AIによる呼吸器症状を呈する患者のトリアージは患者のアウトカムを改善する

-文献名-
Steindor E, et al. Triaging Patients With Artificial Intelligence for Respiratory Symptoms in Primary Care to Improve Patient Outcomes: A Retrospective Diagnostic Accuracy Study. The Annals of Family Medicine. 2023; 21(3): 240-248.

-要約-
【Introductionと目的】
総合診療医/家庭医は、より多くの患者、併存疾患、要望を抱え、診断検査のオーダーも大幅に増加している。一般開業医を訪れる患者の約20%は自己解決型の症状で、患者の最大72%は急性呼吸器症状である。診断検査の過剰使用や誤用は、プライマリケアにおけるよく知られた問題であり、偶発的な所見を増加させる。同じことが抗生物質の処方、 特に呼吸器感染症に適用され、耐性菌の増加につながる。臨床資源の誤用の原因は多岐にわたるが、患者の要求、人間の持つバイアス、時間の圧力が主要なものである。機械学習モデル(MLM)は、複数の臨床上のタスクにおいて医師と同等かそれ以上の能力を持つと考えられている。MLMを用いた患者のトリアージは、医師によるトリアージと同等と報告されている。ガイドラインやスコアリングシステムは診断と治療を標準化し、コスト削減とケアの質向上に資するのだが、十分利用されていない。ガイドラインの適用性、利便性、時間不足が理由として挙げられる。
本研究の目的は、呼吸器症状を持つ患者の症状や徴候(臨床的特徴)について、来院前のトリアージを模倣するため患者に質問可能な要素のみを使用することにより患者トリアージMLMを訓練することである。
このMLMは、呼吸器症状トリアージモデル(RSTM)と呼ばれ、スコアに基づいて患者を10のリスクグループ(グループ1から10までリスクが高くなる)に分類する。医療現場におけるMLMのパフォーマンス評価は複雑であり、どのベンチマークを使用すべきかはしばしば不明確である。多くの報告では、人間の偏見やエラーの影響を受ける医師の診断をベンチマークとしてMLMを評価している。RSTMを複数の患者のアウトカムをベンチマークとして評価することはより良いパフォーマンス指標となる可能性が高いが、この方法でMLMトリアージのパフォーマンスを検証した報告はない。
【方法】
アイスランド・レイキャビク地域のすべてのプライマリケアクリニックを対象とした。7つのICD10コード(J00、J10、JII、J15、J20、J44、J45)のうち1つの診断を受けた患者のカルテから臨床テキストノート(CTN)※を抽出した。23819名の患者の44007のカルテ記録を条件に合致した2000のCTNに絞り込み1500CTNをMLMの訓練に、500のCTN(testing set1)とこれらの記録に含まれていなかった664のインフルエンザのCTN(testing set2
)をアウトカムの計測に用いた。続いて、下気道感染症の有無を予測しトリアージすることを目的に患者がみずから応えられる受診前の臨床情報のみを用いて、MLMを訓練した。このMLMは患者をスコアリングし10個のリスクグループ(値が高いほどリスクが高い)に分類し、各グループのアウトカムを分析した(スコア1〜5をlow risk、6〜10をhigh riskグループとした)。
臨床テキストノート(CTN)とは、患者の症状や徴候に対する医師の解釈、診察中に行われた臨床決定の理由、取られた行動(画像紹介、処方箋の作成など)を記録した文書である。)
各リスクグループについて、C反応性タンパク質(CRP)の平均値、ICD-10コードの分布、7日以内にプライマリケアと救急で再評価された患者の割合、胸部レントゲン撮影となった患者の割合、胸部レントゲンにおける肺炎の兆候と偶発腫瘍所見、抗生物質の処方を受けた患者の割合をアウトカムとして検討した。
95%CIは、各アウトカムの値をソートし2.5%および97.5%のパーセンタイルを計算することで算出した。二値変数のP値の算出には両側フィッシャーの正確検定を、連続変数のP値の算出には両側マン・ホイットニーのU検定を使用した。P<.05を有意とみなした。
【結果】
それぞれのtest setの特性はTable1。
リスクグループ1~5は6~10と比較して若年者が多く(本文中Figure2-4)、CRP値、プライマリ・ケアおよび救急医療の受診率、抗生物質の処方率、胸部X線(CXR)の実施、実施されたCXRで肺炎の所見を認めたものが少なかった。リスクグループ1〜5ではCXR上の肺炎の所見も医師による肺炎の診断も0件であった(Table2)。
【ディスカッション】
この大規模な後方視的研究により医療機関受診前のデータ(症状等)を用いたプライマリ・ケアにおけるMLMによる急性の呼吸器症状を訴える患者のトリアージの結果が示された。MLMによりlow riskとされた5グループではレントゲン上の肺炎の所見を示したものも、肺炎の診断となったものもいなかったことは特筆すべき点である。インフルエンザ患者のみを集めた(training setとは異なる患者層であった)test set2においても同様の結果が得られた。
RSTMが実臨床の現場で同様のパフォーマンスを示すことができれば、医療機関を受診する前の段階で患者をトリアージするためのWebベースのツールとなりうる。肺炎を見逃すことなく不要なレントゲン撮影を減らす可能性がある。今回のデータではlow risk患者にも抗菌薬が処方されていたが、こういったlow risk groupではトリアージにより抗菌薬の処方を控えることで処方の質が向上する可能性もある。
本研究は後方視的研究手法の限界やバイアスがあり、前方視的に妥当性が検証されるべきである。今回トレーニングと解析に用いたCTNは医師が患者の症状や所見を記録したものであり、ヒューマンエラーやバイアスが含まれる可能性がある。直接患者からデータを得ることでより質の高い訓練を行いうる。

【開催日】2023年6月7日(水)

家庭医療学研究についての非公式カリキュラムと学生の認識がキャリア選択に与える関連について

―文献名―
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice
Beinhoff P, Prunuske J, Phillips JP, et al.
Associations of the Informal Curriculum and Student Perceptions of Research With Family Medicine Career Choice. [published online ahead of print February 13, 2023]. Fam Med

―要約-
背景
米国はプライマリ・ケア医の不足に直面しており、2034年までに17800~48000人のプライマリケア医が不足すると予測されているが、マッチングの専攻医枠を拡大しても1/3ほどしか埋まっていない。正規のカリキュラムとキャリア選択の創刊についての研究はいくつかあるが、研究環境などの学習環境や学生の認識との研究は少ない。今回、家庭医療に対する学生の認識やその環境が学生の家庭医療キャリアの選択に与える影響について調査した多施設共同研究を行い、医学生が家庭医を目指すことを決定する理由を明らかにし、今後の不足に対処するための取り組みに役立てたい。
方法
家庭医療に対する学生の態度を評価するために開発され改良された14項目の検証済み質問票であるFamily Medicine Attitudes Questionnaire(FMAQ:Table2)に対する医学生の回答を、米国の16医学部で収集され、各大学の家庭医療に進む卒業生の割合と比較した。
※ FMAQについては以下を参照
※ https://journals.stfm.org/media/2378/phillips-2018-0409.pdf
※ 14項目の質問票は、Cronbach αが0.767。総スコアは家庭医療分野の選択と相関があった(P<.001)。質問票のスコアが56以上であれば、家庭医療に進む学生を特定するのに78.1%の感度と65.3%の特異性。回帰分析で質問票スコアは、家庭医療を選択する独立した予測因子であった(オッズ比1.289。信頼区間1.223-1.347)。 家庭医療に対する学生の意識と卒業生のキャリア選択との関係を探るため、各医療機関のFMAQスコアの合計を、各医療機関の卒業生の家庭医療を選択する割合と関連させて分析した。学生個人のレベルではなく、教育機関レベルで探り機関毎で測定した。またFMAQの下位尺度である、家庭医の仕事の楽しさ、家庭医で十分な収入が得られるか、仕事量のコントロールなどを反映した質問から採点された。マッチング結果と家庭医のライフスタイル、研究、重要性、不足に対する学生の態度など、特定のFMAQデータセットサブセット領域との比較について、二次的なピアソン相関係数分析を実施した。

