ピーナッツアレルギーのリスクのある乳児へのピーナッツ負荷試験

―文献名―

George Du Toit M.B, et.aRandomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergyl. N Engl J Med 2015; 372:803-813February 26

―要約―
背景:
 西欧では小児のピーナッツアレルギーの有病率がここ10年で倍増している。また、ピーナッツアレルギーはアフリカやアジアでもみられるようになってきた。そこで筆者らは、ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児におけるアレルギー発症の予防に対して、ピーナッツを摂取する方法と摂取を回避する方法のどちらが有効かを調べた。

方法:
重度の湿疹、卵アレルギー、またはその両方を有する乳児640人を、生後60ヶ月までの間、ピーナッツを摂取する群(ピーナッツ群)と、摂取を回避する群(回避群)にランダムに割り付けた。対象となった小児は、生後4ヶ月以上11ヶ月未満だった。プリックテストによるピーナッツ抽出物への反応の有無によって、測定可能な膨疹が観察されなかった群と、直径1~4mm膨疹が観察された群に層別化し、ランダム化した。プライマリアウトカムは、生後60ヶ月時点でピーナッツアレルギーを有する参加者の割合とし、群ごとに独立に評価した。

結果:
プリックテストがベースラインで陰性だった530人では、生後60ヶ月時のピーナッツアレルギー有病率は、回避群13.7%、ピーナッツ群1.9% であった(P<0.001)。プリックテスト陽性であった98人では、同様に回避群35.3%、ピーナッツ群10.6%であった (P=0.004)。重篤な有害事象には群間差はなかった。
ピーナッツ特異的IgG4抗体の上昇はピーナッツ群でみられ、回避群では同IgE 抗体価の上昇がみられた。プリックテストでの膨疹がより大きいこと、ピーナッツ特異的IgG4/IgE比がより小さいことは、ピーナッツアレルギーの発症と関連していた。

結論:
ピーナッツに対するアレルギーのリスクが高い小児において、ピーナッツの摂取を早期に開始することで、アレルギーの発症頻度が有意に低下する。

【開催日】
2015年4月15日(水)

“研究をやる前の自分とやり終えた自分が変わる”ということ

―文献名―
質的研究の方法 いのちの<現場>を読み解く 語り手:波平恵美子 聞き手:小田博志 春秋社 2010年

―要約―
以下、印象に残った文章の抽出
第一部 質的研究のコツを聴く
第一章:質的研究とは何よりも「問題を発見する」ことに強みがある。たてた問題の答えを見出すだけではなく、それまで気づきもしなかった問題の存在に気付き「問題を発見」することによって、研究全体の発展に貢献することができる。
・問題意識と研究課題は分けておく

日常生活の中にある問題意識を「研究課題」にするためには、自分の抱き続けている問題意識を自分のなかで整理しておく(自分の動機付けがどこにあるかを明確にしておく)ことが必要です。
・質的研究は手仕事、まずは素材に向き合う
 データを繰り返し、繰り返し見て、そのなかで研究計画書を作りながら考える。
・問題意識を持ち続けること。それは優れた発想を生む。
 「なぜ、あのように男泣きに泣いていた父が、弟の骨を見て笑ったのか(4歳6ヶ月の時)」 
 質的研究の上で優れた、意義のあるRQを立てるためには、自分の興味関心のある問題あるいは、
 時には幼い時から抱いている疑問や体験の中から生じた問題を簡単に捨てないことである。
第二章:質的研究の強みは、問題を発見することである。そのためには「相対化」する視点を獲得することが必要になってくる。相対化の視点とは、対象を、対象をみる自分自身とは全くことなる存在として扱う「客観化」とは違い、対象をみている自分、対象について語る自分自身も暗黙に含んだものの見方のことである。それは、地図を描いたり地図をみる行為に似ている。
・「距離をおく」ということ

