ACP話し合い開始のタイミングに影響する患者の好みと要因:異文化間のmixed-method study

-文献名-
Jun Miyashita1,2 , Ayako Kohno3, Shao-Yi Cheng4, Su-Hsuan Hsu5, Yosuke Yamamoto2, Sayaka Shimizu2, Wei-Sheng Huang4 , Motohiro Kashiwazaki6, Noriki Kamihiro6, Kaoru Okawa7,
Masami Fujisaki8, Jaw-Shiun Tsai4 and Shunichi Fukuhara1,2

-要約-
<背景>
 ACPの話し合いは世界的に受け入れられつつあるが、その理想的なタイミングは不明であり、文化的な要因も関係していると考えられる。

<目的>
 日本と台湾の成人患者を対象に、事前ケア計画の話し合いを開始する時期とそれに影響する要因を評価する。

<デザイン>
 混合法による質問紙調査により、健康な状態から病気であることが明らかな状態までの4つの段階において、事前のケアプランに関する話し合いを開始したいと考えている患者の割合を定量的に測定し、望ましいタイミングの基盤となる質的な認識を明らかにした。

<セッティング/参加者>
 日本の4つの病院と台湾の2つの病院の外来を訪れる40~75歳の患者を無作為に募集した。

<結果>
 全体(700人中)では、日本では72%(365人中)、台湾では84%(335人中)が病前の話し合いを受け入れた(p<0.001)。病前の話し合いに積極的な要因は、日本では若年層、生命維持治療の拒否、台湾では高齢層、社会的支援の強さ、生命維持治療の拒否であった。考え方は大きく4つに分類され、最も多かったのは「賢明な予防策として話し合いを歓迎する」で、「終末期が近づくまで話し合いを延期する」「死は普遍的に避けられないものと受け止める」「医療者主導で話し合いを行う」を上回った。

<結論>
大多数の患者は、健康状態が著しく悪化する前に話し合いを開始することを望んでいるが、約5人に1人の患者は、明らかに死に直面するまで話し合いを開始したくないと考えている。事前介護計画を促進するためには、医療従事者は患者の嗜好や、事前介護計画の開始を受け入れるか否かに関連する要因に留意しなければならない。

<既知のこと>
・A C P話し合いに対して予想される、または実際にある、患者のネガティブな反応を考えると、医療従事者はその話題に触れることに躊躇いを感じる。患者は希望を失うかもしれないし、時期を誤ったACPは医師患者関係を悪化させるかもしれないからである。
・患者がいつACP話し合いへの心理的な準備ができるのかを知る手がかりとなる研究はほとんどない。

<この論文で追加されたもの>
・日本では72%、台湾では84%の回答者が、健康状態が悪化する前にACP話し合いを始めたいと考えている
・しかし、少数派だが20%の人々は、このような議論を人生の終わりが近づくまで延期したいと考えている
・アジア人の意識は均一ではなく、日本人よりも台湾人の方が、死は避けられないものであり、ACP話し合いは常識であると考える患者が多い。日本の患者は台湾の患者よりもACP話し合いに対して受動的な態度をとり、医療者主導でACP話し合いが行われることを好む

<実践、理論、政策への示唆>
・日本や台湾の患者の多くは、健康状態が大きく損なわれる前に話し合いを始めようとするが、明らかに終末期を迎えるまで話し合いに応じない人もいる
・したがって、ACPを推進するためには、医療従事者は、患者の好みの多様性やACPを受け入れるか否かに関連する文化的要因に留意する必要がある。

転ばぬ先の杖(賢明な予防策)
 将来、体が不自由になった時に備えて自分の意思を伝えておくべきだ
終末期までのACPの延期
 終末期が近づいていることを受け入れるまで、話し合いを始めるべきではない
終末期の普遍的な必然性
 人は誰でも死を免れないので、将来の医療について話し合う必要がある
医療従事者主導でのACP話し合い
 医療従事者が主導権を握れば、患者は迷わず話し合いに応じる

【開催日】
2021年12月8日(水)

高齢者の社会的孤立と患者体験

―文献名―
Takuya Aoki, Yosuke Yamamoto, et al. Social Isolation and Patient Experience in Older Adults. Ann Fam Med.2018;16(5):393-398.

