めまい体操の効果

―文献名―
Adam W. A. Geraghty, PhD, et al. Internet based vestibular rehabilitations for older adults with chronic dizziness: a randomized controlled trial in primary care. Annals of family medicine. 2017; vol. 15, no. 3.

―要約―
Introduction:
 ●めまいは、頻度の高い症状で、アメリカで受診するのは年間およそ700万件。
 ●プライマリ・ケアにおいて、めまいのほとんどの原因はBPPVを含む前庭機能障害である。
 ●高齢者のめまいは、転倒、転倒への恐れ、不安、うつに関連し、運動障害やフレイルさの増大、自立した生活が失われるなどの結果につながる。
 ●放置されためまいは慢性化し、最近のプライマリ・ケアの研究では、症状の持続期間は5.5年間だった。
 ●薬物治療や外科的治療は限定された効果しかないが、めまい体操は前庭機能障害の患者に対して有効だというエビデンスがある。
  簡単な頭の運動をいくつか行うめまい体操によって、中枢神経の補完を促すとされ、研究では自分で行うめまい体操も効果的かもしれないと
  示唆されていた。
 ●インターネットを使う高齢者は増加しており、アメリカでの2013年の調べでは、65歳以上の高齢者の59%がインターネットを利用している。
 ●以上より、インターネット経由でめまい体操を提供することが効果的であると証明されれば、低コストのめまいの治療へのアクセスが増えるのでは
  ないかと考えた。

Method:
■Setting and Participants
 ●single-center, single-blind randomized controlled trial
 ●2013年9月〜2014年6月
 ●イギリス南部の54のプライマリ・ケア・クリニックの患者
 【inclusion criteria】
  ・過去2年間にめまいを主訴にクリニックへ受診しており、現在も頭を動かすとめまいが悪化する
  ・インターネットへのアクセスがある(メールアドレスも持っている)
  ・50歳以上
 【exclusion criteria】
  ・耳性以外のめまいの原因がある
  ・めまい体操をしてはいけない状態にある(頸椎症など)
  ・生命に危険がある状態、進行性の中枢神経疾患など重症な併存疾患がある
 ●対象者へ研究説明書を送り、興味がある人には研究チームへ返信してもらう
 ●電話でめまいの持続、頭位変換で悪化するかを確認。Epley法での治療歴がある患者は除外。

■Randomization and Interventions
 ●インターネットのソフトウェアで、2つのグループ(internet-basedめまい体操・グループとusual care・グループ)
  にランダムに割付
 【internet-basedめまい体操】
  ・Balance Retraining(https://balance.lifeguidehealth.org)
  ・めまいのメカニズムについての説明から始まり、6つのセッションがある
  ・1週間毎に新しいセッションを見られる
  ・個人の症状に基づいてめまい体操が処方される。
  ・体操は、頭を上下・左右に動かす運動(→exercise instruction参照)
  ・リラクゼーションや呼吸法、認知再構成など、認知行動療法の内容も毎週取り入れられている
 【usual care】
  ・制吐剤などの対症療法、教育用パンフレットなど

■Outcome measures
 ●primary outcomeは、6ヶ月後のVSS-SFスコア
 ●ベースライン、3ヶ月後、6ヶ月後に以下の3つの指標を測定
  ①VSS-SF(vertigo symptom scale-short form);めまいに関連する15の症状の頻度についてのスコア
   ・VSS-SF subscale score
   ・VSS-SF autonomic symptom subscale score
  ②DHI(dizziness handicap inventory):めまいによる身体的、感情的、機能的影響を測るスコア
  ③HADA(hospital anxiety and depression scale):不安やうつを測るスコア

■Statistical analysis
 ●Stata/SE version 13.1使用
 ●primary analysisではintention-to-treat解析、secondary per-protocol analysisでは治療アドヒアランスを考慮し、
  少なくとも1回以上セッションを完了した人を対象に解析した。

Results:
●Table1. Baseline characteristics
●Figure1. Patient flow through the trial
 ・介入群で脱落率が高い
●Table2. Primary and secondary outcome measures at 3 and 6 months
 ・多重代入解析を行った結果では、VSS-SFは3ヶ月後に有意な低下を示した(2.57points; 95%CI, 0.85 to 4.28, P=.003)が、
  6ヶ月後には有意な低下は示さなかった(1.86points; 95%CI, -0.59 to 4.32, P=.14)。
 ・per-protocol analysisでは介入群160人のうち99人が該当。Primary outcomeは3ヶ月後ではVSS-SFの有意な低下は見られなかった
  (1.27point; 95%CI, -0.31 to 2.85, P=.12)が、6ヶ月後には有意(2.11points; 95%CI, 0.23 to 3.99, P=.03)となった。
●Table.3 post hoc exploratory analysis of intervention effectiveness by age

Discussion:
●今回の知見は、以前のbooklet-basedめまい体操、face-to-faceめまい体操の結果に匹敵する。
●今回の研究の限界
 ・研究に招待された患者のうち10%以下の参加率
 ・介入群の脱落率が比較的高い。
 ・めまいの原因毎の分析ができていない
 ・有害事象が報告されなかった可能性がある

【開催日】
 2017年6月7日(水)

指示通りに呼吸を行うことが難しい気管支喘息患者に対するスペーサーの有効性

―文献名―
Cates CJ, Welsh EJ, Rowe BH. Holding chambers (spacers) versus nebulisers for beta-agonist treatment of acute asthma (Review). Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013; 13(9)

―要約―
【背景】
 喘息発作におけるβ刺激薬吸入にはネブライザーが用いられることが多いが、スペーサー(”Holding chambers”または”spacers”)によるMDI吸入も同等の効果があるという意見もある。またネブライザーは電源や定期メンテナンスが必要だったり、地域で用いるにはより高価であったりする。

