リーダーシップと人との関係

―文献名―
ロナルド・A・ハイフェッツ/マーティ・リンスキー 著.竹中平蔵 監訳.第4章 政治的に考える in 「最前線のリーダーシップ」.p111-144.ファーストプレス.2007.

―この文献を選んだ背景―
 マネジメント・ケース・カンファレンスにおいて、リーダーには以下の2つのスキルが求められると感じた。問題の所在をあぶりだすスキルと、適応を推進するスキルである。適応を推進するのはリーダーにとっても危険を伴う行為である。このJournal Clubでは、リーダーがある程度のリスクヘッジをしながら適応を推進するために必要な5つの方法のうち、今回のケースにいくらか関連があると思われた「政治的に考える」という方法を紹介する。

―要約―
政治的に考えるうえでの6つの根本的な視点
 成功するリーダーに共通するすぐれた資質の1つは、人間関係の大切さを理解する力だろう。とくに選挙で選ばれる政治家にとっては、人間関係は空気と同じくらい大切なものだ。政治家にとって、ある主張がもたらす利益やそれを進めるための戦略は、判断要因の1つでしかない。彼らは人脈を最重視する。相談でき、ともに目の前の問題解決に取り組むことができる人々のネットワークをつくり、それを大きくすることに労力を注ぐ。リーダーシップを発揮する際に「政治的に考える」上での6つの根本的な視点がある。1つは、あなたの側にいる人々との関係からの視点、もう1つは、反対の立場の人々との関係からの視点。そして残る4つは、自分の立場を明らかにせず慎重になっている人々を動かすための視点である。

視点1:パートナーを見つける
●パートナーは、あなた自身とその活動を助けてくれる。論理的な主張や証拠に頼るだけではなく、政治的な力も築ける。パートナーの口から自分とは別の見解を聞くことは、アイデアの改善にもつながる。
●変えることが最も困難なグループのなかにいるパートナーこそが、最も重要な役割をもたらす。
●パートナーがどこまでなら協力してくれるのかを把握するためには、彼らがすでに持っている協力関係やその協力相手に対する責任感の度合いを知っておく必要がある。

視点2:反対派を遠ざけない
●リーダーシップを発揮しながら生き残り、なおかつ組織を変えることに成功するためには、支持者とともに作業するのと同じくらい緊密に、反対の立場の人々とも一緒に作業に取り組まなくてはならない。
●不安を抱きながらそれを無視して進むよりは、その不安を、自らの脆弱要因であるとともに、反対はグループにいかに強い脅威を与えているかを示すシグナルととらえるべき。それは、やがて直面する抵抗の端緒であり,放置しておけば自体は悪化してしまう。

視点3:自分が問題の一部であったことを認める
●もしあなたが組織で責任ある役割を担っており、その組織に問題が起きているとすれば、あなたにも問題が起こった責任の一端があり、問題が手つかずになっている理由の一部があなたにあることはほぼ明らかである。あなたがもたらそうとしている変革の障害になりうる部分が、あなたの行動や価値観の中にもあると知っておく必要がある。たとえ人々をよりよい場所に導こうとしているとしても、自分がいまの状況に何らかのかかわりがあることを理解し、その責任を認める必要がある。
●あなたが誰かを非難したり、だれかに自分がやりたくないことをやらせていたりするとき、彼らにとって最も簡単な選択肢は、あなたを排除することだ。その問題は「あなた対彼ら」という構図になってしまう。しかし、もし彼らと一緒に問題を直視し、その問題に関する責任の一部を引き受けるのであれば、あなたは自分が攻撃されるリスクを軽減できる。

視点4:喪失を認識する
●人々は理由がはっきりしているのであれば、犠牲をいとわない。犠牲を払うだけの価値があるのかどうかを知る必要がある。しかし、希望にあふれた未来を示すだけでは不十分であり、変化に伴ってだれが何を喪失するのかを明確にし、それをしっかりと認識する必要がある。
●あなたが人々に求めている変化は困難なもので、人々にあきらめるように求めているものには大きな価値があることを認識し、それを明確に示す必要がある。彼らとともに悲しみ、喪失を記憶する。あなたが本当に理解しているということを人々に納得させるには、たいていの場合、声明よりもより目に見える、公式の何かが必要となる。例えば、人々に求める行動を自分がモデルとなって示すことなど。

視点5:自らモデルになる(上記参照)

