Association Between Socioeconomic Status and Mortality, Cardiovascular Disease, and Cancer in Patients With Type 2 Diabetes

-文献名-
Rawshani, Araz, et al. “Association between socioeconomic status and mortality, cardiovascular disease, and cancer in patients with type 2 diabetes.” JAMA Internal Medicine 176.8 (2016): 1146-1154.

-要約―
※前提:スウェーデンは医療へのアクセスや利用について、社会経済的側面でほぼ間違いなく世界で最も公平な国のうちの一つである。

研究の重要性:
 2型糖尿病患者において、医療への公平なアクセスがあり重要な交絡因子を調整したうえで、社会経済的状態と全死因死亡、心血管関連死、糖尿病関連死、癌死亡率との間に関連があるかは、検討されたことがない。

目的:
 2型糖尿病患者において、所得、教育水準、婚姻状況、出生地が、全死因死亡、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡と独立して関連しているかどうかを評価する。

デザイン、設定、参加者:
 Sweden National Diabetes Register(2003年1月1日から2010年12月31日まで)に登録された70歳以下の2型糖尿病患者217364人を調査対象とした。イベント発生まで平均5.6年間追跡した。最大17の共変量を有するCOX比例ハザード回帰モデルを用いて解析した。

メインアウトカム:
 全死因死亡、心血管死、糖尿病死、癌死亡率

結果:
 217364人は平均年齢58.3歳、男性60.2%。19105人が死亡し、そのうち11423人(59.8%)が心血管死、6984人(36.6%)が糖尿病関連死、6438人(33.7%)が癌による死亡だった。完全調整モデルを用いた既婚者の(独身者に対する)ハザード比は全死因死亡0.73(95% CI, 0.70-0.77), 心血管死0.67 (95% CI, 0.63-0.71), 糖尿病関連死0.62 (95% CI, 0.57-0.67)だった。婚姻状況は全癌死亡には関連していなかったが、既婚者の男性は独身男性に比べて前立腺癌の死亡率が低かった(ハザード比0.67 (95% CI, 0.50-0.90))。収入の五分位の最低位は最高位と比べたハザード比は全死因死亡1.71 (95% CI, 1.60-1.83), 心血管死1.87 (95% CI, 1.72-2.05), 糖尿病関連死1.80 (95% CI, 1.61-2.01), 癌死亡率1.28 (95% CI, 1.14-1.44)だった。非西洋移民の全死亡死因、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡率はネイティブスウェディッシュと比べて、それぞれ0.55(95%CI、0.48-0.63)、0.46(95%CI、0.38-0.56)、0.38 95%CI、0.29-0.49)、および0.72(95%CI、0.58-0.88)だった。大学の学位を持ってる者は教育年数が9年(スウェーデンの義務教育年数)以下のものと比べて全死亡者数、CV、糖尿病関連死亡率、癌死亡率のハザード比は、それぞれ0.85(95%CI、0.80-0.90)、0.84(95%CI、0.78-0.91)および0.84(95%CI、 0.93)だった。

結論:
 社会経済的状態は全死因死亡、心血管死の強力な予測因子だった。

ディスカッション:
 リスクファクターと共変量を調整しても社会経済的状態の影響を排除できなかったという事実は、リスクファクターのコントロールがこれらの較差を縮小することに効果がないことを意味するわけではない。
 社会経済的状態が悪いことは、心理社会的ストレス、失業、財政難、不健康な習慣、健康上の障害、危険な地域に住む、社会的支援の欠如、不十分な結束と結びついている。
 非西部から西部へ移住する個人は、母国では選択された強力なサブグループであるため、スウェーデン出身者より結果が良かったと考える。

Limitation:
 アルコール消費についてのデータを得られなかった。喫煙は吸うか吸わないか二分変数での評価だった。

【開催日】
 2017年2月1日(水)

肥満患者のライフスタイルへの介入

-文献名-
Charles B. Eaton, MD, MS, FAHA et al. A Randomized Clinical Trial of a Tailored Lifestyle Intervention for Obese, Sedentary, Primary Care Patients. Annals of Family Medicine, July/August 2016; 311-319

