慢性肝炎の肝細胞スクリーニング システマチックレビュー

―文献名―
Devan Kansagara, MD et al. Screening for Hepatocellular Carcinoma in Chronic Liver Disease A Systematic Review

―要約―
【Background】
ガイドラインではハイリスク患者の肝細胞癌の定期的なスクリーニングを推奨しているが、そのエビデンスレベルは不透明である。

【Purpose】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングついての有益性と有害性についてレビューすること。

【Data Sources】
MEDLINE, PsycINFO, and ClinicalTrials.gov に関しては検索可能な時期から2014年4月まで
Cochrane databasesに関しては検索可能な時期から2013年6月まで

【Study Selection】 
英語の研究で観察研究、スクリーニング群と非スクリーニング群の比較研究、有害事象の研究、スクリーニングの間隔に関する比較研究

【Data Extraction】
最も重視したものは死亡と有害事象である。
個々の研究の質とエビデンスの強さをパブリッシュされているクライテリア(文献16参照)を用いて2人でレビューした。

【Data Synthesis】
13,801から22の研究がinclusionされた。
総じてスクリーニングの効果におけるエビデンスは非常に低かった。
一つの大規模研究で定期的な超音波スクリーニングにおけるHCC死亡率が低い結果であった。 (83.2 vs. 131.5 per 100,000 person-years ;rate ratio, 0.63 [95% CI, 0.41 to 0.98]) しかし、この研究では方法論的限界があった。(baseline characteristicsが不透明、ランダム化作業が不透明、死亡のみがアウトカムであり追跡率に差があるなどの問題あり)
他の研究ではB型肝炎患者の定期的なAFP検査で生存に関する有益性は認めなかった。全死亡/100人年が1.84 vs 1.79 (P=NS)であった。
18個の観察研究ではHCCの診断に至った段階でスクリーニングされていた患者群では、臨床的に診断された群よりも早期のステージであった。しかし、リードタイム・バイアス、レングスタイム・バイアスが交絡していた。
2つのスクリーニングの間隔に関する研究では、短い間隔(3~4か月)と長い間隔(6~12か月)で生存率に差が出なかった。
有害事象に関しては良質な研究がなかった。(確証的検査であるCT、MRI、肝生検のリスクを扱ったものはあった。)

【Limitations】 
英語研究のみであったこと。このエビデンスは方法論的な問題と研究数が少ないことで研究限界があった。

【Conclusion】
慢性肝炎患者のHCCスクリーニングによる死亡率に対する効果は非常に弱いエビデンスしかなかった。
スクリーニングは早期肝細胞癌を同定できる可能性はあるが、現段階では臨床的な診断よりもシステム化されたスクリーニングが生存の上で有利かどうかは定かではない。

<参考①>
(lead time bias)
検診発見がんと外来発見がんとの間で生存率を比較する際に問題となる偏り。がんの発生から死亡までの時間が検診発見群と外来発見群の両群で等しい(すなわち検診の効果がない)場合でも、検診で早期診断された時間の分(リードタイム)だけ、検診発見がん患者の生存時間は見かけ上長いことになり、したがって見かけ上の生存率も上がることになるという偏り。生存期間の始点が早期発見の分だけずれるという意味から、ゼロタイム・シフトとも呼ばれる。

(length time bias)
 スクリーニングで診断される疾患は、通常の診療で診断される場合よりも緩徐に進行する病変が多いかもしれない。というのも、進行が速い病変はスクリーニング受ける間もなく、症状が顕在化し受診して病変を発見されることになる。緩徐進行性の病変は長く体内に病変が存在しているのでスクリーニングで発見されやすい。スクリーニングが実際よりも有効であるように見えてしまう。

<参考②>
AASLD米国肝臓病学会ガイドライン
recommendation…半年ごとの腹部エコー(1年毎ではなく)
   期間として3カ月と6か月でどう違うか?
   局所病変の検出に差なし
10㎜以下の病変の検出率は3カ月で有利だが、
HCC発生累積数、代償不全、肝移植、生存率に関して差なし
not recommend…
腹部エコーとAFPの組み合わせ(コスト高と疑陽性↑)
   AFP単独(感度、特異度が低い)
   CT(疑陽性↑、コスト高、放射線量の問題)

