プライマリ・ケアセッティングにおける2つのDVT診断ルールの比較 ~精度とコスト~

【文献名】

Comparing the Diagnostic Performance of 2 Clinical Decision Rules to Rule Out Deep Vein Thrombosis in Primary Care Patients. Eit Frits van der Velde, Diane B. Toll, Arina J. ten Cate-Hoek, et al.  Ann Fam Med 2011;9:31-36





【要約】
【Background knowledge】

1.The Wells rule has 10 items including one ‘subjective’ item: Alternative diagnosis at least as likely as DVT(or, Wells rule is influenced by pretest estimate of the clinician) 
If score is more than 1, ultrasound is indicated regardless of the result of D-dimer testing. 
If score is 0 or 1, ultrasound is indicated if D-dimer test is positive.
2.The primary care rule has 7 items(with no ‘subjective’ items) and D-dimer testing. 
If the score is more than 3, ultrasound is indicated. 
If the score is 3 or less, ultrasound is indicated if D-dimer test is positive.

【Purpose】

The objective was to compare the Well’ rule (Table1) and the primary care rule (Table2).
1.The ability of both rules to safely rule out DVT
2.The ability of both rules to efficiently reduce the number of referrals for leg ultrasound investigation that would result in a negative finding.

【Methods】

A.Study design; Prospective cohort study without control group.

B.Procedures

1. Family physicians collected data on 1,086 patients to calculate the scores for both decision rules before leg ultrasonography was performed. Patients with 1 or more of the following symptoms were enrolled: swelling, redness, or pain of the lower extremity.

2. In all patients D-dimer (dimerized plasmin fragment D) testing was performed using a rapid point-of-care assay. URL;http://www.clearview.com/d-dimer.aspx

3. Patients were stratified into risk categories defined by each rule and the D-dimer result. The actual management was based on the primary care rule as calculated by the attending physician.(Thus, the Wells rule score was only calculated in each patient and not considered in the management.)

4. Outcomes were DVT (diagnosed by ultrasonography) and venous thromboembolic complications or death caused by a possible thromboembolic event during a 90-day follow-up period. We calculated the differences
between the 2 rules in the number of missed diagnoses and the proportions of patients that needed ultrasound testing.

【Results】

A.Overall prevalence;

Data from 1,002 eligible patients were used for this analysis. Of 1,002 patients, 136 (14%) had DVT confirmed by objective testing. Three patients were lost to follow-up.

B.Outcome; Missed diagnosis;

A venous thromboembolic event occurred during follow-up in 7 patients with a low score and negative D-dimer finding, both with the Wells rule (7 of 447; 1.6%; 95% confidence interval [CI], 0.7%-3.3% ) and the primary care rule (7 of 495; 1.4%;95% CI, 0.6%-3.0%).

C.Outcome; The effectiveness of the rules(=The number of D-dimer testing and ultrasound);
Using the Wells rule, 447 patients (45%) would not need referral for further testing compared with 495 patients (49%) when using the primary care rule (McNemar P <.001). (Fig.1 in detail.)
 Fewer patients (22%) need D-dimer testing when using the Wells rule, but 4% more will have to be referred for compression ultrasonography.
Expressed differently, to save 1 referral for compression ultrasonography, an additional 5 or 6 D-dimer tests have to be performed when using the primary care rule.



 【考察とディスカッション】 著者がそれぞれのルールについてコストを計算している。
プライマリ・ケア医がDVTを疑う患者を100人診療したとき
 (1)    プライマリ・ケアルールを適用した場合、Dダイマーのオーダーが22件増え、$220のコストがかかる(1回あたり$10。)
 (2)    Wellsルールを適用した場合、超音波エコーへの患者紹介が4件増え、$240のコストがかかる(1回あたり$60。)
DVTに対するプライマリ・ケアルールが存在することとその有用性を知った。
Wellsルールもプライマリ・ケアルールと同様に有用であるが、超音波エコーへの紹介件数が増える(郡部ではこのことが障壁となりうる)。
 英国ではDダイマーの迅速検査が普及していることに驚いた。 110216_1

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【開催日】
2011年2月16日(水)

2歳以下の子供の急性中耳炎治療に対する抗菌薬の使用

【文献名】

Alejandro,et al. Treatment of Acute Otitis Media in Children under 2 Years of Age. N Engl J Med 2011; 364:105-115




【要約】
【背景】

2歳以下の乳幼児の急性中耳炎の治療における推奨に関してはImmediate antimicrobial treatmentとWatchfull waitingと様々な意見がある。

【方法】

従来よりも厳格なcriteriaで急性中耳炎と診断された生後6~23か月の乳幼児291人を無作為にアモキシシリン・クラブラン酸(以下ABx)投与群とプラセボ群に割り付け、10日間治療を行った。
厳格なcriteriaとは以下の3つを満たすものと定義した。

①48時間以内の発症

②AOM-SOS score 3点以上

③中耳の所見(中耳の浸出液and中等度もしくは重度の鼓膜膨隆or軽度の鼓膜膨隆と耳痛or鼓膜の著明な発赤)


除外基準

他の急性疾患あり/慢性疾患あり/アモキシシリンアレルギー

96時間以内に1つ以上の抗生剤内服歴あり/48時間以上の耳痛/鼓膜穿孔
 
※ AOM-SOS score(0~14点満点)

