多職種連携チームにおけるフォロワーシップ

ー文献名ー
Barry ES, Teunissen P, Varpio L.
Followership in interprofessional healthcare teams: a state-of-the-art narrative review.
BMJ Leader. Published Online First: 2023.

‐要約-
Introduction
 効果的なIHT(=interprofessional healthcare team):多職種連携チームは、医療過誤の削減、患者アウトカムの改善、資源の効率的利用に寄与することが研究で示されています。しかし、医学教育におけるこれまでの学術研究は、主にリーダーシップ開発に焦点が当てられており、フォロワーシップの責任や、リーダーシップとフォロワーシップの役割間を移行する能力にはあまり注意が払われてきませんでした。リーダーシップとフォロワーシップの両者は、医療チームが最適に機能するために医療従事者に求められるものです。本レビューは、IHTにおけるフォロワーシップの現在の概念化に至るまでの歴史的発展を明らかにし、この理解がIHTの教育、訓練、開発を導く新たな研究方向性を提案することを可能にすると述べています。

Method
 本研究は、構築主義的な研究指向に基づいた「State-of-the-Art: SotA文献レビュー」として実施されました。SotA文献レビューは、ある現象に関する知識がどのように進化してきたかを時系列で概観し、「現在地(これが現在の考え方)」「ここまでどうやって来たか(現在の考え方がどう進化してきたか)」「次にどこへ向かうべきか(将来の研究がどのように有用に方向づけられるか)」の3部構成で要約を提示します。本レビューは、バリーらが提唱する6段階のSotAレビュープロセスに準拠しました。
 PubMed、Embase、CINAHL、PsycINFO、Web of Scienceの5つのデータベースで英語文献を検索しました。初期検索で679件の論文が特定され、重複を除いた383件から、IHTにおけるフォロワーシップに関する48件の論文が最終的な分析対象となりました。
 分析は2段階で行われました。パート1では、各論文からフォロワーシップに関する定義、枠組み、議論されたスキル・資質・行動、フォロワースタイル、理論・概念化などの情報を抽出しました。パート2では、帰納的アプローチを用いて、IHTにおけるフォロワーシップの歴史的発展を検討し、変化、進化、ギャップ、前提などを分析しました。研究チームは、レビューが主観的指向に基づいているため、個々の研究者の視点が分析に影響を与えることを認識し、内省を行いました。

Results

1. IHTにおけるフォロワーシップの初期:1993年~2010年
 IHTにおけるフォロワーシップは、1993年に初めて論文で取り上げられました。この初期の時期の論文では、フォロワーシップはリーダー中心に捉えられており、フォロワーはリーダーに従属的であるとされていました。リーダーは能動的な言葉で、フォロワーは受動的な言葉で記述され、「指示を受け入れ、それを受けて適切な行動をとる者」や「リーダーへの服従の立場」と定義されていました。

2. フォロワーシップ焦点の転換点
 医療分野以外では、Robert Kelley (1988年)、Ira Chaleff (1995年)、Barbara Kellerman (2008年) といった学者が、フォロワーの新しい視点を提唱しました。
• Kelleyは、フォロワーを「受動的から能動的への軸」と「依存的で批判的思考をしないから、個人的で批判的思考をするへの軸」という2つの次元に沿って5つのタイプに分類することを提案し、フォロワーがリーダーの命令をただ受動的に実行する者ではなく、チームの努力に能動的に貢献する者であるという新しい概念化の基礎を築きました。
• Chaleffは、「グループの信頼の管理者としてリーダーに完全に加わる」ことができる「勇敢なフォロワー」の5つの次元を提案しました。これには、責任を負う、奉仕する、異議を唱える、変革に参加する、道徳的行動をとる、といった要素が含まれます。
• Kellermanは、エンゲージメントの低いフォロワーから、情熱的にコミットし能動的なフォロワーまで、5つのフォロワータイプを提案しました。 これらの学者の理論は、2011年以降、IHTにおけるフォロワーシップに関する査読付き文献に徐々に浸透し、2015年以降はこれらの理論が一般的に引用されるようになりました。この期間は、医療機関からの重要な報告書(例:Institute of Medicineの2000年報告書「To Err is Human」)の刊行と一致しており、これらの報告書とフォロワーシップ学者が、リーダー中心のチーム思考からより協調的なIHT実践へと焦点を移すのに貢献したと示唆されています。

3. IHTにおけるフォロワーシップの現在:2011年~現在
 2011年以降、IHTにおけるフォロワーシップに焦点を当てた論文が毎年多数発表されるようになり、世界中の研究チームが貢献しています。現在、フォロワーシップはIHT研究の重要な焦点として確立されていますが、論文全体にわたって2つの矛盾する特徴が存在します。
1. フォロワーは能動的なチームメンバーである:
 2011年以降の論文では、フォロワーシップがすべてのチーム作業(患者ケアの意思決定を含む)への積極的な参加として定義され、リーダーとフォロワー間の相互関係的な役割に焦点が当てられています。共有型リーダーシップモデルが普及している今日のIHTにおいては、「誰もが常にリーダーであるわけではなく、フォロワーは、特に自律性が望ましい専門職においては、受動的であることはめったにない」と強調され、個人がリーダーとフォロワーの役割間を流動的に移行できることが一般的に認識されています。
2. フォロワーシップに関する古い考え方が依然として存在する:
 フォロワーを能動的なIHTメンバーと認識することが一般的であるにもかかわらず、フォロワーシップに関する文献の一部では、依然として「従順な部下」といった伝統的な見方が強く残っています。これは、フォロワーという言葉が「やや侮蔑的な役割」として、あるいはリーダーの役割に「二次的」であると捉えられることがあるためです。
 この矛盾は、良いフォロワーシップに関連する資質の多様性を生み出しています。しかし、能動的なチームメンバーとしての役割を支持する以下の具体的なスキルや資質が強調されています。
チームと組織のより大きな目標を理解すること
意思決定と批判的思考へのより深い関与
効果的なコミュニケーション
成長志向を持つこと
状況への適応能力
自己認識と感情管理能力、他者の感情を認識し管理する能力
新しい能動的な協調的役割を担う勇気
正直で、信頼できる、信用できる存在であること
 さらに、現在のIHTにおけるフォロワーシップ研究では、フォロワーを力づけるために心理的に安全な環境を構築することの重要性が主張されています。