<日本癌治療学会> http://jsco-cpg.jp/item/02/intro_03.html

【開催日】
2014年10月15日(水)

診療所での弁膜症評価

―文献名―
Yukio Abe, MD, Makoto Ito, MD, Chiharu Tanaka, M.  A novel  and simple method using pocket-sized echocardiography to screen for aorticstenosis.  J Am Soc Echocardiogr. 2013;26: 589-596

―要約―
【背景】
大動脈弁狭窄症(以下、AS)は最もありふれた弁膜症であり、加齢変性による石灰化が現代のASの一番の要因となっている。ASは通常、収縮期駆出性雑音(以下、SEM)を機に発見される。50歳以上の50%近くにSEMを聴取することから、すべての人に最上位機種の心臓エコー検査を行うことは時間もかかり、経済的負担にもなる。そこで重大なASを発見するための簡便な方法が必要とされている。
 ポケットエコーでの心臓エコー検査はその一つに位置づけられるかもしれない。この研究ではポケットエコーをASのスクリーニングに使用する価値についての評価する目的で行われた。

【方法】
継続診療を受ける20歳以上の2度以上のSEMか既知のAS患者147名を集め、大阪市立総合病院で心臓エコー検査を行った。経験豊富な循環器内科医による身体所見ののち、熟達した技師によるポケットエコーで大動脈弁の解放を視覚的にスコア化した(0=制限なし、1=制限あり、2=重度に制限)。その合計値をVisual AS scoreと定義した。最上位機種での心臓エコー検査結果に基づき、大動脈弁高面積指標(Aortic Valve Area Index以下、AVAI)が0.6cm2/m2と0.6~0.85 cm2/m2 をそれぞれ重度ASと中等度ASを示すものとみなした。

【結果】
147名のなかで51名がASの診断を受けており、51名が何らかの症状を有していた。検査困難だったり、他の弁膜症性疾患による雑音だったものなどを除外し、130名の患者が残った。そのうち55名が男性で、平均年齢は74±10歳だった。重度ASと診断されたのは27名で、中等度ASと診断されたのは30名だった。
Visual AS scoreとAVAIとは強い関連が見られた(R=-0.89, P<.0001 ; Figure2)。重度ASを診断するうえで頸動脈へのSEMの放散とSEMのピークが後方にずれることと頸動脈波の緩徐な立ち上がりが最も高い感度(93%;95%CI; 76%-99%)を示し、Ⅱ音の消失が最も特異度が高かった(94%; 95%CI;88-98%)。Visual AS scoreが4点以上をカットオフとすると重度ASを診断するうえで感度85%、特異度89%だった。中等度~重度ASと診断するうえでは頸動脈への放散が最も感度が高く(91 %;95%CI;81%-97%)、頸動脈波の振動が最も特異度が高かった(99%;95%CI;93%-100%)。Visual AS score3点以上をカットオフとすると感度は84%、特異度は90%となった。 ポケットエコーでのVisual AS scoreの観察者間の再検査信頼性はκ値が0.78と評価された。ポケットエコーを用いた評価では125±39秒を要した。 【結論】  今回、私たちが提唱するVisual AS scoreは、重要なASの存在を判断するうえで熟達した身体所見と同等の正確さが認められた。Visual AS score3点未満では中等度から重度ASの否定につながり、4点以上では重度ASの確定に役立つ。ポケットエコーはASの素早い診断につながり、数多くのSEMを認める患者に対してさらなる精査を行うかどうかの判断を手助けしてくれるだろう。 【開催日】 2014年10月8日(水)

医師の服装の重要性

―文献名―
Hiroshi Kurihara,  Takami Maeno, and Tetsuhiro Maeno.Importance of physicians’ attire: factors influencing the impression it makes on patients, a cross-sectional study.Asia Pac Fam Med. 2014; 13(1): 2.Published online Jan 8, 2014. doi:  10.1186/1447-056X-13-2

