プライマリケア医の肺癌スクリーニング診療:全国調査の結果より

【文献名】

著者名:Klabunde CN, Marcus PM, et al.
文献タイトル:Lung Cancer Screening Practice of Primary Care Physicians: Results From a National Survey. 
雑誌名・書籍名:Ann Fam Med.
発行年:2012;10(2):102-110.

【要約】

<目的>
現在の診療ガイドラインは無症候の患者に対する肺癌スクリーニングを勧めていないが、いまだ肺癌スクリーニング検査を指示する医師がいる。健康専門職に対する最近の全国調査の中では肺癌スクリーニングに焦点当てたものはない。この研究では、米国のプライマリケア医の肺癌スクリーニング診療と同時に、肺癌スクリーニング検査を指示する医師の特性を調査した。

<方法>
2006~2007年にプライマリケア医全国抽出調査を実施した。郵送された質問紙にて、肺癌スクリーニングガイドラインへの医師の知識、スクリーニング検査の効果に対する信頼感、そして過去12ヶ月の胸部X線、低線量スパイラルCT、喀痰細胞診の指示数を調査した。また、臨床Vignetteを用いて、無症候だが肺癌に対して異なる喫煙歴を持つ50歳の患者に対するスクリーニングの意志を評価した。

<結果>
全962名の家庭医、GP、総合内科医が質問紙に回答した。(協力率76.8%)全体では、38%の医師が肺癌スクリーニング検査を指示せず、55%が胸部X線を指示し、22%が低線量スパイラルCT、5%以下が喀痰細胞診を指示した。多変量モデルにおいては、専門家グループが肺癌スクリーニングを推奨していると信じている、またはスクリーニング検査が効果的だと信じていればいるほど、プライマリケア医には肺癌スクリーニング検査を指示する傾向が見られていた。他にも、相当量の喫煙曝露のない患者も含んだ無症状患者に対するスクリーニングを勧める傾向が強ければ指示しやすく、患者がスクリーニングを依頼する傾向があれば指示しやすかった。

<結論>
米国のプライマリケア医は、専門家グループが推奨しないにもかかわらず、無症状患者に対して肺癌スクリーニング検査を頻繁に指示する。プライマリケア医と患者は肺癌スクリーニングに関するエビデンスの基盤、ガイドライン、潜在的な危険性、そして不適切な指示に伴うコストに関する情報をより多く得る必要がある。

【開催日】
2012年4月4日

日常病・日常的健康問題

【文献名】

山田隆司、吉村学、名郷直樹ら:日常病・日常的健康問題とは–ICPC(プライマリ・ケア国際分類)を用いた診療統計から(第1報)–.プライマリ・ケア:P80−89, Vol.23 No.1 2000

【要約】

<はじめに>
プライマリ・ケアの現場である地域の第一線の医療機関には、様々な健康問題を持った患者が日々訪れる。そこでは患者の医療ニーズに沿った医療の提供が望まれる。プライマリ・ケアの現場では、極めて病初期の患者や多臓器にわたる疾病を同時に抱える患者、病因となる臓器を特定しかねる患者等、一概に臓器別の診療の提供をすれば事が済む患者はむしろ例外的で患者に身近な設定であればあるほど幅広い臨床能力が求められる。最も身近な家庭医、プライマリ・ケア医に地域住民は何を求めているのか、いわゆる地域住民の日常的健康問題、日常病を知る事がプライマリ・ケアを論ずる上での出発点と言える。今回、我々は、地域に単独で存在する、いわゆる僻地診療所の受診患者および往診の要請があった患者、すべての受診理由、診断病名、診療行為等をICPC(プライマリ・ケア国際分類)に則り分類し、1年間にわたって記録、統計解析したので報告する。

