「家庭医療ものがたり、その5」治療的自己を磨く思考法

-文献名-
Ventres, William B., et al. “Storylines of family medicine V: ways of thinking—honing the therapeutic self.” Family Medicine and Community Health 12.Suppl 3 (2024)

-要約-
「ストーリーライン・オブ・ファミリー・メディスン」 は、アメリカや世界の家庭医や医学教育者が解説する家庭 医療のさまざまな側面を、テーマごとにリンクさせた12部構成のエッセイと、それに付随するイラストからなるシリーズである。V:「治療的自己を磨く思考法」では、著者が 以下のセクションを紹介している:
家庭医が、患者のwell-beingを支えるためには、患者との出会いの場(診療現場)を治療手段とする必要があり、以下の3点が必須である。①診療における思いやりとヒューマニズム(人道主義)の重要性を理解すること ②医師-患者間の関係性の場という診療のありようを認識し、観察すること ③単に興味深いやり取りの列挙ではなく、常に注意を払いながら、思慮深く塾考することを通じて、家庭医自身の「治療の引き出し」を向上するため、前述の①②を省察すること
読者がこれらのエッセイを振り返ることで、自らの治療的主体性をより深く感じることができますように。

「行為の中の省察」 以下のことを実践することで、そのスキルを高めることができる(Fig.1)。

患者を世界で最も大切な人であるか のようにケアする意図を持つ。
診察中、患者の感情、言葉、非言語的コミュニケーションを常に意識する。
個人的な考え、感情的な反応、身体的な反応に注意する。
診療を終了し、他の要求に移ろうと思っているときでも、思い込みや偏見、先入観がないかチェックする。
来院の流れを管理し、患者の懸念や見解を引き出し、必要な情報を収集し、 適切な検査を行い、 時間を管理し、その他の重要な仕事に取り組む 。
患者や自分ではどうすることもできない状況、リソース、事情に注意しながら、患者に何を勧めるかを評価し、見極め、交渉し、説明する。

患者や医師が経験する感情は、臨床的な気づきを高めたり、損なったりするものであることを認識することが重要である。目標は患者の感情を無視することでも、自分の感情を抑制することでもない。むしろ、診察室に流れる感情の流れを認識し、認め、好奇心を持つことで、そして同時に、それらと強く同一視しすぎないことで、医師は否定的な感情を和らげ、落ち着かせ、空間を開き、共感と思いやりの表現を促進することができる.

「薬物としての医師-バリント・ グループ」 患者との感情的に困難な出会いを振り返るピア主導のグループディスカッション ある臨床医が、悩みの種である患者の症例を、現実には悩みの種である患者との関係を、グループの仲間に提示する。グループは定期的に会合を開き、1人か2人のグループリーダーが、症例提示に対する感情的な反応を明確にするようグループメンバーに促しながら、続くディスカッ ションを導く。グループメンバー間の信頼が深ま るにつれて、しばしば人間的な関心の深い部分が浮かび上がってくる。

「思いやりの醸成」心理学的には、医療において思いやりを持つということは、(1)病気と苦しみのつながりを理解すること、(2)個々の患者や集団の苦しみを認識することを意味する。
「医師としてヒューマニステックなアプローチ」家庭医学の教育と実践に人文科学を取り入れることは、様々な形で可能である。文学、演劇、詩 、オペラ、映画、そして音楽でさえも、人生の困難に直面したときの個人的価値観の考察を促すのに役立つ。23–26物語、つまり個人的な語りは、感情豊かな議論や倫理的推論の出発点として役立つ。 27芸術は、そのあらゆる感覚的な形態において、 感情と想像力の両方を刺激することができ、内省と対話を通して、意識を研ぎ澄まし、共感を高め、患者ケアの感情的側面と認知的側面をひとつの賢明な治療プロセスを促進することができる。

「家庭医療における親密さ」家庭医療の仕事は、しばしば親密なものである。なぜか?患者とともに働くということは、精神的な親密さ、希望、そして必然的に喪失を意味するからである。
例)コロナ禍でのオンライン診療をしていたリンパ腫で治療していた80歳男性。妻が膵臓癌でホスピスに入院して独居となり喪失体験を抱えていた。その後、対面診療となり、直接接することができて両者で喜んだが、男性患者は喪失体験を抱えたまま自宅で突然死した。家庭医は死亡診断書に、死因不明と書く前に、本当の死因は妻の喪失、だったのでは、と省察した。また患者が亡くなる度に、家庭医はさまざまな感情でいっぱいになるが、亡き患者たちの主治医になれたことに感謝している。

「苦しみのさまざまな顔」 医学の最大の目的は苦しみを和らげることである。患者の苦しみを認識することで、私たちはケ アと希望を提供することができる。それは治療への希望であることもあるが、症状のコントロール 、苦痛の緩和、精神的なサポートへの希望であることもある。苦しみを理解することで、私たちは患者が意味を再発見し、受容を獲得し、全体性を再構築するのをよりよく助けることができる。

苦しみは、生活のあらゆる領域、あるいは複数 の領域に現れる。それは、(1)厄介な症状、(2)機 能の喪失、(3)役割や(4)人間関係への脅威、(5)苦 悩に満ちた思考や(6)感情、(7)患者のライフストーリーの物語の混乱、(8)患者の精神的あるいは知的な世界観との葛藤などから生じる。これらの苦しみの8つの領域は、臨床ケア、教育、研究のために、生物医学的、社会文化的、心理行動学的、 実存的という4つの軸で整理することができる。この包括的なモデルは、調査を整理するのに役立つ。臨床医にとっては、「システムのレビュー」で はなく、より深い「苦しみのレビュー」として役立つ。
「苦しみを乗り越える」 医学の基本的な目標は、可能な限り治療し、常に慰め、苦しみを和らげ、患者を癒すことである。治癒に関する生物医学的な議論の大半は、組織の修復と病気の診断、治療、治癒に焦点を当てている 。病気とは病気以上のものであり、理解とは診断以上のものであり、ケアとは治療以上のものであ る。 ナラティヴ・メディスンのスキルを用いれば、患者が自分の物語を編集し、人生に新たな意味を見出し、受容を見出し、全体性の感覚を再構築できるよう、対話を導くことができる. このように患者をケアすることは困難なことである。しかし、患者の重病体験を探求し、彼らの心の傷の物語を編集する手助けをする医師は、しばしばこのケアが自分のキャリアの中で最も充実した仕事であることを発見する。
「物語を聴くことの力」 家庭医が、語りを聞き、語ることは、患者から 患者へと奔走し、人々の苦しみや喜びを目の当たりにする中で、普段は処理できない感情を解放するのに役立つ。それは、家庭医自身を「なぜ」、つまり私の診療の目的に根付かせ続ける治療的プロセスであり 、私自身の職業上の物語における本当の主役が誰であるか(もちろん、患者である)を常に思い出させてくれる。

【開催日】2024年7月10日

社会的処方から利益を得る道筋

-文献名-
Steps to benefit from social prescription: a qualitative interview study
Kirsty Payne, Elizabeth Walton and Christopher Burton
British Journal of General Practice 2020; 70 (690): e36-e44.
DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X706865

-要約-
【Introduction】
社会的処方は、個人や集団におけるさまざまな病い、苦悩、健康関連行動に対処する手段として広く推奨されてきました。これは一般的に、さまざまな社会的、実際的、感情的なニーズを持つ患者を、医療関係者から非公式またはボランティアの組織に紹介することと理解されています。そうすることで、特にプライマリケアの場で、従来の医学的治療に付け加わるものを提供します。
社会的処方には、友達作り、福祉給付の助言、健康行動の促進、グループ活動、ボランティアなど、幅広い活動が含まれます。活動が多様なので、社会的処方の有効性に関する量的エビデンスは少なく、システマティックレビューでも社会的処方の客観的な有効性に関する絶対的な結論が得られていないことも、当然かもしれません。それでも、社会的処方が有益になるかもしれない多くのありうるメカニズムがあります。これらには、弱みの逆転や強みの増進が含まれます。対処される弱みには、自尊心や自信の低さ、メンタル不調や気分の悪さが含まれます。個人の強みには、社会的能力やコミュニケーション能力の向上、希望や楽観性や人生の意味を増強して未来の目的に向かう意欲を増すことが含まれます。
この研究の目的は、社会的処方された活動を行う人に、社会的処方が助けになりえる道筋を探ることです。

【Method】
社会的処方された活動を行う人に面接を行い、社会的処方から得た利益をどのように認識しているかを同定するよう、質的研究を行いました。同時に、社会的処方された活動についての出版されている質的データを体系的に調べ、この研究で明らかになったテーマやモデルを公開されている研究結果に照らし合わせて検証しました。
<設定・参加者・サンプリング>
参加者は全員、シェフィールドを拠点とする社会的処方を行う組織であるSOARから、2017年11月から2018年4月までの間に、意図的に抽出されました。SOARを利用する成人を、利用期間、主な紹介理由、SOAR内で利用したサービスの種類によって意図的に抽出して、研究への参加を募りました。主なテーマについて飽和状態に達するまで、研究への募集は続けられました。飽和状態とは、2回の連続する面接で、新しい大きな発見が何も得られなくなった状態と定義しました。
<データ収集>
面接は半構造化されていて、トピックガイドに従って行われました。トピックガイドは、研究期間中に進めている分析に基づいて新しい項目を含められるようにしました。面接は録音され、分析するために文字起こしされました。
<分析>
解釈的現象学的分析(interpretive phenomenological analysis)に基づくアプローチを使いました。分析は、文字起こしされた全体を読み、テーマごとにコーディングし、二次的にコーディングし、テーマをまとめ上げるという段階を経て行われ、新たに出現したコードは過去の記述に照らし合わせてチェックされる反復的手法も用いて行われました。文字起こしは2人の研究者が読み、他の2人の研究者が毎週ミーティングを行なってコーディングについて議論し、修正しました。既に出版されている社会的処方された活動に参加した人の体験についての質的研究を参照することによって、分析は影響を受けています。
<Systematic review>
9つ(Medline, PubMed, Cochrane Library Reviews, Scopus, Open Grey, CINAHL,
ASSIA, Web of Knowledge, Social Care Online)のデータベースを、4つの検索語(social
prescribing, community referral, socially prescribed activity, non-clinical referral)で検索しました。4749個の文献が見つかり、そのうち17個が社会的処方された活動に関する参加者の見解を、質的手法を使って明らかにした物でした。これらの研究の結果に提示された社会的処方された活動への参加者の言動は、面接の文字起こしと同じ方法で内容やテーマを分析しました。

