第三版Patient-Centered Medicineのまとめ 臨床技法、教育、チームワークのPCM、その研究結果

―文献名―
Stewart, Brown, Weston, Mcwhinney. Patient-Centered Medicine Transforming the Clinical Method. Radcliffe Medical Press(2014)

―要約―
PCM第3版のまとめ~2版からの変更点~
1. コンポーネントが6つから4つに
「予防と健康増進」「現実的になる」の2つがなくなり、別のコンポーネントや章に組み直された。
またコンポーネント4「医師患者関係を深める」では”信頼””癒しと希望””自己認識の実践知”について加筆されている。

2. 第1のコンポーネントに”Health”の探索が加わった
DiseaseとIllnessの探索にHealthが加わった。
健康観や人生の意味を尋ねることの重要性がCassellの知見を基に大幅に加筆されている。

3. 第2版でのコンポーネント4「予防と健康増進」がコンポーネント1と3に組みいれられた
健康増進と疾病予防は”Health”の探索と同時に行い、その価値や信念について尋ねるプロセスとしてコンポーネント1に、また実際にそれをAgendaとして扱うプロセスはコンポーネント3にそれぞれ組みいれられた。

4. PCMの教育についてアップデートされつつ、カリキュラム作成についての章が消えた
チームワークの教え方やケースを使った教育、FeedbackのSNAPPSの枠組みなど加筆されている。

5. 第2版でのコンポーネント6「現実的になる」のTeamのところが新たな章『ヘルスケアのコンテクストと患者中心のケア』として昇格
新たな章:Part 4『The Health Care Context and Patient-Centered Care』としてTeam-Centered ApproachとHealth Care Costが加わった。
Teamの所では、患者中心の医療を実践するためにPCMの臨床と教育を並行して進めることは過去の方法で、新たにチームの機能を強調し、臨床・教育と同様のモデルでチーム医療について記述している。

6. PCM研究で具体的なPCMのエビデンスの集積が記載されている
これまでの研究結果から、ケアのプロセス、医療者の行動、患者のアドヒアランス、健康の質そのものの改善が詳述されている。

―考察とディスカッション―
後期研修目標の議論で中心として扱ったコンポーネント1.2.3.5がそのまま新しいコンポーネントになっていることは今までのHCFMの実践と教育と一致しており心強く感じた。

PCMの4つのコンポーネントが教育のみならずチームにも適応され、臨床と教育の2つを並行して扱うのみならず、臨床と教育とチームワークという3つを並行して扱うという書籍の構成は、ORSCなどでHCFMが扱っているテーマ・課題と一致しており今後の取り組みへのヒントになると感じた。

また教育面のアップデートについても後期研修会議などで指導医で共有し、今後のレジデンシー教育に反映していきたい。

【開催日】
2014年5月7日(水)

新たなコレステロールガイドラインの人口ベース標本への適用

―文献名―
M.J. Pencina and Others, Application of New Cholesterol Guidelines to a Population-Based Sample, NEJM, April 10, 2014; 1422-1431

―要約―

【背景】
米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC-AHA)によるコレステロール治療ガイドライン2013では、心血管疾患の予防にスタチン療法の適応が拡大されている。

【方法】
2005~2010年の全米健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、新たなACC-AHAガイドラインではスタチン療法が推奨される人の数を推定し、危険因子プロファイルを要約して、ATPⅢのガイドラインに基づく場合と比較した。得られた結果を米国の40~75歳の人口1億1540万人に外挿した。

【結果】
ATPⅢガイドラインと比較して、新ガイドラインに基づいた場合には、スタチン療法を受けている人、またはスタチン療法の適応である人数は、4320万人(37.5%)から5600万人(48.6%)に増加する。この増分のほとんど(1280万人中1040万人)は、心血管疾患のない成人が占める。60~75歳の心血管疾患がなくスタチン療法を受けていない成人において、スタチン療法の適応である割合は、男性は30.4%から87.4%に、女性は21.2%から53.6%に上昇する。これは主に、心血管イベントの10年リスクにのみ基づいて分類される成人の数の増加によって生じる。新たにスタチン療法の適応となる人は、女性よりも男性が多く、血圧は高いがLDLコレステロール値が著しく低い人が含まれる。新ガイドラインに基づいた場合には、将来的に心血管イベントが起こることが予測されるより多くの成人にスタチン療法が推奨される(感度が高い)が、将来的にイベントが起こるとは予測されない多くの成人も対象となる(特異度が低い)。
Figure1,2参照.