【目的】
 喘息発作時のβ刺激薬吸入における、ネブライザーと比較したスペーサーの効果を評価する。

【検索方法】
 the Cochrane Airways Group Trial Register and reference lists of articlesを検索した。詳細について著者らに連絡をとった。

【選択基準】
 喘息を有する成人と小児(2歳以上)に対しβ刺激薬吸入におけるスペーサーとネブライザーを比較したランダム化試験

【データ収集と評価】
 2人の評価者が独立して選択基準を適用し、データを除外し、バイアスのリスクを評価した。失われたデータは評価者によって獲得よび見積もりされた。結果は95%信頼区間にのっとって報告された。

【考察】
 39の研究における1897人の小児と729人の成人を組み入れた。33本の研究は救急救命室と地域のそれに相当する場所で、6本の研究は喘息発作の入院患者で行われた(207人の小児と28人の成人)。β刺激薬の吸入方法は入院率に明らかな影響を及ぼさなかった。スペーサーとネブライザーの入院に対するリスク比(RR)は成人で0.94 (95% CI 0.61 to 1.43)、小児は0.71 (95% CI 0.47 to 1.08, moderate quality evidence)だった。スペーサーを用いた小児において、救急救命室の滞在時間はネブライザーで103分、スペーサーで33分短縮し著明な減少を認めた(95% CI -43 to -24 minutes, moderate quality evidence)。成人では滞在時間、ピークフローと努力肺活量に差を認めなかった。脈拍(mean difference -5% baseline 、95% CI -8% to -2%, moderate quality evidence)や振戦発生率 (RR 0.64; 95% CI 0.44 to 0.95, moderate quality evidence)は小児のスペーサー群で低かった。

【著者の結論】
 成人でも小児でも、参加者の反応性に応じて臨床家が治療を繰り返したり増量したりする方法において、ネブライザー吸入はスペーサーによるMDI吸入に比較して著明な改善を認めなかった。小児の喘息発作ではスペーサーはネブライザーに比べ利点があるかもしれない。しかし本研究では致死的な喘息発作は除外したため、そういった患者に対して適応されてはならない。

佐治先生図①佐治先生図②佐治先生図③佐治先生図④
佐治先生図⑤

【開催日】
 2017年6月7日(水)

便秘 診断と治療の進歩

―文献名―
Arnold Wald, MD. Constipation Advances in Diagnosis and Treatment JAMA. 2016;315(2):185-191.

―要約―
Importance
 慢性特発性便秘(CIC)は米国で少なくとも年間800万人の受診があり、診断のための検査と下剤の処方、非処方下剤のために多額の支出が行われている。

Observations
 刺激性下剤と浸透圧下剤、新たな腸管分泌促進薬と末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(後者は、オピオイド誘発性便秘(OIC)と治療に大きな進歩あり)についての有効性について強力なエビデンスが確立された。
 適切に使用されれば、sennaやbisacodylのような刺激性下剤は、長期間使用しても安全で効果的である。
 安価な下剤と他のメカニズムで働く新たな下剤との比較研究は不十分であり、強く望まれている。

Conclusions and Relevance
 CICとOICの治療選択は、費用と有効性に基づいて行われるべきである。
 現在利用可能な下剤に反応しない便秘は、排便障害の検査が行える経験豊富な施設でさらに評価する必要がある。
 近年CICの診断には大きな進歩はなかったが、過去5年間でCICの治療には次のような大きな重要な進展があった。
  ①CICのための新たな確立された下剤、分泌促進薬の出現
  ②オピオイド誘発性便秘の治療に対する新たなアプローチ
  ③従来の下剤に反応しない排便協調障害の診断

Method
 MEDLINE、EMBASE、Cochrane Reviews、AGA、ACG(米国胃腸科学会)、GRADEで検索し、21のpeer-reviewed studiesと12のmeta-analysisのreviewsからまとめた。
 Pathophysiology 便秘の原因としてBoxのようなものがある。

Clinical Presentation and Assessment
 患者の多くは、便秘の症状として「排便回数の少なさ」だけでなく「排便困難」も訴える。
 CICではお腹の張りや腹部不快を訴えるが、排便で改善する。
 他方、IBSでの便秘はお腹の張りや腹部不快感はより強く、排便ではあまり改善されない。
 突然の便通変化、血便、予期せぬ体重減少、大腸癌の家族歴などの大腸癌を示唆する警告症状に注意が必要である。
 この場合、大腸内視鏡検査が必要であり、血液検査としてはTSH、Ca、血糖をみるが、消化器内科学会は鉄欠乏性貧血の発見によって更なる検査を促すためにスクリーニングとしてCBCを推奨している。

Pharmacologic Agents for Constipation
尾崎先生図①

 現在米国で利用できる下剤には上記の4種類がある。(Table 1)
多くの下剤(膨張性、刺激性、浸透圧下剤)は処方なしで手に入り比較的安価であるが、新たな分泌性下剤は処方が必要で比較的高価である。(Table 2)
 Intestinal Secretogogues (腸管分泌促進薬)
 Lubiprostone (アミティーザ)や linaclotide(リンゼス)がある。
 一般の便秘薬は便秘には有効だが腹痛には効かなかった。linaclotide(リンゼス)は腹痛にも有効である。
 LubiprostoneはPGEの誘導体で小腸のapical chloride-2channel に働く。
 無作為化二重盲検プラセボ対照研究では、Lubiproston(1日2回24μg)で治療された患者は、プラセボ投与群よりも自発的な排便が多く、患者評価が有意に高かった。また嘔気、頭痛、下痢などの副作用も少なかった。

Stimulant Laxatives
 SennaとBisacodylのような刺激性下剤は、処方箋がなく一時的な便秘や慢性便秘に長期間利用できる。
 刺激性下剤の効果は確定され、有害の根拠もない。
 Bisacodylは経口と座薬で使用できるが、内服は眠前が良く、坐薬は朝食後に入れて胃腸反射に合わせると良い。

