-文献名-
Kerebel Y, Duguet T, Kapassi A, Figoni H, Colas-Charlap AL, Pariente L, Perroteau F, Moussaoui S, Bonello K, Chastang J.
How do patients perceive the retirement of their general practitioner? A qualitative interview study in France. BMJ Open. 2024;14(6).
-要約-
<Introduction>
かかりつけ医の引退時期や、医師自身が引退をどのように捉えているかについては、これまでにも研究されてきた。一方、長年診療を受けてきた患者が、かかりつけ医の引退をどのように経験し、どのような感情や期待を抱くのかは、十分に検討されていなかった。
フランスでは一般医の減少と地域偏在が続いており、医師の引退が患者の医療アクセスや継続性に与える影響が問題となっている。本研究は、患者がかかりつけ医の引退をどのように受け止めるのかを明らかにすることを目的とした。
<Method>
フランス・イル=ド=フランス地域圏エソンヌ県にある2つの一般診療所で、2014年1月から4月にかけて半構造化インタビューを実施した。
対象は、退職予定の一般医を自身のかかりつけ医として登録していた18歳以上の患者であり、13人の女性と5人の男性、計18人が参加した。年齢は21~94歳であった。
インタビューでは、医師との関係、医師の引退を知った際の感情、引退後の医療への期待などが尋ねられた。得られた語りは、個人の体験とその意味づけを深く理解するための質的研究手法である解釈的現象学的分析を用いて分析された。新たなテーマが得られなくなるデータ飽和を確認したうえで、参加者の募集を終了した。
<Results>
分析の結果、患者の経験は時間的な流れに沿った3つの主要テーマに整理された。
1.これまでのかかりつけ医との関係
医師患者関係は、複数回の診察と長い時間の積み重ねによって形成されていた。
患者は、医学的能力だけでなく、話を聴く姿勢、コミュニケーションの仕方、人柄、診療への姿勢など、自分が重視する特徴に基づいて医師を選んでいた。その結果、選ばれた医師は患者にとって代替しにくい、固有の存在となっていた。
また、医師が本人だけでなく、配偶者、子ども、親など家族全体を診療している場合、家族を介した複数のつながりが生まれ、医師との関係はさらに強化されていた。
2.かかりつけ医の引退が関係に与える影響
医師の引退は、それまで時間をかけて築かれてきた関係の中断として経験されていた。
患者の反応には幅があり、比較的淡々と受け止める人がいる一方で、強い喪失感や、実際の悲嘆に近い感情を示す人もいた。医師の引退は単に診療担当者が変わることではなく、自分のことを理解し、これまでの経過や家族背景を知っている人物を失う出来事となっていた。
特に、長期間同じ医師に診療を受けてきた患者や、医師との関係を重視してきた患者にとって、その影響は大きかった。
3.引退後の将来への見通し
患者は、かかりつけ医の引退後に誰から診療を受けるのか、新しい医師と再び信頼関係を築けるのかを考え、将来を見通そうとしていた。
新しい医師を探すことは、単に医療機関を選択することではなく、自分が重視する医師の資質や診療スタイルに合う人物を改めて探す過程でもあった。
患者が今後の受療について準備するためには、医師の引退を事前に知り、新しい医師や診療体制について見通しを持てることが重要と考えられた。
<Discussion>
本研究は、かかりつけ医の引退が患者にとって、単なる医療提供者の変更ではなく、長年築いてきた関係の喪失となり得ることを示した。
患者の反応は一様ではないが、一部の患者にとっては、医師の引退が悲嘆に近い感情を生じさせる。したがって、医師や診療所は、引退を個人的なキャリア上の出来事としてのみ扱うのではなく、患者に与える影響を認識し、早期から移行の準備を行う必要がある。
本研究の強みは、これまで医師側の視点から語られることの多かった引退について、患者の主観的な経験を幅広い年齢層から聞き取った点である。また、解釈的現象学的分析を用いることで、表面的な賛否だけでなく、患者にとって医師の引退がどのような意味を持つのかを描き出している。
一方、対象はフランスの一地域にある2診療所の18人に限られており、他の地域や医療制度へ結果をそのまま一般化することはできない。参加者は長年の医師患者関係に比較的関心の高い患者に偏っている可能性もある。また、インタビューは2014年に実施されており、論文発表までに約10年が経過している。
さらに、本研究が対象としたのは、予測可能で永続的な「引退」である。研修医の異動や一定期間後の転勤、グループ診療内での担当変更とは状況が異なる。本研究から、どのような引き継ぎ方法が最も効果的かを直接結論づけることもできない。
【開催日】2026年8月5日(水)






