視点6:犠牲を受け入れる
●もし人々が変化に適応できなかったら、取り残されることになる。そして犠牲者となる。これは組織やコミュニティが大きな変革をけいけんするときには、事実上、避けられない。適応できないか、一緒に進もうとしない人々は必ずいる。あなたは、彼らを守り続けるか、彼らを犠牲にしても前進するかを選ばなければならない。犠牲者を出すことに耐え切れないほどの苦しみを覚える人々にとっては、このようなリーダーシップは大変なジレンマである。しかし、これはリーダーの仕事の1つなのだ。
●犠牲者を出すことを受け入れるかどうかは、あなたが本気で取り組もうとしているかどうかを示すシグナルとなる。もしあなたが犠牲を出したくないというシグナルを発するのであれば、それは、態度を決めかねている人々に対して、あなたの取り組みは無視してもらって結構と言っているようなものだ。現実の危機無くして、なぜ人々が何かを捨ててまでいままでのやり方を変えようとするだろうか。

―考察とディスカッション―
 リーダーシップは諸刃の剣であり、用いる人間にも危険が伴う。また、適応の障害は人々の中だけではなく、自分の中にもあることを、リーダーは認識しておかなければならない。今回扱った内容はリーダーシップの要所のうちのほんの一部ではあるが、今回扱ったここまでの内容について、自分にも思い当たることはあるだろうか?あるとすれば、そうした場面で自分はどのような行動をとっているだろうか?そこにはどんな難しさがあるだろうか?自分のリーダーシップを振り返るきっかけとして活用いただきたい。

【開催日】
2015年7月15日(水)

プライマリ・ケア看護師の担うべき役割と必要な能力

―文献名―
斜森 亜沙子, 森山 美知子.我が国のプライマリ・ケア機能を担う診療所における看護師の担うべき役割と必要な能力.日本プライマリ・ケア連合学会誌 38-2;2015;102-110

―要約―
【目的】
 プライマリ・ケア診療所において、診療所の果たすべき機能とそこで働く看護師の役割、必要な能力を明らかにする。

【方法】
 プライマリ・ケア診療所に勤務する医師6名と看護師11名を対象に、フィールド調査(面接法及び参加観察法)を実施し、質的機能的分析を行った。

【結果】
 プライマリ・ケア診療所には「外来機能」「在宅支援機能」「地域支援機能」の3つが抽出され、それを支える看護師の役割として「個人及び家族の健康を守る役割」「人々が住み慣れた場所で安心して療養でき/最期を迎えることを支援する役割」「地域の健康問題に対処する役割」、これらの機能を支える「診療所をマネージメントする役割」の4つのカテゴリーが、役割に対応する能力として9カテゴリーと、プライマリ・ケアを実践する専門職者に必要な4つの基本能力が抽出された。

【結論】
 診療所におけるプライマリ・ケア看護師は幅広い役割と能力が必要とされていることが明らかになった。

―考察とディスカッション―
 この論文で抽出された役割・能力は幅広いものであるが、どの項目も必要と思われるものであり、病院でのセッティングでは習得が困難なものと思われる。そのため、まずはこのような能力とそれを習得していくための教育の重要性をスタッフが認識することが第一かと思われた。今後、リハビリや栄養士など、他の職種にも同様の検討が必要と思われる。

みなさんの現場では、
 ・役割/能力の必要性を感じたことはありますか?
 ・特にどのような役割/能力を重点的に習得すべきと思いますか?

【開催日】
2015年7月1日(水)

医師における性別役割分担 ―診療時間と家事労働時間の男女比較―

―文献名―
安川 康介,野村 恭子,医師における性別役割分担 -診療時間と家事労働時間の男女比較-,医学教育,2012.8:第43巻,第4号,p.315-319

―要約―
【背景】
 日本における女性医師の数は近年増加傾向にあり、平成 22 年度の厚生労働省の調査によれば、全医師に占める女性医師の割合 18.9%、29 歳以下の医師では 35.9%となっている 。しかし、現在の医療現場において、女性医師が仕事と出産・育児を両立することは難しく、離職せざるを得ない女性医師は少なくない。日本医師会調査によれば、約 4 割の女性医師が休職・離職を経験しており、約 4 人に 1 人は 6 カ月以上の休業・離職を経験していた。同調査では、女性医師の 64.1%が女性医師としての悩みは「家事と仕事の両立」であると回答し、勤務形態が常勤以外の女性医師の 44.3%が常勤ではない理由として家庭と育児を挙げている。

【方法】
 平成21 年6 月の時点で都内某私立大学医学部同窓会に所属する会員1,953 人中、連絡先住所不明の607 人を除いた1,346 人(男性1,030 人 女性316 人)に自記式調査票によるアンケート調査を行った。
 調査内容は年齢、婚姻の有無、結婚年齢、配偶者の仕事(女性のみ)、子供の有無、主な所属機関、就労形態、「社会的には育児はまだまだ男性よりも女性の仕事である」に対する意識、週当たりの診療時間、週当たりの家事労働時間である。
 年齢、婚姻状況、子供の有無、就労状況、職場、診療時間と家事労働時間について性別で差があるか否か有意差検定を行った。

