2型糖尿病の内服治療アップデート

-文献名-
Type 2 Diabetes Mellitus: ACP Releases Updated Recommendations for Oral Pharmacologic Treatment

-要約-
Introduction:
2型糖尿病は糖尿病の95%を占める。一般的には生活習慣の改善(食事、運動)と薬物療法にて治療される。体重減少があった場合や生活習慣の改善でうまくいかなかった場合は薬物療法が行われる。American College of Physicians(ACP)は、2012年に2型糖尿病の安全かつ効果的な内服治療に関するガイドラインを発行した。その後、新たなエビデンスが出て、新たな薬も現れているため、ガイドラインがアップデートされた。

Reccomendations:
血糖コントロールを改善させる必要があるなら、メトホルミンを使うのが良い。効果的に血糖を下げることができ、体重減少に繋がり、低血糖が少なく、薬価も比較的安い。乳酸アシドーシスを起こす可能性のある患者(組織潅流が減少している、血行の不安定性、重篤な肝障害、アルコール乱用、不安定なうっ血性心不全など)には禁忌。
SU、チアゾリジン誘導体、SGLT-2阻害薬、DPP-4阻害薬の併用治療はメトホルミン単独よりも優れており、追加の内服が必要な時に検討する(薬物の選択についてはTable 1を参照)。
SUは薬価が安いが、低血糖と体重増加のリスクが高い。SGLT-2阻害薬は収縮期血圧や体重への影響でSUやDPP-4阻害薬より優れ、また心血管死亡率、HbA1c、心拍数に関してSUより優れている。DPP-4阻害薬は、長期にわたる全ての死亡、心血管死亡率、心血管罹患率についてSUより優れており、体重増加についてSUおよびチアゾリジン誘導体より優れている。
併用治療はメトホルミン単独よりも多くの副作用に関連する。SUは低血糖、チアゾリジン誘導体は心不全、SGLT-2阻害薬は性器の真菌感染症を起こす可能性がある。DPP-4阻害薬のサクサグリプチン(オングリザ)、アログリプチン(ネシーナ)は、心疾患や腎疾患を合併している患者では心不全のリスクが高くなる。
JC20171220中島1

【開催日】2017年12月20日(水)

Comparison of Early versus Late Orthostatic Hypotension Assessment Times in Middle-Age Adults

-文献名-
JAMA Intern Med. 2017 September 01; 177(9): 1316–1323. doi:10.1001/jamainternmed.2017.2937

-要約-
Introduction:
ガイドラインでは、臥位から立位になった3分後に起立性低血圧を評価することが勧められている。立位3分後に血圧を測定した時と立位直後に測定した時とで、どちらがより強く有害事象を予測するかはわかっていない。

Objectives:
立位直後とそれより後に評価した起立性低血圧を比較し、それぞれとめまいや有害事象との関連性を調べる

Design、setting、and Participants:
Atherosclerosis Risk in Communities Study(1987-1989)に参加していた44歳〜66歳の中年成人

Exposure:
起立性低血圧は収縮期血圧20mmHg以上か、あるいは拡張期血圧10以上の低下と定義。立位直後から25秒おきに合計5回血圧を測定。

Main Outcomes and Measures:
5回の血圧測定それぞれと、立位でのめまいの既往、転倒、骨折、失神、自動車事故、全死因死亡との関連性を調べた。
追跡期間は中央値で23年。

Results:
11429が参加。平均54歳。
Measurement 1(M1、立位から平均28秒後の測定で認められた低血圧)はめまいのとの関連が高かった。ほかにもM1は骨折、失神、死亡との関連が一番高かった。M2(立位から平均53秒後の測定で認められた低血圧)は転倒や自動車事故との関連が一番高かった。
変数で調節すると、M1~M4で認められた血圧低下は全て転倒と有意に関連し、M2が最も強い関連性を示した。M1~M2で認められた低血圧は骨折リスクと最も強い関連を示した。M1~M5全ての血圧低下は失神と有意に関連したが、M2のみが自動車事故と関連した。立位から1分以降に認められた低血圧はめまいや個々の長期予後と関連がなかった。

