問題の答えを見出すだけではなく、それまで気づきもしなかった問題の存在に気付き「問題を発見」することによって、研究全体の発展に貢献することができる。
・問題意識と研究課題は分けておく

日常生活の中にある問題意識を「研究課題」にするためには、自分の抱き続けている問題意識を自分のなかで整理しておく(自分の動機付けがどこにあるかを明確にしておく)ことが必要です。
・質的研究は手仕事、まずは素材に向き合う
 データを繰り返し、繰り返し見て、そのなかで研究計画書を作りながら考える。
・問題意識を持ち続けること。それは優れた発想を生む。
 「なぜ、あのように男泣きに泣いていた父が、弟の骨を見て笑ったのか(4歳6ヶ月の時)」 
 質的研究の上で優れた、意義のあるRQを立てるためには、自分の興味関心のある問題あるいは、
 時には幼い時から抱いている疑問や体験の中から生じた問題を簡単に捨てないことである。
第二章:質的研究の強みは、問題を発見することである。そのためには「相対化」する視点を獲得することが必要になってくる。相対化の視点とは、対象を、対象をみる自分自身とは全くことなる存在として扱う「客観化」とは違い、対象をみている自分、対象について語る自分自身も暗黙に含んだものの見方のことである。それは、地図を描いたり地図をみる行為に似ている。
・「距離をおく」ということ

 自らを「よそ者」の視点で見てみる。Making the familiar strange 自分にとっては当たり前の  
 ことを奇妙と捉える。これは相対化ということでもあります。自分が生きている状況を相対化することが問題、そして研究課題の発見にもつながる。
・質的研究では多様なものをデータとする
あるテーマについて書かれたものだけを集めて、それをよんで自分が納得したかどうかを書いてもらう。同時に、自分の考えがいかに人の受け売りなのかということに気付き始める。一般言説の霧が晴れれば研究課題は見えてくる。それはデータ分析であると同時に、自分自身の思考の相対化にもつながる。
・データの持ち味を活かす
 質的研究によって得られた結論とは、もとにある生データを推測させるようなものでなくてはならない、という考えが常に私にはある。
 いい研究というのは、対象についての本質が言い当てられる、読んでいて「よくわかった」という「眼」をあたえてくれる研究なんだと思います。そのためにも、データ自身が「語り始める」ように繰り返し読むことが大事。
・「語ってもらえる私」になる
 インタビューのとき「いかに聞きすぎないか」にも気を配る必要がある。

Intermezzo 子どもの時の体験と「プロの『よそ者』」への道
 その研究テーマに取り組まざるを得ない、抜き差しならない状況で始めている印象があります。
 人類学者とは「プロのよそ者」だという表現があるが、子供って「世界のよそ者」なんですね。
–色々なことを感じているけれど、まだ人に伝える言葉にできない。しかしそれを既存の言葉にあてはめて終えてしまうのではなく言葉にならない自分のひっかかりを大切にして、保ち続ける−それは自分にとって意味があるだけではなく他の人たちの言葉にならない思いをひらくことにもなる・・・

第二部 経験を聴く
第5章 当事者の切実さを忘れない。なおかつ当事者と異なる視点を忘れない。
質的研究の場合、問題発見は大胆に行い、一方、データ収集、整理、分析には細心を心がける。一部の文化論のように、飛躍だけでは次が続かない。
質的研究は社会に概念的資源を提供する役割がある、と表現したい。すなわち現場で生きている人たちがうすうす気づいているのだけど、言語化していない点を「言い当てる」という役割ですね。
・ひらめきの知、アブダクション

どうしてリンゴが木から落ちるのかを説明する理論枠組みを生み出す思考の展開のこと。そこには現象レベルからの飛躍、ひらめきがある。量的研究は演繹的であるのに対して、質的研究は帰納的だと言われます。しかしアブダクションはそのどちらでもない第三の推論様式なのです。
・手間暇をかけること
書いていることにきづくのは100あるうちの3読めばわかる。書いていないことに気づくには、やはり30とか40とか読まないと気がつかない。

【開催日】
4月16日(水)

上部消化管内視鏡時における音楽療法の緊張軽減効果について

―文献名―

Rudin D, et al. Music in the endoscopy suite: a meta-analysis of randomized controlled studies. Endoscopy. 2007, June; 39(6):507-510.