 自らを「よそ者」の視点で見てみる。Making the familiar strange 自分にとっては当たり前の  
 ことを奇妙と捉える。これは相対化ということでもあります。自分が生きている状況を相対化することが問題、そして研究課題の発見にもつながる。
・質的研究では多様なものをデータとする
あるテーマについて書かれたものだけを集めて、それをよんで自分が納得したかどうかを書いてもらう。同時に、自分の考えがいかに人の受け売りなのかということに気付き始める。一般言説の霧が晴れれば研究課題は見えてくる。それはデータ分析であると同時に、自分自身の思考の相対化にもつながる。
・データの持ち味を活かす
 質的研究によって得られた結論とは、もとにある生データを推測させるようなものでなくてはならない、という考えが常に私にはある。
 いい研究というのは、対象についての本質が言い当てられる、読んでいて「よくわかった」という「眼」をあたえてくれる研究なんだと思います。そのためにも、データ自身が「語り始める」ように繰り返し読むことが大事。
・「語ってもらえる私」になる
 インタビューのとき「いかに聞きすぎないか」にも気を配る必要がある。

Intermezzo 子どもの時の体験と「プロの『よそ者』」への道
 その研究テーマに取り組まざるを得ない、抜き差しならない状況で始めている印象があります。
 人類学者とは「プロのよそ者」だという表現があるが、子供って「世界のよそ者」なんですね。
–色々なことを感じているけれど、まだ人に伝える言葉にできない。しかしそれを既存の言葉にあてはめて終えてしまうのではなく言葉にならない自分のひっかかりを大切にして、保ち続ける−それは自分にとって意味があるだけではなく他の人たちの言葉にならない思いをひらくことにもなる・・・

第二部 経験を聴く
第5章 当事者の切実さを忘れない。なおかつ当事者と異なる視点を忘れない。
質的研究の場合、問題発見は大胆に行い、一方、データ収集、整理、分析には細心を心がける。一部の文化論のように、飛躍だけでは次が続かない。
質的研究は社会に概念的資源を提供する役割がある、と表現したい。すなわち現場で生きている人たちがうすうす気づいているのだけど、言語化していない点を「言い当てる」という役割ですね。
・ひらめきの知、アブダクション

どうしてリンゴが木から落ちるのかを説明する理論枠組みを生み出す思考の展開のこと。そこには現象レベルからの飛躍、ひらめきがある。量的研究は演繹的であるのに対して、質的研究は帰納的だと言われます。しかしアブダクションはそのどちらでもない第三の推論様式なのです。
・手間暇をかけること
書いていることにきづくのは100あるうちの3読めばわかる。書いていないことに気づくには、やはり30とか40とか読まないと気がつかない。

【開催日】
4月16日(水)

上部消化管内視鏡時における音楽療法の緊張軽減効果について

―文献名―

Rudin D, et al. Music in the endoscopy suite: a meta-analysis of randomized controlled studies. Endoscopy. 2007, June; 39(6):507-510.

―要約―
【背景と研究目的】
 先行研究で音楽療法がストレス軽減と鎮痛を提供することが示唆されている。このメタ解析において我々は上部消化管内視鏡施行中の患者における音楽療法の効果に焦点を当てた。

【資料と方法】
 PubMedとコクラン•ライブラリのデータベースを利用した文献検索と手動検索によって上部消化管内視鏡施工中の患者における音楽療法の効果を調べた6つのランダム化コントロール試験を抽出した。
 データ抽出後にfour separate meta-analysesが実施された。薬物療法を使用しない3つの研究(グループA)において不安レベルが効果の尺度として使われた。薬物療法を使用した3つの研究(グループB)において鎮静剤と鎮痛剤の必要量と内視鏡施行時間が解析された。

【結果】
 合計641名の患者が解析に加えられた。グループAにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較してより低い不安レベル(8.6%の減少、P0.004)を示した。グループBにおいて音楽療法を受けた患者はコントロール群と比較して統計学的に有意な鎮痛薬必要量の減少(29.7%の減少、P0.001)と内視鏡施行時間の減少(21%の減少、P0.002)とほぼ有意に近い鎮静薬必要量の減少(15%の減少、P0.055)を示した。

【結論】
 上部消化管内視鏡を実施する患者において音楽療法はストレスの軽減と鎮痛に効果的なツールである。

【開催日】
2015年3月18日(水)

腰痛に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーション

―文献名―

Steven J Kamper, et al. Multidisciplinary biopsychosocial rehabilitation for chronic low back pain: Cochrane systematic review and meta-analysis. BMJ 2015;350:h444 doi: 10.1136/bmj.h444 (Published 18 February 2015)

―要約―
【目的】
 慢性腰痛の患者に対する多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの長期的な効果を評価するため

【デザイン】
 システマチックレビューとメタ解析

【データ源】
 Electronic searches of Cochrane Back Review Group Trials Register, CENTRAL, Medline, Embase, PsycINFO, and CINAHL databases up to February 2014, supplemented by hand searching of reference lists and forward citation tracking of included trials.