【Results】
合計で17人に面接が行われました。参加者の年齢は45〜84歳で、男性6人、女性11人、15人が白人の英国人でした。参加者の郵便番号から、大多数が社会経済的に恵まれない地域に住んでいて、そのうち9人は英国で最も恵まれない10%の地域、14人は最も恵まれない30%の地域に住んでいることがわかりました。
参加者は、さまざまな理由で社会的処方を利用し始めましたが、一般的なのは生活環境の変化や精神的な変化に対応するためでした。
社会的処方の組織に参加している期間は6か月から5年で、参加している活動は、アドボカシー(福祉給付の助言など)、身体活動(健康トレーナーやエクササイズや水泳など)、ウェルビーイング(ヨガや散歩や痛みのマネジメントコースなど)、スキル(アート、工芸、モデリング、調理など)、社会(ソーシャルカフェ、他のグループ)、ボランティア活動でした。
テーマ分析では、5つの主要なテーマが作られました。社会的問題に対する専門家のサポートを受けること、社会的処方された活動に参加することで他者と関わること、他者と関わるさまざまな方法を身につけて新しいスキルを身につけること、個人的な強みを認識したり新たな将来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること、将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと、です。これらのテーマは、参加者の報告の中で一貫した順序で生じていて、最初の紹介からサービス後の進展までの見通しに役立ちます。
SPA:socially prescribed activities

<社会的問題に対する専門家のサポートを受けること>
福祉やライフスタイルに基づく問題に対する1対1のサポートと、SOARのトリアージワーカーやグループコーディネーターやアドボカシーワーカーによる活動への個別化されたリンキングがあります。利用者は「親しみやすく、熱心な」個性と、「信頼できて、誠実な」専門性のある初期サポートを高く評価しました。
利用者がもつ問題に対する良い結果や解決に関連するだけでなく、専門家の良い特性によって利用者が普段の社会的環境以外で他者と関わることができるようになりました。一部の利用者には、これが孤立からグループでの社会的交流への足がかりとなり、社会的処方された活動に取り組むのに必要な励ましや自信やモチベーションをもたらすものとなりました。
初期サポートは通常、実際的で社会的な問題に対するものでしたが、1対1の問題解決からもっと社会的な活動に「橋渡し」することに役立つサポート資源にも、利用者は価値を見出しました。だから、専門職によって利用者が社会的処方された活動を紹介されるだけでなく、社会的処方された活動チームのメンバーが初回のセッションに同行することもあります。多くの利用者は、この段階でこのようなサポートがなければ、社会的処方された活動にたどり着けなかったり、さらなる発達段階に進めなかったりするかもしれないと感じていました。この橋渡しに引き続き、必要な時にはサポートを受けられると知ることも大切なことだと、参加者は思いました。
スタッフは、地域のグループや活動やサービスの情報も提供し、利用者が自発的に参加できるようにしました。
既存の質的研究でも、社会的処方をする人やリンクワーカーの役割に関して似たようなテーマが見つかりました。

<社会的処方された活動に参加することで他者と関わること>
このテーマは、利用者が目的を持って楽しい活動に参加し、他の人と新しいつながりを作ることが組み込まれています。
活動は主に、利用者に「すること」を提供し、利用者の時間にルーチンと構造を生み出します。退職後の利用者の中には、在職中に感じていた目的意識を回復したと感じる人もいました。
参加することで得られる集中力、方向性、喜びも、困難な過去や現在の状況から気を紛らわせるものとして、価値を認められました。また、活動を通じてできることについての認識が変わったと述べた参加者もいました。
出版されている研究でも、社会的処方された活動が、社会的孤立を減らす機会であることと同様に、普通の日常生活を補完する新しい機会として価値を持つことに関連するテーマが含まれていました。これは、社会的処方された活動が退職者や無職の人にとって「何かすること」として有益であるという言説によく表されています。
一方で、参加者の多く、特に他者をケアする大きな責任を持つ人は、社会的処方された活動を息抜きの資源として評価していました。他者と交流することは、環境を心地よいものにするのに役立つとともに、活動を楽しくて目的のあるものにする主要な部分として認識されています。

<新しい技術や他者と関わる方法を身につけること>
利用者が活動や他者との関わりを続けるにつれて、社会的に学んだり発達したりすることができ、新しい創造的で実践的な技術を身につけることもできました。利用者は過去の経験を共有することを通じて、グループの他者とより良い関係性を作ることができたと述べました。このことで、自分自身の経験や、それに対応する他者の経験について、利用者が新しい認識に達することも可能になります。グループ内で相互支援のネットワークが発展し始め、共有することで多くの利用者が自分だけが困難を抱えているのではないことを理解できるようになり、状況を適正化し、コミュニティの中での立ち位置を再確認しました。
利用者は、他者から自信や対処法を学んで、より強く、よりレジリエンスを持つ人になりました。体系化された学習機会によって、利用者はさまざまな興味のある分野で技術を身につけることができました。ある活動や人々のグループに参加することで、利用者はコミュニティに参加したり経験を広げたりする機会についても学びます。
これらの利用者の経験は、他の研究で述べられた社会的処方された活動を通じた学習の認識に類似していました。さまざまな研究で、個人的で実践的な技術と、共有された経験の価値の両方が発展することが示されています。

<個人的な強みを自覚したり新しい未来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること>
社会的、そして個人的に発達すると、利用者の自分自身の強みや未来についての認識の変化が促進されました。改善したり前向きに強くなったりすると、利用者の自信や自尊心や個人の強みの認識が高まり、社会的処方された活動自体がそれらの強みを利用したり新しい強みを生み出したりする機会をもたらしていました。これらの過程を通じて新しい自己認識を作り、生活が以前よりも建設的で充実したものであると感じる参加者もいました。こうした変化によって、自尊心を向上させ、潜在的能力を自覚して、新しい目的や未来への野望に向かうことが促がされました。
新しい社会的つながりの支援を受けて利用者の自己認識が改善すると、日常生活で直面し続ける困難はあっても利用者はもっと自信を持ち、自立し、レジリエンスを持つことができるようになりました。コミュニケーションやソーシャルスキルを改善することで、利用者は自信を持ち、自己主張できるようになり、実践的で生活に基づいたスキルによってレジリエンスや自立の度合いが増しました。
新しいスキルの学習や開発によって、利用者が自分自身を向上させ、将来の可能性を洞察することが可能になりました。これらの開発は、自信、自尊心、将来の発展のための新しい意欲や機会を前向きに見通すことを強めます。人によっては、目的のある活動は、「朝ベッドから出る理由」になっていました。
同じような体験をしている他者に触れ合うことで、利用者は自分自身の進歩や自分が関わった他者の進歩を振り返ることができました。利用者は同じような状況からさらに前進してきた人と体験を共有し、そうすることで今とは異なっていたり、よりマシだったりする未来の可能性に心を開くようになりました。言い換えると、利用者は現在の状況について、より希望を持った見通しを持つようになりました。これは、グループ内でも、もっと一般的な日常生活でも、将来の機会に対する利用者の期待を反映していました。
自信、新しい自己認識、自尊心、目的意識を増やすことなど、このテーマのさまざまな面は、出版されている研究にも見出されました。とはいっても、これらが他の社会的処方された活動の面とどのように関連するのかは、常に明らかなわけではありません。

<将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと>
希望の感覚と個人的な強みの認識によって、利用者は人生が以前より楽しくて充実させられるものになったと思うようになりました。精神的にも身体的にも健康を改善することとともに、これは目標達成への障害を減らし、利用者が将来の目的やより健康になるように前進できる基盤を形成しました。
自信、自尊心、独立性、モチベーションの改善によって、利用者は新しい目標を設定できるだけでなく、積極的にその目標を追求することができるようになりました。これは、利用者の成功の可能性に関する未来に対する期待や楽観主義によっても促進されました。
一部の利用者にとって、社会的処方された活動は、運動、禁煙、健康的な食事などの健康を改善する行動への取り組みを促進しました。運動をベースにする活動に取り組んだ利用者は、減量や血圧低下など身体的健康が改善しました。そこまで公式ではない活動でも、利用者は「家から出て」、活動量が増えて痛みが減ったという点で、良い結果が見られました。
しかし、健康の目的を追求するためには、自己と将来への肯定的な認識が必要です。利用者は健康教育を社会的処方された活動の価値ある部分であると認識していましたが、適切な程度の自尊心や、自分の可能性の認識や、将来が今と違う可能性を受け入れることがなければ、前向きの健康行動に取り組む可能性は低いでしょう。利用者の健康の結果や、自分自身や将来の認識の変化は、このように、健康改善の更なる目的に影響していました。

<段階の順序>
17人中7人の参加者に、5つすべての段階が生じていました。6人は最初の段階をとばして、GPをはじめとする医療専門職に勧められて、自分で社会的処方された活動に応募しました。社会的処方された活動に一度参加すれば、こうした利用者はこのモデルの次の段階に進みました。第1段階から始めた参加者と比較すると、これらの参加者は社会的、医学的、精神的な問題が少ない傾向がありました。
ある段階から他の段階への移行を明確に述べた人はほとんどいず、その順序は面接での説明から推察されました。2人の参加者は最初の取り組みとアドボカシーから進まず、3人はソーシャルカフェについてだけを語り、残りの12人の参加者は2〜6個の活動に参加したことを述べました。
すべての参加者が最初の段階から最後の段階まで進んだわけではありません。
より早期の段階の参加者は、ウェルビーイングの改善を専門家の支援と活動への参加の結果として語りました。しかし、これらの改善は一時的なもので、利用者がサポートなしで継続的に前に進んでいく自信や希望やレジリエンスを促進するには不十分でした。

【Discussion】
<まとめ>
社会的処方された活動に参加した人は、わかっている利益につながる一貫した一連の段階について述べました。これらは、個人的に特定された問題への専門家のサポートを受けることから、他者と関わる新しい技術や方法の開発を通じて、将来の認識や意向を変えることまで、一連の流れを形成していました。この一連の流れによって、社会的処方を受けた人がどのように利益を得るのかについて、もっともらしく、本質的に社会的な説明を作り出しています。

<強みと限界>
募集はたった一つのセンターからのみ行いましたが、SOARは、健康の社会的決定因子が大きく影響する、慢性疾患が多い伝統的な労働者階級の地域で、大規模にサービスを提供しています。この地域は文化的多様性が富んでいるにも関わらず、参加した人の中に45歳未満の人はいず、白人の英国人が多かったですが、SOARの利用者を広く代表していました。募集時点では、参加者はさまざまな活動に取り組んでいましたが、アドボカシー活動にだけ取り組んでいたのは2人だけで、社会的処方された活動全体から得られるより幅広いメカニズムのいくつかにアドボカシーがどのように関連しているのかを探る可能性は限られました。ただ、何人かは最初の問題解決の段階としてアドボカシーサービスに取り組み、それが他の分野での更なる関わりと活動への足がかりとなりました。
コーディングの過程は、定期的なミーティングでのコーディングと、最初のコーディングを終了した後に再度すべての文字起こしを読んでより良いコード化がないかを探すことで、厳格になるように設計しました。
面接と分析は、出版されている文献のテーマと統合しながら実施しました。バイアスが生じる可能性はありますが、他の研究に結びつけることで、調査結果に強度が加わりました。個々の質的研究の統合や、社会的処方が効果的であるかもしれないメカニズムの包括的なモデルについての既存の研究は、見つけられませんでした。
何人かの参加者は、コミュニティの組織が直面する資金確保の困難さを強く意識していて、組織やグループが閉鎖された場合に起こることについて比較的悲観的な見方を示しました。これにより、サービスが参加者にとってどれほど有益なものであったかについて、説明が誇張されていた可能性はあります。

