レボチロキシンは80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症のQOLを改善しない

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Association Between Levothyroxine Treatment and Thyroid-Related Symptoms Among Adults Aged 80 Years and Older With Subclinical Hypothyroidism.
JAMA. 2019;322(20):1977-1986. doi:10.1001/jama.2019.17274

-要約-
Introduction:
潜在性甲状腺機能低下症の患者の一部から、便秘・精神遅滞・疲労・抑うつ症状などの症状の報告がある。また、潜在性甲状腺機能低下症は心血管疾患のリスクの増加と関連しているという報告もある。65歳以上の患者を対象とした2017年のRCTレボチロキシン治療による甲状腺関連QOLの改善は示されなかった。
しかし、レボチロキシン治療が80歳以上の高齢者の潜在性甲状腺低下症に重要な利益があるかどうかは不明であった。今回の調査では、潜在性甲状腺機能低下症に対するレボチロキシン治療と、80歳以上の高齢者のQOLの関連を決定する。

Method:
80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症が関与するデータの組み合わせ分析を計画し、2つのRCTで80歳以上の参加者のサブグループと組み合わせた。最初の試験ではオランダ・スイスで2014年5月から2017年5月、2つ目の試験はオランダ。スイス。アイルランド・イギリスで2013年4月から2018年5月の間に行われた。フォローアップは最短で12ヶ月、最長で36ヶ月追跡した。参加者はレボチロキシン(112人。最初の試験から52人、2回目の試験から60人)またはプラセボ群(139人。最初の試験から53人、2回目の試験から86人)にランダムに割り当てられた。
治験薬は、レボチロキシンナトリウムタブレットと1日1回経口摂取される対応するプラセボタブレットを使用。レボチロキシン群は1日50 µg(体重が50 kg未満の参加者または冠状動脈性心臓病の病歴がある場合は25 µg)で開始、プラセボ群は6〜8週間、一致するプラセボで開始した。レボチロキシンの投与量は、介入開始後6〜8週間、各投与量調整後6〜8週間、および目標達成のための12か月および24か月の追跡調査で測定。TSHに応じて25 µgずつ増加して調整した。

JC大西1

<除外基準>
レボチロキシン、抗甲状腺薬、アミオダロン、
リチウムの使用。
最近の甲状腺手術、放射性ヨウ素療法、NYHAclass4の心不全、認知症、最近の入院、ACS、心筋炎、終末期疾患。

JC大西2

プラセボ群で虚血性心疾患が27.3%(vs20.5%)
TSHはレボチロキシン群6.4で、プラセボ群で6.3。

Results:
プライマリアウトカムは1年間の甲状腺機能低下症状と疲労感をアンケートスコアでとった甲状腺関連のQOLとした。251人の参加者(平均年齢85歳、47%が女性)のうち、105人は最初の試験に含まれ、146人は2回目の試験で含まれた。
計212人の参加者(84%)が調査を完了。甲状腺機能低下症状スコアは12ヶ月の時点でレボチロキシン群ではベースラインの21.7から19.3に減量したのに対し、プラセボ群では19.8から17.4に減少した(グループ間調整 1.3 [95%CI、-2.7〜5.2] ; P  = .53)。疲労スコアは、レボチロキシン群のベースラインでの25.5から28.2に増加したのに対し、プラセボ群ではベースラインでの25.1から28.7に増加した(グループ間調整 −0.1 [95% CI, −4.5 to 4.3]; P = .96)。

JC大西3

12か月後の変化とは有意に関連していなかった。
・レボチロキシン治療は、ベースラインからEuroQol-5Dインデックスで測定された一般的なQOLの(レボチロキシン群:0.785→0.754、プラセボ群:0.811→0.785。-0.012 [ 95%CI、−0.063 to 0.039])。
・12か月の握力で測定した身体機能(レボチロキシン群:25.4 kg→23.4 kg、プラセボ群の24.7 kg→23.0 kg。−0.27 kg [95%CI、-1.79 to 1.25])
・BMI(0.38 [95%CI、0.08-0.68]; P  = .01)
・腹囲(1.52 cm [95 %CI、0.09-2.95]; P  = .04)

