社会の精神医学化に対する応答としての対話?オープンダイアローグアプローチの可能性

-文献名-
von Peter, Sebastian et al.
“Dialogue as a Response to the Psychiatrization of Society? Potentials of the Open Dialogue Approach.”
Frontiers in sociology vol. 6 806437. 22 Dec. 2021

-要約-
この論文では、心理社会的ケアと精神科ケアシステムの利用が世界的に増加している現状に対し、「精神医学化」の概念を提示し、その解決策として「オープンダイアローグ(OD)」アプローチの可能性を探っています。
• 精神医学化とは:
・ 精神医学的概念や治療形態が社会に普及する現象。
・ 診断カテゴリーの拡大、向精神薬の使用増加、人生の課題の病理化などが含まれる。
• オープンダイアローグ(OD)とは:
・ 心理社会的危機に対する多職種による継続的かつ、ニーズと外来患者中心のモデル。
・ サービス利用者とその社会的環境を巻き込んだネットワークミーティングを重視。
・ フィンランドで開発され、30カ国以上で適用されている。
• ODの脱精神医学化の可能性:
・ 神経遮断薬の使用を制限する。
・ 精神疾患の発生率を低下させる。
・ 精神科サービスの利用を減少させる。
• ODの具体的な要素:
・ 日常用語と非精神医学的な言語の使用。
・ 参加者間での意味形成の重視。
・ 専門家は対話の促進者としての役割を担う。
・ 関係者全員が参加するネットワーク会議。
• ODの構造的側面:
・ 地域の医療構造の再構築を伴う。
・ 外来およびアウトリーチ治療の優先。
・ 精神薬理学的アプローチを軽減または不要にする。
• ODの課題と限界:
・ 精神医学的影響からの完全な脱却は不可能。
・ 形式化、普遍化による本来の「オープン」な状態が損なわれる危険性。
・ ODは万能薬ではない。
• 結論:
・ ODは脱精神医学化の可能性を持つが、実施方法やケアの文脈に大きく依存する。
・ ODの導入は、メンタルヘルスケアシステムに必要な変化をもたらす一つの要素である。

論文のポイント
• 精神医学的ケアの現状に対する問題提起と、新たなアプローチの提案。
• 「対話」を通じた心理社会的ケアの可能性の探求。
• 「精神医学化」という現代社会における重要なテーマへの考察。
この論文は、精神医学的ケアに関わる専門家だけでなく、社会におけるメンタルヘルスのあり方に関心を持つ人々にとっても有益な情報を提供しています。

 過去数十年にわたり、心理社会的ケアおよび精神科ケアシステムの利用は世界中で増加しています。最近の論文では、精神医学的概念や治療形態の普及の原因となっている複数のプロセスを説明する枠組みとして、精神医学化の概念が提案されています。
 この記事の目的は、精神医学化の程度が低い心理社会的サポートに取り組むためのオープンダイアログ(OD)アプローチの可能性を探ることです。
 本論文では、ODは脱精神医学化の包括的な解決策ではないかもしれませんが、ODには「1)神経遮断薬の使用を制限する、2)精神衛生上の問題の発生率を減らす、3)精神科サービスの利用を減らす」可能性があることを示す以前の研究を参照しています。ODの内部論理、言語の使用、意味形成のプロセス、専門職の概念、対話の促進、およびODの構造的設定方法を探ることで、心理社会的サポートを脱精神医学化する可能性を実証しています。結論では、OD アプローチの吸収、形式化、普遍化の危険性に触れ、心理社会的危機に対処するには、より社会的で素人の能力が必要であることを強調しています。

<イントロダクション>
近年、精神障害の発生率や有病率は比較的安定しているにもかかわらず、心理社会的ケアと精神科ケアシステムの利用は世界的に増加しています。この現象の背景には、「精神医学化」という概念が存在します。精神医学化とは、精神医学的概念や治療形態が社会に普及する過程を指し、政治や精神医学の主体だけでなく、一般市民や利用者によっても促進されます。その結果、診断カテゴリーの拡大、向精神薬の使用増加、人生の課題の病理化など、さまざまな社会的悪影響が生じる可能性があります。

このような状況下で、精神医学化の進行を抑制するために、本論文では「オープンダイアローグ(OD)」というアプローチに焦点を当てています。ODは、心理社会的危機に対して、多職種が連携し、利用者中心のケアを提供するモデルであり、フィンランドで開発され、世界30カ国以上で導入されています。ODの最大の特徴は、利用者とその社会的ネットワークが治療プロセス全体に積極的に参加し、共同で治療計画を立てていく点です。ネットワークミーティングを通じて、危機に対する相互理解を深め、ネットワークの創造性とリソースを活用し、今後の行動方針を決定します。必要に応じて、個人心理療法、投薬、看護、ソーシャルワークなどの追加治療要素も統合されます。

フィンランドでは、ODはヘルプシステム全体の再編成と密接に連携しており、危機的状況への即時支援、ソーシャルネットワークの積極的な関与、柔軟で機動的な対応、治療チームによる継続的なサポート、心理的継続性の確保などを原則としています。これらの原則に基づき、ODはクライアントに多くの利益をもたらし、現代の人権観にも合致するモデルとして、世界中で注目されています。

本論文では、精神医学的負担の少ない支援方法として、ODアプローチの可能性を探求します。精神医学化が一方通行ではないことを踏まえ、ODがすでに進行した精神医学化を逆転させ、または未然に防ぐ可能性について議論します。特に、ODが精神医学に起源を持つサービスであり、著者らがODを提供する立場であることから、トップダウンの脱精神医学化プロセスに焦点を当てています。

<ODの効果>
オープンダイアローグ(OD)は、フィンランドの西ラップランド地方で開発され、初発精神病患者を対象とした5つのコホート研究でその効果が検証されてきました。現在では、英国で大規模なランダム化比較試験(ODDESSI試験)も実施されています。これらの研究から、ODは入院期間の短縮、再発率の低下、就労・就学への復帰率の向上、神経遮断薬の使用量の減少など、多くの点で有望な結果を示しています。

具体的には、参加者の最大84%が仕事や教育に復帰し、神経遮断薬の使用は介入当初から介入期間中にかけて大幅に減少しました。また、精神病エピソードの短縮化、残存症状の減少、精神科サービスの利用頻度の低下、障害手当の受給者数の減少なども報告されています。これらの結果は、1992年から2005年までのコホート全体を通して安定しており、時間の経過とともに改善する傾向さえ見られました。

これらの研究結果は、薬物療法に依存し、社会経済的コストの高い従来の精神病治療とは対照的です。ODは、神経遮断薬の使用を制限し、精神疾患の発生率を低下させ、診断カテゴリーの使用を抑制し、精神科医療サービスの利用を全体的に減少させるなど、精神医学的概念や精神科治療サービスの拡大を抑制する可能性を示唆しています。

ただし、これらの成果はフィンランドの特定の地域における包括的な構造変化があって初めて達成されたものであり、同様の構造変化なしにODがどこまで脱精神医学化に貢献できるかは不明です。したがって、ODの脱精神医学化の可能性が、どのような方法や治療要素によってもたらされるのかを解明することが今後の課題となります。

<ODの5つの潜在的に決定的な要素>
1 言語の使用

オープンダイアローグ(OD)におけるネットワークミーティングの主な目的は、参加者間の多角的な対話を促進することであり、そのために特定の言語の使用を重視します。具体的には、日常用語や非精神医学的な言葉を用いることで、参加者全員が理解しやすく、自分の言葉で語れる場を提供します。

ファシリテーターは、あらかじめ決められた議題や診断的な質問に固執せず、参加者の言葉や話に注意深く耳を傾け、重要な表現やテーマを拾い上げ、それを繰り返したり、さらに展開させたりすることで、対話を促進します。また、沈黙を許容し、キーワードに注目することで、参加者間のコミュニケーションの中心となる主観的な概念を明確にし、今後の行動指針を共に考えることができます。

ODでは、医学的な専門用語や精神医学的な分類を用いるのではなく、個々の意味を詳細に掘り下げ、それぞれの物語を共有し、日常生活に根ざした言葉を使用することに重点を置いています。行動や相互作用は、診断名で説明されるのではなく、ストレスの多い状況への適応や、参加者の人生経験として理解されます。これにより、参加者間の相互理解が深まり、協力して解決策を見出すことが可能になります。

精神医学的な言葉の解釈権を解体することは、ODの重要な要素であり、脱精神医学化の可能性を高める上で不可欠です。参加者は、精神医学的な言語や概念に縛られることなく、自分たちの状況を独自の言葉で説明し、解決策を見つけることができます。これは、参加者が自らの経験に対する専門知識を獲得することを意味します。

脱精神医学化の観点から見ると、ODは個々の言語を尊重し、危機を理解し対処するためのツールとして活用することで、長期的に参加者の日常生活に根ざした言葉を育みます。また、ODは危機に関連する多様な言語を育み、参加者の多層的な現実に適応することで、自己エンパワーメントを促進します。

2 意味形成のプロセス
オープンダイアローグ(OD)は、フィンランドで1960年代から1980年代にかけて、統合失調症プロジェクトの一環として開発されたニーズ適応型治療法を起源としています。家族療法、ネットワーク療法、精神分析の概念を統合したこの治療法は、参加者がネットワークミーティングを通じて危機の新たな意味を共同で見出すことを重視します。危機は、精神病理や神経生物学的要因ではなく、困難な人生経験への自然な反応として理解され、文脈的な視点から解釈されます。

ネットワークミーティングでは、参加者の言葉に注意深く耳を傾け、意味のある説明を共に探求します。行動を「間違い」や「狂気」として捉えるのではなく、参加者とチームが対話を通じて徐々に意味のある物語を形成し、言葉にできない経験やジレンマを理解しようとします。急性期には、完全な物語よりもキーワードの探求が重要となる場合があり、共通理解を深め、新たな行動の可能性を生み出します。

ODの実践者は、外的ポリフォニー(多様な視点の尊重)と内的ポリフォニー(内なる声の認識)を通じて意味生成を支援します。OD会議は、専門家と一般人の両方が知識、意味、経験、感情を共有し、脱精神医学化を促進する場となります。

参加者の中には、危機を生物学的または医学的問題として捉える人もいますが、ODはこれらの視点も尊重しつつ、対話を通じて他の解釈を模索します。医学的視点に固執する背景には、過去の心理社会的システムとの接触経験がある場合があり、ODはこれらのボトムアップの精神医学化プロセスに疑問を投げかけ、再検討する機会を提供します。

3 プロフェッショナリズムの概念
オープンダイアローグ(OD)における非精神医学的言語の使用、対話の促進、対話的な態度は、ODに携わる人々の役割を大きく変化させ、職業的アイデンティティにも影響を与えます。特に精神科医は、ネットワークミーティングを効果的に進めるために、どのような専門知識、能力、知識体系が必要かを再考する必要があります。ODコミュニティでは、このテーマが繰り返し議論されています。

ODの中心的な専門性は、メンタルヘルス従事者による知識の伝達ではなく、対話と視点の平等な交換を促進する能力にあります。治療方針や問題の定義は、専門家から一方的に与えられるのではなく、ネットワークミーティングでの参加者間の対話から生まれます。参加者は、話し合いの内容、サポートの焦点、頻度、必要性を決定できます。専門家は、これらの決定に対して暫定的な助言を提供することはありますが、主な役割は対話プロセスを促進し、調整することです。また、治療プロセス全体を通してスタッフの継続性を保ち、参加者のニーズに柔軟かつ機動的に対応します。

ネットワークミーティングの実践者は、必要に応じて個人的な経験や専門的な知識を共有しますが、それは内省的かつ個人的な視点から行われます。専門知識を提供する場合は、参加者からの要望があり、多様な視点の一つとして位置付けられる場合がほとんどです。さらに、実践者はネットワークミーティングのプロセスを振り返り、参加者の前で専門家同士がリフレクティング(内省的な話し合い)を行います。このリフレクティングは、専門知識を共有する効果的な方法であり、医学的な説明よりも受け入れられやすい傾向があります。実践者は、医療用語で議論を支配するのではなく、質問を通じて参加者の思考を促し、自身の経験や知識を提供します。つまり、ネットワークに関する知識と専門性は参加者自身にあり、実践者は対話を促進することで貢献するのです。

ODでは、参加者一人ひとりが独自の視点を持っていることを前提とし、実践者は「知らない」という立場を取ります。参加者の経験や理解は容易に理解できるものではなく、オープンな質問と交換を通して明らかにされます。視点や問題が完全に理解されることはないため、性急な解決策や決定は避けるべきです。特に危機的な状況では、不確実性への寛容さが重要となります。ファシリテーターは、開かれた心で情報交換を促進し、新たな視点や危機の説明が生まれる場を提供します。