Which Laxatives Are Best for Constipation?           
 従来の下剤(Magnesium saltsとSenna)と新しい下剤との比較試験はなく、利用可能な下剤の間にかなりの価格差がある。
(日本 テレミンソフト:20円/個、アミティーザ:160円/C)             
 CICを治療するための推奨アルゴリズムがFigureに示されている。   
  ①食物繊維(野菜摂取)を増やすか、膨張性下剤(bulk agents)、例えばサイリウム(オオバコの種子の皮から精製した食物繊維)の内服  
  ②非吸収物質(PEG3350、Lactulose、マグネシウム)か刺激性下剤(Bisacodyl、Senna)で治療。一つの刺激性下剤で失敗したら、別の刺激性下剤で            
  ③腸管分泌促進薬のlinaclotideかlubiprostone。一方で失敗したら他方で治療。
  ④精査

Opioid-Induced Constipation
 オピオイド使用患者の40%から90%が便秘をする。オピオイドによる腸管運動抑制、腸管分節化 (segmentation)、通過時間が遷延することで水分吸収が増える、腸管への水分・ 電解質分泌抑制などが原因で便秘が起こる。
 オピオイドは、μ、κ、δの3つのオピオイド受容体に作用するが腸管では特にμ受容体に作用する。
 OIC治療に3つのμオピオイド受容体拮抗薬が有効である。
  ①メチルナルトレキソン (6試験、1610人):皮下注のみ。
  ②ナロキソン(4試験、798人):オピオイドによる便秘に有効。長期使用は許可されていない。
  ③アルビモパン (4試験、1693 人):術後イレウスに短期使用。
 麻薬による酷い便秘はオピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンを使用することで、鎮痛作用を減ずることなく便秘だけを抑えることが出来る。日本国内ではナロキソンは注射薬しかない。
 oxycodone/naloxone を、最初10mg/5mgを2回/日か、20mg/10mgを2回/日で開始し最大40mg/20mgまで増量する。Lubiprostoneが非癌患者の麻薬による便秘にプラセボより有効であった。
尾崎先生図②

Discussion
 従来の下剤(Magnesium saltsとSenna)と新しい下剤との比較試験がなく、Magnesium saltsとSennaのRCTがないため、両者とも推奨度がNAであり追加の試験が望まれる。

【開催日】
 2017年5月24日(水)

感染を伴った小児湿疹に対する経口および外用抗生剤治療の是非

―文献名―
Francis NA, Ridd MJ, Thomas-Jones E, et al. Oral and Topical Antibiotics for Clinically Infected Eczema in Children: A Pragmatic Randomized Controlled Trial in Ambulatory Care. Ann Fam Med. 2017;15(2):124-130.

―要約―
Introduction
 湿疹のある患者では皮膚から70%に黄色ブドウ球菌が検出され、悪化の際は広く外用抗生剤が処方されている。しかし2010年の湿疹への抗生剤加療についてCochrane reviewでの最新情報では、関連研究の多くは規模が小さく、質に欠けていることが示され、著者は湿疹の悪化へ抗生剤が使用されることに疑問を抱いた。
 そのため臨床的に湿疹に感染を伴ったと判断される小児に対して、標準治療であるステロイド外用に追加して経口や外用抗生剤を投与することが湿疹の主観的な重症度を軽減するうえでより効果的かどうかを判断するため本研究を実施した。

Method
 英国の外来診療のセッティングで3群間の盲検化ランダム化比較試験を行った。感染徴候を伴う湿疹のある3か月から8歳の小児患者に対し、経口と外用の偽薬(対照群)、外用の偽薬と経口抗生剤、外用抗生剤と経口の偽薬のいずれかをそれぞれ無作為に1週間処方を受けた。ただしpotentもしくはvery potent外用ステロイドや抗生剤の最近の服用歴、重症感染の徴候を認める、また重篤な併存疾患をもつ事例は除外された。1次アウトカムを湿疹の主観的重症度尺度であるPatient Oriented Eczema Measure(以下、POEM)とし、2週間後のPOEMスコアを共分散分析を用い比較した。
 サンプルサイズはα=0.025、90%の検出力としたとき、20%が追跡からもれることを想定し517人と設計した。2014年4月時点での解析結果からは225人が必要とされた。

Result
 2013年7月から2014年12月まで94の医療機関が参加し、33か所で1名以上の参加者が得られた。目標のサンプルサイズに満たなかったものの113名の参加者が無作為割り付けされた。3群間で患者背景に有意な違いはなかった(Table1)。研究開始時の平均POEMスコアは対照群で13.4(標準偏差5.1)、経口抗生剤群で14.6(5.3)、外用抗生剤群で16.9(5.5)であり、2週後はそれぞれ6.2(6.0)、8.3(7.3)、9.3(6.2)であり、抗生剤の効果は経口剤で1.5(95%信頼区間:-1.4-4..4)、外用剤で1.5(-1.6-4.5)と有意差を認めなかった(Table2)。
上野先生図1

Discussion
 本研究ではプライマリケアで小児の感染を伴った湿疹はmildからmoderateのステロイド外用で速やかに改善し、経口や外用抗生剤の追加は無益であることがわかった。当初設定したサンプルサイズには満たなかったものの、抗生剤使用の介入効果の信頼区間下限(-1.4と-1.6)でも臨床上重要な最小のPOEMの差に満たず、これらの結果は偶然によるものではないと考える。また2次分析でも一貫して同様の傾向がみられた。
 本研究は感染を伴った湿疹に対して経口および外用抗生剤の効果を評価した最大の研究である。感染を伴った湿疹は明確な定義は存在しないため、実際的な適格基準を設けた。黄色ブドウ球菌は開始時で70%にしか認めなかったが、すべての患者で医師は感染を起こしていると考えており、現在の診療に直接反映される結果ではないだろうか。
上野先生図2

