閉経前女性における中間尿培養と急性膀胱炎

―文献名―
Voided Midstream Urine Culture and Acute Cystitis in Premenopausal Women engl j med 369;20 nejm.org november 14, 2013

―要約―
【背景】
急性単純性膀胱炎の原因は、自然排尿中間尿の培養に基づいて判断されるが、培養結果について、とくにグラム陽性菌の増殖が認められる場合に解釈の指針となるデータはほとんどない。

【方法】
膀胱炎の症状を呈する 18~49 歳の女性に中間尿検体を提出してもらい、その後尿道カテーテルを挿入して培養用の尿(カテーテル尿)を採取した。これらのペア検体において、菌種とコロニー数を比較した。主要評価項目は、中間尿中細菌の陽性適中率および陰性適中率の比較とし、カテーテル尿中の細菌の有無を対照に用いた。

【結果】
女性226例の膀胱炎エピソード236件を解析した、評価しえたのは中間尿とカテーテル尿のペア検体 202 組であった。培養で尿路感染症の起因菌が認められたのは、カテーテル尿142検体(70%)、中間尿157検体(78%)であり、カテーテル尿4 検体では尿路感染症の起因菌が 1 種類以上認められた。間尿における大腸菌(Escherichia coli)の存在は、ごく少数であっても膀胱内細菌尿の強い予測因子であり、102 コロニー形成単位(CFU)/mL の陽性適中率は 93%(Spearman の r=0.944)であった。これに対して、中間尿における腸球菌(培養の 10%)と B 群連鎖球菌(培養の 12%)からは、コロニー数を問わず、膀胱内細菌尿は予測されなかった(Spearman のr=0.322 [腸球菌],0.272 [B 群連鎖球菌])。中間尿中に腸球菌、B 群連鎖球菌、あるいはその両方が検出された 41 件のエピソードのうち、カテーテル尿の培養により大腸菌の増殖が認められたのは61%であった。

【結論】
急性単純性膀胱炎を起こした健常閉経前女性において、自然排尿中間尿の培養により、膀胱内の大腸菌が正確に証明されたが、腸球菌や B 群連鎖球菌は証明されなかった。腸球菌や B 型連鎖球菌は大腸菌とともに分離されることが多いが、それら自体が膀胱炎を引き起こすことはまれであると考えられる。(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所から研究助成を受けた。)

【開催日】
2014年11月5日(水)

慢性肝炎の肝細胞スクリーニング システマチックレビュー

―文献名―
Devan Kansagara, MD et al. Screening for Hepatocellular Carcinoma in Chronic Liver Disease A Systematic Review

―要約―
【Background】
ガイドラインではハイリスク患者の肝細胞癌の定期的なスクリーニングを推奨しているが、そのエビデンスレベルは不透明である。

【Purpose】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングついての有益性と有害性についてレビューすること。

【Data Sources】
MEDLINE, PsycINFO, and ClinicalTrials.gov に関しては検索可能な時期から2014年4月まで
Cochrane databasesに関しては検索可能な時期から2013年6月まで

【Study Selection】 
英語の研究で観察研究、スクリーニング群と非スクリーニング群の比較研究、有害事象の研究、スクリーニングの間隔に関する比較研究

【Data Extraction】
最も重視したものは死亡と有害事象である。
個々の研究の質とエビデンスの強さをパブリッシュされているクライテリア(文献16参照)を用いて2人でレビューした。

【Data Synthesis】
13,801から22の研究がinclusionされた。
総じてスクリーニングの効果におけるエビデンスは非常に低かった。
一つの大規模研究で定期的な超音波スクリーニングにおけるHCC死亡率が低い結果であった。 (83.2 vs. 131.5 per 100,000 person-years ;rate ratio, 0.63 [95% CI, 0.41 to 0.98]) しかし、この研究では方法論的限界があった。(baseline characteristicsが不透明、ランダム化作業が不透明、死亡のみがアウトカムであり追跡率に差があるなどの問題あり)
他の研究ではB型肝炎患者の定期的なAFP検査で生存に関する有益性は認めなかった。全死亡/100人年が1.84 vs 1.79 (P=NS)であった。
18個の観察研究ではHCCの診断に至った段階でスクリーニングされていた患者群では、臨床的に診断された群よりも早期のステージであった。しかし、リードタイム・バイアス、レングスタイム・バイアスが交絡していた。
2つのスクリーニングの間隔に関する研究では、短い間隔(3~4か月)と長い間隔(6~12か月)で生存率に差が出なかった。
有害事象に関しては良質な研究がなかった。(確証的検査であるCT、MRI、肝生検のリスクを扱ったものはあった。)