Discussion
 本研究の目的は、IHTに関連するフォロワーシップの現在の概念化につながった歴史的発展を明らかにすることでした。初期のリーダー中心の視点から、Kelley, Chaleff, Kellermanらの学者や、医療機関からの重要な報告書が、フォロワー中心の視点を推進し、IHTにおける協調的アプローチの発展に貢献しました。
 現在、フォロワーシップはIHT研究の重要な焦点となっていますが、フォロワーが能動的なチームメンバーであるという現代的な概念と、古い受動的なフォロワーシップの考え方が同時に存在するという矛盾があります。共有型リーダーシップが従来の階層ベースのチーム協調の期待に取って代わりつつあるため、フォロワーシップはIHTの有効性に寄与する重要な要因であると本研究は示唆しています。医療従事者をリーダーとフォロワーの両方として訓練することは、IHTがより現代的で平等主義的な協調的デザインを採用することを可能にします。フォロワーシップに必要とされるスキルは文脈に深く影響されるため、すべての医療状況に当てはまる万能な解決策はありません。しかし、心理的に安全な環境は、普遍的に必要とされる文脈的考慮事項であると強調されています。古い階層的なフォロワーの概念が文献に残っている限り、現代的な協調的デザインの実現は阻害されるでしょう。
 本研究は、リーダーシップとフォロワーシップが密接に関連した概念であることを明らかにしました。今日のIHTにおいてリーダーとフォロワーが能力を発揮するためには、より現代的なフォロワーシップの概念が実践に導入され、伝統的なリーダーシップの概念は放棄されなければなりません。能動的なフォロワーと共有型リーダーシップのモデルは、学習者がチームの能動的なメンバーとなり、リーダーの役職を持たない場合でもリーダーシップの役割に移行できるような教育現場で教えられるべきです。

Conclusion
 効果的なIHTのコラボレーションは、今日の医療の要石です。フォロワーシップに関して、概念的・実践的に古い考え方がまだ残っていますが、フォロワーがチームの能動的なメンバーであり、共有型リーダーシップモデルが効果的に使用されるという、より現代的なフォロワーシップの概念を採用する必要があります。この知識により、リーダーとフォロワーの育成に関する教育と訓練、および今後の研究は、IHTにおける共有型リーダーシップをより最適化できるようになります。

【開催日】2025年9月10日

研修プログラムとしてのSNS発信の12のコツ

-文献名-
Avital O’Glasser et al. Twelve Tips for Tweeting as a Residency Program. MedEdPublish Published: 23/07/2019

-要約-
導入
2004年にfacebook,2006年にTwitterが誕生した。SNSは複数のデジタルプラットフォームを形成し、情報交換や討論への参加を可能にしており、この動きは継続的な医師の生涯学習と同じ機能である。そしてSNSのヘルスケア領域の分析では、教育的な価値や専門性への影響などが分析され、調査対象の医師の60%がSNSは患者ケアに役立ったと報告している。
複数存在するSNSの中でもtwitterはオープンアクセスの特徴を持っており、ヒエラルキーの平坦化や教育の民主化に寄与するツールであり、若手医師や専攻医により良い発信媒体であり、いくつかの文献でそのメリットが述べられている。
理論的には、Twitterでレジデンシープログラムについての知識を斬新な方法で広めることが可能であり、専攻医のより良い活動や業績に関心を集めることができる。SNSをプログラムが使うことの実例がOHSUの内科プログラムであり、正式な承認や組織のSNSポリシーによって運営され、1200名のフォローワーが存在し、4900のつぶやきがある。この文献では、レジデンシープログラムの発信についての成功と持続性のtipsを紹介する。

12のコツ
Tip 1: Tweet early, tweet often
あまりアカウントに長く潜まないこと。つぶやきはつぶやきを産み、その結果勢いがつき、快適で親しみのをもたらす。そしてフォローワーの獲得にも役立つ。他のアカウントとのやり取りは繋がりを生み創造的なコラボが可能となる。我々のところでは、専攻医によって下書きのつぶやきが事前に記載され、アカウントを持っているチーフレジデントが投稿している。

Tip 2: Know core Twitter vocabulary and use hashtags, mentions, links!
投稿数は280文字ですが、文字情報だけではなく、ハッシュタグやリンクを埋め込むことを推奨します。写真や動画の埋め込みも関心やエンゲージメントを高めます。

Tip 3: Celebrate and engage your residents
レジデントの業績を祝い、彼らの成長を讃えることは、アカウントにとって最も充実した側面となります。
レジデンシーは常に、専攻医の出版やポスター発表、学会のプレゼンや賞などをつぶやくことを目標にしています。
つぶやきは出版物のリーチを広げ、ツイートされた論文は引用が増えます。

Tip 4: Use your program’s calendar of key annual events as source material
レジデンシーのコアな年間イベントをつぶやきで共有します。これによって専攻医はプログラムのイベントへの準備ができるようになり、リクルート活動の基盤にもなります。プログラムの構造の情報だけではなく、文化や雰囲気などを外部の読み手に発信します。イベントごとにハッシュタグを作ると後で把握がしやすくなります。

Tip 5: Engage faculty and fellows on Twitter
広くコミュニティを形成するために、専攻医やフェロー、そして指導医にもアカウントを持ってもらうように学習もしくは強力に誘います。彼らを会話に巻き込み、彼らの直接的な指導をTwitterの読み手に届けることができます。
熱心な指導医やフェローは、学術大会の現場の最前線(地上のブーツ)の価値のある資料を提供してくれます。

Tip 7: Identify preferred content themes within medicine
限定的な専攻医コミュニティだけではなく、他のコミュニティも定義する必要がある。
あなたの所属している組織には複数のブランドのアカウントが存在している。そして関連する全国や地域の団体を特定し、あなたの専門や関心の領域でのアカウントと繋げてください。
twitterのコミュニティはSNSの親切さと寛大さを思い出させてくれる。ソーシャルメディアにおいて奪う人から与える人になることが大事である。

Tip 8: Keep your eyes open & your chin up!
皮肉にもツイートを奨励することは、日々をマインドフルに過ごし、キャンパス内でスマホばかりに埋もれることの助けになりました。自分の環境と身の回りで起きること、そこに生じている小さな瞬間の素晴らしい学びに注意してください。
教育的なツイートも良いですが、風景の写真も人気です。

Tip 9: Utilize Twitter Analytics
Twitterの目標はいいね!やリツイート、フォローを増やすだけではなく、リーチやツイートの有効性についての数値がフォードバックになります。レジデンシーの奨学金についてのツイートが、リーチを広げ、このテーマのツイートを継続的に優先度を高くしました。

Tip 10: Be professional and follow the 5-second rule at all times; think first, tweet later
プライバシーへの配慮、プロフェッショナリズムとしての考慮はtwitterの使用の障壁になります。
所属機関のソーシャルメディアポリシーを参考に、アカウントの開設許可に申請が必要なこともあります。
適切な投稿トーンを維持し、ネガティブにならず、嵐をせず、トロール(絡んでくる系?)に関与しないでください。