Conclusion and Relevance:
ガイドラインの推奨とは対称的に、立位になって1分以内に認めた起立性低血圧がめまいや有害事象と強い関連があった。起立性低血圧を診断するためには、立位になってから1分以内に血圧を測定することを推奨する。

川合1(20171115)

川合2(20171115)

川合3(20171115)

川合4(20171115)

Discussion:
制限について。骨折、転倒、失神、自動車事故はICD9のコードかCMS claimsで評価したので、感度に問題がある。立位を指示してから実際に立ち上がるまでに参加者間でばらつきがある。自動車事故については運転手とての技量が評価されていない。

【開催日】
2017年11月15日(水)

冠動脈心疾患患者の生活習慣に焦点を当てたテキストメッセージ配信がリスク因子の改善に及ぼす影響

―文献名―
Clara K. Chow, MBBS, PhD, et al,
Effect of Lifestyle-Focused Text Messaging on Risk Factor Modification in Patients With Coronary Heart Disease
JAMA. 2015 Sep 22-29;314(12):1255-63

―要約―
Introduction:
心血管疾患の二次予防として有効なものとして、内服予防、リスクコントロール、生活習慣の改善などがあるが、生活習慣への介入は最も効果的であるが、十分に研究されていない。 そのため、冠動脈疾患を持つ患者に定期定期にメッセージを送信することで心血管リスク因子を減らすことが出来るかランダム化試験で評価を行った。

Objective:
携帯電話のテキストメッセージによって送信される心血管リスク因子に関する生活習慣に焦点を当てた半個別化支援プログラムの効果を検証すること

Design and Setting:
喫煙、運動および食事療法のメッセージ(TEXT ME)試験は、オーストラリアのシドニーにある大規模な三次病院で2011年9月から2013年11月までの虚血性心疾患の既往のある710人の患者(平均年齢58歳(SD,9.2)男性82%.喫煙者53%)を集めた並行群、単盲検、ランダム化臨床試験。

Interventions:
介入群(n=352)の患者は通常のケアに加えて、6ヶ月間1週間に4回の助言、動機づけのリマインダ、行動変容を支援するテキストメッセージを受信した。対照群(n=358)の患者は通常のケアのみを受けた。各参加者のメッセージは、ベースライン特性(例えば、喫煙)に従ってメッセージバンクから選択され、自動化されたメッセージ管理システムを介して配信された。

Main outcomes and Measures:
Primary end point(主要評価項目):6ヶ月後のLDL-C
Secondary end point(副次評価項目):収縮期血圧、BMI、身体活動量、喫煙状況

Results:
6ヵ月後には、介入群の参加者において、収縮期血圧およびBMIの低下、身体活動の有意な増加、および喫煙の有意な減少とともに、LDL-Cが有意に低下した。
画像1尾崎

Conclusions and Relevance:
冠動脈性心疾患の患者の中で、通常のケアと比較して生活習慣に焦点を当てたテキストメッセージ配信サービスを使用すると、LDL-Cレベルが改善され、他の心臓血管疾患の危険因子が大幅に改善された。

Discussion:
・行動への介入研究でありOutcomeがLDL-Cという代用アウトカムだったため、臨床転帰の改善に繋がるか不明。
・携帯を使えない人、英語の文章を十分に理解できない人は除外されていた。
・Secondary end pointのいくつか(身体活動)は自己申告によって測定された。
・完全な盲検化が出来なかった。
・効果がいつまで続くか不明。

画像2尾崎 画像3尾崎 画像4尾崎Conclusions and Relevance

【開催日】
2017年11月15日(水)

成人の非喘息性急性下気道感染に対する経口ステロイドの効果

ー文献名ー
Effect of Oral Prednisolone on Symptom Duration and Severity in Nonasthmatic Adults With Acute Lower Respiratory Tract Infection: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2017 Aug 22;318(8):721-730. doi: 10.1001/jama.2017.10572.