【研究選択基準】
・3ヶ月以上の腰痛を患う患者
・多職種によるリハビリテーション:
身体的な側面と心理的な側面か社会的、仕事に関した側面の一つ、あるいは両方に対するリハビリ。少なくとも2つの異なった専門的なバックグラウンドをもつヘルスケアの専門家が提供。非多職種の介入との比較。

【結果】
 41の研究がインクルージョンされ、そこにはトータルで6,858人の患者が含まれていた。しばしば以前の治療では症状が改善せず、平均の疼痛期間が1年以上であった。16の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、疼痛(標準化平均値差 0.21、95%信頼区間 0.04~0.37 ;10ポイントの疼痛スケールにおいて0.5ポイントに相当)と障害(標準化平均値差 0.23、95%信頼区間 0.06~0.40 ;24ポイントのローランドモリスインデックスにおいて1.5ポイントに相当)を減少させた。19の研究では、低い質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、疼痛(標準化平均値差 0.51、95%信頼区間 −0.01~1.04)と障害(標準化平均値差 0.68、95%信頼区間 0.16~1.19)を減少させたが、統計学的に重大な不均質な横断研究があった。8個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、身体面の治療と比較して、介入後1年間の仕事復帰率を改善させた(オッズ比1.87、95%信頼区間 1.39~2.53)。7個の研究では、中等度の質のエビデンスであった。多職種のリハビリテーションによって、通常のケアと比較して、仕事復帰率を改善させなかった(オッズ比1.04、95%信頼区間 0.73~1.47)。外科的処置との比較をした2個の研究では、アウトカムに違いはほとんどなく、外科的手術に伴う有害事象のリスクが上昇した。

【結論】
 多職種による生物心理社会的なリハビリテーションの介入は慢性腰痛を持つ人々の疼痛と障害を減らすのに、通常のケア(中等度の質のエビデンス)、身体面の治療(低い質のエビデンス)よりも効果的であった。仕事に関するアウトカムは、多職種によるリハビリテーションは身体面の治療よりも効果的だが、通常のケアよりも効果的でないようだ。

【開催日】
2015年3月18日(水)

医療アシスタントによる健康に関するコーチングは低所得層の患者の糖尿病,高血圧,高脂血症を改善する(ランダム化比較試験)

―文献名―

Rachel Willard-Grace, et al. Health Coaching by Medical Assistants to Improve Control of Diabetes, Hypertension, and Hyperlipidemia in Low-Income Patients: A Randomized Controlled Trial.Ann Fam Med. 2015;13:130-138.

―要約―
【目的】
 医療職ではない医療アシスタントによる健康に関するコーチングがもし効果的ならば、プライマリ・ケアの現場におけるセルフケア支援の実現可能なモデルとなり得る。著者らは医療アシスタントがクリニック内で行う健康に関するコーチングが、通常のケアと比較して心血管系または代謝系のリスク因子の改善に寄与するかどうかを調査した。

【方法】
 カリフォルニア州サンフランシスコの2つのセーフティネットプライマリ・ケアクリニックにおいて、441の患者による12か月間のランダム化比較試験を行った。患者は、40時間のトレーニングを受け修了証書を持つ医療アシスタントによる健康に関するコーチングを受ける群:Table 1と、通常ケア(通常の医師の診察、糖尿病教育担当者、管理栄養士によるケア、慢性疾患認定看護師など)を受ける群に分けられた。
 調査開始時に十分コントロールされていなかったヘモグロビンA1c、収縮期血圧、LDLコレステロール値が12か月後に少なくとも3つのうち1つが目標値を達成したか、という複合アウトカムを主要アウトカムとして設定した。データはカイ2乗検定と線形回帰モデルにて解析した。