【結論】
 ACC-AHAによるコレステロール管理に関する新たなガイドラインによって、スタチン療法の適応である成人の数は、1280万人増加する。そして、その大部分は、心血管疾患のない高齢者である。

―考察とディスカッション―
概に日本人に適応できないが、ACC-AHAのガイドラインに準じた治療選択を行うと日本人においてもスタチン療法の適応となる対象が増加することが予想される。特に対象の拡大が予想される60~75歳の高齢者については、日本動脈硬化学会のガイドラインでも薬物療法の妥当性は記載されているが、副作用や薬物相互作用などに留意するように強調されている。
今回の文献で示されたデータも踏まえて、新ガイドラインの日本人への適応について、それぞれの考えや意見を聴取し、さらに理解を深めたいと思う。

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Figure.1

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Figure.2

【開催日】
2014年4月23日

贈り物の心理学~皆さんは患者さんからの贈り物をどう捉えていますか?

―文献名―

「贈り物の心理学」 成田善弘著 名古屋出版会 2003年

―要約― 

P89 この頃病院に「職員に対するお心付けは固くお断りする」という張り紙をみる。患者からの贈り物をある種の賄賂とみてそれを拒絶する、正当な料金以外は受け取らないという姿勢であろう。
また近年は患者の権利意識が高まり、患者は医療の施しをうける存在ではなくユーザーであると考えられるようになり、医療が商品視されるようになると、買い手である患者が、売り手である医療者に贈り物をするなどは考えられなくなりつつある。しかし、わが国には様々な時や場合に贈り物を贈るという習慣が定着している。他家を訪問するには手みやげを携えていくのが常識とされているし、世話になった人たちへの中元、歳暮を贈る事は慣習になっている。医師に贈り物をする患者の中には、医師に世話になっていると感じている人もいるであろう。そういう患者達は医療を商品と見なすのではなく、そこに医師の善意や尽力を感じているのだろう。

P91 ある時期から方針を変更し、常識の範囲で判断して特別に高価な物でない限りよろこんで受け取ることにした。というのは、贈り物を謝絶することで患者との関係が安定する事は少なく、むしろ患者を傷つけ関係を不安定にする場合が多いと感じたからである。贈り物を贈るのは、歴史的、文化的慣習であり、また医師の善意や尽力に対する謝意であり、さらには贈り物を通して、自分の気持ち(感謝・愛)、人格が医師に伝わる事を望むからである。それを断ることは、医師が患者とは歴史と文化を共有しないと告げることであり、自分の行為は善意に基づくものではなく、単なる業務であり商品の提供だと告げることであり、患者の気持ちや人格は受け取らないと告げることである。

P94 (精神療法)治療中の贈り物は一般に無意識的に動機付けられた行為である。患者は自分が価値あると思う何らかの好ましい現実の経験を治療者にも共有して欲しいという願望は意識している。しかし贈り物が、治療者に自分の現実世界の喜びを共有する現実の対象になってほしいという願望を表していることには通常まったく気付いていない。

P175 贈与交換は単なる物のやりとりではない。ものを媒介として贈り手と受け手のコミュニケーションである。ものを贈る側も受け取る側も、好意や信頼に根ざした人格的関係によって結ばれ、双方の間には互酬性の原理もしくは互酬性の規範によって、返済の期待や返済の義務が生じる。贈り手は受け手に返済を期待し、受け手は贈り手に返済の義務を負う。こうした交換当事者双方の思惑や感情が錯綜する結果、贈与交換の生活はますます複雑になっている。
(内観療法は、してもらったらして返すのが当然という事が前提として強調されている日本であるため発達したのかもしれない)