結果
FMAQスコア(学生の認識)の学校別平均は55.7(SD 2.5)、範囲は51.5-59.9。家庭医のマッチング率の平均は12.0%(SD 4.6%)、範囲は2.8~22.3%で、2,844人の学生のうち1,189人がアンケートに回答し、全体の回答率は41.8%となりました。

図1は、16校のFMAQ平均スコア(x軸)と家庭医のマッチング比率(y軸)をグラフ化した散布図である。この散布図から、1校が外れ値であると判断され、さらなる分析から除外された。この学校は、その後、もともとデータに含まれていた唯一のオステオパシー学校であることが判明した。

表3は、FMAQサブスケールのドメインと各校の家庭医へのマッチング比率との相関を示したものである。各サブスケールドメインのピアソン係数は以下の通りである。それぞれ、ライフスタイルが0.539、研究が0.812、重要性が0.607、不足が0.644であった。家庭医療学研究に対する学生の態度は、FMAQの総合得点や他の下位項目と比較して、教育機関からの家庭医マッチ率の割合と最も強く相関している変数であった。家庭医療研究に対する学生の肯定的な認識は、家庭医療レジデンシーへマッチングと最も強く相関する要因であった。

ディスカッション
医学部全体での学生の家庭医療に対する考え方が、その医学部の学生のうち家庭医療レジデントを目指す学生の割合と相関していることを示唆しています。家庭医療の経験のみならず研究に積極的に触れることは、学生の認識に変化をあたえる可能性がある。
AAMCのデータによると、卒業時に家庭医療を選択した学生の約半数は、医学部の初期に別の専門分野を選択していたと報告しており、学生への介入することの意義を強調している。また家庭医療研究に対してポジティブな印象を与える大学は、家庭医療のキャリア選択を支援する環境作りに影響力を持つ可能性がある。さらに、優れた研究実績を持つ家庭医療学教室は、教育やリーダーシップなど他の面でも優れている可能性があり、それらが一体となって学生にとって魅力的な学問分野としての評判を形成している可能性がある。
家庭医療研究に対する認識と家庭医キャリア選択の間に正の相関があることは、家庭医療研究の質と量が修正可能な特性であるため、家庭医療科にとって重要な発見である。家庭医療研究者を奨励・支援し、家庭医療科の学生に高品質でインパクトのある研究に触れさせることは、プライマリ・ケア人材を強化するための重要な戦略であると思われる。さらに、医学生が家庭医学研究プロジェクトに参加する機会を充実させることや、臨床実習で家庭医の研究を強調することも、診療科の戦略として考えられる。これまでの研究で、家庭医療学研究の最も重要なテーマは、全人的、地域ケア、ライフコース、集団への健康活動であるとされている。これらの研究テーマを医学生の臨床実習に組み込むだけでなく、家庭医や診療科の研究活動やSDH活動を紹介すれば、家庭医療学研究の価値を伝える有効な手段になるであろう。
結論
家庭医療と家庭医療学研究に対する学生の認識や接点を強化することは、家庭医なる卒業生数の増加を目指し、家庭医療学講座や医学部での関わりに有効な機会を生み出す可能性がある。

【開催日】2023年3月8日(水)

薬物の使用過多による頭痛(MOH, Medication Overuse Headache)に対する 3 つの治療戦略 : 無作為化臨床試験

-文献名-
Carlsen LN, Munksgaard SB, Nielsen M, et al. Comparison of 3 Treatment Strategies for Medication
Overuse Headache: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2020;77(9):1069–1078.

-要約-
Introduction:世界では、6,000 万人以上の人々が MOH に罹患している。(担当者注:一般人口 の約1−
2%と言 わ れている。 )個人にとって大きな負担となり、社会経済的な問題を引き起こす。
世界疾病負担調査で、障 害による生命喪失年数の上位 20 疾患に複数回取り上げられている。頭痛の頻度が増加し、短期間の薬物乱用が 進み、治療が困難な慢性頭痛を引き起こすことが特徴です。
(担当者注:病態生理は不明。遺伝素因 や 5-HT 1B/1D 受容体の感受性か。
片頭痛患者が MOH に進展することが多く、群発頭痛患者や 毎日のように消炎鎮痛剤を服用する RA 患者では MOH は多くない。)
薬の使いすぎは、既存の頭痛の治療が不十分であることの結果で あるかもしれません。複数の治療戦略が考えられていますが、議論の余地があります。

目的:MOH の 3 つの治療戦略を比較する
 1. 始めから休薬と予防を行う「休薬+予防戦略」
 2. 休薬はせず予防だけの 「予防戦略」
 3. 休薬の 2 ヶ月後に、予防治療を任意に行う 「休薬戦略」
 (デンマークの GL で、休薬は2ヶ 月間の 鎮痛剤の完全休止と定義つけられている。)

Method:
対象:
デンマーク頭痛センター(DHC)の 3 次医療に紹介された国際頭痛分類第 3 版(ベータ版)による MOH の診断を受 けた患者。頭痛の日数と薬の使用は、詳細な病歴と少なくとも 1 ヶ月分のデータがある頭痛カレンダーから確認した。
組入:
頭痛カレンダーを記入できること、18 歳以上であること、ICHD-3βの基準に従って、既存の緊張型頭痛および片頭痛(エピソード型および慢性型を含む)に起因する MOH であること、
薬の過剰使用のタイプ(オピオイドやバルビツール酸を毎日またはほぼ毎日使用しない)、個人の資源、モチベーションに基づいて外来治療に適格であるとみなされた。
除外:
重度の身体疾患(例:重度の疼痛の併存、コントロール不能な糖尿病、重篤な心臓病、癌)、精神疾患 (抗うつ薬の投与、精神科医による継続的治療、精神科クリニックでの治療)、
アルコール・薬物中毒がある場合、妊 娠・授乳中、12 ヶ月以内に妊娠予定の場合、病歴について情報を提供できない場合(言語の壁を含む)、他の頭痛 予防治療を行っている場合