―要約―
【目的 】
患者さんに信頼感を抱かせる医師の服装の重要性を、患者像・好み・服装が印象に影響を与える要素を通して明らかにする。

【方法】
自己記入する質問票を、日本内の5か所の薬局において20歳以上の患者さんまたは介護者に配布し実施。調査は2日間連続で各薬局で行った。医師に対する信頼感を見積もるために、6項目、すなわち医師の服装・発言(話し方・音量・トーンなど)・年齢・性別・肩書き(教授・PhDなど)・評判を質問した。そして参加者に、男女の医師における5つの異なるタイプの服装(白衣・スクラブ・semiformal・smart casual・casual)の写真を提示し、5点のリッカートスケールを用いて各服装の妥当性を質問された。

【結果】
薬局へ来た1,411人の患者さんまたは介護者のうち、530人が質問に回答し、491人が全てに解答しその後の分析に利用された。発言は医師への信頼感を決定する最も重要な因子(平均点 4.60)であり、評判(4.06)・服装(4.00)がそれに続いた。
服装に関しては、医師の性別に関わらず、白衣は最も妥当なスタイルと判断され、スクラブがそれに続いた。スクラブに対する好みのみが年齢・性別・地域に有意に影響された(P<0.05)。二項ロジスティック回帰分析を用いて、我々はスクラブの妥当性の高低における年齢の影響を評価した(高:スケール 3-5点, 低 1-2点)。20-34歳と比較し50-64歳と65歳以上の年齢でスクラブが妥当でないと答えた人が優位に多かった(調整オッズ比:男性医師 4.30と12.7, 女性医師 3.66と6.91)。

【考察】
服装は医師に対する患者さんの信頼感を抱かせる重要な因子の一つである。白衣は医師にとって最も妥当な服装と考えられ、スクラブがそれに続く。しかし、年齢層の高い方は、低い方と比較してスクラブはより妥当でないと感じる傾向にある。

【開催日】
2014年10月8日(水)

家庭医はDVとどう対峙するか

―文献名―
O’Doherty LJ1, Taft A, Hegarty K, Ramsay J.Screening women for intimate partner violence in healthcare settings: abridged Cochrane systematic review and meta-analysis.BMJ 2014;348:g2913  PMID:24821132

―要約―
1)目的
医療機関のセッティングでパートナーからの暴力についてスクリーニングすることの効果を検証する事で、その意義を高め、女性の幸福に寄与し、今以上の暴力や害悪の原因を減少させるため

2)研究デザイン
スクリーニングの有用性を評価するためにシステマティックレビューおよびメタ分析を行なった。研究評価、データの抽出、質的評価は著者ら二人が独立して行なった。リスク比および95%信頼区間の設定については標準化された方式を用いて求めた。

3)データ
2012年7月までに、9つのデータベース(CENTRAL, Medline, Medline(R), Embase, DARE, CINAHL, PsycINFO, Sociological Abstracts, ASSIA)で検索され、2010年までに5つのトライアルが登録された

4)研究の選択における加入クライテリア
医療機関において16歳以上の全ての女性に対して、パートナーからの暴力を受けているかのスクリーニングプログラムがあることが、ランダム化もしくは準ランダム化試験が組み入れ基準である。スクリーニングだけを目的として介入したものと、普段のケア(スクリーニングをしない)との比較した研究だけを選定し、権利擁護や治療的介入のような構造的な介入を目的としたスクリーニングプログラムは除外した。

5)結果

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11のトライアル(n=13027)が同定され組み入れられた。(figure1)
6つの研究(n=3564)のメタ分析では、パートナーからの暴力を同定する割合が(通常のスクリーニングを行なわないケアに比して)上昇した(リスク比2.33、95%信頼区間1.39~3.89)。(figure2)とりわけ、出産前においては、リスク比4.26、95%信頼区間1.76~10.31となっていた。

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3つの研究(n=1400)のメタ分析では、スクリーニングプログラムは、DVの専門機関への紹介につながるエビデンスがないことが証明された。(リスク比2.67、95%信頼区間0.99~7.20)。(figure3)

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2つの研究だけのメタ分析では、スクリーニング後(3~18ヶ月)の暴力の経験を調査しているが、パートナーからの暴力は減っていない事を証明した。1つの研究から、スクリーニングに害悪はないと報告があった。