<方法>
今回の調査に参加した医療機関は岐阜県久瀬村診療所、春日村診療所、藤橋村診療所、愛知県作手村診療所、愛媛県二名津診療所の5診療所で、いずれも僻地に存在し、地域の唯一の医療機関としてプライマリ・ケア機能を担っている。
  調査研究に参加した7人の医師は、あらかじめICPCに関する勉強会、研修会に参加し、医師間での誤差をなくすように検討した。
  5診療所にあらかじめ、アムステルダム大学家庭医療学講座が開発し、自治医大地域医療学講座が一部修正を加えたコンピューターソフトを導入し、1年間のすべての外来受診患者について、その受診理由、診断病名、診療行為を記録した。
  記録した事項は(1)受診理由:症状や愁訴等、患者が自発的に述べた健康問題をコード分類化し2項目記録、統計資料として保存する受診理由は1番目の愁訴、症状を主訴として記録、(2)診療要求:再診時等で症状や愁訴が特にない場合は何を求めて来院したかを記録、(3)病歴、(4)診断前介入行為、(5)診断病名:当日診断した健康問題の診断病名、診断不可能な場合は主訴、(6)健康問題の新旧の区別:受診当日の新しい健康問題か、以前から継続した健康問題か、(7)旧診断病名:同一の健康問題でその病名が変更された場合の以前の病名、(8)確定診断か否か、(9)診断後介入行為、(10)紹介の有無
  上記の項目を1回の受診につき、健康問題毎に記録した。

<ICPC>
プライマリ・ケアの現場での有効で利便性の高いデータ収集を目的にWONCA分類委員会が開発したもの。特徴は病名分類の項目をプライマリ・ケアの現場で遭遇する頻度に沿って少なくした事、診断病名がつかない時は、症状、愁訴で病名として扱う事、必要に応じて国際疾病分類(ICD)に変換できるよう対比表を完備したこと、国際比較が可能なこと。

<結果>
1.受診回数
 1997年4月1日から1998年3月31日の1年間に、5診療所を少なくとも1回受診または往診した患者は全部で4495人。5診療所の対象人口は住民登録上8116人。およそ55%の人が1年に少なくとも1回は地元の医療機関を受診していることになる。各年齢層毎の受診状況は幼小児、高齢者に高い受診率が見られた(図1)
 全受診回数は総数43137回、受診者一人当たりの平均受診回数は1年間で9.6回。

2.健康問題
 延べ健康問題数は67499件で、1受診あたりの平均はおよそ1.6件。新しく記録された健康問題は10570件、既に有していた健康問題は3971件。初診といえる健康問題が10570件(延べ健康問題数の15.7%)、再診が56929件。
a)すでに有していた健康問題
内訳は表1。いわゆる慢性疾患がほとんどで、対象人口を母数にすると、おおよその有病率を推測できる。
b)新しく記録された健康問題
内訳は表2。年間の発症率を推測することができる。これらはいわゆる日常病と言われる発症頻度の高い疾病群である。
c.臓器別健康問題
内訳は図3。継続的な健康問題、新しい健康問題のいずれも幅広い臓器にわたって健康問題が日常的に見られている。

3.受診理由
 初診時の受診理由(表3)はそれぞれの健康問題のきっかけになるで日常的健康問題といわれるものである。多くの臓器に関与する症状であり、病初期に関与するプライマリ・ケア医にとって、最も重要な情報であり、適切に介入していくことが要求される。

<考察>
今回の調査で地域の第一線の医療機関に従事するプライマリ・ケア医の診療の概略を把握できた。プライマリ・ケア医の労力の多くは慢性疾患の管理に充てられ、内科的な疾患だけでなく老化と関連した多科の疾患、生活習慣病が多く、患者を取り巻く心理社会的背景を適切に理解しないと患者のQOL向上につながらない事が多く、患者に身近なプライマリ・ケア医がこれらを管理する事は意義深い。
  受診理由から、極めて多臓器に渡る愁訴で受診する患者が多く、これらに対して適切な診断技能、治療手技を身につけておく必要性が推測された。

【開催日】
2012年3月28日

一部の抗精神病薬は施設入所高齢者の死亡リスクを高める可能性がある

【文献名】

著者名:Huybrechts K F, Gerhard T, et al.
文献タイトル: Differential risk of death in older residents in nursing homes prescribed specific antipsychoticdrugs: population based cohort study. 
雑誌名・書籍名:BMJ. 
発行年:2012 Feb 23;344.

【要約】

<OBJECTIVE>
To assess risks of mortality associated with use of individual antipsychotic drugs in elderly residents in nursing homes.

<DESIGN>
Population based cohort study with linked data from Medicaid, Medicare, the Minimum Data Set, the National Death Index, and a national assessment of nursing home quality.

<SETTING>
Nursing homes in the United States.