耳を引っ張る/泣く/不機嫌/寝つきが悪い/活動性低下/食欲低下/熱

各項目 いつもと比べて(none :0点 / a little:1点  / a lot:2点)で回答し合計する。



Primary Outcome

・症状がほぼ消失する(AOM-SOSスコアが0~1点となる)までの期間

・各群のAOM-SOSスコアの平均値の治療開始後7日間の推移



Secondary Outcome

全体的な効果、アセトアミノフェンの使用状況、有害事象の発生状況、鼻咽頭の常在化率

ヘルスケア資源の利用状況

【結果】

291名が2群に分けられ、ITT解析が行われた。

両群の患者層は同等であった。

(1)症状がほぼ消失する(AOM-SOSスコアが0~1点となる)までの期間

ABx群
2日目 20%  4日目 41%  7日目 67%

プラセボ投与群

2日目 14%  4日目 36%  7日目 53%

(2)各群のAOM-SOSスコアの平均値の治療開始後7日間の推移

ABx群が有意に低かった。(p=0.02)

治療修了時点の10-12日目時点でもスコアは平均0.87(95%CI 0.29-1.45,p=0.003)と有意に低かった。

(3)治療失敗率はABx群で優位に低かった。
治療途中の4,5日目 4% vs 23%(P<0.001)
 (4~5日目の失敗の定義: 症状の改善が認められない、耳鏡所見が悪化) 治療終了時の10~12日目 16% vs 51%(P<0.001)
 (10~12日目の失敗の定義: 症状が消失していない、耳鏡所見がほぼ完全に治癒していない) 
 乳様突起炎がプラセボ群で1例認められた。 
(4)10~12日目において、以下の場合に治療成績が有意に悪かった。 ・週に10時間以上、3人以上の子供と接触した(P=0.007)
 ・試験開始時のAOM-SOS scoreが悪い(8点以下と8点より上で分けた場合)(P=0.004) ・両側の中耳炎の場合(P=0.002)
 ・鼓膜がより膨隆している場合(P<0.001) 
(5)21~25日目における再燃または中耳の滲出液の持続
再燃
(10~12日目で臨床的に治療が成功したにもかかわらず、21~25日目で再発した症例) ABx群16%、プラセボ群19% (P=0.56)
 中耳に滲出液の貯留
 (10~12日目で治療失敗と評価された患者にはamoxicillin-clavulanateに加えcefiximeを投与された)
 ABx群50%、プラセボ群63% (P=0.05)
 (6)下痢、オムツ皮膚炎はABx投与群で多かった。
 (7)両群間でStreptococcus pneumoniaeの鼻咽頭の常在率に変化は見られなかった。 【Conclusion】 
急性中耳炎をもった生後6~23か月の乳幼児に対しては、10日間のアモキシシリン・クラブラン酸投与は症状を改善するための時間を短縮し、症状を軽減し、耳鏡検査の急性感染徴候の持続率を減らす。
 
【考察とディスカッション】 小児の中耳炎で抗生剤治療に悩むケースは比較的多い。重症例では確かに抗生剤投与を積極的に考えるが、軽症から中等症に関しては抗生剤を用いないケースもあった。
確かに、そのような場合、数日後の再診の際に抗生剤を開始しなければならないケースを経験することも少なくない。
今回の研究では、治療失敗例としてその割合などを具体的に明記してくれていたため、今までの臨床上の感覚的なものを数値化して捉える事が出来た。
この辺りのデータを提示することで、今後は結果的にどちらの選択になろうとも、今までよりも多い情報量の中で合意を得つつ治療していくことができそうである。

 【開催日】 2011年2月9日(水)

医学の専門的能力に関する認知学的な考察:理論とその適応

【文献名】

Schmidt HG, Norman GR, Boshuizen HP:  A cognitive perspective on medical expertise: theory and implication. Acad Med. 1990 Oct;65(10):611-21.




【要約】
<従来の仮説>

・臨床技能は状況と独立しており、獲得すると新しい問題ですら上手に解決することができる

・病歴/身体診察、データの解釈、診断、臨床推論、マネージメントなどから構成

○Content Specificity(内容の特異性)

・生物医学的な知識と問題解決のための経験則は、個々の問題のレベルになると関連性は低い

○専門性とデータの収集
・専門性が高まれば重要な臨床データの収集が増すという仮説は支持されない
 
→ 初心者(学生、レジデント)と同じぐらいの収集力

○基準の設定

・問題解決の基準を作成するのは想像されるほど明確なものではない

○中間効果
・学生がレジデントになったとき、一時的に臨床推論能力が低下することあり

・専門家はテストで評価することが困難な、ある種の特別な知識を獲得する

○臨床診断の過ち

・今までは、ショートカットの利用や詳細への不注意、明確な知識の欠如が原因と考えられていた

・実際は長い診察時間と関連していることが多い



<臨床推論の段階理論>

○以下の3つの想定に基づく
・医学における専門性の獲得に置いて、学習者はいくつかの移行段階を通過し、それは行動の基盤にある異なる知識基盤に特徴づけられる

・こうした知識の基盤は専門性の発達の中で衰えて駄目になることはなく、状況がそれを必要と
  するときは将来も活用できる

・経験のある医師は、ルーチンの症例を診断する際に、我々が「病気のスクリプト」と呼ぶ知識
  基盤を操作していく

○病気のスクリプト

・病態生理ではなく、疾患に関する臨床的に関連する豊富な情報、その結果、それが生じたコンテクストを含む


[Stage1:詳細な因果関係のネットワークの発展]

