オーストラリアにおける腰痛再発予防のためのウォーキングの教育介入効果と費用対効果

-文献名-
Natasha C Pocovi, Chung-Wei Christine Lin, Simon D French,et al.Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial.Lancet.2024; 404:134–44

-要約-
Introduction
 腰痛の再発は一般的であり、腰痛の疾病的・経済的負担の大きな要因となっている。腰痛は2020年には世界で6億1,900万人が罹患していると推定され、2050年には8億4,300万人に増加すると予測されている。腰痛から回復した人のほぼ10人に7人は、その後1年以内に再発を経験するともいわれる。運動と教育を組み合わせることで、腰痛の再発、それに伴う障害、欠勤を予防できることが示されているが、これまで検討されてきた運動ベースの介入は、集団でのプログラムを含んでおり、臨床医による綿密な監督と器具の使用を必要とし、高額な費用がかかる可能性がある。ウォーキングのような身近で低コストの介入の有効性と費用対効果はまだ確立されていない。

Method
 この試験は2群間無作為化比較試験であり、オーストラリア全土の25の民間理学療法クリニックで実施。特定の診断に起因しない非特異的腰痛エピソードを少なくとも24時間自覚し、痛みがない日が7日以上続いている成人(18歳以上)を募集した。非特異的腰痛のエピソードとは、特定の診断(例えば、椎体骨折、感染症、がん)に起因しない第12肋骨と臀部のしわの間の領域の痛みが少なくとも24時間持続し、痛みの強さが0~10の数値疼痛評価スケールで2以上であり、「腰痛は日常生活にどの程度支障をきたしましたか?」という質問において、日常生活に少なくともやや支障をきたすか、それ以上の支障をきたすものと定義した。除外基準は、ウォーキングプログラムへの参加を妨げる併存疾患、週3回以上の運動(1日30分以上)のためのウォーキング、腰痛再発予防のための運動プログラム(ピラティスなど)への定期的な参加、週150分以上の中等度または強度の身体活動(週3日以上)、過去6ヵ月間の脊椎手術、妊娠中、質問票を記入するのに不十分な英語力。
 参加者は、6ヵ月間にわたる理学療法士による6回のセッションが行われた。個別化された漸進的な歩行・教育介入に割り付けられた群と、無治療の対照群(1:1)に無作為に割り付けられた。理学療法士と参加者は割り付けについてマスクされなかった。プログラムの目標は、6ヵ月後までに週5回、1日30分以上のウォーキングを行うことであった。初診時には、ウォーキングプログラムの初期用量を決定するために、病歴聴取と身体診察が行われた。参加者の現在の歩行レベル、年齢、BMIに基づいて、ウォーキングプログラムの適切な開始量と適切な進行度を提案するための処方ガイドが作成された。重要なことは、個人中心のアプローチを用いて、参加者個人の特徴(例えば、併存疾患や自己効力感)、環境的障壁(例えば、安全性、照明、路面)、時間的制約、嗜好、参加者の目標に基づいて、参加者との話し合いの中で最初の処方と進行が個別に設定されたことである。また、参加者には歩数計とウォーキングダイアリーが配布され、プログラムの最初の12週間を通してウォーキングを記録した。理学療法士とのフォローアップセッションは、アドヒアランスのチェック(ウォーキング日誌のチェックを含む)必要に応じてウォーキングプログラムの調整を行うために実施。これらのセッションは、当初は2回の対面セッション(無作為化4週後と3ヵ月後に30分間)と3回の電話セッション(2週と6週に15分の相談、6ヵ月に強化セッション)の組み合わせで行われる予定であった。COVID-19の流行により、対面での診察が一時的に制限され、多くの参加者が遠隔医療(ビデオ診察)を通じて介入を受けた。ウォーキングプログラムと並行して教育も行われた(appendixp5)。この教育は、現代疼痛科学の基本的な理解を提供し、腰痛に伴う恐怖を軽減することを目的とした。腰痛の再発リスクを減らすための簡単な戦略や、軽度の再発であれば自己管理する方法についての説明が行われた。両グループの参加者は、必要に応じて腰痛の他の治療を受けることを制限されなかった。
 参加者の追跡期間は、登録日により最低12ヵ月、最長36ヵ月であった。主要アウトカムは活動制限のある腰痛が再発するまでの日数であり、intention-to-treat集団において毎月自己申告により収集された。費用対効果は社会的観点から評価し、獲得した質調整生存年(QALY)あたりの増分費用で表した。試験はプロスペクティブに登録された。

