宗教的な話題の特徴

―文献名―
McCord G, Gilchrist VJ, Grossman SD, et al. Discussing Spirituality With Patients: A Rational and Ethical Approach. The Annals of Family Medicine. 2004;2(4):356-361. doi:10.1370/afm.71

―要約―

Introduction
 医療におけるスピリチュアルな問いかけについては、議論の余地がある。患者のスピリチュアリティや宗教性は、罹患率や死亡率の低下、身体的・精神的健康の向上、より健康的なライフスタイル、必要な医療サービスの減少、対処能力の向上、幸福感の向上、ストレスの減少、病気の予防などと相関することが示されている。これらの研究の多くは批判されているが、ほとんどの医師はスピリチュアリティが患者の身体的・精神的幸福にプラスの影響を与えると考えている。患者は医師とのスピリチュアルな話し合いを望み、スピリチュアルな健康は身体的な健康と同様に重要であると考えているが、スピリチュアルな話し合いはほとんど行われていないと報告されている。外来患者を対象とした研究では、13%から73%の患者が、自分のスピリチュアルな信念や宗教的な信念を医師に知ってもらいたいと考えていることが分かっている。医師の問題点としては、確立された専門分野を離れて非医学的な課題を推進すること、スピリチュアリティに関するトレーニングの欠如、医師がパストラル・カウンセラーとして活動することの倫理性、危害を加える可能性、時間的制約、プライバシーの侵害、どの患者が話したいのかを判断することの難しさなどが挙げられる。本研究では、医師がスピリチュアルおよび宗教的信念の全体的な評価を患者中心に行えるようにするため、(1)幅広い臨床場面でのスピリチュアルな話し合いの受け入れ、(2)患者が自分の信念について医師に知ってほしいと思う理由、(3)患者がこの情報を使って医師にしてほしいこと、(4)スピリチュアルな話し合いを望む可能性の高い患者を予測するモデルについて調査した。

※パストラルケア=スピリチュアルケア+宗教的ケア(スピリチュアルケアを広義におこなっていて宗教的ケアを含む場合はほぼ同じ意味)

Method
 訓練を受けたリサーチアシスタントが、オハイオ州北東部にある4つの家庭医研修施設と1つの民間グループ診療所の待合室で、同意した患者と同伴の成人を対象に質問票を実施した。人口や地域の情報、本人と家族の一般的な健康状況、SF-12、医療に関するスピリチュアルな信念、宗教の状況、および医師がスピリチュアルな信念や宗教的信念について議論する際の適切な状況、理由、および期待に関する参加者の評価をアンケート調査で得た。
 可能な限り多くの人を対象とするため、本調査ではスピリチュアリティの定義は特に回答者に伝えなかった。スピリチュアリティに関するすべての質問は、”精神的または宗教的な信念 spiritual or religious beliefs”という言葉で表現された。Koenigによるとアメリカ人の多くがスピリチュアリティと宗教を区別していないと考えられる。

