高齢者の予後予測には歩行速度が有用かもしれない

【文献名】
 Gait Speed and Survival in Older Adults
Stephanie Studenski et al.  JAMA. 2011;305(1):50-58

【要約】
<目的>
①高齢者の歩行速度と予後の関係を評価すること
②年齢や性別を補正して歩行速度が予後の変動性を説明しうるのかを明らかにする
 
<研究デザイン、セッティング、対象者>
1986年から2000年の間に行われた9つのコホート研究を解析。
地域社会に暮らし、ベースラインの歩行速度が得られた65歳以上の高齢者34485人を6~21年(平均12.2年)フォローアップ下。対象者の平均年齢は73.5歳59.6%が女性、79.8%が白人(11.2%がアフリカ系アメリカ人、7.7%がヒスパニック)、平均の歩行速度が0.92m/sであった。
 
<主要アウトカム>
生存率と平均余命。
 
<結果>
17528名が研究期間中に亡くなった。全体の5年生存率は84.8%(CI 79.6%-88.8%)、10年生存率は59.7% (95% CI, 46.5%-70.6%)。すべての研究において歩行速度が生存率と関連性を示した(hazard ratio per 0.1m/s1は0.88。95%CI 0.87-0.90, p<0.001)。 歩行速度が0.1m/s増加するごとに生存率が上がる傾向がすべての歩行速度において見られた。75~84歳の男性では歩行速度が0.4m/s未満では10年生存率が15%、1.4m/s以上では50%。 女性においては35%~92%。 民族による層別化でも同様の傾向であったが、信頼区間は広くなる傾向にあった。 ベースラインの歩行速度ごとに余命を予測すると中央値は0.8m/sあたりであった。 年齢、性、歩行速度による予後予測は年齢、性別、移動補助具の使用、自己申告による機能評価を組み合わせたものや年齢、性別、慢性疾患、喫煙、血圧、BMI、入院歴を組み合わせた指標と同様に正確であった。   <限界> この観察研究では歩行速度と余命との因果関係はわからず、様々な形のHealthy volunteer biasの影響を受けている。9つのうち1つのみしか実際の臨床をベースにしておらず、研究への参加に同意できる進行した認知症患者はほとんどいない。身体の活動性と生命予後の関連は活動性の足底の仕方にばらつきが大きいため評価することはできない。今後はより臨床を基礎にした対象者において他の重要なアウトカム(障害など)について検討する必要が賀あるだろう。   <臨床への適用> 介護予防的介入に用いるのが適当であろう。ベースラインの歩行スピードを測定することにより高齢者の全体的な健康状態の特徴をつかめる。歩行速度を経時的にモニターしていくと、低下は評価を要する新しい問題の発生を示唆することになるだろう。歩行速度は手術や化学療法のリスク評価に用いることができるかもしれない。 【開催日】 2011年3月2日

国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす

【文献名】
Shou-Hsia Cheng, et al. : A longitudinal examination of continuity of care and avoidable hospitalization. Evidence from universal coverage health care system. Arch Intern Med: 170(18): 1671-1677.
 
【要約】
<背景と目的>
台湾は1995年に皆保険制度を導入し、99%の国民が加入している。家庭医療科は23ある専門診療科の1つと位置づけられ、国民は自分の症状に合わせて自由に診療科を選び紹介状なしで受診することができる。国民1人あたりの受診頻度は15回/年と世界で最も高い国の一つであり、台湾国民の受療行動は「ドクターショッピング」と批判を受けることもある。このような環境は患者と医師のコミュニケーションや信頼関係やケアの継続性を損ないやすい。先行研究ではケアの継続性を高めることがERの受診を減らすこと、疾病の予防が進められること、入院を減らすこと、慢性疾患のコントロールが改善すること、ICUの利用が減ることが示されているが「避けられる入院」については研究されていない。一方で「避けられる入院」とプライマリ・ケアとの関連は研究されているが、ケアの継続性との関連を研究したものは少なく、十分な結果は得られていない。この研究では台湾の医療環境におけるケアの継続性の「避けられる入院」に対する影響を知ることを目的としている。

<方法>
2000年1月1日から2006年12月31日の期間、健康保険への請求データから医療サービスの利用状況を調査した。この期間に3名以上の医師を利用した30830人の患者がランダムに選択され、3つの年齢層に分けて解析した。主要アウトカムは避けられる入院と全ての入院とした。年齢、性別、低所得かどうか、ベースラインの健康状態、time effect、random subject effectを調整するためにrandom intercept logistic regression modelを利用した。
ケアの継続性の指標はContinuity of care index (COCI)を用いた。
COCIは患者がかかった医師の数とそれぞれの医師に受診した数からなる式で示される。
COCI=(Σnj2-N)/N(N-1)(Σの下にj=1,上にM)
Nは医師に受診した総回数、njは1人の医師を受診した回数、jは医師の番号、Mは医師の数。
COCIは0-1の間の数値で表され、1に近いほどケアの継続性が高い、とされる。
COCI自身に本来的な意味はないため、この研究では対象となった患者のCOCI値の分布を元に0.00-0.16をlow、0.17-0.33をmedium、0.34-1.00をhighとした。
「避けられる入院」はIOM(institute of medicine)による定義を用いた。