<既存の文献との比較>
それぞれの主要なテーマは、社会的処方についての既出の研究に反映されていて、そのことは結果の欄に記述しています。しかし、今回の研究で特定したすべてのテーマに触れている研究はこれまでなく、その段階の順序を特定したものもありませんでした。だからこの研究は、社会的処方が有益でありそうな道筋についての知識を拡張するものです。

<研究と実践への影響>
この研究からの重要な結果が2つあります。1つ目は、社会的処方された活動に取り組む人が利益を得る妥当な一連の過程を概説したことです。これはサービスや、サービスを依頼する人に情報を提供するために使用できます。2つ目は、社会的処方の社会的要素が強調されていることです。今回概説した過程は本質的に社会的で、個人自身よりも個人間の相互作用の方に関連しています。
これらを合わせると、GPや依頼者は、社会的処方の重要な個人間の内容や社会的な内容を自覚している必要があります。これは社会的処方を大規模に行ううえで3つの意味を持ちます。
1つ目は、社会的に孤立している人を巻き込む仕事が重要であるということです。2つ目は、今回の研究で得られた一連の過程はあるものの、参加者は非常に個別性の高い説明をしており、サービスを標準化しようとするとこうした個別性が失われる危険があるということです。利益を生み出すと思われる社会的交流は、プロトコール化も厳密な管理もできません。3つ目は、健康的な行動や職場復帰のような「下流の」目標に焦点を当てると、この研究で参加者が述べたような、良い生活を送るための重要な改善を見逃してしまう可能性があることです。これらに焦点を当てると、人々が自分のペースや自分のレベルで成長していくことを許容するよりも、むしろ人々を遠ざけてしまう危険があるかもしれません。
更なる研究という点では、この研究は一連の過程を見出しましたが、社会的処方が機能するメカニズムを完全に理解するためには、できればもっと長い期間個人を前向きに追跡して、更なる研究をすることが必要です。
現時点では、社会的処方が有益であるメカニズムを記述したり概説したりすることによって、この研究をもとにした研究を行うべきです。社会的処方は、専門家の関与や個人的問題を扱うサポートから、より幅広い社会的関与を通じて、個人や社会の強みや機会を特定することまで、一連の段階の中で患者に有益なものとなります。これらの段階は、社会的処方のサービスを立ち上げたり評価したりする有益な枠組みを生み出します。

【開催日】2024年7月3日

日本におけるガイドライン推奨睡眠薬の治療失敗と長期処方リスク

-文献名-
Takeshima M, Yoshizawa K, Ogasawara M, et al.
Treatment Failure and Long-Term Prescription Risk for Guideline-Recommended Hypnotics in Japan. JAMA Network Open. 2024;7(4):e246865.

-要約-
Introduction
ガイドラインが推奨する睡眠薬を直接比較するランダム化比較試験は、これまでのところわずかしか行われていない。また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の睡眠薬としての長期使用は有害になり得るため、ガイドラインは短期使用を推奨しているが、世界中で長期処方が行われている。著者らは、ガイドラインが推奨する睡眠薬のうち、単剤で用いた場合の治療失敗リスクが低いのはどれか、また長期にわたって処方されやすいのはどれかを明らかにするために本研究を実施した。

Method
この後ろ向き観察コホート研究は、Japan Medical Data Center Claims Database(発表者注釈:2005年より複数の健康保険組合より寄せられたレセプト(入院、外来、調剤)および健診データを蓄積している疫学レセプトデータベース JMDC Claims Database – 株式会社JMDC)を利用した。
2005年4月1日から2021年3月31日までに、不眠症の薬物療法として睡眠薬の単剤を初回投与された成人患者を同定して、治療開始から6カ月後まで追跡した。
薬は、スボレキサント(ベルソムラ®)、ラメルテオン(ロゼレム®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)、ゾルピデム(マイスリー®)、トリアゾラム(ハルシオン®))であった。
● 主要アウトカムは単剤療法の失敗(6ヶ月以内に睡眠薬の変更または追加)
● 二次アウトカムは単剤療法の中止(6ヶ月以内に2ヶ月連続で睡眠薬の処方がない)
と定義された。

Results
239,568人が含まれ、年齢の中央値は45歳(四分位範囲34〜55歳)、50.2%が女性だった。
56.6%がゾルピデム、15.7%がスボレキサント、14.2%がエスゾピクロン、7.5%がトリアゾラム、6.1%がラメルテオンを処方されていた。

6カ月の追跡期間中に、24,778人(10.3%)が単剤治療の失敗を経験した。
失敗の割合は、ゾルピデム(8.9%)で、トリアゾラム(9.4%)、エスゾピクロン(11.9%)、スボレキサント(12.7%)、ラメルテオン(15.1%)だった。
エスゾピクロンと比較した失敗リスクは、ラメルテオン(調整ハザード比 1.23)が高く、ゾルピデム(0.84)およびトリアゾラム(0.82)は低く、スボレキサントとは有意差がなかった。

単剤治療で失敗しなかった患者の84.6%は、6カ月以内に治療を中止した。
治療中止の割合は、ゾルピデム(85.2%)、ラメルテオン(84.9%)、スボレキサント(84.0%)、トリアゾラム(83.7%)、エスゾピクロン(82.9%)となっていた。
エスゾピクロンと比較した場合は、ラメルテオン(調整オッズ比 1.31)とスボレキサント(1.20)は有意差を持って中止されており、薬物依存による長期処方が起こりにくいと考えられた。ゾルピデム1.00(0.97-1.04)とトリアゾラム1.02(0.97-1.07)は有意差を示さなかった。

Discussion
本研究の強みは、大規模な日本の医療データベースを使用し、239,568人のデータを長期間(2005年~2021年)にわたって分析した点である一方で、いくつかの限界がある。 第一に、データが会社従業員およびその家族に限定されているため、一般の集団を代表しているとは限らない。 第二に、社会経済的要因、副作用、単剤療法の中止理由、不眠症や精神症状の重症度などの重要な因子が含まれていない。 第三に、追跡期間が6ヶ月と短く設定されており、長期使用による依存や耐性のリスクを完全には評価できていない。 本研究では交絡因子がコントロールされていないため、これらの結果に基づいて、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性に関する結論を導き出すことはできない。慢性不眠症と急性不眠症の診断、不眠症および精神症状の重症度、睡眠薬処方に対する医師の態度などの交絡因子を考慮したさらなる研究が必要である。

このコホート研究では、単剤療法の失敗はエスゾピクロンよりもラメルテオンで多く、ゾルピデムやトリアゾラムでは少なかった。さらに、本研究で長期使用リスクの代用指標として設定した単剤療法の中止は、エスゾピクロンよりもラメルテオンやスボレキサントなどの新規睡眠薬で少なかった。しかしながら、これらの結果は、いくつかの交絡因子を説明することができなかったため、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性によるものなのか、不眠症患者の臨床的特性によるものなのか、あるいは処方医の睡眠薬に対する考え方によるものなのかは不明であるため、慎重に解釈すべきである。どのガイドライン推奨睡眠薬が最も有用であるかを決定するためには、これらの睡眠薬を直接比較するRCTが必要である。

【開催日】2024年6月12日

プライマリ・ケア診療所と家庭医の継続性が患者の健康アウトカムに及ぼす影響

-文献名-
Terrence McDonald, et al. The Impact of Primary Care Clinic and Family Physician Continuity on Patient Health Outcomes: A Retrospective Analysis From Alberta, Canada. Annals of Family Medicine. Vol. 22, No. 3 May/June 2024.

-要約-
【背景と目的】
プライマリ・ケアの理想的な提供は、患者と家庭医(FP)との長期的な関係性(longitudinal relationship)、いわゆる関係の継続性(relational continuity)に基づいている。関係の継続性は、より良い患者ケア、過剰な処置や入院、救急外来(ED)の受診の減少、コストの削減、患者満足度の向上と関連することが研究で示されている。
家庭医療におけるパートタイム診療(part-time practice)の傾向は、米国でもカナダでも20年以上前から高まっている。その結果、患者は同じ診療所内で複数のFPからケアを受ける可能性が高い。Atlasらは、小規模な学術的ネットワークにおいて、診療所ではなく特定の医師とのつながりが有益であることを見出している。しかし、全体として、個々のFPの継続性とは別に、地域のプライマリ・ケア診療所の継続性の効果についてはほとんど知られていない。Bazemoreらは最近の継続性に関する文献の広範なレビューの最後に、この疑問に関する研究を呼びかけている。
本研究では、カナダ・アルバータ州において、プライマリ・ケア診療所の継続性(primary care clinic continuity)(FPの関係の継続性とは異なる)が患者の健康アウトカムに及ぼす影響について検討した。この分析結果は、増大するプライマリ・ケアの不足に対処するための政策決定に役立てることを目的としている。
この後方視的観察研究では、かかりつけの診療所ではあるが、異なる家庭医に診てもらっている患者を対象に、ケアの継続性の影響を検討した。

【方法】
カナダ・アルバータ州の2015~2018年のリンクされた医療行政データを分析し、患者の複雑さのレベルの違いによる、医師および診療所の継続性と救急外来(ED)受診率および入院率との関連を検討した。
医師の継続性は、KPC(Known Provider of Care)指数を用いて計算された。3年間の期間を設定し、その間に3回の受診があることを条件とした。KPC指数は連続変数としてもカテゴリー変数としてもコード化した。低継続性を0%~40%、中等度を41%~80%、高継続性を81%~100%とした。
診療所の継続性についても同様に、患者が同じ診療所で主治医の同僚医師にかかった割合(対するものとして、別の診療所、救急外来など)として算出され、グループケア率(GCR)と呼ばれた。GCRに基づき、各患者の診療所の継続性をNA(KPC指数100%でグループ診療の機会がないため該当なし)、なし(0%、 低(1%~50%)、高(51%~99%)、完全(100%、自分の主治医にかからない場合は必ず自分の主治医の同僚医師にかかる)に分類した。)
患者の複雑性は、CRG(Clinical Risk Grouper)法を適用して決定した。CRG法は、先行する疾患の診断と医療システムの利用に基づいて、患者を9段階の複雑度(1が最も複雑度が低く、9が最も複雑度が高い)のいずれかに分類するものである。本研究では、臨床的に類似した複雑性のレベルを捉えるために、これらのレベルを3つのグループに分類した:複雑性が低い(CRGが1-2)、中程度(3-4)、高い(5-9)。
負の二項回帰モデルを作成し、それぞれと全原因による救急外来受診および入院との関連を評価した。