・医学部4回生までの本での知識・理論をネットワークでつなぎ、状況を説明する

[Stage2:詳細なネットワークの集合を要約する]
・繰り返しの経験を通じて、このネットワークを高いレベルの簡潔な因果関係モデルへと要約し
  症状や徴候を説明し、診断のラベルに組み込む

・これは実際の患者に遭遇する中で起きる変容である

[Stage3:病気スクリプトの出現]
・要約と同時に因果関係の知識構造が、「病気スクリプト」と呼ばれるリストのような構造へと
  変化していく
・多くの患者との遭遇の中で、学習者は病気の表現に多様性があることを感じる

・そして、病気が生じる背景にあるコンテクストの因子に注意を払い始め、スクリプトが生じる
 
☆illness script:diseaseとillness/contextが一体となって記憶される症例のまとまり

○通常の症例では、スクリプトを探し、選択し、検証することとなる

・病気スクリプトは、連続的な構造を持つことがポイント
・異なる医師は同じ疾患に対しても全く異なるスクリプトを開発することとなる

[Stage4:即席のスクリプトとして患者との出会いを蓄積]
・多様な経験を積むことで、多くのスクリプトを蓄積するプロセスが専門性の獲得

・似たようなスクリプトを適用することで多くの症例に対応することが可能になる
 
→ パターン認識はショートカットではなく、不可欠な技能である



○こうした段階は徐々に獲得されていくが、専門家は前の段階に戻ることは可能であり、状況によって使い分けることができる

○専門家は「深いレベルの情報処理」で働いているのではなく、経験と以前の教育から
 生じた様々な形態の知識の表現を自由に使いこなすことと関連していると言える



<教育への適応>
・問題の数、カリキュラムの中での連続性、それぞれから引き出される情報が極めて重要となる

・どれぐらいの数の問題を解決していけばよいかは不明


<学習者の評価>

・2層に分けて実施する方法
 
1.まず簡単な最低限の情報を持つ多様な状況を提示し解決に至ることを求める
2.正解にたどり着かなければ、問題をより詳しく、追加情報を用いて解決していくこととなる


【考察とディスカッション】
・ 多くの医学生は疾患(disease)経験の多様さ、多さを追い求める傾向にある。私たち指導医はそのような学生にこのような疾患の経験を追い求めるだけ ではなく、患者中心の医療の方法における「病い(illness」」の側面も探求するように働きかけることができる。このことにより学生に 「Illness script」が形成されることになるだろう。
・ 同時に学習者のステージについても注意を払う必要がある。臨床推論「Stage theory」でいうStage2における単純化された因果モデルを高いレベルで学んでいない場合、患者の背景(context)の重要性を強調すること により学習者圧倒されてしまうであろう。指導医はこの点において間違いを犯しやすいと考えており、「Illness script」の学びは卒後3~4年くらい、stage3の「Emergence of illness script」に入る痛ある段階が望ましいと思われる。
・ 改めてIllness script形成が自分の診療のコアにあると痛感する。家庭医の診断能力を他の領域の医師に説明する際に、こうした認知論的観点から「包括的ケア」の妥当性が満たされることを示すのも一つの方法であろう。
・ こうした教育研究も是非HCFMの一研究領域としていきたいものである。その際は、やはり医学部教育ではなく、現場の臨床経験に基づき生涯学習に連動するようなテーマが良いだろう。

【開催日】
2011年2月2日(水)

レビュー:骨粗鬆症に対するビスフォフフォネート製剤

【文献名】

Murray J.Favus,M.D: Bisphosphonates for Osteoporosis. N Eng J MED 363;2027-35, 2010.