日本社会では、ハレの日に食物をやりとりすることは多い。日本語の「もらう」という言葉は、元々は多くの人が食物によって不可分の関係を結ぶ事を意味したという。人と飲食を共にするという事から「酒もり」の語もできたという。

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【開催日】
2014年4月23日

Outcomes of Medical Emergencies on Commercial Airline Flights

―文献名―

Peterson DC, M.D., et al.  N Engl J Med ;368:2075-83,2013 

―要約―

【背景】
世界では、毎年 27 億 5,000 万人が民間航空機を利用する。飛行中に医学的緊急事態が発生した場合には,医療へのアクセスは限られる。飛行中の医学的緊急事態と、その転帰を報告する。

【方法】
2008 年 1 月 1 日~2010 年 10 月 31 日に、5 つの国内・国際航空会社から,医師が指揮する医療通信センターに通報された。飛行中の医学的緊急事態の記録を調査した。頻度の高い疾患と、機内で提供された支援の種類を明らかにした。予定外の着陸地変更、病院への搬送、入院の発生率とそれらに関連する因子を検討し、死亡率を算出した。

【結果】
センターへの通報にいたった飛行中の医学的緊急事態は 11,920 件あった(飛行 604 回あたり 1 件)。頻度の高い疾患は,失神または失神前状態(37.4%)、呼吸器症状(12.1%)、悪心または嘔吐(9.5%)であった。飛行中の医学的緊急事態 の 48.1%では、乗り合わせた医師が医療支援を行い、7.3%では着陸地が変更された。飛行後の追跡データを入手しえた 10,914 例のうち、25.8%が救急隊員によって病院に搬送され、8.6%が入院し、0.3%が死亡した。入院の要因としては、脳卒中の可能性(オッズ比 3.36,95%信頼区間 [CI] 1.88~6.03)、呼吸器症状(オッズ比 2.13,95% CI 1.48~3.06)、心症状(オッズ比 1.95,95% CI 1.37~2.77)の頻度が高かった。

【結論】
飛行中の医学的緊急事態のほとんどは、失神,呼吸器症状、消化管症状に関連し、医師が任意で医療を提供する頻度が高かった。着陸地変更または死亡にいたった飛行中の医学的緊急事態は少なく、飛行中に医学的緊急事態が発生した乗客の 1/4 は病院でさらなる評価を受けた。(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた。)

―ディスカッション―

思っていたよりも飛行機内の緊急事態の際に医療関係者が乗っている割合が多かった(医師(48.1%))ことに驚いた。
実際、日本の医師にとられたアンケートでは「航空機の中で『お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか』というアナウンス(ドクターコール)を聞いたときに手を挙げるか?」という質問に対して、 「手を挙げる」と答えたのは4割程度という結果がある。このような結果になった一因としては、対応した場合の責任問題や医療器具が乏しい状況での判断や、自身の判断が運航に与える影響が大きいことに対する不安などが考えられる。

資料
「善きサマリア人の法」
災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない。
→アメリカやカナダで施行されているが日本では法整備なし。

JAL機内の医療用品
・薬剤
注射:生理食塩液、アドレナリン、リドカイン、ブドウ糖、イノバン、アトロピン、ネオフィリン、ハイドロコートン、ブスコパン、メテナリン
内服:ニトロペン、アダラートカプセル、タベジール、タリビット
医療用具:聴診器、血圧計、AED、心電図モニター、血糖測定器、点滴セット、アンビュバッグ、気管内挿管セット、液体吸引セット、異物吸引セット、ネラトンカテーテル
一部国際線のみ

開催日:平成26年4月16日

発達障害児に対するアプローチ

―文献名―
岩間真弓、市河茂樹.かかりつけ医がみていこう common diseaseとしての発達障害.治療.2014;4.Vol.96.増刊号:556-557ページ

―要約―

【はじめに】
2012年度の文部科学省の統計では、発達障害がある児童は全児童の6~9%であることが示された。発達障害は、診断や治療において専門性の高い判断が必要な場合もある。一方、発達障害児の日々の生活のアドバイスや健康相談については、なかなか受診できない専門施設だけでなく、児の住む地域のプライマリ・ケア医が積極的に関わっていくことは大切であり、今後ますます求められていくだろう。