研究デザイン
プロトコルは、Sup. 1 に記載。前向き縦断的オープンラベル無作為化臨床試験(RCT)で、患者は 1:1:1 で、休 薬+予防群、予防群、休薬群に無作為に割り付けられた。
3 つの戦略はすべて外来治療であった。患者は、ベース ラインと 2 カ月、6 カ月に面会し、治療開始後 1 カ月と 4 カ月に電話でフォローアップされた。
休薬アプローチ
休薬+予防群および休薬群は、訓練を受けた看護師から休薬と MOH に関する個別アドバイスを受け、その後、2 ヶ月間鎮痛剤を完全に中止した(Sup.2 の表 1)。
予防群は、プロジェクトの説明に関連して休薬について簡単な説明を受けただけで、短期間の薬物使用の制限は求められなかった(Sup.2 の表 1)。
休薬中はレスキュー薬(レボメプロ マジン(ヒルナミン®)または塩酸プロメタジン(ヒベルナ®)、最大用量 75 mg/日)と制吐薬(塩酸メトクロプラミドまたはドンペリドン錠、推奨用量 10 mg)が全例に提供された。
休薬後、休薬+予防投与群及び休薬群では、月 9 日(単純鎮痛剤のみでは月 14 日)の範囲で短期間の投薬が可能となり、休薬群には予防投与が行われた。
予防的アプローチ
休薬+予防群および予防群には、デンマークのガイドラインに従って選択された特定の予防治療に関する情報が提供された(Sup.2 の表 1)。
CGRP 関連抗体は、本試験の時点では入手できなかった。
エンドポイント
主要評価項目は、3 つの治療戦略におけるベースラインから 6 ヶ月後までの 1 ヶ 月あたりの頭痛日数の変化 。
副次的評価項目は、3 つの治療法について以下の項目を比較した。(1)ベースラインから 1、2、4 ヵ月後までの 1ヵ月あたりの頭痛日数の変化(2)ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの1ヵ月あたりの片頭痛日数の変化(3)ベースラ インから 1、2、4、6 ヵ月後までの 1 ヵ月あたりの短期薬剤使用日数の変化(4)0 から 90 までの 1 ヵ月あたりの総頭 痛強度得点の変化 (5)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に 1 ヶ月あたりの頭痛日数が 50%以上減少した患者数 (6)2 ヶ月後および 6 ヶ月後にエピソード性頭痛に戻った患者数 (7)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に薬の使いすぎで、6 ヶ月後にMOH の治癒が確認された患者数

Results:
対象者
2016 年 10 月 25 日から 2018 年 11 月 19 日までの MOH 患者は 483 人であった。
これらの患者のうち、195 人 が包括基準を満たし、75 人が参加を拒否し、120 人が連続して試験に組み入れられた(図 1)。
40 名の患者が各 治療法に無作為に割り付けられ、102 名が 6 ヶ月間の追跡調査を完了した(平均[SD]年齢:43.9[11.8] 歳、
女性 81 名[79.4]、男性 21 名[20.6])、合計 15%の脱落率(休薬+予防群:40 名中 9 名[22.5]、予防群:40 名中 5 名[12.5]、休薬群:40 名中 4 名[10.0])に相当した。ベースラインの特徴 は 3 群間で同様であった(表 1)。


月別頭痛日数の変化(主要評価項目)
1 ヶ月の頭痛日数は、休薬+予防投与群で 12.3 日(95%CI、9.3-15.3)、予防投与群で 9.9 日(95%CI、7.2-
12.6)、休薬群で 8.5 日(95%CI、5.6-11.5)減少しました。6 ヵ月後(P = 0.20)、あるいはその他の時点でも、3 群 間に差はなかった(図 2A)。
月間片頭痛日数、短期間の薬物使用日数、頭痛の痛みの強さの変化(副次評価項目)
図 2B〜D は、ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの片頭痛のある日数、短期間薬を使用した日数、頭痛の痛 みの強さの平均減少量を示す。1 か月あたりの片頭痛日数は,休薬+予防群で 5.0 日(95%CI,1.4-8.6),予 防群で 4.1 日(95%CI,1.1-7.1),休薬群で 3.3 日(95%CI, 0.9-5.7 )短縮した(p = 0.74)。

1ヵ月後、1ヵ月あたりの短期薬物使用日数は、休薬+予防群で 21.9 日(95%CI、19.5-24.3)、予防群で 8.6日(95%CI、6.6-10.6)、休薬群で 22.0 日(95%CI、19.6-24.4)減少していた。
痛みの強さのスコアは,休薬+予防群で 28.1(95% CI,21.1-35.1), 予防群で 23.7(95% CI,17.1- 30.2), 休薬群で 20.8(95% CI,12.2-29.4) に減少した(P = 0.42).

治療効果、エピソード性頭痛の寛解、および MOH の治癒
表 3 に示す。6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 23 人(74.2%)がエピソード性頭痛に戻ったのに対し、予防群 では 35 人中 21 人(60.0%)、休薬群では 36 人中 15 人(41.7%)だった(P = 0.03)。エピソード性頭痛への回帰の RR は 1.8(95%CI, 1.1-2.8; P = .03)であり、休薬+予防群では休薬群と比較して、エピソード性頭痛に回帰する 確率が 80%高いことに相当した。
6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 30 人(96.8%)が MOH を治癒したのに対し、予防群では 35 人中 26 人 (74.3%)、休薬群では 36 人中 32 人(88.9%)でした(P = 0.03)。これは、休薬+予防群では予防群に比べて MOH が治癒する確率が 30%(RR、1.3;95%CI、1.1-1.6)高いことに相当する(P = 0.03)。

Discussion:
何十年もの間、MOH 患者に対する最適な治療方針が議論されてきた。いくつかの研究で休薬治療の効果が推定され、MOH に対する休薬と予防治療の組み合わせが多国籍多施設共同研究(COMOESTAS)で検証されました。
本研究は、議論されている 3 つの治療戦略を直接比較し、MOH 患者をどのように治療すべきかという臨床的な 問題に取り組んだ、我々の知る限り初の試みである。頻回頭痛による MOH の既往のある患者さんには、新たな慢 性頭痛の発症や MOH の再発を防ぐために有効な薬物療法が必要です。
長所と短所
休薬治療は盲検化が不可能であり、本研究のデザインは、この臨床的問題を解決するために最も実現可能で実用 的なものであった。本研究の大きな強みは、臨床的妥当性が高いことである。この結果は、ほとんどの MOH 患者に 容易に適用でき、3 つの治療戦略はすべて外来プログラムであり、プライマリーケアやセカンダリーケアでも実行可能であ ると考えられる。研究対象者の 75%以上が、単純な鎮痛剤という 1 種類の薬の過剰使用であった。
MOH にはどの治療が最も効果的か?
患者 120 人を対象としたこの無作為化臨床試験では、休薬と予防薬による治療が最も効果的で、1 ヶ月あたりの 頭痛日数が平均 12.3 日減少しました。薬物乱用頭痛の治療には、休薬開始時から休薬と予防薬を使用すること が推奨されます。

【開催日】2023年3月1日(水)

COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア属性の入院への影響

―文献名―
Takuya Aoki, et al. Impact of Primary Care Attributes on Hospitalization During the COVID-19 Pandemic: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan. Ann Fam Med. 2023 Jan-Feb;21(1):27-32.
doi: 10.1370/afm.2894.

―要約-
【背景】
死亡率、合併症、医療費の増加に関連する入院の予防は、プライマリケアの重要な役割である。COVID-19のパンデミック以前の研究では、質の高いプライマリ・ケアの本質的な属性と入院の減少との関連性が検討されている。例えば、システマティックレビューでは、プライマリ・ケア医との継続性が高ければ入院の総数が減少すると報告されている。他の研究では、プライマリ・ケアへのアクセスが良く、より包括的であれば入院の減少につながることが示されている。パンデミックの間、プライマリケア提供者は、通常の医療に加えて、患者のトリアージ、COVID-19の治療とワクチン接種を支援するためにリソースを割いた。さらに、米国や日本で行われた研究では、パンデミック時に外来受診数が減少し、遠隔医療による受診が増加したことが一貫して報告されている。その結果、予防サービスの利用率の低下、慢性疾患の診断の減少、慢性疾患のコントロールの悪化が報告されている。日本では、他の国と同様、パンデミック時にプライマリ・ケア医が通常の医療と並行してCOVID-19の初期評価とワクチン接種を行った。日本のプライマリ・ケアサービスは、地域の診療所と中小病院の外来で行われている。日本プライマリ・ケア連合学会は2010年から家庭医を認定しており、日本専門医機構は2018年から新たにプライマリ・ケア専門医の認定制度を開始した。我々のチームは、質の評価、多疾病、在宅医療、患者の複雑性などに関するプライマリ・ケア研究を行ってきた東京慈恵会医科大学臨床疫学教室の教員と卒業生で構成されている。パンデミック時には、予防医療、慢性疾患管理、一般的な急性疾患への早期対応に多くの障害があるため、プライマリ・ケアの特性がCOVID-19などによる入院の減少に貢献したかどうかは不明である。そこで、本研究では、日本の成人人口の代表サンプルを用いて、COVID-19パンデミック時のプライマリ・ケア中核属性と総入院数の関連性を検討することを目的とした。