【結果】
患者の44%が男性、56%が女性であった。年齢の中央値は50歳であった。ほとんどの患者は、1人のFPとの継続性が中等度(45.6%)または高レベル(47.9%)であり、残りの6.5%は低レベルであった。

表1には、患者の特徴を医師の継続性(KPC指数)別に示した。医師の継続性が高い患者は、より複雑(CRG=5-9)で高齢(年齢中央値=55歳)である傾向があったが、継続性が低い患者はより健康であった。医師の継続性が高いほどED受診が少ないという予想された傾向が観察されたが、入院件数はKPC指数のレベル間で同等であった。医師の継続性の絶対値では、農村部は継続性の高い群にやや多く含まれていたが、全体として、医師の継続性は、大都市圏、都市部(町/小都市)、農村部の間で顕著な差はなかった。

表2は、患者の特徴を診療所の継続性(GCR)別に示したものである。この継続性は、表の1行目に明らかなように、二峰性に分布していた。常に主治医を受診している患者(NA群)と、受診していないが常に同僚医師を受診している患者(完全群または100%群)は、いずれも年齢が高い傾向にあった。診療所の継続性がない患者(GCR0%)は、複雑性が低い傾向にあった。アルバータ州の大都市圏であるゾーン2(カルガリー市とその周辺)とゾーン4(エドモントン市)の患者は、町や小都市の患者よりも診療所の継続性がない傾向にあった。農村部の住民は診療所の継続性が高い傾向にあり、特に100%のGCRカテゴリーでは農村部の住民が4分の1以上を占めたのに対し、他のGCRカテゴリーでは20%以下であった。診療所の継続性が高い患者は、継続性が低い患者よりも平均してED受診と入院が少なかったが、継続性がない患者は継続性が高い患者と同程度であった。より高いGCRは、より大規模なグループ診療と関連していた。

表3は、多変量解析の結果である(負の二項回帰モデル)。ED受診と入院の両方で、診療所の継続性(GCR)の効果は患者の複雑さ(CRG)によって大きく異なっていた。医師の継続性(KPC指数)が高いほど、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用が少なく、複雑性の高い患者では病院の利用が少なかった。診療の継続性の効果は直線的ではなく、ED受診と入院についても同様のパターンがみられた。ED受診および入院の減少との関連が最も強かったのは、常に主治医またはその同僚医師のいずれかを受診している患者、すなわち、それぞれNA(KPC指数100%)群および完全(GCR100%)群であった。さらに、常に主治医を受診している患者は、複雑性の低い患者(CRG 1-2)を除き、EDおよび入院の利用が最も少なかった。その効果は、最も複雑度の高い群で最も大きかった。診療所の継続性が低い群(GCR1%~50%)は、診療所の継続性がない群(GCR0%)に比べ、一貫してEDや入院の利用が多いことと関連していた。高い診療所の継続性(51%~99%GCR)は、1つの例外(入院についてはCRG 3-4)を除いて、EDおよび入院の減少に関連していた。

まとめると、医師の継続性の高さは、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用減少に関連し、複雑性の高い患者では入院の減少に関連した。大まかには、診療所の継続性なし(0%)は利用増加と関連し、診療所の継続性あり(100%)は利用減少と関連し、最も複雑な患者に最大の効果がみられた。診療所の継続性が1%から50%までのレベルでは、一般的に利用がやや増加し、51%から99%までのレベルでは利用がやや減少した。

【考察】
カナダ・アルバータ州を対象としたこの後ろ向き観察研究では、FPとの関係の継続性(KPC指標で把握)が、全原因によるED受診および入院の減少と関連していることが報告された。このような医師の継続性の効果は、過去の文献から予想されていた。重要なことは、この効果は複雑で高齢の患者において最も強かったが、若くて健康な患者においてもEDの利用に有意な影響を及ぼしたことである。
診療所の継続性(GCRによって把握される)は、医師の継続性よりも劇的ではないが、同様の効果を示した。同じ診療所の別のFPに常に診てもらうことは、自分のFPに診てもらうのでなければ、明らかに有益であるように思われた。診療所の継続性の効果を分離することによって、これらの結果は、患者と医療システムの両方の観点からこのケアモデルを支持する新たな証拠を提供するものである。今回の知見から、グループケアを受けた患者のレベルが低かった場合に、わずかながら不利益を被った理由をよりよく理解するためには、さらに焦点を絞った研究が必要である。そのためには、現在入手可能なデータでは、ED受診や入院を、同僚医師や外部の医師のいずれかによるものと確信をもって断定することはできない。したがって、診療所の継続性が低いことによる明らかな不利が、同僚医師を受診したことによるものなのか、同僚医師を受診しなかったことによるものなのかを推測することはできない。次のステップは、この区別をするためのデータへのアクセスを求めることである。
診療所の100%継続性の価値は、質と健康アウトカムを改善することが示されている多くの要因に起因すると思われる。例えば、アルバータ州のFPの大多数は、同じ地域の診療所で一緒に診療を行うことで、担当する患者の電子カルテへのアクセスも共有することになり、情報提供や管理の継続性がもたらされる。同じクリニックで働くFPは、共通の電子カルテで得られる情報よりも豊かで包括的な直接的コミュニケーションを行う可能性が高い。最後に、同じクリニックで異なるFPが診察を受けているにもかかわらず、同じ看護師、医療助手、その他の専門家に診察を受けているというチーム効果があるかもしれない。
医療システムの観点からは、プライマリ・ケアの不足に対処するための州政策立案者の指針となるエビデンスが得られた。一部の政治家が提唱する緊急医療センターという「応急処置」に投資するよりも、少なくとも複数のFPによるクロスカバーと共有診療を提供するプライマリ・ケア診療所のための構造的支援と政策(すなわち、支援スタッフの増員、支払いシステムの改革)に投資する方が、優れたアウトカムとコスト削減をもたらす可能性が高い。これらの知見は、冒頭で述べたプライマリ・ケアにおけるパートタイム診療の増加傾向についても、一定の安心感を与えるものである。
患者の観点からは、患者は自分のFPに一貫して診てもらい、それができない場合は同僚医師に一貫して診てもらうことが最善の方法であることが示唆された。関係の継続性は、世界の一部でFPによって高く評価されていることが示されているが、調査した患者コホートによって異なる。人口が増加する中、FPの供給は限られており、その分布も最適とはいえないため、すべてのカナダ人がこのようなFPとの関係を利用できるようにすることは、現時点では不可能である。しかし、本研究の結果は、診療所の継続性も患者の健康にとって価値があることを示すものである。
今後の研究では、上記の中間レベルのグループケアの効果に加え、クリニックで診療するすべてのFPが担当する患者数、パートタイムFPとフルタイムFPの人数と組み合わせ、クリニックの立地、クリニックチームによる患者のケア期間などの要因を検討する予定である。
われわれの研究にはいくつかの限界がある。KPC指標は、患者がFPやプライマリ・ケア診療所を受診した回数が異なるという事実を考慮していない。われわれはこの欠点に対処するため、3年間のウィンドウの中で3回以上受診した患者のみを対象とし、総受診回数をモデルに組み込んだ。KPC指数は、患者・医師関係の影響や性質、その関係の長さ(よりよいコミュニケーション、信頼関係の構築、患者の健康アウトカムの改善と関連している)を考慮していない。本研究の横断的デザインは、このような状況において患者や臨床医の無作為化を欠くという固有のリスクをもたらす。また、入院という転帰と患者の複雑性という独立変数(CRG)との間には、いくつかの交絡の可能性がある。理想的には、ランダム化比較試験でこれらの問題を解決することである。しかし、それは非常に高価であり、必要な規模での実施も現実的ではなく、少なくともカナダでは倫理的に許されない可能性が高い。明確な関連を証明することはできても、因果関係を証明することはできない。
さらに,モデル内の共変量として,診療所で働くFPの数を詳しく調査しなかった.また、各FPの勤務パターンの背景を明らかにするために、週や季節/年ごとの勤務パターンも調査していない。我々のデータからは、患者へのアクセスを維持するためにFPのロカム・カバレッジ(カナダでは一般的な慣行)が行われているかどうかを明確に特定することはできなかった。われわれのデータでは、例えばスポーツ医学や中毒医学のような特定のタイプの集中診療を完全に除外することはできなかったが、これらは比較的少数であり、われわれの結果に影響を与える可能性は低い。

【結論】
最良のヘルスケアアウトカム(ED受診と入院で測定)は、常に主治医を受診するか、主治医が不在の場合に診療所の同僚医師を受診することと関連している。部分的な診療所との継続性の効果は複雑なようであり、さらなる研究が必要である。これらの結果は、パートタイム診療やグループ診療にとっては安心材料となり、プライマリ・ケア従事者の政策立案者にとっては指針となる。

【開催日】2024年6月5日

ChatGPT vs 医師:SNSに投稿された患者の質問に対するコメントの比較

―文献名―
Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum
J.W.Ayers et al., JAMA Intern Med. 2023;183(6):589-596. doi:10.1001/jamainternmed.2023.1838

―要約―
Introduction:
・COVID-19流行下でVirtual careの導入が早まり、患者からの電子メッセージは1.6倍に増加した。それに伴い医師の負担が増加、燃え尽き症候群のリスクも向上すると考えられる
・医師と患者の電子メッセージでのやり取りの負担を減らす目的で、AIチャットボットの活用は期待されている
・今回、2022年11月にリリースされたAIチャットボットアシスタント(ChatGPT)を用いて、患者の質問に対する共感的で高品質な回答の能力を評価した

Method:
・この横断的研究では、公開されたソーシャルメディアフォーラム(Redditのr/AskDocs)からの質問データベースを使用し、2022年10月に医師が回答した195の質問を無作為に抽出
・一人の医師が複数回回答した場合は、最初の回答のみを考慮したが、その後の医師の回答を除外するか含めるかの判断にかかわらず、結果はほぼ同じであった
・チャットボットの回答は、2022年12月22日と23日に新しいセッションで元の質問を入力することで生成され、元の質問と匿名化されランダムに並べられた医師とチャットボットの回答は3回にわたり評価された。
・評価者は小児科、老年科、内科、腫瘍科、感染症科、 および予防医学に従事する免許を持つ医療専門家のチ
ーム
・評価は、「どの回答がより良かったか」の選択と「提供された情報の質」(非常に悪い、悪い、許容範囲、良い、非常に良い)、「提供された共感やベッドサイド・マナー」(共感できない、少し共感できる、適度に共感できる、共感できる、非常に共感できる)の評価を含んでいた。評価は1~5の5段階で行われ、結果はチャットボットと医師で比較された。