<結果>
3つ全ての年齢層においてCOCIが高ければ避けられる入院が発生する可能性は低かった。
全ての入院においても同様であった。

Table3 より抜粋 避けられる入院とCOCIの関連
 
110316_1

Table4 より抜粋 入院全体とCOCIの関連
 
110316_2

<結論>
フリーアクセス(この論文ではeasy access to careと記載)の環境下においてもケアの継続性を良好に保つことは避けられる入院、入院全体を減らすことにつながる。ケアの継続性を改善することが皆保険制度の中に置いても有効な戦略といえる。
 
【考察・ディスカッション】
台湾と同様に皆保険制度・フリーアクセスのシステムを取る日本においても、ケアの継続性(COCI)を高く保つ(多診療科受診を控えること、と言いかえてもいいだろうか)ことは避けられる入院、入院数全体を減らすことにつながる、と言え、日本の医療費高騰の解決策の一つとして家庭医療科の設置が有力であることのエビデンスになるのではないだろうか?
この研究の限界は自費診療を含んでいないこと(非常に少なくはあるが),患者の教育レベルなどの情報を加味して調整していないこと、結果を家庭医からの紹介を原則とする国には適用しにくいことであろう。
 
【開催日】
2011年3月16日

妊娠期間中の鉄、葉酸の補充が、子供の知能と運動機能に与える影響について

【文献名】
Parul Christian,DrPH  et al. Prenatal Micronutrient Supplementation and intellectual and Motor Function in Early School-aged Children in Nepal. JAMA:Vol 304,No24 2716, 2010.
 
【要約】
背景
鉄と亜鉛は知能と運動能力の発達に重要である。鉄と亜鉛を妊娠期間中の中枢神経が発達する重要な時期に補うことが、子供の後の機能に影響するかどうかを調査した研究はほとんどない。
 
目的
妊娠中に微量元素のサプリメントを行った母親の子供の知能と運動能力を調査する。
 
研究デザイン, 背景, 対象
ネパールの地方において、1999年から2001年までの間に出生前に各微量元素のサプリメントを与えられた5グループのうち4グループの女性から生まれた、676人の7~9歳の子供達を2007年6月から2009年4月までコホート研究により追跡調査した。サプリメントを与えたグループはコミュニティに基づき、二重盲検、ランダム化比較試験が行われている。研究対象の子供達は、後に行われた就学前の鉄と亜鉛の補充試験でのプラセボグループの子供達である。
 
介入
追跡調査される子供の母親は、鉄と葉酸、鉄と葉酸と亜鉛、鉄と亜鉛と葉酸に加え11の他の微量元素を含むマルチビタミンを、すべてビタミンAとともに与えられる群と、ビタミンA のみ与えられる対照群とにランダムに割り当てられ、妊娠早期から出産後3ヶ月まで毎日、各々のサプリメントを与えられた。これらの子供達は半年毎のビタミンAの補充以外、他の微量元素のサプリメントは受けていなかった。
 
結果測定方法
子供達の知能を測定するために the Universal Nonverbal Intelligence Test (UNIT)を用い、実行機能を測定するために go/no-go test, the Stroop test, and backward digit spanを行った。また 運動機能を測定するために the Movement Assessment Battery for Children (MABC) と finger-tapping testを用いた。
 
結果
鉄と葉酸が与えられた群ではコントロールに比較し、結果の違いが著明に出たが、その他のサプリメントグループでは違いはなかった。
鉄/葉酸群のUNITテスト平均点数は51.7(SD,8.5)であり、対照群では48.2(SD, 10.2)、交絡因子調整後の平均値の違いは2.38であった。 (95% CI, 0.06-4.70; P = .04) 対照群と鉄/葉酸/亜鉛群(0.73; 95% CI, −0.95 to 2.42)、マルチ微量元素群(1.00; 95% CI, −0.55 to 2.56)では差は明らかではなかった。
実行能力のテストでは、鉄/葉酸群の点数は対照群に比べ、Stroop test (失敗した人達における平均の差, −0.14; 95% CI, −0.23 to −0.04)とbackward digit span (平均の差, 0.36; 95% CI, 0.01-0.71)では良かったが、go/no-go testでは差はなかった。
MABC スコアは鉄/葉酸群は対照に比較し低かった(良かった)が、交絡因子調整後は有意ではなかった(平均の差, −1.47; 95% CI, −3.06 to 0.12; P = .07)。Finger-tappingテストでは鉄/葉酸群では点数が高かった(平均の差, 2.05; 95% CI, 0.87-3.24; P = .001)。
 