【要約】

【The clinical problem】
Estrogen deficiency after menopause is the most common cause of osteoporosis, but secondary causes must be ruled out before treatment is undertaken.
Common Secondary Causes of Osteoporosis are Vitamin D deficiency, Primary hyperparathyroidism, Celiac disease, Idiopathic hypercalciuria, Hyperthyroidism, Myeloma.
Osteoporotic hip fractures are associated with the highest morbidity and mortality. Up to 50% of patients with such fractures have permanently impaired mobility, and 25% lose the skills necessary to live independently. The rate of death from any cause is increased by a factor of 5 to 8 during the first 3 months after a hip fracture.
【Pathophysiology】
Estrogen deficiency due to either spontaneous or surgical menopause activates osteoclast and accelerate bone resorption. Bisphosphonates disrupt the attachment of osteoclasts to the bone surface, and stop bone resorption.
【Clinical Evidence】
Alendronate and risedronate and zoledronic acid are effective to prevent hip fracture and vertebral fracture.
 Etidronate is effecitive to prevent vertebral fracture, but there is no study to show efficacy for the
treatment of hip fracture.
 Randomized, placebo-controlled trial of pamidronate has not been performed with sufficient power to assess the efficacy of the drug for the treatment of hip fracture in women with postmenopausal osteoporosis.
【Clinical use】
All postmenopausal women with measurements of bone mineral density at either the spine or the hip that meet World Health Organization (WHO) criteria for osteoporosis (T score of less than −2.5) should receive long-term therapy with an agent that has been proven to prevent fractures.
This author often uses the WHO Fracture Risk Assessment Tool (http://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.jsp?lang=jp) to assist in making treatment decisions. FRAX is a calculator algorithm that incorporates risk factors with measurements of bone mineral density, generating a quantitative estimate of the 10-year probability of a major osteoporotic
fracture (hip, vertebral, humerus, or fore-arm) or of a hip fracture alone in patients who have not yet begun therapy. In general, the author initiates pharmacologic treatment in patients who have a 10-year probability of a hip fracture that exceeds 3% or a 10-year probability of a major osteoporotic fracture that exceeds 20%.
Raloxifene decreases the risk of vertebral fractures, but it may not reduce the risk of nonvertebral fractures.
Calcitonin has limited efficacy in reducing the risk of vertebral fractures and lacks efficacy in preventing hip fracture.
After initiating bisphosphonate therapy, this author typically reevaluate the patient in 1 month to assess tolerance and thereafter at 3 months, 6 months,and 1 year. At 3 months and 6 months, he obtain measurements of bone-turnover markers, such as osteocalcin or serum C-terminal telopeptide of type 1 collagen (CTX). At 1 year, and every 2 years thereafter, he repeat the assessment of bone mineral density with the use of DXA.
【Adverse effects】
 Erosive esophagitis, ulceration, and bleeding, heartburn, chest pain, hoarseness, and vocal-cord irritation, transient renal toxic effects, osteonecrosis of the jaw, etc.
【Areas of uncertainty】
  The optimal duration of bisphosphonate therapy remains uncertain. Recent retrospective studies and case reports suggest that long-term bisphosphonate therapy may result in the suppression of bone turnover and confer a predisposition to increased bone fragility, with an increased risk for atypical femur fractures. After 5 years of treatment, this author would decide whether a drug holiday might be appropriate for this patient, taking into consideration the fact that she is at high risk for recurrent fracture.


【考察とディスカッション】
骨粗鬆症に対するビスフォスフォネート製剤に関する最新のレビューを読んだ。
FRAXという骨折のリスク評価法を学んだ。
Areas of uncertaintyの項ではビスフォスフォネート製剤の長期的な使用がコツの脆弱性を引き起こす可能性を示唆するレトロスペクティブな研究と、この薬剤による治療の期間について言及している。
今後のエビデンスの出現に注意しつつ、実際の臨床においても治療継続期間を見直す必要があるだろう。


【開催日】
2011年2月2日(水)

胃潰瘍からの出血後、元々使用していた低容量アスピリンはすぐに再開すべきか?

【文献名】

Joseph J. Y. Sung, et.al: Continuation of Low-Dose Aspirin Therapy in Peptic Ulcer Bleeding: A Randomized Trial. Annals of Internal Medicine: 152:1-9, 2010




【要約】
Background: It is uncertain whether aspirin therapy should be continued after endoscopic hemostatic therapy in patients who develop peptic ulcer bleeding while receiving low-dose aspirin.

Objective: To test that continuing aspirin therapy with proton-pump inhibitors after endoscopic control of ulcer bleeding was not inferior to stopping aspirin therapy, in terms of recurrent ulcer bleeding in adults with cardiovascular or cerebrovascular diseases.

Design: A parallel randomized, placebo-controlled noninferiority trial, in which both patients and clinicians were blinded to treatment assignment, was conducted from 2003 to 2006 by using computer-generated numbers in concealed envelopes. (ClinicalTrials.gov registration number: NCT00153725)
Setting: A tertiary endoscopy center.

Patients: Low-dose aspirin recipients with peptic ulcer bleeding.
Their indication for aspirin is cardiovascular diseases or/and cerebrovascular diseases.

Intervention: 78 patients received aspirin, 80 mg/d, and 78 received placebo for 8 weeks immediately after endoscopic therapy. All patients received a 72-hour infusion of pantoprazole followed by oral pantoprazole. All patients completed follow-up.

Measurements: The primary end point was recurrent ulcer bleeding within 30 days confirmed by endoscopy. Secondary end points were all-cause and specific-cause mortality in 8 weeks.

Results: 156 patients were included in an intention-to-treat analysis. Three patients withdrew from the trial before finishing follow-up. Recurrent ulcer bleeding within 30 days was 10.3% in the aspirin group and 5.4% in the placebo group (difference, 4.9 percentage points [95% CI, −3.6 to 13.4 percentage points]). Patients who received aspirin had lower all-cause mortality rates than patients who received placebo (1.3% vs. 12.9%; difference, 11.6 percentage points [CI, 3.7 to 19.5 percentage points]). Patients in the aspirin group had lower mortality rates attributable to cardiovascular, cerebrovascular, or gastrointestinal complications than patients in the placebo group (1.3% vs. 10.3%; difference, 9 percentage points [CI, 1.7 to 16.3 percentage points]).

Limitations: The sample size is relatively small, and only low-dose aspirin, 80 mg, was used. Two patients with recurrent bleeding in the placebo group did not have further endoscopy.

Conclusion: Among low-dose aspirin recipients who had peptic ulcer bleeding, continuous aspirin therapy may increase the risk for recurrent bleeding but potentially reduces mortality rates. Larger trials are needed to confirm these findings.