【発達障害とは】
自閉症、アスペルガー症候群その他の汎用性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(2004年の発達障害者支援法)。
特性に応じた支援が受けられれば、十分に能力を発揮できる可能性がある。

a.自閉症
自閉症の児は発語が遅い、対人意識が弱い、かんしゃくが強いということで保護者から相談を受ける事が多い。成長発達の中で、児の言語、運動、社会性の発達にはマイルストーンがあるが、そこから外れているようであれば、まず1~2ケ月後に、成長が認められるかをしっかりとフォローする。そして表1(言語評価を行うべきred flags)に当てはまるようであれば、耳鼻科、言語聴覚士、地域の発達障害者支援センターに紹介しながら言語評価を開始する。対人面やこだわり、コミュニケーションの取り方について早期に関わっていくことで、児がより安心して成長することが可能となる。

b.注意欠陥多動性障害
じっとしていられない、順番が待てない、忘れ物が非常に多いといったことに、保育園や幼稚園などの集団生活の中で気付かれ、相談される事が多い。ただ、「落ち着きのない子」で終わるのではなく、どうしてそのような行動になっているのかを見極め、周囲にも伝える事が大切。伝える情報はなるべく少なくシンプルにする等、本人に合わせた情報の入力の仕方をすることで生活しやすくなる。

【適切な支援】
発達障害とは児の生まれ持った特性であり、治療して治す疾患ではない。また、決まった対応方法があるわけでもなく、児の特性とライフステージに合わせた支援を、医療、保健、福祉、教育および労働などの各関係機関が連携を図りながら提供していく必要がある。各都道府県に、発達障害者支援センターがあるほか、各自治体の子育て支援課が相談を受け付け、近くの療育機関を紹介してくれる。支援における医療の役割としては、医師による診断、特性に合わせた育児方法のアドバイス、薬物療法、言語聴覚士・作業療法士や児童心理士による言語・行動療法や感覚統合訓練などが挙げられる。ADHDに対して治療薬もあり、注意力の向上に一定の効果が期待出来る。発達が気になる児やその育児者の相談に乗り、児にあったリハビリ、子育て支援機関を紹介し療育を開始する。診断が困難な場合は発達支援外来に紹介している。専門医、言語聴覚士、作業療法士、保健師、教員などが集まって児の事を話し合うカンファレンスを実施する。

【おわりに】
発達障害児の診療といっても医師1人の力だけでは出来る事は限られている。日常診療の中で、かかりつけ医が児やその育児者の悩みに気づき、その児にあった支援につなげていく流れをリードしていくことで、児1人ひとりが生まれ持った特性を安心して十分発揮するためのお手伝いができるのである。専門医に紹介した後も、かかりつけ医としてこまめに関わり続けていけば、常に「その児の専門家」として近くで成長を応援し、児がのびのびと成長出来る地域づくりを推進していく事が出来る。

―ディスカッション―

発達障害児に対するアプローチ、支援方法が紹介され、我々家庭医の関わりについても述べられている。寿都での最近の取り組みとしては、5歳児健診前に、家庭医、役場保健師、保育園保育士が集まり、情報の共有をするようにして、すでに診断されている児の最近の動向や、疑いがある児に対する対応策を検討し、健診での対応の改善につなげた。疑わしい児は、家族と相談し、専門医に紹介し、診断がつけば、その後の支援につながっている。しかし、その後、我々家庭医が、紹介した専門医や療法士、児童心理士とうまく連携して、児の特性に合わせた対応が統一して出来ているとはあまり感じられない。今後、このような専門家との密接な連携がより求められるのはないかと感じた。

開催日:平成26年4月16日

さまざまな設定のPSA検査を用いた前立腺がん検診システムモデルの有効性比較

― 文献名 ―
Comparative effectiveness of alternative PSA-based prostate cancer screening strategiesAnn Intern Med. 2013 February 5; 158(3): 145-153. doi:10.7326/0003-4819-158-3-201302050-00003.