【結果】
 回収数は男性452 人、女性224 人、回収率はそれぞれ44%と71%であった。
平均年齢は女性が43 歳と男性(48歳)に比べてやや若く、婚姻率は男性が高く(67% vs 88%)、子供を持つ割合も男性で高かった(64% vs 78%)。婚姻している女性は159名(71%)おり、76%が男性医師を配偶者に持っていた。
 週当たりの診療時間については男性の中央値(IQR)が50 時間(40,60)であるのに対し女性では40 時間(30,55)と低かった(p<0.0001)。一方週当たりの家事労働時間については男性の中央値3 時間(0,8)に比べ女性の中央値は30 時間(15,42)であった(p<0.0001)。 【結語】 1)医師における性役割分担の実際について検討するため、都内某私立大学医学部同窓会に所属する医師を対象に、診療時間と家事労働時間に関する任意無記名の質問紙調査を実施した。 2)週当たりの診療時間は男性の中央値が 50 時間、女性では 40 時間と女性の方が短いが、週当たりの家事労働時間は男性の中央値 3 時間に比べ女性は 30 時間であった。 3)診療時間に家事労働時間を加えた労働時間は、男性医師よりも女性医師の方が長かった。 4)本研究では、医師という専門職においても性別役割分担が存在していることが認められた。 【開催日】 2015年6月17日(水)

グループ診療が壊れるとき

―文献名―
Francois Marechal, Dorothee Schmidt, Evelyne Lasserre and Laurent Letrilliart. When the group practice breaks up; a qualitative study. BMC Family Practice. 2013 May 3;14:53.

―要約―
【背景】
グループ診療は世界中のプライマリ・ケア医の間でだんだんと普及してきている。しかしグループ診療の中で分裂が起こる可能性もしばしばあり、そのプロセスはこれまで研究されていない。この研究の目的は家庭医のグループ診療の破綻の原因を探索し、それにまつわる感情を記述することである。

【方法】
我々は、フランスのローヌ・アルプ地方でグループ診療の破綻を経験した、21人の家庭医と1人の事務員を対象とした深層インタビューによる質的研究を行った。

【結果】
初めてグループ診療を始めるとき、若い医師たちは準備が出来ている、あるいは、サポートされていると感じておらず、必ずしもパートナーと同じ期待を共有しているわけではなかった。破綻の原因には、グループ内の不均衡、対照的な働き方やマネジメント・スタイル、コミュニケーションの途絶などが含まれていた。破綻のプロセスにより、それを経験したパートナーほぼ全員、特に辞めた方のパートナーは、苦悩や失敗といった感覚を長く持ち続けていた。

【結論】
パートナーシップの最も初期の段階から弱体化の要因が存在し、グループ内で起こる変化や出来事すべてにおいて問題が増加する可能性があった。そこで我々は以下のことを推奨する。公正なマネジメント、明確な契約に基づく共有されたプロジェクト、必要に応じて第3者からもらう助言、そして最悪の場合にはグループ診療を辞めることである。

【開催日】
2014年5月14日(水)

金銭的インセンティブは会社の業績を上げるか?

― 文献名 ―
 ジェフリー・フェファー.ロバート・I・サットン.「事実に基づいた経営」.155-190.東洋経済新報社.2006.

― この文献を選んだ背景 ―
  先日のFMS-EoでのHCFMを高機能組織とするためのハード面整備の議論の中で,人事考課の話題が言及された.医療の分野では人事考課という考え方について,どのような判断材料をもっているべきなのか.この点についての組織知を拡張したいと考え本文献を選択した.

― 要約 ―

【事例の紹介】
(事例の要約)「金銭的インセンティブは,単純で,明確で,誰もが納得し,ズルができない指標があって,どんなやり方をしてもその指標を上げることだけを考えればよい」という局面でこそ有効である.
1.サフェリテ・グラスの実践(アメリカの自動車用ガラスの最大手)
 金銭的インセンティブシステムで44%生産性が向上した.サファリテのいくつかの特徴はインセンティブシステム成功の重要な鍵と思われる.ⅰ)仕事は定型の作業として覚えることができ,独立して作業できる.チームワークは必要なく,個人ベースのインセンティブでチームワークが損なわれることはなかった.ⅱ)品質をモニターすることが容易であったため,従業員は仕事の質を犠牲にして早さを求める分けにはいかなかった.ⅲ)従業員のゴールは単純明快で一元的だった.ガラスを落とさないように気をつけながら,できるだけ早く組み込めばよかったのである.「出来高が簡単に測れ,品質の問題もすぐわかり,誰がやったか明確」ということが,個人のインセンティブを使うのに適していた.インセンティブシステムの失敗は,インセンティブが機能しなかったのではなく,機能しすぎた場合が多い.