結論
鉄欠乏が蔓延している地域において、妊娠期間中の鉄+葉酸の補充は、出生した子供のワーキングメモリ、抑制のコントロールを含む知能の面、運動機能の面に、良い方向に関連している。
 
【考察・ディスカッション】
この研究の対象は、鉄の摂取不足が蔓延している地域の母親とその子供となっているが、食糧事情は悪くない日本においても、有用な情報となり得る。総務省統計局のホームページ、日本の統計2010によると、日本国民一人一日あたり食品群別栄養等摂取量にて摂取量自体は増加傾向にあるが、鉄分に関しては昭和50年の摂取量13.4mgであったのが、年々減少をみせ、平成18年では7.9mgとなっている。鉄の必要摂取量は閉経前の女性で12mg、妊婦では20mgとされている。つまり、現在の日本でも、妊婦における鉄不足は十分に考えられる状況である。この研究において、妊娠中の鉄+葉酸摂取が生まれてくる子供の知能、運動能力の発達に重要な役割を担っていることが示され、今後は栄養状態の乏しい国・地域への対策のみならず、飽食状態にあるわが国でも、意識的に栄養摂取を考える促しや、特に妊婦にはサプリメントの利用も積極的に勧めていくべきではないかと思われた。
 
【開催日】
2011年3月9日

アジア人におけるBMIと死亡リスクとの関連

【文献名】

Wei Zheng, et al.: Association between Body-Mass Index and Risk of Death in More Than 1 Million Asians. N Engl J Med 2011; 364: 719-29.



【要約】



【背景】

BMIと死亡リスクの関連を評価した研究は、ほとんどがヨーロッパ人を対象としている。




【方法】

アジアで19のコホートで集められた110万人以上の人々を対象に、BMIと死亡リスクとの関連を評価した。9.2年間で約120700人の死亡が確認された。
交絡因子の調整はCox回帰モデルを用いた。




【結果】

中国・日本・韓国を含む東アジアのコホートでは、最も死亡リスクが低いのはBMI 22.6-27.5の人々だった。それよりもBMIが高くても低くても死亡リスクの上昇がみられた。BMI≧35の場合は1.5倍、BMI≦15の場合は2.8倍であった。このようなU型の現象は、癌や心血管疾患やその他の原因による死亡のリスクとBMIとの関連にもみられた。インドとバングラデシュを比べたコホートでは、全ての、または癌か心血管疾患以外の原因からくる死亡のリスクはBMI 22.6-25.0の人々より20以下の人々で上昇していた。また一方で、BMIが高くなることで全てのまたは特異的な原因からなる死亡のリスクが過度になることはなかった。




Figure1.

110302_1


Figure2.


110302_2


【結論】

アジア人では、標準以下の体重が死亡リスクの増大と関連していた。BMI高値による死亡リスクの上昇は、東アジアではみられたが、インドとバングラデシュではみられなかった。




【考察とディスカッション】

中国・日本・韓国といった東アジアではBMI 22.6~27.5の人が最も死亡リスクが少ないという結果であり、
今後の外来診療における患者に対する指導が影響を受ける可能性がある。
理想体重(BMI=22)を基準とした保健指導がなされやすい昨今であるが、見直す必要があるのかも知れない。
データは対象者の年齢、性、教育レベル、居住地(都市部か郡部か)、婚姻関係、基礎疾患に関する状態といった交絡因子について調整されたものであり、BMI22.6~27.5の範囲を超える肥満、やせについても注意は必要であろう。(論文のdiscussionでは喫煙歴が交絡因子として取り上げられていないことが述べられている)
ただし、この範囲を超える肥満、やせの人に対して減量や太ることを指導すると結果を改善するかどうかについては今後の研究が必要である。




【開催日】

2011年3月2日(水)

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること

<研究デザイン>
システマティックレビュー

<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医

<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。

<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。 家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。 家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。 家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日

外来血圧は手動より自動が正確

【文献名】
Myers MG et al.: Conventional versus automated measurement of blood pressure in primary care patients with systolic hypertension: randomized parallel design controlled trial.BMJ 2011; 342:d286.

【要約】

【Objective】
To compare the quality and accuracy of manual office blood pressure and automated office blood pressure using the awake ambulatory blood pressure as a gold standard.

【Design】
 Multi-site cluster randomized controlled trial.

【Setting】
 Primary care practices in five cities in eastern Canada.

【Participants】
 555 patients with systolic hypertension and no serious comorbidities under the care of 88 primary care physicians in 67 practices in the community.