-要約-
<目的>
 プライマリ・ケアにおける肥満患者に対し、患者に合わせたライフスタイルへの介入を行うことが、体重減少と身体活動量増加の助けになるかどうかを試験すること。

<方法>
 ロードアイランド州にて24ヶ月間行われた無作為化臨床試験である。プライマリ・ケア医によって同定された肥満・低活動性の患者に対し、減量と中等度の身体活動について動機づけが行われた。患者は強化介入群と標準介入群の2つに無作為に割り付けられた。どちらの群に対しても、3回の対面での減量に関する話し合いが行われた。強化介入群にはさらに、食事と身体活動に焦点を当てた電話相談、患者に合わせた印刷資料、DVDが提供された。1年目は積極的介入をする時期とし、2年目は介入を漸減し維持期とした。

<結果>
 24のプライマリ・ケアの現場で、211人の肥満・低活動性の患者が募集された。患者の79%は女性で、平均年齢は48.6歳、BMIの平均は37.8kg/mm2、中等度の身体活動を週に21.2分行っていた。強化介入群では標準介入群よりかなり多くの患者が元の体重から5%の減量を達成していた(P<0.001)。その差は、特に積極的な介入を行っていた6ヶ月の時点(強化介入群37.2%、標準介入群12.9%)と12ヶ月の時点(強化介入群47.8%、標準介入群11.6%)では有意であったが、維持期の18ヶ月(強化介入群31.4%、標準介入群26.7%)、24ヶ月(強化介入群33.3%、標準介入群24.6%)では有意ではなかった。強化介入群では、標準介入群と比較し、有意に長い時間の中等度の身体活動を実践したと報告された(P=0.04)。6ヶ月の時点では、強化介入群では95.7分/週、標準介入分では68.3分/週。12ヶ月の時点では強化介入群で126.1分/週、標準介入群で73.7分/週。18ヶ月の時点では強化介入群で103.7分/週、標準介入群で63.7分/週。24ヶ月の時点では強化介入群で101.3分/週、標準介入群で75.4分/週。同様の傾向が実際の体重減少にもみられ、その割合は身体活動に関する国のガイドラインに達するものだった。 <結論>
 肥満、低活動性のプライマリ・ケア患者に対する患者に合わせたライフスタイルへの介入は、体重減少と中等度の身体活動の増加を促す。その効果は12ヶ月でピークに達し、24ヶ月では減弱する。

中島先生図①
中島先生図②
中島先生図③

-考察とディスカッション―
研究結果としては、有意差が出たのは初めの6~12ヶ月で、その後の維持期については強化介入群の方が目標を達成している割合は高いもののその有意差は出ていなかった。一方で、標準介入群でもライフスタイルカウンセラーと面談したりパンフレットを渡されたりなど、介入はそれなりにされており、実際に自分のこれまでの外来でもそこまできちんとした介入はやっていなかったように思う。
禁煙外来のように、ある程度決まった方法で行う「減量外来」のような枠組みがあれば、それほど強い介入をしなくてもある程度減量や運動習慣の確立ができる患者はいるのでは、と思われた。

 ディスカッション
  ・これまで、減量を目的に外来通院し、実際に減量を達成できた患者さんはいましたか?
  ・もしいれば、その方にはどのような介入をしましたか?
  ・外来で減量を積極的に勧めていく際に、現実的にはどのような戦略がとり得ると思いますか?

【開催日】
 2016年9月21日(水)

A Vaccine to Prevent Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Older Adults

-文献名-
Oxman MN, et al. A Vaccine to Prevent Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Older Adults. N Engl J Med. 2005;352(22):2271.