【結果】
 コーチングをうけたグループは、コントロール群と比較してより多くの患者が主要アウトカムを達成した(46.4% vs 34.3%, p=0.02)。全ての数値が目標値を達成したという2次複合アウトカムも同様の結果であった(34.0% vs 24.7%, p=0.05)。ヘモグロビンA1cは約2倍の目標達成率であった(48.6% vs 27.6%, p=0.01)。規模の大きいクリニックでは、コーチングを受けた患者はLDLの目標達成率が高かった(41.8% vs 25.4%, p=0.04)。収縮期血圧の目標値を達成した患者は、2グループ間では違いは認められなかった。

【結論】
 クリニック内の健康に関するコーチとして務める医療アシスタントは、通常のケアと比較してヘモグロビンA1c、LDLコレステロールを改善するが、血圧は改善しなかった。この結果は患者の臨床的な状態と介入、遂行における背景的な側面のもつ関係性への理解が必要なことを強調している。

【開催日】
2015年3月11日(水)

最適な収縮期血圧目標

―文献名―
Xu W, Goldberg SI, Shubina M, Turchin A.Optimal systolic blood pressure target, time to intensification, and time to follow-up in treatment of hypertension:population based retrospective cohort study.BMJ. 2015 Feb 5;350

―要約―
【目的】
新しい降圧薬を加えるか、既に処方されている薬の量を増やすかについて、最適な収縮期血圧目標を調査することと、治療強化やフォローアップの遅れと心血管イベントあるいは死亡のリスクとの間の関係を明らかにすること。

【デザイン】
後ろ向きコホート研究。

【セッティング】
英国のプライマリ・ケア診療所で、1986年から2010年まで。

【参加者】
健康改善ネットワークの全国のプライマリ・ケア研究データベースから88,756人の高血圧の成人患者。

【主なアウトカム評価】
異なる治療戦略の患者における急性冠動脈疾患イベントの発症率とあらゆる原因の死亡率。治療戦略は10年間の治療評価期間における収縮期の治療強化閾値、強化までに要した時間、フォローアップまでの時間で定義された。年齢、性別、喫煙の状況、社会経済的貧困、糖尿病の病歴、冠動脈疾患もしくは慢性腎臓病、チャールソンの併存疾患指数、BMI、薬物所持率、そして、ベースラインの血圧で調整した。

【結果】
治療戦略評価期間の後、フォローアップの中央値は37.4か月で、その間に9,985人(11.3%)が急性冠動脈イベントを起こしたか、あるいは死亡した。治療強化の閾値が130-150mmHgではアウトカムのリスクに違いはなかった。150mmHg以上では、リスクの増加と関連していた(ハザード比1.21、95%CI 1.13-1.3、160mmHg以上ではp<0.001)。アウトカムのリスクは治療強化までの時間が短い(0-1.4か月)と長いときと比べて1/5になった(ハザード比1.12、95%CI 1.05-1.20、1.4-4.7か月ではp=0.09)。降圧療法を強化して以降、最初に患者が受診するまでの期間が2.7か月を超えると、リスクが上昇することもわかった(ハザード比1.18、 95%CI 1.11-1.25、p<0.001)。 【結論】 心血管イベント・全死亡リスク上昇には、収縮期血圧が150mmHgを超えていること、降圧療法の強化が1.4か月以上遅れること、治療強化後のフォローアップが2.7か月以上遅れることが関連することがわかった。この結果は高血圧の治療でタイムリーな医学管理とフォローアップの重要性を支持するものである。 【開催日】 2015年3月11日(水)

プライマリ・ケアにおける抗うつ薬の効果と耐用性のシステマティック・レビュー

―文献名―
Klaus Linde: Efficacy and Acceptability of Pharmacological Treatments for Depressive Disorders in Primary Care: Systematic Review and Network Meta-Analysis.Annals of Family Medicine  2015 vol. 13 no. 1 69-79

―要約―
目的:
 この研究の目的は、プライマリ・ケアのセッティングにおいて、どの抗うつ薬がプラセボと比較してより効果的なのかを調査し、抗うつ薬の種類によってその効果と耐用性の違いがあるのかを究明することである。

方法:
 私たちは2013年12月までに発表されたMEDLINE, Embase, Cochrane Central of Controlled Trials (CENTRAL), PsycINFOの文献を調査し、プライマリ・ケア医による成人のうつ病治療の無作為試験についてレビューを行った。直接的、あるいは間接的なエビデンスを結合しながら、従来のpairwiseメタ分析と、ネットワークメタ分析の両方を実施した。一次アウトカムは治療への反応(うつ病スケールで50%以上の改善、あるいは症状のスケールでの改善)と、副作用による研究の中断とした。