2.ゴミ回収ドライバーにインセンティブシステム導入(ニューメキシコ市アルバカーキ市)
 「5時間で回収を終わったドライバーは,5時間分の時給と,3時間分のインセンティブ報酬を受け取ることができる」というもの.結果は,2002年に最もインセンティブ報酬を受け取った24人のドライバーのうち,15人は埋め立て場にいつも重量制限をこえたトラックで現れていた.また,気をつけていれば予防可能な事故が頻発するようになった.予想外の結果として,「安全性の低下,オペレーションコスト,法的責任,顧客不満の上昇」が認められた.

【金銭的インセンティブが行うこと】
1.インセンティブによる動機付け効果
 やる気が高まったとしても,上がるのは努力量であって,少なくとも短期的には能力まで向上するわけではない.努力量を上げさせようとする仕組みは,基本的に努力をすればするほど良い結果が得られることを前提としている.この仕組みは従業員がどうしたら仕事を効果的にできるかが分かっており,会社の仕組みや技術が業績の本当の問題ではない時に初めて機能する.
 金銭をやる気の源泉にする仕組みは,仕事の成果は個人次第であり,個人の行動が組織の業績につながることを前提としている.しかし,ある電力会社の幹部は報酬が会社の業績とリンクしていたのだが,電力会社のコストや単価は気温で決まり,フロリダの夏はあつければあついほど電力が消費された.この幹部はフロリダにやってきた夏に報酬が大幅アップした.彼は「フロリダの気候をコントロールできるならインセンティブシステムは有効だろう」と皮肉を漏らしていた.このように,もし業績が社員のせいでなかったり,社員の努力が業績につながらなかったりというように前提が成り立たなければ,金銭的インセンティブによってやる気が上がったとしても,業績には何の結果ももたらさないし,もたらしようがない.逆に,金銭的インセンティブを目指して一生懸命働いたのに,結果が出ないのを見た社員は,逆に欲求不満となりやる気をなくす.

2.社員に組織の価値感を示す情報効果
 社員は評価制度をみて経営が何を本当に重要と考えているのかを知る.インセンティブによって行動が協力にコントロールできるという面ではよいのだが,経営層がその行動の意味するところや,微妙な影響をよく理解していなければ裏目に出る.問題は,企業のビジネスモデルが,1つか2つの行動だけが重要だというような大変シンプルなものでない限り,典型的な金銭的インセンティブは何が重要かを伝えるには,単純すぎる限られたツールであるということだ.かといって,複数の基準があるインセンティブシステムは,複雑すぎて行動をうまくコントロールできない.個人の成績が複数の相互に絡み合った面を持ち,組織の業績を上げるために知恵と判断が必要な場合には,単純なシグナルは往々にして間違う.例え仕事が複雑でないとしても,社員がどのようにして目標を達成するか,すべての可能性を考えることは不可能である.仮にそれができたとしても,長くて分かりにくいルールや条件のリストができ,システムはあちこちが抜けて機能しなくなる.

3.正しい人材をひきつけ,間違った人材を排除する選別効果
 同僚と競争して勝つことに興味を感じる人材は,高い業績が高い報酬に繋がる会社を選ぶ.しかし,自社のインセンティブシステムにひかれて応募してきた者が本当に採りたかった人材かどうか別問題である.「金に釣られて入社する奴は,金に釣られて辞める」(タンデム・コンピュータ 元CEO トレイビッグ).また,インセンティブシステムは報酬格差を生むが,これは人間関係を壊すかもしれない.報酬や評価に格差をつけることは,成績が客観的に測定でき,かつ成績が共同作業でなく個人だけの努力の結果であるときに意味がある.正しい人材は必要な協力を行うべきであるという考えに基づけば,ちょっとした協力が不可欠な仕事の場では報酬格差はほとんどいつもマイナスの影響を与える.大学教員の調査では,学部内の給料の格差は,仕事の満足度の低下,協力の低下,研究生産性の低下に繋がっているとの結果もでている.29チーム,延べ1500人のプロ野球選手の調査では,基本給,過去の成績,年齢,経験の全てを勘案しても,選手間の格差が大きいチームほど選手の成績が悪いことが分かっており,格差の大きいチームほど勝率が低い.野球はメンバー間の調整や協力が比較的少ないにも関わらずである.