RESULT
 921名(患者798名、付添い人123名)がアンケートに答え、492名が拒否し、回答率は65%だった。回答者のベースラインはtable1に示す。SF-12の身体的要素のサマリースコア(平均値=47.0)および精神的要素のサマリースコア(平均値=48.0)は、回答者の健康状態が米国の一般人口の平均値(身体的50.1、精神的50.0)と比較して有意差はなかった。リサーチアシスタントは、参加を拒否した人の年齢を推定した。この推定によると、60歳以上の方の参加拒否率が高くなった
回答者の17%は自分のスピリチュアルな信念について質問されたくないと答え、63%は状況に応じて質問されたいと答え、20%は常に自分の信念について医師に知ってもらいたいと答えた。また、以前に医師から質問を受けたことがあると答えた人はわずか9%で、18%は質問されずに医師に伝えたと答えました。
 自分の信念について「いつも」もしくは「ときどき」医師に知ってもらいたいと思うと答えた回答者には、医療場面のリストを提示し、スピリチュアリティに関する会話が歓迎されるかどうかを尋ねた(table2)。スピリチュアルな話が最も歓迎される状況は、命にかかわる状態、重篤な病気、愛する人の死であった。歓迎されない場面としては、健康診断や検診の際の問診、軽い病気の受診などが挙げられた。
 信仰について「いつも」もしくは「ときどき」医師と話し合いたいと答えた人は、スピリチュアルな信念について医師に知ってもらいたい理由として、87%が自分の信仰が病気への対処法にどのような影響を与えているかを医師に理解してもらいたいと考えており、85%が自分を人としてよりよく理解してもらいたいと考えており、83%が自分の意思決定を医師に理解してもらいたいと考えていた(table3)。思いやりの提供、現実的な希望の奨励、病気になったときのケアの仕方のアドバイス、治療法の変更、スピリチュアル・カウンセラーの紹介などは50%以上が支持した。医師と一緒に祈る(33%)、医師に「ただ聞いてもらう」(22%)は、好まれない行動であった。
 ロジスティック回帰モデルの結果をtable4に示す。スピリチュアルな話し合いを望む傾向が強かったのは、30〜64歳の回答者(オッズ比[OR]=2.1)、スピリチュアルな信念が医療上の決定に影響すると評価した回答者(OR=3.0)、病気の時に信念が希望を与えると答えた回答者(OR=4.5)、1〜5のスケールで自分をよりスピリチュアルだと評価した回答者(このスケールが1ポイント上がるごとにOR=1.3)であった。
 アンケートには3つの自由形式の質問があった。「あなたの宗教的・スピリチュアル的信念が、あなた自身やあなたの身近な人が関わる医療上の決定に対処する方法に影響を与えた経験や状況を思い浮かべることができますか」という質問に対して、377名の回答者ができると答え、340名(41%)が例を挙げました。これらの回答の大部分は、スピリチュアルな信念からのサポートを見つけたという側面がありました。また、85人の回答者が「祈り」を具体的に挙げています。避妊、中絶、出生前検査などの治療法の決定については、22人が言及しており、手術は8人、投薬は5人、輸血は5人でした。死に直面したときの信仰の役割については、多くの回答者が言及していますが、生命維持装置を導入するか見送るかの判断については、46人の回答者が具体的に言及しています。2つ目の自由形式の質問、「あなたの医療上の決定に影響を与えるようなスピリチュアル的、宗教的な信念がありますか?267人の回答者が「はい」と答え、235人(88%)が例を挙げました。回答のほとんどは、「常に神の導きを求める」などの一般的なコメントでしたが、中絶反対の意見が46件、終末期の決断について38件、祈りについて26件、輸血を拒否すると答えた人が9件ありました。3つ目の自由記述の質問は、アンケートの最後に、質問やコメントを求めるものでした。その結果、13件の回答がありましたが、いずれも重要な情報はありませんでした。

DISCUSSION
 今回の結果は先行研究ともよく一致する。
 今回の研究では、人々がスピリチュアルな情報を医師にどのように伝え、それが医療にどのような影響を与えるのかを明らかにしたことが大きな貢献である。最も重要なテーマは、「理解」、「思いやり」、「希望」であることがわかった。この研究のもう一つの貢献は、話し合いを望む人の予測因子を検討したことだ。以下の4つの予測因子が見つかった。(1)病気の時に希望を与える信念を持っている、(2)医療上の決定に影響を与える信念を持っている、(3)年齢が30〜64歳である、(4)自分をよりスピリチュアルであると評価している。これらの要素に基づいた簡単なアンケートが、スピリチュアルな評価を構成する可能性がある。
 今後の研究では、受診時に日常的に質問を行うことが患者と医師の双方にどのような影響を与えるかを調査し、その受け入れ可能性を判断することが考えられる。
 この研究では60歳以上の人は参加を拒否する傾向があることが示唆されたが、先行研究も含めて参加を拒否する、つまりスピリチュアルな話し合いを避けうる理由は分かっていない。

【開催日】
2021年8月11日(水)

疼痛に対しての鍼治療

-文献名-
ROBERT B. Acupuncture for Pain. Am Fam Physician. 2019 Jul 15;100(2):89-96.

