総タンパクおよび動物性、植物性タンパク質の食事による摂取と、全ての原因および心血管疾患、癌による死亡のリスク

―文献名-
Dietary intake of total, animal, and plant proteins and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. Sina Naghshi, Omid Sadeghi、Walter C Willett, Ahmad Esmailzadeh. BMJ. May 2020;370:m2412|doi:10.1136/bmj.m2412

―要約-
Introduction:
心血管疾患と癌は世界における2つの主要な死因である。これらの状態には食事が重要な役割を果たしている。長寿と関連する最適な栄養素の組成は不明確だが、タンパク質の摂取量については、ここ数十年で高タンパク食への移行が世界的に起こっている。高タンパク食は減量、筋肉量の維持、筋力向上に繋がる可能性があり、人気となっている。
高タンパク食は、血中グルコースや血圧などの心臓代謝バイオマーカーの改善とも関連している。高タンパク食、特に植物性のタンパク質は、HDLコレステロールや心血管疾患のリスクに影響を与えることなく、血中脂質濃度を有意に下げることを示したエビデンスが増えてきている。一方で、動物性タンパク質の摂取と心血管疾患および一部の癌の発生率と正の相関も報告されている。
総タンパク質摂取量と寿命の関連については議論の余地がある。今回、食事によるタンパク質の摂取と全ての原因、心血管疾患、および癌による死亡リスクの関連をまとめるため、前向きコホート研究のシステマティックレビューと用量反応メタアナリシスを実施した。

Method:
2019年12月31日までに公開された、PubMed/Medline、ISI Web of Science、Scopusなどのオンラインデータベースの全ての記事を体系的に検索した。
公開された研究の中から、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取と全ての原因による死亡、心血管疾患、全体としての癌または特定の癌との関連について調べられた、成人を対象とする観察的前向き研究が含まれた。小児・青年、慢性腎臓病・血液透析患者、末期癌、重篤な疾患をもつ患者を対象とした研究は除外した。

Results:
最終的に32件のコホート研究がこのシステマティックレビューに含まれ、31件の論文がメタアナリシスに含まれた。22件の論文で全死因の効果サイズが報告され、17件で心血管疾患による死亡、14件で癌による死亡が報告された。また、これらの論文のうち、26件は総タンパク質摂取量の効果サイズを報告した。16件は動物性タンパク質の摂取、18件は植物性タンパク質の摂取を報告した。
これらの研究の参加者数は288~135,335人、年齢は19~101歳。合計715,128人の参加者がこの32件の論文に含まれた。3.5年~32年の追跡期間中、全ての原因による死亡の総数は113,039人、心血管疾患による死亡は16,429人、癌による死亡は22,303人だった。
総タンパク質の摂取および全ての原因による死亡率の間の関連を調べた29件の論文のうち、6件は逆相関を、1件は正の相関を認め、他の報告では有意な関連を示さなかった。動物性タンパクの摂取と全ての原因の死亡率との関連について、2件は逆相関を示し、他の報告では有意な関連を示さなかった。さらに、7件の論文では、植物性タンパク質の摂取量と全ての原因による死亡率との間に逆相関を示した。心血管疾患の死亡率については、2件の研究が総タンパク質の摂取で保護的な関連を示し、1つの研究では動物性タンパク質、6件の報告では植物性のタンパク質に関するものだった。1つの研究で、総タンパク摂取量と癌死亡率の間に逆相関が示された。1つの研究では、植物性タンパク質の摂取量と癌の死亡率の間に逆の相関を示した。
総タンパク摂取量と全ての原因による死亡率について、関連する文献に含まれる480,304人の参加者のうち、72,261人が死亡した。総タンパク質の最高摂取量と最低摂取量を比較した全原因死亡率の要約効果サイズは0.94(95%信頼区間0.89-0.99、P=0.02)であり、総タンパク質摂取量と全原因死亡率の間の有意な逆相関を示した。研究官で有意な不均一性がみられた。
動物性タンパク質の摂取量と全原因死亡率については、関連する文献で304,100人の参加者と60,495人の死亡があったが、有意な関連はみられなかった(最高摂取量と最低摂取量の比較は1.00、95%信頼区間0.94-1.05、P=0.86)。研究間で中程度の不均一性があった。13の記事で調査された植物性タンパク質の摂取量について、439,339人の参加者と95,892人の死亡があり、全原因死亡率との逆相関がみられた(最高摂取量と最低摂取量を比較した統合効果サイズは0.92、0.87-0.97、P=0.0002)