― 要約 ―

【背景】
米国予防医学特別作業部会(USPSTF)は最近、PSA検査を用いた前立腺がん検診は不利益が利益を上回るため中止すべきとの勧告を出した。

【目的】
さまざまなPSA検診システムの相対的有効性評価を行う。

【研究デザイン】
様々なPSA検診システムによる不利益と救命効果を定量化した、前立腺がんの罹患および死亡のマイクロシミュレーションシステム

【データ源】
PSA値の上昇、検診と生検パターン、罹患、治療分布、治療の有効性、死亡に関する全米および臨床試験のデータ

【対象集団】
現在の米国人男性コホート

【対象期間】
生涯

【視点】
社会的

【介入】
検診の開始・終了年齢、検診間隔、生検適応のPSA閾値を様々な設定で組み合わせた35種類の検診システム

【主要評価項目】
PSA検査、偽陽性の検査結果、前立腺がんの発見、過剰診断、前立腺がん死、救命数、救命月数 

【基本ケースの解析結果】
検診を実施しない場合、前立腺がん死のリスクは2.68%である。50~74歳の男性に年1回検診を行い、生検適応のPSA閾値を4μg/Lに設定する基準モデルでは前立腺がん死のリスクが2.15%に低下し、過剰診断のリスクは3.3%となる。高齢の男性に対する生検紹介のPSA閾値を高めに設定する戦略を用いると、前立腺がん死のリスク(2.23%)は同程度であるが、過剰診断のリスクは2.3%に低下する。検診を隔年で行い、PSA低値の男性に対する検診の間隔を延ばしたモデルでは、前立腺がん(2.27%)と過剰診断(2.4%)のリスクはほぼ同等であるが、総PSA件数が59%減少し、偽陽性率は50%減少する。

【感度分析の結果】
罹患率の設定値を変えたり、検診の生命予後改善効果を小さくしても結論は変わらなかった。

【限界】
このモデルは前立腺がんの自然史を単純化しており、検診による生命予後の改善効果を確定するものではない。

【結論】
標準的なPSA検診システムモデルと比較し、高齢の男性に対する生検適応のPSA基準値上限設定値を高くするモデル、PSA低値における検診間隔を広げるモデルを用いると、救命効果を維持しつつ不利益を減らすことが出来る。

開催日:平成26年3月19日

Choosing Wisely

― 文献名 ―
 Choosing
Wisely | An Initiative of the ABIM Foundation(http://www.choosingwisely.org/

― 要約 ―

AAFP
 1. 腰痛は最初の6週間はレッドフラッグがないのに画像診断を実施してはいけない。
 2. 軽症から中等症の急性副鼻腔炎は症状が7日以上続いたり、最初の臨床的な改善の後の悪化がない限りは、抗菌薬をルーチンで処方してはいけない。
 3. 骨粗鬆症のスクリーニングは、リスクファクターのない65歳未満の女性や70歳未満の男性ではDEXAを実施してはいけない。
 4. 年1回の心電図やその他の心臓のスクリーニングは、症状のない低リスクの患者では実施してはいけない。
 5. 子宮頸がん検診は21歳未満の女性や非がん疾患で子宮を切除した既往のある患者では実施してはいけない。
 6. 39週以前に、待機的な医学的適応のない分娩誘発や帝王切開は予定してはいけない。
 7. 39週から41週までの間に、子宮頚管の熟化が不十分な場合に、待機的な医学的適応のない分娩誘発は避けるべきである。
 8. 頚動脈狭窄症は無症状の成人患者はスクリーニングしてはいけない。
 9. 子宮頸がんは65歳以上の女性で過去に十分なスクリーニングを受けていた人やその他の高いリスクがない人にはスクリーニングしてはいけない。
 10. 子宮頸がんは30歳以下の女性で、HPVテストのみやHPVテストと細胞診の組み合わせでスクリーニングしてはいけない。
 11. 中耳炎では2歳から12歳までの子どもで、重症症状がなく、経過観察が妥当な場合に抗菌薬を処方すべきではない。
 12. 初発の尿路感染症で2か月から24か月までの子どもにルーチンでVCUGを実施すべきではない。
 13. 前立腺癌はPSAや直腸診でルーチンにスクリーニングすべきではない。
 14. 脊柱側彎症は青年期にスクリーニングすべきではない。
 15. 経口避妊薬の処方のために内診やその他の身体診察を実施すべきではない。