-要約-
鍼治療は忍容性が高く、重篤な副作用のリスクはほとんどない治療法であり、疼痛に対しての統合治療、補完治療として普及してきている。鍼治療の効果は、内因性オピオイド・セロトニン・ノルエピネフリンの放出が侵害受容器や炎症性サイトカイン、運動器に作用するのではないかと考えられているが、正確には解明されていない。また、鍼の技術、使用鍼数、鍼保持時間、経穴の特異性、治療回数、主観的(心理的)要因など、複数の要因が寄与している可能性がある。
鍼治療の効果は、急性/慢性腰痛、変形性膝関節症、頭痛、筋筋膜痛、頸部痛、線維筋痛症で発表されている。
鍼治療のシステマティックレビューでは統計的にも臨床的にも効果が示されたものもあるが、鍼治療は盲検化が難しく、バイアスの問題は大きい。また、真の鍼と偽の鍼の治療(下図参照)での効果の差は有意ではなかった。鍼治療の効果には患者の期待、治療の儀式、鍼灸師との関係性、プラセボなどの様々な要因が効果因子となっているのではないかと思われる。
忍容性・副作用:10%以下に倦怠感、局所の疼痛、頭痛。入院・後遺症が残る・死亡といった重篤なイベントはなし。気胸や重篤な感染症の報告は稀。

補足:verum needle(真)とsham needle(偽)について
JC201912佐野1

JC201912佐野2

JC201912佐野3-1

JC201912佐野4-1

【開催日】2019年12月4日(水)

【EBMの学び】慢性心不全と利尿薬

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年11月9日
【臨床状況のサマリー】
 78歳男性、慢性心不全、慢性心房細動あり、イグザレルト10mg,フロセミド20mg,アムロジピン5mgを内服している。当院へ定期通院を切り替えたいという主訴で受診した。初回外来で、2週前から体重が3kg増え、足のむくみが増強し、倦怠感や起座呼吸があると訴えあり。胸部レントゲンでは両側胸水貯留がみられ、心エコーでは収縮能低下(EF38%)、中等度MR、中等度ARがみられた。うっ血性心不全と診断し、フロセミド40mgへ増量したが改善なく、予定入院とした。入院日までフロセミドを60mgへ増量して処方した。入院後はもとのフロセミド60mg内服にラシックス20mg静注を追加した。1週間で著明に下腿浮腫軽減し、体重減少がみられ、起座呼吸や倦怠感も消失した。脱水傾向も認めず、静注を中止しすべて内服へ切り替えようとした。フロセミド80mg内服を検討していたが、上級医のすすめで長時間作用型のループ利尿薬アゾセミド(商品名ダイアート)の存在を知った。アゾセミドは緩徐な利尿効果を示すため、内服直後の頻尿を解消する可能性があるということであった。過去の臨床試験で、フロセミド20mgに対してアゾセミド30mgが同じ尿量排泄を促すということであったので、予定しているフロセミド80mg内服を単純換算するとアゾセミド120mgとなる予定であった。果たして患者の予後やQOL改善に良い影響をもたらすのか疑問に思った。