Results
 2019年9月23日~2022年6月10日の間に、3206人の参加者の適格性をスクリーニングし、2505人(78%)を除外し、701人を無作為に割り付けた(介入群351人、無治療対照群350人)。ほとんどの参加者は女性で(701人中565人[81%])、参加者の平均年齢は54歳(SD 12)であった。参加者は、腰痛の既往回数が多く(中央値33回)、今後12ヵ月間の再発リスクを高く認識していた。ベースライン特性は介入群と対照群でバランスが取れていたため、どの分析においても調整は行われなかった。中央値7年(範囲1~35)の経験を有する24名の理学療法士がウォーキングプログラムのヘルスコーチを務めた。介入群では、345人の参加者が理学療法士による6回のセッションのうち少なくとも1回に参加した(参加した理学療法セッションの平均数は5回[SD 1.6])。介入は活動制限性腰痛のエピソードの予防に有効であった(ハザード比0.72[95%CI 0.60~0.85]、p=0.0002)。再発までの日数の中央値は、介入群で208日(95%CI 149-295)、対照群で112日(89-140)であった。また介入群は対照群と比較して、腰痛のあらゆる再発およびケアを必要とする腰痛の再発リスクを減少させた(HR 0.80 [95%CI 0.68~0.94]、p=0.0066およびHR 0.57 [95%CI 0-44-0-74]、p<0.0001;図2Bおよび2C)
支払い意思額閾値(本来かかる費用)28,000豪ドルにおいて1QALYあたりの増分費用は7802豪ドルであり、介入は94%の確率で費用対効果に優れていた。12ヵ月間に少なくとも1つの有害事象を経験した参加者の総数は、介入群と対照群で同程度であったが(それぞれ351例中183例[52%]、350例中190例[54%]、p=0.60)、下肢に関する有害事象は介入群の方が対照群よりも多かった(介入群100例、対照群54例)。

Discussion
・個人に合わせた漸進的なウォーキングと教育介入は、それまで定期的な身体活動を行っていなかった成人において、無治療の対照群と比較して腰痛の再発を大幅に減少させた。この所見は、主要アウトカムと2つの副次的再発アウトカムで一貫していた。また、介入群では腰痛に関連する障害が最長12ヵ月間減少し、介入は無治療の対照群と比較して社会的観点から費用対効果が高い可能性が高かった。
・今回の参加者は女性が多く、一般集団への適応は注意が必要。
・すでに定期的にウォーキングを行っている、または中程度から強度の身体活動を週150分以上行っている潜在的な参加者(n=429)を相当数除外したため、この結果は活動的な成人に一般化されるものではない。
・本研究の注目すべき所見は、介入群の歩行量(週当たり分数)が最初の3ヵ月で約2倍になったが、12ヵ月時点では同程度であった。さらに、介入群は3ヵ月時点では対照群より多く歩いていたが(51分[95%信頼区間22.32~79.87])、12ヵ月時点ではこの差はなくなっていた(0.67分[-30.90~32.23])。1つの要因として、対照群で報告された歩行が時間の経過とともに増加したことが挙げられるが、これはマスキングの欠如の結果であり、治療効果が希釈された可能性があり、あるいはCOVID-19の流行が歩行への取り組みに影響を与えた結果かもしれない。12ヵ月の時点で歩行に差がなかったのは、臨床医からの継続的なサポートがなかったこと、12週間後に歩行日誌を継続しなかったこと、介入群に下肢の障害があったことなどに起因する可能性もある。
・なぜウォーキングが腰痛予防に効果的なのか、正確な理由は不明。

【開催日】2024年8月7日

腰痛に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーション

―文献名―

Steven J Kamper, et al. Multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation for chronic low back pain: Cochrane systematic review and meta-analysis. BMJ 2015;350:h444 doi: 10.1136/bmj.h444 (Published 18 February 2015)

―要約―
【目的】
 慢性腰痛の患者に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの長期的な効果を評価するため

【デザイン】
 システマチックレビューとメタ解析

【データ源】
 Electronic searches of Cochrane Back Review Group Trials Register, CENTRAL, Medline, Embase, PsycINFO, and CINAHL databases up to February 2014, supplemented by hand searching of reference lists and forward citation tracking of included trials.

【研究選択基準】
・3ヶ月以上の腰痛を患う患者
・多職種によるリハビリテーション:
身体的な側面と心理的な側面か社会的、仕事に関した側面の一つ、あるいは両方に対するリハビリ。少なくとも2つの異なった専門的なバックグラウンドをもつヘルスケアの専門家が提供。非多職種の介入との比較。

【結果】
 41の研究がインクルージョンされ、そこにはトータルで6,858人の患者が含まれていた。しばしば以前の治療では症状が改善せず、平均の疼痛期間が1年以上であった。16の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、疼痛(標準化平均値差 0.21、95%信頼区間 0.04~0.37 ;10ポイントの疼痛スケールにおいて0.5ポイントに相当)と障害(標準化平均値差 0.23、95%信頼区間 0.06~0.40 ;24ポイントのローランドモリスインデックスにおいて1.5ポイントに相当)を減少させた。19の研究では、低い質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、疼痛(標準化平均値差 0.51、95%信頼区間 −0.01~1.04)と障害(標準化平均値差 0.68、95%信頼区間 0.16~1.19)を減少させたが、統計学的に重大な不均質な横断研究があった。8個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、介入後1年間の仕事復帰率を改善させた(オッズ比1.87、95%信頼区間 1.39~2.53)。7個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、仕事復帰率を改善させなかった(オッズ比1.04、95%信頼区間 0.73~1.47)。外科的処置との比較をした2個の研究では、アウトカムに違いはほとんどなく、外科的手術に伴う有害事象のリスクが上昇した。