― 考察とディスカッション ―
 Choosing Wiselyは米国の医学会で始まった取り組みである。日本でも、ジェネラリスト教育コンソーシアム出版の書籍が販売されている。実施すべき事をすべきなのは当然であるが、実施すべきでないことにも目を向け、患者さんに適切な選択肢を提示できるようにしたい。

開催日:平成26年3月12日

家庭医療関連の文献におけるシステム・複雑系思考を統合的・歴史的文脈で振り返るレビュー

― 文献名 ―
 Systems and Complexity Thinking in the General Practice
Literature: An Integrative, Historical Narrative Review. Ann Fam Med 2014; 66-74

― この文献を選んだ背景 ―
 臨床医学の中では家庭医療学は他科と本質を異にしている.複雑系の科学という側面でそれがよく語られるが,家庭医療学においてそれがどのように取り入れられ影響を及ぼしているのか,理解を深められるレビューを紹介したい.

― 要約 ―

【目的】
 過去70年,システム/複雑系の科学を扱う理論は学術的思考/研究に大きな影響を与えてきた.このレビューは複雑系の科学が家庭医療学に与えてきた影響を評価することが目的である.
(Figure1は複雑系の科学の発展と家庭医療学の発展を平行して示した図.本文中では「戦後複雑系の科学は多様な分野に適用されていったが,医学は例外とされてきた.家庭医療学によってようやく段階的に医学に適用されてきたのである」とあります.)

【方法】
 以下の方法で文献を検索し,歴史的文脈にそって統合的にレビューを行った.
“complex adaptive systems(複雑適応系)”, “nonlinear dynamics(非線形力学)”, “systems biology(システム生物学)”, “systems theory(システム理論)”といった用語を MeSH “humans”と組み合わせ,2010年12月以前に出版されたgeneral practice/ family medicine(家庭医療)関連の文献に絞った. 16,242の文献が検索され,うち49が家庭医療関連の雑誌に掲載されたものであった.ハンドサーチと雪だるま式検索によりさらに35の文献を得た.全文をレビューしたのちシステム科学と家庭医療を扱う56文献を採用した.

【結果】
 家庭医療学は現れてきたシステム・複雑系理論を4つのステージに分けて取り込んできた.

(Table2)
1995年以前)
 家庭医療学とシステム/複雑系の科学との対話が始まり,臨床現場の観察や臨床上の経験を再度評価する動きが現れた.システム/複雑系の科学が個人や家族,コミュニティの病いを,より効果的にコンテクスト(背景)に基づいて理解することに役立つことへの気づきが生まれた.
 自然科学における研究の「敵」と長く見られてきたコンテクストが,豊かな研究分野となり「知」の創出源となった.

(1995年~2000年)
 家庭医療学の複雑適応系的側面を描写する文献が主であった.システム/複雑系の科学が医療の持つ性質を理解するために大きな力を持つことへの確信が深まり,組織やヘルスケアシステムへの適応にハイライトが当たり始めた時期である.家庭医は個人へのケアの提供のガイドとしてカオス理論を注目し,患者を多変量で非線形で非周期系の存在であるとみなしてケアするようになった.McWhinneyはこの時期,家庭医療の特徴をシステム/複雑系の科学的に以下のように表現し多大な影響を与えた.
① 家庭医療学分野は医師と患者の間にある関係性で定義される.
② 家庭医は人とその人の病との関連について考察する.
③ 家庭医は特徴的な生態系の多様性,非線形性(成長,再生,癒やし,学習,自己組織化,自己超越~McWhinneyはこれをorganismic metaphorと表現した)を受け入れている.
④ 学問分野として家庭医療学は身体と心という二元論を脱却する.
システム/複雑系の科学を取り入れた家庭医療学はヘルスケアシステムの中で重要な学問分野として対等することとなった.