―要約―
【背景と研究目的】
 先行研究で音楽療法がストレス軽減と鎮痛を提供することが示唆されている。このメタ解析において我々は上部消化管内視鏡施行中の患者における音楽療法の効果に焦点を当てた。

【資料と方法】
 PubMedとコクラン•ライブラリのデータベースを利用した文献検索と手動検索によって上部消化管内視鏡施工中の患者における音楽療法の効果を調べた6つのランダム化コントロール試験を抽出した。
 データ抽出後にfour separate meta-analysesが実施された。薬物療法を使用しない3つの研究(グループA)において不安レベルが効果の尺度として使われた。薬物療法を使用した3つの研究(グループB)において鎮静剤と鎮痛剤の必要量と内視鏡施行時間が解析された。

【結果】
 合計641名の患者が解析に加えられた。グループAにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較してより低い不安レベル(8.6%の減少、P0.004)を示した。グループBにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較して統計学的に有意な鎮痛薬必要量の減少(29.7%の減少、P0.001)と内視鏡施行時間の減少(21%の減少、P0.002)とほぼ有意に近い鎮静薬必要量の減少(15%の減少、P0.055)を示した。

【結論】
 上部消化管内視鏡を実施する患者において音楽療法はストレスの軽減と鎮痛に効果的なツールである。

【開催日】
2015年3月18日(水)

腰痛に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーション

―文献名―

Steven J Kamper, et al. Multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation for chronic low back pain: Cochrane systematic review and meta-analysis. BMJ 2015;350:h444 doi: 10.1136/bmj.h444 (Published 18 February 2015)

―要約―
【目的】
 慢性腰痛の患者に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの長期的な効果を評価するため

【デザイン】
 システマチックレビューとメタ解析

【データ源】
 Electronic searches of Cochrane Back Review Group Trials Register, CENTRAL, Medline, Embase, PsycINFO, and CINAHL databases up to February 2014, supplemented by hand searching of reference lists and forward citation tracking of included trials.

【研究選択基準】
・3ヶ月以上の腰痛を患う患者
・多職種によるリハビリテーション:
身体的な側面と心理的な側面か社会的、仕事に関した側面の一つ、あるいは両方に対するリハビリ。少なくとも2つの異なった専門的なバックグラウンドをもつヘルスケアの専門家が提供。非多職種の介入との比較。

【結果】
 41の研究がインクルージョンされ、そこにはトータルで6,858人の患者が含まれていた。しばしば以前の治療では症状が改善せず、平均の疼痛期間が1年以上であった。16の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、疼痛(標準化平均値差 0.21、95%信頼区間 0.04~0.37 ;10ポイントの疼痛スケールにおいて0.5ポイントに相当)と障害(標準化平均値差 0.23、95%信頼区間 0.06~0.40 ;24ポイントのローランドモリスインデックスにおいて1.5ポイントに相当)を減少させた。19の研究では、低い質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、疼痛(標準化平均値差 0.51、95%信頼区間 −0.01~1.04)と障害(標準化平均値差 0.68、95%信頼区間 0.16~1.19)を減少させたが、統計学的に重大な不均質な横断研究があった。8個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、介入後1年間の仕事復帰率を改善させた(オッズ比1.87、95%信頼区間 1.39~2.53)。7個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、仕事復帰率を改善させなかった(オッズ比1.04、95%信頼区間 0.73~1.47)。外科的処置との比較をした2個の研究では、アウトカムに違いはほとんどなく、外科的手術に伴う有害事象のリスクが上昇した。

【結論】
 多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの介入は慢性腰痛を持つ人々の疼痛と障害を減らすのに、通常のケア(中等度の質のエビデンス)、身体面の治療(低い質のエビデンス)よりも効果的であった。仕事に関するアウトカムは、多職種によるリハビリテーションは身体面の治療よりも効果的だが、通常のケアよりも効果的でないようだ。

【開催日】
2015年3月18日(水)

医療アシスタントによる健康に関するコーチングは低所得層の患者の糖尿病,高血圧,高脂血症を改善する(ランダム化比較試験)

―文献名―

Rachel Willard-Grace, et al. Health Coaching by Medical Assistants to Improve Control of Diabetes, Hypertension, and Hyperlipidemia in Low-Income Patients: A Randomized Controlled Trial.Ann Fam Med. 2015;13:130-138.

―要約―
【目的】
 医療職ではない医療アシスタントによる健康に関するコーチングがもし効果的ならば、プライマリ・ケアの現場におけるセルフケア支援の実現可能なモデルとなり得る。著者らは医療アシスタントがクリニック内で行う健康に関するコーチングが、通常のケアと比較して心血管系または代謝系のリスク因子の改善に寄与するかどうかを調査した。