ー要約ー
Introduction:
プライマリケアにおける急性下気道感染を扱うことは非常に一般的であり、急性下気道感染症の症状は増悪した喘息に類似している。経口および吸入コルチコステロイドは急性喘息に対して非常に有効であるが、米国、英国、および欧州のガイドラインでは、コルチコステロイドを急性下気道感染症に使用すべきかどうかについては指針が示されていない。これにも関わらず吸入、経口ステロイドが使用されていることが多い。今研究の目的は、喘息のない成人の急性下気道感染症に対する経口コルチコステロイドの効果を無作為に調べることである。

Method:
The Oral Steroids for Acute Cough(OSAC) trialは2013年6月~2014年10月の期間で行われた、無作為、3重盲検化のプラセボ群を対照とした研究である。多施設で行われ、オックスフォード等の4つの大学で研究の手法を学んだ家庭医と看護師が患者の適正(4週間以内の発症で、咳嗽に加えて24時間以内に少なくても1つの下気道症状(痰、喘鳴、息切れ、胸痛)を持ち、即日抗生物質の投与が必要でなくかつ5年間喘息の治療を受けていない成人患者)を評価し参加者とした。介入はプレドニンゾロン20mg/日とプラセボを5日間投与であり、フォローアップはウェブ又は用紙を用いて0~6の症状を28日間毎日記載し、咳はさらに28日間記載した。
主要なアウトカムは➀徐々に増悪していた中等度咳嗽の持続時間②投薬後の症状重症度(咳嗽、痰、息切れ、不安、不眠、活動障害)の2~4日間での平均スコア(0~6点)であった。

Results:
58人の家庭医と50人の看護師が評価し、525人の参加者が選ばれた。その中で124人が除外され、401人が参加となった。このうち咳嗽のデータは334人、症状の重症度に関しては370人が利用可能であった。双方の患者の性質に関してはプレドニゾロン群がわずかに男性が多く年齢(平均50歳)が高かった(table1)。
主要なアウトカムについて、①中等度に悪い咳の期間の中央値はプレドニゾロン、プラセボともに5日間であり(table2)、咳の持続時間のベースラインの中央値をCoxモデルに当てはめて計算すると0.91(95%Cl 0.76~1.10P=36) 対1.11(95%Cl 0.89-1.39)であり(9%<20%)有意差は認めなかった。
②2~4日目の症状の重症度に関してはプレドニゾロン群とプラセボで1.99対2.16(95%Cl-0.4~0.00,P=0.5)と0.2ポイント(9.3%<20%)であり有意差は認めなかった(table2)。

Discussion:
この研究ではいくつかの限界があり、1つ目は患者が選択的に集められているため募集率が低くなり一般化に影響が出る可能性があること。2つ目は中等度に悪い咳の期間が基準を満たさなかった募集者が予想以上に多かったこと。
3つ目は他のバイオマーカー(レントゲン、炎症反応、微生物学的検査、レントゲン)が測定されていなかったので
重症度に差が出ていた可能性があること。4つ目に試験の適格基準には、急性下気道感染ではなく慢性または感染後の咳を伴う患者が含まれていた可能性があること。5つ目にこの研究では、患者報告の結果を用いたので客観的ではないこと。6つ目にグループ間で服薬コンプライアンス不良による有害事象の効果について欠如していることが限界として挙げられた。
最後に、今後はCRPの上昇や即時に抗菌薬が必要な程度の重症度の高い場面でのステロイドの有効性についても研究が必要である。

【開催日】
2017年11月1日(水)

成人における短期間の経口ステロイドと有害性

-文献名-
Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Akbar K Waljee.et al.BMJ 2017;357:j1415