<統計学的手法>
・私たちは、調査した各交換について評価者間でスコアを平均化する、群衆(またはアンサンブル)スコアリング戦略に依存した
・医師とチャットボットの回答の単語数を比較し、チャットボットが好まれた回答の割合を報告した。両側t検定を用いて、医師の回答とチャットボットの回答の平均品質と共感スコアを比較した。さらに、適切でないなどの重要な閾値を上回ったり下回ったりする回答の割合を比較し、チャットボットと医師の回答を比較して有病比を計算した
・また、質と共感のスコア間のピアソン相関も報告した。
・臨床での患者の質問はオンラインフォーラムに投稿されたものよりも長いかもしれないと仮定して、我々はまた、医師が作成した長い返信(中央値または75パーセンタイル以上の長さのものを含む)にデータをサブセットすることで、評価者の嗜好やチャットボットの回答に対する質や共感の評価がどの程度変化するかを評価した。

Result:
・195の質問と回答のうち、評価者は585の評価(195×3)の78.6%(95%CI、75.0%-81.8%)で医師の回答よりもチャットボットの回答を好んだ。
・医師の回答の平均値(IQR)はチャットボットの回答よりも有意に短かった(52 [17-62] words vs 211 [168-245] words; t =25.4;P < 0.001)。 ・チャットボットの回答は医師の回答よりも有意に質が高いと評価された(t = 13.3; P < .001)。例えば、「良い」または「非常に良い」と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(チャットボット:78.5%、95%CI、72.3%-84.1%;医師:22.1%、95%CI、16.4%-28.2%)。これは、チャットボットの良質または非常に良質な回答の有病率が3.6倍高いことに相当する ・チャットボットの回答はまた、医師の回答よりも有意に共感的と評価された(t =18.9; P < 0.001)。共感的または非常に共感的(4)と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(医師: 4.6%, 95% CI, 2.1%-7.7%; chatbot: 45.1%、95% CI、 38.5%-51.8%; 医師は 4.6%、95% CI、2.1%-7.7%)。これは、チャットボットの方が共感的または非常に共感的な回答の有病率が9.8倍高かったことを示している。

Discussion

・SNSの質問を用いているので、臨床現場における医師患者間のやりとりを十分に反映していない。特に、今回は単回の返答のみを扱っているが、本来臨床現場では複数回のやりとりを通じて医師患者関係を築いていくものである
・医師の回答とChatbotの回答の相乗効果については検討できていない
・臨床上でよくあるより詳細なやり取り(予約やリフィル処方、特定の検査結果の説明、個別の治療プラン、予後、等)については評価できていない
・質や共感性の評価方法はこれまでに確立されたものではない
・本研究の評価者は、回答の出所や初期結果について盲検化されていたにもかかわらず、共著者でもあったため、評価に偏りがあった可能性がある
・チャットボットの回答の長さが、より大きな共感と誤って関連づけられた可能性がある
・評価者は、医師またはチャットボットの回答の正確さや捏造された情報について、独立した具体的な評価を行わなかった

【開催日】2024年1月10日(水)

患者協働

―文献名―
Julia James. Health Policy Brief: Health Affairs. FEBRUARY 14, 2013

―要約―

何が課題か?
患者がより積極的に医療に関与することで、より良い健康アウトカムが得られ、より少ないコストで済むことを示すエビデンスが増えてきている。その結果、多くの公的・私的医療機関は、患者をより積極的に参加させるための戦略を採用している。例えば、自分の状態について患者を教育し、自分のケアに関する意思決定に患者をより全面的に参加させるなどである。
「患者の活性化」(Patient activation)とは、患者の知識、 技能、能力、自己の健康やケアを管理する意欲のことである。「患者協働」は、より広い概念であり、患者の活性化と、活性化を高め、予防的ケアを受けたり定期的に運動したりするような、患者の積極的な行動を促進するようにデザインされた相互介入を組み合わせたものである 。患者参加は、健康アウトカムの改善、患者ケアの向上、コスト削減 という “3つの目標 “を達成するための戦略のひとつである。このHealth Policy Briefは、Health Affairs 誌2013年2月号に掲載された患者参加に関する主要な調査結果をまとめたものである。

背景
現代の医療は複雑であり、多くの患者は基本的な医療情報やサービスでさえ、入手、処理、伝達、理解するのに苦労している。多くの患者は、ヘルスリテラシーが欠落している。しかも、米国の医療制度は患者の希望やニーズに無関心に見えることが多い。多くの医療従事者は、患者が自らのケアや治療について最善の決断を下すために必要な情報を提供できていない。また、患者が詳細な情報を得たとしても、圧倒されたり、自分の選択に自信が持てなかったりすることもある。ヘルスリテラシーの低い患者は、自分自身のケア方法に関する指示に従うことや、薬の服用などの治療レジメンを守ることが困難である。
このような問題を認識し、2001年に出された医学研究所の報告書「Crossing the Quality Chasm:21世紀の新しい医療システム)は、”患者中心”の医療システムを実現するための改革を求めた。この報告書では、”患者個人の嗜好、ニーズ、価値観を尊重し、それに応える医療を提供し、患者の価値観がすべての臨床上の決定を導くようにする”システムを構想している。この認識から、一部ではあるが、患者協働という分野が生まれた。
患者協働には様々な側面がある。American Institutes for Re-searchのKristin Carman氏と共著者は、患者協働を主に3つのレベルで概念化したフレームワークを提案している(図表1) 。
第一のレベルは患者への直接ケアであり、患者が病状に関する情報を得たり、患者を治療したりすることである。この協働の形により、患者と医療提供者は、医学的エビデンス、患者の好み、臨床的判断に基づいて意思決定を行うことができる。第二のレベルである組織設計とガバナンスでは、医療機関が患者のニーズに可能な限り対応できるよう、消費者の意見を求める。第3のレベルである政策立案では、公衆衛生やヘルスケアにおける政策、法律、規制について、地域や社会が下す決定に消費者が関与する。
Carmanと共著者らが述べた第一レベルの関与に合致する戦略のひとつは、共有意思決定である。まず、医療提供者と患者は意思決定が必要であることを認識しなければならない。次に、利用可能な最良のエビデンスを手に入れ、理解することである。最後に、患者の嗜好を治療の決定に取り入れることである。
患者の活性化:多くの研究で、”活性化”された患者、すなわち、自分の健康や医療を管理するスキル、能力、意欲を持つ患者は、活性化されていない患者と比較して、より良い健康アウトカムを、より低いコストで経験することが示されている。オレゴン大学のジュディス・ヒバード(Judith Hibbard)氏は、患者のエンゲージメントのレベルを定量化するために、”患者活性化指標”を開発した。Hibbard氏と共同研究者らは、ミネソタ州の大規模医療提供システムであるFairview Health Ser-vicesにおいて、患者の活性化スコアと医療費との関係を調査した。30,000人以上の患者を分析した結果、活性化スコアが最も低い患者、すなわち、自分の健康管理に積極的に関与するスキルや自信が最も低い患者は、健康状態やその他の要因で調整した後でも、活性化レベルが最も高い患者より平均8〜21%高い医療費がかかることがわかった(図表2)。そして、患者の活性化スコアは医療費の有意な予測因子であることが示された。
より広範な患者参加
Carmanと共著者たちが述べている第2、第3のレベルのエンゲージメントと一貫しているのは、医療機関が患者のニーズや嗜好を満たすように組織化し、その嗜好がより広範な対応を形成するのに役立つようなプログラムである。例えば、Conversation ProjectとConversation Ready Projectは、終末期ケアに関する患者の態度や選択肢を引き出し、医療者がその選択肢に沿ったケアを提供できるようにするための2つの取り組みである。

何が問題なのか?
研究者たちは、効果的な患者エンゲージメントと活性化戦略を実行するために克服しなければならない多くの共通要因や障害を明らかにしてきた。患者の性格や性向に起因するものもあれば、医療提供者の性格や性向に起因するものもある。
患者を巻き込む要因:患者が効果的に共同意思決定に参加するためには、ある程度のヘルスリテラシーが必要である。
多様な背景:具体的には、文化的な違い、性別、年齢、教育などの要因によって、患者の関与の度合いが左右されるという。その結果、多様な文化的背景や社会経済的地位にある患者を効果的に関与させるためには、臨床医や医療提供システムの側に、言語スキルや宗教的信念に対する認識や理解など、特定の能力が要求される可能性がある。
認知の問題:ロバート・ニースとエクスプレス・スクリプ ツの共同研究者は、人間の意思決定能力や注意力を維持する能力には限界があることはよく知られており、それが患者との関わりの障壁になっていると指摘している。
コストを考えることへの嫌悪:特に患者を理解させるのが難しいと思われるのが、医療に関する意思決定においてコストを考慮することである。
医療提供者が関与する要因:Health Af-fairs誌2013年2月号で繰り返し取り上げられているテーマは、患者協働戦略を実施するためには、医療現場の文化や運営を大きく変える必要があるということである。時間的制約、医療従事者のトレーニング不足、インセンティブの欠如、情報システムの欠点など、多くの障壁が研究によって指摘されている。臨床医が第一の障壁として最も頻繁に指摘したのは時間的制約であった。

政策的意味合いは何か?
連邦や州の政策立案者は、医療費を削減し、質を向上させるための戦略として、患者協働を促している。

次の課題は何か?
患者協働型医療が重要であることは、これまでにも証明されているが、患者協働型医療のベストプラクティスを決定するため、また患者協働型医療とコスト削減の関係をより完全に実証するためには、さらなる研究が必要であるというのが、この分野の専門家の意見である。その一方で、医療機関に患者協働に対する責任を負わせるために、かなりの努力が続けられている。
例えば、全米医療質保証委員会(National Committee for Quality Assurance)は、医療計画や医療機関が提供するケアの質を追跡調査する非営利団体であるが、患者が自分の健康やケアにどれだけ積極的に関与しているかを判断するために、様々な評価を義務づけている。例えば、患者中心の医療施設(patient-centered medical home)の要件を満たしていると認定されたい医療機関は、臨床医が患者の意思決定に関与しているか、あるいは患者が病状を管理するためのサポートを提供しているかどうかを問う患者調査を実施しなければならない。しかし、医療機関が患者にどのように、またどの程度関与しているかを測定し、個人の健康維持・増進の可能性をフルに発揮させるために、さらに多くのことができるはずだという点では、広く意見が一致している。

【開催日】2023年12月13日(水)

AIによる呼吸器症状を呈する患者のトリアージは患者のアウトカムを改善する

-文献名-
Steindor E, et al. Triaging Patients With Artificial Intelligence for Respiratory Symptoms in Primary Care to Improve Patient Outcomes: A Retrospective Diagnostic Accuracy Study. The Annals of Family Medicine. 2023; 21(3): 240-248.