―要約―
【背景】
社会的孤立とは、個人が社会的な帰属意識を持たず、他者との関わりを持たず、社会的な接点が少なく、質の高い人間関係を築けていない状態と定義されている。社会的孤立は,特に高齢者において大きな健康問題として認識されている。また社会的孤立は、全死亡、冠状動脈性心臓病や脳卒中による死亡、再入院、転倒、認知機能の低下、自殺による死亡のリスクを高めることがわかっている。一方で、患者経験は、治療へのアドヒアランスや医療資源の使用など患者の行動を通じて健康アウトカムに影響を与えることが知られており、これまでの研究で患者の経験には社会経済的な差異があることが報告されている。

【目的】
本研究では,高齢者のプライマリ・ケア患者における社会的孤立と患者経験との関連を検討した。

【方法】
2015年10月から2016年2月にかけて日本のプライマリ・ケア診療所ネットワーク(28診療所)を対象とした横断的研究である。社会的孤立については,Lubben Social Network Scale(略式)を用いて評価し,スコアが12点未満の患者を社会的に孤立していると分類した。またプライマリ・ケアに関する患者の経験については,プライマリ・ケア評価ツール(JPCAT)日本語版を用いて評価した。JPCATは,近接性,継続性,協調性,包括性(受けられるサービス),包括性(実際に受けたことがあるサービス),地域志向の6つの領域から構成されている。線形混合効果モデルを用いて,診療所内でのクラスタリングと個々の共変量を調整した。

【結果】
1939名の成人患者の中で調査に回答した644名のうち、65歳以上のプライマリ・ケアを受けている高齢患者465名のデータを解析した。表1は会的に孤立している参加者とそうでない参加者の特徴を比較している。研究参加者の特徴としては、女性(54.4%)、70歳以上(71.8%)、大学以下の学歴(79.3%)、複数の疾患を持つ患者(74.8%)が大半を占めた。また、社会的に孤立している患者の割合は27.3%であった。JPCAT100点満点中、最も得点の高かった領域は「継続性」で81.2点、最も得点の低かった領域は「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」で45.8点だった。また社会的に孤立している参加者は、JPCATスコアとSF-36のMental Health Indexスコアが低いことを示唆する傾向が見られた。表2は社会的孤立と,プライマリ・ケアにおける患者体験の指標であるJPCATスコアとの関連を調べた線形混合効果モデルの結果である。交絡因子と診療所内のクラスタリングを調整した結果,社会的孤立はJPCATの総合スコアと負の関係にあった(平均差=-3.67;95%CI,-7.00~-0.38)。JPCATのドメインスコアのうち、社会的孤立は、継続性、包括性(実際に受けたことがあるサービス)、地域志向性のスコアと有意に関連していた。特に「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」は社会的孤立と最も強い関連を示した(平均差=-7.58;95%CI、-14.28~-0.88)。

【研究の限界】
患者体験や社会的ネットワークの質が低い患者は、本研究の調査に回答する可能性が低かったと考えられ、もしそうであれば本研究における社会的孤立と患者体験との関連性が過小評価される原因となる可能性がある。

【結論】
社会的孤立は,高齢者のプライマリ・ケア患者のネガティブな患者体験と関連していた。プライマリ・ケア提供者の患者のソーシャル・ネットワークに関する意識を高め,社会的に孤立した高齢患者に対して,プライマリ・ケアの経験,特に継続性,包括性,地域志向に関する経験を改善することを目的とした介入を行うことが望まれる。

【開催日】
2021年10月13日(水)

アタッチメント理論(愛着理論)と継続性(医師患者関係)

-文献名-
Frederiksen, Heidi Bøgelund, Jakob Kragstrup, and Birgitte Dehlholm-Lambertsen.
“Attachment in the doctor–patient relationship in general practice: A qualitative study.”
Scandinavian journal of primary health care 28.3 (2010): 185-190.