【開催日】
 2017年5月17日(水)

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症

―文献名―
D. J. Stott, et al. Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism. NEJM. April 3, 2017

―要約―
Introduction
 65歳以上の成人の8~18%は潜在性甲状腺機能低下症の状態にあり、男性よりも女性に多い傾向にある。高齢者における潜在性甲状腺機能低下症は、多くの問題にかかわっている可能性があり、甲状腺ホルモンは、心血管系、認知機能を含む脳神経系、骨や筋骨格系など多彩な影響を及ぼす。疲労感は、甲状腺機能低下症の重要な症状の一つであるが、甲状腺機能低下症の患者は、無症状、または非特異的な症状を呈する。
潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン投与によるランダム化比較試験は、過去に行われているが、規模が小さく限られたエビデンスしか示されておらず、その効果やリスクには議論の余地がある。そこで、潜在性甲状腺機能低下症の高齢者に対するレボチロキシン投与の臨床的な意義を明らかにするために研究を行った。

Methods
 研究デザインは、レボチロキシン投与群とプラセボ群による二重盲検化ランダム比較試験で、少なくとも65歳以上で、潜在性甲状腺機能低下症(TSH値 4.60~19.99mIU/L、遊離チロキシンは基準値範囲内のもの)の状態にある737人の成人を対象に行った。368人がレボチロキシン投与(開始用量50μg/day、体重50kg未満の場合は25μg/day)を受け、TSH値に応じて調整された。369人は、プラセボ群に割り当てられて疑似的な用量の投与を受けた。2つの主要アウトカムは、1年間における甲状腺機能低下症スコアと、甲状腺関連QOL質問紙による疲労スコア(いずれも0~100点で、点数が高いほど症状や疲労が強いことを示し、臨床的に重要な最小の差は9点とされる)とした。

Results
 患者年齢の平均値は、74.4歳で、396人(53.7%)は女性だった。TSH値の平均値(±SD)は、6.40±2.01mIU/Lだった。1年間で、レボチロキシン投与群は、レボチロキシンの中央値50μgの投与において、3.63mIU/Lに低下したのに対し、プラセボ群では、1年間で5.48mIU/Lへと低下(P<0.001)した。
1年間の変化として、甲状腺機能低下症スコアの有意な変化は認めなかった。(プラセボ群0.2±15.3、レボチロキシン投与群0.2±14.4)レボチロキシン投与による副次的なアウトカム(QOLスコア、握力、血圧、BMI、腹囲)についても有益な差はみられなかった。また、事前に想定された重大な有害事象についても認められなかった。

Discussion
 今回の試験は、統計的に主要アウトカムを評価するには十分な症例数だったと考えられる。小さな規模の観察研究などでは、甲状腺機能低下症スコアや疲労スコアの変化を示していたが、いずれも短い観察期間におけるレボチロキシン投与による治療効果の比較だった。過去には、高齢者を対象とした質の高いランダム化比較試験は行われていたが、症例数が120人以下で、十分な規模とは言えなかった。潜在性甲状腺機能低下症では、情報処理能力が低下すると示唆されているが、今回の試験で行った文字コードテストの結果からは、明らかな差は示されなかった。同様に血圧、体重、腹囲、BMI、ADL(Barthel Index)、IADLでも治療効果の差は認めなかった。また、レボチロキシン投与群における有害な甲状腺機能亢進症の発現は認めず、プラセボ群においても、心房細動、心不全、骨折、骨粗鬆症など想定されていた有害事象については認めなかった。過去の観察研究においても、治療による有害事象のリスク上昇は示されていない。
今回の研究の限界としては、治療目標を一部の権威者が示しているTSH値(0.40~2.50mIU/L)ではなく、最近の高齢者に対するレボチロキシン治療のガイドラインに示されているTSH値(0.40~4.60mIU/L)を採用していることが挙げられる。限界の2つ目としては、TSH値が10mIU/Lを超えていた少数の対象者については、サブグループ解析が十分にできておらず、治療効果のメリットについては明らかにできなかった。限界の3つ目としては、対象者の症状の程度が軽く、より症状の強い場合の可能性については除外できていない。4つ目としては、甲状腺の抗体値を測定していないため、抗体の有無による差と、抗体を有している場合に長期間の治療で差が生じた可能性は評価できていない。最後に心血管イベントや死亡率に及ぼす効果を評価するには至っておらず、治療による心血管系への保護作用や有害性の可能性は、除外できていない。

【開催日】
 2017年5月17日(水)

ビタミンDによる上気道感染症予防

―文献名-
Adrian R Martineau et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data. BMJ 2017;356:i6583

-要約-
Introduction
 急性上気道感染症は頻度が高く、死亡率も高い重要な疾患である。過去の観察研究において、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度が低いことと急性上気道感染症の罹患率に関連性があることが示されていた。また、ビタミンDは上気道炎への抗菌・抗ウイルスペプチドを刺激し、感染予防に働く可能性があると言われていた。ビタミンD補給が急性上気道感染症のリスクを減らせるか、といったRCTが多数されており、現在までに5つの集計データメタアナリシスが実施されている。そのうち2つは統計学的に有意な効果を報告し、3つは有意な効果を報告しなかったこれら5つの試験のうち4つで、統計的に有意な異質性があると報告している。COPD患者の中でもビタミンDのベースラインが低い患者については補給による利益は大きく、また年齢やBMIなどはビタミンD補給による25-ヒドロキシビタミンDの応答に影響すると言われている。今回、この異質性を説明する要因を特定するために、ビタミンD補給による急性呼吸器感染症予防に関する25のRCTすべてにおいて、個々の参加者データのメタアナリシスを行った。