全ての組織でこの3つのメカニズムが働いている.しかし同時に,動機付け,情報を与え,ひきつけようとした社員に対して,予想外に業績を下げる効果が働くことも多い.金銭的インセンティブが業績を上げるというのは,危険な「半分だけ正しい」常識である.間違った報酬システムは,社員が「自分は公平に扱われているか」「組織が自分を本当に大切に考えているか」を理解するシグナルとなることを考えると,大変危険である.

― 考察とディスカッション ―

 医療には,①多職種による協力が不可欠,②目指すべき目標が複数あり複雑(経営指標,患者の健康,安全性,倫理的要素など),③これらにおいてやる気と目標指標達成の間に直線関係が必ずしも成立しない,④各職種の業務量が単純に医療機関の売り上げにつながるという関係にない,などの特徴がある.インセンティブシステムが人間関係を壊し,間違った行為(非倫理的,コンプライアンス低下)を誘発するリスクについて,十分検討しておかなければならないだろう.また,インセンティブシステムを各職種に適用しても医療機関の売り上げに直接結びつく構造にないため(i.e.診療報酬は医師の医療行為によって規定されているし,患者の動員は外部環境にも依存する),システムの原資を獲得する土台がないことにも留意が必要である.

開催日:平成26年2月19日

Episode of Care という考え方

- 文献名 -
 Episode of Care; A Core Concept in Family Practice
 Henk Lamberts,MD,PhD The Journal of Family Practice,Vol.42,No.2(Feb),1996

 - この文献を選んだ背景 -
 10月、ICPCを搭載した電子カルテシステムをオランダにて視察した。その際に「エピソード」として我々家庭医が扱う疾患を捉える概念を知ることができ、それが電子カルテシステムを利用したICPCデータベースの根幹を担っていることがわかった。それについてPubMedで調べている際に、この文献を見つけて読む事にした。

 - 要約 -
 
141008

 - 考察とディスカッション -
 家庭医療の学会である「日本プライマリ・ケア連合学会」の設立はイギリス・オランダから比べると40年以上遅い。本文献は16年前のものあるが、現在の日本における診療所プライマリ・ケアの記述研究へ重要な示唆を与えている。私たちが年齢や性別ごとにどのような健康問題を扱い、それがどのような診断になり、どのようにフォローされているのか。家庭医療診療所で提供されている医療そのものを記述するためには、ICPCと”Episode”が両輪になると感じた。それを発信していくことの宛先は、国民や住民、ひいては他の臓器別専門医や医療従事者など医療界の方達であり、包括性(幅広い臓器や心理社会背景も含めて)や継続性、不確実性などを客観的に示していくことになるであろう。皆さんはこのようなツールをつかってやりたい研究テーマなどはあるでしょうか?

 開催日:平成25年12月18日

より効率的に仕事をこなす7つの戦略

― 文献名 ―
 [ 7 strategies for creating a more efficient practice]
 Fam Pract Manag.2007 sep;14(8):27-30   http://www.aafp.org/fpm/2007/0900/p27.html

― 要約 ―

Simple, low-cost technologies and strategic outsourcing have helped this solo physician practice efficiently, even without any staff.

It’s an ultra-solo, no-staff ideal medical practice, also known as a micro practice. Low over-head allows me to see fewer patients per day and spend more time with them, but it also requires that I optimize efficiency in order to accomplish all of the administrative tasks on my own.

I discovered one of the most delightful aspects of a micro practice: its responsiveness to change. When I decide to change something, it simply gets done. No one needs to be convinced or trained. The results are immediate and dramatic.
I’ve listed below the changes that were the most helpful in my workflow redesign:

1. Offer online appointment booking.
 I use http://www.appointmentquest.com . When patients want to make an appointment, they simply go to my Web site and follow the prompts. It saves them and me lots of phone time.

2. Delegate history-taking to patients. 
 In September 2006, I started using Instant Medical History (http://www.medicalhistory.com), which allows patients to enter their own history into their chart. 

3. Use free tools to measure how you’re doing. 
 How’s Your Health? (http://www. howsyourhealth.org) is a free online tool that collects patient-entered data regarding their health status and their perceptions of the care they have received, and it provides a sum
mary to the patient and to the doctor.

4. Use e-mail to convey laboratory and X-ray results to patients.

5. Don’t be afraid to let the answering machine pick up. 
During office hours, my message machine states, “I am currently with a patient or otherwise unable to get to the phone; please leave a message and I will call you back as soon as I can.”

6. Use electronic billing.

7. Hire a poster/biller. 
I gave up on the pure ultra-solo/no-hired-help model, mostly because I hate posting and billing.