-要約-
【目的】なぜ主治医とのinterpersonal continuityは患者にとって有用なのかを探索する

【デザイン・セッティング・対象】
22名の患者にインタビューを用いた質的研究をした。そのうち12名は毎回同じGPに診てもらっており、10名は馴染みの薄いGP(専攻医)に診てもらっていた。診察を観察後にインタビュー対象者を選択し、主訴(受診理由)、年齢、性別によって合目的に対象者を抽出した。研究テーマは心理学的理論を用いて対応した。

質的分析の方法論:*解釈的現象学的分析
「主治医との関係性を患者はどのように経験しているか?」
インタビュー逐語録の読み込み、テーマを注釈し、各テーマを連結させ、最後に、それらのテーマと
主観的な記述の理論的な意味を解釈するための適切な社会心理学的理論を結びつけた。その過程で、Attachment理論が、役立つ枠組みとして立ち上がってきた。

*Attachment理論とは:John Bowlby,1907―1990
主に幼少期における養育者などとの関係性,ことにアタッチメントattachment(愛着)が,人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論。 愛着理論ともいう。

【結果】
患者のinterpersonal continuityの有用性の理解にとって中心的問題は、attachmentの必要性であった。患者はGPとの人間的な関係性の構築をより好み、大多数の患者は医師患者関係の中にある、ある程度の脆弱性を述べた。病気が重症だったり心配が強いほど、患者は脆弱であり、毎回同じGPをより必要としていた。更に、たとえ医師患者関係が好ましくない状況であっても、GPを変えることは困難であると述べていた。

【考察 *抜粋記載】
病気になると、自動的に医師はアタッチメントの対象となる。アタッチメント理論では、安全になることよりも、安心感を得ることへの関心が述べられているが、医師はケアを提供するためのより賢く強い個人として認識される。またアタッチメント理論は、合理的な判断が個人の関係性で説明つかないことも説明することができる。患者は弱い立場(脆弱性)なので、好ましくない医師患者関係の場合も医師を変えるに至らないのだ。

【結論】
Attachment理論は、毎回同じGPに診てもらいたい患者ニーズの原理の説明を提供するかもしれない。患者という弱い立場は、ケア提供者へのattachmentの必要性を作り出す。この欲求は根本的なものであり、病いや怖さを感じる時に活性化される。

【開催日】2020年11月11日(水)

アドバンス・ケア・プランニングの適切なタイミングとは?

-文献名-
Nancy L. Schoenborn, MD, MHS, Ellen M. Janssen, PhD, Cynthia Boyd, MD, MPH, John F.P. Bridges, PhD, Antonio C. Wolff, MD,Qian-Li Xue, PhD and Craig E. Pollack, MD,MHSdoi: 10.1370/afm.2309 Ann Fam Med November/December 2018 vol. 16 no. 6 530-537