【結論】
 多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの介入は慢性腰痛を持つ人々の疼痛と障害を減らすのに、通常のケア(中等度の質のエビデンス)、身体面の治療(低い質のエビデンス)よりも効果的であった。仕事に関するアウトカムは、多職種によるリハビリテーションは身体面の治療よりも効果的だが、通常のケアよりも効果的でないようだ。

【開催日】
2015年3月18日(水)

リハビリテーションをめぐる多職種連携

―文献名―
「知ってるつもりのリハビリテーションの常識非常識」 三輪書店 2009年 安保雅博、橋本圭司 編著

―要約―
連携・教育における常識非常識 より抜粋

1.リハビリテーション医から
 1 リハビリテーション科医の視点
 リハ医の治療目標は、目の前の患者を、その方が到達しうる最も高い生活機能レベルに、いかに早く到達させるかにある。そのためには専門科目の枠を超えて、全ての医学知識と医療技術が動員されなければならない。一方、原因疾患の治療で消耗した患者は、自ら起き上がる気力に欠けており、主治医の積極的な声かけが必要である。これはリハ医や療法士がいなくても、主治医が決意し実行すれば簡単にできることである。リハビリテーションの始まりは主治医自ら働きかけることであり、その効果は患者さんのより速い回復として実感することができる。

3.作業療法士から
 1 連携に必要とされる基本的能力は「振り分け能力」である
 予防医療も含め近年の医療は急速に高度化・専門分化している。福祉制度も目まぐるしく変更されている。このような現状の中で利用者(患者)は、どの専門職が何を専門とするか知らない、どんなサービスがあるか知らない、どのサービスを利用すればよいかわからない、時には問題を抱えていることすら気がつかず悩む、そして一人で悩み、極端な場合には発見さえされない。利用者自らが昨今の変化を理解し、うまく利用していくことは困難なのである。利用者の立場に立ち、利用者の視点から問題を把握し、適切な専門職に依頼していくこと、つまりは「振り分け能力」を有していることが連携するときに各専門職に要求される基本的能力であるといえる。

 2 連携の出発点は各職種間の「相互理解」である
 上述したように、連携のために各専門職に必要とされる基本的能力は「振り分け能力」であるといえる。その前提となるのは、各専門職がお互いの職務内容を熟知していることであるが、果たして他職種の職務内容を十分に理解し、把握しているだろか。あるいは、他職種に自らの専門性や職務内容を知らせる努力をしているだろうか。この一見すれば当然と思われる事項が効果的な連携を進めるときの出発点であるといえる。

5.心理士から
 3 よりよいカウンセリングのあり方
 患者が問題に直面し、解決の糸口を見出しかねている時、問題解決へのさまざまな可能性をスタッフと共に考え、共に探ることをカウンセリング過程という。カウンセリング過程を遂行する際には、次のような基本的態度が大切である。
1)患者をあるがままに受け止める(受容する)
 患者の言動が一見理解しがたくても、患者にとってはそれは一番バランスのとれる行動であることが多い。スタッフは、患者の訴えを退けたり、諭したりせず、そのまま受け止めることが大切である。なぜなら、患者は自分の訴えを受け入れてもらえないと、気持ちの一歩が踏み出せないからである。スタッフの接し方によっては、患者の不安を増幅させることも多いので、その影響を理解し、患者に対する接し方を振り返る必要がある。
2)共感する心をもって接する(共感する)
 「共感する」とは、患者の問題を患者の立場から理解すること、温かい支持的態度をとること、相手の立場を理解したということを伝えることである。患者は「自分のことをわかってくれる」「気持ちが通じる」と感じると、訴えは少しずつ軽減する。この場合、患者の言動に振り回されず、「症状の背景にある患者の気持ち」を考えながら、余裕のある対応が大切である。
3)患者自身の負う責任をスタッフが引き受けない
 患者は自分で問題を解決する能力を持っている。スタッフが指示したり、価値観を押し付けたりすると、患者自らが解決するチャンスを奪ってしまうことになる。また、家族への援助についても、患者を理解するための知識や情報の提供、実生活での援助活動は大切なことであるが、家族の関係性から生じている問題への安易な介入は避けるべきである。

―考察とディスカッション―
これまで家庭医として勉強する中で触れてきたことや、普段の診療の中で何となく気付いていたことが言語化されており、しかもそれが様々な職種の視点で記載されていることが印象的だった。他職種が、それぞれどのような考え方で動いて専門性を発揮しているのか、またそれぞれの職種が「他の職種のスタッフにも知っておいてほしい」と感じていることは何なのか、といったことの理解に繋がると思われた。今回紹介した部分以外はもっと各論的なものも多く、読み物としてお勧めしたい書籍だと思う。

【開催日】
2014年6月11日(水)