While my practice is by no means perfectly efficient, the above changes have made my practice sustainable over the long haul. Even if you are not planning to open your own micro practice, many of the above changes in workflow and processes are applicable to any practice setting.
For those interested in practice transformation via the ideal medical practice model, join the online discussion group “practiceimprovement1” at http://www.groups.yahoo.com. It will connect you with like-minded physicians and give you information on how to nudge, nurture and shape your practice as it evolves to its truly “ideal” form.

開催日:平成25年11月13日

世界のMBAではどんなことが学べるのか?

― 文献名 ―
 「世界最高MBAの授業」 佐藤智恵 東洋経済 2013年

― この文献を選んだ背景 ―
 フェローの2年間で経営のスクーリングを受けてきたが、まだそれを活かしきれていない現状がある。更に経営について学ぶためのいくつかの書籍を読んできたが、世界ではどんな経営学が学ばれ、どういう教育スタンダードなのかを知りたくなりこの書籍を読んだ。

― 要約 ―

  内容は、世界の名だたる大学院が提供するMBA(経営学修士)を学んだ複数の日本人留学生のインタビューである。
1章1人の留学生のインタビューで構成され、留学中に受けた授業の中で印象に残った2~3個の授業について記載してあり、それに対し筆者の考察が加えられている。特に研究という形ではなく、あくまで事例の紹介。
 筆者=インタビュアーは1970年生まれ、NHK入局後、ディレクターなどを経てコロンビア大学でMBA取得。ボストンコンサルティンググループを経て独立。
  インタビュイーの日本人は、現在20代後半30代後半までの、国内外の大手やベンチャー企業などで活躍する同年代の15人である。大学院はハーバード、スタンフォード、ノースウェスタン、MIT、デューク、ロンドンなど。

  いくつか重要と思われた箇所からカテゴリー分けして以下に抜粋する。

①リーダーシップ

 ・「リーダーが倫理的に判断する」という事は、どこかに存在する正しい答えを客観的に選択する事ではなく、
     自分の信念を確立し、それをさらけ出すことによって人を動かす事がリーダーシップである。

 ・文化別、国別の理想的なリーダーシップのスタイルがあるのではない。国や文化の垣根を越えて人を導いていくのが
    グローバルリーダーシップである。そのためには常に真正でなければならない。

 ・前向きな変化をするつもりのない経営トップがいる会社で働いているなら、別の会社への転職を考えた方がいい

 ・リーダーに必要な4つの力:
  1)自分自身の優先順位を理解し自省する力
  2)物事を多角的に見る力 
    3)自分自身をありのままに受入れ、日々を改善する力
  4)他人を尊重する力

 ・リーダーとは、人々の人生に対する深い畏れや不安を、「希望」に変える事ができる人だ。
   「この人についていけば、自分や家族のためにより良い人生を送る事ができる」「誇りを持って企業やコミュニティで
    働く事ができる」と人々に希望を与える事。(バンヤンツリーの創設者)

 ・自分が率いるチームのメンバーの顔、名前、名前の発音、経歴を覚えるという事は、帝王学の基本だ。

 ・リーダーには、自分がリーダーであるという強い当事者意識=オーナーシップが不可欠であり、
    オーナーシップを持つという事は、チームメンバーに対して「心からの思いやり、誠実さを持つという事」である。
    そうする事でチームの信頼を得て、結束力が高まり、組織を成功に導く。

 ・組織に規律をもたらしたいのであれば、リーダー自ら規律を体現しなければならない

 ・古い体質の業界であたらしい事をやろうとすると様々な抵抗にあうが、それは当然の事だ。
    その抵抗をいかにサポートに変えるかという努力こそが、改革や使命の実行には不可欠な道筋であり、スキルである。
 
  ・周りの人が「あのリーダーは私たちの組織に価値をもたらさない人だ」と感じてしまうと、実際にそのリーダーは
    価値をもたらす事ができなくなってしまう。貢献する機会が与えられないばかりか、仮に貢献してもリーダーの
    実績と認識されないからだ。

②コミュニケーション

 ・何事も正直に伝える事が一番。相手が受入れがたい事を伝えなければいけないときはなおさら。
    しかし同時に相手に礼を尽くす事もわすれてはいけない。
 
  ・組織内で苦手な人間と働く事にストレスを感じるという事は、「自分本来の自信」が確立されていない事を意味する。
    人間というのは漠然とした不安や怒りを持つ生き物。「自分本来の自信」をもって、何に対してストレスを感じているのか
    原因を特定し、日々自分で関係を改善していくしかない。
 
  ・プレゼンテーションを作り上げる上で重要な3つ:
  1)具体的なストーリーを伝える 
  2)顧客の声や調査結果を具体的に伝える
    3)チームメンバーの役割を明確にし、適切なアドバイザーを見つける