-要約-
目的: 臨床診療ガイドラインでは、プライマリケアにおける多くのことを決定するために、平均予後を組み込むことを推奨している。全国サンプルで平均余命を議論することの高齢者の好みを調べることを目的にした。
方法:2016年にnational probability-based on line panel(1)から1272人の高齢者(65歳以上)を招待した。我々はすぐに死ぬことがない平均余命が限られた仮想患者を提示した。私たちは参加者に、もし患者であったとしたら、どれくらい生きるか医師と話したいか話したくないか、医師がこの議論を切り出すことを容認できたかできなかったか、医師に平均余命について家族や友人に話してもらいたいかもらいたくないか、いつ話し合うべきかを問いかけた。
(1)あらかじめ登録してもらった人に世論や健康についてオンラインでアンケートをして答えてもらう仕組み
結果:参加者878人(69%の参加率)の平均年齢は73.4歳だった。過半数の59.4%は、提示されたシナリオでどれくらいの期間を生きることができるかについて議論したくないと回答した。このグループ内では59.9%も医師がこの話題を切り出すべきとは考えず、87.7%も医師が余命について家族や友人に話し合うことを望まなかった。55.8%の人は平均余命が2年未満の場合にのみ余命について話し合いたいと答えた。議論を持ちたいと積極的に関連する要因には、教育レベルが高いこと、医師が余命を完璧に予想できると信じていること、生命に関わる病気や愛する人の余命について過去に経験したことがあることがあった。宗教が重要であるという報告は否定的に関連していた。
結論:高齢者の大部分は平均余命が限られている仮想の患者を描いた時、平均余命を議論することを望まなかった。また多くの人はこの議論を提供されることを希望しなかった。 そして臨床医がこのデリケートなトピックに関する患者の好みを同定する方法についてのジレンマを提起する
discussion:臨床医が最初に患者の病気や平均余命に関する議論の経験や平均余命に関する患者の信念を探り、平均余命の議論に対する患者の感受性を評価することがこのジレンマの解決法の一つになる可能性がある。継時的にそれらを評価するのが良い。患者の人生における重大な健康問題や患者家族の重大な健康問題の後に重要かもしれない。平均余命が1-2年になった時もアプローチするタイミングかもしれない。
限界:ITリテラシーの低い高齢者などのサブグループを代表していない可能性がある。架空のシナリオであるため参加者の回答は実際の行動を反映していないかもしれない。さらに単一のシナリオでは患者の健康状態の多様性や健康の動的な自然経過を把握できない可能性がある。

【開催日】2020年2月5日(水)

患者と家族からみたケアの移行,受け渡し(退院支援)

-文献名-
Suzanne E M et.al. Care Transitions From Patient and Caregiver Perspectives. Ann Fam Med 2018; 16: 225-231.

-要約-
<目的】> ケアの移行/受け渡し(退院支援)を効率的に行うために協調的な対策がとられているにも関わらず,病院から自宅(home)への行程/道のりは患者と介護者にとって危険に満ちたものである.患者と介護者がケアの移行/受け渡し(退院支援)の経験や彼らが望むサービス,彼らにとって価値あるアウトカムについてはほとんど知られていない.この研究の目的は(1)ケアの移行/受け渡し(退院支援)における患者と介護者の経験を描写すること,(2)患者と介護者にとって望ましいケアの移行/受け渡し(退院支援)のアウトカムやそれに関連する健康関連サービスの特徴を明らかにすることである.

<方法>
米国内の6つの健康ネットワークから採用された138名の患者と110名の家族介護者にインタビューを行った.34の同質なフォーカスグループ(103名の患者と65名の介護者)と80のkey informant interview(質的研究において「核となる情報提供者」から問題に関する情報を収集するときに行う方法)実施した.録音された記録を文字起こしし,グラウンデッド・セオリーの手法を用いて分析し,複数のテーマとそれらの関係性を明らかにした.

<結果>
患者と介護者によりケアの移行/受け渡し(退院支援)について望まれるアウトカム3つが示された.
(1) 医療職に「Cared for:世話をされた」「Care about:かまってもらった」と感じること
(2) ヘルスケアシステムによる明解で責任ある説明をうけること
(3) ケアプランを実行する上で「準備ができて」「実行可能である」と感じること
5つのケアの移行/受け渡し(退院支援)や医療提供者の行動がこれらのアウトカム実現に関連していた.
(1) 共感的な言葉とジェスチャーを用いること
(2) 自宅(home)におけるセルフケアを支援するために患者のニーズを先読みして手を打つこと
(3) 退院計画を協同で建てること
(4) 実行可能な情報を提供すること
(5) 最小限の受け渡しにより切れ目のないケアを提供すること

<結論>
連続するケアを通じた明解な説明責任,ケアの継続性,ケアの態度が,患者と介護者にとって重要なアウトカムであった.これらのアウトカムが達成されたとき,ケアは素晴らしい,とか信頼に足ると受け止められる.一方,ケアの移行/受け渡し(退院支援)が業務的で安全でないと経験され,患者や家族にヘルスケアシステムから見放されたと感じさせていることも示された.