Tip 11: Do not be afraid to brag or toot your own horn!
自分を見てよ!文化と批判されますが、お祝いや祝福についてはプログラムの成功と関連するためツイートすることが適切です。フェローへのマッチやカリキュラムの改革、そしてプログラムリーダーのチームの仕事や成功など発信していきましょう。

Tip 12: Have fun!
個人ではなく、プログラムのアカウントであったとしても楽しいキャラクターを設定することができます。賢く、風変わりな、そしてユーモアのあるツイートを発信してください。学ぶこと、教えること、そして診療を実践することが好きであることを魅せてください。

まとめ
レジデンシーのSNS発信は、専攻医にプラスの影響を与え、プログラムやその教育ミッションを広く見せる事に貢献する。ツイートするコンテンツの進化や成熟を加え、フォローワーとの相互的でダイナミックなプロセスで新しい仲間やつながりを促進しました。

【開催日】2019年11月13日(水)

プライマリケア教育診療所(内科・家庭医)における指導医の働き方の3つのモデル

-文献名-
Bodenheimer Thomas MD; Knox Margae MPH; Kong Marianna MD. Models of Faculty Involvement in Primary Care Residency Teaching Clinics. Academic Medicine. In press.

-要約-
三つのモデルとその具体例
レジデンシーは二つの同等に重要なミッション、つまり、未来のための医師を要請することと今の患者をケアすることがあるが、プライマリ・ケアの教育診療所ではこの二つはよく衝突する。
レジデントは他サイトでの業務があるし、指導医は入院担当、教育業務の準備、管理業務、研究といった他の責務があるので、常に患者の対応ができるわけではない。
結果として多くの教育診療所は複雑な指導医・レジデントのスケジュールを’juggle’する必要がある。
著者らは、2013-2018年に行なった42の内科あるいは家庭医の教育診療所へのサイトビジット(2日ずつで診療所長・プログラム責任者、レジデント、指導医、診療所スタッフへのインタビューを実施+その診療所の業務の直接観察)を通して、指導医の業務への参与のあり方にスペクトラムがあることを見てきた。
そこでそれを3つのFaculty involvement modelsとして記述し、具体例を示す。 (詳細レポートはAAMCからpublishされている様子:参考文献1)

1.The focused model
・少数の指導医がそれぞれ少なくとも5コマ/週以上を診療またはレジデントのプリセプティングに費やすモデル
・17/42=40%で、コミュニティ基盤型(=非大学型)レジデンシーによく見られる。
例:Program A:コミュニティ基盤型で11人の指導医、すべての指導医が6-8コマを診療所で診療あるいはプリセプティングで過ごすProgram B 後述のDispersed modelから移行した例。
以前は多数の指導医が週に1コマ診療、2コマ指導だったが、患者が待つ状況などを踏まえて、体制を移行し、プログラム内の指導医を入院対応のホスピタリストと外来のphysician educatorsに分かれるようにした。
結果、12人の指導医による6コマ診療、2コマプリセプティングの体制となり、レジデントの学習経験も、ケアの継続性も改善した。
Program C 大学基盤型で4つの小サイトでそれぞれが5-8人の指導医・4-5コマ診療、2コマプリセプティング。ただ、近年academic responsibilitiesが増したことでこの指導医たちが診療のコマ数を減らさざるをえなくなっている

2.The dispersed model
・多くの指導医が1-2コマ/週を診療所での臨床または教育業務に費やす
・9/42=21%で、大学基盤型のレジデンシーにしか見られない
例:Program D:大学基盤型の内科レジデンシー:100人レジデント、50人の指導医がいる。指導医は個
々の診療所では1-3コマしか費やさない。チームでのミーティングもなく、継続性は乏しいし、患者も担当医を待たなければならない。
Program E:大学基盤型の家庭医療レジデンシー。30人の指導医がいるが、臨床のコマは2-3コマと少ない。24人のレジデントも1-2コマずつで多くの診療所を回って診療をしている。(詳細あるが省略) 診療所の問題についてレジデントが指導医の働き方がFocusedになるように提言中。
Program F: 指導医たちは週に7コマを外来や教育に費やしているが、診療のほとんどがレジデントのいない診療所で行なっており、レジデントのいるサイトには週に1-2コマしかいかない。教育のための診療所配置の観点から、この状態はdispersed modelである。

3.The hybrid model
・1.と2.の融合型で、少数の5コマ以上費やす指導医と、1-2コマ/週の指導医の両方が務める
・16/42=38%が占めていた。
例:Program G: 大学基盤の内科レジデンシーで、ほとんどの指導医は週1-3コマを診療とプリセプティングに割り振っているが、2人の指導医がそれぞれの診療所で5コマ/週以上を診療・教育に費やしている。
が、リサーチグラントや他のアカデミックな業務の影響で指導医が診療所を離れるような圧力が働いており、診療所長はdispersed modelのような状態にならないようにするにはどうしたらよいか、懸念を抱いている。
Program H: 大学基盤型の家庭医療レジデンシー、小さい教育診療所が4つ、4コマ診療・1-3コマがプリセプティングとなるような指導医が診療所ごとにおり、それに加えて、community preceptorが週に1回レジデントの指導に携わっている。

上記のモデル以外の指導医の働き方に影響する因子
・それぞれの指導医が自分の診療スケジュールを決められる程度が重要
・あるレジデンシーではそれぞれの指導医がきめるため、ある日は2人の指導医が次の日が8人ということが起きていた
・診療所側が医師がいる人数を調整するために規則を持つパターンもある:例としては
・level loading: コマごとに同じ数の医師がいるように調整する
・Access-centered rule (Program D): 指導医が会議などの理由で診療をキャンセル可能なシステム。以前は許可なしに買おうだったが、今は診療所が十分な医師数が予約患者に対してあることを確認してキャンセルが可能になっている。

Focused Facultyの利点と実現するための障壁
利点:診療所チームの安定、継続性の維持、外来診療/教育者としてのロールモデルを示せる、その診療所のリソースや紹介先を熟知しており、より効果的なプリセプティングが可能、診療所の機能不全を看過しないのでチームのAnchorとなり、質改善、ポピュレーションアプローチ、継続性、レジデントへの対応などを主導的に行う
障壁:大学基盤の場合は特に、指導医の多重の、特にリサーチなどの業績評価の重圧との間で葛藤が起こる。大学組織では入院診療の方が外来診療より重んじられる、臨床教育者は研究者よりも大学では昇進しにくいなど。大学ではなくても入院診療との間のジレンマはある。

【開催日】2019年9月11日(水)

プライマリ・ケアにおける受診予約までの時間短縮対策の システマティクレビュー

-文献名-
Ansell, Dominique, et al. “Interventions to reduce wait times for primary care appointments: a systematic review.” BMC health services research 17.1 (2017): 295.