Method
 デザイン:ランダム化比較試験からの個々の参加者データのシステマティックレビュー、およびメタアナリシス
 データソース:Medline, Embase, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, Web of Science, ClinicalTrials.gov, the International Standard Randp,osed Controlled Trials Number registry
 試験選考のための基準:ランダム化、二重盲検、プラセボ比較によるビタミンD3あるいはビタミンD2補給の試験であり、倫理委員会に承認されており、急性上気道感染症の発生率に関するデータが前向きに収集されているもの。

Results
 25のRCT(計11321名の参加者、0歳から95歳まで)が同定された。参加者データは10933名(96.6%)で得られた。ビタミンD補給により、全ての参加者の急性呼吸器感染証のリスクを減らした(調整オッズ比0.88、95%信頼区間0.81-0.96、P値<0.001)。サブグループ解析では、追加のボーラス投与なしで、毎日あるいは毎週ビタミンDを摂取した者に保護効果が認められた(調整オッズ比0.81、0.72-0.91)が、1回以上のボーラス用量を受けた者では効果が見られなかった(調整オッズ比0.97、0.86-1.10、P値=0.05)。毎日あるいは毎週ビタミンDを摂取した者のうち、保護効果がより強かったのはベースラインの25-ヒドロキシビタミンDレベル<25nmol/L(調整オッズ比0.30、0.17-0.53)であり、25-ヒドロキシビタミンDレベル≧25nmol/L(調整オッズ比0.75、0.60-0.95、P値=0.006)より高かった。ビタミンD摂取による有害事象の発生率には差がなかった(調整オッズ比0.98、0.80-1.20、P=0.83)。 結論:ビタミンD補給は安全に実施でき、急性呼吸器感染症に対する保護作用は全体に認められた。中でも、ビタミンD欠乏が強い者、ボーラス投与を受けていない者が最も利益を受けていた。 中島先生図1

中島先生図2

【開催日】
 2017年3月22日(水)

プライマリ・ケアでの家族性高コレステロール血症のスクリーニング

-文献名-
David S. Wald, et al. Child–Parent Familial Hypercholesterolemia Screening in Primary Care.N Engl J Med 2016;375:1628-37.

-要約-
押見先生の本(www.amazon.co.jp/dp/4758309604)にあった10のステップに沿ってみます。

Step1:結論を類推しながらタイトルを確認する
スクリーニングの推奨についての論文だろう

Step2:研究規模を知るために研究グループ名と著者の所属機関を確認する
松島先生図1
Wolfson Institute of Preventive Medicine, Barts and The London School of Medicine and Dentistry(http://www.wolfson.qmul.ac.uk/about-us)1991年設立
North East Thames Molecular Genetics Laboratory, Great Ormond Street Hospital(http://www.gosh.nhs.uk/)こども病院
どちらもイギリス、ロンドン

Step3:結論の真髄を見る(conclusion)
Child–parent screening was feasible in primary care practices at routine child immunization visits.
 プライマリ・ケア医をワクチンで受診したときにスクリーニングは可能
For every 1000 children screened, 8 persons (4 children and 4 parents) were identified as having positive screening results for familial hypercholesterolemia and were consequently at high risk for cardiovascular disease.
 1000人の子をスクリーニングして、4人の子と4人の親がFHと診断された。

Step4:Backgroundを見て研究の新規性・独自性を確認する
・What is known?
 FHは常染色体優性遺伝の疾患で、1000人に2人の頻度(BMJ2007より)。2007年のBMJのメタアナリシスで、FHのPopulation-Based child-parent screeningが提案されている。1-9歳児でコレステロールを測定し、高コレステロール血症があった場合に両親も測定する。20-39歳のFH患者は、同世代の健常者の100倍心血管イベントを起こしやすい。両親と、思春期になった子にはスタチンが勧められる。
 FHの診断は遺伝子検査で行うが、全ての遺伝子変異が同定されているわけではない。またFH変異があってもコレステロール値が高くない場合もある。以前のメタアナリシスの見積もりでは、総コレステロール(T-Chol)のカットオフは中央値の1.53倍(multiples of the median;MoM)≒99.9パーセンタイルで、1〜9歳児のFH患者を88%拾い上げられる
・What is unknown, Purpose of the study
 We assessed the efficacy and feasibility of such screening in primary care practice.

Step5:Methodsから研究方法を同定し、PICOを用いて仮説を検証する
・エビデンスピラミッドのどこに位置するのか
 診断の有益性を見る、横断研究?
・PICOは?
 なし

<Methods>
 2012年3月〜2015年3月 イギリスの92箇所のgeneral medical practicesでおよそ13か月で子供の予防接種で来院した時に、親にスクリーニングを受けるか確認
13097児の親のうち11010児の親(84%)が同意した。
 予防接種の時に、heel-stick capillary blood sampleを採取し、コレステロール値の測定とFH変異の有無を確認した。良好な検体は10118児で得られた。T-Chol, HDL, TGはthe Cholestech LDX point-of-care analyzer (Alere)で測定された。
coefficients of variation(変動係数)、、、
 LDLはthe Friedewald equationで計算。最終的に10095児が解析された。
 計測されたFH変異は、FH48という48種類のもの、c.10580G→A (p.Arg3527Gln) mutation in APOB、c.1120G→T (p.Asp374Tyr) mutation in PCSK9
 DNAはthe QuickGene-810 (AutoGen)で抽出されTaqMan single-nucleotide polymorphism (SNP) genotyping (Life Technologies) on the Fluidigm Biomark platformで測定された。FH48はないがTCが高値(230mg/dl以上)のものはthe BigDye Terminator, v. 3.1, Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いてSanger sequencing of LDLR (all exons, boundary and promoter regions), APOB (exon 26), and PCSK9 (exon 7)を調べた。それでも異常がない場合は、3か月以降経ってから再度コレステロール値を調べた。