【考察とディスカッション】
胃潰瘍からの出血直後からのアスピリンの再開・継続により再出血のリスクが高まる可能性があるが、95%信頼区間は-3.6--13.4であり、この結果はよりサンプルサイズの大きな同様の研究を待たなくてはならない。
2次アウトカムではあるが、内視鏡直後からアスピリンを再開したグループの方が有意に死亡率が低いことは8週間と非常に短い期間であることも含めて注目すべき結果と考える。


【開催日】
2011年1月26日(水)

HPVワクチンの有効性と費用対効果

【文献名】
Philip Castle: Recommendations for the use of human papillomavirus vaccines. UpToDate ONLINE 18.3: 2010. 
今野良:HPVワクチンによる子宮頚がん予防.JIM:p258、vol.20 No.4 2010
井上正樹:HPVワクチンの接種時期・抗体価・筋肉内注射の理由.日本医事新報.p81、2010年4月3日
神谷斎(ひとし):HPVワクチン.小児科診療:p2345、2009年12月号.



【要約】
【Up to Date】より
初交以前のワクチン接種- 臨床試験の結果から、HPVワクチンはHPV未感染の人たちに最も有効である。(初交以前など) なぜならHPVワクチンは予防であり、治療ではないので、すでに感染している16型または18型のHPVが発症することを防ぐことは出来ない。ワクチンを行えば、これらのタイプのHPVに対する保護的な免疫ができる。アメリカ合衆国では9歳から26歳の間の全ての女性にHPVワクチンが推奨されている。

費用対効果 ― HPVワクチンの費用対効果が複数の研究において数学的に検証された。ある研究では、米国12歳の女児全員に接種することで、20万以上のHPVの感染を予防し、10万以上の頸部細胞診の異常を予防し、近年の推奨通りに頸部がん検診を継続すれば3300例の子宮頸癌を予防すると示している。ワクチン接種年齢が増すにつれ費用対効果は低下していく。HPVワクチンが終生免疫と仮定すると、12歳の少女にワクチン接種した場合、費用対効果は1QALY(quality-adjusted life-year)あたり$43,600という報告がある一方、別の報告では26歳まで範囲を拡大して予防接種を行った場合は1QALYあたり$152,700まで上昇する。



【JIM】より

性交経験のある女性の役50~80%は、一生に一度は発がん性HPVに感染するという報告もある。しかしながら、通常、子宮頸部上皮に感染したHPVは、細胞性免疫によって死滅させられ、排除されるが、この場合には液性免疫の関与がほとんど無く、感染予防に効果的な抗体は産生されない。したがって、同一の型のHPVの再度の感染を防ぐことができず、繰り返し感染を引き起こす。ウイルスが排除されずに長期間感染が続くと、ごく一部のケースで数年~数十年間の前がん病変を経て子宮頚がんを発症する。
感染のピークは20歳代前半にあることが報告されている。日本でも同様な傾向がみられており、初交年齢の低下に伴って、子宮頚がんの発症率、死亡率ともに20~30歳代の若年層で増加傾向にある。
また、成人女性においてHPV16型、18型が子宮頸部で検出される頻度はそれぞれ6%、4%なので、これらのHPVに感染していない女性では有効性が期待できる。

【日本医事新報】より

感染者の90%はHPVは2年以内に消失している。日本においては、10代後半や20代前半では50%の感染率であるが、40歳代 以降になると5~10%である。



【小児科診療】より

女性(16~26歳)を対象とした4価HPVワクチンの第ⅡおよびⅢ相試験の統合解析結果では、ワクチン含有のHPV16および18型に未感染だった場合、これらに関連した子宮頸部前がん病変の予防に関して99%の予防有効率が示されている。2価HPVワクチンでも16型および18型による前がん病変に対して90%を超える高い予防効果が示されている。
 すでに性交経験がある女性に対しても接種を奨励しており、13~26歳の女性をキャッチアップ接種の対象としている。4価ワクチンでの臨床試験で、HPV既感染者も含む最低1回のワクチン接種を受けたITT(intension-to-treat)群を解析した結果では44%の予防効果が認められたことから、キャッチアップ群での有用性もあるものと考えられる。



【考察とディスカッション】
 当初、27歳以降の性交経験のある女性に対するHPVワクチン接種の有効性について調べたかったが、有用な情報は得られなかった。
 しかし接種年齢を拡大して行くに連れて費用対効果は下がっていく(コストが上昇していく)ことを考えると、接種を推奨する年齢には一定の線引きが必要であろう。
 27歳以上の性交経験のある女性個人のレベルで考えると、HPVの自然感染では免疫は得られず繰り返し感染するため、推奨年齢を過ぎてもHPVワクチンを接種して免疫を得ることの意義がないとはいえない一方で性交のパートナーがお互いに固定されている場合、再感染のリスクは少ない。
基本的には健診を定期的に受けることを推奨し、ワクチン接種については個別によく検討する必要がある。


【開催日】
2011年1月26日(水)

~Effectiveness of screening for CKD(CKDのスクリーニングの有効性)~

【文献名】

Braden Manns, et.al.:  Population based screening for chronic kidney disease: cost effectiveness study.BMJ 341:5869,2010.



【要約】
【Objective】

To determine the cost effectiveness of one-off population based screening for chronic kidney disease based on e-GFR. 

【Design】

Cost utility analysis of screening with e-GFR alone compared with no screening. Analyses were stratified by age, diabetes, and the presence or absence of proteinuria. 
Scenario and sensitivity analyses, including probabilistic sensitivity analysis, were performed. Costs were estimated in all adults and in subgroups defined by age, diabetes, and hypertension. 

【Setting】

Publicly funded Canadian healthcare system. 

