~非結核性抗酸菌症の診断~

【文献名】
David E Griffith, Richard J Wallace, Jr: Diagnosis of nontuberculous mycobacterial infections of the lungs in HIV-negative patients. Up To Date ONLINE 18.3: last updated December 2, 2009.

【要約】
臨床的基準(以下の両者を満たす)
1.肺症状、胸部レントゲンで結節状あるいは、空洞陰影(M.kansasii感染の90%、M.avium complex(MAC)感染の50%に見られ、結核感染の場合よりも壁が薄く、周辺実質組織が不明瞭になる)、HRCTで多発性の小結節陰影を伴う気管支拡張像。
・MACの少なくとも50%は気管支拡張像を伴う結節影を認め、それは右中葉、舌区に最も頻繁に見られる
・ある研究では、気管支拡張像も持つ患者で24%は肺に多発性の結節影を認め、喀痰培養でMAC陽性の患者で結節影を認めた患者が53%、認めない患者は4%に過ぎなかった。
かつ
2.他の疾患を適切に除外
微生物学的基準
(1)喀痰検査は少なくとも3回、別々の検体で検査する必要がある。その中で少なくとも2回、別々の喀痰の検体で培養陽性。もし、その結果から診断出来ない時場合、塗抹と培養を繰り返す事を考慮。
または、
(2)少なくとも1回、気管支洗浄液の検体で培養陽性。
または、
(3)経気管支的、または他の方法で採取した肺生検検体で抗酸菌の組織学的特徴(肉芽腫性炎症、あるいは抗酸菌)を有し、かつ、非結核性抗酸菌の培養陽性、または、抗酸菌の組織学的特徴(肉芽腫性炎症、あるいは抗酸菌)を有する生検検体と一つ以上の喀痰あるいは気管支洗浄液で非結核性抗酸菌の培養陽性。
(4)頻回の培養検査で診断できない、または、環境の汚染によるものと考えられる場合は、専門医にコンサルトする。
(5)非結核性抗酸菌症と疑われるが、診断基準を満たさない患者は、診断が確定するか否定されるまでフォローされるべきである。
(6)非結核性抗酸菌症と診断されても治療開始を必要としないこともある。それは、患者個々の治療に対するリスクと有益性に基づいて決定されるものである。

【開催日】
2010年12月1日(水)

~認知症患者の自動車運転の可否をどう評価するか?~

【文献】
D.J. Iverson, D.J. Gronseth: Practice Parameter update: Evaluation and management of driving risk in dementia. Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology: 2010; 74: 1316-1324.

【要約】
《背景》
軽度の認知症患者は集団としては自動車運転のリスクが高いが、最近の研究では76%もの患者が路上運転試験をパスし、安全に運転が可能であることが示されている。臨床医は安全に運転できる患者を不必要に制限することなく、リスクの高い患者を見つける方法を求めている。
《目的》
認知症患者の自動車運転の能力を予測できる患者特性や病歴、認知機能テストの有用性に関するエビデンスをレビューすることと運転のリスクを回避する方法の有効性を測定すること。
《方法》
American Academy of Neurology’s evidence-based methodsを用いた文献のシステマティックレビュー。
5つの問いをたて、文献をレビューした。
《結果》
(1)認知症の重症度の包括的な測定法はどの程度運転能力と強く相関するか?
Clinical Dementia Rating(CDR; 参考文献参照)は危険な運転のリスクの高い患者の発見に有用。(Level A)
MMSE24点以下は有用とするエビデンスはある(Level C)一方で、相反するエビデンスもある。
(2)患者自身や介護者は運転能力や危険をどの程度評価することができるか?
介護者による評価は危険な運転者のリスクの高い患者の発見に有用。(Level B)
患者自身による評価は患者が安全に運転できることを保証するには有用ではない。(Level A)
(3)どのような病歴が運転能力の低下と関連するか?
・ 過去1~5年の間に事故を起こしたという病歴、過去2~3年の間に交通違反のきっぷをきられたという病歴は有用。(Level C)
・運転する距離が短くなった、運転の機会をなるべく避けるようになったという病歴は有用。(Level C)
・運転の機会をへらしているという病歴がないことは安全に運転できる能力があることを保証するものではない。(Level C)
・攻撃的、直情的な性格傾向は運転のリスクが高い患者の発見に有用。(Level C)
(4)神経心理学的検査は役に立つか?
神経心理学的検査が運転のリスクの評価に有用であるという十分なエビデンスはない。(Level U)
(5)運転のリスクを軽減する介入法は存在するのか?
認知症を有する運転者に対する介入法の効果を支持するまたは否定する十分なエビデンスはない。(Level U)
《考察》
CDR1.0の比較的軽度の認知症の患者では路上運転試験をパスするケースも多いため、運転を制限する必要のない患者に介入を行わないように、その他のリスクファクターを考慮して対応を決めるような下記アルゴリズムを提唱している。

101124

DMV: department of motor vehicles
※ 参考文献: Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 1993;43:2412-2414.