JC大西4

甲状腺特異的または全体的なQOLと有意に関連していなかった。
バーサルインデックスを用いて測定したレボチロキシン治療とADLとの有意な関連はなかった(レボチロキシン群:19.3→19.0、プラセボ群:19.4→19.1。0.09 [95%CI、-0.33〜0.52])
調査終了時に文字数字コーディングテストで測定された実行認知機能(1.24 [95%CI、-0.30〜2.78])

JC大西5

80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症における
レボチロキシン治療と甲状腺関連症状の関連の参加者のTSH値

JC大西6

レボチロキシンは、致命的または非致命的な心血管イベントの発生率の増加と関連していなかった(0.61 [95%CI、0.24-1.50])。
17か月の平均追跡期間(追跡期間中央値、13か月)中に、9人の参加者(3.6%)が死亡(1人の心血管死)。100人年あたりのイベント率は、レボチロキシン群:4.2、プラセボ群:7.64)。
全死亡率(1.39 [95%CI、0.37-5.19]、レボチロキシン群:2.99、プラセボ群:2.02)。
少なくとも1つの有害事象が、合計73人:レボチロキシン群の33人(29.5%)プラセボ群の40人(28.8%)に発生した。
有害事象は、新規発症心房細動10人(4.5%)、心不全9人(4.1%)、骨折9人 (4.1%)が含まれていた。甲状腺機能低下症は、参加者のいずれにも発生しなかった。レボチロキシン群で、最も一般的な有害事象は、脳卒中3人(2.2%)、貧血2人(1.4%)、および肺炎2人(1.4%)であった。
プラセボ群では、最も一般的な有害事象は肺炎4人(3.6%)、心不全2人(1.8%)、および呼吸不全2人(1.8%)であった。研究の終わりに、フォローアップ中に81人(32%)で治療の中止が発生したのに対し、研究の総中止は19人(8%)であった。

潜在性甲状腺機能低下症のある80歳以上の高齢者を対象として2つの臨床試験からのこの前向きに計画されたデータ分析では、プラセボと比較したレボチロキシンでの治療は、甲状腺機能低下症の疲労の改善と有意に関連していなかった。これらの調査結果は、80歳以上の高齢者における潜在性甲状腺機能低下の治療のためのレボチロキシンの日常的な投薬は支持しなかった。

Discussion:
BMIと腹囲をのぞいて有害事象または二次転帰のリスクとの関連はなかったが、比較の数が多いことから偶然によると思われる。治療群間に差はなく、偶然によると思われる。治療群間での脱落率に差はなく、レボチロキシン治療が有害事象に関連していなかったことを示唆している。今回の試験で報告された結果は、ヨーロッパと米国のガイドラインにある「潜在性甲状腺機能低下症の80歳以上の高齢者に対する治療を推奨しない」と一致している。いずれのガイドラインもTSHが10mIU/Lを超えたら治療することが推奨されている(年齢は記載されていない)。レボチロキシン治療は、甲状腺関連の症状、QOL、認知機能、身体機能に有益な影響を及ぼさないことが判明していた65歳以上の成人を対象とした試験の結果と一致しており、日常生活スコアや有害事象の増加はなかった。この研究にはいくつかの制限がある。第一に、交感神経系の負担が高いか、またはベースライン時のTSH値が高い参加者については、事前に計画されたサブグループ解析が行われていない。結果はこれらの参加者には適用されないかもしれない。第二に、明らかな甲状腺機能低下症への進行リスクが高い人を識別する可能性のある抗甲状腺抗体の状態は利用できなかった。第三に、研究集団は同種の人種であった。第四に、治療を継続しなかった参加者(32%)がおり、これが結果に偏りを与えている可能性がある。しかし、治療を中止した者の数とその理由は治療群間で同程度であった。

【開催日】2020年6月10日(水)

Time of day for taking warfarin (January 2020)/ワーファリンを服用する時間帯

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Garrison SR, Green L, Kolber MR, Korownyk CS, Olivier NM, Heran BS, Flesher ME, Allan GM. The Effect of Warfarin Administration Time on Anticoagulation Stability (INRange): A Pragmatic Randomized Controlled Trial. Annals of family medicine. 2020; vol.18, no.1:42-49.