透明で開かれたコミュニケーション(考えや感情を共有すること)は、ODの実践における重要な原則です。トラウマ体験や無力感が心理社会的危機の発症に深く関わるため、実践者の透明性は安心感と安全性を育みます。ODの専門性には、スタッフが誠実であり、恐れ、希望、不安をオープンに共有することが求められます。実践者は、危機的な状況から距離を置くのではなく、その中に共にいます。ネットワークミーティングは参加者の自宅で行われることが多いため、実践者はゲストとして状況に適応し、状況に応じた支援を提供します。

ODアプローチは、専門職の概念を再定義します。ネットワークミーティングにおいて、専門家は感情を持つ人間として参加し、誤りを犯す可能性や不確実性を受け入れます。知識や経験は提供できますが、具体的な解決策は参加者自身が見つける必要があります。脱精神医学化の観点から見ると、ODは精神医学の専門家を、疾患や障害の専門家ではなく、対話を促進する専門家として再構築します。これにより、精神医学化が他の生活領域に拡大することを防ぐ効果も期待できます。

4 対話の促進
オープンダイアローグ(OD)では、参加者間の対話的な交流を促進するために、専門家間でのミーティング内容の検討、関係性に関する質問、参加者の平等な発言機会の確保など、様々な実践が行われます。

ネットワークミーティングは常にチームで実施され、専門家間でのオープンな検討や交流(リフレクティング)が参加者の面前で行われます。専門家は、現在の出会いを重視し、自身も対話の一部であることを認識します。過去の症例や症状の詳細よりも、ミーティングの「今ここ」で起こっていることを重視し、参加者間の実際のやり取りから新たな意味や解決策を生み出すことを目指します。

ODは、参加者の広範なネットワークを積極的に巻き込む点で、従来の精神科診療とは大きく異なります。初回ミーティング前に、参加者は危機に影響を与える可能性のある人物や参加すべき人物を尋ねられます。ネットワークには、家族、友人、支援者などが含まれ、多様な背景を持つ人々が参加することで、様々な知識や経験が交流されます。

暴力、権力関係、不平等、孤立などの社会的な問題も議論の対象となり、ODが社会的な視点だけでなく、ミクロ政治的な視点も重視していることが示されます。危機は特定の場所に限定されず、精神科の境界も固定されていません。ODは、異なる世界を結びつけ、参加者の現実を変えることを目指します。

危機支援の焦点を外部の専門家から参加者との共同対話に移すことで、精神医学的評価が参加者の現実から乖離するリスクを減らします。対話の促進は、精神医学的評価におけるトップダウンの精神医学化プロセスを防ぐ効果があります。

5 ODの構造的側面
オープンダイアローグ(OD)の構造的側面は、日常診療やメンタルヘルスケア全体におけるその実施方法を指します。ODはマニュアル化された心理療法ではなく、ネットワークのニーズに応じて柔軟に適用される一連の原則に基づいています。その中核は「オープン性」であり、従来のトップダウン型精神医学的アプローチとは対照的に、真にニーズに適応したケアを提供します。

フィンランドでは、ODの導入に伴い、地域の医療構造が大幅に再構築されました。病床数と入院施設の削減、外来・アウトリーチ治療の優先化が進められ、ミーティングは参加者の生活環境(自宅、学校、職場など)で行われるようになりました。この点で、ODはFACTやACTチームなど、他の統合ケアアプローチと共通点があります。

ODの重要な目標の一つは、精神病危機における精神薬理学的アプローチへの依存を軽減または排除することです。神経遮断薬の必要性を削減できたかどうかは、重要な評価指標でした。この焦点は、ODが心理社会的危機に対する非医療的な対応を重視していることを示しています。ODは、精神科サービスの脱医療化を促進し、脱精神医学化の中核目標を達成するためのツールと見なすことができます。

ネットワークミーティングを中心とし、危機を文脈的に理解することで、ODは体系的な治療法として機能します。心理社会的危機、その責任、解決策は、関係者間で共有されます。ODは、従来の個人中心の精神医学的アプローチとは異なり、より広範な社会的ネットワークを背景とした理解を促進します。危機を理解し、管理し、克服する責任は、個人だけでなく社会全体に帰属します。参加者全員が解決策を見つけるために協力し、権限を与えられていると感じるべきです。

ただし、これらの構造的側面が機能するかどうかは、ケアの状況に大きく依存します。多くの国では、精神ケアシステムが断片化され、個人支援に特化しているため、ODの原則を十分に実施することが困難です。継続的かつ体系的なサポートが不足しています。しかし、ODがフィンランドのように完全に実施されれば、これらの構造的側面は脱精神医学化の可能性を大きく高めるでしょう。

<悪魔の弁護人>
オープンダイアローグ(OD)は、心理社会的危機に対する万能な解決策ではなく、精神医学的影響から完全に逃れることもできません。ODは精神医学の専門家によって発展してきたため、その起源、方向性、概念は精神医学と密接に関連しています。

ODには、アウトリーチアプローチによる精神医学的リスクがあります。アウトリーチ治療は利点がある一方で、心理社会的サポートを参加者の生活環境に移すことは、精神医学的概念を日常生活に浸透させ、精神医学の役割を強化する可能性があります。

また、ODは心理社会的危機のケアに組織的な対応が必要であるという前提に基づいています。社会全体で危機に対処するのではなく、専門家による組織的な対応に依存することは、対応の選択肢を限定する可能性があります。

さらに、ODは医療精神医学の枠組み内で実施されることが多く、専門的な認定や法的規制、ケアシステムの組織条件などがODの実施方法に影響を与えます。

国際的にODを提供する施設のスタッフは、ほとんどが精神科専門職であり、精神科施設で社会化され、キャリア後半にODのトレーニングを受けることが多いです。ピアサポートオープンダイアローグ(POD)の開発は、ODの民主的で非階層的な方向性を促進する可能性がありますが、ピアエキスパートの参画は、精神科治療のルーチンや役割との整合性に関する疑問も提起します。

これらの点から、ODも精神医学化の影響から免れることはできません。精神医学化は社会全体の発展であり、ODが既存のメンタルヘルスケアシステム内で実施される限り、脱精神医学的な対応には限界があります。

ODは主に公衆メンタルヘルスサービスで採用されていますが、一部の独立した協会では精神医学的ケアの枠外で提供されています。しかし、これらのプロジェクトは例外であり、資金基盤がなければ存続が困難です。

<結論>
この論文では、オープンダイアローグ(OD)アプローチが心理社会的危機への支援において、脱精神医学化にどの程度貢献できるかを評価することを目的としています。ODは精神医学の言説と実践に起源を持ち、多くのケースでその枠組み内で実施されていますが、脱精神医学化の可能性を秘めていることが過去のコホート研究からも示唆されています。また、ODアプローチの理論的根拠、言語の使用方法、スタッフの役割、そして精神保健医療システム内での構造的な位置づけからも、その可能性を説明することができます。

しかし、ODの提供方法と利用者の体験は大きく異なる可能性があり、著者らは専門家、実践者、研究者としての立場からトップダウンの視点しか提供できません。したがって、ODが社会全体の脱精神医学的変化を促すかどうかを判断することは困難です。この点については、学際的な研究や経験的データが必要となります。

また、フィンランドにおけるODの効果は、当時の社会状況と密接に関連している可能性があります。過去数十年の間に精神医学は神経生物学的モデルを重視するようになり、関連分野や社会全体も変化しました。そのため、現在の状況下でODが同様の脱精神医学化の効果を発揮できるかは不明です。

さらに、ODが精神医学的治療システムを覆い隠すための手段として利用される危険性も指摘されています。特に、民主的で人権に基づいた支援システムへの要望が高まる一方で、従来の慣習を変える意欲が低い場合には、ODの開放性が独自のイデオロギーによって占有されてしまう可能性があります。したがって、ODの脱精神医学的効果は自明ではなく、実施方法やケアの文脈に大きく左右されます。

ODコミュニティ内では、その正式化や実施の忠実性について議論が続いています。一部の研究では標準化への抵抗が見られる一方で、組織の忠実性を評価する尺度の開発も進んでいます。これらの尺度はODの重要な側面を適切に評価できますが、詳細な記述はニーズに適応した開放性を制限し、解決策を厳密に規定してしまう可能性があります。

最後に、ODは万能薬ではなく、あらゆる心理社会的危機に対応できるわけではありません。過度な理想化や宣伝は、利用者や関係者に誤った希望や期待を抱かせる可能性があります。国際的な研究を通じて、ODがどのような条件で、どのように適用されるべきかを明らかにすることが重要です。ODは、メンタルヘルスケアシステムに必要な変化をもたらすための一つの要素として捉えるべきでしょう。

【開催日】2025年3月12日

郡部・都市部の家庭医療研修のその後の診療範囲への影響

-文献名-
Pollack SW, Andrilla CHA, Peterson LE, Morgan ZJ, Longenecker R, Schmitz D, Evans D, Patterson DG. Rural Versus Urban Family Medicine Residency Scope of Training and Practice. Family Medicine. 2023;55(3):162–170.

-要約-
※以下、Rural=郡部、と訳しています
【Introduction】
郡部地域における医療従事者の不足は、数十年にわたって続いている。郡部地域における医療資源の不足は、医療へのアクセスをさらに悪化させ、その結果としてその地域の住民の健康状態の悪化を招いている。郡部地域での研修は、郡部での診療を選ぶ動機付けとなることが示されており、このような人員の偏在を緩和する助けとなる可能性がある。
郡部地域での研修は、より広範な診療範囲(Scope of Practice: SOP)を促進し、それが郡部地域社会にさらなる利益をもたらす可能性がある。家庭医の診療範囲には、個人的要因(医師の年齢、性別、教育と研修、キャリア段階)、職場の要因(医療システムの運営、職場文化)、環境要因(郡部地域、地理的位置)、および人口学的要因(患者の人口構成、医療への社会的障壁)が影響を与えると考えられている。また、診療範囲は特定のキャリア段階、特に研修医教育の時点で影響を受けることが示されている。研修中の環境は診療範囲に影響を与え、より郡部的な研修を受けた、もしくは単一の研修プログラム出身者では、より広範な診療範囲を有することが示されている。
郡部での研修は、さまざまな方法で定義され特徴付けられてきた。郡部の研修プログラムは、都市部の研修プログラムと比較して規模が小さく、資源も限られていることが多い。例えば、財政的支援の不足や教員数・教育資源の制約が挙げられる。都市部の研修プログラムと比較して、郡部の研修プログラムの卒業生は郡部での診療を選ぶ割合が高い。過去10年間で郡部の研修プログラムの数は増加しているが、調査期間中においては、郡部の研修医はすべての家庭医療研修生の5%未満であった。郡部と都市の診療地は診療範囲にも影響を与え、過去の研究では、郡部の医師は特にプライマリケアにおいて、都市の医師よりも広範な診療範囲を持つことが示されている。しかし、郡部と都市部の研修が最終的な診療範囲にどのように寄与するかについては、ほとんど明らかにされていない。
本研究では、郡部と都市部の研修が家庭医療の診療範囲に与える潜在的な価値についての知見を補うため、郡部および都市部で研修を受けた早期キャリアの家庭医が、研修修了後3年間で報告した実務準備感と実際の診療範囲を分析した。さらに、郡部および都市部で研修を受けた後期キャリアの家庭医が報告した診療範囲と現在の診療地について検討した。

【Method】
データソース
本研究では、アメリカ家庭医学委員会(American Board of Family Medicine, ABFM)によって実施された2つの検証済み調査のデータを統合した。
1つ目は、全国卒業生調査(National Graduate Survey, NGS)であり、2016~2018年にABFMの認定医を対象に研修修了後3年で実施されたものである(2013~2016年の卒業生が対象)。この調査の回答率は66.7%~67.8%であった。=早期キャリア
2つ目は、継続認定試験登録アンケート(Continuing Certification Examination Registration Questionnaire, RECERT)であり、最初の認定後7~10年でABFMの継続認定を申請する医師を対象に、2014~2018年に実施されたものである。この調査の回答率は100%である。=後期キャリア
研修プログラムが郡部型かどうかの定義には、RTT Collaborativeのリストを使用し、研修プログラムの主な家庭医療施設が郡部に位置し(郡部・都市通勤地域コード [RUCA] に基づき4以上)、研修期間の半分以上が郡部で行われた場合に郡部型と分類した。本研究では、郡部型の研修プログラムを修了した医師を郡部研修医と定義した。