【Limitations】 
英語研究のみであったこと。このエビデンスは方法論的な問題と研究数が少ないことで研究限界があった。

【Conclusion】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングによる死亡率に対する効果は非常に弱いエビデンスしかなかった。
スクリーニングは早期肝細胞癌を同定できる可能性はあるが、現段階では臨床的な診断よりもシステム化されたスクリーニングが生存の上で有利かどうかは定かではない。

<参考①>
(lead time bias)
検診発見がんと外来発見がんとの間で生存率を比較する際に問題となる偏り。がんの発生から死亡までの時間が検診発見群と外来発見群の両群で等しい(すなわち検診の効果がない)場合でも、検診で早期診断された時間の分(リードタイム)だけ、検診発見がん患者の生存時間は見かけ上長いことになり、したがって見かけ上の生存率も上がることになるという偏り。生存期間の始点が早期発見の分だけずれるという意味から、ゼロタイム・シフトとも呼ばれる。

(length time bias)
 スクリーニングで診断される疾患は、通常の診療で診断される場合よりも緩徐に進行する病変が多いかもしれない。というのも、進行が速い病変はスクリーニング受ける間もなく、症状が顕在化し受診して病変を発見されることになる。緩徐進行性の病変は長く体内に病変が存在しているのでスクリーニングで発見されやすい。スクリーニングが実際よりも有効であるように見えてしまう。

<参考②>
AASLD米国肝臓病学会ガイドライン
recommendation…半年ごとの腹部エコー(1年毎ではなく)
   期間として3カ月と6か月でどう違うか?
   局所病変の検出に差なし
10㎜以下の病変の検出率は3カ月で有利だが、
HCC発生累積数、代償不全、肝移植、生存率に関して差なし
not recommend…
腹部エコーとAFPの組み合わせ(コスト高と疑陽性↑)
   AFP単独(感度、特異度が低い)
   CT(疑陽性↑、コスト高、放射線量の問題)

<日本癌治療学会> http://jsco-cpg.jp/item/02/intro_03.html

【開催日】
2014年10月15日(水)

診療所での弁膜症評価

―文献名―
Yukio Abe, MD, Makoto Ito, MD, Chiharu Tanaka, M.  A novel  and simple method using pocket-sized echocardiography to screen for aorticstenosis.  J Am Soc Echocardiogr. 2013;26: 589-596

―要約―
【背景】
大動脈弁狭窄症(以下、AS)は最もありふれた弁膜症であり、加齢変性による石灰化が現代のASの一番の要因となっている。ASは通常、収縮期駆出性雑音(以下、SEM)を機に発見される。50歳以上の50%近くにSEMを聴取することから、すべての人に最上位機種の心臓エコー検査を行うことは時間もかかり、経済的負担にもなる。そこで重大なASを発見するための簡便な方法が必要とされている。
 ポケットエコーでの心臓エコー検査はその一つに位置づけられるかもしれない。この研究ではポケットエコーをASのスクリーニングに使用する価値についての評価する目的で行われた。

【方法】
継続診療を受ける20歳以上の2度以上のSEMか既知のAS患者147名を集め、大阪市立総合病院で心臓エコー検査を行った。経験豊富な循環器内科医による身体所見ののち、熟達した技師によるポケットエコーで大動脈弁の解放を視覚的にスコア化した(0=制限なし、1=制限あり、2=重度に制限)。その合計値をVisual AS scoreと定義した。最上位機種での心臓エコー検査結果に基づき、大動脈弁高面積指標(Aortic Valve Area Index以下、AVAI)が0.6cm2/m2と0.6~0.85 cm2/m2 をそれぞれ重度ASと中等度ASを示すものとみなした。