 P;70台の心房細動を持つ慢性心不全患者.NYHA2度.
 I(E);ダイアート120mg投与
 C;フロセミド80mg投与
 O:QOL改善

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Superiority of Long-Acting to Short-Acting Loop Diuretics in the Treatment of Congestive Heart Failure– The J-MELODIC Study –. Masuyama T, Tsujino T, Origasa H, Yamamoto K, Akasaka T, Hirano Y, Ohte N, Daimon T, Nakatani S, Ito H. Circ J. 2012;76(4):833-42.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;年齢中間値71歳で,NYHA2〜3度の慢性心不全のある患者320名
 I(E);アゾセミド30〜60mg/day
 C;フロセミド20〜40mg/day
 O;2年間の心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による緊急入院の率を下げる
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
 PROBE法が採用されている。
 ※PROBE法とはProspective, Randomized, Open-labeled Blinded Endpoints(前向きランダム化オープンラベル試験)の略。参加者(患者)と介入実施者(医師)の二者は、経過中、治療群と対照群のどちらに割り付けられたかを知っているが、Outcome評価者はそれを知らずにOutcomeを評価する方法である。(はじめてトライアルシートより(南郷医師のHPより))
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
1)Primary outcome
 心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による再入院
 介入群23/160,対照群34/160.p=0.03
2)Secondary outcome
 うっ血性心不全による再入院または心不全の治療薬変更が必要になった
 介入群26/160,対照群36/160.p=0.048
すべての死亡率
 介入群17/160,対照群17/160.p=0.99
3) Component events
 心血管イベントによる死亡
 介入群7/160,対照群11/160.p=0.36
 うっ血性心不全による緊急入院
 介入群19/160,対照群29/160.p=0.04
 心不全の治療薬変更が必要になったケース
 介入群7/160,対照群10/160.p=0.44

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
 ※P値で有意差が出たものについて計算
1)Primary outcome
 心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による再入院
 HR=0.55(95% CI, 0.32 to 0.95)
 ARR=CER—EER=34/160-23/160=11/160=0.069
 NNT=1/ARR=1/0.069=15
2)Secondary outcome
 うっ血性心不全による再入院または心不全の治療薬変更が必要になった
 HR=0.60(95% CI, 0.36 to 0.997)
 ARR=CER—EER=36/160-26/160=10/160=0.063
 NNT=1/ARR=1/0.063=16
3) Component events
 うっ血性心不全による緊急入院
 HR=0.53(95% CI, 0.30 to 0.96)
 ARR=CER—EER=29/160-19/160=10/160=0.063
 NNT=1/ARR=1/0.063=16

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ②参照

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 年齢、心不全の重症度は同等。
 第一にアゾセミドの初期投与量について。本研究では30〜60mg/dayであるが本症例では120mg/dayと異なる。しかし、Methodsの欄には心不全の症状が安定しないときにアゾセミドを120mg/dayまで増量したとあり、結果が適応できないほどの差はないと考える。
 第二に他の内服薬変更歴について。本研究の除外基準には「ランダム割付する前1ヶ月以内の心血管系内服薬変更歴」が組み込まれている。本症例は、ループ利尿薬変更前にACE阻害薬を導入したり、Ca拮抗薬を中止したりしている点で除外基準に当てはまる。しかし、この除外基準はループ利尿薬の差を正確に調べるための基準であることが予想され、本症例への適応に関して大きな問題はないと考える。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
<最安価を採用した場合>
 アゾセミド(アゾセミド錠)60mg×2T=34.8円
 フロセミド(フロセミド錠)40mg×2T=12.6円
<当院の場合>
 アゾセミド(ダイアート錠)30mg×4T=83.6円
 フロセミド(フロセミド錠)40mg×2T=12.6円
 アゾセミドを使用することで薬価が3〜7倍となる。また添付文書上、ダイアートの最大投与量は60mg/dayであり、120mg/dayの使用は保険をきられる可能性がある。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
コストは上記の通り。副作用は下記。
黒岩先生図①

 1年以内の低K血症がアゾセミド群で多いように見えるが、P値は計算されていない。副作用の発生率については差がないのかどうかわからない。
アウトカムについて。本研究によって、「2年以内のうっ血性心不全による緊急入院or心血管イベントによる死亡」がアゾセミド群で低くなることが示された。しかし、フォローアップ期間は最低2年間と短く長期的な予後については不明である。また、心血管イベントによる\\\\死亡率のみでの比較や総死亡率のみでの比較では有意差は出ておらず、生命予後に関する結果も不明である。
また、本研究は参加者(患者)と介入実施者(医師)の盲検化のなされていないPROBE法によるRCTである。Primary endpointにも含まれる「うっ血性心不全による緊急入院」やSecondary endpointにある「心不全治療薬の変更」については、介入実施者が恣意的に操作することも可能である。したがって今回のアウトカムは低めに見積もった方が良い。
デメリットについて。副作用に関する両群の比較は十分になされておらず、アゾセミドを使用することで薬価は3〜7倍となる。また保険上、使用できる容量にも上限がありそうである。
以上の考察より、アゾセミド投与のメリットは本研究で著者が主張するほど大きくないが、デメリットである薬価が患者にとって些細な問題で、かつ保険上使用可能な容量であれば、アゾセミドを使用する価値はあると考える。