-要約-
【Introductionと目的】
総合診療医/家庭医は、より多くの患者、併存疾患、要望を抱え、診断検査のオーダーも大幅に増加している。一般開業医を訪れる患者の約20%は自己解決型の症状で、患者の最大72%は急性呼吸器症状である。診断検査の過剰使用や誤用は、プライマリケアにおけるよく知られた問題であり、偶発的な所見を増加させる。同じことが抗生物質の処方、 特に呼吸器感染症に適用され、耐性菌の増加につながる。臨床資源の誤用の原因は多岐にわたるが、患者の要求、人間の持つバイアス、時間の圧力が主要なものである。機械学習モデル(MLM)は、複数の臨床上のタスクにおいて医師と同等かそれ以上の能力を持つと考えられている。MLMを用いた患者のトリアージは、医師によるトリアージと同等と報告されている。ガイドラインやスコアリングシステムは診断と治療を標準化し、コスト削減とケアの質向上に資するのだが、十分利用されていない。ガイドラインの適用性、利便性、時間不足が理由として挙げられる。
本研究の目的は、呼吸器症状を持つ患者の症状や徴候(臨床的特徴)について、来院前のトリアージを模倣するため患者に質問可能な要素のみを使用することにより患者トリアージMLMを訓練することである。
このMLMは、呼吸器症状トリアージモデル(RSTM)と呼ばれ、スコアに基づいて患者を10のリスクグループ(グループ1から10までリスクが高くなる)に分類する。医療現場におけるMLMのパフォーマンス評価は複雑であり、どのベンチマークを使用すべきかはしばしば不明確である。多くの報告では、人間の偏見やエラーの影響を受ける医師の診断をベンチマークとしてMLMを評価している。RSTMを複数の患者のアウトカムをベンチマークとして評価することはより良いパフォーマンス指標となる可能性が高いが、この方法でMLMトリアージのパフォーマンスを検証した報告はない。
【方法】
アイスランド・レイキャビク地域のすべてのプライマリケアクリニックを対象とした。7つのICD10コード(J00、J10、JII、J15、J20、J44、J45)のうち1つの診断を受けた患者のカルテから臨床テキストノート(CTN)※を抽出した。23819名の患者の44007のカルテ記録を条件に合致した2000のCTNに絞り込み1500CTNをMLMの訓練に、500のCTN(testing set1)とこれらの記録に含まれていなかった664のインフルエンザのCTN(testing set2
)をアウトカムの計測に用いた。続いて、下気道感染症の有無を予測しトリアージすることを目的に患者がみずから応えられる受診前の臨床情報のみを用いて、MLMを訓練した。このMLMは患者をスコアリングし10個のリスクグループ(値が高いほどリスクが高い)に分類し、各グループのアウトカムを分析した(スコア1〜5をlow risk、6〜10をhigh riskグループとした)。
臨床テキストノート(CTN)とは、患者の症状や徴候に対する医師の解釈、診察中に行われた臨床決定の理由、取られた行動(画像紹介、処方箋の作成など)を記録した文書である。)
各リスクグループについて、C反応性タンパク質(CRP)の平均値、ICD-10コードの分布、7日以内にプライマリケアと救急で再評価された患者の割合、胸部レントゲン撮影となった患者の割合、胸部レントゲンにおける肺炎の兆候と偶発腫瘍所見、抗生物質の処方を受けた患者の割合をアウトカムとして検討した。
95%CIは、各アウトカムの値をソートし2.5%および97.5%のパーセンタイルを計算することで算出した。二値変数のP値の算出には両側フィッシャーの正確検定を、連続変数のP値の算出には両側マン・ホイットニーのU検定を使用した。P<.05を有意とみなした。
【結果】
それぞれのtest setの特性はTable1。
リスクグループ1~5は6~10と比較して若年者が多く(本文中Figure2-4)、CRP値、プライマリ・ケアおよび救急医療の受診率、抗生物質の処方率、胸部X線(CXR)の実施、実施されたCXRで肺炎の所見を認めたものが少なかった。リスクグループ1〜5ではCXR上の肺炎の所見も医師による肺炎の診断も0件であった(Table2)。
【ディスカッション】
この大規模な後方視的研究により医療機関受診前のデータ(症状等)を用いたプライマリ・ケアにおけるMLMによる急性の呼吸器症状を訴える患者のトリアージの結果が示された。MLMによりlow riskとされた5グループではレントゲン上の肺炎の所見を示したものも、肺炎の診断となったものもいなかったことは特筆すべき点である。インフルエンザ患者のみを集めた(training setとは異なる患者層であった)test set2においても同様の結果が得られた。
RSTMが実臨床の現場で同様のパフォーマンスを示すことができれば、医療機関を受診する前の段階で患者をトリアージするためのWebベースのツールとなりうる。肺炎を見逃すことなく不要なレントゲン撮影を減らす可能性がある。今回のデータではlow risk患者にも抗菌薬が処方されていたが、こういったlow risk groupではトリアージにより抗菌薬の処方を控えることで処方の質が向上する可能性もある。
本研究は後方視的研究手法の限界やバイアスがあり、前方視的に妥当性が検証されるべきである。今回トレーニングと解析に用いたCTNは医師が患者の症状や所見を記録したものであり、ヒューマンエラーやバイアスが含まれる可能性がある。直接患者からデータを得ることでより質の高い訓練を行いうる。

【開催日】2023年6月7日(水)

家庭医療学研究についての非公式カリキュラムと学生の認識がキャリア選択に与える関連について

―文献名―
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice
Beinhoff P, Prunuske J, Phillips JP, et al.
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice. [published online ahead of print February 13, 2023]. Fam Med

―要約-
背景
米国はプライマリ・ケア医の不足に直面しており、2034年までに17800~48000人のプライマリケア医が不足すると予測されているが、マッチングの専攻医枠を拡大しても1/3ほどしか埋まっていない。正規のカリキュラムとキャリア選択の創刊についての研究はいくつかあるが、研究環境などの学習環境や学生の認識との研究は少ない。今回、家庭医療に対する学生の認識やその環境が学生の家庭医療キャリアの選択に与える影響について調査した多施設共同研究を行い、医学生が家庭医を目指すことを決定する理由を明らかにし、今後の不足に対処するための取り組みに役立てたい。
方法
家庭医療に対する学生の態度を評価するために開発され改良された14項目の検証済み質問票であるFamily Medicine Attitudes Questionnaire(FMAQ:Table2)に対する医学生の回答を、米国の16医学部で収集され、各大学の家庭医療に進む卒業生の割合と比較した。
※ FMAQについては以下を参照
※ https://journals.stfm.org/media/2378/phillips-2018-0409.pdf
※ 14項目の質問票は、Cronbach αが0.767。総スコアは家庭医療分野の選択と相関があった(P<.001)。質問票のスコアが56以上であれば、家庭医療に進む学生を特定するのに78.1%の感度と65.3%の特異性。回帰分析で質問票スコアは、家庭医療を選択する独立した予測因子であった(オッズ比1.289。信頼区間1.223-1.347)。 家庭医療に対する学生の意識と卒業生のキャリア選択との関係を探るため、各医療機関のFMAQスコアの合計を、各医療機関の卒業生の家庭医療を選択する割合と関連させて分析した。学生個人のレベルではなく、教育機関レベルで探り機関毎で測定した。またFMAQの下位尺度である、家庭医の仕事の楽しさ、家庭医で十分な収入が得られるか、仕事量のコントロールなどを反映した質問から採点された。マッチング結果と家庭医のライフスタイル、研究、重要性、不足に対する学生の態度など、特定のFMAQデータセットサブセット領域との比較について、二次的なピアソン相関係数分析を実施した。

結果
FMAQスコア(学生の認識)の学校別平均は55.7(SD 2.5)、範囲は51.5-59.9。家庭医のマッチング率の平均は12.0%(SD 4.6%)、範囲は2.8~22.3%で、2,844人の学生のうち1,189人がアンケートに回答し、全体の回答率は41.8%となりました。

図1は、16校のFMAQ平均スコア(x軸)と家庭医のマッチング比率(y軸)をグラフ化した散布図である。この散布図から、1校が外れ値であると判断され、さらなる分析から除外された。この学校は、その後、もともとデータに含まれていた唯一のオステオパシー学校であることが判明した。

表3は、FMAQサブスケールのドメインと各校の家庭医へのマッチング比率との相関を示したものである。各サブスケールドメインのピアソン係数は以下の通りである。それぞれ、ライフスタイルが0.539、研究が0.812、重要性が0.607、不足が0.644であった。家庭医療学研究に対する学生の態度は、FMAQの総合得点や他の下位項目と比較して、教育機関からの家庭医マッチ率の割合と最も強く相関している変数であった。家庭医療研究に対する学生の肯定的な認識は、家庭医療レジデンシーへマッチングと最も強く相関する要因であった。

ディスカッション
医学部全体での学生の家庭医療に対する考え方が、その医学部の学生のうち家庭医療レジデントを目指す学生の割合と相関していることを示唆しています。家庭医療の経験のみならず研究に積極的に触れることは、学生の認識に変化をあたえる可能性がある。
AAMCのデータによると、卒業時に家庭医療を選択した学生の約半数は、医学部の初期に別の専門分野を選択していたと報告しており、学生への介入することの意義を強調している。また家庭医療研究に対してポジティブな印象を与える大学は、家庭医療のキャリア選択を支援する環境作りに影響力を持つ可能性がある。さらに、優れた研究実績を持つ家庭医療学教室は、教育やリーダーシップなど他の面でも優れている可能性があり、それらが一体となって学生にとって魅力的な学問分野としての評判を形成している可能性がある。
家庭医療研究に対する認識と家庭医キャリア選択の間に正の相関があることは、家庭医療研究の質と量が修正可能な特性であるため、家庭医療科にとって重要な発見である。家庭医療研究者を奨励・支援し、家庭医療科の学生に高品質でインパクトのある研究に触れさせることは、プライマリ・ケア人材を強化するための重要な戦略であると思われる。さらに、医学生が家庭医学研究プロジェクトに参加する機会を充実させることや、臨床実習で家庭医の研究を強調することも、診療科の戦略として考えられる。これまでの研究で、家庭医療学研究の最も重要なテーマは、全人的、地域ケア、ライフコース、集団への健康活動であるとされている。これらの研究テーマを医学生の臨床実習に組み込むだけでなく、家庭医や診療科の研究活動やSDH活動を紹介すれば、家庭医療学研究の価値を伝える有効な手段になるであろう。
結論
家庭医療と家庭医療学研究に対する学生の認識や接点を強化することは、家庭医なる卒業生数の増加を目指し、家庭医療学講座や医学部での関わりに有効な機会を生み出す可能性がある。

【開催日】2023年3月8日(水)

薬物の使用過多による頭痛(MOH, Medication Overuse Headache)に対する 3 つの治療戦略 : 無作為化臨床試験

-文献名-
Carlsen LN, Munksgaard SB, Nielsen M, et al. Comparison of 3 Treatment Strategies for Medication
Overuse Headache: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2020;77(9):1069–1078.