変数
主なアウトカム
診療範囲(Scope of Practice, SOP)の比較には両調査のデータを使用した。実務準備感の分析にはNGSの早期キャリア医師データのみを使用した。NGSでは回答者に対し、研修中に30項目の診療分野や手技について実務に必要な準備が整ったかどうか(はい/いいえ)を尋ね、現在それらを診療に取り入れているかどうか(はい/いいえ)も尋ねた(Table 2参照)。実務準備感と現在の診療内容が主要なアウトカムである。
全体的な診療範囲の比較には、プライマリケアの診療範囲を測定する個別スコアを使用した。このスコアは0~30の範囲で、高いスコアほど広範な診療範囲を示す。全体スコアの算出は分析に用いるために検証されている。その結果、全体スコア分析には早期キャリア医師5,334名および後期キャリア医師37,233名が含まれた。RECERTは後期キャリア医師に対して現在の診療範囲についてのみ尋ね、研修準備感については尋ねていないため、RECERTのデータは全体スコアの作成にのみ使用した。

調整変数
多変量解析では、可能な場合には以下の背景特性を調整した:年齢(質問時点)、性別(男性/女性)、医療界で過小評価されている医師(Black/African American、American Indian/Alaska Native、Native Hawaiian/Other Pacific Islander、またはヒスパニック/ラテン系)、医学の学位種別(DO/MD)、国際医学校卒業生(IMG)ステータス(アメリカまたはカナダ以外で取得した学位)、現在の練習地の地理的分類(郡部または都市)、医療不足地域での診療(Rural Health Clinic [RHC]、Federally Qualified Health Center [FQHC]、またはIndian Health Service [IHS])、研修プログラムの地理的地域(アメリカの地方分類)、および入院診療と継続ケアの両方の提供(片方のみと比較)。NGSは2018年以前のデータでは人種や民族を尋ねていなかったため、早期キャリア医師の解析ではこれらを含めなかった。

データ分析
診療範囲の分析
t検定を用いて郡部型研修と都市型研修の卒業生の個別の診療項目および全体スコアを比較し、調整変数を考慮するため多変量線形回帰を実施した。

研修準備感と現在の診療内容の分析
χ2検定を用いて、郡部型と都市型研修の卒業生の研修準備感および現在の診療状況(30の診療分野と手技)を比較し、調整変数を考慮した多変量ロジスティック回帰を実施した。現在の診療状況を個別のアウトカムとして扱い、30件のロジスティック回帰分析を行った。すべてのオッズ比は、調査集団内でのアウトカムの共通性を考慮して相対リスクに変換した。
すべての解析にはStata 16(StataCorp, College Station, TX)を使用し、有意差をP<.05と定義した。本研究はワシントン大学ヒト被験者倫理委員会により非研究と判断され、正式な審査から免除された。

【Results】
研修準備感
NGS調査回答者6,483名のうち、272名(4.2%)が郡部型研修を受けていた(Table 1参照)。これらの卒業生は、32の郡部型研修プログラム(NGSサンプルに含まれる全研修プログラムの7%)を修了していた。回答者の平均年齢は35.9歳であり、郡部型卒業生と都市型卒業生の間で年齢の有意差は認められなかった。都市型研修卒業生と比較して、郡部型研修卒業生は男性(49.6%対43.2%; P<.05)、国際医学校卒業生(43.8%対33.7%; P<.001)、および現在入院診療を行っている割合(51.3%対39.5%; P<.001)が高かった。郡部型研修卒業生の半数以上(51.0%)が郡部地域で診療を行っており、都市型研修卒業生ではこの割合が16.6%であった(P<.001)。学位種別(DOまたはMD)について、郡部型と都市型の間で有意差は認められなかった。回答者全体の16.7%がDOの学位を持つ医師であった。

二変量分析では、郡部型研修卒業生は都市型卒業生と比較して、集中治療、小児ケア、腰椎穿刺、人工呼吸器管理、挿管、胸腔穿刺、ギプス固定、心臓ストレステスト、小児病院ケア、新生児包茎手術、整骨操作治療、終末期ケアの全6つの病院ケア項目で準備が整っていると報告する傾向があった。一方で、婦人科ケアの8つの指標のうち2つ(子宮内膜生検とコルポスコピー)および薬理学的HIV/AIDS管理において準備が不十分であると報告する傾向があった(Table 2参照)。これらの違いのうち、集中治療、挿管、胸腔穿刺、子宮内膜生検、コルポスコピー、ギプス固定、整骨操作治療、HIV/AIDS管理、およびC型肝炎管理は、多変量モデルでも有意であった(結果は示さず)。

個別の診療範囲の現在の実践状況
Table 2は、上記と同じ項目についての現在の診療範囲の自己報告の二変量分布を示している。郡部型と都市型研修卒業生の間で、研修準備感と比較して、現在の診療範囲における有意な違いは少なかった。郡部型研修卒業生は都市型卒業生と比較して、小児病院ケア(26.8%対19.1%; P<.01)、集中治療(38.5%対21.9%; P<.001)、挿管(50%対34.3%; P<.001)、人工呼吸器管理(41.9%対30.5%; P<.01)を現在実施している割合が高かった。一方で、都市型研修卒業生は、IUDの挿入および除去、埋め込み型避妊具の使用において高い割合を示しており、これらの手技に対する準備感には違いが認められなかった。
多変量分析(Table 3参照)では、研修準備感は、現在の診療範囲のすべての項目において統計的に有意な予測因子(P<.001)であり、現在の診療地やその他の関連する医師特性を調整した場合でも有意であった。 郡部型研修卒業生は、都市型卒業生と比較して、IUD挿入・除去(相対リスク[RR]=0.78, 95% CI 0.61–0.95, P<.05)、埋め込み型避妊具(RR=0.78, 95% CI 0.61–0.96, P<.05)の提供確率が低かったが、集中治療(RR=1.40, 95% CI 1.14–1.70, P<.01)、終末期ケア(RR=1.14, 95% CI 1.03–1.24, P<.05)の提供確率は高かった。

全体的な診療範囲スコア
早期キャリアの郡部型および都市型プログラム卒業生の診療範囲スコアは、それぞれ16.5(95% CI 16.1–16.8)および16.1(95% CI 16.0–16.1, P<.05)であったが、調整済み線形モデルではこの差異は有意ではなかった。郡部地域で診療を行うこと(β=1.10, 95% CI 0.94–1.26, P<.001)は、スコアが高いことの最も強力な予測因子であり、一方で年齢が高い(β=-0.02, 95% CI -0.04–-0.01, P<.001)およびIMG(International medical graduate)である(β=-0.78, 95% CI -0.92–-0.64, P<.001)はスコアが低いことと関連していた(Table 4参照)。 後期キャリアの郡部型プログラム卒業生は都市型プログラム卒業生と比較して、広範な診療範囲を報告しており(15.7対14.7, P<.001)、調整済み線形モデルでもこの差異は有意であった。後期キャリア医師では、郡部地域での診療(β=1.90, 95% CI 1.81–1.99, P<.001)、MD学位(β=0.56, 95% CI 0.44–0.68, P<.001)、および中西部(β=0.54, 95% CI 0.43–0.64, P<.001)または西部(β=0.16, 95% CI 0.05–0.28, P<.01)の研修参加が高スコアの予測因子であった。女性(β=-0.55, 95% CI -0.63–-0.48, P<.001)、年齢が高い(β=-0.03, 95% CI -0.03–-0.02, P<.001)、IMG(β=-1.52, 95% CI -1.61–-1.42, P<.001)、およびURM(β=-0.93, 95% CI -1.06–-0.80, P<.001)は低スコアと関連していた。

【Discussion】
本研究の結果、郡部型研修を受けた医師は、都市型研修を受けた医師と比較して、幅広い診療手技について研修で十分に準備されたと感じている割合が高いことが明らかになった。この結果は、郡部型家庭医療研修プログラムが、都市型プログラムよりも広範な診療範囲を提供する可能性を示唆している。また、研修中の準備感は、今回の測定項目の中で一貫して現在の診療実践に最も大きな影響を与える要因であった。特定の診療サービスを提供するかどうかの決定は、今回のデータでは測定されていない複雑かつ非線形な変数によって影響を受ける可能性が高い。
また、調整された解析では、早期キャリア医師において郡部型と都市型の卒業生の間で全体的な診療範囲スコアに有意な差は認められなかった。しかし、郡部型研修を受けた後期キャリア医師は、都市型研修を受けた医師よりも広範な診療範囲を報告しており、調整後でもこの差異は有意であった。統計解析で両群を直接比較したわけではないが、後期キャリア医師は、都市型・郡部型を問わず、早期キャリア医師に比べてわずかに狭い診療範囲を有することもわかった。この結果は、年齢とともに診療範囲が縮小するという既存の研究と一致しており、個人的要因が診療範囲に与える影響をさらに裏付けるものである。
これらの結果は、郡部研修プログラムの重要性を示すものであり、郡部型研修プログラムの強化と拡充を目指す現在および将来の取り組みを支える証拠となる。郡部型研修を受けた医師は、キャリアを通じて郡部地域で診療を行う可能性が高く、幅広い診療範囲の訓練と郡部地域住民のケアに対する準備が整っているため、郡部地域社会にとって非常に貴重である可能性がある。郡部型研修プログラムを増やすための取り組みを進めることができる。 

限界
本研究には、調査による自己報告データに関連するバイアスが含まれる可能性がある。これにより、回答者が実際の診療内容や準備感を過小または過大に報告する可能性がある。郡部型プログラムに参加する医師は、リスクへの耐性が高く、郡部地域での一般診療の不確実性に対応するための準備が整っていると感じやすい可能性がある。また、調査項目は「産科ケア」や「産科超音波」を尋ねているが、家庭医療の診療範囲における大きな要素である他の産科ケアの側面については具体的に尋ねていない。さらに、早期キャリアと後期キャリアのデータセットは別々のコホートであるため、縦断的に比較することはできない。また、研修準備感が診療範囲に与える影響を示しているが、実際の診療スキルや診療の質、患者満足度との関連性は、本研究の範囲外であった。これらの要因についてさらなる研究が必要である。

禁煙のための電子タバコ

-文献名-
Reto Auer, Anna Schoeni, Jean-Paul Humair, et al. Electronic Nicotine-Delivery Systems for Smoking Cessation.N Engl J Med. 2024;390(7):601-610.

-要約-
Introduction
無作為化試験および無作為化比較試験の系統的レビューでは、電子タバコはニコチン代替療法よりもタバコの禁煙に有効であることが示されたが、標準治療の禁煙カウンセリングと比較した電子タバコの有効性、および電子タバコの使用に関連する有害事象および重篤な有害事象の発生率で測定した電子タバコの安全性に関するエビデンスは限られている。喫煙者が禁煙すると、咳や痰などの喫煙に関連した呼吸器症状が軽減される可能性が高いが、電子タバコを使用して禁煙すると、これらの呼吸器症状も軽減されるかどうかは不明である。
そこで、禁煙補助としての電子タバコの有効性、安全性、毒性についてランダム化比較試験を実施し、標準治療に電子タバコを追加した場合の有効性と安全性を、標準治療単独と比較し、6ヵ月後の禁煙に関して評価した。

Method
スイスの5施設で非盲検無作為化対照試験を実施した。2018年7月から2021年6月にかけて、一般紙やソーシャルメディアでの無料・有料広告、医療施設や公共交通機関での広告によって参加者を募集した。
18歳以上の成人で、1日5本以上の喫煙を12ヵ月以上継続し、登録後3ヵ月以内に禁煙を希望する者を参加対象とした。妊娠中または授乳中の者、過去3ヵ月間にニコチン代替療法または他の禁煙補助薬を使用したことのある者、過去3ヵ月間に電子タバコまたはタバコ加熱システムを定期的に使用したことのある者は除外した。
介入群は無料の電子タバコと電子リキッド、(認知行動療法、動機づけ面接、ニコチン代替療法や禁煙補助薬などの禁煙をサポートする薬剤の使用に関する共同意思決定などを含む)標準的な禁煙カウンセリング、任意(無料ではない)のニコチン代替療法が提供された。対照群は標準的なカウンセリングと、ニコチン代替療法の購入を含めどのような目的にも使用することができる50スイスフラン(米ドルで50ドル)相当のバウチャーが提供された。
主要アウトカムは、生化学的に検証された(定義:呼気一酸化炭素濃度が9ppm以下であること)6ヵ月時点での継続的禁煙であった。
副次的アウトカムは、参加者が自己申告した6ヵ月時点のタバコおよびあらゆるニコチン(喫煙、電子タバコ、ニコチン代替療法を含む)からの禁煙、呼吸器症状、重篤な有害事象などであった。