-要約-
【目的】
短期間の経口ステロイドと有害事象(敗血症、、静脈血栓症、骨折)との関連性をみること。
【デザイン】
後ろ向きコホート研究と自己対照ケースシリーズ
(参考…自己対照ケースシリーズとは:case自身に対照となる期間を設定して比較する手法)
【セッティング】
全米の民間医療保険データセット
【対象】
2012から2014年の期間、18~64歳の成人を継続して登録した。
【主要アウトカム】
30日以下の経口ステロイドの短期間使用率。ステロイド使用者と非使用者の有害事象の発生率。30日以下と31~90日の有害事象発生率比。
【結果】3年間で成人1,548,945人のうち、327,452人(21.1%)が少なくとも1回は短期間経口ステロイドを外来で処方されていた。高齢患者、女性、白人の間で使用頻度が高かった(全てP<0.001)。最も使用頻度が高かった一般的な適応症は、上気道炎、脊髄の問題、アレルギーであった。処方医は様々な診療科の専門医であった。30日以内では敗血症の発生率増加(incidence rate ratio 5.30, 95% confidence interval 3.80 to 7.41)、静脈血栓塞栓症の増加 (3.33, 2.78 to 3.99)、骨折の発生率増加(1.87, 1.69 to 2.07)となっており、引き続き31~90日となっていくに従い低減した。このリスクの増加は20 mg/day でも同様であった。 (敗血症incidence rate ratio 4.02、静脈血栓塞栓症 3.61、骨折 1.83 for fracture; 全て P<0.001)

absolute risk
敗血症 ステロイド使用者0.05% (n=170 of 327 452)
        非使用者0.02% (n=293 of 1 221 493)
        ⇒NNH3330人
静脈血栓塞栓症  使用者0.14% (n=472 of 327 452)
        非使用者0.09% (n=1054 of 1 221 493)
        ⇒NNH2000人
骨折       使用者0.51% (n=1657 of 327 452)
        非使用者0.39% (n=4735 of 1 221 493)
        ⇒NNH830人

【まとめ】
米国成人5人に1人が3年間で短期間の経口ステロイド処方を受けており、有害事象のリスク増加と関連していた。
中川1(20171004)

中川2(20171004)

【開催日】
平成29年10月4日(水)

高齢者の大腿骨頸部骨折:手術すべきか?

―文献名―
van de Ree CLP, et al. Hip Fractures in Elderly People: Surgery or No Surgery? A Systematic Review and Meta-Analysis. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2017 Sep;8(3):173-180.

―要約―
【Introduction】
 大腿骨頸部骨折の患者数は増加しており、同時に高度の合併症も有している。大多数は手術にて治療されるが、周術期死亡のリスクが容認できないほど高く手術が不適切な患者さんの割合も著しく増加している。脆弱でハイリスクな高齢者については、どのような治療が可能か評価するために、治療オプションを考える前に患者さんの骨折前にQOLや将来的な予測について検討すべき。
 ・既知の事実:手術実施は早期のほうがoutcomeがよいと示されている
 ・未知の内容:手術の有無によるoutcome。倫理的な理由でRCTは乏しい。2008年のcochrane systematic reviewでは手術の有無を
        比較しているが、保存的療法(ベッド上安静+牽引)よりも手術療法のほうがよいというには証拠不十分と報告している

【Objective】
 レビューの目的は、65歳以上の大腿骨頸部骨折患者において、手術の有無による死亡率・health-related QOL・機能的outcome・費用の相違を概観すること。

【Method】
 EMBASE, OvidSP, PubMed, Cochrane Central, and Web of Scienceを検索し、手術の有無を比較した観察研究とRCTを選択。研究手法の質はthe Methodological Index for Nonrandomized Studies (MINORS) または Furlan checklistで評価した。