-この文献を選んだ背景―
 外来定期通院中の中年女性より、「義父が帯状疱疹になり、大変強い痛みで苦しんでいた。自分はああいう風にはなりたくないので、何とか防ぎたい。予防注射があるって聞いたことがあるんだけど、どれくらい効きますか?」と聞かれた。成人への水痘ワクチン接種が帯状疱疹の予防に役立つことは聞いたことがあったが、効果のほどは把握していなかったので、調べることにした。

-要約-
Introduction:
 年齢を重ねVZVに対する細胞性免疫能が低下するにしたがって、帯状疱疹の罹患頻度や重症度が増加することは知られている。帯状疱疹による痛みや帯状疱疹後神経痛は高齢者のQOLを著しく低下させる。そこで高齢者に対してVZVワクチンを接種することで、帯状疱疹の罹患頻度や重症度が下がるのではないかと仮説を立て、検証した。

Method:
 水痘罹患歴があるか,アメリカに30年以上住んでいる60歳以上の38546人。免疫不全患者は除外。ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール。
 介入群には日本国内と同じ岡株の弱毒生ワクチン0.5mlを皮下接種。
 帯状疱疹の診断はPCR法を含めたアルゴリズムに則って行われ、最終的に水痘帯状疱疹の専門医5人が判定。帯状疱疹の罹患頻度、重症度、痛みや不快感が続く期間を評価。痛みや不快感の程度は質問紙票で評価。
 平均3.13年追跡。

Results:
  川合先生図①
  川合先生図②
罹患率:Vaccine 0.00542  Placebo 0.01112 →NNP 175

  川合先生図③
罹患率:Vaccine 0.00046  Placebo 0.00138  →NNP 1086

  川合先生図④

-考察とディスカッション-
 水痘ワクチンは自費で6000円から10000円程度のようです。
  ・水痘の罹患歴があり帯状疱疹予防のためにワクチン接種を希望する人がいたら、どう説明しますか?
  ・あるいは担当患者が接種した経験がある方はいますか?

【開催日】
 2016年7月20日(水)

成人に対する肺炎球菌ワクチンの効果

-文献名-
M.J.M. Bonten. Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults. n engl j med March 19, 2015 372;12

-この文献を選んだ背景-
 2014年10月から65歳以上にたいする肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスが定期接種となった。それに伴い、生活習慣病で通院している65歳以上の方々から肺炎球菌ワクチンを受けたほうが良いのか?という問いが聞かれることが多くなった。
 これまでのメタアナリシスでは肺炎球菌ワクチンは敗血症を伴う肺炎など肺炎球菌による重症感染症は予防出来るが、総死亡は減少しないというものであった。また肺炎球菌性肺炎発症率に関してはこれまでのメタアナリシスでは効果を結論づけることは出来ない、1件の日本のRCTで施設患者に対する接種で肺炎球菌性肺炎を減らす事ができたという比較的限定したエビデンスだったかと思う。
 そのような中で、2015年3月15日ファイザー社によるオランダでの大規模臨床試験(CAPiTA試験)でプレベナーが成人に対して肺炎球菌肺炎の発症率を減らしたということがNEJMに発表された。今回肺炎球菌ワクチンのエビデンスをアップデートし、より正確な情報を患者さんに伝える目的で本論文を選択した。

-要約-
Introduction:
 肺炎球菌多糖体結合ワクチンは乳児の肺炎球菌感染症を予防するが,65 歳以上の成人における肺炎球菌性市中肺炎に対する有効性は,明らかにされていない.

Method:
 65 歳以上の成人 84,496 例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験において,13 価多糖体結合ワクチン(PCV13)の,ワクチン型株の肺炎球菌性市中肺炎,非菌血症性・非侵襲性肺炎球菌性市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症の初回エピソードの予防における有効性を評価した.市中肺炎と侵襲性肺炎球菌感染症の同定には,標準的な臨床検査法と血清型特異的な尿中抗原検出法を用いた.

Results:
 ワクチン型株による感染症の初回エピソードの per-protocol 解析では,市中肺炎は PCV13 群 49 例,プラセボ群 90 例に認められ(ワクチン有効率 45.6%,95.2%信頼区間 [CI] 21.8~62.5),非菌血症性・非侵襲性市中肺炎は PCV13 群 33 例,プラセボ群 60 例(ワクチン有効率 45.0%,95.2% CI 14.2~65.3),侵襲性肺炎球菌感染症は PCV13 群 7 例,プラセボ群 28 例に認められた(ワクチン有効率 75.0%,95% CI 41.4~90.8).有効性は試験期間を通して持続した(平均追跡期間 3.97 年).修正 intention-to-treat 解析におけるワクチン有効率は同程度であり( それぞれ 37.7%,41.1%,75.8%), 市中肺炎は PCV13 群 747 例,プラセボ群 787 例に認められた(ワクチン有効率 5.1%,95% CI -5.1~14.2).重篤な有害事象と死亡は 2 群で同程度であったが,局所反応は PCV13 群でより多く認められた.
※per-protocol解析:ITT解析は脱落者を含みランダム化した全ての対象を解析する。Per-protocol解析は服薬が遵守されている、データが利用できる(脱落やデータの不足がない)、重大なプロとコール違反がないものを解析。ITT解析より対象者が限定される