【開催日】
2010年11月24日(水)

~赤目の診察~

【文献】
Deborah S Jacobs : Evaluation of the red eye. Up To Date ONLINE 18.2: last updated June 16, 2009 .

【要約】
赤目に関する疫学的データはほとんどなく、私たちが赤目患者のマネージメントをするにあたってのガイドとなる、エビデンスに基づいたデータもない。
《病歴》
以下の質問は全ての患者にするべきである。
・視力は影響を受けていますか?
 – 読書時の文字の大きさと距離、形態認識できるか、光が分かるか。
・異物感がありますか?
  –患者が自発的には目を開けられない、または開けていられないとことが客観的な異物感の証拠となり、これは角膜が関与していることを示す。比較して、「ザ ラザラ」、または「目に砂が入ったみたい」というのは主観的な異物感で、必ずしもコンサルトを必要とするような角膜の問題を示唆しない。
・羞明(輝所恐怖症)がありますか?
 –羞明の客観的サインは帽子を被り、サングラスをかけ、悪い方の目を光をさえぎるように手で覆うか、頭を下げて光源や窓から目を背ける。検者が来るのを待つ間、検査室のライトを消して欲しいと要求する。
・外傷がありますか?
・コンタクトレンズをしていますか?
 –コンタクトレンズ使用の眼脂と赤目は、角膜炎の疑いが増す。
・涙以外で一日中続く分泌物がありますか?
《身体診察》
ペンライトを用いて
・瞳孔はライトに反応するか?
 –閉塞隅角緑内障の場合、瞳孔は中間位に固定される。その場合、ライトには反応せず、4~5mm径で固定される。
・瞳孔のサイズがとても小さいか(1~2mm)?
 –角膜の擦過傷、感染性角膜炎、虹彩炎の場合には瞳孔がピンポイントとなる。
・膿性眼脂があるか?
 –膿性眼脂は細菌性結膜炎か細菌性角膜炎を示唆する。
・毛様体の充血あるか?
 ―より重症な病状に特徴的。毛様体の赤みは、角膜輪部 (角膜が強膜に移行する部位)に最も顕著で、眼球赤道に向かうにつれ軽減していく。
・角膜に白点や混濁、異物があるか?
 –角膜の白点や混濁は感染性角膜炎を示唆する。これはたいていフルオロセインの助けがなくても見ることができる。
・前房蓄膿や前房出血があるか
《評価》
表。ここをクリックして下さい。
《要約》
もし視力・視野に影響なく;瞳孔が反応し;異物感や羞明がなく;角膜混濁がなく、前房蓄膿がなく、前房出血がなければ、プライマリケア医が最初の診断をつけて、治療を開始してよい。
以下に緊急に眼科コンサルトが必要な兆候をあげる。
片側性の赤目で患者は一般的に嘔気や嘔吐の不調を訴える。(急性閉塞隅角緑内障を示唆)
赤目に関連してひどい目の痛みや視野欠損を訴える。
角膜浸潤物やフルオレセインで染色される混濁がある。(ときに潰瘍と呼ばれる)
前房蓄膿

【開催日】
2010年11月24日

~「斜め」サイン(認知障害の徴候)~

【文献】
Perter Kraft, Ottar Gadeholt, et al. : Lying obliquely–a clinical sign of cognitive impairment: cross sectional observational study.BMJ 2009; 339:b5273 doi: 10.1136/bmj.b5273 (Published 16 December 2009)

【要約】
《目的》
病院のベッドへ寝るよう言われた際、ベッドの縦軸に体の軸を合わせられないことが認知障害と関連するか検討した
《デザイン》
観察横断研究
《セッティング》
ドイツの大学病院の神経科病棟
《参加者》
110人の60歳以上の神経疾患を有する入院患者, 23人の神経科スタッフ医師
《主要アウトカム》
体の軸の角度と3つの認知能検査(MMSE, DemTect, 時計描出テスト)との関連
《結果》
110人のエントリー
・平均年齢 70.9歳 (SD 6.8)
・34人が認知障害…8人がMMSEで, 11人がDemTectで認知症
・体とベッドの軸の角度は0-23度であり、これはMMSE, DemTect, 時計描画テストのスコア全てと有意な関連(角度↑につれて、スコア↓, つまり認知障害↑)
・スタッフ医師の90%が「斜め」と考えた最小の角度は7度
・7度以上の角度がMMSE, DemTect, 時計描出テストによる認知障害を予測する…特異度 89-96%, 感度27-50%
《結論》
体動可能な神経疾患の高齢者において、ベッドに寝る際、斜めになった場合は認知障害を疑うことができる