結果:
 計66個の研究(15161人)がinclusionされた(Figure 1)。ネットワークメタ分析では、TCAs、SSRIs、SNRI(セロトニン-ノルアドレナリン再取込阻害薬)、SARI(低用量セロトニンアゴニスト+再取込阻害薬=トラゾドン、レスリン®)、オトギリソウ抽出物(セント・ジョーンズ・ワート)がプラセボと比較して有意な効果があることが分かった(Table 3)(odds ratio 1.69~2.03)。これらの薬剤間での統計上の差異は見出せなかった。rMAO-As(モノアミン酸化酵素阻害薬)とオトギリソウ抽出物は、副作用による中断という点では、TCAs、SSRIs、SNRI、NRI(ノルアドレナリン再取込阻害薬)、NaSSAs(ノルアドレナリン作動性-特異的セロトニン作動制約)に比べて中断は少なかった(Table 4)。

結論:
 TCAsとSSRIsは他の薬剤に比べて、プライマリ・ケアのセッティングでの効果という点で確固たるエビデンスがある。しかし、プラセボと比較した効果の大きさでは比較的小さい。他の薬剤(オトギリソウ抽出物、rMAO-As、SNRI、NRI、NaSSAs、SARI)はいくつか良好な結果があるものの、それらを明確に推奨するには最近のエビデンスでは限界がある。
 限界として、出版バイアス、ネットワークアナリシスによる限界、プライマリ・ケアのセッティングでの文献が少ないこと、効果判定が平均6週間であることから、プライマリ・ケアのセッティングにおける長期的な効果と耐用性については今後さらなる研究が必要。

【開催日】
2015年3月4日(水)

市中肺炎におけるプレドニゾンの追加治療は有効か?

―文献名―

①Djillali Annane: Corticosteroids and pneumonia: time to change practice.The Lancet,Published online: January 18, 2015
②Claudine Angela Blum: Adjunct prednisone therapy for patients with community-acquired pneumonia: a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled trial.The Lancet,January 18, 2015

―要約―
Background:
 全身性ステロイドを市中肺炎の治療に追加することについては、未だ議論がある。今回入院市中肺炎の患者に対し、短期ステロイド治療が臨床的安定に至るまでの期間を短縮するかの検討を行った。

Methods:
 この二重盲検多施設共同ランダム化プラセボ対照試験において、18歳以上の支柱肺炎の患者をスイスの7つの3次医業機関から登録した。患者はランダムに1:1にプレドニゾン 50mg/日あるいはプラセボを7日間投与する群に割り付けられた。プライマリエンドポイントとして臨床的な安定(バイタルサインが少なくとも24時間安定)までの日数とした。

Findings:
 2009年12月1日から2014年5月21日までの間、2911人の患者が登録され、785人がランダム化された。392人がプレドニゾン群、393人がプラセボ群。臨床的に安定するまでの期間の中央値はプレドニゾン群の方が有意にに短かった(プレドニゾン群 3.0 days, IQR 2.5-3.4、プラセボ群 4.4 days, 4.0-5.0; hazard ratio[HR] 1.33, 95% CI 1.15-1.50, p<0.0001)(Table 2)。  30日目までの肺炎関連合併症については両群とも差はみられなかった(11 [3%] in the prednisone group and 22 [6%] in the placebo group; odds ratio [OR] 0.49 [95% CI 0.23-1.02]; p=0.056)(Table 3)。  プレドニゾン群はインスリンを要する入院中の高血糖の頻度が有意に多かった(プレドニゾン群 76 [19%] vs 43 [11%]; OR 1.96, 95% CI 1.31-2.93, p=0.0010)(Table 3)。  ステイロイドによるその他の有害事象はまれであり、両群とも差はみられなかった(Table 3)。 Limitation:  入院患者としたため、外来患者全体への一般化の限界あり。  死亡数が少ないので検討するにはパワー不足。  Primary endpointにおいていくつかのパラメーターが存在していること。しかし、筆者としては、これは現実に即していると考えている。 Interpretation:  入院を要する市中肺炎の患者に対する7日間のプレドニゾン治療は合併症を増加させることなく臨床的な安定までの期間を短縮する。この結果は患者の利益、医療の費用、効率性からは切実なものであると言える。 【開催日】 2015年3月4日(水)