-要約-
背景:近接性と使い勝手の良さ、は効率的かつ効果のあるプライマリケア提供体制の重要な特徴である。昨今、タイミングの良い家庭医への受診がカナダにおいて懸念されている。好ましくないアウトカムと受診予約までの時間の長さは関連があり、人によっては救急受診に頼ることになっている。受診予約までの時間が長いと、患者は良くない健康アウトカムを経験し、救急外来を使用することになる。私たちの研究の主目的は、系統的に文献をレビューし、受診予約までの時間を短縮するための介入方法を同定することである。また二番目の目的として、患者満足度の評価と未来院率を下げることである。
方法: Medline via Ovid SP (1947 to present), Embase (from 1980 to present), PsychINFO (from 1806 to present), Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL; all dates), Cumulative Index to Nursing and Allied Health (CINAHL; 1937 to present), Pubmed (all dates) のデータベースを検索し、プライマリケアの受診予約までの時間減少のための介入とアウトカムの関連を報告した研究を同定した。2名の独立した研究者が、事前に定めた包含・除外基準とMulti-level screening approachを用いてエントリーした全ての研究をレビューした。また、the Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsに基づいて行った。
結果:3960件の文献が同定され、11件が全ての包含・除外基準を満たした。対象となった文献からデータ抽出を行うと、open access schedulingが最も普遍的に使用されている、受診予約までの時間短縮のための介入方法であった。さらに対象となった研究は、診療後のフォローの電話対応、ナースプラクティショナーがスタッフの上にいること、看護師やGPがトリアージをすること、E-mailによる相談、は受診予約までの時間短縮に効果があった。
結論:私たちの知る限りでは、プライマリケアの受診予約までの時間短縮のための介入を同定した、初めての系統的レビューである。結果によれば、open access schedulingと他の患者中心の介入が時間短縮に寄与するかもしれない。
このレビューが、政策立案者や家族内のケア提供者へ、タイムリーなプライマリケアの利用へ繋がる介入を紹介するであろう。
open access schedulingとは・・・(同じ主治医にいつでも受診する体制を確保することが重要という前提がある) 外来予約枠を50%あまりopenにしておいて(予約を入れない状態に当日までしておく)、当日のニーズにその主治医が答えられるようにするモデル。従来のモデルでは、外来予約枠は10%あまりopenにして対応していたり、当日ニーズに対応するWI枠担当医のような医師を設定するモデルがあったとのこと。
カバーする人口規模と医師の外来枠の数を分析して、demand/Capacityのバランスを見た上で、何%程度にするか決めるようだ。まずprimary careという医療体制の国ではpopulationの分析からdemandの予測もしやすいのだろう。

【開催日】2019年3月6日(水)

EQを高めてバーンアウトを防ぐ10の方法

-文献名-
Ten Strategies for Building Emotional Intelligence and Preventing Burnout
FPM January/February 2018

-要約-
EQ(Emotional Intelligence)のコンセプトは1990年に精神科医のPeter Salovey, PhD, and John D. Mayer, PhD,によって以下のように定義された。
• (自分と他人の)感情に気づく能力
• 感情を用いて思考を促進する能力
• 感情(の原因、意味、思考や行動との関係)を理解する能力
• 特定のゴールに達するために感情をマネージする能力

Daniel GolemanはEQをこのように表現している。
• Self-awareness — the ability to recognize and understand personal moods, emotions, and drives,
• Self-management — the ability to control or redirect disruptive impulses and moods,
• Empathy — the ability to understand the emotional experiences and responses of others,
• Relationship skills — the ability to build rapport and manage relationships.

EQは患者ケアに役立つだけでなく、リーダーシップの必須コンピテンシーともみなされている。

生まれつきのものと学習するものの両方の要素がある。
EQを高める10の方法は以下の通り。
1.自分の1日のなかでのintentionを明らかにする
 例)「穏やかにしよう」
2.セルフケアの練習をする
3.感情のチェックをする
 自分はどう感じているのか?顔はどうなっている?胸は?胃は?
4.ゆっくりする
 数秒でも止まることで自己制御感を得る 深呼吸もよい
5.好奇心を持つ
6.すべての感情のスペースを作る
7.read the room
8.人を頼る
9.謝る
10.はじめと終わりをきちんとする
 あいさつなど

【開催日】2018年6月6日(水)

プライマリ・ケアにおける適正なパネルサイズは,チームへの権限委譲のあり方によってどう変化するか?

-文献名-
Altschuler J, Margolius D, Bodenheimer T, Grumbach K. Estimating a reasonable patient panel size for primary care physicians with team-based task delegation. Ann Fam Med. 2012 Sep-Oct;10(5):396-400.

-この文献を選んだ背景-
 プライマリ・ケア医は周辺の地域住民をケアの対象とするが、外来患者数が多いと診療の質が落ちることも懸念され、どの程度の患者数が適正なキャパシティなのかを把握しておく必要がある。また、外来患者数が多い場合は、どういった形なら診療の質を落とすことなく対応可能なのかについての知見が必要である。この度、以上の内容に一つの見解を示すような研究を発見したので、紹介する。

-要約-
目的:
 プライマリ・ケア医が少ない地域では、過剰なパネルサイズの患者に対応しなければならない。この研究では、プライマリ・ケア医が擁する医師以外のスタッフへの業務委譲の仕方に応じて、適切なパネルサイズがどのように変化するかを推定する。
方法:
 プライマリ・ケア医が2,500人のパネルサイズの集団に対して予防、慢性のケア、急性のケアを提供した場合に要する時間に関する先行研究を用い、これらのケアの一部を非医師のスタッフに業務委譲した場合に適切なパネルサイズがどのように変化するのかをモデル化した。
結果:
 業務委譲の程度に関して3つの仮定(予防/慢性ケア:77%/47%、60%/30%、50%/25%)を用いたところ、プライマリ・ケアチームが適切にケアできるパネルサイズはそれぞれ1,947人、1,523人、1,387人と推定された。
結論:
 非医師に予防と慢性ケアの一部を委譲することができれば、プライマリ・ケアにおいて推奨される予防と慢性ケアを、業務遂行力に応じた適切なパネルサイズに提供することができる。