 高コレステロールがありFH変異があるか、3か月以降に再度高かった場合をスクリーニング陽性とする。その親も同じ変異をもてば陽性とする。変異がない場合、両親のうち高コレステロールな方をスクリーニング陽性者とする。

Step6:比、信頼区間、P値を確認して結果を評価する
松島先生図2
(私見)
・心筋梗塞の家族歴がある率が、日本での実感と比べてかなり高い。
・母親の年齢の中央値が31歳、父親が34歳、英国も晩婚化しているのか。

松島先生図3
 FH+は全員ヘテロ型だった

松島先生図4
 FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)

松島先生図5
 FHと診断された親はスタチン内服を開始した。
 診断についてネガティブな印象を持った親はいなかった。予防接種の妨げになることもなかった。

Step7:考察部分からパラグラフリーディングスキルを用いて結果の解釈と限界を同定する

・Summary of Main Findings
・Interpretation
 コレステロール値が高くない児でも遺伝子検査をおこなったことでわかったこと
  FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)
  同じ変異を持っていてもコレステロール値には幅がある→高コレステロール血症の発言には他の因子が重要
   →ホモ型とヘテロ型の違い
   →家族性高コレステロール血症の定義自体が難しい:変異を重要視するのか、コレステロール値を重要視するのか
 その解決法として提案しているのは、FHを早発冠動脈疾患のリスク要因として捉えること。
 (例えばBRCA1の変異は、疾患でなく、乳がんや卵巣癌のリスクとして捉えられている)
 Figure4に示すpopulation-based screening policyによって、偶然の高コレステロール血症を除外でき、
 未知の変異も含んだ高コレステロール血症を拾い上げ、冠動脈疾患リスクを下げることができる。
・Generalizability
 この研究では全員に遺伝子検査を行ったが、実際は限られた人(1.35MoMの高コレステロール血症の人)しか適応にならない。
 Reflex DNA testing(http://www.lmsalpha.com/features/ReflexDNA)が出来れば、広まるかもしれない
・Conclusions
 このやり方が導入されるかどうかは不明だが、有用である。

Step8:Editorial(編集後記)を使って研究領域での論文の価値を同定する
 両親世代は健診や医療機関受診が最も少ない時期なので、このchild-parentスクリーニングはよい機会になるかも。小児期(10歳)からスタチン治療することで、冠動脈疾患リスクを正常人と同等まで減らせるかもしれない。
 これまで行われているCascade screeningでは、高度の高コレステロール血症のある成人を機転に、家族にスクリーニングをかけていく方法で、コストパフォーマンスはよいが、すでに動脈硬化が進行していることも多い。Universal screeningが求められる。Pediatrics 2011にあったExpert panelの発表では、9-11歳と17-21歳でのスクリーニングを推奨しているが、より早い時期に行うことで漏れを少なくしたり早期からの生活指導や治療を始めることができる。

Step9:Correspondenceを使って関連する研究を評価する

Step10:Conference reportを使って論文が社会に与える影響を考える

【開催日】
2017年3月15日(水)

【EBMの学び】単純ヘルペスに対する早期高用量短期間パラシクロピル療法

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2017年2月1日
【臨床状況のサマリー】
 1年に10回程度、臀部の単純疱疹を繰り返している75歳女性。2週間前にも臀部ヘルペスを発症し、バルトレックス1000mg/day 分2 5日間の内服加療を行った。再び水疱が出現したため受診。臀部には水疱2つあり。
 これまでは毎回バルトレックス1000mg/day 分2 5日間で治療されている。
 既往:慢性C型肝炎抗ウイルス療法後、3日前に肺腺癌疑いと告知

  P;単純疱疹を繰り返している高齢女性において
  I(E);バルトレックスの内服加療 は
  C;経過観察 or 外用薬加療 と比較して
  O:皮疹の治癒を早めるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
 検索したエンジン;UpToDate®
 Treatment of herpes simplex virus type 1 infection in immunocompetent patients
【見つけた論文】
Spotswood LS, et al. High-dose, short-duration, early valacyclovir therapy for episodic treatment of cold sores: results of two randomized placebo-controlled, multicenter studies. Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Mar. 2003, p1072–1080.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;12歳以上の、1年に3回以上口唇ヘルペスを繰り返している患者において
 I(E);早期にvalacyclovir <a: 2g/day 1日間>または<b: 2g/day 1日間+1g/day 1日間>で加療した群は
 C;プラセボを内服した群 と比較して
 O;皮疹の消失が早まったか / 皮疹の出現を予防・抑制できたか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →人種・性別の割合は同等。年齢・再発頻度の中央値は同等。しかしリスク因子に関しては全く不明。除外基準は、HIV感染などの免疫低下宿主、
  腎障害。担癌患者などは不明。
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】1-day therapy / 2-day therapy
皮疹の消失が早まったか:study1: 0.001 / 0.009 study2:  皮疹の出現を予防できたか:study1: 0.096 / 0.061 study2:

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
・皮疹の消失が早まったか(有意差あり)
  study1: -1.0日(median)、-1.1日(mean) /-0.5日(median)、-0.7日(mean)
  study2: -0.5日(median)、-1.0日(mean) /-0.5日(median)、-0.8日(mean)
 ただし、皮疹消失の時期がわからなかった症例は「15.0日」で計算されている。皮疹消失の時期がわからなかった症例が、各群で何人いたかは示されていない。
・皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 6.4%(-1.8 to 14.5) / 8.5%(0.2 to 16.7)
  study2: 8.0%(-0.1 to 16.0) / 8.0%(0.3 to 15.8)
・ORを確認する:皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 1.32(0.95 to 1.84) / 1.38(0.98 to 1.94)
  study2: 1.39(0.99 to 1.95) / 1.41(1.02 to 1.94)
・ARR(NNT)を計算する皮疹の出現を予防できたか(有意差なし)
  study1: 0.064(16) / 0.085%(12)
  study2: 0.08(13) / 0.08%(13)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ②の()に記載