【開催日】
2010年11月17日(水)

~個人レベルと家族レベルの「家族ライフサイクル」の視点を活かす~

【文献】
精神療法 特集「家族の歴史を治療に活かす」2009年2月号
家族ライフサイクルを活かす~臨床的問題を家族システムの発達課題と危機から捉えなおす

【要約】
家族ライフサイクルの各段階にはその段階に特有の発達課題があり、それに伴う発達的危機がある。これは平均的な家族が共通して経験するもので、ある程度は予測可能なものである。この危機は、適切に対処できない場合は特定のメンバーの問題行動につながったり、関係性が悪化する危険があるが、適切に対処できた場合は、関係性が親密になったり、家族として成長につながる可能性もある。
つまり、現場で出会う個人や家族の多くは十分に変化し成長することができず、困っているのであり、家族が発達的危機を乗り越え、次の段階に移行できるような変化を促進することが臨床家に求められる。
(表1参照)
《第一段階:結婚前の成人期 ―家からの巣立ちと家族の基盤つくり―》
この段階は、既に原家族から離れつつあるものの、まだ自分自身の新たな家族を形成するには至っていない移行期である。ここでの個人レベルの発達課題は、職業を選択してそれにコミットする(アイデンティティの確立)、そして経済的に自立すること(心理的自立を促す)が挙げられる。また個人の対人関係に関わる課題としては、同性・異性と親密な関係を築くことが挙げられている。親密とは、自分らしさを失うことなく、自分とは異なる個性をもった相手と心理的に近づくことができることである。また家族レベルの発達課題としては、源家族との関係での自己分化である。とりわけ親との関係において親密な関係を保ちながらも 分は自分であるという姿勢を保つことである。

《第二段階:新婚夫婦の時期 ―二つの異なる家族システムの結合―》
一般的に幸福なイメージを持ちやすい新婚期であるが、同居期間別の離婚率は、5年未満の夫婦が一番高い。現実に結婚生活が始まると、それまでの人生に身につけてきた、性格、価値 観、家族観などの違いに日々直面する。当人たちは自分が正しいと思い込んでおり深刻な葛藤に発展する可能性もある。こうした中、葛藤を乗り越えるのは、コミュニケーションと問題解決スキルが身についているかどうか?である。またなるべくお互いに満足できるような結論を出そうとするアサーティブな姿勢が重要である。

《第三段階:乳児期を育てる時期 ―幸せとストレスの狭間―》
子供の誕生は、多くの夫婦に至福の喜びをもたらすと同時に、心理的、肉体的、経済的なストレスをもたらす。家事と育児を二人でどう分担するか?仕事と家庭の両立、実家からの援助、子育ての方針など葛藤や衝突を繰り返しながら、徐々に解決していくと夫婦の絆は強いものになるが、うまくいかない場合は悪化する危険性も秘めている。また子どもの誕生は、祖父、祖母という役割が生まれ、子育てに取り組む夫婦の心理的サポートにであればいいが、過剰に介入する場合もある。

《第四段階:学童期の子どもを育てる時期 ―生活の広がりと境界の維持―》
子どもが小学校に通う学童期は、子どもの能力や個性に合わせた育て方が重要である。また親として家族と外の社会の間に適切な境界を築くという新たな役割が生じてきたと言えるかもしれない。親子の親密な関係は保ちながらも、夫婦連合が維持され、親世代と子ども世代との世代間境界も明確であることが望まれる。

《第五段階:思春期・青年期の子どもを育てる時期 ―健康な家族でも揺れる段階―》
様々な子どもの問題や親子の衝突が起こりやすくなり、この段階は家族ライフサイクルの中でも最も困難な段階である。子どもは第2次性徴や、他人の目に敏感になる、進路選択、職業選択など自分らしさとは何か?とアイデンティティを確立していかなくてはならない。中高年になった親は、肉体的な衰えを感じ、仕事でも重責を担い、自分の能力の限界に直面することもある。また老年期を迎える自分の親、パートナーの親の世話が現実的になってくるのもこの段階である。親子の関係でみると、親は子どもが大人になりつつあることを認め、子供の自立の試みを支えていかなければいけない面と、まだまだ情緒的には幼い部分があるために、傷つきや不安を受け止め、依存できる場を保証してやらなければいけない面があり、親として柔軟に関わることは容易ではない。さらに夫婦関係の問題もある。この段階で子どもに問題が生じたとき、父親がいかにそこに関与するか、夫婦として協力して補い合えるかもポイントになる。