【結果】
147名のなかで51名がASの診断を受けており、51名が何らかの症状を有していた。検査困難だったり、他の弁膜症性疾患による雑音だったものなどを除外し、130名の患者が残った。そのうち55名が男性で、平均年齢は74±10歳だった。重度ASと診断されたのは27名で、中等度ASと診断されたのは30名だった。
Visual AS scoreとAVAIとは強い関連が見られた(R=-0.89, P<.0001 ; Figure2)。重度ASを診断するうえで頸動脈へのSEMの放散とSEMのピークが後方にずれることと頸動脈波の緩徐な立ち上がりが最も高い感度(93%;95%CI; 76%-99%)を示し、Ⅱ音の消失が最も特異度が高かった(94%; 95%CI;88-98%)。Visual AS scoreが4点以上をカットオフとすると重度ASを診断するうえで感度85%、特異度89%だった。中等度~重度ASと診断するうえでは頸動脈への放散が最も感度が高く(91 %;95%CI;81%-97%)、頸動脈波の振動が最も特異度が高かった(99%;95%CI;93%-100%)。Visual AS score3点以上をカットオフとすると感度は84%、特異度は90%となった。 ポケットエコーでのVisual AS scoreの観察者間の再検査信頼性はκ値が0.78と評価された。ポケットエコーを用いた評価では125±39秒を要した。 【結論】  今回、私たちが提唱するVisual AS scoreは、重要なASの存在を判断するうえで熟達した身体所見と同等の正確さが認められた。Visual AS score3点未満では中等度から重度ASの否定につながり、4点以上では重度ASの確定に役立つ。ポケットエコーはASの素早い診断につながり、数多くのSEMを認める患者に対してさらなる精査を行うかどうかの判断を手助けしてくれるだろう。 【開催日】 2014年10月8日(水)

帯状疱疹のリスクファクター定量化(population based case-control study)

―文献名―
Harriet J Forbes,et al:Quantification of risk factors for herpes zoster: population based case-control study.BMJ  2014; 348 doi

―要約―
【Objectives】
年齢別でのherpes zosterに対するリスクファクターの定量化を行うこと。

【Design】
case-control study

【Participants】
2000年~2011年の間に帯状疱疹の診断に至った114,959人の成人と年齢、性別、診療を症例対照させた549,336人の成人。

【Main outcome measures】
帯状疱疹の潜在的なリスクの大きさを見積もり、年齢ごとで補正した調整オッズ比を用いるために条件付きロジスティック回帰を用いた。

【Results】
ケースと対照群の年齢中央値は62歳であった。
帯状疱疹のリスク上昇と関連した因子は、
 関節リウマチ  (3111 (2.1%) v 8029 (1.5%); adjusted odds ratio 1.46, 99%信頼区間 1.38 to 1.55), 
 炎症性腸疾患   (1851 (1.3%) v 5118 (0.9%); 1.36, 1.26 to 1.46), 
 COPD      (6815 (4.7%) v 20 201 (3.7%); 1.32, 1.27 to 1.37), 
 気管支喘息  (10 243 (7.1%) v 31 865 (5.8%); 1.21, 1.17 to 1.25), 
 CKD      (8724 (6.0%) v 29 437 (5.4%); 1.14, 1.09 to 1.18)
 うつ病     (6830 (4.7%) v 22 052 (4.0%); 1.15, 1.10 to 1.20)
 1型糖尿病(2型ではなく) (adjusted odds ratio 1.27, 1.07 to 1.50).
多くのリスクファクターで若年者のほうが効果が大きかった。
重症な免疫抑制状態にいる患者においては最もリスクが大きかった。
 リンパ腫   (adjusted odds ratio 3.90, 3.21 to 4.74)
 骨髄腫    (2.16, 1.84 to 2.53)