【Results】
 計1189名の患者がエントリーされた7つの観察研究のうち、242名(20.3%)が保存的に治療された。研究手法の質は中等度(mean: 14.7, standard deviation [SD]: 1.5)であり、30日後と1年後の死亡率は保存的療法の群が高かった(odds ratio [OR]: 3.95, 95% confidence interval [CI]: 1.43-10.96; OR: 3.84, 95% CI: 1.57-9.41)。QOLや機能的outcomeや費用面で比較した研究は存在しなかった。

【Conclusion】
 このsystematic reviewとmeta-analysisでは、少数の患者を手術の有無で比較した少数の研究のみで実施した。30日後と1年後の死亡率の有意な高さが明らかとなった。QOLや費用面でのデータは見いだせなかった。高度な合併症や限られた予後の高齢者に関して有効な判断を行いと保存的療法を開始するためには、さらなる探索が必要である。
 <限界>
  ①潜在的な交絡因子(依存症・性別・年齢・精神状態・脆弱度・介入のタイプ)を調整出来ていない
  ②骨折の安定性を識別できていない
  ③この研究はすべての患者に手術可能でない国には一般化が出来ない

<Flow diagram; selection of articles>
安藤先生図1

<Thirty-day mortality>
安藤先生図2

<One-year mortality>
安藤先生図3

【開催日】
 2017年9月6日(水)

坐骨神経痛に対するプレガバリンの効果

―文献名―
Mathieson S, et al. Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica. N Engl J Med. 2017 Mar 23;376(12):1111-1120.

―要約―
【背景】
 坐骨神経痛は日常生活に障害をもたらす可能性があり、薬物治療に関するエビデンスは限られている。プレガバリンは一部の神経障害性疼痛に有効である。この試験ではプレガバリンによって坐骨神経痛の強度が低下するかどうかを検討した。

【方法】
 坐骨神経痛患者を対象に、プレガバリンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。患者を最長8週間、プレガバリンを投与する群と、マッチさせたプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。開始用量は150mg/日とし,最大600 mg/日まで調整した。主要評価項目は、8週の時点で10ポイントスケールで評価した下肢痛強度スコア(0は痛みなし、10は想像しうる最大の痛みを示す)とし、主要評価項目の第2の時点とした52週の時点でも評価した。副次的評価項目は1年の試験期間中に事前に設定した時点で評価した障害の程度、腰痛の強度、QOL指標とした。

【結果】
 209例を無作為化し、108例をプレガバリン群に、101例をプラセボ群に割り付けた。無作為化後、プレガバリン群の2例が不適格と判定され、解析から除外された。8週の時点で、未補正下肢痛強度スコアの平均は、プレガバリン群3.7、プラセボ群3.1であった(補正後の差の平均0.5、95%CI-0.2-1.2、P=0.19)。52 週の時点で、未補正下肢痛強度スコアの平均は、プレガバリン群3.4、プラセボ群3.0 であった(補正後の差の平均0.3、95%CI-0.5-1.0、P=0.46)。8週、52週の両時点で、いずれの副次的評価項目にも群間で有意差は認められなかった。有害事象はプレガバリン群で 227件、プラセボ群で124件報告された。プレガバリン群ではめまいの頻度がプラセボ群より高かった。

今江先生図1

今江先生図2

【結論】
 8週間のプレガバリン投与は、プラセボと比較して、坐骨神経痛に関連する下肢痛の強度を有意には低下させず、その他の評価項目にも有意な改善はみられなかった。有害事象の発現率はプレガバリン群のほうがプラセボ群より有意に高かった。
(オーストラリア国立保健医療研究審議会から研究助成を受けた。)

【開催日】
 2017年8月23日(水)

小児の急性中耳炎に対する抗生剤は1〜2回/日で良いのか?

―文献名―
Thanaviratananich, S., Laopaiboon, M., & Vatanasapt, P. Once or twice daily versus three times daily amoxicillin with or without clavulanate for the treatment of acute otitis media. The Cochrane Library.2013.