Results
2027人の喫煙者をスクリーニングし、1246人を一次解析に組み入れ介入群622人、対照群624人に無作為に割りつけた。
参加者の多くは中年で、47%が女性であった。ベースライン来院から禁煙目標日までの平均(±SD)日数は、介入群6.0±3.6日、対照群6.0±3.9日であった。<Primary Outcomes>
(検査で)検証された継続的禁煙の参加者の割合は、介入群で28.9%、対照群で16.3%であった(相対リスク、1.77;95%信頼区間、1.43~2.20)。<Secondary Outcomes>
・(自己申告で)6か月時点でのタバコ、電子タバコ、ニコチン代替療法の使用状況
6ヵ月の時点で介入群では59.6%(552人中329人)、対照群では38.5%(504人中194人)が「禁煙者」(6ヵ月目のフォロー日前7日間にタバコを使用しなかった)であった。一方,介入群では20.1%,対照群では33.7%がニコチンを一切控えた(タバコ,ニコチン入り電子タバコ,ニコチン代替療法を禁忌)。
・有害事象
対照群では、1人が試験中に死亡した。ベースラインから6ヵ月の追跡調査までの間に、介入群では25人(4.0%)、対照群では31人(5.0%)に重篤な有害事象が発生した(相対リスク、0.81;95%CI、0. 48~1.35;未調整P=0.49)。
介入群の参加者のうち、272人(43.7%)が425件の有害事象を報告し、対照群の参加者のうち、229人(36.7%)が366件の有害事象を報告した(相対リスク、1.19;95%CI、1.04~1. 37;未調整P=0.01)。
(詳細はサプリメントにあり)

・呼吸器症状
COPD Assessment Testの平均総得点は、介入群4.8±3.9点、対照群5.7±4.5点であった(平均総得点の多変量調整差、-0.66;95%CI、-1.13~-0.18)。咳がなかったと回答した参加者の割合は、介入群41%、対照群34%、痰がなかったと回答した参加者の割合は、介入群62%、対照群51%、胸のつかえがなかったと回答した参加者の割合は、介入群73%、対照群72%であった; 息苦しさを感じない」34%、「息苦しさを感じない」30%、「自宅での活動に制限がない」95%、「自宅を出る自信がある」96%、「自宅を出る自信がある」95%、「熟睡感がある」92%、「熟睡感がある」90%、「元気がある」40%、「元気がある」39%であった。
(詳細はサプリメントにあり)

Discussion
ニコチン代替療法を使用できる標準的なカウンセリングに電子タバコを追加したところ、標準的なカウンセリングのみよりも禁煙が進んだが、禁煙者の多くは電子タバコを使用し続けた。
禁煙した参加者の割合は介入群で高かったが、ニコチン入り電子タバコの継続使用も高かった。電子ニコチン送達システムと標準的なカウンセリングの併用は、必ずしもニコチンを断たずに禁煙を望むタバコ喫煙者にとっては実行可能な選択肢かもしれないが、タバコとニコチンの両方を断ちたい喫煙者にとってはあまり適切ではないかもしれない。

<今回の研究の限界>
第1に、参加者は自分のグループ割り当てを認識していたため、対照群の参加者が自分のグループ割り当てに失望するリスクがあった。
第2に、介入群には無料の電子タバコと電子リキッドを提供したが、対照群には以前の試験で行われたような無料のニコチン代替療法は提供しなかった(電子タバコvsニコチン代替療法を比較するためではなかったため)。
第3に、治療終了評価を実施する前に、参加者に6ヵ月間無料の電子リキッドを提供した。
第4に、参加者の報告データよりも生化学的検証データの欠落が多く、介入群よりも対照群で欠落データが多かった。
第5に、スイスの外来医療環境で介入を試験したため、読者は他の環境でも同様の結果が得られると仮定することには慎重であるべきである。
第6に、われわれは副次的アウトカムについて信頼区間の幅を多重性のために調整しなかったので、これらの信頼区間は仮説検定に取って代わるものではない。

現在の結果では、主要転帰がその後の来院期間にわたって持続するかどうかは予測できないので、12ヵ月、24ヵ月、60ヵ月の追跡調査を継続する予定である。

【開催日】2024年9月11日

心房細動をもつフレイルな高齢者における、VKA(vitamin K antagonists)からNOAC(Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant)への切り替えの安全性: FRAIL-AFランダム化比較試験の結果から

-文献名-
Linda P T Joosten, et al. Safety of Switching From a Vitamin K Antagonist to a Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant in Frail Older Patients With Atrial Fibrillation: Results of the FRAIL-AF Randomized Controlled Trial. Circulation. 2024; 149(4): 279-289.

-要約-
●Introduction
・Afに対する抗凝固療法を新規に導入する際は、VKAよりも、これまでの研究から出血リスクの少ないとされているNOACが選択されることが多い。
・一方で、高齢Af患者では30-40%がVKAで管理されているとされる。
・VKAで管理されている心房細動のフレイルな患者において、NOACに切り替えるべきかどうかは定まった見解がなく、これまでの研究は観察研究にとどまっていた。

●Method
・多施設共同(オランダ)、非盲検、pragmatic randomized controlled superiority trial
・フレイルで高齢の(75歳以上+Groningen Frailty Indicatorスコア*3以上)心房細動の患者を、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替える群(VKA中止後INR 1.3未満となったらNOAC開始。NOACの種類は主治医の裁量に委ねられた)と,VKA治療を継続する群(INR 2.0-3.0で管理)に無作為に割り付けた。
・GFR 30未満または弁膜症性心房細動の患者は除外された。
・追跡期間は12ヵ月であった(1,3,6,9,12か月目に電話によるインタビューを実施した)。
・死亡を競合リスクとして考慮し、主要アウトカムである大出血(*定義:致死的出血、Hb 2以上の低下を伴う出血、赤血球輸血2単位以上を要した出血)または臨床的に関連性のある非大出血合併症(*定義:次回受診を早める必要があった出血、何らかの医学的介入を要した出血、入院やケアのレベルを高める必要があった出血)のどちらか先に発生した場合の原因特異的ハザード比を算出した。
・解析はintention-to-treatの原則に従った。
・副次的アウトカムには血栓塞栓症のイベントが含まれた。

*訳者注:Groningen Frailty Indicatorとは:日常活動(買い物、外出、更衣、トイレ移動)、健康問題(身体的健康、視力、聴力、体重減少、4剤以上の服薬、記憶)、心理機能(空虚感、孤独、見捨てられ感、落胆、不安)といった3ドメイン、15項目を検討し、4項目以上問題を抱える場合、フレイルと判定する。(参照:公益財団法人長寿科学振興財団『総論 フレイルの全体像を学ぶ 2. フレイルの評価方法と最新疫学研究』(https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-2.html) 2024/7/16閲覧)

Supplement S1 (Supplemental Materialのうち、一番上のpdfファイル内)
https://www.ahajournals.org/doi/suppl/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066485

●Results
<概要>
・2018年1月から2022年6月の間に実施
・合計2621例の患者が適格性をスクリーニングされ、1330例が無作為に割り付けられた(平均年齢83歳、Groningen Frailty Indicatorスコア中央値4。除外患者は、フレイルの基準を満たさなかったものが大半)。
・無作為化後、除外基準の存在によりVKA→NOAC群の6例とVKA継続群の1例が除外され、intention-to-treat集団ではVKAからNOACに変更した662例とVKAを継続した661例が残った。

(各群の特徴)

-出血リスクのスコアである、CHA2DS2VAScスコアは各群で同等だった。

・163例の主要転帰イベント(切り替え群101例、継続群62例)の後、事前に規定した無益性解析により試験は無益のため中止された。
・主要転帰のハザード比は1.69(95%CI、1.23-2.32)であった。血栓塞栓イベントのハザード比は1.26(95%CI、0.60-2.61)であった。

(primary, secondary outcomeの結果のまとめ)

(最初の出血までの、各群のcumulative incidence curve)
(サブグループ解析)-NOACの種類によりHRに違いはみられるものはあるが、post hocで非ランダム化解析のため解釈には注意が必要。

<結論>
心房細動を有するフレイルな高齢患者において、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替えることは、VKA治療を継続することと比較して出血性合併症の増加と関連したが、血栓塞栓性合併症の減少は関連しなかった。

●Discussion
・オランダではPT-INRによるビタミンK拮抗薬の用量管理の質が高く、Federatie van Nederlandse Trombosediensten(オランダ血栓症サービス連盟)の年次報告書によれば,INR の至適範囲内時間(TTR)は65.3~74.0%である。
→INRガイド下VKA管理で安定している(TTR≈70%)患者をNOACに切り替えるかどうかは、大出血または臨床的に関連性のある非大出血のリスクが高まるという本論文の結果から、慎重に検討すべきである。(本文に記載あり)
→一方で、TTR が低い患者では、状況に応じてDOAC への切り替えが許容できる例が存在する可能性はあると思う。(訳者が記載)

・NOACの選択は治療医の裁量に任されていた点は、結果に影響した可能性はある。観察研究では、リバーロキサバン(本試験で最も処方されたNOAC)は他のNOACよりも出血性合併症が多く、特に消化管出血が多く、高齢者ではアピキサバンの安全性プロファイルが最も優れている。とはいえ、処方されたNOACの種類は非ランダム化であったため、このフレイルな集団において一方のNOACが他方のNOACよりも優先されるべきかどうかについては、本試験では答えることができない。

・デザイン上、試験手順は盲検化されておらず、さらに、NOAC群では患者がVKAを(まだ)服用している間にいくつかの出血イベントが発生し、その逆もまたしかりであった。しかし、これらの出血イベントのうち、無作為に割り付けられた抗凝固薬の投与中以外に発生した割合は、両治療群とも少なかった:NOAC群では101例中7例(6.9%)、VKA群では62例中5例(8.1%)であった。

【開催日】2024年8月14日

「家庭医療ものがたり、その5」治療的自己を磨く思考法

-文献名-
Ventres, William B., et al. “Storylines of family medicine V: ways of thinking—honing the therapeutic self.” Family Medicine and Community Health 12.Suppl 3 (2024)

-要約-
「ストーリーライン・オブ・ファミリー・メディスン」 は、アメリカや世界の家庭医や医学教育者が解説する家庭 医療のさまざまな側面を、テーマごとにリンクさせた12部構成のエッセイと、それに付随するイラストからなるシリーズである。V:「治療的自己を磨く思考法」では、著者が 以下のセクションを紹介している:
家庭医が、患者のwell-beingを支えるためには、患者との出会いの場(診療現場)を治療手段とする必要があり、以下の3点が必須である。①診療における思いやりとヒューマニズム(人道主義)の重要性を理解すること ②医師-患者間の関係性の場という診療のありようを認識し、観察すること ③単に興味深いやり取りの列挙ではなく、常に注意を払いながら、思慮深く塾考することを通じて、家庭医自身の「治療の引き出し」を向上するため、前述の①②を省察すること
読者がこれらのエッセイを振り返ることで、自らの治療的主体性をより深く感じることができますように。

「行為の中の省察」 以下のことを実践することで、そのスキルを高めることができる(Fig.1)。

患者を世界で最も大切な人であるか のようにケアする意図を持つ。
診察中、患者の感情、言葉、非言語的コミュニケーションを常に意識する。
個人的な考え、感情的な反応、身体的な反応に注意する。
診療を終了し、他の要求に移ろうと思っているときでも、思い込みや偏見、先入観がないかチェックする。
来院の流れを管理し、患者の懸念や見解を引き出し、必要な情報を収集し、 適切な検査を行い、 時間を管理し、その他の重要な仕事に取り組む 。
患者や自分ではどうすることもできない状況、リソース、事情に注意しながら、患者に何を勧めるかを評価し、見極め、交渉し、説明する。

患者や医師が経験する感情は、臨床的な気づきを高めたり、損なったりするものであることを認識することが重要である。目標は患者の感情を無視することでも、自分の感情を抑制することでもない。むしろ、診察室に流れる感情の流れを認識し、認め、好奇心を持つことで、そして同時に、それらと強く同一視しすぎないことで、医師は否定的な感情を和らげ、落ち着かせ、空間を開き、共感と思いやりの表現を促進することができる.