【Conclusions】
患者の状態と帯状疱疹のリスクは関連していることが分かった。一般的に若年者においてリスクの上昇幅が大きかった。帯状疱疹の最も高いリスクファクターを有している集団に対しては現在ワクチンは禁忌となっている。しかし、これらの集団へのリスク低減の方略は重要課題である。

【実施日】
2014年7月9日(水)

マダニ刺咬症によるライム病の予防

―文献名―
橋本 喜夫, 宮本 健司, 飯塚 一.北海道のマダニ刺咬症とライム病:皮膚病診療:25(8); 926-929, 2003

―要約―
【対象】
1995-2000年に旭川医大および関連施設を受診した全てのマダニ刺咬症患者700名

【方法】
マダニに刺された患者の年齢・刺咬部位・刺咬推定場所・刺咬日付・治療や処置方法を記載
虫体と皮膚を別々に採取し6週間BSKⅡ培地で培養。6週間後にボレリアの有無を同定

【結果】
年間で700例。男女比 1:1.08, 年齢層 3ヶ月~89歳で9歳以下の小児と40-60歳台に好発
 罹患部位:頭頸部 34.8%, 体幹部 34.2%, 上肢 22.5%, 下肢 7.0%。9歳以下の小児は79.3%が頭頸部
 月別:5-7月に多い。特に6月は44.3%
 マダニ虫体:シュルツェマダニ 82.8%
 地理的特徴:シュルツェマダニ(ライン病発症多い) …道央~道北, ヤマトマダニ(ライム病発症少ない)…道南
 レリア陽性:シュルツェマダニ 12.2%, ヤマトマダニ 8.7%
 ライム病発症:700例中56例(8%):Ⅰ期 94.6%, Ⅱ期 3.6%, Ⅲ期 1.8%
 受診までの期間:ライム病発症群 平均20日, ライム病非発症群 平均4日
 処置:マダニ自己抜去群 ライム病発症率 16.1%(53/330)
     マダニ非自己抜去群 ライム病発生率 0.81%(3/370)
    ⇒自己抜去群の非自己抜去群に対するライム病発症の相対危険度 19.81

【考察】
医療圏の人口を50万として試算すると罹患率は1.86。
米国では平均4.0-6.7。発生が多い地域では30を超える。オーストラリアでは300
山野に入る人が増えた・森林再開発でマダニが住宅近くの草木の葉に住み着くことが増えた・皮膚科医のマダニ媒介感染症への関心が高まった、などが増加した原因か。

ダニに刺されたら自己抜去せずに早期に皮膚科専門医のいる医療機関を受診する。

【開催日】
2014年6月18日(水)

新たなコレステロールガイドラインの人口ベース標本への適用

―文献名―
M.J. Pencina and Others, Application of New Cholesterol Guidelines to a Population-Based Sample, NEJM, April 10, 2014; 1422-1431

―要約―

【背景】
米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC-AHA)によるコレステロール治療ガイドライン2013では、心血管疾患の予防にスタチン療法の適応が拡大されている。

【方法】
2005~2010年の全米健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、新たなACC-AHAガイドラインではスタチン療法が推奨される人の数を推定し、危険因子プロファイルを要約して、ATPⅢのガイドラインに基づく場合と比較した。得られた結果を米国の40~75歳の人口1億1540万人に外挿した。

【結果】
ATPⅢガイドラインと比較して、新ガイドラインに基づいた場合には、スタチン療法を受けている人、またはスタチン療法の適応である人数は、4320万人(37.5%)から5600万人(48.6%)に増加する。この増分のほとんど(1280万人中1040万人)は、心血管疾患のない成人が占める。60~75歳の心血管疾患がなくスタチン療法を受けていない成人において、スタチン療法の適応である割合は、男性は30.4%から87.4%に、女性は21.2%から53.6%に上昇する。これは主に、心血管イベントの10年リスクにのみ基づいて分類される成人の数の増加によって生じる。新たにスタチン療法の適応となる人は、女性よりも男性が多く、血圧は高いがLDLコレステロール値が著しく低い人が含まれる。新ガイドラインに基づいた場合には、将来的に心血管イベントが起こることが予測されるより多くの成人にスタチン療法が推奨される(感度が高い)が、将来的にイベントが起こるとは予測されない多くの成人も対象となる(特異度が低い)。
Figure1,2参照.