《第六段階:子どもの巣立ちとそれに続く時期 ―岐路に立つ家族―》
この段階は子どもを中心に考えれば第一段階に相当する。子どもは進学や就職、結婚により巣立ちをしなければならないが、同時にそれは親が子離れしなければならないことを意味する。親の夫婦関係が良好であればそうした移行も乗り越えていけるが、それまで子どもを生き甲斐にしてきたような場合や、子どもがいることで夫婦間の葛藤を否認してきたような場合は、成人した子どもへの過干渉という問題にもつながる。また熟年離婚もこの時期に多い。抑うつには自尊心の低下が関係しているが、男性では退職の前後、女性では巣立ちの時期が問題になることが多い。

《第七段階:老年期の家族 ―さまざまな別れと人生の統合―》
老年期を迎え、自身やパートナーの老化に直面し、さまざまな喪失に対処していかなければならない段階である。それまでの人生を振り返りありのまま受け入れること、そして、死への準備をしていくことが課題になる。これらは家族との絆が保たれ、家族のみならずさまざまな社会的資源に恵まれていて初めて可能になる。

《家族ライフサイクルの世代間伝達》
臨床問題を家族ライフサイクルの観点から理解しようとする時、ケースによっては世代をさかのぼ り、発達課題がどのように前の世代から未解決なまま現在に持ち越されているのかを理解する必要があることがある。例)虐待の問題。親自身が思春期のときに 自分の親と葛藤を経験し、今の子どもとも同様の葛藤をしている。

《臨床家自身の家族ライフサイクル》
臨床家自身が家族ライフサイクルのどの段階にいるのか、それは患者の段階と一致しているのか否か。一致していないとすれば、すでに臨床家が経験した段階か、それとも未知の段階か、いずれの場合も、それが適切な理解と援助に結びつく場合もあれば、阻害する要因にもなりうる。例えば、臨床家自身が思春期の子どもと葛藤状態にあるとき、親の傷つきや苦しみを共感的に理解しやすい場面もあるが、反抗的な中学生の患者に、批判的になってしまうかもしれない。臨床家は、家族メンバーの誰に対して、どのような感情を抱いているのか、どのように理解しているのか、自分自身の家族ライフサイクルとどう関連しているのかを日頃から意識化しておく必要がある。

《おわりに》
家族ライフサイクルの視点は、患者の症状や問題の意味を、家族システムの発達課題と危機という角度から理解することを可能にする。ただ離婚や再婚の問題、未婚化・晩婚化、できちゃった婚も増えてきている。このように家族のありようも変化しており、家族ライフサイクルという枠組みに縛られてしまうと平均的なプロセスをたどっていない人や家族に病理のレッテルを貼ることになりかねない。家族ライフサイクルの枠組みを活用しながらも、それに捉われない柔軟さが必要であろう。

【開催日】
2010年11月17日(水)

ケアの継続性 ~どう学び、どう教えるか?~

【文献】
Karen Schultz:Strategies to enhance teaching about continuity of care.
Can Fam Physician Vol. 55, No. 6, June 2009, pp.666 – 668

【要約】
 ケアの継続性の教育においてはその重要性や長所と共に、長期的な治療関係における困難な側面と、それを扱うための対処についての教育も重要である。
以下は、ケアの継続性の多面的な要素について教育するための方法である。
ケアの継続性の6つのコンポーネントの教育方略
1.長期的な継続性 :時間経過のある診療の経験
《長所》
やったことの結果をみることができる、先送りせず困難な状況を扱うことを学ぶ
《実施計画》
(1)自分で同じ患者さんをフォローアップするための方法を伝える。
(2)受付にそのレジデントがいないときに予約しないように頼む。
(3)ローテーションの中間の振り返りで、一連の受診についてFeedbackを与える。

2.情報の継続性 :過去のケアの情報へのアクセス
《長所》
患者ケアの効率と安全性が向上する
レジデントが患者の経緯を知っていることで患者の満足度が向上する
《リスク》
記録が不完全(特に今後のプランに関して)
《実施計画》
(1)最初の診療計画を立てるために検査室(電子カルテの前)での仕事を指示する
(2)もし可能で適切であれば、特に複雑な患者についての知識をローテの初期に伝え、総合的なアセスメントを立てておく
(3)初回の診療時にレジデントに患者の背景情報を伝える
(4)引き継ぎのサマリー記載を依頼する(書く方、受け取る方双方にメリットあり)