6)結論
医療機関におけるスクリーニングによりパートナーからの暴力が同定されるケースは増えているが、こうした暴力の潜在的な確率と比較すると、まだ低い状態である。また、スクリーニングが、効果的な専門家への紹介につながっているかどうかは不明である。短期間では、スクリーニングは、害悪がないとされているが、医療機関でスクリーニングを行なう上では十分なエビデンスはない。女性の長い期間の幸福において、スクリーニング法と、事例発見法、治療的介入を織り交ぜたスクリーニング法の有用性を比較する研究が必要である事を、医療機関におけるDV発見政策を施行しようとする政府に知らしめなければならない。

【開催日】
2014年10月1日(水)

子どもの運動はどの時期にどのようなことをしたらよいのか?

―文献名―
智原江美:幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方. 京都光華女子大学短期大学部研究紀要 49, 7-17, 2011-12

―要約―
はじめに
 近年、子どもの体力・運動能力は著しく低下しているといわれている。大人にとって便利になった社会環境の変化は子どもが環境に対応する機会や動きを習得する機会をことごとく奪ってしまっている。このような子どもを取り巻く環境の変化の中で、子どもにはどのような遊びや動きを経験させることが望ましいのであろうか。

子どもの体力・運動能力の現状
 愛知県での調査および神奈川県教育委員会による報告書のデータがある。これを用いて幼児の体力・運動能力の変化を概観すると、1969年から1999年の30年間の幼児の体力・運動能力の変化は、一概に低下しているとはいえなかった。特に、体格に関する測定項目である身長は5歳後半男児で1.1cm、体重は1.2kgの増加が見られ、体格が良くなって体格の向上が結果に直接影響するような20m走や、瞬間的に力を発揮すればよいような立ち幅跳び、反復横跳びなどもむしろ向上しているといえる。しかし、苦しい思いをして持久力を測定する懸垂や繰り返し練習をして初めて習得できる動きである投球能力を測定するテニスボール投げなどは大幅な低下傾向が見られた。
 一方、神奈川県教育委員会教育局スポーツ課は1986年、1997年、2002年、2006年の20年間に4回にわたり幼児の運動能力測定を行った。5歳後半男児の測定結果によると、「25m走」では0.25秒、「立ち幅跳び」は約1cm の低下、「テニスボール投げ」と「両足連続跳び越し」はほとんど変化がなく「テニスボール投げ」は高年齢になるほど個人差が大きくなり、記録の二極化傾向が見られる。また「立ち幅跳び」の主要素である「1回動作の強いキック力」は高いが、全力で走るときにはそれをうまく使えておらず、四肢を素早く、力強く、繰り返し動かす「身のこなし」の能力の低下を示している可能性がある。
 これら2 つの報告から考えると、幼児の体力・運動能力のすべてが低下しているとはいえないが、「身のこなしの不器用さ」、「持久力の低下」といった現代の子どもの運動経験がいかに少ないかということが浮き彫りになってくる。

乳幼児期の運動能力の発達
 ガラヒューは運動を発達的な視点からとらえて分類した。ガラヒューが表した「運動発達の段階とステージ」(1999)では、人間の運動は胎児期から1 歳ごろまでは「反射的な運動の段階」、3 歳ごろまでは「初歩的な運動の段階」、10 歳ごろまでは「基本的運動の段階」、10 歳以降は「専門的な運動の段階」とそれぞれのステージを経て発展していくと述べている。
 一方、身体の発達についてみてみると、スキャモンの発育曲線(1930)では身体の各器官、臓器の発育は大別すると四つのパターンに分類される。そのうち運動能力の発達に大きく関わるものは、一般型と神経型であり、特に乳幼児期の特徴として神経系型の発達が非常に顕著である。
 また、ブラウンは「子どもの運動技能発達のピラミッド」(1990)を表し、1~5歳頃までの「基本動作」を習得する段階と、5~7歳頃までの「より複雑な動作への移行」する時期との間には『運動技能熟達の障壁』が存在すると述べている。「基本動作を5歳ごろまでに経験しないと、成長にともなう向上に障壁ができ、新しい『技術』の獲得が困難になる」と警告を発している。また「幼児のうちにさまざまな動きを体験する機会を、親を中心とした周囲の人たちが積極的に与えなければ、潜在的には獲得可能なはずの運動の『技術』が身につきにくくなってしまう」とも述べている。
 このように、3~6歳までの幼児期は、運動発達の過程から見ても非常に重要な時期であり、その環境を整えることも重要である。

