~「更年期」の女性への対応~

【文献名】
D. ASHLEY HILL, SUSAN R. HILL: Counseling Patients About Hormone Therapy and Alternatives for Menopausal Symptoms. American Family Physician: 82(7):801-807, 2010

【要約】
最近の大規模臨床研究の結果から臨床家や患者は更年期のホルモン治療の安全性に疑問を持つようになった。過去には、健康全般を改善、心疾患を予防を試みるためにホルモン療法を行っていた。ホルモン療法は3-5年以上使用した場合、乳癌のリスクを高めるようである。従って、規制当局はホットフラッシュや膣乾燥といった更年期症状に対してのみ、最短期間、最少量での処方を行うよう助言している。ホットフラッシュにはエストロゲンが最も効果的ではあるが、venlafaxine(ベンラファクシン:SSNRI)やgabapentin(ガバペンチン:抗てんかん薬)といった代替療法も有効なことがある。dong quai(中国で古くから用いられたハーブ)、 朝鮮人参、kava(ポリネシア原産のハーブ)、食用大豆といったハーブ製剤はプラセボ以上の利益は得られないようである。子宮内膜保護目的のプロゲステロンの追加治療が必要ないので、外陰膣部の乾燥症状に対するエストロゲン局所療法は全身投与に比べて魅力的である。SERM:選択的エストロゲン受容体モジュレーターを閉経後骨粗鬆症の予防に対してホルモン療法の代替治療として支持している人もいる。どちらの治療も潜在的に健康に有害な効果があり、静脈血栓症のリスク増加と関連しているため、どちらを使用するかは臨床症状によって、またリスクとベネフィットを評価して決めるべきである。
Key Recommendations for Practice :(R8、B9)
 【Bioidentical and compounded formulations;人体と同一の、調合された製剤】
R:FDAおよび米国産婦人科学会は、配合ホルモン製剤の処方に関する安全性と有効性データの欠如に対して、警告を発している(エビデンスレベルC)。
 【Bone health;骨の健康】
B:エストロゲン補充療法は閉経後骨粗鬆症性骨折のリスクを減らす選択肢の一つ;FDAに認可された骨粗鬆症治療ではないものの、非ホルモン療法が使えない場合の選択肢の一つとなる(エビデンスレベルB)
 【Cancer risk;悪性腫瘍のリスク】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法を3~5年以上継続することにより乳癌のリスクが上昇する(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン単独療法では明らかな乳癌のリスク上昇は認められない(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン・プロゲステロン併用療法は大腸癌のリスクを減少させる。エストロゲン単独療法におけるリスクの変化は明らかでない(エビデンスレベルB)
R:子宮のある女性でのエストロゲン単独療法は子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクを上昇させるため、完全な子宮の残った女性がエストロゲンを使用する場合は、プロゲステロン療法の併用が勧められる(エビデンスレベルC)
 【Dosage and duration;用量と期間】
B:更年期症状を訴える女性に対して、ホルモン補充療法は治療の選択肢の一つであり、最小有効量を最短の期間で用い、定期的に再評価を行う(エビデンスレベルC)
R:ホルモン補充療法を3~5年継続した後は、毎年治療の終了を試みるべき(エビデンスレベルC)
 【Heart disease;心疾患】
R:ホルモン補充療法は心疾患予防としてはいかなる年齢の女性に対しても勧められず、既存の心疾患治療にもならない(エビデンスレベルA)
B:早期ホルモン補充療法(閉経開始の時期)は、更年期症状を訴える、心疾患のリスクの低い女性に対しては妥当なものである(エビデンスレベルB)
R:60~70歳代の女性に対してホルモン補充療法を開始することは、冠動脈疾患のリスクを高める;この治療法はホルモン以外の薬物療法に耐えられない有症状の女性に対し、治療のリスクと有益性を医師と十分に議論した上でのみ行われるべき(エビデンスレベルA)
 【Stroke;脳梗塞】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法とエストロゲン単独療法はいずれも虚血性脳卒中のリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い(エビデンスレベルA)
B:知見は一貫していないものの、50~59歳でホルモン補充療法を開始した女性では脳卒中リスクは上昇しないと思われる(エビデンスレベルB)
 【Vasomotor symptoms;血管作動性の症状】
B:更年期の血管運動症状に対して、エストロゲンは最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している(エビデンスレベルA)
 【VTE;静脈血栓症】
R:エストロゲン単独療法およびエストロゲン・プロゲステロン併用療法はVTEのリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い。60歳未満、あるいはエストロゲン単独療法の女性のリスクはやや低い(エビデンスレベルA)
B:観察研究のデータ(ランダム化比較試験ではない)によると、経皮エストロゲンは経口エストロゲンよりもVTEのリスクが少ない可能性がある(エビデンスレベルB)
 【Vulvovaginal symptoms;外陰膣部症状】
B:中等度から重度の外陰・膣萎縮に対しては、局所エストロゲン療法が最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している。プロゲステロンの追加は必要としない(エビデンスレベルA)

【開催日】
2010年12月1日