【方法】
 カリフォルニア州サンフランシスコの2つのセーフティネットプライマリ・ケアクリニックにおいて、441の患者による12か月間のランダム化比較試験を行った。患者は、40時間のトレーニングを受け修了証書を持つ医療アシスタントによる健康に関するコーチングを受ける群:Table 1と、通常ケア(通常の医師の診察、糖尿病教育担当者、管理栄養士によるケア、慢性疾患認定看護師など)を受ける群に分けられた。
 調査開始時に十分コントロールされていなかったヘモグロビンA1c、収縮期血圧、LDLコレステロール値が12か月後に少なくとも3つのうち1つが目標値を達成したか、という複合アウトカムを主要アウトカムとして設定した。データはカイ2乗検定と線形回帰モデルにて解析した。

【結果】
 コーチングをうけたグループは、コントロール群と比較してより多くの患者が主要アウトカムを達成した(46.4% vs 34.3%, p=0.02)。全ての数値が目標値を達成したという2次複合アウトカムも同様の結果であった(34.0% vs 24.7%, p=0.05)。ヘモグロビンA1cは約2倍の目標達成率であった(48.6% vs 27.6%, p=0.01)。規模の大きいクリニックでは、コーチングを受けた患者はLDLの目標達成率が高かった(41.8% vs 25.4%, p=0.04)。収縮期血圧の目標値を達成した患者は、2グループ間では違いは認められなかった。

【結論】
 クリニック内の健康に関するコーチとして務める医療アシスタントは、通常のケアと比較してヘモグロビンA1c、LDLコレステロールを改善するが、血圧は改善しなかった。この結果は患者の臨床的な状態と介入、遂行における背景的な側面のもつ関係性への理解が必要なことを強調している。

【開催日】
2015年3月11日(水)

最適な収縮期血圧目標

―文献名―
Xu W, Goldberg SI, Shubina M, Turchin A.Optimal systolic blood pressure target, time to intensification, and time to follow-up in treatment of hypertension:population based retrospective cohort study.BMJ. 2015 Feb 5;350

―要約―
【目的】
新しい降圧薬を加えるか、既に処方されている薬の量を増やすかについて、最適な収縮期血圧目標を調査することと、治療強化やフォローアップの遅れと心血管イベントあるいは死亡のリスクとの間の関係を明らかにすること。

【デザイン】
後ろ向きコホート研究。

【セッティング】
英国のプライマリ・ケア診療所で、1986年から2010年まで。

【参加者】
健康改善ネットワークの全国のプライマリ・ケア研究データベースから88,756人の高血圧の成人患者。

【主なアウトカム評価】
異なる治療戦略の患者における急性冠動脈疾患イベントの発症率とあらゆる原因の死亡率。治療戦略は10年間の治療評価期間における収縮期の治療強化閾値、強化までに要した時間、フォローアップまでの時間で定義された。年齢、性別、喫煙の状況、社会経済的貧困、糖尿病の病歴、冠動脈疾患もしくは慢性腎臓病、チャールソンの併存疾患指数、BMI、薬物所持率、そして、ベースラインの血圧で調整した。

【結果】
治療戦略評価期間の後、フォローアップの中央値は37.4か月で、その間に9,985人(11.3%)が急性冠動脈イベントを起こしたか、あるいは死亡した。治療強化の閾値が130-150mmHgではアウトカムのリスクに違いはなかった。150mmHg以上では、リスクの増加と関連していた(ハザード比1.21、95%CI 1.13-1.3、160mmHg以上ではp<0.001)。アウトカムのリスクは治療強化までの時間が短い(0-1.4か月)と長いときと比べて1/5になった(ハザード比1.12、95%CI 1.05-1.20、1.4-4.7か月ではp=0.09)。降圧療法を強化して以降、最初に患者が受診するまでの期間が2.7か月を超えると、リスクが上昇することもわかった(ハザード比1.18、 95%CI 1.11-1.25、p<0.001)。 【結論】 心血管イベント・全死亡リスク上昇には、収縮期血圧が150mmHgを超えていること、降圧療法の強化が1.4か月以上遅れること、治療強化後のフォローアップが2.7か月以上遅れることが関連することがわかった。この結果は高血圧の治療でタイムリーな医学管理とフォローアップの重要性を支持するものである。 【開催日】 2015年3月11日(水)

プライマリ・ケアにおける抗うつ薬の効果と耐用性のシステマティック・レビュー

―文献名―
Klaus Linde: Efficacy and Acceptability of Pharmacological Treatments for Depressive Disorders in Primary Care: Systematic Review and Network Meta-Analysis.Annals of Family Medicine  2015 vol. 13 no. 1 69-79

―要約―
目的:
 この研究の目的は、プライマリ・ケアのセッティングにおいて、どの抗うつ薬がプラセボと比較してより効果的なのかを調査し、抗うつ薬の種類によってその効果と耐用性の違いがあるのかを究明することである。