幼児期の3つの運動課題
 第1点はさまざまな「体位感覚」を経験することである。体位感覚とは自分の体が現在どのような状態であるかを把握したうえで、どのようにすれば通常の状態に戻ることができるかを考え実行できる能力である。たとえば頭部が腰の位置より下になるような逆立ちの状態から通常の頭部―胴体―脚部といった体位に戻すことができるような逆さ感覚や、マット上での前・後転の際に、また、鉄棒での逆上がりや前転の際に、自分のからだの状態を正確に把握し身体を回転させて通常の状態に体位を戻すことのできる回転感覚といった能力である。これらは体全体に占める頭部の割合が大きいため重心が上部にあり、また、神経系の発達する時期である幼児期に比較的容易に習得することのできる感覚である。これらの逆さ感覚や回転感覚などは器械運動や園庭・公園の固定遊具で遊ぶことで習得しやすい動きである。
 第2点は「歩く・走る」量の確保があげられる。移動の手段を車にたよっている今日の社会において大人も子どもも運動量が格段に減少している。子どもの体をつくるための運動量確保のためにも、日常の活動でできる限り歩いたり走ったりする量の確保が大切である。これは幼稚園や保育園に通う子どもにとっては保育環境の整備や、自然と子どもの活動量が多くなるような興味ある教材の提供が鍵である。
 第3点はいろいろなリズムで動くことの経験である。人間の通常の動きは歩くという2拍子の動作が基本となると考えられるが、例えばスキップやギャロップ、3拍子の動きなどの体全体でさまざまなリズムを体験、表現することがあげられる。これも神経系が達する幼児期がもっとも習得しやすい時期である。
 幼稚園・保育園や家庭における日常の遊びの中で幅広い運動遊びを経験することにより自然に多くの動きを習得することが望ましい。また、運動遊びの中で重要なことは、運動の楽しさを味わい自発的に運動に取り組む意欲が持てるような環境の設定、教材の提供、保育者のかかわりが重要になる。体を動かすことの楽しさや爽快さを経験することが生涯にわたって運動する習慣の基本となるであろう。

【開催日】
2014年9月3日(水)

認知症の人の心理的理解 パーソン・センタード・ケア

―文献名―
大嶋光子,中村真規子 「認知症の人の心理的理解 パーソン・センタード・ケアの一考察」 太成学院大学紀要

―要約―
 認知症の人は何もわからなくなってかえって楽ではないかと思われがちであるが、認知症の本人の語りから、自分が壊れていくようなおびえと不安を抱えて生きていることがわかっている。認知症の治療には①薬物療法、②脳活性化リハビリテーション、③介護者や家族の対応がある。③のように、身近な者による個別性の高い治療ができる可能性があり、その可能性を生かすため、認知症の理解を深め、認知症の人や介護者の尊厳を高めるパーソン・センタード・ケアについて考察を行う。

・認知症の心理的理解の方法
①認知症の人のためのアセスメントツール センター方式
 認知症の人を支えるチームで情報を集約し、お互いの気づきやアイディアをもとに会話しながら「その人を知る」ためのアセスメントツール。
②バリデーション
 たとえケアする側からみて違っていても、認知症のその人にとって現実であることを理解し、訴えや行動を否定しないで、受け入れることから始めるコミュニケーション法。
③精神的ケアの20か条
 室伏が1987年に述べた、老年期に精神障害(神経症、精神病、痴呆)をもつ患者の生活全般をとらえて、共通して心がけるべきケアの原則。
④ブレーンストーミング法を用いた他者理解
 「あなたが認知症になったときに望むケア」をテーマに認知症介護指導者研修の研修生に行われたブレーンストーミング法の実施報告。