【要旨】
(導入)
●先行研究によると、2,500人のパネルサイズに対して必要な予防、急性ケア、慢性ケアを提供しようとした場合、一人のプライマリ・ケア医は1日に
 21.7時間業務しなければならない。アメリカの平均的なパネルサイズは2,300人である。55%の患者しか、適切な予防、急性ケア、慢性ケアを
 受けていない。
●パネルサイズを小さくすれば適切なケアが提供できるようになるが、その方針でうまくやれるほどアメリカには十分なプライマリ・ケア医がいない。
●非医師やICTを活用したチームモデルを適用すれば、医師の業務量を押さえたまま、推奨されるケアを、適切なパネルサイズに提供することが
 できるようになる。
(方法)
予防・急性ケア・慢性ケアに要する時間の推定
●Duke大学の研究によると、USPSTFのGrade AとBの予防を2,500人のパネルサイズに提供しようとすると、年間1,773時間必要となる。
●同様のパネルサイズに、10のコモンな慢性疾患への対応、かつ5つの疾患には適切なコントロールがなされている状態を達成しようとすると、
 2,484時間必要となる。
●同じく急性期ケアには888時間必要となる。
委譲可能な時間の推定
●予防に関するルーチンのカウンセリングの全てと、予防接種、化学的予防の説明以外の部分を非医師に委譲すると、プライマリ・ケア医師が予防に
 費やす時間の77%を節約できる。
●10のコモンな慢性疾患のうち、1/3はコントロール良好、2/3はコントロール不良とすると、委譲によりプライマリ・ケア医が慢性ケアに費やす時間は
 前者で75%、後者で33%節約でき、計47%の時間を節約できる。
●この予防77%/慢性ケア47%の委譲をモデル1とする。これが最大限の委譲と仮定して、より穏やかなモデル2(予防60%/慢性ケア30%)、
 モデル3(予防50%/慢性ケア25%)も作成した。
パネルサイズの計算
●AAFP(American Academy of Family Physicians)の推定によると、家庭医は年間2,025時間働いている。これを患者一人当たりに予防・慢性ケア・
 急性ケアを提供するために、年間必要になる時間数の合計で割り、適切に診療できるパネルサイズを計算した。また、それぞれのモデルによる
 パネルサイズの変化を調べた。
(結果)
●プライマリ・ケア医が年間2,025時間時間働くとすると、委譲なしで適切な予防・慢性ケア・急性ケアを提供できるパネルサイズは983人となった。
 同様に、モデル1は1,947人、モデル2は1,523人、モデル3は1,387人となった。
加藤先生図

(議論)
●この推定は、なぜプライマリ・ケア医が日々の診療に圧倒される感覚を抱くのか、なぜ慢性ケアの治療指標を達成できない患者が多いのかを説明する
 材料と考えられる。今回のパネルサイズは、他の実際の報告の内容とも合致している。
●限界について。慢性ケアについては10の慢性ケアに要する時間しか検討しておらず、委譲で節約できる時間もタイムスタディに基づくものではない。
 非医師の訓練時間を組み込んでいない。また、プライマリ・ケアの診療は多様性に富むので、一人に要する時間は様々であることが反映されて
 いない。
●医師、ケアチーム、患者の3つの関係性の変化が、プライマリ・ケアの現場で起きている大きなパラダイムシフトである。
●プライマリ・ケア医が少なく、過剰なパネルサイズへの対応を求められる現場では、医師のみによるケアからチームによるケアへの移行が
 求められる。

-考察とディスカッション-
この研究の結果を日本の環境に合わせると、月に1回ケアすべき対象がクリニックを受診するという仮定を置き、稼働日数を21日/月とした場合、従来のケアモデルでは50人/日、モデル1では90人/日、モデル2では75人/日、モデル3では65人/日が、適切なパネルサイズということになる。

ディスカッション)
 1.この数字は皆さんの診療の感覚と一致していますか?
 2.この数以上の診療をしているサイトでは、どの程度の委譲を実践していますか?委譲するにあたって、どのようなルールづくり、訓練などを
  行っていますか?
 3.この数以下の診療をしているが手一杯のサイトでは、手一杯になっている原因はどこにありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)

郡部で働く女性家庭医が健全なワークライフバランスを保つ為の戦略とは?

-文献名-
PHILLIPS, Julie, et al. Rural Women Family Physicians: Strategies for Successful Work-Life Balance. The Annals of Family Medicine, 2016, 14.3: 244-251.

-要約-
【目的】
 女性の家庭医は、郡部の診療に携わる際に、ワークライフバランスの維持に困難に直面する。この研究では、郡部の家庭医診療に携わって実績を挙げている女性が、どのように仕事と個人のニーズを両立させて、長期的に満足できるキャリアを成し遂げているのか、そのための個人的・専門職としての両方の戦略についての理解を深めることを目指す。

【方法】
 アメリカの郡部の診療に携わっている女性家庭医に対して半構造化面接を行った。面接内容は録音し、専門家によって文字起こしされ、immersion and crystallization法によって分析された。そこから創出したテーマについて詳細なコーディングを行った。

【結果】
 25人のインタビュー参加者から、良好なワークライフバランスを取る為の戦略を記述した。1つ目は、個人的役割との両立を達成するために、仕事の時間を減らしたり、柔軟性を持たせたりしていた。二番目に、多くのインタビュイーは配偶者またはパートナー、両親、他の地域の住民からサポートが得られる関係性を持っており、そのため、患者からの要請に応えることを可能にしていた。三番目に、インタビュイーは仕事と生活の周辺について、明確な境界線を維持しており、そのため、育児・趣味・休息の時間を取ることが可能であった。

【結論】
 女性の家庭医は、郡部においても成功したキャリアを構築できるが、雇用者、周りの関係性からのサポートと、両親からのアプローチがこの成功の鍵を握っている。教育者・雇用者・地域・政策立案者にとって、郡部におけるキャリアに積極的な女性家庭医をサポートする際に、こうした女性達の実践が、役に立ちうる。

【詳細】
参加者の特徴(本人だけでなく、家族構成やパートナーの仕事など:Table1参照)
 テーマについて
 ①Variations in work hours and Flexibility
  ・1/3の対象者は、ワークライフバランスやwellnessの改善のためにフルタイムよりも減らした勤務時間で対応していた。
   そういった場合にも育児などの影響から、フルタイムよりも「忙しい」スケジュールになっていた。
  ・スタッフや他の同業者のリクルートを行いながら、時間の調整を達成していることも多かった
  ・郡部診療を行う理由として、幅広い実践を維持できるからという理由がほとんどだが、そうした幅広い実践の多くは救急や出産のように予想
   できない形で来る。そのためか、彼らに週に何時間働いているのか?という質問をしてもすぐに明確な数字で言えないことが多かった。
   あるインタビュイーは40-80時間の間、という答え方をしていた。そうした働く時間の変動に合わせて、彼らは家族や趣味に使う時間を柔軟に
   変えていた。その際に配偶者が柔軟なスケジュールを行うことができるかどうかが鍵となっていた。