3.地理的な継続性 :多様なセッティングでのケアの経験
《長所》
環境を手掛かりに患者を理解するための洞察が増える
治療的関係が強化される
《リスク》
時間、安全性
《実施計画》
(1)レジデントに往診や施設訪問の要請に応えてもらう
(2)病棟訪問を担当してもらう
(3)来診の度に患者についてもらう(リハビリや検査などにも)

4.多職種間の継続性 :ケアが多職種で提供され、調整されていることを知る
《実施計画》
(1)診療の一連の行為/診療に携わったり手伝ったりする
(2)患者についての全ての紹介状を見せる

5.家族・地域の継続性 :様々な家族、コミュニティにケアが提供されていることを知る
《長所》
患者について更なる洞察を提供する
《リスク》
秘密保持、家族・コミュニティに吸収される?
《実施計画》
(1)長期的な診療をしている患者リストを作成し、その家族のメンバーをみる
(2)夫婦や育児などについての外来予約を取る

6.関係性の継続性 :医師患者関係を確立する
《長所》
仕事のやりがいの増加、仕事の満足度の増加、患者ケアのアウトカムの向上、訴訟リスクの軽減、自信が生じ医師自身の効果を実感する
《リスク》
い つもの決まったやり方で自己満足になる、患者の健康・マネージメント・仕事と生活のバランスの摩擦についての心配や不安が高まる、(運転、犯罪、児童保護 などで)伝えるべきことへの葛藤が生じる、患者が亡くなったり障害を負ったときに医師にも悲嘆反応が生じる、患者の依存が生じる、境界についての問題が生 じる
《実施計画》
(1)意識的に、継続性が鍵となる(治療的関係性を必要とする)患者を担当してもらう
(2)自身が(継続性の長所短所・短所への対応を見せる)ロールモデルとなる
(3)困難な患者のケアを支援・促進する

【開催日】
2010年11月10日(水)

~家庭医療の発展におけるメンターシップの重要性~

【文献】
Hajar Kadivar: The Importance of Mentorship for Success in Family Medicine. Ann of Fam Med 2010 8:374-375.

【要約】
メ ンターシップは家庭医の個人的な成長やキャリア形成の上で非常に重要な役割を持っている。家庭医療学において学術、研究の領域で適切なフィールドを構築す るためにも必要となる。この記事ではメンターシップの重要性と、主要な要素なコンポーネントを見出し、メンターシップの個人や施設における障壁を同定し、 それらを乗り越えるステップとしたい。

メンターシップは医学の専門性発展のための重要なformal social supportである。このサポートは以下の4つに分類される。
(1) emotional support・・・共感や信頼を提供
(2) instrumental support・・・具体的な支援を提供
(3) informational support・・・アドバイスや情報を提供
(4) appraisal support(評価)・・・形成的なフィードバックと激励をする
こ れらは重要であるが、一人のメンターが全てを提供する必要はない。たいていの人には複数のメンターがいて、彼らが相補的に支援してくれていることが多い。 メンターはメンティーが研修を受けている際には提供されるものであるが、研修早期からずっとメンタリングを受け続けることが重要である。

学術的な分野にいる医師は十分な経験や時間がないと感じているため、メンターシップを提供することに抵抗を感じることもある。メンティーは多種多様な経験レベルのメンターを必要とし、それぞれのレベルのメンターから様々な学びを得る。

メ ンターシップはたいてい個人レベルに対して提供されるが、その利益は個人と組織の双方に認められる。それゆえ、施設間の障壁が取り除かれ、メンターシップ に対する動機づけがなされることで組織は変化する。特に家庭医療が研究の分野での成功を収めるためには重要となる。家庭医が小児科医や内科医と同様にメン ターシップを受けたとしても、フェローシップ終了後のメンターシップはほとんど受けることができず、臨床家や研究者としてのファカルティのポジションもあ まりなく、ほとんど論文も出てこないだろう。よって、研究分野において家庭医療をもっとアピールし、研究、論文を増やしていくことが望まれるのであれば、 新しい研究者に対するメンターシップ制度の構築は不可欠である。

North American Primary Care Research Group (NAPCRG)は、地域においてメンターがいないprotégésのためにメンターシップを提供するワークショップやプログラムの開発を行っている。こ のプログラムの目標は、家庭医療におけるリサーチメンターの数、質、効率、そして生産性の向上にある。Grant generating project(STFM、AAFP、NAPCRGの共同出資)は研究活動に対して支援者がない新人の研究者に対して教育とメンターシップを提供する機会 を与えている。

【開催日】
2010年10月20日(水)

~Capabilityアプローチ~

【文献】
Ferrer RL, Carrasco AV. Capability and Clinical success. Ann fam med 2010;8(5):454-60.