【開催日】2018年10月17日(水)

Ambulatory care sensitive conditions(プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と家庭医による継続性の関係

―文献名―
Isaac B, Adam S et al. Association between continuity of care in general practice and hospital admissions for ambulatory care sensitive conditions: cross sectional study of routinely collected, person level data. BMJ. 2016;356:j84.

―要約―
【目的】
 家庭医によるケアの継続性がambulatory care sensitive conditions(※1;プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と関連があるかを評価するため。

【デザイン】
 横断研究

【セッティング】
 英国Clinical Practice Research Datalinkに参加し接続しているプライマリ・ケアまたはセカンダリ・ケアの200の家庭医療の医療機関。

【参加者】
 2011年4月から2013年3月までの間に少なくとも2回家庭医を受診した62歳から82歳の人230,472名。

【主要評価項目】
 2011年4月から2013年3月までの期間の患者1人あたりのambulatory care sensitive conditions(家庭医が外来でマネジメント可能であると考えられる)による入院数。

【結果】
 usual provider of care index(UPC; ※2)を用いてケアの継続性を評価した。
 平均のUPCは0.61。ケアの継続性の高さによる3グループに分けても年齢・性別・社会経済的状態に違いはなかったが、ケアの継続性の低いグループではより頻回に受診する傾向が見られた(Table1)。また、医師数の多い医療機関ほどUPCは低い傾向にあった(大きな医療機関で0.59,小さな医療機関で0.70)(Table2)。
 平均すると研究機関において患者1人あたり0.16回のambulatory care sensitive conditionsによる入院を経験していた(Table1)。
山田先生図①

山田先生図②

 高齢なほど、専門医への紹介が多いほど、慢性疾患が多いほど、家庭医への受診が頻回なほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は多い傾向にあった(Table3)。
山田先生図③

 こういった共変量を調整すると、UPCが高い患者ほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は減る傾向にあった(Table4)。
山田先生図④

 モデル化し人口統計的・患者の臨床状況を調整した場合。全ての患者のUPCが0.2上昇すると入院は6.22%減少する(95%CI 4.87%-7.55%,Table5)。
 サブグループ解析ではプライマリ・ケアの頻回利用患者においてその関連性はより強固に現れた。頻回利用者程ambulatory care sensitive conditionsによる入院が増える傾向にあり(家庭医を研究期間に18回以上受診した患者1人あたり0.36回の入院、2-4回の患者1人あたり0.04回の入院)、UPCが0.2上昇するとambulatory care sensitive conditionsによる入院が有意に減少することが示された(Table5)。
山田先生図⑤

【結論】
 家庭医療におけるケアの継続性(この文献ではUPC)を改善すると2次医療のコストを削減できる可能性がある。とくに医療を頻回に利用する患者においてはそうである。
 ケアの継続性を促進することによって患者や家庭医療の現場で働くものの経験も改善する可能性がある。

【What is already known on this topic】
 予期せぬ入院を減らすために多くのヘルスケアシステムはプライマリ・ケアへのアクセスの迅速さと平等性に焦点を当ててきた。英国においてケアの継続性は低下の傾向にあり、それはおそらくアクセスの改善・促進と継続性の間にトレードオフがあるためであろう。ケアの継続性は患者と医師の満足度に関連しているが、入院との関連は明らかにされていなかった。

【What this study adds】
 ケアの継続性はプライマリ・ケアでマネジメント可能なAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院を低下させる。家庭医の頻繁な利用者においてはケアの継続性とAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院の関連が最も強く認められた。ケアの継続性を改善させる戦略はケアの質とコストを同時に改善させる可能性があるが、その方法については評価が必要である。

※1 Ambulatory care-sensitive conditions (ACSCs)
 以下のリンクを参照して下さい.
 http://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2013/10/08/162442

※2 Usual provider of care index(UPC)
 UPC=numbers of visits with assigned provider/total visits
山田先生図⑥

【開催日】
2017年3月1日(水)

継続性の効果

―文献名―
Dong Wook Shin, et al. Impact of continuity of care on mortality and health care costs; a nationwide cohort study in Korea. Annals of family medicine. 2014, vol. 12, no. 6, p. 534-541.