【方法】
デザイン、設定、参加者
我々は、COVID-19の第4波から第6波の期間である2021年5月から2022年4月(追跡期間12カ月)に、「全国通常診療調査」と題する日本全国前向きコホート調査を実施した。2022年1月のオミクロン・ヴァイエントから始まった第6波は、日本で過去最大の規模となり、毎日9万人以上のCOVID-19の新規患者が発生しました。本調査では、日本リサーチセンターが運営する全国代表パネルを用いて、参加候補者を選定しました。このパネルは、日本の成人人口から多段階抽出法で選ばれた約7万人の住民から構成されている。このパネルから、年齢、性別、居住地域別に層別無作為抽出により40歳から75歳の参加予定者を選んだ。ベースライン調査では、参加者の普段のかかりつけの病院とプライマリ・ケア属性、健康状態、健康関連QOL、社会人口統計学的特性を評価した。ベースライン調査終了から12ヵ月後にフォローアップ調査を実施し、入院を含む医療利用について評価した。初回調査および追跡調査のデータ収集は、郵送で行われた。回答者には、調査ごとに500円の商品券を贈呈した。本研究は、東京慈恵会医科大学の機関審査委員会により承認された。

測定
プライマリ・ケア属性
JPCAT は、プライマリ・ケア属性を測定するための国際的に認知された尺度である Primary Care Assessment Tool をベースとしており、これまでの研究で、JPCAT は良好な信頼性と妥当性があることが示されている。まず、プライマリケア評価ツールの以下の項目を用いて、個人の普段のかかりつけ医を確認した。”病気になったときや健康についてアドバイスが必要なときに、いつも行くお医者さんはいますか?” 参加者は、大学病院以外で診療している医師を特定できた場合、普段のケア源を持っているとみなされた。次に、普段のかかりつけ医がいる参加者に対して、JPCATでプライマリ・ケア属性を評価した。JPCATの採点方法は、5段階のリッカート尺度(1=強く反対、2=やや反対、3=わからない、4=やや賛成、5=強く賛成)である。各項目の回答は0~4点の得点に変換され、同じ領域の項目得点の平均値を25倍して、0~100点の領域得点が算出される。JPCAT総合得点は、6つの領域得点の平均値であり、プライマリ・ケアの特性を総合的に表しており、得点が高いほど質が高いことを示している。

入院
本試験の主要評価項目は,COVID-19流行期間中の12カ月間の入院発生率であった.入院は、追跡調査項目 “過去12カ月間に、入院したことがありますか?”への回答によって決定された。参加者は2値(はい vs いいえ)で回答するよう求められた。参加者は、一次質問で「はい」と答えた場合、入院に関する次の項目に回答するよう求められた。”過去12ヶ月の間に、新型コロナウイルスに感染したために入院したことがありますか?” 参加者は、イエスかノーで答えるよう求められた。

統計解析
連続データの記述統計は平均値と標準偏差で報告された。カテゴリーデータは度数およびパーセンテージで報告した。JPCATの総得点が入院と関連しているかどうかを調べるために、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。さらに、JPCATの各ドメインスコアと転帰の関連について補助的な分析を行った。JPCATの総得点とドメインスコアを4分位に分類した。プライマリ・ケア属性と入院との関連を検討した先行研究に基づき、以下の潜在的交絡因子を選定した。つまり、年齢(連続)、性別、教育レベル(学士未満と学士以上)、慢性疾患数(連続)、EuroQol 5次元質問票(EQ-5D-5L)5段階評価による健康関連QOL(連続)である。我々は、過去の多疾病に関する文献とプライマリ・ケア集団との関連性に基づいて作成された、有効な20の慢性疾患のリストを使用した。高血圧、うつ病/不安神経症、痛みや制限をもたらす慢性運動器疾患、関節炎/関節リウマチ、骨粗鬆症、慢性呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎)、心血管疾患、心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作、胃腸障害、大腸障害、慢性肝炎、糖尿病、甲状腺障害、過去5年間の癌、腎臓病・腎不全、慢性尿路障害、認知症/アルツハイマー病、高脂血症および肥満である。すべての交絡因子は、ベースライン時に自記式質問票を用いて評価された。先行研究で用いられたサンプルサイズの計算式によると,ロジスティック回帰分析のためには変数あたりのイベント数が10以上必要である。先行研究では、日本人成人における入院の発生率は1ヶ月あたり1%と評価されている。したがって、本研究では変数数が最大9であることから、最小サンプルサイズを750と見積もったが、全国通常介護調査における他の研究のニーズを考慮して、より多くのサンプルサイズが選択された。各分析では、多重比較の調整なしで、P <.05の両側有意水準を使用した。独立変数の欠測データは、完全条件指定を用いた20のインピュテーションによる多重インピュテーションを適用して処理された。統計解析は、R, version 4.2.1 (the R Foundation)を用いて行った。

 

【結果】
参加者の特性
全国代表パネルから層別無作為抽出により40歳から75歳の1,382人が選ばれ、1,262人がベースライン評価を受けた。そのうち1,161人(92%)が追跡調査を完了した(Figure 1)。

Table 1に調査対象者のベースライン特性を示す。追跡調査を受けなかった参加者は、追跡調査を完了した参加者に比べて、年齢が若く、通常のケア提供者が少ないことを示唆する傾向が認められた。追跡調査を終了した被験者のうち,87名(7.5%)が12ヵ月間に入院した。そのうち5名(5.7%)がCOVID-19が原因で入院したと報告された。入院経験のない参加者と比較して、入院経験のある参加者は、高齢で、男性が多く、慢性疾患が多く、EQ-5D-5L得点が低く、普段のケア提供者がいる頻度が少なかった。普段のケア提供者がいる参加者では、入院した参加者は入院していない参加者に比べて、JPCATの平均総スコアと全ドメインスコアが低かった。

プライマリ・ケアと入院
Figure 2にプライマリ・ケアの総合評価(JPCAT総合得点)と入院との関連を検討した多変量ロジスティック回帰分析結果を示す。交絡因子で調整した結果、JPCAT総合得点は、通常のケアを受けていない場合と比較して、JPCAT最高四分位群では入院の減少に用量依存的な関連を示した(調整オッズ比[aOR] = 0.37; 95% CI, 0.16-0.83)。Table 2は、JPCATの領域得点と入院との関連をモデル化した多変量ロジスティック回帰分析の結果である。

Table 2には、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連を多変量ロジスティック回帰分析でモデル化した結果を示す。線量反応関係は明確ではないが、JPCATの各ドメインスコアと入院との関連は、最高四分位と通常のケアなしとを比較するとすべて統計的に有意であった。