【要約】
《プロセスとアウトカム改善の間の乖離》
・ 慢性疾患の管理において、多くの臨床研究ではケアプロセスの改善とアウトカムの間の乖離が示されている
・ その理由の一つは、成功がヘルスケアシステムのコントロール外にある、患者が不健康な行動を変えて疾患を管理しようとする能力に依存しているからである。
・ 患者の参加度合いを高めるために、自己効力感のような全人的な関わり、そしてそこから起因する介入としてempowerment、自己マネジメント、motivational interviewingのような方法が開発されて、一定の効果をもたらしている。
・ ただ、こうした方法論は外部の環境が実際に行動変容の機会を与えているかどうかはあまり強調していない。今までのアプローチが十分な成果を挙げなかったのは、こうした健康の社会的要因への理解が乏しかったからではなかろうか。
《制約:健康的行動への環境面からの障害》
・ 実例として、貧しい地域に住む住人は健康的な食事をとる機会が減り、運動も実施しづらく、肥満の罹患率は上昇していく。つまり、健康的な生活を送るための資源が最初から乏しい。
・ こうした健康の不均衡をもたらす構造的原因となる一般的な状況や環境面の障害については、現在のアプローチでは十分取り上げられていない。
・ もちろん、communityレベルでこうした問題に取り組むアプローチも重要だが、診療所を基盤とした効果的な方法論を開発することも重要であり、プライマリ・ケアが広く国民に受け入れられるためにも必須である。

《臨床的な成功の決定要因としての患者のCapability》
・ Capabilityフレームワークは個人の幸福とその社会的なコンテクストを評価するために作られた。
・ Capabilityとは人々が有意義と感じる生活を送る機会をどの程度持てているかで定義される。
・ 有意義さは活動に起因し、それにはおいしく食べられる、十分な栄養が確保できているような段階から、更には、自分の力で判断を下すことができる独立性を保てているなどの高い目標なども含まれる。
・ このフレームワークの特徴は、達成状況に加えて機会を強調した点にある。つまり、単なる能力abilityを目標達成のための活動に変えるためには、現実 的な機会が必要だからである。ある人にとって実行可能な潜在的な機会のセット(capability set)を調べることで、どのような目標が達成可能か明らかになる。例えば、運動へのcapability setであれば、潜在的に実行可能な様々なタイプの運動をその人の時間・金銭、身体能力、他者からの支援、地域性などを考慮して提供することとなる。
・ このように機会を幸福測定の方法に加えることで、達成度が持つ問題点、つまり、人によってその度合いが変わることを回避することができる。
・ コミュニティーレベルでのcapability approachは行動変容に対する視点を、不干渉の観点(健康的な食生活を妨げる者はいない)から、そうした食材を近くのマーケットで入手することがで きるよう積極的にサポートするというスタイルへと変えることとなる。つまり、意志があっても方法を持たないものには行動の自由があるという見方は幻想に過 ぎないということである。
・ もちろん、こうしたサポートは一律に提供されるものではないことが重要である。
・ capabilityの観点からは、求める有意義な活動や目標に対して機会が乏しいということが貧困である。つまり、社会経済的状況と結果の関係性の中で、capabilityが鍵となる。
・ Capability評価尺度
1.この健康問題に関して、その方の価値観や目標は何でしょうか?
2.その地域で利用可能なリソースは何でしょうか? それを利用する機会はありますか? それは手近ですか? その費用は?
3.こうしたリソースの利用を促進あるいは邪魔するような個人的、家族、コミュニティーの要因はありますか?
・ capability介入
1.実質的に有効な目標は? そうした有効性を他の方法で達成するための機会はあるか?
2.機会を増大させるために、重要な個人、家族、コミュニティーの強みはあるか?
3.コミュニティーに向けての行動や提唱を通じて、社会的なコンテクストに関わることは可能か?
《臨床での応用》
・ このフレームワークは、まだ臨床での応用面では初期段階にある。
・ 最も重要なのは、生活習慣の変容や慢性疾患のセルフマネジメントの観点であろう。
・ 環境、機会、そして選択という間での相互作用を理解することで患者の生活習慣の変化における進展をより完全に理解することが可能となるだろう。
・ 機会提供のためには、診療所には目標と活動をつなげる地域のリソースをふんだんに用意する必要があり、パンフレットの作成やlocal connector(地域リソース提供のプロ)の養成、webの充実などが方法に挙げられる。
・ こうした活動は地域の様々なグループとのコラボで更に広がり、実行可能性を高める。ウォーキングキャンペーン、運動メッセージなどを地域ぐるみで展開している例もあり、こうした活動が良いアウトカムを生み出しているという研究結果も見られる。
・ 更に、地域の行政機関との連携もまだ乏しく、これからの発展が求められている。草の根活動との連携も重要である。
・ 地域にこうした機会が少ない場合、臨床家が必要なものを提唱することも重要である。