―要約―
【目的】
 ケアの継続性は、質の高いプライマリ・ケアの中核要素と考えられているが、死亡率と医療費に及ぼす影響についてはまだ明らかになっていない。そこで、新たに心血管リスクとなる疾患と診断された患者の死亡率、医療費、健康アウトカムに対するケアの継続性の影響を調べることを目的とした。

【方法】
 韓国の国民健康保険加入者のうち3%を無作為に抽出し、コホート研究を行った。 2003~2004年に高血圧、糖尿病、高コレステロール血症あるいはその合併症と新たに診断された、合計47,433人の患者がエントリーされた。ケアの継続性の指標としてmost frequent provider continuity(MFPC)、modified, modified continuity index(MMCI)、continuity of care index(COC)を設定し、これらの指標と5年以上のフォローアップで起こったアウトカムとの関連を評価した。アウトカムの評価には全死亡率、心血管死亡率、心血管イベントおよび医療費が含まれた。

【結果】
 COCの中央値以下の群と中央値以上の群に分けて比較したところ、多変量調整済ハザード比は、全死亡率1.12(95%Cl, 1.04-1.21)、心血管死亡率1.30(1.13-1.50)、心筋梗塞の発症1.57(1.28-1.95)、脳梗塞の発症1.33(1.27-1.63)であった。他の継続性の指標からも同様の結果が得られた。ケアの継続性の低さは入院患者と外来患者の入院・通院期間と医療費の増加とも関連していた。

【結論】
 新たに高血圧、糖尿病、高コレステロール血症と診断された患者において、ケアの継続性の低さは、全死亡率、心血管死亡率、心血管イベントおよび医療費の高さと関連していた。そのため長期にわたる患者-医師間の信頼関係をサポートするように医療制度をデザインしていく必要がある。

Appendix1. Continuity of care indices
ex) patient 1 visited 3 providers (ABAACAAA), patient 2 visited 4 providers (ABCBADEA)
1) most frequent provider continuity(MFPC):もっとも受診頻度の高い医師への受診密度 
ex) patient 1: 6/8, patient 2: 3/8
2) modified, modified continuity index(MMCI):医師のバラつき具合
ex) patient 1: (1-3/8.1)/(1-1/8.1), patient 2 (1-5/8.1)/(1-1/8.1) 
3) continuity of care index(COC):それぞれの医師への受診頻度と医師のバラつき具合を併せたもの
ex) patient 1: [(62+12+12)-8]/[8*(8-1)], patient 2: [(32+22+12+12+12)-8]/[8*(8-1)]

【開催日】
2014年12月10日(水)

複数の医師を受診する患者のケアの継続性

 - 文献名 -
 Experienced Continuity of Care When Patients See Multiple Clinicians: A Qualitative Metasummary Ann Fam Med May/June 2013 vol. 11 no. 3 262-271(http://www.annfammed.org/content/11/3/262.full)