【Interventions】
 Practices were randomly allocated to either ongoing use of manual office blood pressure (control group) or automated office blood pressure (intervention group) using the BpTRU device. The last routine manual office blood pressure (mm Hg) was obtained from each patient’s medical record before enrolment. Office blood pressure readings were compared before and after enrolment in the intervention and control groups; all readings were also compared with the awake ambulatory blood pressure.

【Main outcome measure】
 Difference in systolic blood pressure between awake ambulatory blood pressure minus automated office blood pressure and awake ambulatory blood pressure minus manual office blood pressure.

【Results】
 Cluster randomization allocated 31 practices (252 patients) to manual office blood pressure and 36 practices (303 patients) to automated office blood pressure measurement. The most recent routine manual office blood pressure (149.5 (SD 10.8)/81.4 (8.3)) was higher than automated office blood pressure (135.6 (17.3)/77.7 (10.9)) (P<0.001). In the control group, routine manual office blood pressure before enrolment (149.9 (10.7)/81.8 (8.5)) was reduced to 141.4 (14.6)/80.2 (9.5) after enrolment (P<0.001/P=0.01), but the reduction in the intervention group from manual office to automated office blood pressure was significantly greater (P<0.001/P=0.02). On the first study visit after enrolment, the estimated mean difference for the intervention group between the awake ambulatory systolic/diastolic blood pressure and automated office blood pressure (−2.3 (95% confidence interval −0.31 to −4.3)/−3.3 (−2.7 to −4.4)) was less (P=0.006/P=0.26) than the difference in the control group between the awake ambulatory blood pressure and the manual office blood pressure (−6.5 (−4.3 to −8.6)/−4.3 (−2.9 to −5.8)). Systolic/diastolic automated office blood pressure showed a stronger (P<0.001) within group correlation (r=0.34/r=0.56) with awake ambulatory blood pressure after enrolment compared with manual office blood pressure versus awake ambulatory blood pressure before enrolment (r=0.10/r= 0.40); the mean difference in r was 0.24 (0.12 to 0.36)/0.16 (0.07 to 0.25)). The between group correlation comparing diastolic automated office blood pressure and awake ambulatory blood pressure (r=0.56) was stronger (P<0.001) than that for manual office blood pressure versus awake ambulatory blood pressure (r=0.30); the mean difference in r was 0.26 (0.09 to 0.41). Digit preference with readings ending in zero was substantially reduced by use of automated office blood pressure. 【Conclusion】  In compliant, otherwise healthy, primary care patients with systolic hypertension, introduction of automated office blood pressure into routine primary care significantly reduced the white coat response compared with the ongoing use of manual office blood pressure measurement. The quality and accuracy of automated office blood pressure in relation to the awake ambulatory blood pressure was also significantly better when compared with manual office blood pressure. 【考察とディスカッション】 起床時の自由行動下血圧測定(ABPM; Ambulatory blood pressure monitor)をgold standard にした場合、外来診療において血圧は手動で測るよりも自動血圧計で測定する方が正確である、という結果であった。HCFMでは外来の血圧測定は看護師が自動血圧計で測定していることが多く、この研究結果が医師の行動の変化には結びつかないが、診察室で手動で血圧を測定する医師も多いため、参考になるのではないだろうか? 【開催日】 2011年2月23日(水)

アスピリンとワーファリンを併用している安定した心房細動患者ではアスピリンの中止を

【文献名】
1.    Gregory Y H Lip: Change Page: Don’t add aspirin for associated stable vascular disease in a patient with atrial fibrillation receiving anticoagulation. BMJ: 2008; 336: 614.

【要約】

【キーポイント】
• 安定している慢性心房細動、安定している心血管疾患患者においてはワーファリンにアスピリンを追加しても脳梗塞や心血管イベントの予防には有効ではない。ワーファリンとアスピリンの併用は、出血のリスクを高くする。
•  安定している心房細動患者では、アスピリンとワーファリンを併用している場合、中止するべきである。

【臨床的課題】
慢性心房細動患者においては、ワーファリンのような抗凝固薬は、脳梗塞の予防に有効である。しかし、陳旧性の心血管疾患や陳旧性脳梗塞をもつ慢性心房細動の患者において、抗凝固薬にアスピリンのような抗血小板薬が加えられていることも多い。