方法:
 私たちは2013年12月までに発表されたMEDLINE, Embase, Cochrane Central of Controlled Trials (CENTRAL), PsycINFOの文献を調査し、プライマリ・ケア医による成人のうつ病治療の無作為試験についてレビューを行った。直接的、あるいは間接的なエビデンスを結合しながら、従来のpairwiseメタ分析と、ネットワークメタ分析の両方を実施した。一次アウトカムは治療への反応(うつ病スケールで50%以上の改善、あるいは症状のスケールでの改善)と、副作用による研究の中断とした。

結果:
 計66個の研究(15161人)がinclusionされた(Figure 1)。ネットワークメタ分析では、TCAs、SSRIs、SNRI(セロトニン-ノルアドレナリン再取込阻害薬)、SARI(低用量セロトニンアゴニスト+再取込阻害薬=トラゾドン、レスリン®)、オトギリソウ抽出物(セント・ジョーンズ・ワート)がプラセボと比較して有意な効果があることが分かった(Table 3)(odds ratio 1.69~2.03)。これらの薬剤間での統計上の差異は見出せなかった。rMAO-As(モノアミン酸化酵素阻害薬)とオトギリソウ抽出物は、副作用による中断という点では、TCAs、SSRIs、SNRI、NRI(ノルアドレナリン再取込阻害薬)、NaSSAs(ノルアドレナリン作動性-特異的セロトニン作動制約)に比べて中断は少なかった(Table 4)。

結論:
 TCAsとSSRIsは他の薬剤に比べて、プライマリ・ケアのセッティングでの効果という点で確固たるエビデンスがある。しかし、プラセボと比較した効果の大きさでは比較的小さい。他の薬剤(オトギリソウ抽出物、rMAO-As、SNRI、NRI、NaSSAs、SARI)はいくつか良好な結果があるものの、それらを明確に推奨するには最近のエビデンスでは限界がある。
 限界として、出版バイアス、ネットワークアナリシスによる限界、プライマリ・ケアのセッティングでの文献が少ないこと、効果判定が平均6週間であることから、プライマリ・ケアのセッティングにおける長期的な効果と耐用性については今後さらなる研究が必要。

【開催日】
2015年3月4日(水)

市中肺炎におけるプレドニゾンの追加治療は有効か?

―文献名―

①Djillali Annane: Corticosteroids and pneumonia: time to change practice.The Lancet,Published online: January 18, 2015
②Claudine Angela Blum: Adjunct prednisone therapy for patients with community-acquired pneumonia: a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled trial.The Lancet,January 18, 2015

―要約―
Background:
 全身性ステロイドを市中肺炎の治療に追加することについては、未だ議論がある。今回入院市中肺炎の患者に対し、短期ステロイド治療が臨床的安定に至るまでの期間を短縮するかの検討を行った。

Methods:
 この二重盲検多施設共同ランダム化プラセボ対照試験において、18歳以上の支柱肺炎の患者をスイスの7つの3次医業機関から登録した。患者はランダムに1:1にプレドニゾン 50mg/日あるいはプラセボを7日間投与する群に割り付けられた。プライマリエンドポイントとして臨床的な安定(バイタルサインが少なくとも24時間安定)までの日数とした。

Findings:
 2009年12月1日から2014年5月21日までの間、2911人の患者が登録され、785人がランダム化された。392人がプレドニゾン群、393人がプラセボ群。臨床的に安定するまでの期間の中央値はプレドニゾン群の方が有意にに短かった(プレドニゾン群 3.0 days, IQR 2.5-3.4、プラセボ群 4.4 days, 4.0-5.0; hazard ratio[HR] 1.33, 95% CI 1.15-1.50, p<0.0001)(Table 2)。  30日目までの肺炎関連合併症については両群とも差はみられなかった(11 [3%] in the prednisone group and 22 [6%] in the placebo group; odds ratio [OR] 0.49 [95% CI 0.23-1.02]; p=0.056)(Table 3)。  プレドニゾン群はインスリンを要する入院中の高血糖の頻度が有意に多かった(プレドニゾン群 76 [19%] vs 43 [11%]; OR 1.96, 95% CI 1.31-2.93, p=0.0010)(Table 3)。  ステイロイドによるその他の有害事象はまれであり、両群とも差はみられなかった(Table 3)。 Limitation:  入院患者としたため、外来患者全体への一般化の限界あり。  死亡数が少ないので検討するにはパワー不足。  Primary endpointにおいていくつかのパラメーターが存在していること。しかし、筆者としては、これは現実に即していると考えている。 Interpretation:  入院を要する市中肺炎の患者に対する7日間のプレドニゾン治療は合併症を増加させることなく臨床的な安定までの期間を短縮する。この結果は患者の利益、医療の費用、効率性からは切実なものであると言える。 【開催日】 2015年3月4日(水)