Conclusion:
 高齢者において,PCV13 は,ワクチン型の肺炎球菌性,菌血症性,非菌血症性の市中肺炎と,ワクチン型の侵襲性肺炎球菌感染症の予防に有効であったが,あらゆる原因による市中肺炎の予防には有効でなかった.(Pfizer 社から研究助成を受けた.CAPITA 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT00744263)

Discussion/limitation:
この研究は、肺炎球菌疾患の発生率が低く、同じ人種が住むオランダ単一で行なわれた。肺炎球菌血清型の疫学的特徴と肺炎球菌感染症や疾患に対する母集団の感受性によって他の母集団ではワクチンの有効性は変化する可能性がある。
 肺炎球菌のワクチン型を同定するための血清型同定尿中抗原検出キットのより高い感度はワクチン血清型のわずかな過大評価に繋がったかもしれない。

【開催日】
 2016年7月6日(水)

健康な生活習慣へのアプローチ

-文献名-
Robert L, Sandra K, Raymond F, et al. Practical opportunities for healthy diet and physical activity: relationship to intentions, behaviors, and body mass index. Annals of Family medicine. 2016; Vol14:109-124

-この文献を選んだ背景-
 生活習慣病管理を行う際、ルーチン的に食事・運動について聴取していたが、もともと行動変容に関心のない人に対して食事・運動について聞くこと自体が非難するような印象を与え、お互いバツの悪い思いを経験することが多く違和感を抱いていた。そこで文献にあたるなかでAnnals of Family medicineのOriginal researchで取り上げられたこの文献にいきついた。

-要約-
Introduction:
 生活習慣様式の変化によりこの30年で飛躍的に肥満の有病率は増えており、臨床的な介入は避けられる病気や死を減らす大きな可能性をもっている。食事・運動様式の改善のための戦略は、患者によりよい選択ができるよう勇気づけていくことに焦点をあてているが、控えめな成功しか得られていない。
以前の文献で、私たちは「潜在能力アプローチ」※を用いた健康行動を調べた質的、また実証研究を行ってきた。潜在能力アプローチは個人と社会の幸福の指標として実践的な機会を評価する枠組みとなり、実践的な機会の測定には収入や利用可能なサービスに代表される「資源」と、資源を活用するために影響する健康リテラシーや自律性といった「変換因子」があることがわかった。この文献ではその実践的な機会のモデルの検証を行い、行動変容の企図や食事、運動、BMIとの関連を調べることで、この新しいツールによって有用性を評価することを目的とした。
※潜在能力アプローチは厚生経済学の領域において、Sen Aの提唱した人間の幸福についてのアプローチ。能力を評価するうえで以下の5つを提唱し、選択の自由と個人の異質性がいかに重要かを述べた。
  1.人の長所を評価する際での、真の自由の重要性(The importance of real freedoms in the assessment of a person’s advantage)
  2.資源を価値ある活動に変換する能力が、個人によって違うこと(Individual differences in the ability to transform resources into valuable
   activities)
  3.幸せを感じる活動は、多変量な性質をもつこと(The multi-variate nature of activities giving rise to happiness)
  4.人の厚生を評価する上での、物質的なものと非物質的なもののバランス(A balance of materialistic and nonmaterialistic factors in evaluating
   human welfare)
  5.社会における機会分布の考慮(Concern for the distribution of opportunities within society)