診察での抵抗、両価性、葛藤への対応

序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
―文献名―
ビル・オハンロン著・宮田敬一訳:インクルーシブセラピー 敬意に満ちた態度でクライエントの抵抗を解消する26の方法,2007

―要約―
序章
 私たちセラピストやクライエントがセラピーの成功を妨げる、通常は抵抗と考えられている者の価値に気付くことが基本にある。セラピーにおける葛藤、両価性、抵抗、そして様々な「雑草」に対処する態度はひとつの芸術となり得る。他のアプローチに無反応であったり抵抗したりする人に対してインクルーシブセラピーは有効で、特に「境界性人格障害」と診断された人に対して有効である。
 1990年代に多くのセラピストが解決志向アプローチに変更した後、クライエントの多くは恩恵を得るものの、何人かはこの技法にイライラし、セッションが進むにつれて離れていく経験をした。セラピストは何が役に立ったか、何が上手くいったかを尋ね続けることで憤慨させたり、不快にさせたりすることに対して無頓着で、この現象を「解決強制」と名付けて専門誌に発表された。
 物事を変化させようと可能性に踏み込むときでも、私たちは痛みや苦しみに直面しなければならない。複雑なことに直面する最もよいスタンスは、問題を承認すること、そして同時に変化への可能性を認めることである。

3Dイメージとインクルーシブセルフ
ピアジェによれば、初め乳児は他人を含む世界と自分自身を区別していない。社会適応が進む過程で、私たちは他人と自分自身を区別し始める。徐々に、生の体験からアイデンティティの感覚を構成し始める。そしてたいてい私たちは、自分で構成するアイデンティティのストーリーのなかに生の体験の多くを包含するが、すべてを包含するわけではなく、体験のいくらかの側面は、主たるストーリーにあわないため除外される。また、私たちが恥じているために除外される側面や、何らかのトラウマに対する反応として分離される部分もある。このプロセスを「3Dモデル」と呼び、私たちが分離したり(dissociate)、自分のものではないとしたり(disown)、価値をさげたり(disvalue)すること。私たちは自分のある側面しか同一視せず、残りは同一視から除外されるのです。
 そこで、初めは360度あった自己が、例えば267度の自己になってしまうが、そのストーリーの周囲には常に本来の生の体験の材料があり、そこには私たちがまだ発展させていない潜在力が含まれている。これを「インクルーシブセルフ」と呼ぶ。(図:イングル―ジブセルフ 表示)
 このインクルーシブセルフは、私たちがインクルーシブセラピーを用いるときに、豊饒さを引き出す源泉となる。その人が体験の中で、分離したり、価値を下げたり、自分のものでないとしているいかなるものに対しても、招待し、許しを与え、含んでいくことで、インクルーシブセルフを扱うようデザインされている。

インクルーシブセラピーの3つの基礎的方法
1.クライエントの体験などへの許可やそうしなくてもよいという許可を与える。(許可法)
2.一見正反対や矛盾に見えるものが葛藤なく共存する可能性を示す。
3.過去にそうだった、現在そうである、将来そうなるだろうと話すときに、正反対の可能性も考慮に入れる。
 26の方法はこれら3つから応用的な方法やテクニックを選び出したもの。
許可法
許容は、インクルーシブセラピーの最初の基礎的な方法で、ほとんどのセラピストはおそらくすでにこの方法を用いている。なぜなら感じてはならない感情や考えてはならない考えやしてはならない行動のために行き詰まり、セラピーにやってくるのだから。
1.1 許可を与える
クライエントが持つかもしれない、ありとあらゆる体験や感情や思考や空想に対して許可を与えてください。感覚、不随意的な思考、感情、イメージなどの無意識な体験は大丈夫だと、クライエントに知らせてください。もちろん、それらと「計画」および「行動」(すべてが大丈夫とは限らない)との区別には常に注意する。
用例
クライエント : 私は時々、夫と子供から逃げ出すことを空想するんですよ。
セラピスト : 他の女性たちが同じことを言うのを聞いたことがありますよ。そういった場合、結婚生活や家庭生活のいくつかの局面と失望を結び付けすぎることからくることが多いんですが。それがあなたにもあてはまるかどうかはわかりませんが、しかしそのような考えをもつのはいいと思います。もちろん離別を「企てる」ことと実際にそうすることは、全く別物ですよ。

【開催日】
2015年1月21日(水)

企画実現への攻撃と処方箋

―文献名―
ジョン・P・コッター,ローン・A・ホワイトヘッド,庭田よう子 訳.「ハーバード流企画実現力」.2011.日経BP社.221p.