―要約―
【Introduction】
 急性中耳炎は小児の良くある問題である。CVAの有無に関わらずAMPCは頻繁に選択される治療として処方される。従来の推奨は1日に3回あるいは4回である。しかしながら、今日1日に1回あるいは2回投与がなされている。
 もし、1日1回あるいは2回投与が3回あるいは4回投与と同等の効果であれば、便利でコンプライアンスを向上するかもしれない。

【Method】
 5つのランダム化比較試験のメタ分析。

 ●参加者:12歳以下の急性中耳炎患者。急性中耳炎は急性の耳痛と、鼓膜穿刺あるいはティンパノグラムのB型C型で診断されたもの。
     (B型は中耳のfluidを示唆し、C型は中耳内の圧力が大気圧より低い事を示唆している)
 ●介入のタイプ:CVAの有無に関わらずAMPC1〜2回/日と3〜4回/日と比較する。
 ●Primary outcomes:データがある場合、耳痛の改善・解熱・細菌学的治癒による、抗生剤終了(7〜15日目)の臨床的治療率。
 ●Secondary outcomes:耳痛の改善と解熱による臨床的治癒率。再発性中耳炎のないAOM治療後患者のみにおいて評価された、
            治癒後(1〜3ヶ月後)、ティンパノメトリーによる中耳浸出液の改善。AOMの合併症(再発、乳様突起炎)。
            投薬への有害事象。

 2人の著者は独立してそれぞれの試験から治療アウトカムに関するデータを抽出し、選択バイアス、施行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアス、及びその他のバイアスについて評価した。
 バイアスの低リスク・高リスク・不確実なリスクとして、質の格付けを定義した。その結果を95%信頼区間のRRとしてまとめた。

【Main Results】
 1601人の小児を含む5つの研究が含まれた。

 治療終了時(RR1.03,95%信頼区間 0.99〜1.07) Fig.3

貴島先生図1
  Figure 3. Forest plot of comparison: Clinical cure rate at the end of therapy.

 治療中   (RR 1.06, 95%信頼区間 0.85 to 1.33) Fig.4

貴島先生図2
  Figure 4. Forest plot of comparison: Clinical cure rate during therapy.

 フォローアップ期間 (1〜3ヶ月)(RR 1.02, 95%信頼区間 0.95 to 1.09) Fig.5

貴島先生図3
  Figure 5. Forest plot of comparison: Clinical cure at post-treatment (one to three months).

 再発性中耳炎(RR 1.21, 95%信頼区間 0.52 to 2.81)Fig.6

貴島先生図4
  Figure 6. Forest plot of comparison: AOM complications: Recurrent AOM after completion of therapy.

 AMPCのみ、またはAMPC/CVAでサブグループ解析を別々に行った結果、すべての重要なアウトカムにおいて1日1〜2回と1日3回の群で差がなかった。
 また、内服遵守率(RR 1.04, 95%信頼区間 0.98 to 1.10)、下痢や皮膚障害などの全有害事象 (RR 0.92, 95%信頼区間 0.52 to 1.63)と有意差はなかった。(経口抗生物質の1日1回または2回の投与は、1日3回の投与より高い遵守率を有する報告がある(Kardas 2007; Pechere 2007))

【著者らの結論】
 本レビューでは、CVAの有無に関わらずAMPCの1日1回or2回の用量を使用した結果は、AOMの治療で3回投与の結果に匹敵する事が示された。これらの結果は、両方の投薬が同じ有効性を有すること、または複雑でないAOMが自然治癒できることを示し得る。

【開催日】
 2017年8月23日(水)

A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses.

―文献名―
Daum RS. A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses. N Engl J Med. 2017 Jun 29; 376(26): 2545-2555.