【Participants】

Large population based laboratory cohort used to estimate mortality rates and incidence of end stage renal disease for patients with chronic kidney disease over a five year follow-up period. Patients had not previously undergone assessment of GFR. 

【Main outcome measures】

Lifetime costs, end stage renal disease, quality adjusted life years (QALYs) gained, and incremental cost per QALY gained. 

【Results】

Compared with no screening, population based screening for chronic kidney disease was associated with an incremental cost of $C463 (Canadian dollars in 2009; equivalent to about £275, €308, US $382) and a gain of 0.0044 QALYs per patient overall, representing a cost per QALY gained of $C104 900. 
In a cohort of 100 000 people, screening for chronic kidney disease would be expected to reduce the number of people who develop end stage renal disease over their lifetime from 675 to 657.
In subgroups of people with and without diabetes, the cost per QALY gained was $C22 600 and $C572 000, respectively. In a cohort of 100 000 people with diabetes, screening would be expected to reduce the number of people who develop end stage renal disease over their lifetime from 1796 to 1741. 
In people without diabetes with and without hypertension, the cost per QALY gained was $C334 000 and $C1 411 100, respectively.

【Conclusions】

Population based screening for chronic kidney disease with assessment of e-GRF is not cost effective overall or in subgroups of people with hypertension or older people.
 Targeted screening of people with diabetes is associated with a cost per QALY that is similar to that accepted in other interventions funded by public healthcare systems.



【開催日】
2011年1月19日(水)

~影響力の原理~

【文献名】

Donald A. Redelmeier, Robert B. Cialdini. Problems for clinical judgement: 5. Principles of influence in medical practice. CMAJ 2002;166(13):1680-1684

医療における「影響力」の7要素-人はなぜ動かされるのか?- 広島大学病院 佐伯俊成




【要約】

心理学における基礎科学は特異的な自動反応(ingrained responses=しみついた反応)を同定した。その反応というのは人の性質の根本的な要素であり、一般的な影響の戦略(influence strategies)を裏打ちするもので、医療の現場において適応できるかもしれない。・人は受けた恩義にこたえようとする義務感を感じる。・少しばかり受け入れがたいお願いを先にすると、(それより条件の良い)要求はより魅力的になる。・一貫性のある活動への意欲というのはたとえ要求が過剰になっても続く。・人は不確実な状態に直面した時、周囲からの圧力(Peer Pressure)は極めて強いものとなる。・要求する人のイメージが要求それ自体の魅力に影響を与える。・権威は専門家としての力量以上の力を持っている。・機会はそれらが得られにくように見える時ほど、より価値あるように見える。これらの7つの反応は何十年も前に心理学の研究により発見され、ビジネスの世界で直観的に理解されているようであるが、医療の文脈ではめったに議論がされていない。臨床家はこれらの原理を意識することで、患者が自分の行動を変える手助けをし、社会における他の人々が時に患者の選択をどの様に変えるのかということを理解するための、一つのフレームワークを提供することが出来る。

【Basic theory:基本的原理】

患者は圧倒的な情報の中で生活しているので、たとえ関係のある出来ごとでも「思慮深い決断」を下すことはほぼ不可能である。これらをうまく処理するためには、患者は自動反応(ingrained responses)と呼ばれる理にかなった近道が頼りになる。人の論理的思考過程において、自動反応というのは大半の影響の戦略の根底にある基本的な経路である。これらの経路を意識することが、患者が習慣を変える手助けを試みるためのフレームワークを臨床家に提供する。(Table1)

【Reciprocation:返報】

他人がその人に提供したものと同様のやり方で報いようとすることである。

<医療における返報性>

患者を心地よくさせることのできる臨床家は、アドバイスをした際により真摯に受け止められる傾向があるようである。これはただ単に医者がより熱心に見えるだけでなく、患者が感謝されているように感じるからだと言われている。患者の都合による突然の予約のリクエストに同意したり、小さな町において有名な地域社会の指導者をサポートしたりするといったような、ちょっとした頼みに便宜を図る臨床家は、生活習慣の変化を提案する際に何らかの優位性を有している。たとえ救急という匿名の状況においてさえ、わずかな思いやりでホームレスが少し違った(好ましい)振る舞いをする原因となり得る。

【Concession:譲歩】

返報の特殊な形で、他の誰かが歩み寄りを申し出ると、その後に譲歩する義務を感じるというものである。

<医療における譲歩>

血圧コントロールに乗り気でない患者に対して、まず追加の物事を提案した後に、最初に血圧に集中すると同意が得られるかもしれない。大腸内視鏡のスクリーニングを拒否している患者はバリウム造影検査については議論してくれるかもしれない。ただし、患者の行動変容の段階に応じてカウンセリングをすることが必要不可欠である。

【Consistency:一貫性】

人はひとたび選び取ると、その制約を維持し続けようとする強い傾向を持つ。
一貫性とみなされる欲求はとても強い力をもっており、自分自身の興味に反しても行動し続ける結果となりうる。

<医療における一貫性>

臨床家は健康の選択を強化するため一貫性に関する患者の欲求をガイドすることが出来るかもしれない。強情な喫煙者に煙草の欠点を2つリストアップしてもらうよう頼むことが出来る。この小さな課題であれば受け入れてくれるだろう。リストを作ってしまうと、患者は次の受診までのもっとそのことについて話したくなっているかもしれない。そののちの受診では、患者は(喫煙を)止める議論をしたくなるかもしれない。