<PARTICIPANTS>
75 445 new users of antipsychotic drugs (haloperidol, aripiprazole, olanzapine, quetiapine, risperidone, ziprasidone). All participants were aged ≥65, were eligible for Medicaid, and lived in a nursing home in 2001-5.

<MAIN OUTCOME MEASURES>
Cox proportional hazards models were used to compare 180 day risks of all cause and cause specific mortality by individual drug, with propensity score adjustment to control for potential confounders.

<RESULTS>
Compared with risperidone, users of haloperidol had an increased risk of mortality (hazard ratio 2.07, 95% confidence interval 1.89 to 2.26) and users of quetiapine a decreased risk (0.81, 0.75 to 0.88). The effects were strongest shortly after the start of treatment, remained after adjustment for dose, and were seen for all causes of death examined. No clinically meaningful differences were observed for the other drugs. There was no evidence that the effect measure modification in those with dementia or behavioural disturbances. There was a dose-response relation for all drugs except quetiapine.

<CONCLUSIONS>
Though these findings cannot prove causality, and we cannot rule out the possibility of residual confounding, they provide more evidence of the risk of using these drugs in older patients, reinforcing the concept that they should not be used in the absence of clear need. The data suggest that the risk of mortality with these drugs is generally increased with higher doses and seems to be highest for haloperidol and least for quetiapine.

【開催日】
2012年3月28日

地域包括ケアの社会理論

【文献名】

猪飼周平:地域包括ケアの社会理論への課題. 2010

【背景】

以前、山田(HCFM)を中心としたインタレストグループ『「地域・コミュニティをケアする」ためのガイドを作りたい!』にて紹介された文献であり、2012年3月14日に「地域包括ケア」のシンポジストを頼まれたことをきっかけに読んでみたところ、地域包括ケアの理論的背景としてかなり共感できる部分があったため、一読をお勧めしたくこの文献を選んだ。

【要約】

<背景>
  現在、「地域包括ケア」という言葉は、日本の保健・医療・福祉関係の間では、次代のヘルスケアシステムを指し示すものとして広まっている。しかし、それらの取り組みが、より大きな文脈においていかなる位置を占めているかという知識に欠けている。たとえば、様々な事例集はそれ自体として単なる道具的知識であり、それぞれの道具が何のための道具なのかも、道具を使って何を制作すべきかも、道具には指示されていない。
  社会理論は、これらの活動を社会の大きな文脈のどこに位置しているかを示す。そしてそれは、実践家に「現在地」を知らせる「地図」のような存在である。本稿はやがて本格的に構築されるべき地域包括ケアの社会理論のためのたたき台を提供することである。

<地域包括ケアを必然化する健康概念の転換>
  現在、ヘルスケアシステムにとっての目標概念である「健康」の常識が、過去と現在で転換が生じてきている。
過去の「健康」とは20世紀初頭に治療医学が発展することによって概念づけられた。そして、その「健康」とは医学的な意味において「病気ではないこと」を意味していた(「医学モデル」)。そのために「健康」を損ねた時の回復手段も医学的治療であり、社会のヘルスケアシステムも医学的に最も病気ではない状態の可能性を追求できるヘルスケアシステムとなった。
しかし、現在の「健康」は徐々に治療医学的な観点ではなく、QOLの高さによって定義されはじめてきた。つまり、「健康」になるためには健やかな生活がもたらされることが目標となってきたのである(「生活モデル」)。そのために、社会のヘルスケアシステムもQOLを向上させることが目標となるヘルスケアシステムに転換してきた。
そのため、今日的状況がヘルスケアへの「生活モデル」浸透の途中段階であると理解することを踏まえると、きたるヘルスケアシステムが地域性と包括性を帯びることが必要となってくる。