【変化のためのエビデンス】
抗凝固薬とアスピリンを用いている心房細動患者において、ワーファリンのみで治療している患者とアスピリンにPT-INR<1.5の抗凝固療法を行っている患者、ワーファリンのみで治療している患者とアスピリンにPT-INR2.0-3.0の抗凝固療法を行っている患者で比較し、ランダム化試験を行った。 アスピリンにPT-INR<1.5の抗凝固療法を行っている患者においては、ワーファリン単独患者と比較し違いはなかった。アスピリンにPT-INR2.0-3.0の抗凝固療法を行っている患者においては、一つの研究では、アスピリンに抗凝固療法を行っている群においてワーファリン単独患者と比較し出血が有意にみられたため中止となった。ワーファリンを用いた中等度からハイリスクの心房細動患者、経口トロンビンインヒビターを用いた中等度からハイリスクの心房細動患者に対して、それぞれアスピリンを加えた群と加えなかった群を比較した2つの大規模RCTを後ろ向きに分析したところ、アスピリンを加えた群と加えなかった群で、脳梗塞や心血管イベント(死亡もしくは心筋梗塞)において効果に差がなかった。特に、アスピリンとワーファリンを用いている心筋梗塞患者の割合はワーファリン単独患者とほぼ変わりがなかった(0.6% and 1.0% a year respectively)。しかし、アスピリン追加使用患者は、ワーファリン単独患者に比較し、出血のリスクが高まっていた(major bleeding 3.9% and 2.3% a year respectively; P<0.01) いくつかのコホート研究においても、PCIを受けている抗凝固薬を使用中の患者(only a proportion of patients had atrial fibrillation)において抗血小板薬を追加することにより、出血のリスクが上昇することが指摘されている。心房細動をもつ患者10093名を対象にしたあるコホート研究においては、抗血小板薬治療が出血のリスクを上昇させることが指摘された(relative risk 3.0)。 【変化への障壁】 心房細動患者や冠血管疾患患者にアスピリン+ワーファリンを用いることについては、アスピリンは冠血管疾患のような血小板の多い血栓をきたす疾患に用いる、ワーファリンは心房細動のようなフィブリンが多い血栓をきたす疾患に用いる、という事実がベースとなっていることから認識されている。 この原則は特に、アスピリンにクロピドグレルを12カ月投与することが推奨されている急性冠疾患やPCIを受けた心房細動患者 で認識されている。予防効果に対するエビデンスはまだ不足しており、3剤併用療法の出血リスクについても重要視されていないが、脳梗塞のリスクが高い心房細動患者の場合にはワーファリンは処方される。また、人工弁をもつ心房細動患者においては、ワーファリン+アスピリン療法が推奨されている。'不安定'な冠血管疾患や弁疾患をもつ心房細動患者においては、併用療法のリスクに対する長期的利益はまだ知られていない。 しかし安定した冠血管疾患においてワーファリンは有用な抗凝固薬となりうるが、アスピリンの追加は時にリスクに比較し出血のリスクが高くなる。しかしアスピリン追加療法の利点は少ないが、これはすべての抗血小板薬にも適応される訳ではない。例えば、中等度からハイリスク患者に対して、抗血小板薬であるCOX阻害薬と、アセノクマロール(クマリン系抗凝固薬:本邦未承認)やこれらの併用療法を行った群を比較したある無作為試験では、抗凝固薬単独療法に比べCOX阻害薬とアセノクマロールを併用した群に比較し、一次アウトカムは低い結果となり、出血の副作用は抗凝固薬と併用療法に有意な差はなかった。 【どのように私たちの診療を変えるべきか?】 臨床家は、心房細動患者や安定した心血管疾患患者においてのアスピリンとワーファリンの併用療法が、脳卒中や心血管イベントの予防につながっておらず出血のリスクを増大させていることに気づくべきである。もしアスピリンを使用している心房細動患者が弁膜症の診断を受けワーファリンによる治療が必要となった場合には、アスピリンは中止されるべきであり、ワーファリンをINR2.0-3.0の範囲で使用するべきである。一方、アスピリンとクロピドグレル(ワーファリン以外の薬剤)の併用療法は、心房細動の脳卒中のハイリスク患者において、アスピリンとワーファリンの併用療法と同じではない。そのため、ガイドラインでは特にアスピリンとワーファリンの併用療法について中止することを強調するべきである。 【考察とディスカッション】 ワーファリンとアスピリンの併用を行っている患者がみられたため、今回この文献を読んでリスクを考慮しながらアスピリンの中止ができることを理解できた。 安定した心房細動患者に対してワーファリン単独療法とアスピリン+クロピドグレルの併用療法についても同時に調べたところ、以下のような文献を見つけた。 the ACTIVE Writing Group on behalf of the ACTIVE Investigators: Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomized controlled trial. The Lancet, Volume 367, Issue 9526, Pages 1903 - 1912, 10 June 2006. Primary endpoint を脳塞栓とした研究で、心房細動の患者に対してワーファリン単独の方がアスピリン+クロピドグレルのよりも優れているという結果であった。 【開催日】 2011年2月16日(水)