Method:
 2012年にTexasにある8つのプライマリケア診療所で英語かスペイン語を話す18歳以上を対象に100人ずつ参加者を登録した。2つの段階で研究を実施した。第一段階では検証的因子分析※で潜在能力測定尺度の構成概念妥当性を評価した。第二段階では潜在能力尺度と測定された食事、運動、BMIとの関連を評価した。
 25項目からなるCapability Assessment for Diet and Activityおよび適切な健康行動、BMI、行動企図(週に何日健康な食事をとることや運動することを計画したか、0-7)について測定した。
※因子分析とは相関関係の背後に潜む構造を研究するための統計学的分析手法。検証的因子分析では構造に関する仮説をデータと照らし合わせて検証していく。

Results:
 食事に関する変換因子が1SD上昇する(5ポイントの尺度で0.6)と、BMIは4kg/m2減少と関連していた。運動に関する資源と変換因子が1SD上昇するとBMIは1.6kg/m2の減少と関連していた。潜在能力と運動との関連では、運動企図は実際の運動時間の強い予測因子となっていた。運動企図は運動に関する資源によって予測され(b=0.29, p=0.05)、運動に関する変換因子はより強い予測因子となっていた(b=0.77, p<.001)。食事に関する変換因子は、健康な食事企図を予測する因子となったが(b=0.42, P<.001)、資源は関連がみられなかった(b=0.2, P=.50)。
上野先生図

Discussion:
横断研究では因果関係を立証できないため、今後の縦断研究での検証が必要である。食事や運動活動の自己報告による測定をプライマリケアの診療場面で行うことの実現可能性は証明されているものの、社会的望ましさによるバイアスによる影響を受けやすく、信頼性に欠ける。食事に関する測定の分配ミスで27%しかサンプルが得られなかったためさらなる研究が望まれる。
 今後は縦断研究を行い、観察期間を通じたCADAの変数間での結果や帰納がどうなるか理解を深める必要があるが、より効果的で重要かつ健康増進において十分根拠のあるアプローチを約束するだろう。

-考察とディスカッション-
Capability approachでの資源とそれを変換する能力という分け方は、個人の異質性に近づくために、通り一遍の食事・運動の活動に触れるだけでは実情に迫りえないことが言語化され自分の中ではしっくりくる考え方だった。
また文献のなかで臨床家は診療するコミュニティのなかで、健康な行動を促進したり阻害したりする状態に気づく必要があり、診療を通じた実際的な契機となる情報の蓄積により、いまだ対応されていない地域ニーズの同定や、公衆衛生機関にとって地域の価値ある知恵を提供する助けになると述べられており、健康増進をはかるうえで地域のなかでの資源や活動をさまたげる障壁について私たち家庭医は理解を深めていかなければいけないことを改めて気づかされた。

ディスカッション
 1.食事・運動改善のためにいままでみなさんはどのようなことを意識して診療していたか?またこの文献を読んで参考になりそうなことはありますか?
 2.個人の健康増進を検討するうえで地域ニーズの発掘と結びついた経験は?

【実施日】
 2016年6月1日(水)

妊婦を含む成人の禁煙に対する行動的・薬物的介入について

-文献名-
U.S. Preventive Services Task Force. Behavioral and Pharmacotherapy Interventions for Tobacco Smoking Cessation in Adults, Including Pregnant Women. American Family Physician. May 15, 2016; 93(10):860A-860G

-要約-
【禁煙に対する行動的介入、薬物的介入のまとめ(Table 1参照)】
 ・妊娠していない成人について
  薬物的介入と行動的介入が推奨される(Grade: A)。
  行動的介入単独、あるいは薬物的介入との併用が禁煙の達成率を上昇させる。

 ・妊娠している成人について
  行動的介入が推奨される(Grade: A)。薬物的介入は推奨されない(Grade: I statement)。
  行動的介入は禁煙達成率を上昇させ、胎児体重を増やし、早産のリスクを減らす。
  薬物的介入(ニコチン置換療法、ブプロピオン、バレニクリン)は禁煙の達成や、周産期の子のアウトカムに対してエビデンス
  不十分あるいはない。

 ・全ての成人について
  電子ニコチン送達システム(電子タバコなど。electronic nicotine delivery systems;ENDS)は推奨されない (Grade: I statement)。
  ENDSは禁煙あるいは周産期の子のアウトカムに対してエビデンスが不十分である。