「薬物としての医師-バリント・ グループ」 患者との感情的に困難な出会いを振り返るピア主導のグループディスカッション ある臨床医が、悩みの種である患者の症例を、現実には悩みの種である患者との関係を、グループの仲間に提示する。グループは定期的に会合を開き、1人か2人のグループリーダーが、症例提示に対する感情的な反応を明確にするようグループメンバーに促しながら、続くディスカッ ションを導く。グループメンバー間の信頼が深ま るにつれて、しばしば人間的な関心の深い部分が浮かび上がってくる。

「思いやりの醸成」心理学的には、医療において思いやりを持つということは、(1)病気と苦しみのつながりを理解すること、(2)個々の患者や集団の苦しみを認識することを意味する。
「医師としてヒューマニステックなアプローチ」家庭医学の教育と実践に人文科学を取り入れることは、様々な形で可能である。文学、演劇、詩 、オペラ、映画、そして音楽でさえも、人生の困難に直面したときの個人的価値観の考察を促すのに役立つ。23–26物語、つまり個人的な語りは、感情豊かな議論や倫理的推論の出発点として役立つ。 27芸術は、そのあらゆる感覚的な形態において、 感情と想像力の両方を刺激することができ、内省と対話を通して、意識を研ぎ澄まし、共感を高め、患者ケアの感情的側面と認知的側面をひとつの賢明な治療プロセスを促進することができる。

「家庭医療における親密さ」家庭医療の仕事は、しばしば親密なものである。なぜか?患者とともに働くということは、精神的な親密さ、希望、そして必然的に喪失を意味するからである。
例)コロナ禍でのオンライン診療をしていたリンパ腫で治療していた80歳男性。妻が膵臓癌でホスピスに入院して独居となり喪失体験を抱えていた。その後、対面診療となり、直接接することができて両者で喜んだが、男性患者は喪失体験を抱えたまま自宅で突然死した。家庭医は死亡診断書に、死因不明と書く前に、本当の死因は妻の喪失、だったのでは、と省察した。また患者が亡くなる度に、家庭医はさまざまな感情でいっぱいになるが、亡き患者たちの主治医になれたことに感謝している。

「苦しみのさまざまな顔」 医学の最大の目的は苦しみを和らげることである。患者の苦しみを認識することで、私たちはケ アと希望を提供することができる。それは治療への希望であることもあるが、症状のコントロール 、苦痛の緩和、精神的なサポートへの希望であることもある。苦しみを理解することで、私たちは患者が意味を再発見し、受容を獲得し、全体性を再構築するのをよりよく助けることができる。

苦しみは、生活のあらゆる領域、あるいは複数 の領域に現れる。それは、(1)厄介な症状、(2)機 能の喪失、(3)役割や(4)人間関係への脅威、(5)苦 悩に満ちた思考や(6)感情、(7)患者のライフストーリーの物語の混乱、(8)患者の精神的あるいは知的な世界観との葛藤などから生じる。これらの苦しみの8つの領域は、臨床ケア、教育、研究のために、生物医学的、社会文化的、心理行動学的、 実存的という4つの軸で整理することができる。この包括的なモデルは、調査を整理するのに役立つ。臨床医にとっては、「システムのレビュー」で はなく、より深い「苦しみのレビュー」として役立つ。
「苦しみを乗り越える」 医学の基本的な目標は、可能な限り治療し、常に慰め、苦しみを和らげ、患者を癒すことである。治癒に関する生物医学的な議論の大半は、組織の修復と病気の診断、治療、治癒に焦点を当てている 。病気とは病気以上のものであり、理解とは診断以上のものであり、ケアとは治療以上のものであ る。 ナラティヴ・メディスンのスキルを用いれば、患者が自分の物語を編集し、人生に新たな意味を見出し、受容を見出し、全体性の感覚を再構築できるよう、対話を導くことができる. このように患者をケアすることは困難なことである。しかし、患者の重病体験を探求し、彼らの心の傷の物語を編集する手助けをする医師は、しばしばこのケアが自分のキャリアの中で最も充実した仕事であることを発見する。
「物語を聴くことの力」 家庭医が、語りを聞き、語ることは、患者から 患者へと奔走し、人々の苦しみや喜びを目の当たりにする中で、普段は処理できない感情を解放するのに役立つ。それは、家庭医自身を「なぜ」、つまり私の診療の目的に根付かせ続ける治療的プロセスであり 、私自身の職業上の物語における本当の主役が誰であるか(もちろん、患者である)を常に思い出させてくれる。

【開催日】2024年7月10日

社会的処方から利益を得る道筋

-文献名-
Steps to benefit from social prescription: a qualitative interview study
Kirsty Payne, Elizabeth Walton and Christopher Burton
British Journal of General Practice 2020; 70 (690): e36-e44.
DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X706865

-要約-
【Introduction】
社会的処方は、個人や集団におけるさまざまな病い、苦悩、健康関連行動に対処する手段として広く推奨されてきました。これは一般的に、さまざまな社会的、実際的、感情的なニーズを持つ患者を、医療関係者から非公式またはボランティアの組織に紹介することと理解されています。そうすることで、特にプライマリケアの場で、従来の医学的治療に付け加わるものを提供します。
社会的処方には、友達作り、福祉給付の助言、健康行動の促進、グループ活動、ボランティアなど、幅広い活動が含まれます。活動が多様なので、社会的処方の有効性に関する量的エビデンスは少なく、システマティックレビューでも社会的処方の客観的な有効性に関する絶対的な結論が得られていないことも、当然かもしれません。それでも、社会的処方が有益になるかもしれない多くのありうるメカニズムがあります。これらには、弱みの逆転や強みの増進が含まれます。対処される弱みには、自尊心や自信の低さ、メンタル不調や気分の悪さが含まれます。個人の強みには、社会的能力やコミュニケーション能力の向上、希望や楽観性や人生の意味を増強して未来の目的に向かう意欲を増すことが含まれます。
この研究の目的は、社会的処方された活動を行う人に、社会的処方が助けになりえる道筋を探ることです。

【Method】
社会的処方された活動を行う人に面接を行い、社会的処方から得た利益をどのように認識しているかを同定するよう、質的研究を行いました。同時に、社会的処方された活動についての出版されている質的データを体系的に調べ、この研究で明らかになったテーマやモデルを公開されている研究結果に照らし合わせて検証しました。
<設定・参加者・サンプリング>
参加者は全員、シェフィールドを拠点とする社会的処方を行う組織であるSOARから、2017年11月から2018年4月までの間に、意図的に抽出されました。SOARを利用する成人を、利用期間、主な紹介理由、SOAR内で利用したサービスの種類によって意図的に抽出して、研究への参加を募りました。主なテーマについて飽和状態に達するまで、研究への募集は続けられました。飽和状態とは、2回の連続する面接で、新しい大きな発見が何も得られなくなった状態と定義しました。
<データ収集>
面接は半構造化されていて、トピックガイドに従って行われました。トピックガイドは、研究期間中に進めている分析に基づいて新しい項目を含められるようにしました。面接は録音され、分析するために文字起こしされました。
<分析>
解釈的現象学的分析(interpretive phenomenological analysis)に基づくアプローチを使いました。分析は、文字起こしされた全体を読み、テーマごとにコーディングし、二次的にコーディングし、テーマをまとめ上げるという段階を経て行われ、新たに出現したコードは過去の記述に照らし合わせてチェックされる反復的手法も用いて行われました。文字起こしは2人の研究者が読み、他の2人の研究者が毎週ミーティングを行なってコーディングについて議論し、修正しました。既に出版されている社会的処方された活動に参加した人の体験についての質的研究を参照することによって、分析は影響を受けています。
<Systematic review>
9つ(Medline, PubMed, Cochrane Library Reviews, Scopus, Open Grey, CINAHL,
ASSIA, Web of Knowledge, Social Care Online)のデータベースを、4つの検索語(social
prescribing, community referral, socially prescribed activity, non-clinical referral)で検索しました。4749個の文献が見つかり、そのうち17個が社会的処方された活動に関する参加者の見解を、質的手法を使って明らかにした物でした。これらの研究の結果に提示された社会的処方された活動への参加者の言動は、面接の文字起こしと同じ方法で内容やテーマを分析しました。

【Results】
合計で17人に面接が行われました。参加者の年齢は45〜84歳で、男性6人、女性11人、15人が白人の英国人でした。参加者の郵便番号から、大多数が社会経済的に恵まれない地域に住んでいて、そのうち9人は英国で最も恵まれない10%の地域、14人は最も恵まれない30%の地域に住んでいることがわかりました。
参加者は、さまざまな理由で社会的処方を利用し始めましたが、一般的なのは生活環境の変化や精神的な変化に対応するためでした。
社会的処方の組織に参加している期間は6か月から5年で、参加している活動は、アドボカシー(福祉給付の助言など)、身体活動(健康トレーナーやエクササイズや水泳など)、ウェルビーイング(ヨガや散歩や痛みのマネジメントコースなど)、スキル(アート、工芸、モデリング、調理など)、社会(ソーシャルカフェ、他のグループ)、ボランティア活動でした。
テーマ分析では、5つの主要なテーマが作られました。社会的問題に対する専門家のサポートを受けること、社会的処方された活動に参加することで他者と関わること、他者と関わるさまざまな方法を身につけて新しいスキルを身につけること、個人的な強みを認識したり新たな将来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること、将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと、です。これらのテーマは、参加者の報告の中で一貫した順序で生じていて、最初の紹介からサービス後の進展までの見通しに役立ちます。
SPA:socially prescribed activities

<社会的問題に対する専門家のサポートを受けること>
福祉やライフスタイルに基づく問題に対する1対1のサポートと、SOARのトリアージワーカーやグループコーディネーターやアドボカシーワーカーによる活動への個別化されたリンキングがあります。利用者は「親しみやすく、熱心な」個性と、「信頼できて、誠実な」専門性のある初期サポートを高く評価しました。
利用者がもつ問題に対する良い結果や解決に関連するだけでなく、専門家の良い特性によって利用者が普段の社会的環境以外で他者と関わることができるようになりました。一部の利用者には、これが孤立からグループでの社会的交流への足がかりとなり、社会的処方された活動に取り組むのに必要な励ましや自信やモチベーションをもたらすものとなりました。
初期サポートは通常、実際的で社会的な問題に対するものでしたが、1対1の問題解決からもっと社会的な活動に「橋渡し」することに役立つサポート資源にも、利用者は価値を見出しました。だから、専門職によって利用者が社会的処方された活動を紹介されるだけでなく、社会的処方された活動チームのメンバーが初回のセッションに同行することもあります。多くの利用者は、この段階でこのようなサポートがなければ、社会的処方された活動にたどり着けなかったり、さらなる発達段階に進めなかったりするかもしれないと感じていました。この橋渡しに引き続き、必要な時にはサポートを受けられると知ることも大切なことだと、参加者は思いました。
スタッフは、地域のグループや活動やサービスの情報も提供し、利用者が自発的に参加できるようにしました。
既存の質的研究でも、社会的処方をする人やリンクワーカーの役割に関して似たようなテーマが見つかりました。

<社会的処方された活動に参加することで他者と関わること>
このテーマは、利用者が目的を持って楽しい活動に参加し、他の人と新しいつながりを作ることが組み込まれています。
活動は主に、利用者に「すること」を提供し、利用者の時間にルーチンと構造を生み出します。退職後の利用者の中には、在職中に感じていた目的意識を回復したと感じる人もいました。
参加することで得られる集中力、方向性、喜びも、困難な過去や現在の状況から気を紛らわせるものとして、価値を認められました。また、活動を通じてできることについての認識が変わったと述べた参加者もいました。
出版されている研究でも、社会的処方された活動が、社会的孤立を減らす機会であることと同様に、普通の日常生活を補完する新しい機会として価値を持つことに関連するテーマが含まれていました。これは、社会的処方された活動が退職者や無職の人にとって「何かすること」として有益であるという言説によく表されています。
一方で、参加者の多く、特に他者をケアする大きな責任を持つ人は、社会的処方された活動を息抜きの資源として評価していました。他者と交流することは、環境を心地よいものにするのに役立つとともに、活動を楽しくて目的のあるものにする主要な部分として認識されています。

<新しい技術や他者と関わる方法を身につけること>
利用者が活動や他者との関わりを続けるにつれて、社会的に学んだり発達したりすることができ、新しい創造的で実践的な技術を身につけることもできました。利用者は過去の経験を共有することを通じて、グループの他者とより良い関係性を作ることができたと述べました。このことで、自分自身の経験や、それに対応する他者の経験について、利用者が新しい認識に達することも可能になります。グループ内で相互支援のネットワークが発展し始め、共有することで多くの利用者が自分だけが困難を抱えているのではないことを理解できるようになり、状況を適正化し、コミュニティの中での立ち位置を再確認しました。
利用者は、他者から自信や対処法を学んで、より強く、よりレジリエンスを持つ人になりました。体系化された学習機会によって、利用者はさまざまな興味のある分野で技術を身につけることができました。ある活動や人々のグループに参加することで、利用者はコミュニティに参加したり経験を広げたりする機会についても学びます。
これらの利用者の経験は、他の研究で述べられた社会的処方された活動を通じた学習の認識に類似していました。さまざまな研究で、個人的で実践的な技術と、共有された経験の価値の両方が発展することが示されています。

