信念対立解明アプローチ

【文献名】
著者名:京極真
文献タイトル:医療関係者のための信念対立解明アプローチ
雑誌名・書籍名:コミュニケーション・スキル入門、誠信書房
発行年:2011年

【要約】
<信念対立とは?>
―事例(1)―
「あいつは何もわかっていない」–次郎(医師、32歳)VS三郎(医師、59歳)
・ 次郎「三郎は『患者は無知だ』という大柄な態度」
・ 三郎「無知でわがままな『患者様』に丁寧に対応していたら、まともな医療は行えない」

―事例(2)―
「楽しいはずの園芸がストレスでいっぱい」−花子(作業療法士、32歳)
・ 施設長が利用者に怒るので、「怒るのはやめて欲しい」と言っても、「キミたち作業療法士は作業療法をわかってない!」逆に怒られてしまう。

―事例(3)―
「チーム医療?うちはチームそのものがありません」–太郎(理学療法士、37歳)
・ 以前の職場は専門職の違いにとらわれず、お互いに協力し合っていたが、新しい職場は連携すらない。現状を変えようとしたら、逆に苦情が入った。

―事例(4)―
「もし、希望がかなっていたら・・・」–梅子(看護師、25歳)
・ 40年以上入院している患者に「家族に会いたい」と言われ、病棟カンファレンスで「家族に合わせてやりたい」と言ったが、主治医や看護師長に許可してもらえず、患者は1年後に自殺した。患者の希望に答えられなかった自分をずっと責め続けている。

 信念対立は(1)のような「衝突」、(2)~(4)のように「徒労感」「ストレス」「後悔」などの苦悩として体験される。梅子は患者の自殺がトラウマになったが、他のスタッフはそうではなかった。信念対立は立ち位置が異なれば、受け取り方が変わる問題。つまり、「それぞれが自分の信念を自覚することなく絶対視することにより起こる根源的な対立」である。

<構造構成学とは何か?>
 ここでは、信念対立解明アプローチの体系化という関心のもと、構造構成学の中核原理である現象、志向相関性、構造、のみに絞り込んで論じる。その関係は「現象は志向相関的に構造化される」と表せる。構造とは、具体的で個別的な体験の内容です。志向相関性は、経験内容を規定する根拠となるものです。現象は、立ち現れたすべての経験です。そして、あらゆる信念は志向相関的に構成された構造なのです。

<信念対立を解明するとはどういうことか>
 解明とは、誰もが丁寧に洞察すれば理解できるような考え方を示すことで、問題を問題でなくしてしまう営みです。すなわち、信念対立の解明とは、信念対立を信念対立でなくしてしまうことだといえます。

 解明術壱号は、信念対立化した人々が信念の契機–志向相関的な側面に気づくよう促すことで、疑義の余地なき信念の相対化を推し進める方法です。
  具体例 医師 「患者にいきなり癌を告知するのはよくない」
      解明師 「それはどういう意図で言っているのですか?」

 解明術弐号は、解明術壱号で相対化できないくらいガチガチに硬直しきった信念の成立根拠を打ち崩すときに用います。 
  具体例 理学療法士「あの介護士はまったく信用できない」
      解明師     「なぜそこまで言い切れるのですか?」

 解明術参号では、解明術壱号と解明術弐号で開かれた人々への多様性への感度を踏まえたうえで、共通了解可能性を担保した状態に至れるよう支援する方法です。
  具体例 介護福祉士「これまでのやりとりから、私には介護の効率性に関心があることがわかりました」
      看護師    「私は安全に病棟生活を送ることに、関心があったと思います」
      作業療法士 「私は患者のADLの自立に関心がありました」
      解明師    「なるほど。皆さんそれぞれ関心が異なるわけですが、互いに相手の関心事のなかで納得できそうなものはありませんか?」

【開催日】
2012年6月6日