【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
理想的には薬価の問題を議論しながら、患者およびご家族と導入について検討する必要がある。しかし、高齢の非医療従事者に以上の考察を共有することは難しい。
そこで、患者の経済状況について推測する。患者はすでに引退したが、同敷地内に居住している長男が患者の妻とともに農家と酪農を営んでいる。医療費は長男からの支出となることが予想される。更別村の農家は作付面積が広く比較的裕福な家庭が多く、経済的な問題は少ないことが予想される。
現時点ではアゾセミド120mgを導入して退院しているが、今後は電解質や脱水状況を見ながら容量を調整する必要がある。アゾセミドが60mg以下になるなら、アゾセミドを継続しても良いと考える。アゾセミドが60mgを上回る状態が続くのであれば保険適用外になるため、一部かすべてをフロセミドに変更する。その際はもちろん本人およびご家族に説明し合意形成する必要がある。

【開催日】
2016年11月9日(水)

【EBMの学び】年齢別の骨粗鬆症薬の効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年6月10日
【臨床状況のサマリー】
 81歳女性 町に在住で夫と2人暮らし。昨年1月に脳梗塞で他院入院歴がありその際に骨粗鬆症を指摘されている。(大腿骨の骨密度がYAMで66%と診療情報提供あり)。
 その後ビスホスホネート内服について相談があったようだが内服を増やしたくないことと、副作用の心配もあり経過観察となっていた。今年の4月に再度骨密度を測定(橈骨でYAMが55%、T-scoreが-5.56)。再度ビスホスホネート内服の相談をするが、過去の転倒もなくやはり内服の副作用に不安があると。現在は「毎日骨ケア」というカルシウム飲料を飲んでいる。月額は5000円程度である。

 既往:脳梗塞(プラビックス内服している)。
 ADL:自立(昨年の脳梗塞で左半身麻痺があったが、今は杖もなく歩行可能。ほぼ毎日2時間パークゴルフをしている)。
 認知機能:問題なし。

 骨折のリスクを考えるとBP剤を飲んだ方が良いとは思うが実際にBP剤のコンプライアンスも良くはなく、本人の副作用の懸念もわかる。一度文献を読んで説明した方が納得出来るのではないか。「毎日骨ケア」はどうだろうか?ただこれを比較した論文はない。

 P;80代閉経後のADLが自立している女性で
 I(E);ビスホスホネート内服している人
 C;内服していない人で
 O;骨折の発生率に差がでるか?

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
検索したエンジン;up to date で 「骨粗鬆症 治療」で検索
「閉経後女性の骨粗鬆症のマネージメント」に行きつき、高齢者のアレンドロネートの論文を検索。システマティックレビューでは適切な論文もあったが、今回はRCTの学びを深めたいと考えた。その上でRCTでの適切な論文は見つけられなかったのでPub medからsimilar articlesを検索して論文を見つけた。
見つけた論文;Effects of Alendronate on the Age-Specific incidence of Symptomatic Osteoporotic Fractures