<個人的な強みを自覚したり新しい未来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること>
社会的、そして個人的に発達すると、利用者の自分自身の強みや未来についての認識の変化が促進されました。改善したり前向きに強くなったりすると、利用者の自信や自尊心や個人の強みの認識が高まり、社会的処方された活動自体がそれらの強みを利用したり新しい強みを生み出したりする機会をもたらしていました。これらの過程を通じて新しい自己認識を作り、生活が以前よりも建設的で充実したものであると感じる参加者もいました。こうした変化によって、自尊心を向上させ、潜在的能力を自覚して、新しい目的や未来への野望に向かうことが促がされました。
新しい社会的つながりの支援を受けて利用者の自己認識が改善すると、日常生活で直面し続ける困難はあっても利用者はもっと自信を持ち、自立し、レジリエンスを持つことができるようになりました。コミュニケーションやソーシャルスキルを改善することで、利用者は自信を持ち、自己主張できるようになり、実践的で生活に基づいたスキルによってレジリエンスや自立の度合いが増しました。
新しいスキルの学習や開発によって、利用者が自分自身を向上させ、将来の可能性を洞察することが可能になりました。これらの開発は、自信、自尊心、将来の発展のための新しい意欲や機会を前向きに見通すことを強めます。人によっては、目的のある活動は、「朝ベッドから出る理由」になっていました。
同じような体験をしている他者に触れ合うことで、利用者は自分自身の進歩や自分が関わった他者の進歩を振り返ることができました。利用者は同じような状況からさらに前進してきた人と体験を共有し、そうすることで今とは異なっていたり、よりマシだったりする未来の可能性に心を開くようになりました。言い換えると、利用者は現在の状況について、より希望を持った見通しを持つようになりました。これは、グループ内でも、もっと一般的な日常生活でも、将来の機会に対する利用者の期待を反映していました。
自信、新しい自己認識、自尊心、目的意識を増やすことなど、このテーマのさまざまな面は、出版されている研究にも見出されました。とはいっても、これらが他の社会的処方された活動の面とどのように関連するのかは、常に明らかなわけではありません。

<将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと>
希望の感覚と個人的な強みの認識によって、利用者は人生が以前より楽しくて充実させられるものになったと思うようになりました。精神的にも身体的にも健康を改善することとともに、これは目標達成への障害を減らし、利用者が将来の目的やより健康になるように前進できる基盤を形成しました。
自信、自尊心、独立性、モチベーションの改善によって、利用者は新しい目標を設定できるだけでなく、積極的にその目標を追求することができるようになりました。これは、利用者の成功の可能性に関する未来に対する期待や楽観主義によっても促進されました。
一部の利用者にとって、社会的処方された活動は、運動、禁煙、健康的な食事などの健康を改善する行動への取り組みを促進しました。運動をベースにする活動に取り組んだ利用者は、減量や血圧低下など身体的健康が改善しました。そこまで公式ではない活動でも、利用者は「家から出て」、活動量が増えて痛みが減ったという点で、良い結果が見られました。
しかし、健康の目的を追求するためには、自己と将来への肯定的な認識が必要です。利用者は健康教育を社会的処方された活動の価値ある部分であると認識していましたが、適切な程度の自尊心や、自分の可能性の認識や、将来が今と違う可能性を受け入れることがなければ、前向きの健康行動に取り組む可能性は低いでしょう。利用者の健康の結果や、自分自身や将来の認識の変化は、このように、健康改善の更なる目的に影響していました。

<段階の順序>
17人中7人の参加者に、5つすべての段階が生じていました。6人は最初の段階をとばして、GPをはじめとする医療専門職に勧められて、自分で社会的処方された活動に応募しました。社会的処方された活動に一度参加すれば、こうした利用者はこのモデルの次の段階に進みました。第1段階から始めた参加者と比較すると、これらの参加者は社会的、医学的、精神的な問題が少ない傾向がありました。
ある段階から他の段階への移行を明確に述べた人はほとんどいず、その順序は面接での説明から推察されました。2人の参加者は最初の取り組みとアドボカシーから進まず、3人はソーシャルカフェについてだけを語り、残りの12人の参加者は2〜6個の活動に参加したことを述べました。
すべての参加者が最初の段階から最後の段階まで進んだわけではありません。
より早期の段階の参加者は、ウェルビーイングの改善を専門家の支援と活動への参加の結果として語りました。しかし、これらの改善は一時的なもので、利用者がサポートなしで継続的に前に進んでいく自信や希望やレジリエンスを促進するには不十分でした。

【Discussion】
<まとめ>
社会的処方された活動に参加した人は、わかっている利益につながる一貫した一連の段階について述べました。これらは、個人的に特定された問題への専門家のサポートを受けることから、他者と関わる新しい技術や方法の開発を通じて、将来の認識や意向を変えることまで、一連の流れを形成していました。この一連の流れによって、社会的処方を受けた人がどのように利益を得るのかについて、もっともらしく、本質的に社会的な説明を作り出しています。

<強みと限界>
募集はたった一つのセンターからのみ行いましたが、SOARは、健康の社会的決定因子が大きく影響する、慢性疾患が多い伝統的な労働者階級の地域で、大規模にサービスを提供しています。この地域は文化的多様性が富んでいるにも関わらず、参加した人の中に45歳未満の人はいず、白人の英国人が多かったですが、SOARの利用者を広く代表していました。募集時点では、参加者はさまざまな活動に取り組んでいましたが、アドボカシー活動にだけ取り組んでいたのは2人だけで、社会的処方された活動全体から得られるより幅広いメカニズムのいくつかにアドボカシーがどのように関連しているのかを探る可能性は限られました。ただ、何人かは最初の問題解決の段階としてアドボカシーサービスに取り組み、それが他の分野での更なる関わりと活動への足がかりとなりました。
コーディングの過程は、定期的なミーティングでのコーディングと、最初のコーディングを終了した後に再度すべての文字起こしを読んでより良いコード化がないかを探すことで、厳格になるように設計しました。
面接と分析は、出版されている文献のテーマと統合しながら実施しました。バイアスが生じる可能性はありますが、他の研究に結びつけることで、調査結果に強度が加わりました。個々の質的研究の統合や、社会的処方が効果的であるかもしれないメカニズムの包括的なモデルについての既存の研究は、見つけられませんでした。
何人かの参加者は、コミュニティの組織が直面する資金確保の困難さを強く意識していて、組織やグループが閉鎖された場合に起こることについて比較的悲観的な見方を示しました。これにより、サービスが参加者にとってどれほど有益なものであったかについて、説明が誇張されていた可能性はあります。

<既存の文献との比較>
それぞれの主要なテーマは、社会的処方についての既出の研究に反映されていて、そのことは結果の欄に記述しています。しかし、今回の研究で特定したすべてのテーマに触れている研究はこれまでなく、その段階の順序を特定したものもありませんでした。だからこの研究は、社会的処方が有益でありそうな道筋についての知識を拡張するものです。

<研究と実践への影響>
この研究からの重要な結果が2つあります。1つ目は、社会的処方された活動に取り組む人が利益を得る妥当な一連の過程を概説したことです。これはサービスや、サービスを依頼する人に情報を提供するために使用できます。2つ目は、社会的処方の社会的要素が強調されていることです。今回概説した過程は本質的に社会的で、個人自身よりも個人間の相互作用の方に関連しています。
これらを合わせると、GPや依頼者は、社会的処方の重要な個人間の内容や社会的な内容を自覚している必要があります。これは社会的処方を大規模に行ううえで3つの意味を持ちます。
1つ目は、社会的に孤立している人を巻き込む仕事が重要であるということです。2つ目は、今回の研究で得られた一連の過程はあるものの、参加者は非常に個別性の高い説明をしており、サービスを標準化しようとするとこうした個別性が失われる危険があるということです。利益を生み出すと思われる社会的交流は、プロトコール化も厳密な管理もできません。3つ目は、健康的な行動や職場復帰のような「下流の」目標に焦点を当てると、この研究で参加者が述べたような、良い生活を送るための重要な改善を見逃してしまう可能性があることです。これらに焦点を当てると、人々が自分のペースや自分のレベルで成長していくことを許容するよりも、むしろ人々を遠ざけてしまう危険があるかもしれません。
更なる研究という点では、この研究は一連の過程を見出しましたが、社会的処方が機能するメカニズムを完全に理解するためには、できればもっと長い期間個人を前向きに追跡して、更なる研究をすることが必要です。
現時点では、社会的処方が有益であるメカニズムを記述したり概説したりすることによって、この研究をもとにした研究を行うべきです。社会的処方は、専門家の関与や個人的問題を扱うサポートから、より幅広い社会的関与を通じて、個人や社会の強みや機会を特定することまで、一連の段階の中で患者に有益なものとなります。これらの段階は、社会的処方のサービスを立ち上げたり評価したりする有益な枠組みを生み出します。

【開催日】2024年7月3日

日本におけるガイドライン推奨睡眠薬の治療失敗と長期処方リスク

-文献名-
Takeshima M, Yoshizawa K, Ogasawara M, et al.
Treatment Failure and Long-Term Prescription Risk for Guideline-Recommended Hypnotics in Japan. JAMA Network Open. 2024;7(4):e246865.

-要約-
Introduction
ガイドラインが推奨する睡眠薬を直接比較するランダム化比較試験は、これまでのところわずかしか行われていない。また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の睡眠薬としての長期使用は有害になり得るため、ガイドラインは短期使用を推奨しているが、世界中で長期処方が行われている。著者らは、ガイドラインが推奨する睡眠薬のうち、単剤で用いた場合の治療失敗リスクが低いのはどれか、また長期にわたって処方されやすいのはどれかを明らかにするために本研究を実施した。

Method
この後ろ向き観察コホート研究は、Japan Medical Data Center Claims Database(発表者注釈:2005年より複数の健康保険組合より寄せられたレセプト(入院、外来、調剤)および健診データを蓄積している疫学レセプトデータベース JMDC Claims Database – 株式会社JMDC)を利用した。
2005年4月1日から2021年3月31日までに、不眠症の薬物療法として睡眠薬の単剤を初回投与された成人患者を同定して、治療開始から6カ月後まで追跡した。
薬は、スボレキサント(ベルソムラ®)、ラメルテオン(ロゼレム®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)、ゾルピデム(マイスリー®)、トリアゾラム(ハルシオン®))であった。
● 主要アウトカムは単剤療法の失敗(6ヶ月以内に睡眠薬の変更または追加)
● 二次アウトカムは単剤療法の中止(6ヶ月以内に2ヶ月連続で睡眠薬の処方がない)
と定義された。

Results
239,568人が含まれ、年齢の中央値は45歳(四分位範囲34〜55歳)、50.2%が女性だった。
56.6%がゾルピデム、15.7%がスボレキサント、14.2%がエスゾピクロン、7.5%がトリアゾラム、6.1%がラメルテオンを処方されていた。

6カ月の追跡期間中に、24,778人(10.3%)が単剤治療の失敗を経験した。
失敗の割合は、ゾルピデム(8.9%)で、トリアゾラム(9.4%)、エスゾピクロン(11.9%)、スボレキサント(12.7%)、ラメルテオン(15.1%)だった。
エスゾピクロンと比較した失敗リスクは、ラメルテオン(調整ハザード比 1.23)が高く、ゾルピデム(0.84)およびトリアゾラム(0.82)は低く、スボレキサントとは有意差がなかった。

単剤治療で失敗しなかった患者の84.6%は、6カ月以内に治療を中止した。
治療中止の割合は、ゾルピデム(85.2%)、ラメルテオン(84.9%)、スボレキサント(84.0%)、トリアゾラム(83.7%)、エスゾピクロン(82.9%)となっていた。
エスゾピクロンと比較した場合は、ラメルテオン(調整オッズ比 1.31)とスボレキサント(1.20)は有意差を持って中止されており、薬物依存による長期処方が起こりにくいと考えられた。ゾルピデム1.00(0.97-1.04)とトリアゾラム1.02(0.97-1.07)は有意差を示さなかった。

Discussion
本研究の強みは、大規模な日本の医療データベースを使用し、239,568人のデータを長期間(2005年~2021年)にわたって分析した点である一方で、いくつかの限界がある。 第一に、データが会社従業員およびその家族に限定されているため、一般の集団を代表しているとは限らない。 第二に、社会経済的要因、副作用、単剤療法の中止理由、不眠症や精神症状の重症度などの重要な因子が含まれていない。 第三に、追跡期間が6ヶ月と短く設定されており、長期使用による依存や耐性のリスクを完全には評価できていない。 本研究では交絡因子がコントロールされていないため、これらの結果に基づいて、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性に関する結論を導き出すことはできない。慢性不眠症と急性不眠症の診断、不眠症および精神症状の重症度、睡眠薬処方に対する医師の態度などの交絡因子を考慮したさらなる研究が必要である。

このコホート研究では、単剤療法の失敗はエスゾピクロンよりもラメルテオンで多く、ゾルピデムやトリアゾラムでは少なかった。さらに、本研究で長期使用リスクの代用指標として設定した単剤療法の中止は、エスゾピクロンよりもラメルテオンやスボレキサントなどの新規睡眠薬で少なかった。しかしながら、これらの結果は、いくつかの交絡因子を説明することができなかったため、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性によるものなのか、不眠症患者の臨床的特性によるものなのか、あるいは処方医の睡眠薬に対する考え方によるものなのかは不明であるため、慎重に解釈すべきである。どのガイドライン推奨睡眠薬が最も有用であるかを決定するためには、これらの睡眠薬を直接比較するRCTが必要である。

【開催日】2024年6月12日

プライマリ・ケア診療所と家庭医の継続性が患者の健康アウトカムに及ぼす影響

-文献名-
Terrence McDonald, et al. The Impact of Primary Care Clinic and Family Physician Continuity on Patient Health Outcomes: A Retrospective Analysis From Alberta, Canada. Annals of Family Medicine. Vol. 22, No. 3 May/June 2024.

