肥満のある駆出率が維持された心不全患者におけるセマグルチド

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Semaglutide in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. Kosiborod MN, Abildstrøm SZ, Borlaug BA, et al. N Engl J Med. 2023;389(12):1069-1084. (STEP-HFpEF試験)

-要約-
【Introduction】
・肥満(脂肪組織)がHFpEFの発症や進行に関与している可能性が示唆されている。
・肥満の治療によりHFpEF患者の症状や機能を改善できるかは明らかにされていない。
・セマグルチド(GLP-1作動薬)は大幅な体重減少をもたらすことが示されている。セマグルチド2.4mgの週1回皮下注射により、体重減少のみならず心不全(HFpEF)の症状や身体機能制限が改善できるかを検討した。
・COI:Novo Nordisk社による研究助成(STEP-HFpEF ClinicalTrials.gov)

【Method】
・無作為化ランダム比較試験(二重盲検法)アジア・ヨーロッパ・南北米の13か国96施設(うち83施設)
・対象患者:BMIが30以上のHFpEF(EF 45%以上、NYHA Ⅱ以上)患者529人
(主な除外基準:90日以内の5kg以上の体重変化、糖尿病の既往)
・介入群:週1回セマグルチド皮下注(最初4週間は0.25mg、16週目までに2.4mgへ増量するよう漸増)
・対照群:プラセボ投与
・アウトカム:52週時点での下記エンドポイントの評価
・主要エンドポイント:KCCQ-CSS(0-100点、スコアが高いほど症状・機能制限が少ない)、体重変化
・副次エンドポイント:6分間歩行距離の変化、全死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSと6分間歩行距離の
変化の差を含む複合エンドポイント、CRP値の変化
・安全性評価:重篤な、または特に注目すべき有害事象(少なくとも1回投与を受けた患者で解析)

【Results】
・セマグルチド群263人、プラセボ群266人。
→白人が95.8%。中央値:年齢69歳、BMI 37.0、NT-proBNP 450.8pg/mlなど。
・セマグルチド群はプラセボ群と比較して、症状や身体機能制限の減少、運動機能の改善、体重減少が大きかった。
・セマグルチド群35人(13.3%)、プラセボ群71人(26.7%)で重篤な有害事象が報告された。セマグルチドの投与中止に至った有害事象は胃腸障害が多く、プラセボ群の有害事象としては心臓疾患が多かった。
・結果のまとめ(表:田尻作成)

52週までの平均変化(率) セマグルチド群 プラセボ群 群間の推定差(95%信頼区間)
(主)KCCQ-CSS +16.6点 +8.7点 +7.8点(+4.8~+10.9;P<0.001)
(主)体重 -13.3% -2.6% -10.7%(-11.9~-9.4;P<0.001)
6分間歩行距離 +21.5m +1.2m +20.3m(8.6~32.1;p<0.001)
複合エンドポイントの勝利 60.1% 34.9% 勝利比1.72(1.37~2.15;P<0.001)
CRP値 -43.5% -7.3% 治療比0.61(0.51~0.72;p<0.001)

【Discussion】
・セマグルチド群はプラセボ群よりもKCCQ-CSSの平均点を8ポイント近く上昇させたことは極めて大きな差である。
(SGLT-2阻害薬、ARNI、バルサルタン、スピロノラクトンなどの過去研究では0.5~2.3ポイントの差であった)
・セマグルチドは肥満のあるHFpEF患者に対する重要なアプローチとなりうる。またセマグルチドの効果は、単に体重減少のみによるものではなく、他の病態生理的な機序(抗炎症作用など)にもよる可能性が示唆される。
・セマグルチド以外による減量との比較や、HFrEF患者への適用については、追加の試験が必要である。
<限界>
・非白人参加者数が少なく、一般化可能性に制限がある。
・臨床的イベント(心不全による入院や緊急受診など)を評価するのに十分な検出力を有さなかった。
・1年間(52週間)以降の効果については確認できていない。
・HbA1c値がフォローされていない(ただし、本研究における効果が血糖値低下によるものとは考えにくい)。
・SGLT2阻害薬を投与されている患者の割合が低い(試験期間と、糖尿病患者を除外するデザインによる)。
考察とディスカッション
肥満症治療ガイドライン2022(http://www.jasso.or.jp/contents/magazine/journal.html
)ではGLP-1製剤の体重減少作用について記載があります。
またセマグルチドについてはオゼンピック®(糖尿病用/皮下注)、リベルサス®(糖尿病用/経口)に加えてウゴービ®(肥満症用/皮下注)が2023年11月に薬価収載されました(週1回製剤、2.4mgキットは10740円)。
本文献は肥満のあるHFpEF患者へのセマグルチドの有用性についての文献でした。循環器界隈でSGLT-2阻害薬の推奨が確立したように、今後はGLP-1製剤についての推奨が出されていくように感じています。

【開催日】2024年2月7日(水)