【考察】
日本人の成人人口を対象とした我々の全国前向きコホート研究により,JPCATで評価したプライマリケア全般の属性が,COVID-19パンデミック時の入院減少に関連していることが明らかになった。普段の医療が パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。本研究の結果は、COVID-19パンデミック以前の知見と一致しており、アクセス性、継続性、調整、包括性などの各プライマリケア属性が入院の減少と関連していることを示している。特に、ケアの継続性が入院を減らすことができるという強いエビデンスが存在する。例えば、ノルウェーの最近の登録ベースの観察研究では、開業医によるケアの継続性は、用量依存的に急性期入院の減少と関連していると報告されている。さらに、この研究では、用量反応関係が存在することを示す主要な地域志向との関連は、因果関係があることを示している。さらに、JPCAT のファーストコンタクト、縦断性、連携性、包括性、地域志向性を表すすべてのドメインが入院の減少に関連していた。これらの結果は、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、質の高いプライマリ・ケアの提供が総入院数の減少に寄与していることを示している。パンデミック時の入院を予防することは、国民の健康状態の悪化を回避し、医療費を削減するだけでなく、入院医療の過重負担を軽減することにもつながる。地域志向は、単にプライマリケア診療所を訪れる患者だけでなく、地域住民全員の知識を通じて、疾患の認識、予防、管理を改善することができる。特にパンデミック時には、公衆衛生診療とプライマリ・ケアサービスの提供の統合が、より重要なプロセスとなる可能性がある。我々の知見の基礎となるメカニズムの一つとして、最近の全国規模の研究では、COVID19のパンデミック時に、プライマリケア全体の属性が、スクリーニング、予防接種、カウンセリングなどの予防医療の受給の増加と関連していたことが報告されている。慢性疾患の管理、メンタルヘルス、社会健康格差に関する他のメカニズムについては、さらに研究が必要である。我々の発見は、COVID-19パンデミック時およびその後の各国のプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するものである。例えば、米国科学・工学・医学アカデミーによる新しいコンセンサスレポートでは、米国は政府および民間部門による質の高いプライマリ・ケアの実施を優先させるべきであると強調されている。我々の知る限り、本研究は、パンデミック時の入院に対するプライマリ・ケアの属性の影響を報告した最初の研究である。本研究の主な強みは、日本の成人人口を代表するサンプルを用いた全国規模の研究から得られた縦断的データを使用したことであり、これにより、本研究の結果をより広い人口に一般化することができる。また、本研究のもう一つの強みは、追跡調査率が高いことである。さらに、使用した評価ツールであるJPCATは、プライマリ・ケア属性を評価するための有効で国際的に確立されたツールである。しかし、本研究にはいくつかの潜在的な限界があった。第一に、転居した参加者、調査に回答できなくなった参加者、追跡期間中に死亡した参加者のアウトカムデータがなかったことである。また、追跡調査期間中に転居した参加者は、追跡調査を完了した参加者よりも若く、入院の経験も少なかった可能性がある。また、ベースライン調査のJPCAT得点が低かったため、プライマリケア属性と入院の関係が過大評価された可能性がある。第二に、データ収集に構造化質問票を用いたが、入院や慢性疾患を特定するための自己報告データは、誤分類バイアスをもたらした可能性がある。第三に、参加者のサンプルには、進行した認知症などの疾患を持つ患者が含まれていない。最後に、我々は12ヶ月という短期間の入院を調査したが、より長期間のプライマリケア属性と入院の関連は不明である。結論として、本研究では、通常の医療を提供する上で多くの障壁があるパンデミック時においても、プライマリ・ケア、特に質の高いプライマリ・ケアの提供は、総入院数の減少と関連していることが明らかとなった。これらの知見は、パンデミック時およびその後にプライマリ・ケアシステムを強化しようとする政策を支持するのである。

【開催日】2023年2月8日(水)

プライマリ・ケア医のためのLONG COVID -最新情報

―文献名―
Greenhalgh T, Sivan M, Delaney B, Evans R, Milne R. Long covid-an update for primary care. BMJ. 2022;378:e072117.

―要約―
<知っておきたいこと>
 “Long COVID”は一般的である。
 マネジメントの中心は、支持的で全人的なケア、症状のコントロール、治療可能な合併症の発見である。
 多くの患者はGPによって効果的に診療、支援され得る。

<定義>
「Long COVID(以下、LC)」: SARS-CoV-2感染後、他の診断では説明のつかない症状が長引くことを指す
注:これは患者グループ(https://www.longcovid.org/)によって作成された病名で、機関によって定義が異なる。
米国国立医療技術評価機構(NICE) >
“ongoing symptomatic covid-19”(4-12週続く症状)&“post covid-19 syndrome” (12週以降の症状)
米国疾病管理予防センター(CDC) > “post-covid conditions”(感染から4週間を超えて続く症状)
WHO >“post covid-19 condition” (感染から3ヶ月以上経過し、少なくとも2ヶ月続く)
厚生労働省 >「COVID-19罹患後症状(いわゆる後遺症あるいは遷延症状)」
本稿ではこれらを包括して記載している。

<疫学>
2022年半ばには、英国の成人人口(15 歳以上5,400万人. 2021年)の約70%(草島訂正:感染者2390万人なので45%)がSARS-CoV-2に感染した。約200万人が4週間以上症状あり、81万人(LC患者全体の41%)が1年以上、40万人(19%)が2年以上症状あり。3回以上のワクチン接種者ではLCの割合は低くなるが、有病率は、デルタ変異型で5%、オムロンBAで4.2%と高い。

<症状>
複数の症状(Table1)は、労作後倦怠感(PEM)または労作後症状増悪(PESE)は日常生活動作困難、運動耐容能低下、労働能力低下につながり、生活の質を低下させる。最も一般的な症状は、患者の表現によれば「今までで一番ひどい時差ぼけと二日酔いのような」倦怠感である。

<患者から聞かれやすい質問>
Q:「LCの原因は?」 
A:明確な理由は不明。重症患者に多く見られるが、軽症やや無症状でも発症する。リスク因子は、入院歴、35-69歳、女性、貧困地域に居住、医療・福祉・教育機関に勤務、肥満、既往症を2つ以上持つこと。

Q:「プライマリ・ケアチームは、何をしてくれるのですか?」
A:「不確実性が高く、決定的治療法はないが、GPは次の理由から効果的な支援を行うことができる。包括的で全人的医療を継続的に提供できる。併存疾患の管理を行うことができる。社会的な支援サービスへ繋げることができる(協働)。メンタルヘルスケアを提供できる。疾病診断書の記載や職場への情報提供ができる。」

Q:「良くなっているかはどうすればわかりますか?」 
A:「最良の方法は、患者が良くなったと感じるかどうか」

Q:「いつになったら治りますか?」 
A:「回復過程は多様、予測は困難。4週間を超えて症状のある者の2/3は、12週までには回復することが予想される。」

Q:「専門医に診てもらう必要があるのでしょうか?」 
A:「ほとんどの患者はプライマリ・ケアで効果的に対応できるが、レッドフラッグ(心疾患、中枢神経、自殺の恐れ)の際は緊急紹介が必要。」

Q:「治らなかったら、どうしよう?」 
A:「ほとんどの患者はゆっくりであるが、回復する。リハビリテーション、作業療法、心理的サポートが提供されている。今後、DMや心不全のような慢性疾患のケアモデルも必要かもしれない。」

【開催日】2022年11月9日(水)

膝変形性関節症に対するヒアルロン酸関節注射の効果(SR、メタアナリシス)

-文献名-
Tiago V Pereira, Peter Jüni, Pakeezah Saadat, et al. Viscosupplementation for knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis BMJ 2022;378:e069722