<地域包括ケアの特徴>
(1) 地域包括ケアシステムの両極性
  興味深いことに、治療医学の進歩が健康システムに与える影響は、健康概念の転換による影響と干渉しあうというより、補完的な関係にある。というのも、病院がもっぱら急性期患者に対応する傾向を強めていけば、濃厚な治療サービスを必要としない患者は急性期病院の外側(=在宅方向)に押し出されていくことになるが、それは患者を在宅方面に引っ張ろうとする包括ケアシステムの引力と基本的に同じ方向を向いているからである(それぞれの目的は異なっているが)。いずれにせよ、総じて地域包括ケアシステムの形成は、上記の両極における2つの磁場を軸に行われる。
(2) 目的を外部に依存するシステムとしての地域包括ケアシステム
 地域包括ケアシステムは、健康というヘルスケアシステムの目標の定義をシステムの外部に依存するシステムとなる。つまり、健康概念の定義が治療医学から生活の質に換していくことは、医療社会学が警戒してきた医師による患者に対する搾取(ex.医師-患者関係が患者にとって従属的な関係)、医療における社会に対する搾取の可能性の構図から解放されることを意味する。
 他方で、地域包括ケアシステムが生活の質に基づいて健康を定義するということは、強度に自己決定に依存するヘルスケアシステムになると考えられる。つまり、人々の「生存権」よりも「自由権」に基づくヘルスケアシステムとなり、望む、望まないにかかわらず、システム自体が人々に自己決定を要請することになる。
(3) 高級なヘルスケアシステムとしての地域包括ケアシステム
  地域社会では、施設ではカバーできないニーズに対応することが可能であるので単純には比較できないが、少なくとも、あえて効率性の低い場所でケアが展開されるという側面があることは否定できない。したがって、より大きな経済的・社会的コストの負担が発生することは否めないという特徴がある。

【開催日】
2012年3月14日

ICUにおいてチームワークと患者アウトカムは相関する

【文献名】

Susan A Wheelan, Christian N. Burchill and Felice Tilin : The Link Between Teamwork and Patients’ Outcomes in Intensive Care Units AJCC 2003;12:527-534

【要約】

ABSTRACT

<Background>
Links between teamwork and outcomes have been established in a number of fields.
Investigations into this link in healthcare have yielded equivocal results.

<Theoretical perspectives>
In the context of social science literature, levels of teamwork and productivity have been linked to the concept of group development. The accumulated research evidence supports the general conclusion that groups move through 5 stepwise stages of development. Groups functioning at higher stages of development are more productive and more effective than groups at lower stages in accomplishing group goals.
The initial stage of development focuses on issues of inclusion and dependency; during this stage, members attempt to identify behavior acceptable to the leader and other group members.
The second stage described as a period of counterdependency and conflict. During the second stage, issues of power, authority, and competition are debated. Conflict with the leader and adequate resolution establish connection and openness among members. This stage also provides the opportunity to clarify areas of common values.
The third stage is devoted to the development of trust, increased collaboration and teamwork, and
more mature and open negotiation about goals, roles, group structure, and division of labor. 
The fourth, or work, stage is characterized by increases in group effectiveness and productivity. 
Groups that have a distinct ending point experience a fifth stage. Impending termination may cause disruption and conflict. Increased expression of positive feelings also may occur, and separation issues are discussed.

<Objective>
To examine the relationship between the level of self-identified teamwork in the intensive
care unit and patients’ outcomes.

<Design> 
Cohort study with questionnaire.

<Method>
A total of 394 staff members of 17 intensive care units completed the Group Development
Questionnaire and a demographic survey. The questionnaire is a reliable and valid measure of team
development and effectiveness. Each unit’s predicted(from APACHE III system) and actual mortality rates for the month in which data were collected were obtained. Pearson product moment correlations and analyses of variance were used to analyze the data.

<Results>
Staff members of units with mortality rates that were lower than predicted perceived their
teams as functioning at higher stages of group development(Table 6). They perceived their team members as less dependent and more trusting than did staff members of units with mortality rates that were higher than
predicted. Staff members of high-performing units also perceived their teams as more structured and
organized than did staff members of lower-performing units.

<Conclusion>
The results of this study and others establish a link between teamwork and patients’
outcomes in intensive care units. The evidence is sufficient to warrant the implementation of strategies
designed to improve the level of teamwork and collaboration among staff members in intensive care
units.

【ディスカッション】

I think this article is very important because it presented the direct association between teamwork and the patients’ outcome. We must pay attention to the deference of the setting, but the outcome to educate the co-ordination competency is indirectly shown.

【開催日】
2012年3月20日

PSAによる前立腺癌のスクリーニング:前立腺癌死亡率をアウトカムとした11年間の追跡結果

【文献名】

Prostate-Cancer Mortality at 11 Years of Follow-up
F.H. Schroder and others(N Engl J Med 2012; 366 : 981 – 90.)