【開催日】
2010年10月13日(水)

~発売されたばかりの新薬。使う?使わない?~

【文献】
Pelger S. Underhill J.: Evaluating the safety and effdectiveness of new drugs. Am Fam Physician : 82(1)53-57, 2010.

【要約】
《はじめに》
発売されたばかりの新しい薬剤は既存の治療法のように幅広く研究されていなかったり、効果や安全性が十分検討されていないことが多い。
この問題に対処するためにSTEPSという語呂合わせがよりよい意志決定を行うために有用である。
《Safety: 安全性》
入院患者の約6.5%が薬剤の副作用によるものであるという報告がある。
新薬の安全性の問題は治験段階で明らかにならないこともあり、明らかになるのに長期間を要することも多い。米国では販売承認後に重大な副作用が明らかになる薬剤が10%もあり、新薬の重大な副作用が判明するまでの中央値が3年であるという報告もある。
こういった問題の背景には新薬の販売承認の決定が患者数1500人程度の短期間の臨床研究をよりどころとしていることがある。
《Tolerability: 忍容性》
多くの薬剤は症状を治療するためではなく未来に発生しうるイベントのリスクを避けるために処方される。こういった薬が患者の具合を悪くしてしまうのであれば、もはや継続することはできない。
《Effectiveness: 有効性》
97%の新薬は代用エンドポイントを設定した短期間のエビデンスをよりどころとしている。
短期間のエビデンスを元に発売され、その後有害であることが分かった薬剤も多い。
Milrinoneは心不全患者の心拍出量を増大させ運動耐容能を改善するというエビデンスをもとに発売になったがその後、死亡率を上昇させることが分かった。
新薬の採用について考えるとき、いつもこう問うべきである。
「この薬剤には既存の同様の薬剤と比較して私の患者の生命予後やQOLを改善するエビデンスがあるか?」

《Price: 価格》
新薬の価格はその薬剤を自身の治療オプションに加えるときに十分考慮すべきである。
例: ある疾患に対する治療薬Aは40%の治癒率で月20$かかる。治療薬Bは50%の治癒率で月50$かかる。印象ではより多くの患者を治療できるBを選ぶべ きであるように見えるが、仮にこの疾患に対して月10万$しか利用できないと仮定するとAは5000人の患者に投与することができ2000人の患者を救う ことができる。Bは2000人の患者に投与、1000人の患者しか救うことができない。
実際はもっと複雑であり、薬剤の相対的なメリットはその疾患に依存する。
《Simplicity: シンプルに》
投与期間の長い薬剤は1/3~1/2の薬剤が処方箋どおりに服用されていないと言われている。
できる限り単純な投薬スケジュールにすることが重要である、というのが常識であるが、1日1回の薬剤や合剤がadherenceを改善したというよいエビデンスはほとんどない。
ある質的研究では患者にとっては投薬の複雑さそのものよりも、投薬スケジュールを生活の中に取り込んでいくことが難しいようである。
《STEPSに加えて》
 ・ ARRかRRRか
 新薬のパンフレットや臨床研究の結果はARRよりもRRRで報告されることが多い。
このことは薬剤の効果を誇張しやすく、誤解の元となりやすい。
薬剤の効果はARR(NNT)で評価したい。
 ・ 既存の薬剤の新剤型には付加価値があるか?
近 年薬剤メーカーの間で既存の薬剤の新しい剤型(例:徐放性剤、プロドラッグなど)を発売するケースが多い。こういったケースが安全性や効果、 adhereanceを改善するのであれば、付加価値もあろうが、多くの場合ジェネリック薬品の登場に対抗して市場を守るためのものであることが多い。
合剤にも同様のことが言えるが、商品によっては処方を単純にする効果があるものもある。
 ・ 非劣性試験
新薬には監査機関に非劣性試験のエビデンスを提出することにより承認を得たものもある。
非 劣性試験は新薬が既存の標準的な治療薬と比較して劣っていないことをテストすることが目的である。本質的には限られた時間内に類似性を証明する。非劣性試 験は新薬のある疾患の治療における位置づけなどを検討せず薬剤の販売を許可することを目的に商業目的に行われることが多いため、こういった研究が倫理的で あるかが疑問視されている。
こういった薬剤は従来の薬剤に比較して優位であるどころか、効果や安全性の面で劣っている可能性もある。