【Endorsement:保証、承認】

自分に関係している他人を真似することによって何が正しいかということを決める。何が正常な習慣を構成しているか決めようと試みている際には、順応に対する圧力というのは特に強く働く。

<医療における保証>

難しい医学的判断というのはしばしば規範へのアピールにより決められる、その中で患者は他人のあいだで何に人気があるかに注意がはらわれる。手術か放射線治療科を選ばなければならない肺癌の男性は、単純な「多くの患者が手術を受けます」という言葉がどんな医学的なデータよりも説得力があるかもしれない。新しい社会的な基盤を打ち立てることが出来るので、それゆえ臨床家は影響力をもっている。先手を打って思いやりを示すと、患者は気恥ずかしい情報を公開することに拍車がかかるのはなぜかということを、この「保証」が説明している。「多くの糖尿病の患者さんは性的不能になるのです、もしかしてあなたもそうじゃないですか?」

【Liking:好意】

自分が好意を持っている人から頼まれると人は了承しやすい。(ハロー効果)

<医療における好意>
 
開業医は尊敬される専門家のイメージがあるので、潜在的にビジネスマンより説得力がある存在になり得る。泣いている患者にティッシュを渡す開業医は人間味のある人に見えるだろう。親切で気さくな臨床家はより多くの患者の心遣いを扱うことが出来るかもしれない。血圧がよくなったことを褒める臨床家は患者がさらなる同意を得るのを力づけ、動機づけるだろう。人に好かれる臨床家は標準化された教材よりも同僚をより効果的に揺り動かすことができる。もちろん専門家は自身の魅力的なイメージを、患者の悪口を言うというような、間違った使用をしないようにしなければならない。

【Authority:権威】

人は権威者の命令に従うという深い義務感を持っている。

<医療における権威>

臨床家は権威であり、それにより権力を持っている。あるケースにおいては、その他の医者以外にはだれもその医者の判断を却下することはできない。アシスタントによるよりも医者によりアドバイスされた方がコンプライアンスは上昇する。具体的に患者の心配を尋ねることで、直接誤解を解消することが出来る。医者による一回の忠告だけで時に患者は禁煙をすることが出来ることがある。この権威への服従はエラーにつながる。たとえば看護師が医師の不適切なオーダーに疑問をさしはさまなかったり、政治的な力を持っている患者を不公平に優先したりする場合である。

【Scarcity:希少性】

まれという理由で機会が価値あるものと思える。

<医療における希少性>

臨床家は助言をより強力な物にするため希少性を思い起こさせるかもしれない。前置きのアドバイスにて「今日見た全ての患者の中であなたが一番心に残っています、なぜなら…」 このような差別化は、この後にどの様なアドバイスが来たとしても重みを与え、彼らの習慣を変えるよう動機づけられるかもしれない。色々な代替案を示されるより、一つの選択肢をしめされたとき、そのままの状態を差し控え、新たな選択を受け入れる傾向になぜあるかということを、この希少性の原理は説明する助けになる。特別な治療を受けているという認識が、なぜ心移植患者が従順であり続けるかということを説明しているかもしれない。

【まとめ】

自由社会において有能な大人の習慣を変えるにはコントロールするのではなく影響力を行使することが必要である。医学の全ての側面にいえることだが、影響力の戦略は狙ったケアによって良いものにも害にもなり得る。社会における力(forces in society)が既にこれらのテクニックを患者に対して使用しているのが現実である。患者が有益な選択をする手助けをするにはどのようにするかを意識することが、効果的なケアを提供するために臨床家に必要なスキルである。



【開催日】
2011年1月19日(水)

~重症認知症患者の肺炎治療の意義~

【文献名】

Givens JL, Jones RN, et al. Survival and Comfort After Treatment of Pneumonia in Advanced Dementia. Arch Intern Med 170 (13), 1107-9.





【要約】

[目的]
重度認知症や老年期の患者において、肺炎の抗菌薬治療が「生命予後」や「生活の快適さ・安楽さ」を改善しうるかどうか明らかにする。



[研究デザイン]

前向きコホート研究(CASCADE)
(最大で18か月又は亡くなるまで追った。)



[セッティング]

2003~2009年のボストン、マサチューセッツの22ナーシングホーム入居者323人



[対象集団]

重度認知症の入居者で肺炎と確定診断された患者 Table1参照。

※これはCASCADEのベースラインと似通っている★代表的な集団が選ばれているか?

・60歳以上

・いずれのtypeの認知症と診断された

・Cognitive Performance Score 5^6点(重度の認知能低下)

・Global Deterioration Scale 7点(家族がわからない、最低限の会話、ADL全介助、便尿失禁)



[介入/要因]

抗菌薬治療を、しない群・経口治療のみ・筋注治療のみ・点滴治療(入院も含む)で分類。



[主要アウトカム]

生命予後:肺炎発症後~亡くなるまでの日数

快適さ(scored according to the Symptom Management at End-of-Life in Dementia scale:SM-EOLD)

測定前90日間の痛み・呼吸苦・抑うつ・恐れ・心配・いらいら・落ち着き・皮膚の損傷・介護への抵抗の項目に対して頻度(なし、月1回、月数回、週1回、週数回、毎日)を介護士?nursing caringが記載。点数が高いほど、快適度が高いスコア。

※90以内に亡くなった方は除外されるが、Comfort Assessment in Dying with Dementia scaleが死亡後2週間以内に測定された。