【臨床での考察】
 妊娠中の女性について
 ・行動的介入(カウンセリング、フィードバック、健康教育、動機づけ、社会的サポート)が効果的である。
  通常ケアやコントロールと比べて、行動的介入は禁煙率を11%から15%へ引き上げる。
 ・行動的介入がうまくいかなかった女性に対して、他の禁煙オプションは有効かもしれない。いくつかの研究で、ニコチン置換療法が周産期の子の
  健康アウトカムに有用だとエビデンスを示している。その結果は主に潜在的な利益を示しており、全体のエビデンスは非常に限られたもので、
  明確に結論づけることはできない。ニコチン置換療法は妊娠カテゴリーDの薬剤であり、治験や販売後の使用経験から胎児へのリスクが
  示されている。
  しかし、妊娠期間中に喫煙を続けるよりは安全かもしれないと言われている。ブプロピオンとバレニクリンについては研究が見つかっていない。
  これらの薬は妊娠カテゴリーCで、動物実験では胎児への副作用が示されているが、ヒトでは十分な研究がない。
 ・妊婦への薬物的介入については、利益と害のバランスについて明らかなエビデンスがなく、臨床医は各患者に喫煙の重症度を考えて、
  意思共有をした上で治療方針を決めていくことが推奨される。

【開催日】
 2016年5月25日(水)

正常体重で中心性肥満は死亡率とどう関係する?

-文献-
Karine R.et al.Normal-Weight Central Obesity: Implications for Total and Cardiovascular Mortality.Ann Intern Med. 2015;163(11):827-835.

-要約-
【背景】
 中心性肥満とBMI正常である成人の生存率との関係性はよくわかっていない。
【目的】
 中心性肥満かつ正常BMIである者と総死亡と心血管死亡リスクを調べること。
【デザイン】
 層化多段確率抽出法
【セッティング】
 第3次全米健康栄養調査 NHANES III (Third National Health and Nutrition Examination Survey)
【対象】
 18~90歳の15,184人(女性52.3%)
【方法】
 多変量コックス比例ハザードモデルを用い肥満のパターン(BMIとwaist-to-hip ratio (WHR))と総/心血管死亡リスクを交絡因子を調整したうえで求めた。
【結果】
 正常体重かつ中心性肥満者が最も長期生存率が悪かった。例えば、BMI正常(22kg/m2)かつ中心性肥満はBMI正常かつ中心性肥満がない者よりもハザード比1.87[95%CI 1.35-1.62]と最も死亡リスクが高く、肥満気味かつ中心性肥満のない者と比べるとハザード比2.24 [CI, 1.52 to 3.32]もしくは肥満かつ中心性肥満がない者ハザード比2.42 [CI, 1.30 to 4.53]であった。女性では正常体重かつ中心性肥満は正常体重かつ中心性肥満のない者に比べて高い死亡率であった。BMI正常かつ中止性肥満がある者とではハザード比1.48 [CI, 1.35 to 1.62]であり、BMI肥満があり中心性肥満がない者とではハザード比1.32 [CI, 1.15 to 1.51]であった。予測推定生存は年齢とBMIで調整した場合、常に中心性肥満がある者が短い結果となった。  
【研究限界】
 脂肪分布を身体計測でのみしか評価しなかった点。併存疾患を自記式にて情報収集した点。
【結語】
 正常BMIだが中心性肥満の者はBMIにて肥満がある者よりも死亡率が高いことが分かった。またそれは中心性肥満がない者との間で顕著に死亡率の差があった。
【primary funding source】
National Institutes of Health, American Heart Association, European Regional Development Fund, and Czech Ministry of Health

-考察とディスカッション-
 今回は米国大規模コホート研究において正常体重でありながら中心性肥満を有した成人が最も長期生存予後が悪い結果となった。今までのAHA/ACC/Obesity SocietyのガイドラインでもBMIが高値の場合にのみ腹囲を測定するよう推奨されているにすぎず、WHRの計算は推奨されておらず、BMIが正常であれば脂肪分布は全く考える必要がないとされていた。
今回の結果を受けて、研究限界や人種の差、測定の煩雑さなどの適応の限界はあるとはいえ、中心性肥満への関心が自分としては高まった。
 さて、皆さんは今まで中心性肥満をどのように捉え活用されていましたか?また、本結果をどのように臨床現場に活用できそうでしょうか?