 ②supprotive relationship
  ・医学生・研修医の女性にどんなアドバイスをするか?という問いにしばしば支援してくれるような配偶者を見つけることだという答えが
   みられた。
  ・回答者たちはしばしば、郡部に住む為に、配偶者に犠牲を敷いていることを認めており、そうした犠牲が無い限り、彼らの専門業は成り立たない
   としていた。
  ・多くの配偶者は、自営業やパートタイム、あるいは遠隔業務が可能な仕事か、もともと郡部出身者で農業などの郡部の仕事を持っているため
   郡部居住を強く望んでいる、のいずれかであった。
  ・そうしたサポートが難しい何人かの回答者は郡部勤務をやめることを計画していた。
  ・しばしばこうした家庭では男性が育児や家事の主な役割を担っていた。その結果、女性家庭医がより患者ケアに時間を使えるようになっていた。
  ・また、家庭医同士の結婚の場合は、家での家事育児の役割は平等な形を取っているという話もあった。
  ・多くの郡部勤務者は学生のうちかその前から郡部診療に関心を持っており、そうした地域に住みたいというパートナーを見つけていた。
   自分にとって家あるいは故郷のような地域に戻ることである回答者が60%であり、他には、配偶者が郡部との繋がりがあって、お互い話す中で
   郡部に移ることを決めているという場合もあった。また、両親のサポートも重要であった。
  ・回答者が最も難しいと感じるのは緊急時や夜間受診があった際の子供の世話だった。例えばこんな説明もあった。「多くの人が、オンコールでも
   子供といれるからいいよね、と言うが、彼らはこちらの実情を分かっていないと思う。文字通り、ドアをあけて病院に数分以内に行くべき時に、
   子供の外出の準備や用意をさせて誰かの家に預けにいくなどとてもじゃないができない。必ずしもみながこの仕事の困難さ・意味を理解は
   していないからだ。」
 ③Clear boundaries around work
  ・殆どの全ての回答者が、自分の余暇・趣味・育児に十分な時間を取る為に何らかの境界線を設けていた。ほとんどはグループ診療で、
   他のメンバーが自分の患者をカバーできるようにしていた。
  ・医師によっては、患者の期待をリフレーミングして、自分のwellnessを保っていた。公共の場で相談を受けて、仕事中でない時は、
   ちょっと距離を空けることで相手にそれが良く無いことを伝えようとしていたり、アドバイスを簡潔にして別の日にまた連絡するように
   伝えたりしていた。場合によっては、自分が母親でもあり、今はオンコールでないから、他の医師が対応すると明確に伝える、とも述べていた。
  ・しかし、そういった患者ケアと自分の家族ニーズが重複して衝突する時に、罪悪感も感じていた。ある医師は、その子供のケアと
   1日クリニックを閉じることの間で自己決定を続けることに向き合い続けるのが難しいので、勤務地変更を真剣に考えていると述べていた。

【開催日】
 2016年6月22日(水)

危機におけるリーダーの危うい姿と望ましい姿

―文献名―
ASTDグローバルネットワークジャパン リーダーシップ開発委員会「2011年度 ASTDグローバルネットワーク・ジャパン リーダーシップ開発委員会報告」2012年3月16日
 *ASTD:American Society for Training & Developmentという非営利団体の略称。主に人材開発や組織開発の分野でカンファレンスやセミナーを
      行っている団体。

―この文献を選んだ背景―
 診療所経営で日々様々な問題を経験し対処・対応しているが、その問題が危機的状況となると違うリーダーシップが自然と発動される感覚があった。先の震災でも話題になった「危機のリーダーシップ」について学習・省察しようと調べてみたところ、この文献に出会うことが出来たので共有する。

―要約―
【作成経緯】
 ASTDの日本支部のリーダーシップ開発委員会で、2011年7月から2012年2月まで10回の議論を行い、企業組織の内部に起因する“危機”とその対処における“あるべきリーダーシップ”に着目し、組織の危機対応のプロセスを①迫りくる危機、②危機への対処、③体質の転換の3つのフェーズに区切り、各フェーズでのリーダーシップ(トップ、ミドル、社員に求められるフォローワーシップ)の仮説を立て、インタビューや文献調査によるモデル化を行った。

【資料要約】
●フェーズ①「迫りくる危機」:危機は顕在化していないが、リスクが存在する局面
  ■組織の状況
   ◇ 杜撰で不透明な管理体制、不正や問題に対する感度の低さ、世間と組織の倫理観のズレ、現状追認の意識、組織防衛を優先
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇ トップ:緩い現状認識、重んじる判断軸のズレ、自らの地位への執着
   ◇ ミドル:当事者意識の欠如

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップ・ミドル共通:
    ・信頼関係の構築、問題解決への執着、鋭い情報収集アンテナ、失敗経験を生かす、厳しい現状認識から逃げない姿勢(不都合な情報・
     事態に向き合う、丹念な情報収集)、価値基準の明示(長期的な組織の発展を重んじる、顧客・社会の立場で考える)
   ◇ トップに求められること:
    ・理念・危機対応方針の共有、危機対応への覚悟、私利私欲の排除
   ◇ ミドルに求められること:
    ・社内の連帯作り、現場での危機対応シナリオ構築、危機対応への覚悟
   ◇ 現場に求められること:
    ・現場の生の声を上げる
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・風通しの良い組織作り、危機の想定の具体策、危機対応シナリオ構築、危機対応に関する社内リソース構築、危機対応に関する
社外リソース活用
   ◇ トップに求められること:
    ・適切な人材登用

●フェーズ②「危機への対処」:危機が顕在化し、危機への対処処置を行っている局面
  ■組織の状況
   ◇ 危機への無関心・楽観、危機発生直後にパニック発生、不安・不信の高まり、情報錯綜・隠蔽、外部からの関心の高まり、
     司令塔不在による混乱、外部からの批判・糾弾、組織内部の疲弊、社会的制裁
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇責任回避、判断回避、外部の権威への依存、多方面への受身の対処、脅威による疲弊

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップ・ミドル共通:
    ・的確でスピーディーな情報収集、的確な情報発信、事態収拾の徹底
   ◇ トップに求められること:
    ・価値観の明示と実践、正しい現状認識、適切な情報コントロール、積極的な内部コミュニケーション、社内のモチベーション維持への配慮、
     覚悟の明示、真摯な対応姿勢、ポジティブな思考と迅速な行動
   ◇ ミドルに求められること:
    ・方向性の明示、オープンな情報共有・的確な状況把握、主体的な行動、危機対応に集中
   ◇ 現場に求められること:
    ・事実に基づく現場の状況報告、即時最善の行動
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・危機対処組織の立ち上げ