【結論】
 ACC-AHAによるコレステロール管理に関する新たなガイドラインによって、スタチン療法の適応である成人の数は、1280万人増加する。そして、その大部分は、心血管疾患のない高齢者である。

―考察とディスカッション―
概に日本人に適応できないが、ACC-AHAのガイドラインに準じた治療選択を行うと日本人においてもスタチン療法の適応となる対象が増加することが予想される。特に対象の拡大が予想される60~75歳の高齢者については、日本動脈硬化学会のガイドラインでも薬物療法の妥当性は記載されているが、副作用や薬物相互作用などに留意するように強調されている。
今回の文献で示されたデータも踏まえて、新ガイドラインの日本人への適応について、それぞれの考えや意見を聴取し、さらに理解を深めたいと思う。

140423_1

Figure.1

140423_2

Figure.2

【開催日】
2014年4月23日

新規2型糖尿病の成人におけるBMIと死亡率

― 文献名 ―
Body-Mass Index and Mortality among Adult with Incident Type 2 Diabetes
N ENGL J MED 370;3 Deirdre K. Tobias JAN.16,2014

― この文献を選んだ背景 ―
 CQIプロジェクトのピアレビューで、上川チームは旭川チームの作成した糖尿病初診のプロダクトの価を担当した。その中でBMIをチェックしているかどうかの項目があったが、自分の診療を振返っみるとあまりBMIに意識を向けていなかった。糖尿病初診でBMIを知る意義がどれくらいあるのか問に思っていたところ、上川で定期購読しているNEJMに上記論文があったため読んだ。

― 要約 ―

【背景】
2型糖尿病患者における体重と死亡率の関係は明らかにされていないが、一部の研究(特に対象が心不全患者、末期腎不全患者など)では、過体重または肥満の患者の死亡率は、標準体重の患者よりも低い(「肥満パラドックス」)が示唆されているが、その研究の質は低い。

【方法】前向きコホート研究
看護師健康調査(NHS1976年~)と医療従事者追跡調査(HPFS1986年~)から、2010.1.1まにで糖尿病と新たに診断され、診断時には心血管疾患や癌などを有していなかった参加者を対象に検討した。(各8790例、2457例)。また35歳までに糖尿病と診断された物は1型糖尿病の可能性が高いため除外した。BMIが18.5以下も除外した。断直前の体重と身長からBMIを算出した。多変量Coxモデルを用いて、BMI区分ごとに死亡のハザード比と95%信頼区間を推定した。

【結果】
平均追跡期間15.8年の間に,3083例が死亡した。BMI区分と全死因死亡率の間にJ字型の関連が認められた。この関連は喫煙歴のない参加者では線形であったが、喫煙歴のある参加者では非線形であった(喫煙はBMIを下げ、死亡率を上げる方向に影響するため分類した)。糖尿病診断時の年齢が65歳未満であった参加者では、直接的な線形傾向が認められたが、65歳以上であった参加者では認められなかった。(早期死亡(フォロー開始から4年以内の死亡)は診断されていない慢性疾患や脆弱性のバイアスを取り除く一般的な方法。)

【結論】
BMIと死亡率の間には、参加者全体および喫煙歴のある参加者ではJ字型の関連が、喫煙歴のない参加者では直接的な線形の関連が認められた。我々は過体重または肥満の糖尿病患者の死亡率が標準体重の患者よりも低いという肥満パラドックスを見いだせなかった(米国国立衛生研究所、米国糖尿病学会から研究助成を受けた)

【限界】
体重は自己計測なので信用性が低いかもしれない他の人種、文化的コミュニティへの一般化には限界がある

― 考察とディスカッション ―
 この論文によって、糖尿病診断時におけるBMIを喫煙歴とともに確認する事で、患者さんにどれだけのリスクがあるかという事を客観的に説明するひとつの材料となるだろう。ただし有病率が異なるので一概には言えない。

<ディスカッションポイント>
皆さんは普段糖尿病と診断した時BMIは意識していましたが?意識していた方はどう意識していましたか?これを読んで診療は変わりますか?