【開催日】
 2016年3月16日(水)

胃がん健診目的の胃内視鏡検査

―文献名―
Hamashima C, et al. A Community-Based, Case-Control Study Evaluating Mortality Reduction from Gastric Cancer by Endoscopic Screening in Japan. PLoS One. 2013;8(11):1-6.

―この文献を選んだ背景―
 9年ぶりに本邦の胃がん検診ガイドライン(GL)が改定された。2005年GLは胃内視鏡検査は推奨グレードIで、対策型検診としては薦められず、任意型検診においては△であった。
 今回の2014年GLでは、胃内視鏡検査は推奨グレードB、対策型検診、任意型検診とともに推奨。検診間隔は2-3年。と変更されている。http://canscreen.ncc.go.jp/
 胃カメラ検診を推奨する根拠となった元論文の一つを選びHCFMの皆様のご意見を伺ってみたいと考えた。

―要約―
【目的】
 胃内視鏡検査によって胃がん死亡率の減少を評価すること

【方法】
 内視鏡での胃がん検診を導入している鳥取と新潟を対象とした症例対照研究
 ・症例群:死亡診断書とがん登録より2003-2006年に鳥取県内の4都市と2006-2010年の新潟市において胃がんで死亡した患者を抽出した。(条件:40-79歳、他疾患を除外、診断日不明を除外)さらに、地区の情報から内視鏡検診歴を確認できるものを症例群とした(Figure 1)
 ・対照群:疾病がない期間が確認でき、同じ移住地で、性別、年齢を条件に割り当てた。
 検診(胃内視鏡検診か胃X線検診)を受診した群を胃がん診断日より12.24.36.48ヶ月にわけて、検診なし群とオッズ比を計算した。Conditional ロジスティック回帰モデルを利用した

【結果】
 症例群は410人(男性288・女性122)で対照群は2292人。
 症例群(胃がん死)で36ヶ月以内に胃内視鏡検診を受けていたのは10.8%、対照群では14.3%が胃内視鏡検査を受けていた。その際の胃がん死亡のオッズ比は0.695(CI 0.489-0.986)であった。他の群では有意差は認めなかった。(Table 2)

【結論】
 胃がん診断日より36ヶ月前に内視鏡検診をうけた人では検診なしと比較して胃がん死亡を30%減少する。

【開催日】
2015年8月5日(水)

患者はどの健康リスクをどのくらい重要と考えているか~構造化された評価からみる健康リスクの患者自身が選ぶ項目と優先度~

―文献名―
Phillips SM,at el.Frequency and prioritization of patient health risks from a structured health risk assessment.Ann Fam Med. 2014 Nov-Dec;12(6):505-13.

―この文献を選んだ背景―
 我々は日々時間がない中で外来診療をしているが、なかなか行動変容にまで結びつけることができないで不全感を抱いてはいないだろうか?効率よくアプローチする手段はないだろうか?今回、それに関するアイデアの一つとなりうる論文を紹介したい。

―要約―
【目的】
 頻度と患者が記述した変化への受け入れを記述し、プライマリケアでの13の健康リスク因子の重要性を議論すること。

【方法】
 9つのプライマリケア診療所の患者1707人がMOHR(My Own Health Report)  trialの一環でgeneral(一般的な)、behavioral(行動上の)、psychosocial(心理社会的な)リスク因子を報告した。BMI、健康の状態、食事、身体活動、睡眠、薬物使用、ストレス、不安または心配、抑うつである。我々はそれぞれの回答をat riskかhealthyに分類した。また、患者が変化するための準備ができているか、かつ/もしくは、ケア提供者と同定されたリスク因子について議論したいと思っているかを示した。患者が最も重要と考えている変える備えがあるリスク因子を1つ選んでもらった。因子ごとや因子間の回答された頻度の解析や患者背景ごとや施設間での多様性を検討した。