・最新の認知症ケア パーソン・センタード・ケア
 最近、認知症の当事者が自らの気持ちや環境について、もしくは望む支援について語り始めている。自らの気持ちに代表されるように「その人らしさ」という言葉が新たな認知症ケアのキーワードになっている。
 英国ブラッドフォード大学認知症研究グループTom Kidwood教授の造語であるパーソンフッド(personhood)に由来。パーソンフッド:「一人の人として、周囲の人と関わりをもち、周囲から受け容れられ、尊重され、本人もそれを実感していること」
そのパーソンフッドを核として、それを維持し、認知症の人の生活の質を高めていくケアのあり方が「パーソン・センタード・ケア」である。
認知症を持つ人には「よい状態」と「よくない状態」がある。

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よい状態の指標があれば、パーソンフッドが保持されていることを示す。
パーソンフッドが損なわれ、認知症の人と介護者の間に悪循環が起こる原因となるものは「悪性の社会心理」と名付けられた。(下表)

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ケアする者はパーソン・センタード・ケアを実践するために、パーソンフッドを損なう悪性の社会心理を改善、排除し、人としてのニーズを満たす積極的な関わりを提供していかなければならない。

【開催日】
2014年9月3日(水)

果物、野菜の消費量と死亡率の関係

―文献名―
Fruit and vegetable consumption and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ. 2014 Jul 29;349:g4490.

―要約―
【背景】
果物や野菜の消費量を増やすと、心血管疾患やがんによる死亡リスクが低下することを示すエビデンスが増えている。しかし、結果は必ずしも一致していない。

【分析対象】
前向きコホート(全ての原因、心血管、癌での果物と野菜の消費量のレベルで死亡のリスクを推定した)

【結果】
16のコホート研究がこのメタ分析に適していた。4.6-26年のフォローアップ期間中、833234人の参加者の中で56423人が死亡(心血管11512人、癌16817人)を含む。果物や野菜の高い消費が全死因の死亡リスクの低さと関連していた。全死因における死亡率のプールハザード比は、1日1盛り(1皿)の果物と野菜の増加で0.95 (95%信頼区間0.92-0.98、P=0.001)、果物だけで0.94(95%信頼区間0.90-0.98、P=0.002)、野菜で0.95(95%信頼区間0.92-0.99、P=0.006)。敷居値は5盛り(5皿)の果物と野菜で、その後は全ての原因の死亡のリスクは下がらなかった。心血管死亡率は有意な逆相関が見られたが(1日に果物と野菜のそれぞれを追加したハザード比は0.96、95%信頼区間0.92-0.99)、一方で癌の死亡リスクは果物や野菜の消費量が高くても関連はなかった。※ 1盛り:野菜77g   果物80g

全死因による平均死亡リスクは、1日の果物や野菜消費量が1皿増えると5%低下し、心血管死のリスクは果物や野菜が1皿増えるごとに4%減少。

【考察・結論】
研究チームは「適切な量の果物や野菜を食べるアドバイスを提案するだけではなく、肥満・運動不足・喫煙・アルコール摂取量の多さががんのリスクに与える悪影響をさらに強調すべきだ」と示唆している。本研究結果は、健康と長寿を促進するために果物や野菜の消費を高める現在の勧告を支持するものである。

【開催日】
2014年8月20日(水)

家族歴の把握

―文献名―
Jon D. Emery, et al. Development and validation of a family history screening questionnaire in Australian primary care. Annals of family medicine. 2014, vol. 12, no. 3, p. 241-249. 

―要約―
【目的】
オーストラリアのプライマリ・ケアにおいて、乳癌、卵巣癌、大腸癌、前立腺癌、メラノーマ、虚血性心疾患、2型糖尿病のリスクが高い人を同定するための家族歴スクリーニング票の効果を実証することを目的とした。

【方法】
オーストラリア、パースにある6つの診療所にて前向きに調査を行った。対象者は、受診したことのある診療所から一通の招待状を受け取り、参加を表明した20~50歳代の526人の患者である。対象者は15項目からなる調査票に記入し、その後、調査票に書かれた内容を知らない遺伝カウンセラーにより参照基準となる3世代の家系情報を聴取される。この家系情報を基準(reference standard)として調査票の診断能について統計解析を行った。 