-要約-
Introduction:世界では、6,000 万人以上の人々が MOH に罹患している。(担当者注:一般人口 の約1−
2%と言 わ れている。 )個人にとって大きな負担となり、社会経済的な問題を引き起こす。
世界疾病負担調査で、障 害による生命喪失年数の上位 20 疾患に複数回取り上げられている。頭痛の頻度が増加し、短期間の薬物乱用が 進み、治療が困難な慢性頭痛を引き起こすことが特徴です。
(担当者注:病態生理は不明。遺伝素因 や 5-HT 1B/1D 受容体の感受性か。
片頭痛患者が MOH に進展することが多く、群発頭痛患者や 毎日のように消炎鎮痛剤を服用する RA 患者では MOH は多くない。)
薬の使いすぎは、既存の頭痛の治療が不十分であることの結果で あるかもしれません。複数の治療戦略が考えられていますが、議論の余地があります。

目的:MOH の 3 つの治療戦略を比較する
 1. 始めから休薬と予防を行う「休薬+予防戦略」
 2. 休薬はせず予防だけの 「予防戦略」
 3. 休薬の 2 ヶ月後に、予防治療を任意に行う 「休薬戦略」
 (デンマークの GL で、休薬は2ヶ 月間の 鎮痛剤の完全休止と定義つけられている。)

Method:
対象:
デンマーク頭痛センター(DHC)の 3 次医療に紹介された国際頭痛分類第 3 版(ベータ版)による MOH の診断を受 けた患者。頭痛の日数と薬の使用は、詳細な病歴と少なくとも 1 ヶ月分のデータがある頭痛カレンダーから確認した。
組入:
頭痛カレンダーを記入できること、18 歳以上であること、ICHD-3βの基準に従って、既存の緊張型頭痛および片頭痛(エピソード型および慢性型を含む)に起因する MOH であること、
薬の過剰使用のタイプ(オピオイドやバルビツール酸を毎日またはほぼ毎日使用しない)、個人の資源、モチベーションに基づいて外来治療に適格であるとみなされた。
除外:
重度の身体疾患(例:重度の疼痛の併存、コントロール不能な糖尿病、重篤な心臓病、癌)、精神疾患 (抗うつ薬の投与、精神科医による継続的治療、精神科クリニックでの治療)、
アルコール・薬物中毒がある場合、妊 娠・授乳中、12 ヶ月以内に妊娠予定の場合、病歴について情報を提供できない場合(言語の壁を含む)、他の頭痛 予防治療を行っている場合

研究デザイン
プロトコルは、Sup. 1 に記載。前向き縦断的オープンラベル無作為化臨床試験(RCT)で、患者は 1:1:1 で、休 薬+予防群、予防群、休薬群に無作為に割り付けられた。
3 つの戦略はすべて外来治療であった。患者は、ベース ラインと 2 カ月、6 カ月に面会し、治療開始後 1 カ月と 4 カ月に電話でフォローアップされた。
休薬アプローチ
休薬+予防群および休薬群は、訓練を受けた看護師から休薬と MOH に関する個別アドバイスを受け、その後、2 ヶ月間鎮痛剤を完全に中止した(Sup.2 の表 1)。
予防群は、プロジェクトの説明に関連して休薬について簡単な説明を受けただけで、短期間の薬物使用の制限は求められなかった(Sup.2 の表 1)。
休薬中はレスキュー薬(レボメプロ マジン(ヒルナミン®)または塩酸プロメタジン(ヒベルナ®)、最大用量 75 mg/日)と制吐薬(塩酸メトクロプラミドまたはドンペリドン錠、推奨用量 10 mg)が全例に提供された。
休薬後、休薬+予防投与群及び休薬群では、月 9 日(単純鎮痛剤のみでは月 14 日)の範囲で短期間の投薬が可能となり、休薬群には予防投与が行われた。
予防的アプローチ
休薬+予防群および予防群には、デンマークのガイドラインに従って選択された特定の予防治療に関する情報が提供された(Sup.2 の表 1)。
CGRP 関連抗体は、本試験の時点では入手できなかった。
エンドポイント
主要評価項目は、3 つの治療戦略におけるベースラインから 6 ヶ月後までの 1 ヶ 月あたりの頭痛日数の変化 。
副次的評価項目は、3 つの治療法について以下の項目を比較した。(1)ベースラインから 1、2、4 ヵ月後までの 1ヵ月あたりの頭痛日数の変化(2)ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの1ヵ月あたりの片頭痛日数の変化(3)ベースラ インから 1、2、4、6 ヵ月後までの 1 ヵ月あたりの短期薬剤使用日数の変化(4)0 から 90 までの 1 ヵ月あたりの総頭 痛強度得点の変化 (5)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に 1 ヶ月あたりの頭痛日数が 50%以上減少した患者数 (6)2 ヶ月後および 6 ヶ月後にエピソード性頭痛に戻った患者数 (7)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に薬の使いすぎで、6 ヶ月後にMOH の治癒が確認された患者数

Results:
対象者
2016 年 10 月 25 日から 2018 年 11 月 19 日までの MOH 患者は 483 人であった。
これらの患者のうち、195 人 が包括基準を満たし、75 人が参加を拒否し、120 人が連続して試験に組み入れられた(図 1)。
40 名の患者が各 治療法に無作為に割り付けられ、102 名が 6 ヶ月間の追跡調査を完了した(平均[SD]年齢:43.9[11.8] 歳、
女性 81 名[79.4]、男性 21 名[20.6])、合計 15%の脱落率(休薬+予防群:40 名中 9 名[22.5]、予防群:40 名中 5 名[12.5]、休薬群:40 名中 4 名[10.0])に相当した。ベースラインの特徴 は 3 群間で同様であった(表 1)。


月別頭痛日数の変化(主要評価項目)
1 ヶ月の頭痛日数は、休薬+予防投与群で 12.3 日(95%CI、9.3-15.3)、予防投与群で 9.9 日(95%CI、7.2-
12.6)、休薬群で 8.5 日(95%CI、5.6-11.5)減少しました。6 ヵ月後(P = 0.20)、あるいはその他の時点でも、3 群 間に差はなかった(図 2A)。
月間片頭痛日数、短期間の薬物使用日数、頭痛の痛みの強さの変化(副次評価項目)
図 2B〜D は、ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの片頭痛のある日数、短期間薬を使用した日数、頭痛の痛 みの強さの平均減少量を示す。1 か月あたりの片頭痛日数は,休薬+予防群で 5.0 日(95%CI,1.4-8.6),予 防群で 4.1 日(95%CI,1.1-7.1),休薬群で 3.3 日(95%CI, 0.9-5.7 )短縮した(p = 0.74)。

1ヵ月後、1ヵ月あたりの短期薬物使用日数は、休薬+予防群で 21.9 日(95%CI、19.5-24.3)、予防群で 8.6日(95%CI、6.6-10.6)、休薬群で 22.0 日(95%CI、19.6-24.4)減少していた。
痛みの強さのスコアは,休薬+予防群で 28.1(95% CI,21.1-35.1), 予防群で 23.7(95% CI,17.1- 30.2), 休薬群で 20.8(95% CI,12.2-29.4) に減少した(P = 0.42).

治療効果、エピソード性頭痛の寛解、および MOH の治癒
表 3 に示す。6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 23 人(74.2%)がエピソード性頭痛に戻ったのに対し、予防群 では 35 人中 21 人(60.0%)、休薬群では 36 人中 15 人(41.7%)だった(P = 0.03)。エピソード性頭痛への回帰の RR は 1.8(95%CI, 1.1-2.8; P = .03)であり、休薬+予防群では休薬群と比較して、エピソード性頭痛に回帰する 確率が 80%高いことに相当した。
6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 30 人(96.8%)が MOH を治癒したのに対し、予防群では 35 人中 26 人 (74.3%)、休薬群では 36 人中 32 人(88.9%)でした(P = 0.03)。これは、休薬+予防群では予防群に比べて MOH が治癒する確率が 30%(RR、1.3;95%CI、1.1-1.6)高いことに相当する(P = 0.03)。

Discussion:
何十年もの間、MOH 患者に対する最適な治療方針が議論されてきた。いくつかの研究で休薬治療の効果が推定され、MOH に対する休薬と予防治療の組み合わせが多国籍多施設共同研究(COMOESTAS)で検証されました。
本研究は、議論されている 3 つの治療戦略を直接比較し、MOH 患者をどのように治療すべきかという臨床的な 問題に取り組んだ、我々の知る限り初の試みである。頻回頭痛による MOH の既往のある患者さんには、新たな慢 性頭痛の発症や MOH の再発を防ぐために有効な薬物療法が必要です。
長所と短所
休薬治療は盲検化が不可能であり、本研究のデザインは、この臨床的問題を解決するために最も実現可能で実用 的なものであった。本研究の大きな強みは、臨床的妥当性が高いことである。この結果は、ほとんどの MOH 患者に 容易に適用でき、3 つの治療戦略はすべて外来プログラムであり、プライマリーケアやセカンダリーケアでも実行可能であ ると考えられる。研究対象者の 75%以上が、単純な鎮痛剤という 1 種類の薬の過剰使用であった。
MOH にはどの治療が最も効果的か?
患者 120 人を対象としたこの無作為化臨床試験では、休薬と予防薬による治療が最も効果的で、1 ヶ月あたりの 頭痛日数が平均 12.3 日減少しました。薬物乱用頭痛の治療には、休薬開始時から休薬と予防薬を使用すること が推奨されます。

【開催日】2023年3月1日(水)

COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア属性の入院への影響

―文献名―
Takuya Aoki, et al. Impact of Primary Care Attributes on Hospitalization During the COVID-19 Pandemic: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. Ann Fam Med. 2023 Jan-Feb;21(1):27-32.
doi: 10.1370/afm.2894.