-要約-
Introduction:
世界中で5億人を超える人が変形性膝関節症(OA)に罹患している。ヒアルロン酸の関節注射(Viscosupplementation)は50年以上前からよく行われているが、その有効性や安全性については不明である。イギリスでは一部の人に行われているが、アメリカではMedicareのOA患者の7人に1人は関節注射を施行されている。このSRでは膝OAの間接注射の臨床的効果と安全性について調べる。
Method:
 PRISMAに基づき、PROSPEROに登録された上で行われた。
対象論文の選択;RCT、quasiRCTのみ対象。
痛み、機能、有害事象のうち少なくとも一つをアウトカムにしているOAの人を対象。
2021年9月11日までの期間で、Medline、Embase、CENTRALを言語制限なしで検索。そのほか学位論文、個人通信、書籍、パンフレット、学会抄録、臨床試験登録、メーカーの報告書、規制関連文書から適格な臨床試験を特定した。検索語はappendices参照。
評価者:8人中2人ずつデータ抽出、主解析に関連する試験についてはROB2.0に基づいて2名で行った。意見が分かれた場合は協議、あるいは3人目が決定。
 アウトカム:primary outcome:痛み secondary outcome 機能と有害事象
評価基準はSMD(standardized mean difference)で行なった。最小の臨床的意義のある差を-0.37 (VAS 9mm)と設定。
統計解析はStataとRを用いた。random effect modelを解析に使用。出版バイアスはfannel plotsで考慮。
サンプルサイズは両群100以上の研究を対象(small study effectを考慮して)

上記のフローの通り、169の研究 (21163人) が対象となり、そのうち24の研究 (8997人) が主解析の対象となった。

25の対象論文の一覧

日本の論文は1983年に一つのみ。出版されていないものも5つ含まれる。

Primary Outcome

痛みは臨床的に重要な差は認めなかった(SMD-0.08 (95%CI -0.15 to -0.02))
VASでは (-2mm (95% CI -3.8 to -0.5))
サブグループ解析では、臨床的意義を超えたのは英語以外、アウトカム測定に大きなバイアスが懸念される研究のみだった。

また1983年に出版された論文のみ臨床的有意となるが、その後の差は小さくなり、2012年以降からは0.2の同等性マージンの中に入っている (VAS 5mm)。
Secondary outcome:機能 19の研究が対象となり、SMDは-0.11 (95%CI -0.18 to -0.05)だった。
Secondary outcome:有害事象 RR 1.49 ( 95%CI 1.12 to 1.98) 関節注射群が3.7%、プラセボ群では2.5%だった。

Discussion:
 本研究の結果としては、関節注射はプラセボと比較して、痛みの強さのわずかな減少に有意に関連していたが、その差は臨床的に重要な最小の群間差未満であり、VAS5mmの同等性マージンを持って同等という結果であった。またプラセボ群と比べて有意な有害事象の増加を認めた。またアウトカムについて選択的な報告がされていたこと、不利な結果の報告がされていなかったことがわかった。
Strength
OAに対するレビューとしては最大、以前のものと比較すると包括的で2倍の試験数となっている。
最小の臨床的意義のある差をVAS9mmとした点は先行研究と比べても保守的である(20mmとした文献もあり)。
Limitation
統合した結果なので対象を絞れば、恩恵を受ける集団がある可能性がある。
有害事象に対して有意差は出たが、正確にはIPDmetaやすべての有害事象を分類して検討しなければ本当に関係があるかは言えない。

【開催日】2022年9月14日(水)

ケアのたましい〜夫として、医師としての人間性の涵養

-文献名-
ARTHUR KLEINMAN アーサー・クラインマン THE SOUL OF CARE THE MORAL EDUCATION OF A HUSBAND AND A DOCTOR 2011年8月 福村出版

-要約-
クラインマンは、妻のジョーンが早期発症型アルツハイマー病との診断を受けた後、自ら妻のケアをはじめ、ケアという行為が医学の垣根を超えていかに広い範囲に及ぶものかに気づくことになった。彼は医師としての生活とジョーンとの結婚生活について、深い人間味ある感動的な物語を伝えるとともに、ケアをすることの実践的、感情的、精神的な側面を描いている。そしてまた、我々の社会が直面している問題点についても、技術の進歩とヘルスケアに関する国民的な議論が経済コストに終始し、もはや患者のケアを重要視していないように思えると述べている。
ケアは長期にわたる骨の折れる地味な仕事である。ときに喜びがあるけれども、たいていはうんざりすることばかりで、しばしば苦しみでもある。けれども、ケアは常に意味に溢れている。今日、われわれの政治的無関心、燃え尽きの危機、ヘルスケア・システムへの不満、これらを前にしてクラインマンは、自分たちと医師にいかに気まずい質問を投げなければならないのかを力説する。ケアをすることを、われわれを必要としている人のために「そこにいる」こと、そして慈しみを示すことは、深く情緒的で人間的な経験であり、われわれにとっての本質的な価値観の実践であり、職業的な関係および家族関係の中心となるものである。ケアの実践は、医学と人生においてかけがえのないものは何なのかを教えてくれる。
プロローグ:妄想状態の妻を介護するエピソード。ケアというのは不安に怯え傷ついている人に寄り添い続けることである。不安や傷つきがそれ以上深くならないように、手を差し伸べ、護り、一歩先んじて考えることである。
第一章:1941年生まれ、本人の源家族 私は子供の頃から細やかなことを気にせずcarelessnessにやってきた.ケアしてもらうことを期待してきた。影響を受けた下水道のバイトの先輩、ユダヤ人としてのアイデンティティー
第二章:影響を受けた自分の家庭医、医学部5年次の火傷の少女の対応「こんな大変な状況に来る日も来る日も耐えられる理由を教えて欲しい」→患者が危機的状況にあるとき、おそらくその時にこそ、患者の人生にお
      いて何がもっとも大切なのか話し合うことができる、医師と患者の両者を、ケアの核心へ導く情緒的で人間的な共鳴関係を築くことができる。診察室と自宅での患者の違い。客観化による失われる人間性。
第三章:ジョーンとの出会いと結婚。変わる自分。気をつけることができる、慎重になることができる、そしてケアすることのできる人間にしてくれた。臨床家として、燃え尽きに陥らないように自分を守りながら、より効果的であるために、目的を貫くために、そのためには癒し手には何が必要だつたのであろうか
第四章:初めての台湾訪問。人間は個ではなく、一種のスペクトラムや連続性の上に存在しているという中国文化の視点。人格は、主に家族や社会ネットワーク内の人間関係によって定義づけられる。中国文化への暴露とその視点の影響。
第五章:ケンブリッジに戻る。小児精神科レオンとの出会い「何がもっとも現実の人々の役に立ち社会を改善させるのか」専門職にとっていかに挑戦的な手のかかる患者だとしても、その患者の苦悩の方があなたの苦悩より重い。1974年、代表的なケアに関する4本の論文を出す:医療の実践は、はるかに広範囲のケアの実践のほんの一例に過ぎない。患者と臨床医にとって、ケアのそのものは病の経験および治療経験の中で、真の重要性に基づいて行われる。この患者志向アプローチは、様々な国や文化で当てはまる。
第六章:シアトルにあるワシントン大学准教授(精神医学・行動医学)へ。慢性疼痛の診療を通じて、痛みは患者が感じているのに、家族や医師に信じてもらえず相互不信というひどく厄介で非治療的な関係に患者が巻き込まれていること。実際に癒し手として機能するためには、目の前の患者の苦悩の経験と治療されたい願望を肯定し、承認しなければならない。この種の敬意、深い敬愛の念が、信頼を再建できる。6年後、ハーバードに戻る。さらに忙しくなり、健康状態が悪化。ただ妻ジェーンがまわりのことを全て円滑に調子よく進むようにしてくれたからこそだった。
第七章:ジェーンが50代後半になると視力障害や記憶障害から後頭葉からくる初期アルツハイマー病と診断され
た。二人の不安や人間性など気にも留めない専門職に次々と診察されることによって、二人は困惑し無力
感に襲われていくのである。「生きながらえたくないの、尊厳を失って死にたくない。あなたとチャーリーは人生
の終わらせ方を知っているわね」。全てのケアを一人でやってきたが、それを変えなければならないと思い始め
た。神経内科医たちは、病の経験ではなく、疾患の経過だけをみていた。
第八章:ジェーンの病気の初期段階は、本人を非常事態に追い込んだが、必要とするケアを注意深く続けている間
に、恐怖と不安は次第に薄れていった。ケアを必要とする人が私の人生や心の中心にいなければ、認知症
ケアという延々と続く作業を責任を持ってやり通すことはできなかっただろう。ジェーンが幸せで安心した姿を、
いや、少なくとも不幸せでも不快でもない姿を見たいという本能的欲求からだった。ホームヘルパーを利用
し、主たるケアの担い手とケアの受け手双方にかかる重圧が弱まり、相応する関係が作られ、その一方で家
族で一緒になってジェーンを在宅ケアすることができるようになった。ケアとは「やれなければならないことがそこ
にあるから、それをする」自分にとって大きな意味を持つ人が助けを求めており、そして自分がここにいてケアを
する。更に必要とされる限り、できる限りケアを提供し続ける。それだけのことなのである。
第九章:ジェーンの病の後半、私がケアの担い手であった最後の時期である。病との戦いは、感謝されている気がしないという日常の些事から始まる。それから次第に失望感が増し、目の前に山積みになっていく膨大な作業に圧倒され、途方にくれ、無力感に苛まれ、それらがないまぜになりほぼ完全に疲労困憊してしまう。終いにはケアは素人の家族で手に負えなくなる。夫のことがわからなくなり、半世紀以上培った強靭な絆が、瞬く間にボキッと音と立てて切れたようなものだった。愛する人の生活機能が低下して、排便管理などをするようになり、身のすくむ経験をしたという人がいる。私が約束を交わした女性は、認知症の進行により約10年後には同じ女性でなくなってしまった。私が愛し世話になってきたジェーンはいってしまった、ただ私はそのことを受け入れることができなかった。またケアを続ける思考は、罪悪感に支えられてもいた。36年もの間ジェーンのケアを受けてきた自分が、10年たっただけでジェーンを見捨てることなどどうしてできようか。ただ私がケアをする中心的役割は終わった。
第十章:施設入所の選定とヘルスケアシステム、医学教育絵への問題意識
第十一章:入院、施設、永眠、その後 
エピローグ:ケアのたましいから、たましいのケアへ