【結果】
7つの疾患いずれかのリスクが増加するかどうかを調べるためには、9つの質問の組み合わせが以下の診断能を有していた。Area under the receiver operating characteristic curve 84.6%(95%CI  81.2%-88.1%)、感度95%(92%-98%)、特異度54%(48%-60%)。男女別に5-6疾患のいずれかのリスクが増加するか調べるための質問の組み合わせでは、男性;感度92%(84%-99%)、特異度63%(28%-52%)、女性;感度96%(93%-99%)、特異度49%(42%-56%)。陽性予測値は男性;67%(56%-78%)、女性;68%(635-73%)、偽陽性率は男性;9%(0.5%-17%)、女性;9%(3%-15%)であった。

【結論】
家族歴があることで疾患のリスクが高くなる、プライマリ・ケア領域の患者を同定するために、簡単な家族歴スクリーニング票が有効であることがわかった。プライマリ・ケアにおいて個々人に合わせた疾病予防を行っていくための包括的アプローチの一部として活用できるだろう。

【開催日】
2014年8月20日(水)

ルシファー効果とは? ~普通の人がダークサイドへ堕ちるとき~

―文献名―
フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか. TED2008・23:16・Filmed Feb 2008 
著者はアメリカの心理学者で、スタンフォード大学の名誉教授。
 http://www.ted.com/talks/philip_zimbardo_on_the_psychology_of_evil?language=ja
 (内容理解のために、以下のジンバルド氏のインタビューサイトも参考にした。
  ・人が悪魔になる時――アブグレイブ虐待とスタンフォード監獄実験(1)~(2) )

―要約―
<善良な人が悪人に変貌することはいかに簡単かを理解すべきである>
 善悪の境界線は不動で、むこうとこちらには多きな隔たりがあると信じている人が多いが、その境界線は可変性があり、浸透性が存在する。エッシャーの素晴らしいだまし絵は、白に集中すると天使が見えるが、じっくり見ると悪魔が見える。
 神のお気に入りの天使はルシファーであったが、神に従わず権限への究極の抵抗を始め、天国から追放された。そしてルシファーはサタンとなり悪魔となった。いわば悪を保管する場所をつくったのは神である。この「天使から悪魔」の宇宙的変貌の物語には、普通の善良な人間が悪の根源へ変貌する人間性を理解するためのヒントがある。

<個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する>
 「アブグレイブ事件(2004)の非公開写真」や「スタンフォード監獄実験(1972)」からの考察。アブグレイブ事件では普通のアメリカ兵が信じがたいような虐待を行っていた。また自分が過去に行ったスタンフォード監獄実験でも、瓜二つの減少があった。いずれからも立てた仮説は「関わった人は通常は善良な人で、原因は”腐った樽(環境)”」ということであった。決して「環境が正常で、”腐ったリンゴ”のような人間が混ざっていただけ」ということではない。
 アブグレイブ事件では、職務として多数の調査報告を読み、兵士の鑑定人として面会し精神鑑定を行った。そこでわかったことは、関わった兵士は、もともと本来の任務の訓練を受けておらず、虐待の場所が軍事情報の中心地にも関わらず情報が無いまま、周囲の取り調べの上官から「犯罪者の意思を砕け、尋問に備えるために弱らせて、自己制御をはずさせろ」と圧力をかけられ、一線を越えさせられてしまったこと。この複数の状況の力は時に強大で、感情移入や利他主義、道徳性が機能しなくなり、普通の人どころか善良な人までもが悪に手を染めてしまう。ただし、あくまでその状況下のみ。個人の属性帰属ではなく、外部要素にこそ悪に堕ちるシステムが存在する。