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;閉経後2年以上経過した骨粗鬆症がある55-80歳女性の
 I(E);アレンドロネート内服群と
 C;プラセボ群で
 O;年代毎で骨折予防の効果が変わるか?
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない ・ 記載なし
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない)
  どう異なるか?:Table1で患者のキャラクターは整っているが、それをtable2にした時点で世代毎の層にわけられてしまうので、介入群と対照群が同じかどうか不明
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
 Table 2を参照.ここからcox proportional hazardsにデータを当てはめたのがFig.1(P値、RR)、Fig.2(最年少、最高齢の世代別のARR)
  Table2
  股関節/大腿骨 P: 0.43 椎体 P:0.47 手首 P:0.36 複合 P:0.53
安達先生図
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 Table2のP値は0.05以上であり効果に差が出ない。Figure1のP値は0.05未満であり効果に差がある。

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 上記表を参照。ARRはFig2から出してそこからNNTも出している。高齢者の方がARR、NNTが高くなっている。

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 Fig1ではどれも95%Clが1を含んでいない。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 Table 1を参照、閉経後女性、高齢者、骨粗鬆症は一致している。対象者の年齢が平均して10歳ほど若い。白人の研究。アレンドロネートは2年後から5㎎から10mgに変更になっているので日本では行わない方法。T-scoreが腰椎と大腿骨で‐2.0~-2.5だが実際は橈骨で‐5.56であった。
・内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 →隠蔽化されていない部分が問題。骨折の予防というアウトカムは問題ない。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 高齢夫婦であるが認知面は問題なく服薬コンプライアンスは良好。内服は可能。ただし副作用とコンプライアンスについての説明は必要。(服薬回数についてあらかじめもプランとして提示した方が良さそう)。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 コストに関しては105円×30日=3150円と毎日骨ケアより安い。骨折予防のアウトカムはある。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 ・これまでのその治療に対する経験はどうか?
  →ビスホスホネートを今まで新規で処方したことはない。
 ・自分の熟達度から実行は可能だろうか?
  →本人と副作用についてあらかじめ話し合いながら計画をたてて行えば大丈夫と考える。
 ・illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
  →本人にとっての健康感は買い物に行ったり、病院に来たりすること。仲間とパークゴルフをすること。高齢者独居で骨折のリスクも高いと考えると、今回の結果からも説明して治療は行うべきと思う。ただなぜ内服をしたくないかはもう少し深く聞く必要はある。

【開催日】
2016年7月13日(水)

高齢糖尿病患者の管理レビュー

-文献名-
Kasja J.Lipska,MD,MHS, A Review of Glycemic Control in Older Adults with Type 2 Diabetes, JAMA,2016;315(10):1034-1045

-要約-
【重要事項】
 糖尿病高齢者の最適な血糖管理については、まだ未決着である。

【観察】
 4つの大規模ランダム化臨床試験(サンプルサイズ1791〜11440人)で得られたエビデンスの多くが、糖尿病治療のガイドとして使用されてきた。多くのRCTが血糖コントロール強化治療群と標準治療群(80歳以上は除外)を比較したデザインで、微小血管アウトカムの評価のため代理エンドポイントを使用し、どのサブグループで特定の治療に対して最も治療の効果があるのか、あるいは有害事象があるのか、限られたデータしか得られていなかった。RCTのデータでは、より高齢の集団では強化治療群は10年間の大血管イベントの減少を示さなかった。更に、強化治療群は8年間の微小血管アウトカムの改善を示さなかった。RCTのデータは一貫して、強化治療は1.5-3倍の重症低血糖のリスクを即座に増加させた。これらのデータや観察研究に基づくと、65 歳以上の成人の大部分において、 HbA1Cの目標値を7.5%以下にすることとHbA1Cが9%以上になることは、害のほうが大きいようである。しかし患者の要因・治療目標に近づくための使用薬剤・生命予後・患者の治療の嗜好性により目標値は異なる。少ない治療負担や低い低血糖リスクを有する薬剤のみ(例:メトフォルミン)使用するとしたら、より低いHbA1Cの目標値は適切かもしれない。もし患者が注射や頻回な血糖測定を避けたいと強く希望するなら、インスリンを使用しないが故の、高めのHbA1C目標値は適切かもしれない。