-要約-
【背景と目的】
プライマリ・ケアの理想的な提供は、患者と家庭医(FP)との長期的な関係性(longitudinal relationship)、いわゆる関係の継続性(relational continuity)に基づいている。関係の継続性は、より良い患者ケア、過剰な処置や入院、救急外来(ED)の受診の減少、コストの削減、患者満足度の向上と関連することが研究で示されている。
家庭医療におけるパートタイム診療(part-time practice)の傾向は、米国でもカナダでも20年以上前から高まっている。その結果、患者は同じ診療所内で複数のFPからケアを受ける可能性が高い。Atlasらは、小規模な学術的ネットワークにおいて、診療所ではなく特定の医師とのつながりが有益であることを見出している。しかし、全体として、個々のFPの継続性とは別に、地域のプライマリ・ケア診療所の継続性の効果についてはほとんど知られていない。Bazemoreらは最近の継続性に関する文献の広範なレビューの最後に、この疑問に関する研究を呼びかけている。
本研究では、カナダ・アルバータ州において、プライマリ・ケア診療所の継続性(primary care clinic continuity)(FPの関係の継続性とは異なる)が患者の健康アウトカムに及ぼす影響について検討した。この分析結果は、増大するプライマリ・ケアの不足に対処するための政策決定に役立てることを目的としている。
この後方視的観察研究では、かかりつけの診療所ではあるが、異なる家庭医に診てもらっている患者を対象に、ケアの継続性の影響を検討した。

【方法】
カナダ・アルバータ州の2015~2018年のリンクされた医療行政データを分析し、患者の複雑さのレベルの違いによる、医師および診療所の継続性と救急外来(ED)受診率および入院率との関連を検討した。
医師の継続性は、KPC(Known Provider of Care)指数を用いて計算された。3年間の期間を設定し、その間に3回の受診があることを条件とした。KPC指数は連続変数としてもカテゴリー変数としてもコード化した。低継続性を0%~40%、中等度を41%~80%、高継続性を81%~100%とした。
診療所の継続性についても同様に、患者が同じ診療所で主治医の同僚医師にかかった割合(対するものとして、別の診療所、救急外来など)として算出され、グループケア率(GCR)と呼ばれた。GCRに基づき、各患者の診療所の継続性をNA(KPC指数100%でグループ診療の機会がないため該当なし)、なし(0%、 低(1%~50%)、高(51%~99%)、完全(100%、自分の主治医にかからない場合は必ず自分の主治医の同僚医師にかかる)に分類した。)
患者の複雑性は、CRG(Clinical Risk Grouper)法を適用して決定した。CRG法は、先行する疾患の診断と医療システムの利用に基づいて、患者を9段階の複雑度(1が最も複雑度が低く、9が最も複雑度が高い)のいずれかに分類するものである。本研究では、臨床的に類似した複雑性のレベルを捉えるために、これらのレベルを3つのグループに分類した:複雑性が低い(CRGが1-2)、中程度(3-4)、高い(5-9)。
負の二項回帰モデルを作成し、それぞれと全原因による救急外来受診および入院との関連を評価した。

【結果】
患者の44%が男性、56%が女性であった。年齢の中央値は50歳であった。ほとんどの患者は、1人のFPとの継続性が中等度(45.6%)または高レベル(47.9%)であり、残りの6.5%は低レベルであった。

表1には、患者の特徴を医師の継続性(KPC指数)別に示した。医師の継続性が高い患者は、より複雑(CRG=5-9)で高齢(年齢中央値=55歳)である傾向があったが、継続性が低い患者はより健康であった。医師の継続性が高いほどED受診が少ないという予想された傾向が観察されたが、入院件数はKPC指数のレベル間で同等であった。医師の継続性の絶対値では、農村部は継続性の高い群にやや多く含まれていたが、全体として、医師の継続性は、大都市圏、都市部(町/小都市)、農村部の間で顕著な差はなかった。

表2は、患者の特徴を診療所の継続性(GCR)別に示したものである。この継続性は、表の1行目に明らかなように、二峰性に分布していた。常に主治医を受診している患者(NA群)と、受診していないが常に同僚医師を受診している患者(完全群または100%群)は、いずれも年齢が高い傾向にあった。診療所の継続性がない患者(GCR0%)は、複雑性が低い傾向にあった。アルバータ州の大都市圏であるゾーン2(カルガリー市とその周辺)とゾーン4(エドモントン市)の患者は、町や小都市の患者よりも診療所の継続性がない傾向にあった。農村部の住民は診療所の継続性が高い傾向にあり、特に100%のGCRカテゴリーでは農村部の住民が4分の1以上を占めたのに対し、他のGCRカテゴリーでは20%以下であった。診療所の継続性が高い患者は、継続性が低い患者よりも平均してED受診と入院が少なかったが、継続性がない患者は継続性が高い患者と同程度であった。より高いGCRは、より大規模なグループ診療と関連していた。

表3は、多変量解析の結果である(負の二項回帰モデル)。ED受診と入院の両方で、診療所の継続性(GCR)の効果は患者の複雑さ(CRG)によって大きく異なっていた。医師の継続性(KPC指数)が高いほど、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用が少なく、複雑性の高い患者では病院の利用が少なかった。診療の継続性の効果は直線的ではなく、ED受診と入院についても同様のパターンがみられた。ED受診および入院の減少との関連が最も強かったのは、常に主治医またはその同僚医師のいずれかを受診している患者、すなわち、それぞれNA(KPC指数100%)群および完全(GCR100%)群であった。さらに、常に主治医を受診している患者は、複雑性の低い患者(CRG 1-2)を除き、EDおよび入院の利用が最も少なかった。その効果は、最も複雑度の高い群で最も大きかった。診療所の継続性が低い群(GCR1%~50%)は、診療所の継続性がない群(GCR0%)に比べ、一貫してEDや入院の利用が多いことと関連していた。高い診療所の継続性(51%~99%GCR)は、1つの例外(入院についてはCRG 3-4)を除いて、EDおよび入院の減少に関連していた。

まとめると、医師の継続性の高さは、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用減少に関連し、複雑性の高い患者では入院の減少に関連した。大まかには、診療所の継続性なし(0%)は利用増加と関連し、診療所の継続性あり(100%)は利用減少と関連し、最も複雑な患者に最大の効果がみられた。診療所の継続性が1%から50%までのレベルでは、一般的に利用がやや増加し、51%から99%までのレベルでは利用がやや減少した。

【考察】
カナダ・アルバータ州を対象としたこの後ろ向き観察研究では、FPとの関係の継続性(KPC指標で把握)が、全原因によるED受診および入院の減少と関連していることが報告された。このような医師の継続性の効果は、過去の文献から予想されていた。重要なことは、この効果は複雑で高齢の患者において最も強かったが、若くて健康な患者においてもEDの利用に有意な影響を及ぼしたことである。
診療所の継続性(GCRによって把握される)は、医師の継続性よりも劇的ではないが、同様の効果を示した。同じ診療所の別のFPに常に診てもらうことは、自分のFPに診てもらうのでなければ、明らかに有益であるように思われた。診療所の継続性の効果を分離することによって、これらの結果は、患者と医療システムの両方の観点からこのケアモデルを支持する新たな証拠を提供するものである。今回の知見から、グループケアを受けた患者のレベルが低かった場合に、わずかながら不利益を被った理由をよりよく理解するためには、さらに焦点を絞った研究が必要である。そのためには、現在入手可能なデータでは、ED受診や入院を、同僚医師や外部の医師のいずれかによるものと確信をもって断定することはできない。したがって、診療所の継続性が低いことによる明らかな不利が、同僚医師を受診したことによるものなのか、同僚医師を受診しなかったことによるものなのかを推測することはできない。次のステップは、この区別をするためのデータへのアクセスを求めることである。
診療所の100%継続性の価値は、質と健康アウトカムを改善することが示されている多くの要因に起因すると思われる。例えば、アルバータ州のFPの大多数は、同じ地域の診療所で一緒に診療を行うことで、担当する患者の電子カルテへのアクセスも共有することになり、情報提供や管理の継続性がもたらされる。同じクリニックで働くFPは、共通の電子カルテで得られる情報よりも豊かで包括的な直接的コミュニケーションを行う可能性が高い。最後に、同じクリニックで異なるFPが診察を受けているにもかかわらず、同じ看護師、医療助手、その他の専門家に診察を受けているというチーム効果があるかもしれない。
医療システムの観点からは、プライマリ・ケアの不足に対処するための州政策立案者の指針となるエビデンスが得られた。一部の政治家が提唱する緊急医療センターという「応急処置」に投資するよりも、少なくとも複数のFPによるクロスカバーと共有診療を提供するプライマリ・ケア診療所のための構造的支援と政策(すなわち、支援スタッフの増員、支払いシステムの改革)に投資する方が、優れたアウトカムとコスト削減をもたらす可能性が高い。これらの知見は、冒頭で述べたプライマリ・ケアにおけるパートタイム診療の増加傾向についても、一定の安心感を与えるものである。
患者の観点からは、患者は自分のFPに一貫して診てもらい、それができない場合は同僚医師に一貫して診てもらうことが最善の方法であることが示唆された。関係の継続性は、世界の一部でFPによって高く評価されていることが示されているが、調査した患者コホートによって異なる。人口が増加する中、FPの供給は限られており、その分布も最適とはいえないため、すべてのカナダ人がこのようなFPとの関係を利用できるようにすることは、現時点では不可能である。しかし、本研究の結果は、診療所の継続性も患者の健康にとって価値があることを示すものである。
今後の研究では、上記の中間レベルのグループケアの効果に加え、クリニックで診療するすべてのFPが担当する患者数、パートタイムFPとフルタイムFPの人数と組み合わせ、クリニックの立地、クリニックチームによる患者のケア期間などの要因を検討する予定である。
われわれの研究にはいくつかの限界がある。KPC指標は、患者がFPやプライマリ・ケア診療所を受診した回数が異なるという事実を考慮していない。われわれはこの欠点に対処するため、3年間のウィンドウの中で3回以上受診した患者のみを対象とし、総受診回数をモデルに組み込んだ。KPC指数は、患者・医師関係の影響や性質、その関係の長さ(よりよいコミュニケーション、信頼関係の構築、患者の健康アウトカムの改善と関連している)を考慮していない。本研究の横断的デザインは、このような状況において患者や臨床医の無作為化を欠くという固有のリスクをもたらす。また、入院という転帰と患者の複雑性という独立変数(CRG)との間には、いくつかの交絡の可能性がある。理想的には、ランダム化比較試験でこれらの問題を解決することである。しかし、それは非常に高価であり、必要な規模での実施も現実的ではなく、少なくともカナダでは倫理的に許されない可能性が高い。明確な関連を証明することはできても、因果関係を証明することはできない。
さらに,モデル内の共変量として,診療所で働くFPの数を詳しく調査しなかった.また、各FPの勤務パターンの背景を明らかにするために、週や季節/年ごとの勤務パターンも調査していない。我々のデータからは、患者へのアクセスを維持するためにFPのロカム・カバレッジ(カナダでは一般的な慣行)が行われているかどうかを明確に特定することはできなかった。われわれのデータでは、例えばスポーツ医学や中毒医学のような特定のタイプの集中診療を完全に除外することはできなかったが、これらは比較的少数であり、われわれの結果に影響を与える可能性は低い。