【背景】

PSA検診は男性のがん検診として、一般的に用いられているが、USPSTFでは「死亡率の減少は期待できない」として推奨されている検査ではない。調べてみるとその根拠として米国のProstate,Lung,Colorectal,and Ovarian Cancer Screening Trial(PLCO)と、欧州のEuropean Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)の2つの無作為化比較対照試験における結果が相反する結果となったため、USPSTFはPSA検診後の過剰治療などの不利益を問題視すべきだと判断し「推奨しない」という判断になったようだった。今回そのERSPCのさらに2年追跡した論文が出ていたので読んでみることとした。

【要約】

<背景>
 前立腺癌の死亡率に対するPSA検査の効果を評価したいくつかの研究は異なる結果を示している。
欧州前立腺癌スクリーニング無作為化試験(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer)において,さらに 2 年間の追跡調査による最新の前立腺癌死亡率を報告する。

<方法>
研究はエントリー時に 50~74 歳であった男性 182,160 例で,事前に規定した 55~69 歳のコアな年齢群の162,388 例で行われた.この試験は欧州 8 ヵ国で行われた.スクリーニング群に無作為に割り付けられた男性には PSA スクリーニング検査を施行し,対照群の男性にはそのようなスクリーニングは施行しなかった.転帰は前立腺癌死亡率とした.

<結果>
コアな年齢における11年の追跡調査では、スクリーニング群における前立腺癌死亡リスクの相対的減少は 21%(rate ratio,0.79; 95% confidence interval [CI], 0.68 to 0.91; P = 0.001)であり、コンプライアンスの悪い人を補正すると29%であった。死亡数のARは1,000 人年あたり 0.10 例で,無作為化された男性 1,000 例あたり 1.07 例であった.追跡調査 10 年目・11 年目における前立腺癌死亡のRRは 0.62(95% CI 0.45~0.85,P=0.003)であった.追跡調査 11 年の時点での前立腺癌死亡を 1 例予防するには,1,055 例にスクリーニングへの参加を呼びかけ(the number of men who would need to be invited (NNI)),前立腺癌 37 個を発見する必要がある(the number of prostate cancers that would needed to be detected (NND))と考えられる.全死因死亡率に群間で有意差は認められなかった.

<結論>
さらに 2 年間の追跡調査の解析により,PSA 検査に基づくスクリーニングを行うことで前立腺癌死亡は有意に減少するが,全死因死亡への影響はないという以前の結果が裏付けられた.

【開催日】
2012年3月21日

中等症?重症の認知症に対するドネペジルとメマンチンの効果

【文献名】
Robert Howard, M.D.  Donepezil and Memantine for Moderate-to-Severe Alzheimer’s Disease : NEJM 2012 ;366:10 893-903

【要約】

<Background>
Clinical trials have shown the benefits of cholinesterase inhibitors for the treatment of mild-to-moderate Alzheimer’s disease. It is not known whether treatment benefits continue after the progression to moderate(MMSE5~9)-to-severe(MMSE10~13) disease.

<Methods>
Design was multicenter, double-blind, placebo-controlled, clinical trial with two-by-two factorial design. The researchers assigned 295 community-dwelling patients who had been treated with donepezil for at least 3 months and who had moderate or severe Alzheimer’s disease (a score of 5 to 13 on the Standardized Mini?Mental State Examination [SMMSE, on which scores range from 0 to 30, with higher scores indicating better cognitive function]) to continue donepezil, discontinue donepezil, discontinue donepezil and start memantine, or continue donepezil and start memantine. Patients received the study treatment for 52 weeks. The coprimary outcomes were scores on the SMMSE and on the Bristol Activities of Daily Living Scale (BADLS, on which scores range from 0 to 60, with higher scores indicating greater impairment). The minimum clinically important differences were 1.4 points on the SMMSE and 3.5 points on the BADLS.