 ・人間は自分と違う人の事を「あの人は敵だ」「あの人は間違っている」と判断しがちだ。そうではなく、
    ただ違いを受入れる事が重要なのだ。その違いを受けいれる事からビジネスが始まる

 ・交渉前に国民性や人柄を確認して、交渉術を変えていけばいい。

③起業/プロジェクトマネジメント

 ・起業する目的はお金を儲ける事ではない。社会に良いインパクトを与える事だ。

 ・学んだ者は、それを活かし自分にしかできない挑戦をする権利だけでなく、挑戦する責任も伴う

 ・人生の創造には、小さなステップからでもいいので実験し、自分と自分の外の世界が相互作用しながら試行錯誤する。
    完璧を目指さないで、顧客の声を聞いてみる。失敗してもいいからある程度製品ができたら売り出してみる。

 ・リバースイノベーションとは「顧客のニーズにあった製品を現地で開発する」こと。グローカリゼーションとは
   「既存の製品を売るために現地の顧客を開拓する」こと。後者は古い。前者のマインドセットを持つべき。

 ・手を広げずに、限られた期間で成果が出せる課題に注力する

  ・プロジェクトの結果が、当初考えていたスコープの範囲だけでなくそれを越えた範囲に対しても、
    どのようなアクションに結びつき、その地域・組織にとってどのような影響をもたらすのかよく考える

 ・最初に発明したり開発したりした人や独占した技術が儲けられる時代は終わった。技術はそこにあるだけでは
    価値はない。技術と社会をつなぐ役割をするのが、オープンイノベーションだ。

 ・起業する時に必要なのは、投資家や顧客を感動させる「ストーリー」だ。ビジネスモデルも大切だが、
    どうやったら世の中にインパクトを与えられるのか、そのストーリーを考えなさい。
    イノベーションとは人間の生活を革新させるビジネスを生み出すことなのだ。

 ・日本のメーカーのマーケティングは、技術ありき、モノありき。
    ヨーロッパのブランドマーケティングはまずコンセプトありき。

④その他
 ・MITのモットー:「Think, Act, Reflect」(考えよ、行動せよ、内省せよ)

 ・自分を見つめる4つのステップ:
  1)自分がずっと変えたいと思っていて、変えられない習性や癖は何か? 
    2)変えられない事を象徴する行動は何か 
  3)変えられた自分を想像して見なさい。違和感はないだろうか 
    4)なぜ違和感を感じるのか

開催日:平成25年11月13日

Typical Electronic Health Record Use in Primary Care Practices and the Quality of Diabetes Care Literature

【文献名】
著者名:JC. Crosson, PA. Ohman-Strickland, D J. Cohen, EC. Clark, and BF. Crabtree.
文献タイトル:Typical Electronic Health Record Use in Primary Care Practices and the Quality of Diabetes Care. 
雑誌名・書籍名:Ann Fam Med
発行年:May/June 2012 10:221-227.

【背景】
We implemented Secom’s EHR system into our 6 clinics these 4 years. But we could not always make use of its potential function as central portal system of medical information to improve our quality of care in daily practice. So, I am interested in this type of research to change our usage style of EHR. How can we find better use of EHR?

【要約】
<PURPOSE>
Recent efforts to encourage meaningful use of electronic health records (EHRs) assume that widespread adoption will improve the quality of ambulatory care, especially for complex clinical conditions such as diabetes. Cross-sectional studies of typical uses of commercially available ambulatory EHRs provide conflicting evidence for an association between EHR use and improved care, and effects of longer-term EHR use in community-based primary care settings on the quality of care are not well understood.

<METHODS >
We analyzed data from 16 EHR-using and 26 non-EHR-using practices in 2 northeastern states participating in a group-randomized quality improvement trial. Measures of care were assessed for 798 patients with diabetes. We used hierarchical linear models to examine the relationship between EHR use and adherence to evidence-based diabetes care guidelines, and hierarchical logistic models to compare rates of improvement over 3 years.

<RESULTS>
EHR use was not associated with better adherence to care guidelines or a more rapid improvement in adherence. In fact, patients in practices that did not use an EHR were more likely than those in practices that used an EHR to meet all of 3 intermediate outcomes targets for hemoglobin A1c, low-density lipoprotein cholesterol, and blood pressure at the 2-year follow-up (odds ratio = 1.67; 95% CI, 1.12-2.51). Although the quality of care improved across all practices, rates of improvement did not differ between the 2 groups.

<CONCLUSIONS>
Consistent use of an EHR over 3 years does not ensure successful use for improving the quality of diabetes care. Ongoing efforts to encourage adoption and meaningful use of EHRs in primary care should focus on ensuring that use succeeds in improving care. These efforts will need to include provision of assistance to longer-term EHR users.