―要約―
Introduction:
 皮下膿瘍はcommonな問題であり、起因菌としてMRSAを含むS.aureusが主であることがわかっているが、その治療方法については確立されたものがない。先行研究では、5cm以上の膿瘍もしくは蜂窩織炎に対してCLDMとSTでの比較試験を行なったが、両者に差はみられなかった。しかしプラセボとの比較はなされていないことと、より小さな膿瘍での評価はされていなかったため、今回の研究に至った。

Method:
 他施設共同の前向き二重盲検試験
 外来を受診した5cm以下の皮膚膿瘍の患者を対象
 切開排膿後にランダムにCLDM群、ST群、プラセボ群に振り分ける
 (CLDM150mg 6T3x, ST 4T2x, プラセボ 10日間)
 治療終了後7-10日目のtest-of-cure visitでの臨床的治癒の有無を評価

Results:
佐野先生図1

佐野先生図2

佐野先生図3

佐野先生図4

 CLDM群、ST群はプラセボ群と比較して治癒率が高かった。(ST群とプラセボ群とのITT解析では有意差は生じなかったが)
CLDM群とST群との比較では差は生じなかった。
 培養結果で分けると、S.aureusが検出された群(MRSA、MSSAいずれも)でCLDM群、ST群とプラセボ群とで差を生じた。ただしCLDM群とST 群とでは差を生じなかった。S.aureusが検出されなかった群では3者での差は生じなかった。
 1ヶ月後のフォローではCLDM群が最も新規(再発)感染の頻度が低かったが、有害事象も最も多いという結果であった。

Discussion:
 本研究ではCLDMとSTの2剤を用いているが、他にも単純性皮下膿瘍の適応のある薬剤(例えばDOXYもMRSAへの効果が認められている)の検討はされていない。
 また、患者の治癒率は高かったため、抗生剤によって得られたメリットは小さいかもしれない。
 患者のフォローアップ期間は1ヶ月であり、それ以降の再発については評価できていない。治療終了から7-10日の時点で治療失敗となっていた群は1ヶ月後のフォローから省いている、といった観察期間に起因する限界もみられた。

【開催日】
 2017年8月4日(水)

White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality

―文献名―
Huang, Yuli, et al. “White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality.” Journal of hypertension 35.4 (2017): 677.

―要約―
【背景】
白衣高血圧が本当に患者にとって無害かは、まだまだ議論の余地がある。

【方法】
 白衣高血圧と、心血管疾患および全死亡のリスクとの関連性を、ベースラインの降圧治療の状況によって階層化して評価した。データベース(PubMed, EMBASE, CINAHL Plus, Scopus, and Google Scholar)から、白衣高血圧に関連する心血管疾患および全死亡に関する前向き試験を検索した。主要アウトカムは降圧治療の状況によって層別化(未治療集団、降圧治療を受けている集団、混合集団)された白衣高血圧と心血管疾患および全死亡のリスクとした。正常血圧との相対リスクを計算した。

【結果】
 最終的に14の研究(うち8つはベースラインで降圧治療が無いもの、4つは降圧治療が行われているもの、6つは両方が混ざっているもの)が解析対象となった。診療所での収縮期血圧、拡張期血圧は白衣高血圧群が正常血圧群より優位に血圧が高かったが、診療所外の収縮期血圧は白衣高血圧群の方が血圧は有意に高かったもののその差は診療所血圧ほど大きくはなく、診療所外の拡張期血圧は白衣高血圧群と正常血圧群とで有意差はなかった。
 高血圧未治療集団において、白衣高血圧群は正常血圧群より心血管疾患のリスクが38%、全死亡のリスクが20%それぞれ増していた。混合集団においても白衣高血圧群でそれぞれ19%、50%リスクが高かった。しかし降圧治療を受けている集団においては、心血管疾患、全死亡とも白衣高血圧群と正常血圧群とでリスクに有意差がなかった。

川合先生図1

川合先生図2
FIG.6 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: cardiovascular disease

川合先生図3
FIG.7 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: all-cause mortality.  (RR 1.20, 95% CI 1.03–1.40)

【開催日】
 2017年8月2日(水)