 - 要約 -
PURPOSE 
Continuity of care among different clinicians refers to consistent and coherent care management and good measures are needed. We conducted a metasummary of qualitative studies of patients’ experience with care to identify measurable elements that recur over a variety of contexts and health conditions as the basis for a generic measure of management continuity.
METHODS 
From an initial list of 514 potential studies (1997-2007), 33 met our criteria of using qualitative methods and exploring patients’ experiences of health care from various clinicians over time. They were coded independently. Consensus meetings minimized conceptual overlap between codes.
RESULTS
For patients, continuity of care is experienced as security and confidence rather than seamlessness. Coordination and information transfer between professionals are assumed until proven otherwise. Care plans help clinician coordination but are rarely discerned as such by patients. Knowing what to expect and having contingency plans provides security. Information transfer includes information given to the patient, especially to support an active role in giving and receiving information, monitoring, and self-management. Having a single trusted clinician who helps navigate the system and sees the patient as a partner undergirds the experience of continuity between clinicians.
CONCLUSION
Some dimensions of continuity, such as coordination and communication among clinicians, are perceived and best assessed indirectly by patients through failures and gaps (discontinuity). Patients experience continuity directly through receiving information, having confidence and security on the care pathway, and having a relationship with a trusted clinician who anchors continuity.

 開催日:平成25年6月19日

国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす

【文献名】
Shou-Hsia Cheng, et al. : A longitudinal examination of continuity of care and avoidable hospitalization. Evidence from universal coverage health care system. Arch Intern Med: 170(18): 1671-1677.
 
【要約】
<背景と目的>
台湾は1995年に皆保険制度を導入し、99%の国民が加入している。家庭医療科は23ある専門診療科の1つと位置づけられ、国民は自分の症状に合わせて自由に診療科を選び紹介状なしで受診することができる。国民1人あたりの受診頻度は15回/年と世界で最も高い国の一つであり、台湾国民の受療行動は「ドクターショッピング」と批判を受けることもある。このような環境は患者と医師のコミュニケーションや信頼関係やケアの継続性を損ないやすい。先行研究ではケアの継続性を高めることがERの受診を減らすこと、疾病の予防が進められること、入院を減らすこと、慢性疾患のコントロールが改善すること、ICUの利用が減ることが示されているが「避けられる入院」については研究されていない。一方で「避けられる入院」とプライマリ・ケアとの関連は研究されているが、ケアの継続性との関連を研究したものは少なく、十分な結果は得られていない。この研究では台湾の医療環境におけるケアの継続性の「避けられる入院」に対する影響を知ることを目的としている。

<方法>
2000年1月1日から2006年12月31日の期間、健康保険への請求データから医療サービスの利用状況を調査した。この期間に3名以上の医師を利用した30830人の患者がランダムに選択され、3つの年齢層に分けて解析した。主要アウトカムは避けられる入院と全ての入院とした。年齢、性別、低所得かどうか、ベースラインの健康状態、time effect、random subject effectを調整するためにrandom intercept logistic regression modelを利用した。
ケアの継続性の指標はContinuity of care index (COCI)を用いた。
COCIは患者がかかった医師の数とそれぞれの医師に受診した数からなる式で示される。
COCI=(Σnj2-N)/N(N-1)(Σの下にj=1,上にM)
Nは医師に受診した総回数、njは1人の医師を受診した回数、jは医師の番号、Mは医師の数。
COCIは0-1の間の数値で表され、1に近いほどケアの継続性が高い、とされる。
COCI自身に本来的な意味はないため、この研究では対象となった患者のCOCI値の分布を元に0.00-0.16をlow、0.17-0.33をmedium、0.34-1.00をhighとした。
「避けられる入院」はIOM(institute of medicine)による定義を用いた。

<結果>
3つ全ての年齢層においてCOCIが高ければ避けられる入院が発生する可能性は低かった。
全ての入院においても同様であった。

Table3 より抜粋 避けられる入院とCOCIの関連
 
110316_1

Table4 より抜粋 入院全体とCOCIの関連
 
110316_2

<結論>
フリーアクセス(この論文ではeasy access to careと記載)の環境下においてもケアの継続性を良好に保つことは避けられる入院、入院全体を減らすことにつながる。ケアの継続性を改善することが皆保険制度の中に置いても有効な戦略といえる。
 