【ディスカッション】
<PURPOSE>
Recent efforts to encourage meaningful use of electronic health records (EHRs) assume that widespread adoption will improve the quality of ambulatory care, especially for complex clinical conditions such as diabetes. Cross-sectional studies of typical uses of commercially available ambulatory EHRs provide conflicting evidence for an association between EHR use and improved care, and effects of longer-term EHR use in community-based primary care settings on the quality of care are not well understood.

<METHODS>
We analyzed data from 16 EHR-using and 26 non-EHR-using practices in 2 northeastern states participating in a group-randomized quality improvement trial. Measures of care were assessed for 798 patients with diabetes. We used hierarchical linear models to examine the relationship between EHR use and adherence to evidence-based diabetes care guidelines, and hierarchical logistic models to compare rates of improvement over 3 years.

<RESULTS> 
EHR use was not associated with better adherence to care guidelines or a more rapid improvement in adherence. In fact, patients in practices that did not use an EHR were more likely than those in practices that used an EHR to meet all of 3 intermediate outcomes targets for hemoglobin A1c, low-density lipoprotein cholesterol, and blood pressure at the 2-year follow-up (odds ratio = 1.67; 95% CI, 1.12-2.51). Although the quality of care improved across all practices, rates of improvement did not differ between the 2 groups.

<CONCLUSIONS>
Consistent use of an EHR over 3 years does not ensure successful use for improving the quality of diabetes care. Ongoing efforts to encourage adoption and meaningful use of EHRs in primary care should focus on ensuring that use succeeds in improving care. These efforts will need to include provision of assistance to longer-term EHR users.

【開催日】
2012年6月20日

組織管理

【文献名】

Quint Studer著、エクセレント・ホスピタル、ディスカバー社、2011年

【要約】

<5つの柱、9つの原則で最高の組織を目指す>
5つの柱とは「医療の質」、「サービス」、「人材」、「成長」、「財務」の柱である(※Balanced Score Cardの考え方に「人材」が加えられた形)。以下、一つ一つの原則について触れる。

1.最高の病院になることを決意する
5つの柱それぞれについて測定可能な指標を設定することから始まる。それぞれの目標を定め、行動計画を作成し、評価制度を設定すれば、職員は目標達成に主体的に関わるチャンスが生まれる。そのためにはa) 職員の意識を高めるため全ての会議の議題を「5つの柱」に合わせる、b) 責任感をもたせるためにリーダーの評価を「5つの柱」に合わせる、c) 指標の進捗状況を知らせるために「5つの柱」で表した部門間のコミュニケーションボードを作成する。サンプル指標を揚げる(図1)。

2.重要な指標を測定し、改善する
定めた指標はできるだけ頻繁に測定する。一般に四半期では不十分。モチベーションを保つためには少しでも早く成果を知る必要がある。

3.サービス志向の文化をつくる
いくつかのサービスチームを作ることが原動力になる。標準化チーム、患者満足度チーム、職員満足度チーム、測定チーム、コミュニケーションチーム、評価・報酬チームなど。職員が主体的に関わる。

4.リーダーを育成する
リーダーシップを学んでいる職員が不在ではいけない。リーダーシップ開発セミナーを行うべきである。部門管理者も医療ファイナンス、業務量管理、パフォーマンス別面談スキル、上司をコントロールスキル、測定結果からアクションプランを立てるスキルなどを育成する必要がある。特に、「組織変革の壁」を学ばせ予測・対応できる能力の育成が必要。組織の成長段階の中で必ず職員のパフォーマンスのばらつきが生じ、パフォーマンスに応じた対応が組織改善に必要。

5.職員の満足度に重点を置く
この原則に重点を置くことは全ての柱の改善につながる(※参考:Service-Profit Chain)。リーダーへのフィードバックはリーダーのトレーニングにもなる(図2)。改善すべき課題は「90日間行動計画」に落とし込む。

6.職員一人一人に責任感をもたせる
「名案プログラム」を導入する。自分の案が組織改善に寄与し、評価されるならば、職員は主体的に組織改善に関わるチャンスがある。

7.個人の行動を、組織のゴール・価値観に合致させる
組織の目標に合わせてリーダーを評価する(図3)。ペースメーカーとして月齢進捗報告書(図4)、90日間行動計画(図5)なども利用する。また、医療者同志での評価も取り入れる(図6)。

8.すべての職員とコミュニケーションをとる
職員フォーラムやコミュニケーションボードの活用で一人一人の行動に影響する。

9.成功を認め、讃える
「感謝の手紙」などで職員を評価する。

図1
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図2
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図3
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図4
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図5
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図6
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【開催日】
20120年4月11日