プライマリ・ケアセッティングにおける2つのDVT診断ルールの比較 ~精度とコスト~

【文献名】

Comparing the Diagnostic Performance of 2 Clinical Decision Rules to Rule Out Deep Vein Thrombosis in Primary Care Patients. Eit Frits van der Velde, Diane B. Toll, Arina J. ten Cate-Hoek, et al.  Ann Fam Med 2011;9:31-36





【要約】
【Background knowledge】

1.The Wells rule has 10 items including one ‘subjective’ item: Alternative diagnosis at least as likely as DVT(or, Wells rule is influenced by pretest estimate of the clinician) 
If score is more than 1, ultrasound is indicated regardless of the result of D-dimer testing. 
If score is 0 or 1, ultrasound is indicated if D-dimer test is positive.
2.The primary care rule has 7 items(with no ‘subjective’ items) and D-dimer testing. 
If the score is more than 3, ultrasound is indicated. 
If the score is 3 or less, ultrasound is indicated if D-dimer test is positive.

【Purpose】

The objective was to compare the Well’ rule (Table1) and the primary care rule (Table2).
1.The ability of both rules to safely rule out DVT
2.The ability of both rules to efficiently reduce the number of referrals for leg ultrasound investigation that would result in a negative finding.

【Methods】

A.Study design; Prospective cohort study without control group.

B.Procedures

1. Family physicians collected data on 1,086 patients to calculate the scores for both decision rules before leg ultrasonography was performed. Patients with 1 or more of the following symptoms were enrolled: swelling, redness, or pain of the lower extremity.

2. In all patients D-dimer (dimerized plasmin fragment D) testing was performed using a rapid point-of-care assay. URL;http://www.clearview.com/d-dimer.aspx

3. Patients were stratified into risk categories defined by each rule and the D-dimer result. The actual management was based on the primary care rule as calculated by the attending physician.(Thus, the Wells rule score was only calculated in each patient and not considered in the management.)

4. Outcomes were DVT (diagnosed by ultrasonography) and venous thromboembolic complications or death caused by a possible thromboembolic event during a 90-day follow-up period. We calculated the differences
between the 2 rules in the number of missed diagnoses and the proportions of patients that needed ultrasound testing.

【Results】

A.Overall prevalence;

Data from 1,002 eligible patients were used for this analysis. Of 1,002 patients, 136 (14%) had DVT confirmed by objective testing. Three patients were lost to follow-up.

B.Outcome; Missed diagnosis;

A venous thromboembolic event occurred during follow-up in 7 patients with a low score and negative D-dimer finding, both with the Wells rule (7 of 447; 1.6%; 95% confidence interval [CI], 0.7%-3.3% ) and the primary care rule (7 of 495; 1.4%;95% CI, 0.6%-3.0%).

C.Outcome; The effectiveness of the rules(=The number of D-dimer testing and ultrasound);
Using the Wells rule, 447 patients (45%) would not need referral for further testing compared with 495 patients (49%) when using the primary care rule (McNemar P <.001). (Fig.1 in detail.)
 Fewer patients (22%) need D-dimer testing when using the Wells rule, but 4% more will have to be referred for compression ultrasonography.
Expressed differently, to save 1 referral for compression ultrasonography, an additional 5 or 6 D-dimer tests have to be performed when using the primary care rule.



 【考察とディスカッション】 著者がそれぞれのルールについてコストを計算している。
プライマリ・ケア医がDVTを疑う患者を100人診療したとき
 (1)    プライマリ・ケアルールを適用した場合、Dダイマーのオーダーが22件増え、$220のコストがかかる(1回あたり$10。)
 (2)    Wellsルールを適用した場合、超音波エコーへの患者紹介が4件増え、$240のコストがかかる(1回あたり$60。)
DVTに対するプライマリ・ケアルールが存在することとその有用性を知った。
Wellsルールもプライマリ・ケアルールと同様に有用であるが、超音波エコーへの紹介件数が増える(郡部ではこのことが障壁となりうる)。
 英国ではDダイマーの迅速検査が普及していることに驚いた。 110216_1

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【開催日】
2011年2月16日(水)

2歳以下の子供の急性中耳炎治療に対する抗菌薬の使用

【文献名】

Alejandro,et al. Treatment of Acute Otitis Media in Children under 2 Years of Age. N Engl J Med 2011; 364:105-115




【要約】
【背景】

2歳以下の乳幼児の急性中耳炎の治療における推奨に関してはImmediate antimicrobial treatmentとWatchfull waitingと様々な意見がある。

【方法】

従来よりも厳格なcriteriaで急性中耳炎と診断された生後6~23か月の乳幼児291人を無作為にアモキシシリン・クラブラン酸(以下ABx)投与群とプラセボ群に割り付け、10日間治療を行った。
厳格なcriteriaとは以下の3つを満たすものと定義した。