(2000年~2005年)
 家庭医療における診療のシステム力動を描写することに焦点が当たった.研究者はシステム/複雑系の科学を家庭医療学のより広い論点に適用するようになった.コミュニティや職業人としてのリーダーシップ,治療関係などである.

(2005年以降)
 複雑系の科学理論をヘルスケア,ヘルスケア改革,医療の未来に広く適用するようになった.
① より効果的な診療を提供するために病い(illness)と疾患(Disease)を扱う.
② 診療組織の変化をリードする
③ プライマリ・ケアを相互連携の多次元システムであることを理解する
④ ヘルスケア改革へ影響を及ぼす.

【結語】
 この歴史的文脈で振り返るレビューにより複雑適応系理論と関連した家庭医療学の発展が描かれた.そして家庭医療学の原理に流れる哲学やアイデンティティがシステム科学により,より正確に示された.家庭医療学はその(学問としての)境界や範囲を意図的に再構成する過程で経験的なツールを適応する前にまずシステム理論を取り込んだことが示唆された.今後の研究は非線形力学や経験的なモデリングの適用を,患者ケア,診療現場の組織化や発展,コミュニティの発展への関わり,ヘルスケアの改革への影響を及ぼすことなどに力を注ぐことになるだろう.

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開催日:平成26年3月12日

禁煙後のメンタルの変化(システマティックレビューとメタ解析)

― 文献名 ―
Gemma Taylor,et al:Change in mental health after
smoking cessation: systematic review and meta-analysis.BMJ 2014;348 doi

― 要約 ―
【Objectives】 禁煙を続けた場合と比較して禁煙をした後でメンタルにおける変化を調査すること。

【Design】systematic reviewとmeta-analysis

【Date sources】
2012年4月までの関連した研究を以下から検索(Web of Science, Cochrane Central Register of Controlled Trials, Medline, Embase, and PsycINFO)。文献に含まれるreferenceリストから手作業で検索し、データが不十分であれば直接研究者に連絡を取った。検索ワードは”mental health,” “smoking cessation,” “smoking reductionの組み合わせ。

【Eligibility criteria】
・population:一般集団か何らかの臨床診断がついた集団の喫煙者
 ・Exposure:研究期間中に喫煙継続か禁煙をすること
 ・Outcome:禁煙前と禁煙後6週間以上経過した後のメンタルヘルスを測定
 ・Language:言語による除外なし
・ Study design:longitudinal studyのみ(RCTとコホート)

【Results】
不安、うつ、不安とうつの混合、精神的QOL、ポジティブな感情、ストレスを測定するようにデザインされた質問紙にてメンタルヘルスを評価した26個の研究が対象となった。フォローアップ期間は、7週間から9年間であった。不安、うつ、不安とうつの混合、ストレスは喫煙者に比べ、禁煙者において有意に減少した。標準化した平均で不安 −0.37 (95% confidence interval −0.70 to −0.03); うつ −0.25 (−0.37 to −0.12); 不安とうつの混合 −0.31 (−0.47 to −0.14); ストレス −0.27 (−0.40 to −0.13)であった。精神的QOL、ポジティブな感情ではその逆で喫煙継続車に比べ、禁煙者において有意に改善した。精神的QOL0.22 (0.09 to 0.36); ポジティブな感情0.40 (0.09 to 0.71)となった。一般集団と身体疾患、精神疾患を持った集団とで効果の大きさには違いがなかった。

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【Conclusions】
禁煙は不安、うつ、不安とうつの混合、ストレスの改善と関連し、ポジティブな感情とQOLの改善と関連した。効果の大きさは精神疾患を持った集団とそうでない集団で同等であった。この効果の大きさは、気分障害、不安障害患者に抗うつ剤を処方した時の効果と等しいか、それ以上のものであった。

<参考>
 軽症~重症のうつ病患者へのSSRI治療 
−0.17 to −0.11
34個のRCTのメタアナリシスで全般性不安障害患者への抗うつ剤治療 
−0.23 (−0.43 to −0.13)から−0.50 (−0.77 to −0.23)