―要約―
優れたアイディアを守る、通説と一件相反する5つの原則
i. 攻撃させることによって周囲の関心を引き付ける
 反対意見を閉出すと、企画を進行させるために十分な共感や賛同が聴衆の中で高まるだけの注意を集められないため。
ii. 簡潔明瞭で良識にあふれた対応をする
 膨大なデータや論理を駆使して反対者をやり込めない。聴衆の関心が離れてしまう。
iii. 敬意を持って接する姿勢を聴衆に示す
 聴衆から反感を買わないようにすることが重要。
iv. 少数の攻撃者よりも聴衆の反応を観察する
 攻撃に対峙する際、真の問題の核心となるのは大多数の人々の反応である。
v. 事前に準備する
 企画に対する攻撃の基本戦略は「混乱」、「遅延」、「嘲り」、「不安をあおる」である。24の攻撃とその対応について準備しておく。

<24の攻撃とその対応(抜粋)>
1.「これまでうまくやってきたのに、どうして変える必要があるのか?」

 対応:確かにそうかもしれないが、状況に適応しなかった者がやがて滅びた例を誰もが知っているはずだ。

4.「わたしたちが失敗したと行っているも同然だ!」
 対応:あなたがたは必要なツールもない状態で、本当に素晴らしい仕事をしていると言っているのだ。(どちらか一方が正しいではなく、どちらも正しいという方向に導く)

6.「これについてはどうか、あれについては?これは、あれは・・・・・・・・?」
 対応:よいアイデアでも、それが新しいアイデアであれば、確実に答えられない多くの疑問が提起されるものだ。(確実に答えられない質問を反対者に多く語らせず、やんわり遮る)

7.「その提案は度を超している」「十分とは言えない」
 対応:これからこのアイデアより正しい方向へ踏み出せるし、これ以上遅れることなく進めるはずだ。(方向性の一致を利用して遅延の企てに対抗する)

10.中核をなす価値観を捨て去ろうとしている」
 対応:このプランは、わたしたちの伝統的価値観を守るために絶対的に必要なものだ。

14.「どうだ!これは否定できまい!(提案者が知らない厄介ごと)」
 対応:その重要性は誰も否定できない。確かにわたしたちはその問題を詳しく調べていない。だが、これまで見つけた潜在的な問題は容易に解決できた。それを踏まえると、新たな問題も、これまでの問題と同様に対処可能という自信がある。(その場で答えようとするのは得策ではない)

16.「かつて試したことがあるが、うまくいかなかった」
 対応:過去はそうだったかもしれない。しかし、状況は変化すると、わたしたちの提案はその内容とまったく同じものでもない。(シンプルに対応すべし、違う点を詳細に示す必要はない、新たな反撃を生む)

18.「よいアイデアだが、今はふさわしいタイミングではない」
 対応:絶好のタイミングというのは、気分が盛り上がり、何かを実現するために全力を注ぎたいと大勢の人が思うときであり、まさに今がそのときだ。

20.「ここではうまくいくはずがない。わたしたちはほかとはちがうのだから!」
 対応:わたしたちはみんなちがうが、一方でまったく同じところもある。

―考察とディスカッション―
 本書は反対者を駆逐する方法ではなく、反対者がいるなかで、その他大勢をどのように巻き込んでいくかについての方法を説いている。ともすれば反対者を論理でねじ伏せるような対応がとられがちだが、本書は企画実現のための効果的な立ち振る舞いとはどのようなものなのかを考える一つの視点を提供している。

<ディスカッションポイント>
皆さんは反対意見にあった際にどのような行動をとっていることが多いだろうか?
そしてその行動は果たして効果的に機能しているのだろうか?

【開催日】
2015年1月21日(水)