郡部で働く女性家庭医が健全なワークライフバランスを保つ為の戦略とは?

-文献名-
PHILLIPS, Julie, et al. Rural Women Family Physicians: Strategies for Successful Work-Life Balance. The Annals of Family Medicine, 2016, 14.3: 244-251.

-要約-
【目的】
 女性の家庭医は、郡部の診療に携わる際に、ワークライフバランスの維持に困難に直面する。この研究では、郡部の家庭医診療に携わって実績を挙げている女性が、どのように仕事と個人のニーズを両立させて、長期的に満足できるキャリアを成し遂げているのか、そのための個人的・専門職としての両方の戦略についての理解を深めることを目指す。

【方法】
 アメリカの郡部の診療に携わっている女性家庭医に対して半構造化面接を行った。面接内容は録音し、専門家によって文字起こしされ、immersion and crystallization法によって分析された。そこから創出したテーマについて詳細なコーディングを行った。

【結果】
 25人のインタビュー参加者から、良好なワークライフバランスを取る為の戦略を記述した。1つ目は、個人的役割との両立を達成するために、仕事の時間を減らしたり、柔軟性を持たせたりしていた。二番目に、多くのインタビュイーは配偶者またはパートナー、両親、他の地域の住民からサポートが得られる関係性を持っており、そのため、患者からの要請に応えることを可能にしていた。三番目に、インタビュイーは仕事と生活の周辺について、明確な境界線を維持しており、そのため、育児・趣味・休息の時間を取ることが可能であった。

【結論】
 女性の家庭医は、郡部においても成功したキャリアを構築できるが、雇用者、周りの関係性からのサポートと、両親からのアプローチがこの成功の鍵を握っている。教育者・雇用者・地域・政策立案者にとって、郡部におけるキャリアに積極的な女性家庭医をサポートする際に、こうした女性達の実践が、役に立ちうる。

【詳細】
参加者の特徴(本人だけでなく、家族構成やパートナーの仕事など:Table1参照)
 テーマについて
 ①Variations in work hours and Flexibility
  ・1/3の対象者は、ワークライフバランスやwellnessの改善のためにフルタイムよりも減らした勤務時間で対応していた。
   そういった場合にも育児などの影響から、フルタイムよりも「忙しい」スケジュールになっていた。
  ・スタッフや他の同業者のリクルートを行いながら、時間の調整を達成していることも多かった
  ・郡部診療を行う理由として、幅広い実践を維持できるからという理由がほとんどだが、そうした幅広い実践の多くは救急や出産のように予想
   できない形で来る。そのためか、彼らに週に何時間働いているのか?という質問をしてもすぐに明確な数字で言えないことが多かった。
   あるインタビュイーは40-80時間の間、という答え方をしていた。そうした働く時間の変動に合わせて、彼らは家族や趣味に使う時間を柔軟に
   変えていた。その際に配偶者が柔軟なスケジュールを行うことができるかどうかが鍵となっていた。

 ②supprotive relationship
  ・医学生・研修医の女性にどんなアドバイスをするか?という問いにしばしば支援してくれるような配偶者を見つけることだという答えが
   みられた。
  ・回答者たちはしばしば、郡部に住む為に、配偶者に犠牲を敷いていることを認めており、そうした犠牲が無い限り、彼らの専門業は成り立たない
   としていた。
  ・多くの配偶者は、自営業やパートタイム、あるいは遠隔業務が可能な仕事か、もともと郡部出身者で農業などの郡部の仕事を持っているため
   郡部居住を強く望んでいる、のいずれかであった。
  ・そうしたサポートが難しい何人かの回答者は郡部勤務をやめることを計画していた。
  ・しばしばこうした家庭では男性が育児や家事の主な役割を担っていた。その結果、女性家庭医がより患者ケアに時間を使えるようになっていた。
  ・また、家庭医同士の結婚の場合は、家での家事育児の役割は平等な形を取っているという話もあった。
  ・多くの郡部勤務者は学生のうちかその前から郡部診療に関心を持っており、そうした地域に住みたいというパートナーを見つけていた。
   自分にとって家あるいは故郷のような地域に戻ることである回答者が60%であり、他には、配偶者が郡部との繋がりがあって、お互い話す中で
   郡部に移ることを決めているという場合もあった。また、両親のサポートも重要であった。
  ・回答者が最も難しいと感じるのは緊急時や夜間受診があった際の子供の世話だった。例えばこんな説明もあった。「多くの人が、オンコールでも
   子供といれるからいいよね、と言うが、彼らはこちらの実情を分かっていないと思う。文字通り、ドアをあけて病院に数分以内に行くべき時に、
   子供の外出の準備や用意をさせて誰かの家に預けにいくなどとてもじゃないができない。必ずしもみながこの仕事の困難さ・意味を理解は
   していないからだ。」
 ③Clear boundaries around work
  ・殆どの全ての回答者が、自分の余暇・趣味・育児に十分な時間を取る為に何らかの境界線を設けていた。ほとんどはグループ診療で、
   他のメンバーが自分の患者をカバーできるようにしていた。
  ・医師によっては、患者の期待をリフレーミングして、自分のwellnessを保っていた。公共の場で相談を受けて、仕事中でない時は、
   ちょっと距離を空けることで相手にそれが良く無いことを伝えようとしていたり、アドバイスを簡潔にして別の日にまた連絡するように
   伝えたりしていた。場合によっては、自分が母親でもあり、今はオンコールでないから、他の医師が対応すると明確に伝える、とも述べていた。
  ・しかし、そういった患者ケアと自分の家族ニーズが重複して衝突する時に、罪悪感も感じていた。ある医師は、その子供のケアと
   1日クリニックを閉じることの間で自己決定を続けることに向き合い続けるのが難しいので、勤務地変更を真剣に考えていると述べていた。

【開催日】
 2016年6月22日(水)