①48時間以内の発症

②AOM-SOS score 3点以上

③中耳の所見(中耳の浸出液and中等度もしくは重度の鼓膜膨隆or軽度の鼓膜膨隆と耳痛or鼓膜の著明な発赤)


除外基準

他の急性疾患あり/慢性疾患あり/アモキシシリンアレルギー

96時間以内に1つ以上の抗生剤内服歴あり/48時間以上の耳痛/鼓膜穿孔
 
※ AOM-SOS score(0~14点満点)

耳を引っ張る/泣く/不機嫌/寝つきが悪い/活動性低下/食欲低下/熱

各項目 いつもと比べて(none :0点 / a little:1点  / a lot:2点)で回答し合計する。



Primary Outcome

・症状がほぼ消失する(AOM-SOSスコアが0~1点となる)までの期間

・各群のAOM-SOSスコアの平均値の治療開始後7日間の推移



Secondary Outcome

全体的な効果、アセトアミノフェンの使用状況、有害事象の発生状況、鼻咽頭の常在化率

ヘルスケア資源の利用状況

【結果】

291名が2群に分けられ、ITT解析が行われた。

両群の患者層は同等であった。

(1)症状がほぼ消失する(AOM-SOSスコアが0~1点となる)までの期間

ABx群
2日目 20%  4日目 41%  7日目 67%

プラセボ投与群

2日目 14%  4日目 36%  7日目 53%

(2)各群のAOM-SOSスコアの平均値の治療開始後7日間の推移

ABx群が有意に低かった。(p=0.02)

治療修了時点の10-12日目時点でもスコアは平均0.87(95%CI 0.29-1.45,p=0.003)と有意に低かった。

(3)治療失敗率はABx群で優位に低かった。
治療途中の4,5日目 4% vs 23%(P<0.001)
 (4~5日目の失敗の定義: 症状の改善が認められない、耳鏡所見が悪化) 治療終了時の10~12日目 16% vs 51%(P<0.001)
 (10~12日目の失敗の定義: 症状が消失していない、耳鏡所見がほぼ完全に治癒していない) 
 乳様突起炎がプラセボ群で1例認められた。 
(4)10~12日目において、以下の場合に治療成績が有意に悪かった。 ・週に10時間以上、3人以上の子供と接触した(P=0.007)
 ・試験開始時のAOM-SOS scoreが悪い(8点以下と8点より上で分けた場合)(P=0.004) ・両側の中耳炎の場合(P=0.002)
 ・鼓膜がより膨隆している場合(P<0.001) 
(5)21~25日目における再燃または中耳の滲出液の持続
再燃
(10~12日目で臨床的に治療が成功したにもかかわらず、21~25日目で再発した症例) ABx群16%、プラセボ群19% (P=0.56)
 中耳に滲出液の貯留
 (10~12日目で治療失敗と評価された患者にはamoxicillin-clavulanateに加えcefiximeを投与された)
 ABx群50%、プラセボ群63% (P=0.05)
 (6)下痢、オムツ皮膚炎はABx投与群で多かった。
 (7)両群間でStreptococcus pneumoniaeの鼻咽頭の常在率に変化は見られなかった。 【Conclusion】 
急性中耳炎をもった生後6~23か月の乳幼児に対しては、10日間のアモキシシリン・クラブラン酸投与は症状を改善するための時間を短縮し、症状を軽減し、耳鏡検査の急性感染徴候の持続率を減らす。
 
【考察とディスカッション】 小児の中耳炎で抗生剤治療に悩むケースは比較的多い。重症例では確かに抗生剤投与を積極的に考えるが、軽症から中等症に関しては抗生剤を用いないケースもあった。
確かに、そのような場合、数日後の再診の際に抗生剤を開始しなければならないケースを経験することも少なくない。
今回の研究では、治療失敗例としてその割合などを具体的に明記してくれていたため、今までの臨床上の感覚的なものを数値化して捉える事が出来た。
この辺りのデータを提示することで、今後は結果的にどちらの選択になろうとも、今までよりも多い情報量の中で合意を得つつ治療していくことができそうである。

 【開催日】 2011年2月9日(水)

医学の専門的能力に関する認知学的な考察:理論とその適応

【文献名】

Schmidt HG, Norman GR, Boshuizen HP:  A cognitive perspective on medical expertise: theory and implication. Acad Med. 1990 Oct;65(10):611-21.