実際
①D○ M×  = D10mg                               +  placebo M
②D×  M×  = D5mg(week1?4) → placebo D(week5?) +  placebo M
③D× M○  = D5mg(week1?4) → placebo D(week5?) +  M5mg→5mg up/wk →20mg max
④D○ M○  = D10 mg               +  M5mg→5mg up/wk →20mg max

<Results>
The baseline characteristics of the participants in four treatment groups were broadly similar.
Patients assigned to continue donepezil, as compared with those assigned to discontinue donepezil, had a score on the SMMSE that was higher by an average of 1.9 points (95% confidence interval [CI], 1.3 to 2.5) and a score on the BADLS that was lower (indicating less impairment) by 3.0 points (95% CI, 1.8 to 4.3) (P<0.001 for both comparisons). Patients assigned to receive memantine, as compared with those assigned to receive memantine placebo, had a score on the SMMSE that was an average of 1.2 points higher (95% CI, 0.6 to 1.8; P<0.001) and a score on the BADLS that was 1.5 points lower (95% CI, 0.3 to 2.8; P=0.02). The efficacy of donepezil and of memantine did not differ significantly in the presence or absence of the other. There were no significant benefits of the combination of donepezil and memantine over donepezil alone.  ※The minimum clinically important difference in scores on the SMMSE was 1.4 points, on the BADLS was 3.5 points. <Conclusions> In patients with moderate or severe Alzheimer's disease, continued treatment with donepezil was associated with cognitive benefits that exceeded the minimum clinically important difference and with significant functional benefits over the course of 12 months. 【開催日】 2012年3月14日

子供と一緒に食事していますか?

【文献名】

Is Frequency of Shared Family Meals Related to the Nutritional Health of Children and Adolescents? PEDIATRICS Vol. 127 No. 6 June 1, 2011 pp. e1565 -e1574

【要約】

<Objective>
To examine the frequency of shared family mealtimes in relation to nutritional health in children and adolescents.

<Method>
 Four search engines were used to systematically locate empirical research: PubMed, PsycINFO, Web of Science, and the Cochrane Database of Systematic Reviews, conducted in 2009 with no year restrictions.
 Three categories were constructed on the basis of reported outcomes: weight status, food consumption, and disordered eating. Flowchart of the study-selection process is shown at Figure1. 
Meta-analytic methods were used. Pooled odds ratios were calculated. A random-effects model was used to estimate all outcomes.

<Results>
  Table 1 lists descriptive information for the 17 included studies. The studies were conducted in the United States (n=12), Australia(n=1), Canada (n=1), Finland(n=1), Japan (n=1), and New Zealand(n=1). Fifteen studies reported cross-sectional findings, and 5 reported longitudinal findings. Analyses were performed separately for cross-sectional and longitudinal studies. The total sample size for all studies was 182 836 children and adolescents (mean sample age: 2.8 ?17.3 years). 
  Thirteen studies reported on the percentages of family meals, and the majority of families had meals together 5 to 7 nights per week (52%), 31% shared 1 to 4 meals together, and 14% did not share any meals together.
The frequency of shared family meals is significantly related to nutritional health in children and adolescents. Children and adolescents who share family meals 3 or more times per week are more likely to be in a normal weight range and have healthier dietary and eating patterns than those who share fewer than 3 family meals together. In addition, they are less likely to engage in disordered eating. Benefits include a reduction in the odds for overweight (12%), eating unhealthy foods (20%), and disordered eating (35%) and an increase in the odds for eating healthy foods (24%). (Table2)
  Two of the all five longitudinal studies had 5-year follow-ups, whereas the others reported on 3-year and 2-year follow-ups. Of the 4 studies that reported on longitudinal findings, only 1 reported significant findings. However, the OR for the meta-analysis is significant (0.93 [95% CI: 0.90?0.95]), which suggests that shared family meals are associated with 7% odds of reduction of overweight and disordered eating. (Figure2)

<Conclusion>
The results of this study suggest that shared family mealtimes offer nutritional benefits to family members. Health professionals are advised to encourage families to eat meals together.

<Limitation>
 Future studies should develop interventions for families that struggle with health issues such as obesity and disordered eating and add focus on family mealtimes as a setting in which to promote better nutrition habits.
  The longitudinal studies included in this meta-analysis were few and focused mainly on overweight; more longitudinal studies need to be conducted to shed light on the potential long-term relationship between family meals and nutritional health.
Specific mechanisms of how family mealtimes influence related nutritional outcomes should be investigated.
  Future research should include more precision in the measurement of not only the frequency of family mealtimes but structural aspects of the family and who is present during meals.