[統計手法]

生命予後:コックス比例ハザードモデル

快適さ:線形回帰モデル

多変数モデルを各治療群の差を調整するのに使用



[結果]

225の肺炎のエピソード(133人41%)があり、治療なし8.9%、経口治療のみ55.1%、筋注治療のみ15.6%、点滴・入院治療20.4%であった。

生命予後Table3/Figureは、治療しない人と比べて、すべての治療あり群は改善(経口群リスク比0.2 95%CI 0.10‐0.37)(筋注群リスク比0.26 95%CI 0.12‐0.57)(点滴・入院群リスク比0.2 95%CI 0.09‐0.42)であった。

快適さはTable4、治療前のSM-EOLDと比べ、いずれの抗菌薬治療をえた群でもscored according to the Symptom Management at End-of-Life in Dementia scaleは低かった。



[結論]

ナーシングホーム入居中の重度認知症の方において、肺炎の抗菌薬治療は、生命予後は改善するが、快適さは改善しない。





【開催日】

2011年1月12日(水)

~対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)~

【文献名】
水島広子. 臨床家のための対人関係療法入門ガイド.創元社,2009.

【要約】
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)とは
・「対人関係療法」は、KlermanやWeissmanによって1960年代末から開発され、1984年に定義づけられた。日本ではまだ認知度は低いが、現在、米国精神医学会などの治療ガイドラインにおいてもうつ病に対する治療法として位置づけられており、「認知行動療法」と双璧をなすエビデンスのある期間限定の短期精神療法として認識されている。

・対人関係療法は「対人関係が原因で病気が起こる」と一元的に考えられているわけではなく、従来のように遺伝的、人生経験、社会状況や個人的ストレスなどの「多源モデル」で考えられている。一方で、うつ病などの発症のきっかけとしてはほとんどが「対人関係上の状況」がある。「過労」であっても、一見対人関係とは無関係に見えるが、その人がなぜ過労に陥るほど仕事を抱え込んだのか、断ることはできなかったのか、などと考えると、これも1つの対人関係上の状況とみることができる。

・対人関係療法で目指すことは、抑うつ症状を減じることと対人関係機能・社会的機能を改善することである。つまり、「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を患者自身が見つけることによって、症状に対処できるスキルを身につけられることである。

対人関係療法の特徴
(1)期間限定
 短期療法の場合も維持療法の場合も、もちろん必要がある場合には治療を継続して行うが、その場合も「期間限定の治療を再契約する」という形にする。期間限定にする利点としては以下のことがあげられる。
①目標を明確に取り組むことができる、②期限を意識することで治療の集中度が高まる、③決められた期間の中で計画的に治療を進めることによって、治療で得たものを振り返り本人のスキルとして定着させていくことができる、④終結があることが常に明確にされるため、依存や退行を防ぐことができる。

(2)焦点化
 患者が、対人関係の4つの問題領域:①悲哀(患者にとって重要な人の死)、②対人関係上の役割をめぐる不和・不一致、③役割の変化(生活上の変化)、④対人関係の欠如(社会的孤立)のうちどの領域に問題があるかを焦点化する。

(3)現在の対人関係に取り組む
 対人関係療法では、現在進行中の対人関係と症状の関連を扱う。過去の人間関係は、初期に聴取して認識するが、治療の焦点とはしない。

(4)精神内界ではなく対人関係が焦点
 精神分析など「治療者がそれをどう解釈したか」ということではなく、「実際に患者と相手との間で何が起こっているか」ということに焦点を当てる。相手は何と言ったのか、患者はそれについてどう感じたのか、その結果患者はどう行動したのか、それが相手にどう伝わったのか…ということに焦点を当てる。

(5)認知ではなく対人関係が焦点
 対人関係療法では、最終的には認知行動療法と同じように認知面への効果は大きいが、治療の焦点は患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てる。「どのような認知がそのような感情を引き起こしたか」と考えるのではなく、「誰が何を言ったからそのような感情が起こったのか」ということを直接みる。

(6)パーソナリティは認識するが、治療焦点とはしない
 「対人関係」というと、すぐに「パーソナリティの問題」として片付ける人が多いが、対人関係療法ではパーソナリティを変えることを治療焦点とはしない。これはⅠ軸障害(臨床的な疾患)があると、Ⅱ軸障害(パーソナリティ障害にみえるもの)がしょうじることが多いためである。

対人関係療法のエビデンス
・対人関係療法はうつ病に対して三環系抗うつ薬と同等の効果を示すが、異なる領域に効果を発揮するため、併用により効果は高まる。治療終結後1年間のフォローアップで、対人関係療法を受けた群の心理社会機能が優位に改善した(Weissman et al.1979)・重度のうつ病に対しては対人関係療法は認知行動療法よりもすぐれた効果を示す(NIMH研究:Elkin et al.1989)
・対人関係療法のみで寛解に至った患者は、対人関係療法のみで2年間の寛解を維持できる可能性が高い。維持治療の効果は、月1回、月2回、週1回の受診間隔で変化はなかった(Frank et al.2007)
・維持治療が対人関係に焦点化されていた方が、再発までの期間が有意に長かった(Frank et al.1991)
※国際IPT学会(International Society for Interpersonal Psychotherapy)のサイトを参照:http://www.interpersonalpsychotherapy.org/

【開催日】
2010年12月29日(水)