【結果】
 患者は平均5.8個(SD=2.12;rage,0-13)の不健康な行動と心理的なリスク因子を持っていた。約55%の患者が6個以上リスク因子を有していた。患者は1.2個について変えたいと考えており、0.7個議論したいと考えていた。最も一般的なリスク因子は不適切な「果物/野菜摂取」(84.5%)、「過体重/肥満」(79.6%)であった。患者は「BMI」を改善したいと考えている人が最も多く(33%)、次いで「抑うつ」(30.7%)であり、議論したがってたのは「抑うつ」(41.9%)、「不安、もしくは心配」(35.2%)であった。結論として、患者は最も重要視していたのは「健康状態」であった。

【結論】
 プライマリケアにおけるルーチンの包括的健康リスク評価でおそらく行動と心理社会的な健康リスクの多くを同定できる。患者の優先度を確認することによって、ケア提供者と患者とが診療をより良くマネジメントでき、行動変容につなげていけるものと考える。

【限界】
 ・ランダム化されていない。一般化可能性も限界がある。(様々な診療圏、患者規模など診療所選択には
  配慮しているが)
 ・その後、医師などへ情報が行き、ケアに活かされるなどの流れが十分患者に伝わっておらず、回答が
  不十分になった可能性がある。
 ・既往歴、通院歴、患者医師関係などを確認していない。
 ・横断研究であるが故、日々の生活を含んだコンテクストや患者医師関係等のリスクを把握できて
  いない。 
 ・時間変化、最終的なMOHRを用いた結果を評価できていない。
 ・リスクの数が多すぎた可能性がある。

―考察とディスカッション―
 家庭医の外来は扱うプロブレムの多さもあり十分な時間はない。その中で患者の関心事、潜在的な問題にしっかりと効率よくアプローチする必要性は大きい。今回、この文献では彼らが健康リスクと考えている事項をピックアップすることができ、かつ改善したいと考えているリスクや、医療者と相談したいと考えているリスクが浮き彫りになった。これは米国の研究であり、全てを目の前の患者にあてはめることは難しいが、一考に値する。また、これらの質問を診療所だけで施行し、介入を行うだけではなく、保健師や他の団体と協力しながら活用することも考えると良いと思われる。

 みなさんならこの情報をどのように活用できそうですか?

【開催日】
2015年7月22日(水)

過去の食環境・経験が現在・未来の食生活へ及ぼす影響

―文献名―
小林 敬子 (日本女子体育大学).去の食に関する環境および体験が 現在および未来の食生活に及ぼす影響.校保健研究 45 ;2003;200-217

―要約―
目的:
過去の食に関する環境および体験が現在の食習慣や未来の家庭的食事に対する意識に与える影響を明らかにする

セッティング:
2002年10-11月
東京都内の私立女子大学

対象:
女子大生(2・3年生) 187名

方法:
 集合調査票を用い、上記対象者に調査用紙に無記名で解答を依頼。
 質問は、過去における食に関する環境および体験、現在における食に関する習慣、未来における家庭的食事に対する意識について、それぞれ16項目・10項目・5項目を実施。
 その結果を用い、上記3つの因果関係を用いて検証した。

結果:
 食に関する要因の因子分析結果を考慮して要因ごとに抽出された因子を説明する質問項目を因子ごとに合成し、過去における食に関する環境及び体験を説明する5項目、現在における食に関する習慣を説明する3項目、未来における家庭的食事に対する意識を説明する2項目の計10項目を用いて分析を行った。その結果採択された因果構造モデルにおいて、過去における食に関する環境及び体験から、現在における食に関する習慣へのパス係数は0.66、現在における食に関する習慣から、未来における家庭的食事に対する意識へのパス係数は0.92と中等度から高い値を示した。
図1:仮説モデル
 150115_1

図2:因果構造モデル 表示
150115_2

結論:
過去における食に関する環境および体験は現在の食に関する習慣に影響を及ぼし、現在の食に関する習慣は現在および未来における家庭的食事に対する意識に影響 を及ぼす。
また過去における食に関する環境および体験は現在および未来における家庭的食事に対する意識には直接的ではなく、現在の食に関する習慣 を介在 し、間接的に影響 している。

【開催日】
2015年1月14日(水)