<ルシファー効果とは、普通の人にある複数の条件が揃ったときに恐るべき行動を取る仕組み>
 その中で発見した『ルシファー効果』は、善人が悪人に変貌する過程である。
●その悪が”(やむを得ない)強烈な状況の産物”であると証明されると、その状況の中にいる人間の自由な意志や責任能力が減退 [例:アブグレイブでは囚人の暴動が起き、手当たりしだいの拘束が始まり、収容所の人数も定員200名に1000名と看守たちの限界を超えていた]
●同時に強い恐怖やストレスがベースに持続していると意思決定能力と責任能力を喪失 [例:アブグレイブの周囲では砲撃戦が続き、働く兵士は皆、強い恐怖とストレスに晒され、また看守たちは12時間勤務で週7日休日なしの勤務であった]
●そのベースから(通常は制限されている行為が無条件となるように)ある制限が解除(一線を越えることが容認)されると人間性が喪失、情緒的な衰弱状態に転落 [例:犯罪の中核の看守はそうなる前には『精神に異常を来たしたもの、結核の患者、大人と子供が混ざっていて監獄の管理上どうか』と疑義を呈していたが、上官から『ここは戦地だ。自分の任務を果たすため、必要なことは何でもやれ』と命ぜられた。また『収容者の抵抗を打ち砕くために、通常は憲兵に許されていないことを実行する許可を与える』と言明された。]
●この傾向は、無力感を持った(苦痛を受けた)人間が、誰かを支配する(苦痛を与える)人間になるときに顕著
 [例:虐待した看守たちは任務ための特別な訓練を受けていない予備役であり、軍隊の最下層の集団として扱われており、自らも本当の兵士では無いと自覚している。無力感を持っている人間が、誰かを支配する力を握ったとき、その地位に値する人間であると証明するように力を乱用する。]

<悪を予防するための、悪と紙一重の英雄的な精神と想像力>
 予防や対処としては、現状が道徳的に間違っていると周囲と同意形成すること。(悪魔になる人も元々は英雄で)その英雄的な精神や英雄的な想像力を戻してもらう(我にかえる)ことが必要。
 英雄的行為も悪魔的行為と同様で、普通の人の非日常的な行為である。英雄的に振舞うことは、群衆から離れて異なったことをするということで追放のリスクが伴う。アブグレイブの虐待を止めた下等兵も告発後は3年間隠れないといけなかった。英雄は孤立するリスクを減らすため同意形成した複数人集まることが重要。
 状況には力があり、同じ状況が悪意の想像力をかきたて悪の加害者にすることもあれば、英雄的な想像力を刺激し英雄に押し上げることもある。違いは「1.周囲が受け身の時にこそ行動を起こす、2.常に自分中心ではなく社会中心に行動する」こと。

【開催日】
2014年8月13日(水)

高齢者における低い機能的健康リテラシーと死亡率の関連:縦断的コホート研究

―文献名―
Sophie Bostock, Andrew Steptoe, Association between low functional health literacy and ortality in older adults: longitudinal cohort study, BMJ, 2012;344:e162

―要約―
Objective 
 To investigate the association between low functional health literacy (ability to read and understand basic health related information) and mortality in older adults.

Design 
 Population based longitudinal cohort study based on a stratified random sample of households.

Setting
 England.

Participants
 7857 adults aged 52 or more who participated in the second wave (2004-5) of the English Longitudinal Study of Ageing and survived more than 12 months after interview. Participants completed a brief four item test of functional health literacy, which assessed understanding of written instructions for taking an aspirin tablet.

Main outcome measure
 Time to death, based on all cause mortality through October 2009.

Results
 Health literacy was categorised as high (maximum score, 67.2%), medium (one error, 20.3%), or low (more than one error, 12.5%). During follow-up (mean 5.3 years) 621 deaths occurred: 321 (6.1%) in
the high health literacy category, 143 (9.0%) in the medium category, and 157 (16.0%) in the low category. After adjusting for personal characteristics, socioeconomic position, baseline health, and health behaviours, the hazard ratio for all cause mortality for participants with low health literacy was 1.40 (95% confidence interval 1.15 to 1.72) and with medium health literacy was 1.15 (0.94 to 1.41) compared with participants with high health literacy. Further adjustment for cognitive ability reduced the hazard ratio for low health literacy to 1.26 (1.02 to 1.55).

Conclusions
 A third of older adults in England have difficulties reading and understanding basic health related written information. Poorer understanding is associated with higher mortality. The limited health
literacy capabilities within this population have implications for the design and delivery of health related services for older adults in England.

【開催日】
2014年8月13日(水)