【結論】
最良のヘルスケアアウトカム(ED受診と入院で測定)は、常に主治医を受診するか、主治医が不在の場合に診療所の同僚医師を受診することと関連している。部分的な診療所との継続性の効果は複雑なようであり、さらなる研究が必要である。これらの結果は、パートタイム診療やグループ診療にとっては安心材料となり、プライマリ・ケア従事者の政策立案者にとっては指針となる。

【開催日】2024年6月5日

ChatGPT vs 医師:SNSに投稿された患者の質問に対するコメントの比較

―文献名―
Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum
J.W.Ayers et al., JAMA Intern Med. 2023;183(6):589-596. doi:10.1001/jamainternmed.2023.1838

―要約―
Introduction:
・COVID-19流行下でVirtual careの導入が早まり、患者からの電子メッセージは1.6倍に増加した。それに伴い医師の負担が増加、燃え尽き症候群のリスクも向上すると考えられる
・医師と患者の電子メッセージでのやり取りの負担を減らす目的で、AIチャットボットの活用は期待されている
・今回、2022年11月にリリースされたAIチャットボットアシスタント(ChatGPT)を用いて、患者の質問に対する共感的で高品質な回答の能力を評価した

Method:
・この横断的研究では、公開されたソーシャルメディアフォーラム(Redditのr/AskDocs)からの質問データベースを使用し、2022年10月に医師が回答した195の質問を無作為に抽出
・一人の医師が複数回回答した場合は、最初の回答のみを考慮したが、その後の医師の回答を除外するか含めるかの判断にかかわらず、結果はほぼ同じであった
・チャットボットの回答は、2022年12月22日と23日に新しいセッションで元の質問を入力することで生成され、元の質問と匿名化されランダムに並べられた医師とチャットボットの回答は3回にわたり評価された。
・評価者は小児科、老年科、内科、腫瘍科、感染症科、 および予防医学に従事する免許を持つ医療専門家のチ
ーム
・評価は、「どの回答がより良かったか」の選択と「提供された情報の質」(非常に悪い、悪い、許容範囲、良い、非常に良い)、「提供された共感やベッドサイド・マナー」(共感できない、少し共感できる、適度に共感できる、共感できる、非常に共感できる)の評価を含んでいた。評価は1~5の5段階で行われ、結果はチャットボットと医師で比較された。

<統計学的手法>
・私たちは、調査した各交換について評価者間でスコアを平均化する、群衆(またはアンサンブル)スコアリング戦略に依存した
・医師とチャットボットの回答の単語数を比較し、チャットボットが好まれた回答の割合を報告した。両側t検定を用いて、医師の回答とチャットボットの回答の平均品質と共感スコアを比較した。さらに、適切でないなどの重要な閾値を上回ったり下回ったりする回答の割合を比較し、チャットボットと医師の回答を比較して有病比を計算した
・また、質と共感のスコア間のピアソン相関も報告した。
・臨床での患者の質問はオンラインフォーラムに投稿されたものよりも長いかもしれないと仮定して、我々はまた、医師が作成した長い返信(中央値または75パーセンタイル以上の長さのものを含む)にデータをサブセットすることで、評価者の嗜好やチャットボットの回答に対する質や共感の評価がどの程度変化するかを評価した。

Result:
・195の質問と回答のうち、評価者は585の評価(195×3)の78.6%(95%CI、75.0%-81.8%)で医師の回答よりもチャットボットの回答を好んだ。
・医師の回答の平均値(IQR)はチャットボットの回答よりも有意に短かった(52 [17-62] words vs 211 [168-245] words; t =25.4;P < 0.001)。 ・チャットボットの回答は医師の回答よりも有意に質が高いと評価された(t = 13.3; P < .001)。例えば、「良い」または「非常に良い」と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(チャットボット:78.5%、95%CI、72.3%-84.1%;医師:22.1%、95%CI、16.4%-28.2%)。これは、チャットボットの良質または非常に良質な回答の有病率が3.6倍高いことに相当する ・チャットボットの回答はまた、医師の回答よりも有意に共感的と評価された(t =18.9; P < 0.001)。共感的または非常に共感的(4)と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(医師: 4.6%, 95% CI, 2.1%-7.7%; chatbot: 45.1%、95% CI、 38.5%-51.8%; 医師は 4.6%、95% CI、2.1%-7.7%)。これは、チャットボットの方が共感的または非常に共感的な回答の有病率が9.8倍高かったことを示している。

Discussion

・SNSの質問を用いているので、臨床現場における医師患者間のやりとりを十分に反映していない。特に、今回は単回の返答のみを扱っているが、本来臨床現場では複数回のやりとりを通じて医師患者関係を築いていくものである
・医師の回答とChatbotの回答の相乗効果については検討できていない
・臨床上でよくあるより詳細なやり取り(予約やリフィル処方、特定の検査結果の説明、個別の治療プラン、予後、等)については評価できていない
・質や共感性の評価方法はこれまでに確立されたものではない
・本研究の評価者は、回答の出所や初期結果について盲検化されていたにもかかわらず、共著者でもあったため、評価に偏りがあった可能性がある
・チャットボットの回答の長さが、より大きな共感と誤って関連づけられた可能性がある
・評価者は、医師またはチャットボットの回答の正確さや捏造された情報について、独立した具体的な評価を行わなかった

【開催日】2024年1月10日(水)

患者協働

―文献名―
Julia James. Health Policy Brief: Health Affairs. FEBRUARY 14, 2013

―要約―

何が課題か?
患者がより積極的に医療に関与することで、より良い健康アウトカムが得られ、より少ないコストで済むことを示すエビデンスが増えてきている。その結果、多くの公的・私的医療機関は、患者をより積極的に参加させるための戦略を採用している。例えば、自分の状態について患者を教育し、自分のケアに関する意思決定に患者をより全面的に参加させるなどである。
「患者の活性化」(Patient activation)とは、患者の知識、 技能、能力、自己の健康やケアを管理する意欲のことである。「患者協働」は、より広い概念であり、患者の活性化と、活性化を高め、予防的ケアを受けたり定期的に運動したりするような、患者の積極的な行動を促進するようにデザインされた相互介入を組み合わせたものである 。患者参加は、健康アウトカムの改善、患者ケアの向上、コスト削減 という “3つの目標 “を達成するための戦略のひとつである。このHealth Policy Briefは、Health Affairs 誌2013年2月号に掲載された患者参加に関する主要な調査結果をまとめたものである。

背景
現代の医療は複雑であり、多くの患者は基本的な医療情報やサービスでさえ、入手、処理、伝達、理解するのに苦労している。多くの患者は、ヘルスリテラシーが欠落している。しかも、米国の医療制度は患者の希望やニーズに無関心に見えることが多い。多くの医療従事者は、患者が自らのケアや治療について最善の決断を下すために必要な情報を提供できていない。また、患者が詳細な情報を得たとしても、圧倒されたり、自分の選択に自信が持てなかったりすることもある。ヘルスリテラシーの低い患者は、自分自身のケア方法に関する指示に従うことや、薬の服用などの治療レジメンを守ることが困難である。
このような問題を認識し、2001年に出された医学研究所の報告書「Crossing the Quality Chasm:21世紀の新しい医療システム)は、”患者中心”の医療システムを実現するための改革を求めた。この報告書では、”患者個人の嗜好、ニーズ、価値観を尊重し、それに応える医療を提供し、患者の価値観がすべての臨床上の決定を導くようにする”システムを構想している。この認識から、一部ではあるが、患者協働という分野が生まれた。
患者協働には様々な側面がある。American Institutes for Re-searchのKristin Carman氏と共著者は、患者協働を主に3つのレベルで概念化したフレームワークを提案している(図表1) 。
第一のレベルは患者への直接ケアであり、患者が病状に関する情報を得たり、患者を治療したりすることである。この協働の形により、患者と医療提供者は、医学的エビデンス、患者の好み、臨床的判断に基づいて意思決定を行うことができる。第二のレベルである組織設計とガバナンスでは、医療機関が患者のニーズに可能な限り対応できるよう、消費者の意見を求める。第3のレベルである政策立案では、公衆衛生やヘルスケアにおける政策、法律、規制について、地域や社会が下す決定に消費者が関与する。
Carmanと共著者らが述べた第一レベルの関与に合致する戦略のひとつは、共有意思決定である。まず、医療提供者と患者は意思決定が必要であることを認識しなければならない。次に、利用可能な最良のエビデンスを手に入れ、理解することである。最後に、患者の嗜好を治療の決定に取り入れることである。
患者の活性化:多くの研究で、”活性化”された患者、すなわち、自分の健康や医療を管理するスキル、能力、意欲を持つ患者は、活性化されていない患者と比較して、より良い健康アウトカムを、より低いコストで経験することが示されている。オレゴン大学のジュディス・ヒバード(Judith Hibbard)氏は、患者のエンゲージメントのレベルを定量化するために、”患者活性化指標”を開発した。Hibbard氏と共同研究者らは、ミネソタ州の大規模医療提供システムであるFairview Health Ser-vicesにおいて、患者の活性化スコアと医療費との関係を調査した。30,000人以上の患者を分析した結果、活性化スコアが最も低い患者、すなわち、自分の健康管理に積極的に関与するスキルや自信が最も低い患者は、健康状態やその他の要因で調整した後でも、活性化レベルが最も高い患者より平均8〜21%高い医療費がかかることがわかった(図表2)。そして、患者の活性化スコアは医療費の有意な予測因子であることが示された。
より広範な患者参加
Carmanと共著者たちが述べている第2、第3のレベルのエンゲージメントと一貫しているのは、医療機関が患者のニーズや嗜好を満たすように組織化し、その嗜好がより広範な対応を形成するのに役立つようなプログラムである。例えば、Conversation ProjectとConversation Ready Projectは、終末期ケアに関する患者の態度や選択肢を引き出し、医療者がその選択肢に沿ったケアを提供できるようにするための2つの取り組みである。

何が問題なのか?
研究者たちは、効果的な患者エンゲージメントと活性化戦略を実行するために克服しなければならない多くの共通要因や障害を明らかにしてきた。患者の性格や性向に起因するものもあれば、医療提供者の性格や性向に起因するものもある。
患者を巻き込む要因:患者が効果的に共同意思決定に参加するためには、ある程度のヘルスリテラシーが必要である。
多様な背景:具体的には、文化的な違い、性別、年齢、教育などの要因によって、患者の関与の度合いが左右されるという。その結果、多様な文化的背景や社会経済的地位にある患者を効果的に関与させるためには、臨床医や医療提供システムの側に、言語スキルや宗教的信念に対する認識や理解など、特定の能力が要求される可能性がある。
認知の問題:ロバート・ニースとエクスプレス・スクリプ ツの共同研究者は、人間の意思決定能力や注意力を維持する能力には限界があることはよく知られており、それが患者との関わりの障壁になっていると指摘している。
コストを考えることへの嫌悪:特に患者を理解させるのが難しいと思われるのが、医療に関する意思決定においてコストを考慮することである。
医療提供者が関与する要因:Health Af-fairs誌2013年2月号で繰り返し取り上げられているテーマは、患者協働戦略を実施するためには、医療現場の文化や運営を大きく変える必要があるということである。時間的制約、医療従事者のトレーニング不足、インセンティブの欠如、情報システムの欠点など、多くの障壁が研究によって指摘されている。臨床医が第一の障壁として最も頻繁に指摘したのは時間的制約であった。

政策的意味合いは何か?
連邦や州の政策立案者は、医療費を削減し、質を向上させるための戦略として、患者協働を促している。

次の課題は何か?
患者協働型医療が重要であることは、これまでにも証明されているが、患者協働型医療のベストプラクティスを決定するため、また患者協働型医療とコスト削減の関係をより完全に実証するためには、さらなる研究が必要であるというのが、この分野の専門家の意見である。その一方で、医療機関に患者協働に対する責任を負わせるために、かなりの努力が続けられている。
例えば、全米医療質保証委員会(National Committee for Quality Assurance)は、医療計画や医療機関が提供するケアの質を追跡調査する非営利団体であるが、患者が自分の健康やケアにどれだけ積極的に関与しているかを判断するために、様々な評価を義務づけている。例えば、患者中心の医療施設(patient-centered medical home)の要件を満たしていると認定されたい医療機関は、臨床医が患者の意思決定に関与しているか、あるいは患者が病状を管理するためのサポートを提供しているかどうかを問う患者調査を実施しなければならない。しかし、医療機関が患者にどのように、またどの程度関与しているかを測定し、個人の健康維持・増進の可能性をフルに発揮させるために、さらに多くのことができるはずだという点では、広く意見が一致している。

【開催日】2023年12月13日(水)