-要約-
Introduction:
ワーファリンの安全性と有効性は、血液検査のINRの治療範囲内の時間(TTR)の割合に大きく依存する。
この戦略は、用量調整の必要性を知ってから(通常、午前中の血液検査後の午後遅くに患者に伝達される)、その用量変更が可能になるまでの時間を短縮するものである。
したがって、夜間のワーファリン使用が迅速な用量調整を意味するならば、それはより良いTTRにつながる可能性がある。
この仮説は妥当であるが、この実践を支持する証拠はなく、他の要因が最適投与時間に意味のある影響を与える可能性がある。
例えば、食事性ビタミンK(ワーファリンと相互作用する)は半減期が2.5時間と非常に短く、摂取量が変動しやすい食品(緑葉野菜)に多く含まれており、
朝に摂取することはほとんどない。ワーファリンは夕方に摂取することが一般的であるが、投与時間が重要かどうか、
また、重要であるとすればどの時間帯に摂取するのがよいかは不明である。
そこで、ワーファリンの抗凝固作用の安定性に及ぼす投与時間(朝 vs 夕方)の影響を評価するために、無作為化比較試験を実施した。
Method:
カナダ西部の54のコミュニティに勤務する236人のプライマリケア医が、ワーファリン使用患者全員に招待状を郵送した。
対象としたのは、地域に居住するワーファリン使用者(適応は問わない)で、少なくとも3ヶ月間の夜間ワーファリン使用歴があり、中止の予定がない患者であった。
参加者は、ウェブベースの割り付けにより、朝のワーファリン摂取と夕方のワーファリン摂取の継続に無作為に割り付けられた。
Rosendaal法(線形補間 ※)を用いて、無作為化後2~7ヶ月間の血液検査における国際標準化比(INR)の治療範囲内の時間(TTR)の割合を、無作為化前6ヶ月間と比較して決定した。
主要アウトカムは、目標INR範囲外の時間の割合の変化率であった(臨床的に重要な差は±20%であることを前提とした)。解析はすべてITT解析とした。
Results:
2015年3月8日から2016年9月30日までの間に、109人の参加者を朝のワーファリン使用に、108人の参加者を夜のワーファリン使用に無作為に割り付けた。

JC黒木1

JC黒木2

JC黒木3

JC黒木4

TTRは朝群で71.8%(Table1)から74.7%、夜群で72.6%(Table1)から75.6%に上昇し、前者では2.9%、後者では3.0%の変化を示した(Table2:差、-0.1%;P=0.97;差の95%CIは-6.1%から5.9%)。
治療上のINR範囲外の時間の割合の変化率の差(中央値の差のHodges-Lehmann推定を介して得られた)は4.4%(P = 0.62;差の95%CI、-17.6%~27.3%)であった。
Discussion:
本研究の参加者(およびその臨床医)が地理的に幅広いプライマリケア集団から募集されたことは強みであるが、グループ全体のベースラインTTRは、カナダのプライマリケア診療所の全国代表的なサンプル(平均67.8%)よりもわずかに高かった(平均72.2%)。主要アウトカムは、ベースラインのコントロールが優れている患者が不均衡に牽引するという点でも限界がある。しかし、TTRの絶対的変化は両群ともほぼ同じであり、文献から得られた臨床的に重要な最小差は、我々の主要アウトカム(観察変化率4.4%、臨床的に重要な最小差±20%)とTTRの絶対的変化(観察変化率-0.1%、臨床的に重要な最小差±6%)の両方のポイント推定値よりも実質的に大きいことがわかった。TTRは代替アウトカムであるという点でも限界がある。我々の研究では、臨床的イベントの違いを調査するための力はなかった。これまで、ワーファリン投与時間の影響を検討したものはなかった。本研究は、この問題に取り組んだ最初の研究であると考えている。
結論:
投与時間は、ワーファリンの抗凝固作用の安定性に統計的にも臨床的にも重要な影響を与えない。患者は規則的なコンプライアンスが最も容易になると思われるときにワーファリンを服用すべきである。

※Rosendaal法;INR値の2点間線形関係があるとして、個々の患者の検査間で日毎に治療域内にINR値に位置したと仮定。

【開催日】2020年6月3日(水)