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タンパク質摂取と心血管疾患死亡率について、10件の文献で調査された。これらの研究には427,005人の参加者と15,518人の死亡者が含まれていた。タンパク質摂取量の最高値と最低値を比較した心血管疾患死亡率の要約効果サイズは0.98(95%信頼区間0.94-1.03、P=0.51)であり、総タンパク摂取量と心血管疾患死亡率の間に有意な関連性は認めなかった。研究間で有意な不均一性は見られなかった。動物性タンパク質の摂取と心血管疾患の死亡率との関連性は、290,542人の参加者と13,667人の死亡者を含む8つの論文で調査され、有意な関連は認めなかった(要約効果サイズ1.02、95%信頼区間0.94-1.11、P=0.56)。研究間で有意な不均一性はなかった。植物性タンパク質の消費については10件の論文で検討され、425,781人の参加者と14,021人の死亡で、心血管疾患と逆の関連がみられた(要約効果サイズ0.88、0.80-0.96、P=0.003)。研究間で有意な不均一性はなかった。
タンパク質と癌死亡率について、12件の論文で、合計292,629人の参加者、22,118人の死亡者で関連を調べた。タンパク質の最高摂取量と最低摂取量を比較した癌死亡率の要約効果サイズは0.98(95%信頼区間0.92-1.05、P=0.63)であり、明確な関連性はなかった。研究間で中程度の不均一性がみられた。9件の論文で、動物性タンパク質の消費と癌死亡率についても同様の結果がみられた。合計274,370人の参加者、21,759人の死亡で、要約効果サイズ1.00、95%信頼区間0.98-1.02、P=0.88。植物性タンパク質の消費についても同様で、9件の論文で検討された。合計274,370人の参加者、21,759人の死亡、要約効果サイズ0.99、95%信頼区間0.94-1.05、P=0.68。こちらは研究間の有意な不均一性はみられなかった。

Discussion:
今回のシステマティックレビューとメタアナリシスで、総タンパク質の摂取量と全ての原因による死亡率の間に有意な逆の関連があることが分かった。総タンパク質、動物性タンパク質の摂取量と心血管疾患および癌死亡率との間に有意な関連は見られなかった。植物性タンパク質の摂取は、全ての原因と心血管疾患による死亡リスク低下と関連していた。
この研究の限界として、残存または測定されていない交絡因子がタンパク質摂取と死亡率との関連の大きさに影響を与えた可能性がある。ほとんどの研究は潜在的な交絡因子を制御していたが、他の栄養素の食事摂取を考慮に入れなかった研究や、総エネルギー摂取量とBMIを共変量と見なさなかった研究もあった。タンパク質のほとんどの食物源に存在する食物脂肪の量や種類など、他の栄養素を制御できないことは、タンパク質摂取と死亡率の独立した関連に影響を与える可能性がある。さらに、このレビューの一部の研究では、用量反応メタアナリシスに含めるのに十分な情報が報告されていなかった。また、今回含まれたコホートでは食物摂取頻度アンケート、食物回収、記録を含む食物評価のさまざまな方法が使用され、タンパク質摂取量の単位は研究ごとに異なっていた。食事評価における測定誤差は避けられず、タンパク質摂取との関連を過小評価する傾向があったと思われる。さらに、動物性タンパク質の摂取量に関する結論は、食事が炭水化物に富み、動物源の消費が少ない、低所得層または中所得層への一般化がより低い可能性がある。

【開催日】2020年9月2日(水)