―要約-
【背景】
死亡率、合併症、医療費の増加に関連する入院の予防は、プライマリケアの重要な役割である。COVID-19のパンデミック以前の研究では、質の高いプライマリ・ケアの本質的な属性と入院の減少との関連性が検討されている。例えば、システマティックレビューでは、プライマリ・ケア医との継続性が高ければ入院の総数が減少すると報告されている。他の研究では、プライマリ・ケアへのアクセスが良く、より包括的であれば入院の減少につながることが示されている。パンデミックの間、プライマリケア提供者は、通常の医療に加えて、患者のトリアージ、COVID-19の治療とワクチン接種を支援するためにリソースを割いた。さらに、米国や日本で行われた研究では、パンデミック時に外来受診数が減少し、遠隔医療による受診が増加したことが一貫して報告されている。その結果、予防サービスの利用率の低下、慢性疾患の診断の減少、慢性疾患のコントロールの悪化が報告されている。日本では、他の国と同様、パンデミック時にプライマリ・ケア医が通常の医療と並行してCOVID-19の初期評価とワクチン接種を行った。日本のプライマリ・ケアサービスは、地域の診療所と中小病院の外来で行われている。日本プライマリ・ケア連合学会は2010年から家庭医を認定しており、日本専門医機構は2018年から新たにプライマリ・ケア専門医の認定制度を開始した。我々のチームは、質の評価、多疾病、在宅医療、患者の複雑性などに関するプライマリ・ケア研究を行ってきた東京慈恵会医科大学臨床疫学教室の教員と卒業生で構成されている。パンデミック時には、予防医療、慢性疾患管理、一般的な急性疾患への早期対応に多くの障害があるため、プライマリ・ケアの特性がCOVID-19などによる入院の減少に貢献したかどうかは不明である。そこで、本研究では、日本の成人人口の代表サンプルを用いて、COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア中核属性と総入院数の関連性を検討することを目的とした。

【方法】
デザイン、設定、参加者
我々は、COVID-19の第4波から第6波の期間である2021年5月から2022年4月(追跡期間12カ月)に、「全国通常診療調査」と題する日本全国前向きコホート調査を実施した。2022年1月のオミクロン・ヴァイエントから始まった第6波は、日本で過去最大の規模となり、毎日9万人以上のCOVID-19の新規患者が発生しました。本調査では、日本リサーチセンターが運営する全国代表パネルを用いて、参加候補者を選定しました。このパネルは、日本の成人人口から多段階抽出法で選ばれた約7万人の住民から構成されている。このパネルから、年齢、性別、居住地域別に層別無作為抽出により40歳から75歳の参加予定者を選んだ。ベースライン調査では、参加者の普段のかかりつけの病院とプライマリ・ケア属性、健康状態、健康関連QOL、社会人口統計学的特性を評価した。ベースライン調査終了から12ヵ月後にフォローアップ調査を実施し、入院を含む医療利用について評価した。初回調査および追跡調査のデータ収集は、郵送で行われた。回答者には、調査ごとに500円の商品券を贈呈した。本研究は、東京慈恵会医科大学の機関審査委員会により承認された。

測定
プライマリ・ケア属性
JPCAT は、プライマリ・ケア属性を測定するための国際的に認知された尺度である Primary Care Assessment Tool をベースとしており、これまでの研究で、JPCAT は良好な信頼性と妥当性があることが示されている。まず、プライマリケア評価ツールの以下の項目を用いて、個人の普段のかかりつけ医を確認した。”病気になったときや健康についてアドバイスが必要なときに、いつも行くお医者さんはいますか?” 参加者は、大学病院以外で診療している医師を特定できた場合、普段のケア源を持っているとみなされた。次に、普段のかかりつけ医がいる参加者に対して、JPCATでプライマリ・ケア属性を評価した。JPCATの採点方法は、5段階のリッカート尺度(1=強く反対、2=やや反対、3=わからない、4=やや賛成、5=強く賛成)である。各項目の回答は0~4点の得点に変換され、同じ領域の項目得点の平均値を25倍して、0~100点の領域得点が算出される。JPCAT総合得点は、6つの領域得点の平均値であり、プライマリ・ケアの特性を総合的に表しており、得点が高いほど質が高いことを示している。

入院
本試験の主要評価項目は,COVID-19流行期間中の12カ月間の入院発生率であった.入院は、追跡調査項目 “過去12カ月間に、入院したことがありますか?”への回答によって決定された。参加者は2値(はい vs いいえ)で回答するよう求められた。参加者は、一次質問で「はい」と答えた場合、入院に関する次の項目に回答するよう求められた。”過去12ヶ月の間に、新型コロナウイルスに感染したために入院したことがありますか?” 参加者は、イエスかノーで答えるよう求められた。

統計解析
連続データの記述統計は平均値と標準偏差で報告された。カテゴリーデータは度数およびパーセンテージで報告した。JPCATの総得点が入院と関連しているかどうかを調べるために、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、JPCATの各ドメインスコアと転帰の関連について補助的な分析を行った。JPCATの総得点とドメインスコアを4分位に分類した。プライマリ・ケア属性と入院との関連を検討した先行研究に基づき、以下の潜在的交絡因子を選定した。つまり、年齢(連続)、性別、教育レベル(学士未満と学士以上)、慢性疾患数(連続)、EuroQol 5次元質問票(EQ-5D-5L)5段階評価による健康関連QOL(連続)である。我々は、過去の多疾病に関する文献とプライマリ・ケア集団との関連性に基づいて作成された、有効な20の慢性疾患のリストを使用した。高血圧、うつ病/不安神経症、痛みや制限をもたらす慢性運動器疾患、関節炎/関節リウマチ、骨粗鬆症、慢性呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎)、心血管疾患、心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作、胃腸障害、大腸障害、慢性肝炎、糖尿病、甲状腺障害、過去5年間の癌、腎臓病・腎不全、慢性尿路障害、認知症/アルツハイマー病、高脂血症および肥満である。すべての交絡因子は、ベースライン時に自記式質問票を用いて評価された。先行研究で用いられたサンプルサイズの計算式によると,ロジスティック回帰分析のためには変数あたりのイベント数が10以上必要である。先行研究では、日本人成人における入院の発生率は1ヶ月あたり1%と評価されている。したがって、本研究では変数数が最大9であることから、最小サンプルサイズを750と見積もったが、全国通常介護調査における他の研究のニーズを考慮して、より多くのサンプルサイズが選択された。各分析では、多重比較の調整なしで、P <.05の両側有意水準を使用した。独立変数の欠測データは、完全条件指定を用いた20のインピュテーションによる多重インピュテーションを適用して処理された。統計解析は、R, version 4.2.1 (the R Foundation)を用いて行った。

 

【結果】
参加者の特性
全国代表パネルから層別無作為抽出により40歳から75歳の1,382人が選ばれ、1,262人がベースライン評価を受けた。そのうち1,161人(92%)が追跡調査を完了した(Figure 1)。

Table 1に調査対象者のベースライン特性を示す。追跡調査を受けなかった参加者は、追跡調査を完了した参加者に比べて、年齢が若く、通常のケア提供者が少ないことを示唆する傾向が認められた。追跡調査を終了した被験者のうち,87名(7.5%)が12ヵ月間に入院した。そのうち5名(5.7%)がCOVID-19が原因で入院したと報告された。入院経験のない参加者と比較して、入院経験のある参加者は、高齢で、男性が多く、慢性疾患が多く、EQ-5D-5L得点が低く、普段のケア提供者がいる頻度が少なかった。普段のケア提供者がいる参加者では、入院した参加者は入院していない参加者に比べて、JPCATの平均総スコアと全ドメインスコアが低かった。

プライマリ・ケアと入院
Figure 2にプライマリ・ケアの総合評価(JPCAT総合得点)と入院との関連を検討した多変量ロジスティック回帰分析結果を示す。交絡因子で調整した結果、JPCAT総合得点は、通常のケアを受けていない場合と比較して、JPCAT最高四分位群では入院の減少に用量依存的な関連を示した(調整オッズ比[aOR] = 0.37; 95% CI, 0.16-0.83)。Table 2は、JPCATの領域得点と入院との関連をモデル化した多変量ロジスティック回帰分析の結果である。

Table 2には、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連を多変量ロジスティック回帰分析でモデル化した結果を示す。線量反応関係は明確ではないが、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連は、最高四分位と通常のケアなしとを比較するとすべて統計的に有意であった。

【考察】
日本人の成人人口を対象とした我々の全国前向きコホート研究により,JPCATで評価したプライマリケア全般の属性が,COVID-19パンデミック時の入院減少に関連していることが明らかになった。普段の医療が パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。本研究の結果は、COVID-19パンデミック以前の知見と一致しており、アクセス性、継続性、調整、包括性などの各プライマリケア属性が入院の減少と関連していることを示している。特に、ケアの継続性が入院を減らすことができるという強いエビデンスが存在する。例えば、ノルウェーの最近の登録ベースの観察研究では、開業医によるケアの継続性は、用量依存的に急性期入院の減少と関連していると報告されている。さらに、この研究では、用量反応関係が存在することを示す主要な地域志向との関連は、因果関係があることを示している。さらに、JPCAT のファーストコンタクト、縦断性、連携性、包括性、地域志向性を表すすべてのドメインが入院の減少に関連していた。これらの結果は、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、質の高いプライマリ・ケアの提供が総入院数の減少に寄与していることを示している。パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。地域志向は、単にプライマリケア診療所を訪れる患者だけでなく、地域住民全員の知識を通じて、疾患の認識、予防、管理を改善することができる。特にパンデミック時には、公衆衛生診療とプライマリ・ケアサービスの提供の統合が、より重要なプロセスとなる可能性がある。我々の知見の基礎となるメカニズムの一つとして、最近の全国規模の研究では、COVID19のパンデミック時に、プライマリケア全体の属性が、スクリーニング、予防接種、カウンセリングなどの予防医療の受給の増加と関連していたことが報告されている。慢性疾患の管理、メンタルヘルス、社会健康格差に関する他のメカニズムについては、さらに研究が必要である。我々の発見は、COVID-19パンデミック時およびその後の各国のプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するものである。例えば、米国科学・工学・医学アカデミーによる新しいコンセンサスレポートでは、米国は政府および民間部門による質の高いプライマリ・ケアの実施を優先させるべきであると強調されている。我々の知る限り、本研究は、パンデミック時の入院に対するプライマリ・ケアの属性の影響を報告した最初の研究である。本研究の主な強みは、日本の成人人口を代表するサンプルを用いた全国規模の研究から得られた縦断的データを使用したことであり、これにより、本研究の結果をより広い人口に一般化することができる。また、本研究のもう一つの強みは、追跡調査率が高いことである。さらに、使用した評価ツールであるJPCATは、プライマリ・ケア属性を評価するための有効で国際的に確立されたツールである。しかし、本研究にはいくつかの潜在的な限界があった。第一に、転居した参加者、調査に回答できなくなった参加者、追跡期間中に死亡した参加者のアウトカムデータがなかったことである。また、追跡調査期間中に転居した参加者は、追跡調査を完了した参加者よりも若く、入院の経験も少なかった可能性がある。また、ベースライン調査のJPCAT得点が低かったため、プライマリケア属性と入院の関係が過大評価された可能性がある。第二に、データ収集に構造化質問票を用いたが、入院や慢性疾患を特定するための自己報告データは、誤分類バイアスをもたらした可能性がある。第三に、参加者のサンプルには、進行した認知症などの疾患を持つ患者が含まれていない。最後に、我々は12ヶ月という短期間の入院を調査したが、より長期間のプライマリケア属性と入院の関連は不明である。結論として、本研究では、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、プライマリ・ケア、特に質の高いプライマリ・ケアの提供は、総入院数の減少と関連していることが明らかとなった。これらの知見は、パンデミック時およびその後にプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するのである。

【開催日】2023年2月8日(水)