●フェーズ③「体質の転換」:危機をバネに新生を目指している局面
  ■組織の状況
   ◇ 経営破綻への不安、上層部への批判、原因追究の動き、事態収拾の兆し、組織改革への機運、引責者・退職者の出現、組織の主体的な
     情報発信・危機的状況の沈静化、現場の主体性回復、再建への機運、新体制・ルールの構築、再生に向けた価値の再定義、新体制での方針・
基準策定、問題解決への取り組み、再発防止への取り組み
  ■リーダーの意識・行動の描写
   ◇ 旧リーダーの機能不全、新たなリーダーの出現、事業・組織体制の改革、企業価値・基準の新たな定義、信頼回復に向けたコミュニ
     ケーション、リーダーとしての覚悟と実践、大胆な改革・ビジョンの提示

  ■望ましい意識・行動
   ◇ トップに求められること:
    ・過去との決別・逃げない覚悟、新たな企業価値観の追及と明示、根本原因の解決、強いエネルギーと熱意、期限かつ誠実な行動、
ポジティブマインドを促す、部下への感謝、社外へのメッセージ発信、情報開示の徹底、着実な再生への取り組み、経営陣の信頼関係構築
   ◇ ミドルに求められること:
    ・風土改革の主導・実践、再生への熱意、方針を現場に落とす、現場のチーム作り、誠実な行動、体質転換への問題把握、
     有能な社員の引き留め
   ◇ 現場に求められること:
    ・現場管理の徹底、確実な業務運営、再生への建設的な関与、キャリアの再考
  ■望ましい組織体制・文化のあり方
   ◇ 組織全体に求められること:
    ・オープンで多様性を活かすしくみづくり、新たな企業文化構築への取り組み

―考察とディスカッション―
 危機を3つのフェーズに分け、在りがちな組織の現状やリーダーの行動の描写は反面教師になった。また望ましい意識・行動のリストは自分が行えていること・行えていないことのチェックリストにもなり、自然発生的な危機のリーダーシップでは不足する部分(意識しないと振る舞えないリーダーシップ)を補う情報となった。
 またリーダーのみならず、ミドル(HCFMならサイト長、診療所ならフェロー)の役割の重要性も認識できた。当事者意識を持ってリーダーと積極的にコミュニケーションを行い、現場を指揮するミドルの存在が危機対応には欠かせないと改めて実感した。
 また危機のときほど事実確認が濁り、組織のコントロールが難しくなる実感を持っている。自分なりには先入観や希望的観測を排し、冷静に「事実に基づくこと」情報管理と細かな情報発信を重視している。また組織コントロールを握るためにも、ギアをあげて巻き込むと同時に穏やかに落ち着いて振る舞うという、スピード感と安定感のバランスにも工夫している。
 危機を等身大に扱いどのようなパースペクティブで扱うのかのリーダーシップを鍛えていきたい。
皆さんが、この資料を読んで新たに学んだことは何ですか?
皆さんが、危機のリーダーシップで大切にした(い)ことは何ですか?

【開催日】
 2015年11月18日(水)

診療所内のチームビルディング

―文献名―
仲山進也. 「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則」講談社.

―要約―
「グループとチームの違い」
  ① グループ→個々が役割以上のことはしないまたは出来ない組織
  ② チーム→個々が役割以上の力を発揮する組織
  ③ この本では「グループ」が成長して「チーム」になると考えている

「タックマンモデルの紹介」
チーム成長の法則「70 点のグループ」が「赤点」を経て「120 点以上のチーム」に変身する

「優秀なリーダーがいればチームになる必要はないのでは?」
 右肩上がりの時代であれば優秀なリーダーがいるグループのまま100 点を目指す方針でも皆ハッピーに仕事ができたが、
変化の激しい時代と言われている現在においては、リーダー1人が変化を捉えてアクションを考えるのでは間に合わないほど、
変化する要素が増えている。だからこそ各自が考えて行動出来る自走型の「チーム」になる必要がある。

■ 第1章フォーミング
 ● フォーミング体質①自己主張をしない。空気を読んで遠慮する。
 ● フォーミング体質②対立、衝突によりパフォーマンスが低下した時点で、チーム状態が悪くなってきた。
    もとに戻そうという発想・行動をとる
 ● ストーミングに入ると組織としてパフォーマンスが低下するため企業の多くはフォーミングに戻す選択をすることが多い
 ● フォーミングを進めるにはコミュニケーション量の増大が鍵
   例)自己紹介名鑑の作成、フォーミング飲み会の開催

■ 第2章ストーミング
 ● 特徴としてはメンバーの本音の意見が場にでて、対立や衝突がおこりイライラやモヤモヤが発生。
   その結果生産性が低下するが本音を言うことで「自分ごと化」が進む。
 ● ストーミングで解散しないために
   ・ ビジョンが示されている
   ・ ストーミングの意義を共有:チームとして成長するために必要なプロセス
   ・ 個人の安全を確保:個人攻撃の場ではなく、皆の意見が場に出揃うことが目的
   ・ グループ全体の安全を確保:生産性が低下して売り上げ低下しても資金ショートを起こさない地盤確保
   ・ ストーミングを進み易くする:各自が紙に書くなど
 ● ストーミングを進めるためにはコミュニケーションの質が大事

■ 第3章ノーミング
 ● 特徴としては小さな成功体験を繰り返すうちにチームの暗黙のルール(行動規範)が築かれる。
  共通言語が生まれ、「私たちのやり方」「ウチのチームは」という表現がメンバーの口からでるようになる
 ● ノーミングを進めるために、自分たちでつくったルールを徹底化するために明文化し確認と共有を繰り返す

■ 第4 章トランスフォーミング
 ● 特徴としてはメンバーの協働意志で、上位のビジョンを目指す。他のメンバーへの貢献につながる行動が自動化する。
  チームに対する帰属意識が高まり、「ずっとこのチームでやりたい」、「このチームなら何でもできる」という意識になる
 ● さらなる上位のビジョンを目指すためビジョンや価値観に共鳴できる人を採用する

【開催日】
2015年10月7日(水)

リーダーシップを体系的に学ぶための入門書

―文献名―
リーダーシップ3.0 〜カリスマから支援者へ〜.小杉俊哉.祥伝社.2014

―要約―
カリスマ型のリーダーは必要なのか?現場の第一線が自律的に働き価値を提供したり提案をあげたりすること(ボトムアップ)、中間管理層が活発な議論と組織の上下左右に対して働きかけ活性化すること(ミドルアウト)がなければ組織は立ち行かないことは自明である。このような状況をもたらすためのリーダーシップがリーダーシップ3.0である