140305_2

開催日:平成26年3月5日

レボチロキシン(チラーヂンS)の内服時間

― 文献名 ― 
 Thien-Giang Bach-Huynh, Bindu Nayak, Jennifer Loh, Steven Soldin, and Jacqueline Jonklaas

Timing of Levothyroxine Administration Affects Serum Thyrotropin Concentration
J Clin Endocrinol Metab. 2009 October; 94(10):905-3912.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2758731/

― 要約 ―

Context: レボチロキシンは、食事による吸収阻害を防ぐため朝食前に内服されている。TSH濃度はレボチロキシンの効果の指標である。

Objective: レボチロキシンのTSH濃度に対する効果が、食事摂取と関連した内服のタイミングで変化するかを検討する
Design: 参加者はランダムに6つに振り分けられ、それぞれが8週間のレジメンを3ターム行うクロスオーバーデザインで実施される。3タームのレジメンはそれぞれ朝食前・就寝前・朝食時での内服。TSH・freeT4・freeT3濃度が各レジメンで測定される。
参加者のレボチロキシンの投与量は変更せずに実施された.
Primary outcomeは、他のレジメンと朝食前のレジメンとのTSH濃度の相違。

Setting: academic medical centerで実施された

Participants: 甲状腺機能低下症または甲状腺癌の治療のためレボチロキシンを内服している患者

Results: 65人の患者が参加。朝食前内服の平均TSH濃度は1.06 ± 1.23 mIU/L。朝食時内服の平均TSH濃度は有意に高かった(2.93 ± 3.29 mIU/L). 就寝前内服の平均TSH濃度もまた優位に高かった(2.19 ± 2.66 mIU/L)。

Conclusion: 朝食前以外のレジメンでは、TSH濃度が高く、またばらつきが大きかった。特定のTSHの目標値が望まれ、それにより医原性の潜在性甲状腺疾患を避けるならば、朝食前のレボチロキシン内服により最も狭い目標範囲でのTSH濃度が確保されるだろう。

― 考察とディスカッション ―

この研究では8週間のレジメンなので、長期間の効果は不明であった。
しかし、自分自身では飲みやすさから食後で処方してしまうことが多いので、調整がより困難な患者さんに対しては、朝食前(それが難しければ就寝時)に処方変更することを検討したい。

開催日:平成26年2月19日

運動は下肢の変形性関節症患者の疼痛を軽減する

<文献名>
 Exercise Relieves Pain in Patients with Lower-Extremity Osteoarthritis
    2013 October 24 BMJ

<この文献を選んだ背景>
 
 変形性膝関節症の患者は日々の診療の中で多い。治療や痛みの軽減のための鎮痛剤、膝関節注射、大腿四頭筋訓練、減量という説明を行うが、他に推奨する何かがないかと思っていたため。

<要約>
 運動によって、膝関節や股関節の変形性関節症(osteoarthritis:OA)を有する患者の疼痛が軽減され、身体機能が改善されることを示すエビデンスが増えている。今回のメタアナリシスではランダム化試験60件(参加者8,200人超、フォローアップ期間の中央値15週)を対象として、運動介入が運動しない場合よりも有効であるかどうかが調べた。また、さまざまな運動介入の比較も行われた。
 膝関節のOAを有する患者に関する試験が44件、股関節のOAを有する患者に関する試験が2件、膝関節、股関節、その他の関節のOAを有する患者に関する試験が12件であった。評価の対象とされた運動の種類は、強化運動、柔軟運動、有酸素運動、およびこれらの運動の水中バージョンであった。疼痛の軽減(視覚的な疼痛尺度[visual pain scales])によって測定)については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の併用(強化運動と柔軟運動と有酸素運動の併用)、水中での強化運動、水中での強化運動と柔軟運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。疼痛が軽減する確率がもっとも高かったのは、水中での強化運動と柔軟運動を併用した場合であり、その次に高かったのは、強化運動のみの場合であった。身体機能の改善については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の各運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。

開始日:平成26年1月22日

入院患者の高血糖は治療すべきか?