【開催日】2022年9月7日(水)

性疾患のケアへのアクセスに関する郡部・へき地患者の経験 質的研究の系統的レビューとテーマ別統合(thematic synthesis)

-文献名-
Elizabeth H Golembienwski, et al. Rural Patient Experiences of Accessing Care for Chronic Conditions: A Systematic Review and Thematic Synthesis of Qualitative Studies. Annals of Fam Med. 2022; 20(3): 266-272.

-要約-
【目的】
医療へのアクセスは、郡部・へき地の患者にとって長年の懸案事項である。しかし、行政的な手段では医療を受ける際の患者の主観的な経験を捉えることができない。このレビューの目的は、米国郡部・へき地住民の慢性疾患管理のためのヘルスケアサービスへのアクセスに関する患者および介護者の経験に関する質的研究文献を統合することであった。
【方法】
2010~2019年に発表された質的研究を特定するため,Embase,MEDLINE,PsycInfo,CINAHL,Scopusを検索した。テーマ別統合(thematic synthesis)アプローチにより,含まれた研究からの知見を分析した。
【結果】
1,354名の個別の参加者による合計62件の研究が含まれた。がん患者の経験に焦点を当てた研究が最も多く(24.2%)、次いで行動・生活習慣に関連する健康問題(behavioral health)(16.1%)、HIVおよびAIDS(14.5%)、糖尿病(12.9%)であった。郡部・へき地における慢性疾患管理のための医療サービスの利用経験について、障壁と促進要因に関する4つの主要な分析テーマを同定した。
(1) 郡部・へき地環境を航行する
(ア) 「距離」に対する物理的・経済的コスト
多くの研究で指摘されたテーマ。長い距離を移動することにより「具合が悪くなる/病状が悪くなる」と表現する参加者もいた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) ケアへのアクセスを担保する社会的支援
多くの研究において受診のための移動における配偶者やその他のケア提供者の存在の重要性が指摘された。
参加者はその支援に対する借りを作ってしまっている気持ちや自責の気持ちを感じている。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(ウ) ‘まあ許せる’レベルのケアを受けるためにさらなる距離を移動したくなる気持ち
半分くらいの研究において参加者とそのケア提供者は自身の郡部・へき地地域にある医師やサービス、機器の質が水準より低いと信じていることが示された。しばしば自宅近くに利用可能なヘルスケアサービスがあっても遠距離を移動することを選んでいる。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(2) 医療システムを航行する
(ア) 受療の遅れ
1/3の研究において参加者が地域・へき地では需要-供給バランスの悪さや特定の医師を受診できる機会が限定的なため必要なケアに遅れが生ずると感じているし,それが悪い結果に結びついているとコメントする参加者もいた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) ケアの継続性と協調性の乱れ
半分くらいの研究において参加者は特定の医師や組織と継続的な関係性を築き維持することに困難を感じていた。信頼のおける評判のよい医師に診てもらうことの難しさや同じ組織間でも医師がころころ変わることへの不満が述べられた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(ウ) 診療の構造やプロセス(への不満)
半分くらいの研究において参加者は診療スケジュールの柔軟性のなさや待ち時間の長さに対する不満を述べた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(エ) ヘルスケアシステムの円滑化
1/4程度の研究では参加者が利用する医療機関がアクセスの改善や医師間の協調など改善の努力をしていると述べた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(3) 慢性疾患管理の資金調達
(ア) 郡部・へき地に住むことにより生ずる追加の支出
半分以上の研究において参加者が郡部・へき地に住むことにより移動費用、宿泊費用、仕事や子育てから離れなくてはならない時間といった余分の支出を支払っていると訴えた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) 競合してしまう出費
養育費、公共料金といった家計を維持するための支出と健康管理に係る費用とが競合することを訴える参加者が半分弱の研究で認められた。
(ウ) 背景にある経済環境
1/4程度の研究において、郡部・へき地のより大きな経済的背景が参加者の受療に関連する費用を位置づけている、と述べられている。雇用がなく貧困にさらされている、など。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(エ) 健康保険関連の障壁
健康保険の加入に関する制限が一部のサブグループに大きな影響を及ぼしている(例:ネイティブアメリカン)。
(4) 郡部・へき地における生活(すなわち「郡部・へき地」特有の考え方や行動の共通要素)。
(ア) 緊密なコミュニティ
多くの参加者が郡部・へき地での生活のポジティブな要素について(例:レベルの高い社会的支援)言及している。生活や仕事、同じコミュニティの中で家族を築くことの容易さについても言及されている。一方でこの緊密なコミュニティは諸刃の剣でもあり、ゴシップのエサになったり個人のプライバシーの侵害といった問題も抱えていると言及した参加者が1/4弱の研究においてみられた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) 自給自足的な認識と公的なヘルスケアサービスを受けることに対する抵抗感
1/3の研究において参加者は郡部・へき地のコミュニティでは「一生懸命働くこと」「自給自足(日本で言う「人に迷惑をかけない」でしょうか。山田私見)」「困難や病に直面したときのストイックさ」をよしとする文化の期待について言及した。このような深いレベルでの文化の中ではある人が家庭やコミュニティにおけるその人の責任を果たすという期待に応えられなくなるという慢性疾患のもつ主題を探索した研究も複数あった。言い換えるとこの文化の期待が患者個人個人のケアを求める態度や行動に影響を及ぼしていた。
(ウ) ヘルスケアの場面における文化的な側面への配慮
相当数の研究において参加者はヘルスケアの専門家やスタッフにより強く文化的な感受性を持って欲しいと願っていた。医師の郡部・へき地の住民に対するステレオタイプな理解や軽んじられているという感覚を複数の参加者が言及した。(リアルな患者のコメントは本文参照)
【結論】
この包括的なレビューでは、重要な文化的、構造的、個人的要因が郡部・へき地患者の医療アクセスや利用の経験に影響を与えていて、それには地理的、建築的環境、郡部・へき地特有の風習がもたらす障壁や促進要因が含まれることが明らかになった。この結果は、医療アクセスの構造的側面を促進し、文化的に適切な介入を行うための政策やプログラムに反映させることができる。