【要約】
<従来の仮説>

・臨床技能は状況と独立しており、獲得すると新しい問題ですら上手に解決することができる

・病歴/身体診察、データの解釈、診断、臨床推論、マネージメントなどから構成

○Content Specificity(内容の特異性)

・生物医学的な知識と問題解決のための経験則は、個々の問題のレベルになると関連性は低い

○専門性とデータの収集
・専門性が高まれば重要な臨床データの収集が増すという仮説は支持されない
 
→ 初心者(学生、レジデント)と同じぐらいの収集力

○基準の設定

・問題解決の基準を作成するのは想像されるほど明確なものではない

○中間効果
・学生がレジデントになったとき、一時的に臨床推論能力が低下することあり

・専門家はテストで評価することが困難な、ある種の特別な知識を獲得する

○臨床診断の過ち

・今までは、ショートカットの利用や詳細への不注意、明確な知識の欠如が原因と考えられていた

・実際は長い診察時間と関連していることが多い



<臨床推論の段階理論>

○以下の3つの想定に基づく
・医学における専門性の獲得に置いて、学習者はいくつかの移行段階を通過し、それは行動の基盤にある異なる知識基盤に特徴づけられる

・こうした知識の基盤は専門性の発達の中で衰えて駄目になることはなく、状況がそれを必要と
  するときは将来も活用できる

・経験のある医師は、ルーチンの症例を診断する際に、我々が「病気のスクリプト」と呼ぶ知識
  基盤を操作していく

○病気のスクリプト

・病態生理ではなく、疾患に関する臨床的に関連する豊富な情報、その結果、それが生じたコンテクストを含む


[Stage1:詳細な因果関係のネットワークの発展]

・医学部4回生までの本での知識・理論をネットワークでつなぎ、状況を説明する

[Stage2:詳細なネットワークの集合を要約する]
・繰り返しの経験を通じて、このネットワークを高いレベルの簡潔な因果関係モデルへと要約し
  症状や徴候を説明し、診断のラベルに組み込む

・これは実際の患者に遭遇する中で起きる変容である

[Stage3:病気スクリプトの出現]
・要約と同時に因果関係の知識構造が、「病気スクリプト」と呼ばれるリストのような構造へと
  変化していく
・多くの患者との遭遇の中で、学習者は病気の表現に多様性があることを感じる

・そして、病気が生じる背景にあるコンテクストの因子に注意を払い始め、スクリプトが生じる
 
☆illness script:diseaseとillness/contextが一体となって記憶される症例のまとまり

○通常の症例では、スクリプトを探し、選択し、検証することとなる

・病気スクリプトは、連続的な構造を持つことがポイント
・異なる医師は同じ疾患に対しても全く異なるスクリプトを開発することとなる

[Stage4:即席のスクリプトとして患者との出会いを蓄積]
・多様な経験を積むことで、多くのスクリプトを蓄積するプロセスが専門性の獲得

・似たようなスクリプトを適用することで多くの症例に対応することが可能になる
 
→ パターン認識はショートカットではなく、不可欠な技能である



○こうした段階は徐々に獲得されていくが、専門家は前の段階に戻ることは可能であり、状況によって使い分けることができる

○専門家は「深いレベルの情報処理」で働いているのではなく、経験と以前の教育から
 生じた様々な形態の知識の表現を自由に使いこなすことと関連していると言える



<教育への適応>
・問題の数、カリキュラムの中での連続性、それぞれから引き出される情報が極めて重要となる

・どれぐらいの数の問題を解決していけばよいかは不明


<学習者の評価>

・2層に分けて実施する方法
 
1.まず簡単な最低限の情報を持つ多様な状況を提示し解決に至ることを求める
2.正解にたどり着かなければ、問題をより詳しく、追加情報を用いて解決していくこととなる


【考察とディスカッション】
・ 多くの医学生は疾患(disease)経験の多様さ、多さを追い求める傾向にある。私たち指導医はそのような学生にこのような疾患の経験を追い求めるだけ ではなく、患者中心の医療の方法における「病い(illness」」の側面も探求するように働きかけることができる。このことにより学生に 「Illness script」が形成されることになるだろう。
・ 同時に学習者のステージについても注意を払う必要がある。臨床推論「Stage theory」でいうStage2における単純化された因果モデルを高いレベルで学んでいない場合、患者の背景(context)の重要性を強調すること により学習者圧倒されてしまうであろう。指導医はこの点において間違いを犯しやすいと考えており、「Illness script」の学びは卒後3~4年くらい、stage3の「Emergence of illness script」に入る痛ある段階が望ましいと思われる。
・ 改めてIllness script形成が自分の診療のコアにあると痛感する。家庭医の診断能力を他の領域の医師に説明する際に、こうした認知論的観点から「包括的ケア」の妥当性が満たされることを示すのも一つの方法であろう。
・ こうした教育研究も是非HCFMの一研究領域としていきたいものである。その際は、やはり医学部教育ではなく、現場の臨床経験に基づき生涯学習に連動するようなテーマが良いだろう。

【開催日】
2011年2月2日(水)