【開催日】2012年3月7日

人にかかわる営みの本質―自分自身をどう整えるか

【文献名】

「心理療法における支持」 青木省三 塚本千秋編著 日本評論社 2005年

【背景】

元々、心理療法やカウンセリングの基本姿勢である支持療法については関心があった。たまたま今回、第8回笑い療法士発表会の特別講演として「人にかかわる営みの本質―自分自身をどう整えるか(日本臨床心理士会会長 村瀬嘉代子先生)」のプログラムがあり自己研修として聴講した。臨床医の姿勢として更なるヒントを得るため上記を読んだため共有する。

【要約】

人は誰しも自分の存在を受け入れられ、自分の素質に相応して自己を発揮し、主体的かつ自律的でありたいと、願う。この願いが満たされることは人として尊厳を保つ上で不可欠のものであろう。心理的援助を受ける際にも、可能な限り患者の自尊心が護られるようでありたい。その意味で、患者を温かく受容し、不安や緊張、恐怖などを取り除く際に、その苦悩に関心をよせ共感を抱きつつ「支持」することは、適用対象を選ぶことなく、心理療法的アプローチの普遍的・本質的な特性である。ところで言葉で規定することは容易であるが、いかに「支持」するか、その仕方は対象者の個別的特徴によってきわめて多様であること、さらに心理的援助関係とは、治療者の側が自分の営為は治療だ、支持的だと考えることが、相手によっても同様に受け取られなければならないという事情がある。
支持療法とは…(新版精神医学辞典より)支持的精神療法とも呼ばれ、一般的には患者の無意識的葛藤やパーソナリティの問題には深く立ち入らないことを原則とし、患者を情緒的に支持しながら援助し安定した信頼関係にもとづき、自我機能を強化するとともに本来の適応能力を回復させ現実状況への最適応を促す治療法である。したがって支持療法は、歪んだ自我の防衛機制や無意識的葛藤、パーソナリティの再統合を図る精神分析療法に代表されるような洞察療法に対比される精神療法である。つまり、これは人のこころの真相に触れることに畏れを知る謙虚さを基底とした「とりあえず現実的に対処する臨床の知と技」といえよう。しかし現実のケースでは、支持的なアプローチによって患者が自発的に自己の内面へ洞察が生じることがしばしば経験され、両精神療法は重複する部分がかなりある。

―心理療法が支持的でありえるための条件―

①患者の人格を認める、自尊心を大切にする
 社会の中で関係性と歴史をもった全体性のある存在として出会う。対等に人として遇する。

②人間の潜在可能性に注目する
 病気や病理、問題行動ばかりではなくて。

③的確な見立て
 治療者の視点から見るアセスメントに加えて、患者自身が自分や外界をどのように捉え体験しているか、本人が望んでいる方向に留意する。
④治療者にのぞまれる資質
 自分の内面に生起する考えや感情を善きことも悪しきことも素直に自覚する。あらゆることに開かれ、こころの窓を多く持つ。

⑤治療的距離
 治療者は治療過程のそれぞれの節目の特徴に応じて様々な距離でクライエントとかかわることになる。いずれの局面においても、治療者・クライエント関係はベッタリ浅く親しい関係ではなく、的確な理解に裏打ちされた信頼関係でありたいこの自分の治療的距離をいかに把握するか。これは治療の過程途上、共感と観察という二つの矛盾した態度を同時にとること、自分の半身を相手と感情を道具にしながら交流させ、他の半分は醒めた状態でこの交流の諸相を捉えていなければならない。

⑥治療者の自己覚知と言葉
 さりげない一言がインパクトをもって患者に伝わり支えとなることがある。一方、良かれと考えた治療者の言動が相手に届かずに霧散してしまうことや、相手を傷つけてしまうことがある。治療者は自分の用いる言葉の内包している意味を生き生きと具体的に思い描けるよう自分の言葉にしているであろうか。その言葉の意味を一度自分の体の中をくぐり抜けさせるような追体験してそして再度その言葉の意味を突き放して考えてみる、という過程をへて自分の言葉にすることが望まれる。平易な表現だけれども意味する内容は的確で深い、そして無理がない、そういう表現を目指していくことが求められよう。
治療者のこころの深さ、言い換えると治療者が自分を正直に洞察し、自分の課題を引き受けようとしている、その程度に応じて、相手のこころがわかるのであろう。

【開催日】2012年3月7日

WONCA Europeの2011年版の家庭医療の新定義(6年ぶりの改定)