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 担癌患者であること、75歳であり対象の中でも最高齢クラスであること、すでに水疱を形成していること、臀部ヘルペスはHSV-1でない可能性があることから、結果は適応できない。

・内的妥当性の問題点は?
 Subjectの詳細(リスク因子など)が不明であること、resultの治癒期間の算定方法に疑問が残ることから、アウトカムの有意差は鵜呑みにはできない。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 帯状疱疹なら可能な投薬量。投薬期間は問題ない。
 ただし、前駆症状の段階での受診は稀であり、治療開始のタイミングは実現困難。
 論文のように、前駆症状がある患者に事前に渡しておくことは可能。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 Subjectの詳細が不明であること、resultの治癒期間の算定方法に疑問が残ることから、アウトカムの有意差は鵜呑みにはできない。
 また、副作用として、頭痛が倍増しているのは確か。
 コスト:1錠188.8~405.6円。1-day: 755.2~1622.4円。2-day: 1132.8~2433.6円。

【④使う者の経験の視点】
・これまでのその治療に対する経験はどうか?:
  外用でも効いている印象。初めて内服を試してみたが、確かに水疱まではできなかった。ただ内服しなかったらどうだったかはわからないので、
 なんとも言えない(自分のケース)。
・自分の熟達度から実行は可能だろうか?:処方自体は可能

【⑤患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 痛みや痒み、不快感などの症状はなかった。肺癌の精査が10日後に迫っており、それに影響が出ないか心配されていた。精査には影響がないこと、内服薬は不要であることを説明すると納得された。外用薬のみ処方した。

【開催日】
2017年2月8日(水)

【EBMの学び】急性下痢症に対する整腸剤の効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年12月23日
【臨床状況のサマリー】
 11歳、男児。
 受診1日前から腹痛を自覚し、その後複数回の下痢あり。
 便の性状は水様性で、血便や黒色便はない。その他、悪心・嘔吐・発熱などの随伴症状はなし。
 周囲流行歴はなく、生ものなどの食事摂取はない。
 胃腸炎と診断し、整腸剤を処方する旨を伝えたところ、同伴した母親から「これ(整腸剤)を飲むと、下痢はすぐ良くなりますか?」「ヨーグルトも効果ありますか?」と質問があった。

  P;小児の急性胃腸炎に対し
  I(E);整腸剤を処方した場合 / 乳製品を摂取したときと
  C;内服しない / 摂取しないときと比較して
  O:下痢症状の期間短縮につながるか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Probiotics for treatment of acute diarrhoea in children randomised clinical trial of five different preparations

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;小児(3-36ヶ月)の急性下痢症において
 I(E);5種類の整腸剤を追加した群と
 C;経口補液療法(ORT)のみの群を比べ
 O;下痢の期間や排便回数が縮小するか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない 
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明 )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
ひろむ先生図①

ひろむ先生図②

ひろむ先生図③

ひろむ先生図④

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
※P値で有意差が出たものについて計算
→治療効果は計算できない

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
→①参照

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 除外基準である栄養失調や重篤な脱水、併存する感染症(髄膜炎、肺炎、sepsis)、免疫不全、食物アレルギー、研究開始3週以内の抗菌薬や止痢剤の使用等はない。
 但し、症例は11歳という学童期で、研究では3か月~3歳といった乳幼児が対象であり、対象年齢から外れている。学童期と乳幼児期の急性下痢症における発症経過や臨床経過、治癒過程などについての差異をはっきりとさせることができなかったため、この点において本症例への適応が可能かは不明である。

・内的妥当性の問題点は?
 研究はランダム化、隠蔽化、盲検化されている。割付された6つの群の特徴が記載されており、比較がなされている。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
ひろむ先生図⑤

 上記表はある診療所での整腸剤の採用薬だが、どの整腸剤も6円前後であり、内服期間も短期間で内服管理は親が行うことが予想され、内服は実行可能と考えられる。
 投薬量については、整腸剤の菌種の表記が
  日本:製剤1錠/1g中に〇〇菌△mg含まれている
  海外:〇〇菌が10△CFU/dose(twice daily)
といったように記載に相違点があり、投薬量の換算は困難である。
 Group5は4種類の菌種が含まれているので、複数の菌種により今回の結果が出たのか、または複数の菌種のうちどれが効果を発揮したのかは不明である。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 整腸剤の副作用に関しての評価はなかった。

【④使う者の経験の視点】
 胃腸炎に対して確固たる意味合いをもって整腸剤を処方していなかったと思しきところがある。しかし、整腸剤の菌種によっては、一般的に5日前後続く下痢の症状が、整腸剤を内服することで3日程度に期間を短縮できる可能性があると積極的に説明し処方することが出来そうだと考える。
 実臨床ではミヤBMを処方する傾向があり、今回の論文では酪酸菌は対象となっていなかったため、今後さらに検索する余地がありそう。

【⑤患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患児は小学校に通学中。内服期間も数日であり、通学中の昼分の内服程度であれば自己管理も可能そう。下痢というつらい症状を早く治したいという希望があり、処方しない根拠になるだけの根拠は無いのではと感じた。
 また「ヨーグルトも効果ありますか?」の問いに対しては、数多あるヨーグルト製品の中から、今回の論文でGroup2と5で使用された菌種を用いている下記のヨーグルトを参照に、お勧めできるかもしれない。(但し、菌株が異なるので、厳密に研究で使用された菌と同じかと言われると断言はできないと考えられる。)
ひろむ先生図⑥

※ビオフェルミン「錠」「散」について
 →剤型が異なると使用されている菌種が異なる別の薬になる。
  ただ、どちらも腸内細菌のバランスにおいて善玉菌である「ビフィズス菌」を優位にするという目的は一緒で、明確な使い分けの基準はない。

 

【開催日】
2017年1月11日(水)

肺炎の経過についての記述研究

―文献名―
Jolien Teepe, Berna DL Broekbuizen, Katberine Lens et al. Disease Course of Lower Respiratory Tract Infection With a Bacterial Cause. Ann Fam Med 2016; 14 (6): 534-539.