【結論と妥当性】
 より高齢の集団における血糖治療の質の高い研究結果は得られていない。最適の判断には、患者と一緒に、利益と不利益の見込と患者の治療に関する嗜好性を組み入れ、治療負担を加味することが必要である。多くの高齢者においては、HbA1C目標値を7.5-9.0の間にすることが治療利益を最大にし、不利益を最小にするだろう。

【開催日】
 2016年5月25日(水)

仏教と医療

―文献名―
池口惠觀:仏教は医療にどう関わるべきか.日救急医会誌.2015;16:539-544

―要約―
(文献のうち、「仏教界あるいは本邦の宗教界の医療への関わりについて」に該当する部分を要約する)
【諸言】
 原始、医療は宗教の一部であった。西洋ではヒポクラテス、東洋では釈迦がそうだった。本来、医療と宗教の両者は結びついていなければならないものだった。そこに、江戸時代に西洋医が導入され、区別されるようになった。医療は病を治す技術者としてその道を究め、宗教は心を癒す道に邁進してきたはずである。しかし宗教(この場合は仏教)は組織化と儀式化、そして学問化に邁進して布教という本来の職務を忘れてしまった。布教とはただ信者の獲得手段ではなく、信者の多くの心の支えとなり、庶民の生活に馴染んでいた。信仰は、身についてこそ緊急の場面で生きてくるが、それがなくなってしまっている。明治元年に施行された神仏分離令により、収入の道が閉ざされたことによる。

【仏教者の医療協力は必要か】
 近年、その仏教が再確認されるに至った。臨床医ならぬ「臨床僧」としての役目がありはしないか、という模索だが、当面のところ無理である。その理由を述べる。
 アメリカは多くの病院に礼拝堂が見られる。それは祈りの場としてキリスト教では馴染みの場所だが、日本では仏教が葬式を収入の道として開いたがために、病院内に薬師堂や涅槃堂を設けると、死のイメージに甘んじなければならなかった境遇を跳ね返す力を持たなかったことも含む。
 明治元年から昭和20年までの間、国は仏教を儀式に閉じ込め、日本人は個人の心を癒す宗教を失った。現在では仏教者自身が「道徳性」を崩壊または忘却してしまっている。有名な寺院は観光化し、檀家寺は葬式と副業に専心して、医療の場に役立つような有能な人材を育て得なかった。西洋のチャプレンに匹敵する「臨床僧」が成立するには、新たな宗教者の育成が不可欠である。それには医師に匹敵する優秀な学生を集めて教育しなければならず、そのためには魅力ある職業としての環境を整える必要があり、時間がかかる。

【諸行無常と共通の磁場】
 現代仏教が医療に役立つとすれば、医療者に対する教育に於いて発揮できる。仏教は万物の「無常」を説く。「生老病死」の4つの苦は、肉体に対するもので、今日は医療が担当している。釈迦は、この4つの苦を「真理」すなわち動かし難い宿業と悟れば、苦から解放されると説いた。万物は、必ず滅する。これを生きている者が真理として共通の認識を持つならば、死すなわち苦とはならない。そして自己の鍛錬と我欲の克服を日常の生活と成せば、いかなる死をも恐れる必要がない。
 この諸行無常の教えを医療の「慈悲」に繋げる。人の命は「須臾」の間、息を吸って吐く間と言われる。この時間をどう生きるのか。暗く生きるよりも明るく生きよと教えられている。仏教は一分一秒、刻々の生ある時を慈しむ生活の智慧であった。
 しかし医療は、死の世界から蘇らせる究極を天職とした。死を敗北とするだけに日常の学習は厳しく、日進月歩の医学についていかなければならない。それによって自己の人間性を損なっていないか、それを確認する時間もないままに新知識の獲得に追われる。これが医学生、臨床医のおかれた現実である。しかし、知識の量は進化しても、精神や体力はむしろ退化していると思われる。これでは精神が健全でいられるはずがない。
 宗教教育は、こうした精神の滋養に対する共通の認識、相互理解の磁場のようなものを培うことによって一瞬の「生」を慈しみ、お互いが助け合う心、補い合う心を育てるのではないか。