【文献名】

THE EUROPEAN DEFINITION OF GENERAL PRACTICE / FAMILY MEDICINE
WONCA EUROPE 2011 Edition

【背景】

2011年12月号の日経メディカルの葛西先生(福島県立医大)と草場理事長の対談記事で、”欧州各国の家庭医療学会が加盟するWONCA(World Organization of Family Doctors)Europeの家庭医療の定義(2011年改訂版)は「個人、家族、地域を志向する人間中心のアプローチを展開する」「地域の健康への独自の責任を持つ」「患者のエンパワーメントを促進する」など12項目の専門的特徴を掲げています。
これらの専門性は時代の変化に応じて変わってきました。”とあり、2005年と比較して何が変わったのか早速ダウンロードして読みこんでみた。

【要約】

WONCA欧州の定義する家庭医の6つのコアコンピテンシーとそれに付属する家庭医の12の特徴、特徴に合わせた能力は以下のとおりである。
2005年と比較しての変化については下線で記した。

1) Primary Care Management:プライマリケアを提供するためのマネジメント
(a) 全ての健康問題を扱う際に、ヘルスケアシステム中でまず最初に医学的な出会いをする場であり、そのために利用者にとって開かれていて制限を受けないアクセスが提供されている
(b) 協調されたケア、プライマリケアの場での多職種との協働、そして患者が必要とした時に擁護者としての役割として他の職種との仲介を行い、ヘルスケアの資源の効果的な利用を図る

2) Person-centered Care:人間個人を中心としたケア
(a) 患者個人、そしてその家族や地域に基づいて人間個人を中心にしたアプローチを発展させ提供する
(b) 患者の持つ力を強める (2005年には無かった特徴)
家庭医療は患者の持つ潜在的な力や自己管理能力を強めるという目的を促進するための戦略的な立場にある。
長期間のケア、多職種協働での関わり、独特な外来プロセスと信頼に基づいた強固な関係性、人間個人を中心にした医療、
これらは患者の持つ力を強めるための持続的かつ教育的なプロセスの始発点となる。
(c) 医師患者間の効果的なコミュニケーションを通して長期間の関係性を構築するという独特の外来プロセスを持つ
(d) 長期間のケアの継続性のための準備や対策に責任を持つ

3) Specific Problem Solving Skills:家庭医特有の問題への解決スキル
(a) 地域の疾患の有病率や罹患率に基づいた臨床推論と意思決定を行う
(b) 疾患の初期の未分化な状態にも対応する

4) Comprehensive Approach:包括的なアプローチ
(a) 患者個人の急性と慢性の健康問題に同時に対応する
(b) 適切かつ効果的な関わりによって健康と福利(幸福と利益)の両方を促進する

5) Community Orientation:地域志向
(a) 地域の健康に対する特有の責任を持つ

6) Holistic Modeling: 全体論的な表現の実践
(a) 健康問題は身体的・精神的・社会的・文化的・実存的な多次元の中で扱われる
2005年ではHolistic Approachであったが、2011年ではHolistic Modelingと変更(図のみ)

これに加えて、上記の能力を教育したり学んだり、また家庭医療の実践の中で発揮するための家庭医の三つのアプリケーション機能が示されれている

1. 背景的側面:医師自身やその職業的な環境という背景についての理解
-勤務している地域への影響について理解する
-患者へのケアの仕事量とそのケアを役立てるための医療機関に対する仕事量の全体の影響に気づく
-臨床で必要な経済的・法的なフレームワークについて理解する
-医師の個人住宅や職場環境が提供するケアに及ぼす影響について理解する

2. 態度的側面:医師のプロフェッショナルとしての能力、価値観、感情や倫理観に基づく
-自身の能力や価値観について気付く
-自身について気付く
-個人的な倫理観を正しくし、明確にする
-仕事とプライベートの相互の影響に気づき、それらの良いバランスを取ろうと努力する

3. 科学的側面:批判的かつ研究を基盤としたアプローチに適用する。それは生涯学習と質改善を通して実践し維持する
-科学的研究の一般原理、方法論概念、基本的戦略についてたしなむ
-病理学、症候論、治療学、臨床疫学、意思決定理論、仮説形成・問題解決の理論や予防医学についての知識を持つ
-医学情報を読み批判的に吟味するためのアクセスを容易にしておく
-生涯学習と質改善の力を発展させ維持する

【開催日】
2012年2月29日