― 文献名 ―

 Ketan Dhatariya. Uncertainties: Should inpatient hyperglycaemia be treated? BMJ 2013;346:f134 doi: 10.1136/bmj.f134

― この文献を選んだ背景 ―

 Usually, we try to control blood glucose of patients who are admitted with acute illness.
But after reading this article, I found that this is not confirmed with good evidence and realized the importance of knowing that some of our usual care may lack sufficient evidence.

― 要約 ―

   Two large scale randomised controlled trials in the 1990s were the first such trials to show that the control of blood glucose helped to prevent long term complications in people with types 1 and 2 diabetes.1 2 Glucose concentrations can rise not only in people with pre-existing diabetes, but also, for short periods, in people without the condition–in particular, during times of acute illness, when it is called stress hyperglycaemia.3
 Data show that raised blood glucose concentrations in people with and without a previous diagnosis of diabetes are associated with short term harm. However, whereas the benefits of good glycaemic control over a long period in people with diabetes are well established, uncertainty remains about whether treating transient hyperglycaemia, in particular in hospital inpatients, makes any difference to short term outcomes.

What is the evidence of the uncertainty?
   Since the two trials in the 1990s,1 2 other studies have also shown that hyperglycaemia in inpatients with and without pre-existing diabetes is associated with poor outcomes. However, most trials were observational, with only a few randomised controlled trials. A meta-analysis of 34 randomised control trials assessing perioperative insulin infusion in 2192 surgical patients concluded that “perioperative insulin infusion may reduce mortality but increases hypoglycaemia in patients who are undergoing surgery.”5 However, only 14 of these studies included patients with diabetes, with 13 studies
excluding them and the rest not reporting whether patients with diabetes were included.

   Observational data from an unselected cohort of over 1500 acute general medical admissions with and without diabetes showed that length of stay, readmission rates, and 30 day mortality rates rose with higher blood glucose concentrations.6 Other observational evidence from hospital episode statistics based on discharge coding of over four million patients showed that those who also had diabetes stayed in hospital the longest, regardless of the specialty.7

   People with stress hyperglycaemia may be at risk of developing type 2 diabetes in the long term. However, evidence from intervention studies is sparse or conflicting on whether aggressive treatment of the hyperglycaemia during a patient’s hospital stay makes a difference to short or long term outcomes or even affects outcomes related to their cause for admission. Indeed, data from well conducted large randomised controlled trials and observational studies show that the use of glucose lowering agents–in particular, insulin–are associated with increased levels of harm, in the form of severe hypoglycaemia.10 11

   A few randomised controlled trials show that short term, tight glycaemic control using insulin therapy in intensive care seemed to reduce mortality, infection rate, and length of hospital stay.12 13 Other well conducted randomised controlled trials in intensive care patients have been either equivocal14 15 or associated with harm, with the largest such study of over 6000 patients showing that tight glycaemic control was associated with higher incidence of severe hypoglycaemia and increased mortality.16

   There are good theoretical reasons why glucose reduction with insulin should be beneficial, with reductions in endothelial dysfunction, immune dysfunction, and the maintenance of adequate vasodilatation.20 But insulin use in any patient with hyperglycaemia is fraught with problems and is often used incorrectly or ineffectively–the use of subcutaneous “sliding scales” being one such problem.21 Precipitating severe hypoglycaemia by aggressive glucose lowering with insulin is a major concern.
Uncertainty also remains about the glucose targets that should be aimed for and the best agents to achieve these.

   The data presented show that high glucose concentration in people with and without diabetes is associated with poor outcomes. However, as the author found no directly relevant systematic reviews it remains to be determined if the raised blood glucose is the cause of the poor outcomes or if it is just an epiphenomenon.

What should we do in the light of the uncertainty?
   If the patients are found to be hyperglycaemic then efforts should be made to control their glucose concentrations on the basis of pragmatic consensus documents drawing largely on the best available observational data previously described. 

開催日:平成25年10月16日