―要約―
目的:
 • 細菌感染に由来する咳と、それ以外の咳の経過は異なると思われるが、先行文献は乏しい。
 • プライマリ・ケアの現場では通常細菌検査は行われず、臨床的な判断のもとで加療が行われる。現場の医師は重症化する細菌性の咳を見落としたく
  ないがため、症状が強い場合に抗菌薬を処方することがある。しかし、こうした対応では副作用の発症、耐性菌の出現を招いてしまう。
 • 抗菌薬による治療を受けなかった場合の細菌性の下気道感染(Lower Respiratory Tract Infection: LRTI)の経過の経過が明らかになれば、
  初期対応として注意深く経過をみたり、患者の治療経過を予測することができるようになると考えられる。よって本研究では、成人における
  急性発症の咳について、細菌性LRTIの経過について調べた。

方法:
研究デザインと研究対象者

 • プライマリ・ケアの現場から取得された発現から28日以下の急性発症の咳を伴う成人2,061人のデータ(ヨーロッパの多施設研究GRACE-10 study
  の二次利用)を用いた。この研究では被験者らはアモキシシリン群とプラセボ群にランダムに割り付けられていたが、今回の解析には疾病の自然
  経過を反映しているプラセボ群(1,021名)のみを用いた。聴診により明らかに肺炎が疑われる患者(局所的なラ音・気管支音)、全身所見が強い
  患者(高熱、嘔吐、重度の下痢)、妊娠している患者、ペニシリンにアレルギーがある患者、前月に抗菌薬治療を受けている患者、免疫不全の
  患者は除外した。
評価項目
 • 症状)4段階のLikert scaleによって以下の症状を記録した:咳、痰、息切れ、喘鳴、鼻汁、発熱、共通、筋肉痛、頭痛、睡眠障害、具合の悪さ、
  日常生活や仕事の障害、意識障害、下痢。
 • 検体)初診日に痰と鼻咽頭の培養を取得した。細菌検査とウイルス学的検査を実施した。
 • 胸部X線)初診から7日以内、できれば3日以内に取得した。
細菌感染の定義
 • S. Pneumoniae, H. influenza, M. Pneumoniae, B. pertussiss, L. Pneumoniae が気道検体から検出された場合、あるいは血清学的に
  証明された場合に、細菌感染ありと定義した。
抗菌薬の使用
 • 医師の判断で、必要な場合は適切な抗菌薬投与が行われた。
アウトカム指標
 • 初診から「症状がよくない」と評価された期間、診療から2日目から4日目の重症度、疾病増悪による再診、初診から4週以内に入院が必要となった
  際の新しい症状および所見、寛解までの期間、日常的な活動や仕事に支障があった期間。

統計解析:
 • 重症度(線形回帰)、期間(Cox回帰)、再診(ロジスティック回帰)を解析。多変量解析の際は調整因子を以下のように定めた:年齢、喫煙、
  併存疾病(肺・心・糖尿病)、受診までの咳の期間。

結果:
 • 対象者は834名で、細菌性LRTIは162名(19%)に認められた。
 • 起炎菌はS. Pneumoniae, H. influenza(いずれも34.7%)が多かった。
 • 細菌性LRTIの患者には喫煙者が多く(33% vs 24%)、咳の期間が長く(9日 vs 8日)、初診時の患者の訴える重症度が高く(34 vs 30)、
  レントゲン上の所見が多かった(6% vs 3%)。
 • 62名(7%)の患者に、初診から10日以内に5日以上の抗菌薬使用が認められた。これらの患者は医師の評価する重症度が高かったが(36 vs 31)、
  年齢や併存疾患は非使用群と差はなかった。
 • 細菌性LRTI患者は2日目から4日目にかけて患者の訴える重症度が有意に高く、症状の増悪のため再診する割合も有意に高かった。
 • X線上肺炎像が認められる患者を除外しても、結果は変わらなかった。
 • 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群にそれぞれ1名ずつの入院があった。死亡例はなかった。
 • 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群では、「症状がよくない」状態について経過に有意な差は認めなかった。
 • 抗菌薬使用者を除外した解析では、症状増悪のための再診が細菌性LRTI群で多かった(23% vs 16%, OR=1.67, 95%CI 1.06-2.63, P=.029)。
 • S. Pneumonia 感染者を除外した解析と、H. influenza 感染者を除外した解析について、それぞれにおいて特に結果は変わらなかった。

考察:
結論

 • 急性の細菌性LTRIはそうでないものよりも症状経過がやや悪いことが明らかになったが、この相違の意義は乏しい。
限界
 • この研究では、非常に重篤で即時紹介された患者は含まれていないので、研究結果は重症患者へ一般化することはできない。
 • 細菌がcolonizationしていた事例も細菌性LRTIに分類された可能性がある。ただし、S. Pneumoniae, H. influenzaは健常者で最大10%ほど
  colonazationが認められる程度である。COPD患者に, H. influenza のcolonazationが多いが、この研究では5%しか該当しない。
実臨床への意義
 • 細菌性LRTIは非細菌性LRTIと経過は変わらない。継承例は細菌性だとしてもself-limitingであるため、watchful waitingの戦略が検討の
  余地がある。

【開催日】
 2016年12月21日(水)