<時代によるリーダーシップの変遷>
・リーダーシップ1.0:権力者がヒエラルキーの頂点に立ち、指示命令による中央集権的に組織を支配する。画一的なサービスの大量提供には向いていてるが、多様なニーズに応える柔軟性がない

・リーダーシップ1.1:各事業部に責任者を置き、そこに権限を委譲して責任を持たせることで組織全体をコントロールする。しかし事業部内で現場とマネジャー間の対立を深め、階層による厳格な管理、効率重視による賃金のみによる動機付けは従業員の独創性を削いでいった。またトップから各事業部に下った指示にフィードバックをかける仕組みがなかったため、急激に変化する環境に対応しきれなくなった

・リーダーシップ1.5:権力によって率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど協調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する。従業員がわくわくするものを見つけ出し、意図的にそれを持続させたり、終身雇用、年功序列、労使協調に代表される手法で価値観を一体化させたりする。いわゆる企業戦士が登場した。しかし当初は有効だった価値観に基づく行動パターンが形骸化した。退職したもの、職を失ったものはその瞬間、収入以上のものを失うこととなった。また個人の目的が不要、あるいはいかにそれを組織に合わせるかが問われた。また組織重視のためコンプライアンスの低下をもたらし、CSR(企業の社会的責任)が問われる事件が頻発した。

・リーダーシップ2.0:いわゆる「変革のリーダーシップ」。組織の方針を提示し、大胆に事業領域や組織の再編を行い、競争や学習を促し、縦割りの部門間、社員間の交流、活性化により組織を変革する。経営コンサルタントを雇い、新たな経営戦略を策定し実行した。しかしカリスマ個人の力量に依存するところが大きく、破壊的イノベーションには対応しにくい。またカリスマに依存し社員が受け身になる。トップが答えを持っていないと企業全体をミスリードしてしまう。経営コンサルタントに依存するとどの企業も同じような分析になり、差別化できない。

<リーダーシップ3.0>
  生まれた背景:外部環境が急激に変化する中で、企業のトップの最大の課題は、いかに新しいビジネスモデルを作るかに尽きる。そのためには1)アンラーニング(成功体験の否定)、2)ベンチャー思考(想像性を発揮しリスクをとる)、3)非連続性の発想、である。今まではトップ20%の人材と信頼関係を作っていればよく、下位の人材は入れ替えれば良いという考え方が主流であったが、これらを達成するためには、顧客により近い現場のリーダーに権限を渡し、トップは彼らを支援し、そこで彼らが活躍できるような場にすることが必要になる。つまりトップ20%だけでなく、全社員に対して注目する必要があるという認識がなされるようになってきた。ここから、人間を機械とみなすのではなく、個人のコンピテンシー(業績者には単にスキルや知識があるだけでなく、「良好な対人関係の構築力」「高い感受性」「信念の強さ」など複数の特性が見られる)、いわゆる人間力を重視していくこととなる。上下関係ではなく、社員を社内顧客として扱う。リーダーシップをあえて一言で表すなら「信頼」(by トーマス・ピーターズ)とも言われるようになった。

  支援者としてのリーダーシップ3.0:リーダーは組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を涵養する。と同時に個人個人とも向き合い、オープンにコミュニケーションを取り、働きかけて組織や個人の主体性、自律性を引き出す。組織全体をそのような場として整える。コミュニケーションは、組織の階層を通じて行うこともあれば直接現場の担当者に対して行うこともある。またそのコミュニケーションの対象は必ずしも社内に限らず、社外の参画意識を持った人々とのコラボレーションも促す。このようにして組織自体や組織内外の人々に対して支援することによってリーダーシップを発揮する。組織全体の価値創出のために個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて一体となれる組織が実現され、個人個人が自律的に動くことで優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。その点在する個人が事業に共鳴し参画意欲とともに集まり組織化され、試行錯誤を繰り返し、既存の情報を自分たちの目的に合うように新しく組み直し、新しい製品、サービス、生産システム、経営システムを作り出せれば、それがイノベーションとなる。
  リーダーのコミュニケーションは、メンバー一人一人と向き合う双方向性が必要になる。コラボレーションを絶えず促すような動きを、リーダー自身がとる必要がある。その点から人間性や人間味も非常に重要になる。
  サーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ)、羊飼い型リーダーシップ(リンダ・A・ヒル)、コミュニティシップ(ヘンリー・ミンツバーグ)、オープンリーダーシップ(シャーリーン・リー)、コラボレイティブ・リーダー(ハーミニア・イバーラ)、第5水準のリーダーシップ(ジェームズ・C・コリンズ)なども、このリーダーシップ3.0を示している。
  裏付ける理論:マネジメント2.0、場の理論とマネジメント、モチベーション3.0、マーケティング3.0、U理論などもリーダーシップ3.0を支持する内容となっている。

<3.0リーダーに必要とされるもの>
 要素1「ビジョンを持ち語る」

 要素2「リーダーになる」:ビジョンを持っている、情熱を持っている、誠実である、信頼を得ている、好奇心と勇気を持っている

 要素3「ミッションを持つ」:自分のギフトに気づき、それをミッションに生かす

 要素4「他者を支援するという自然の成長に従う」:40代に訪れると言われる「中年の危機」を迎えると今までの勝ちパターンが使えなくなる。そこで新しい自分のアイデンティティを確立する必要がある。そこで将来世代の幸福に対する関心が生まれる。

 要素5「人間力を磨く」:人を惹きつける独特の雰囲気、確固とした人生哲学や豊かな人間性、周囲の人を熱気に巻き込んで実現する人心掌握、社会的善を経験的に知っている、無理な目標を「できるかもしれない」と思わせる影響力、遊びも尋常でなく多様な人間を通して審美眼が磨かれている、場の状況を読み適切に対応することで他人の共感を呼び起こす

 要素6「仮面をとる」:リーダーは弱さを見せていい。自分の弱点を受け入れ、他者の不完全さも受け取る。フォロワーはリーダーが完璧であるからついていこうと思うのではない。ふとリーダーの弱みや人間的なところを見た時、なんとかこの人の足りない部分を支えたい、この人に成果をあげさせてあげたいとついてくる

 要素7「ファシリテートする」:場を提供し、フォロワーが自律的に動くように支えるためには、リーダーがファシリテーターの役目を果たすことが必要。問題解決アプローチではなく、ポジティブアプローチで。

 要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」:なぜやるのかを伝え、どうやるかは任せるのがエンパワーメント。どうやるかも指示するのが権限移譲。

 要素9「動機付けを行う」:外発的動機付けは機能しなくなっている。内発的動機付けとして「人と協力すること」、「仕事内容そのものに満足」、「自分で選択できるということ」がある。上司の期待と、任せられるという責任感が動機付けになる。

【開催日】
2015年8月5日(水)