【考察・ディスカッション】
台湾と同様に皆保険制度・フリーアクセスのシステムを取る日本においても、ケアの継続性(COCI)を高く保つ(多診療科受診を控えること、と言いかえてもいいだろうか)ことは避けられる入院、入院数全体を減らすことにつながる、と言え、日本の医療費高騰の解決策の一つとして家庭医療科の設置が有力であることのエビデンスになるのではないだろうか?
この研究の限界は自費診療を含んでいないこと(非常に少なくはあるが),患者の教育レベルなどの情報を加味して調整していないこと、結果を家庭医からの紹介を原則とする国には適用しにくいことであろう。
 
【開催日】
2011年3月16日

ケアの継続性 ~どう学び、どう教えるか?~

【文献】
Karen Schultz:Strategies to enhance teaching about continuity of care.
Can Fam Physician Vol. 55, No. 6, June 2009, pp.666 – 668

【要約】
 ケアの継続性の教育においてはその重要性や長所と共に、長期的な治療関係における困難な側面と、それを扱うための対処についての教育も重要である。
以下は、ケアの継続性の多面的な要素について教育するための方法である。
ケアの継続性の6つのコンポーネントの教育方略
1.長期的な継続性 :時間経過のある診療の経験
《長所》
やったことの結果をみることができる、先送りせず困難な状況を扱うことを学ぶ
《実施計画》
(1)自分で同じ患者さんをフォローアップするための方法を伝える。
(2)受付にそのレジデントがいないときに予約しないように頼む。
(3)ローテーションの中間の振り返りで、一連の受診についてFeedbackを与える。

2.情報の継続性 :過去のケアの情報へのアクセス
《長所》
患者ケアの効率と安全性が向上する
レジデントが患者の経緯を知っていることで患者の満足度が向上する
《リスク》
記録が不完全(特に今後のプランに関して)
《実施計画》
(1)最初の診療計画を立てるために検査室(電子カルテの前)での仕事を指示する
(2)もし可能で適切であれば、特に複雑な患者についての知識をローテの初期に伝え、総合的なアセスメントを立てておく
(3)初回の診療時にレジデントに患者の背景情報を伝える
(4)引き継ぎのサマリー記載を依頼する(書く方、受け取る方双方にメリットあり)

3.地理的な継続性 :多様なセッティングでのケアの経験
《長所》
環境を手掛かりに患者を理解するための洞察が増える
治療的関係が強化される
《リスク》
時間、安全性
《実施計画》
(1)レジデントに往診や施設訪問の要請に応えてもらう
(2)病棟訪問を担当してもらう
(3)来診の度に患者についてもらう(リハビリや検査などにも)

4.多職種間の継続性 :ケアが多職種で提供され、調整されていることを知る
《実施計画》
(1)診療の一連の行為/診療に携わったり手伝ったりする
(2)患者についての全ての紹介状を見せる

5.家族・地域の継続性 :様々な家族、コミュニティにケアが提供されていることを知る
《長所》
患者について更なる洞察を提供する
《リスク》
秘密保持、家族・コミュニティに吸収される?
《実施計画》
(1)長期的な診療をしている患者リストを作成し、その家族のメンバーをみる
(2)夫婦や育児などについての外来予約を取る

6.関係性の継続性 :医師患者関係を確立する
《長所》
仕事のやりがいの増加、仕事の満足度の増加、患者ケアのアウトカムの向上、訴訟リスクの軽減、自信が生じ医師自身の効果を実感する
《リスク》
い つもの決まったやり方で自己満足になる、患者の健康・マネージメント・仕事と生活のバランスの摩擦についての心配や不安が高まる、(運転、犯罪、児童保護 などで)伝えるべきことへの葛藤が生じる、患者が亡くなったり障害を負ったときに医師にも悲嘆反応が生じる、患者の依存が生じる、境界についての問題が生 じる
《実施計画》
(1)意識的に、継続性が鍵となる(治療的関係性を必要とする)患者を担当してもらう
(2)自身が(継続性の長所短所・短所への対応を見せる)ロールモデルとなる
(3)困難な患者のケアを支援・促進する

【開催日】
2010年11月10日(水)