―考察とディスカッション―
考察
文献のまとめ:
 医療と宗教は元来結びついていたものだったが、江戸時代に西洋医が導入され、さらに明治時代となり、仏教者自身が心を癒す宗教を失ってしまっている。そのため臨床現場で役立つ仏教者は今のところ現れず、教育するにも長い時間がかかる。現代仏教が医療に役立つ場面としては、医療者に対する教育である。日進月歩の医学についていくため日々学んでいるが、それに追いつくための精神が培われていない現状があるため、宗教教育によってお互いに助け合う心を育てることができるかもしれない。

 「現代医学は、死を敗北とする」というところと、「生老病死は真理であり万物に必ず訪れる宿業と悟れば、死は苦とならない」というところが対比されているように見える。ヒーラーとしての家庭医や終末期ケアを行う医療者にとってはこういった心の持ちようも重要であるように思える。一方で、患者さんに対して思うだけでなく、自分自身も年をとり、病気にかかり、死ぬということも考えなければならない。自分は普段あまり病気をしないのでつい認識が薄れがちだが、自分自身の身体や心を大事にする必要もあるなぁと感じた。

ディスカッション
 ・皆様自身あるいは患者さんで、宗教によって心が救われていると感じた経験はありますか?

【開催日】
 2015年12月2日(水)

小児科専門研修医に対する構造化されたMSF(Multi Source Feedback)の利用

【文献名】
著者名:Julian C Archer, John Norcini, Helena A Davies
文献タイトル: Use of SPRAT for peer review of paediatricians in training 
雑誌名・書籍名:BMJ VOLUME 330  1251-1253
発行年:28 MAY 2005

【この文献を選んだ背景】
On July 13, I joined the meeting named MEIS(Medical Education Interactive Seminar) in Kyoto University produced by Center for Medical Education. The topic was evaluation of postgraduate trainee in UK, and Dr. Julian who is a member of NIHR(National institute for health research) and the first author of this article have explained about the comprehensive evaluation in UK pediatrician program. Among many way of evaluations, there was a multisource feedback(= 360 degree feedback) called SPRAT. In the post-conference party, I’ve had a chance to talk with Dr. Julian about his work. And he’d told me that SPRAT was formulated for GP as well and used for revalidation system. And, if needed, he can help us to study its validity in Japanese GP context. 
 I hit upon using this tool for assessment in our residency. So, I would like to show the article about the first study of SPRAT in UK.

【要約】
<Background and Objectives>
To determine whether a multisource feedback questionnaire, SPRAT (Sheffield peer review assessment tool), is a feasible and reliable assessment method to inform the record of in-training assessment for paediatric senior house officers and specialist registrars.

<Methods>
Trainees’ clinical performance was evaluated using SPRAT sent to clinical colleagues of their choosing. Responses were analysed to determine variables that affected ratings and their measurement characteristics. 

<Results>
20 middle grades and 92 senior house officers were assessed using SPRAT to inform their record of in-training assessment; 921/1120 (82%) of their proposed raters completed a SPRAT form. As a group, specialist registrars (mean 5.22, SD 0.34) scored significantly higher (t = ? 4.765) than did senior house officers (mean 4.81, SD 0.35) (P < 0.001). The grade of the doctor accounted for 7.6% of the variation in the mean ratings. The hierarchical regression showed that only 3.4% of the variation in the means could be additionally attributed to three main factors (occupation of rater, length of working relationship, and environment in which the relationship took place) when the doctor's grade was controlled for (significant F change < 0.001). 93 (83%) of the doctors in this study would have needed only four raters to achieve a reliable score if the intent was to determine if they were satisfactory. The mean time taken to complete the questionnaire by a rater was six minutes. Just over an hour of administrative time is needed for each doctor. <Conclusions> SPRAT seems to be a valid way of assessing large numbers of doctors to support quality assurance procedures for training programmes. The feedback from SPRAT can also be used to inform personal development planning and focus quality improvements. 120913

【開催日】
2012年8月1日