【開催日】2022年6月8日(水)

OECD35カ国におけるプライマリ・ケアの測定

-文献名-
Stephen J. Zyzanski, et al. Measuring Primary Care Across 35 OECD Countries. Annals of Family Medicine. VOL. 19, NO. 6, NOVEMBER/DECEMBER 2021.

-要約-
【目的】
Person-Centered Primary Care Measure(PCPCM)の心理測定特性とスコアを28言語,OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国において検討した。
PCPCMについて(本文より)
11項目の患者報告式の測定法で、プライマリケアの幅広い範囲と統合的、包括的な性質を評価(アクセス性、支援、コミュニティの状況、包括性、継続性、調整、家族の状況、目標指向のケア、健康増進、統合、関係)。何百人もの患者、臨床家、保険者が、プライマリ・ケアにおいて重要であると言うことに基づいて開発。本研究は、PCPCMを多様な言語や国で使用できるようにし、将来の研究で検討できる国ごとの違いに関する予備的仮説を刺激し、各国の医療へのアプローチの自然実験に基づく政策や実践を導くことを目的としている。
【方法】
有料のオンラインサンプリングサービスを利用し、各国の成人360人の年齢と性別を代表するサンプルを依頼した。プライマリケアについて患者や臨床医が最も重要であるとする意見に基づいて開発され、既に検証済みの11項目の患者報告式測定法であるPCPCMを実施した。また、人口統計、Patient-Enablement Instrument(注:患者の対処能力、理解、健康への自信度などの評価尺度)
、プライマリ・ケア医や診療所にかかっている年数、医師が結果を知ることでケアが向上すると思うかどうか、アンケートに答えるのが大変だったかどうかとの関連から構成妥当性を評価した。我々は、各国におけるPCPCMの心理測定特性を評価し、各国におけるPCPCMの総得点と項目別得点を報告した。
【結果】
PCPCMはすべての言語と国において確かな心理測定学的特性を示し,クロンバックのアルファは0.88から0.95,修正項目総相関は0.47から0.81,大多数の国で0.50台前半から0.70台後半であった.複数回の分析により、並行妥当性の強い証拠が示された。1点から4点までの範囲で、全体の平均点は2.74点であり、標準偏差は0.19点であった。(Table 1)
PCPCMの平均点は、最も低いスウェーデン(2.28)から最も高いトルコ(3.08)までであり、ドイツが2位(3.01)、米国が3位(2.99)であった。(Table 2)
【結論】
PCPCMの複数国にわたる内部一貫性と同時検証は、患者や臨床医が重要だと言うプライマリ・ケア機能の幅の一貫性を強く証明するものである。また、各国における総得点と項目別得点の多様性は、各国の政策、慣行、人口統計、文化がプライマリ・ケアに与える影響について興味深い仮説を生み出し、PCPCMを用いた生態学的分析と個人データ分析をさらに進める強い動機となる。

Q1=私の診療所は、私がケアを受けることを容易にしてくれる
Q2=私の診療所は、私のケアのほとんどを提供することができる
Q3=私のケアにおいて、医師は私の健康に影響するすべての要素を考慮している
Q4=私の診療所は、私が複数の場所から受けるケアを調整している
Q5=私の医師または診療所は私を人間として理解してくれている
Q6=私の医師と私は一緒に多くのことを経験してきた
Q7=私の医師または診療所は私の味方をしてくれる
Q8=私の受けるケアは私の家族に関する知識を考慮している
Q9=この診療所で受けるケアは地域に関する知識に基づいている
Q10=長期にわたって、私の診療所は私の健康維持に役立つ
Q11=長期にわたって、私の診療所は私の目標を達成するために役立つ

【開催日】
2022年1月12日(水)

プライマリ・ケアにおける 「レガシー処方」 の現状

―文献名―
Dee Mangin, Jennifer Lawson, et al. Legacy Drug-Prescribing Patterns in Primary Care. Ann Fam Med 2018;16:515-520.

―要約―
【目的】
ポリファーマシーは、プライマリ・ケアにとって重要な臨床課題である。3ヵ月以上処方する可能性があるがしかし無期限で処方すべきではない薬剤が適切に中止されないと、ポリファーマシーの原因となるため,著者らはこのような処方をレガシー処方と名付けた。レガシー処方となり得る薬剤としては、抗うつ剤、両剤併用療法、プロトンポンプ阻害剤(PPI)などが挙げられる。本研究では,これらの薬剤群におけるレガシー処方の割合を評価した。

【方法】
カナダ・オンタリオ州ハミルトンにあるMcMaster University Sentinel and Information Collaboration(MUSIC)Primary Care Practice Based Research Networkよりプロスペクティブに収集したデータを用いて,集団ベースの住民を対象としたレトロスペクティブコホート研究を行った。2010~2016年にMUSICデータセットに登録されたすべての成人患者(18歳以上)を対象とした(N=50,813)。抗うつ薬(15か月以上の処方)、ビスフォスフォネート(5.5年以上)、PPI(15か月以上)のレガシー処方の割合を算出した。これらの薬剤群それぞれの処方期間の設定はエビデンスに基づき設定した.

【結果】
調査期間中にレガシー処方を受けていたことのある患者の割合は,抗うつ薬で46%(8,119名中3,766名),ビスフォスフォネートで14%(1,592名中228名),PPIで45%(6,414名中2,885名)であった(Table1)。これらの患者の多くは調査時点においてもレガシー処方を継続していた(抗うつ薬61%,PPI65%,ビスフォスフォネート77%)。レガシー処方全体の平均処方期間は、非レガシー処方に比べて有意に長かった(P<.001)。抗うつ薬とPPIが同時に処方されているレガシー処方が多く,処方カスケードの可能性を示唆していた(Table2)。 【結論】
レガシー処方という現象の存在が明らかになった。これらのデータは、レガシー処方が不必要なポリファーマシーの原因となる可能性を示しており、プライマリ・ケアにおけるシステムレベルでの介入の機会を提供し、患者に大きなな利益をもたらす可能性がある。

【開催日】
2021年10月13日(水)