― 考察とディスカッション ―

①多くの喫煙者はタバコを吸うと落ち着く、気が紛れるため、無くてはならないものだと言う。しかし、本研究では禁煙するほうがむしろポジティブな結果を得られるということであり、今後の有用な情報であった。

②今までうつや不安障害などの精神疾患を有した患者には、禁煙自体が精神的症状の増悪を引き起こすことへの心配があった。しかし、本研究によってこれらの患者でも、ある程度の期間を経たら(今回は6週間以上)、プラスに作用することが分かったため、禁煙指導の対象者や目的が広がったのではなかろうか?

③ただし、本研究は観察研究も含まれるため、因果を証明するには不十分である点にも注意が必要である。

開催日:平成26年3月5日

新規2型糖尿病の成人におけるBMIと死亡率

― 文献名 ―
Body-Mass Index and Mortality among Adult with Incident Type 2 Diabetes
N ENGL J MED 370;3 Deirdre K. Tobias JAN.16,2014

― この文献を選んだ背景 ―
 CQIプロジェクトのピアレビューで、上川チームは旭川チームの作成した糖尿病初診のプロダクトの価を担当した。その中でBMIをチェックしているかどうかの項目があったが、自分の診療を振返っみるとあまりBMIに意識を向けていなかった。糖尿病初診でBMIを知る意義がどれくらいあるのか問に思っていたところ、上川で定期購読しているNEJMに上記論文があったため読んだ。

― 要約 ―

【背景】
2型糖尿病患者における体重と死亡率の関係は明らかにされていないが、一部の研究(特に対象が心不全患者、末期腎不全患者など)では、過体重または肥満の患者の死亡率は、標準体重の患者よりも低い(「肥満パラドックス」)が示唆されているが、その研究の質は低い。

【方法】前向きコホート研究
看護師健康調査(NHS1976年~)と医療従事者追跡調査(HPFS1986年~)から、2010.1.1まにで糖尿病と新たに診断され、診断時には心血管疾患や癌などを有していなかった参加者を対象に検討した。(各8790例、2457例)。また35歳までに糖尿病と診断された物は1型糖尿病の可能性が高いため除外した。BMIが18.5以下も除外した。断直前の体重と身長からBMIを算出した。多変量Coxモデルを用いて、BMI区分ごとに死亡のハザード比と95%信頼区間を推定した。

【結果】
平均追跡期間15.8年の間に,3083例が死亡した。BMI区分と全死因死亡率の間にJ字型の関連が認められた。この関連は喫煙歴のない参加者では線形であったが、喫煙歴のある参加者では非線形であった(喫煙はBMIを下げ、死亡率を上げる方向に影響するため分類した)。糖尿病診断時の年齢が65歳未満であった参加者では、直接的な線形傾向が認められたが、65歳以上であった参加者では認められなかった。(早期死亡(フォロー開始から4年以内の死亡)は診断されていない慢性疾患や脆弱性のバイアスを取り除く一般的な方法。)

【結論】
BMIと死亡率の間には、参加者全体および喫煙歴のある参加者ではJ字型の関連が、喫煙歴のない参加者では直接的な線形の関連が認められた。我々は過体重または肥満の糖尿病患者の死亡率が標準体重の患者よりも低いという肥満パラドックスを見いだせなかった(米国国立衛生研究所、米国糖尿病学会から研究助成を受けた)

【限界】
体重は自己計測なので信用性が低いかもしれない他の人種、文化的コミュニティへの一般化には限界がある

― 考察とディスカッション ―
 この論文によって、糖尿病診断時におけるBMIを喫煙歴とともに確認する事で、患者さんにどれだけのリスクがあるかという事を客観的に説明するひとつの材料となるだろう。ただし有病率が異なるので一概には言えない。

<ディスカッションポイント>
皆さんは普段糖尿病と診断した時BMIは意識していましたが?意識していた方はどう意識していましたか?これを読んで診療は変わりますか?

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開催日:平成26年3月5日