【開催日】
2010年10月13日(水)

~プライマリケアにおける誤診・診断の遅れの事例にはどんな特徴があるか?~

【文献】
Diagnostic difficulty and error in primary care -a systematic review- Family Practice 2008; 25: 400-413.

【要約】
<導入>
このReviewは、①GPの診断ミスまたは遅れの状況 ②どんな特徴が、診断を困難にしたり、誤りの可能性を高めているか の2点を同定するために行われた。
< 方法>この論文の著者らが設定した検索ワードでPubmedを検索し、タイトルや内容からさらに絞り込んだ21のGPの診断ミスに関する文献をレ ビューした。具体的には、GRADEシステム(異なるMethodologyの文献をお互いに評価出来る方法らしいです)でStudyの質をチェックし、 かつ診断ミスが起こる事例が持つ特徴を割り出した。
<結果>
●上記のごとく21の文献が該当した。そのうち、2つの前向き研究以外は、全て後向き研究だった。
●Errorの定義は文献によって異なっていた。
 ・避けられるべき診断の遅れ、行うべき紹介が初回で行われなかった事例
 ・初診から診断までの時間が適切かどうか(適切の基準はそれぞれの文献ごと)
 ・診断ではなく、マネージ全体の適切さを扱っているものもあった
●診断ミスや遅れが起こりやすい事例の特徴
 ・7つの文献は原著で言及があった。
 ・筆者らは、診断の困難さと結び付く5つの特徴を見出した。すなわち、1非典型的な臨床像 2特異的でない臨床像 3非常に有病率が低い疾患 4併存疾患の存在 5認識できる特徴が見逃される(見逃されやすい)もの、であった。この特徴を複数持っているものも多かった。
1非典型的な臨床像
いわゆる「Prototypical features」が無いことを指す。Prototypicalとは、最も多くの患者が持つ特徴、進行した疾患でみられる特徴、医学書に単純によく描かれている特徴を指す。
  予想しない症状の特徴を指すこともある。(右腕に放散する胸痛とか。)
 レビューした文献の中では、例えば「Breast Lump」が無い乳がん、心筋梗塞における非典型的な症状(めまい、胃の痛み、刺すような痛み、など)や典型的な症状が無い状況があった。また、女性の心筋梗塞もより搬送が遅れる傾向にあるという分析もあった。
2非特異的臨床像
診断価値が低い特徴や、鑑別診断をよりわけられない特徴を指す。以下にStudyを列挙する。
 ・喘息において咳自体が、上気道炎などと同じように非特異的なものである。
 ・小児の骨の悪性腫瘍においては四肢より体幹の方が見逃されやすい(内臓痛や機能性疾患の非特異的な症状と捉えられてしまう)
  ・胃癌の初期症状であるDyspepsiaや心窩部痛(一般人口の40%が1年のうちに経験する症状)などが例に挙げられる。胃癌についての前向き研究で は、体重減少や嚥下障害、黄疸、貧血といった、赤旗徴候の人の方がよりGPは紹介していた(48%vs32%)しかし、実際のPPVは3%でしかなく、し かも胃癌の半分はAlarm sympotomなしで診断されていた。
3非常にまれな疾患
まれな疾患は、考慮される頻度が少ないこと、症状が特異的であっても事前確率が低いため、PPVが非常に低いことなどが関与していると思われる。
 ・舌癌・網膜芽細胞腫が例として挙げられていた。
4合併疾患がある場合
 ・一つの疾患が他の疾患の臨床像を変えたり、一つの疾患で、症状を説明できてしまう場合を指す
 ・例えば、認知症はうつ病が合併していると、診断が遅れる傾向にあった。
5Perceptual features
疾患に特徴だが、その疾患が鑑別に想起されていないとみても気づかれないものを指す。(SLEにおける蝶形紅斑やMumpsにおける耳下腺腫脹など)
 ・HIVにおける、Kaposi肉腫やHairy Leukoplakia、全身性のリンパ節腫脹についての文献があった。

【開催日】
2010年10月20日(水)