~薬剤溶出性ステント挿入後の抗血小板薬併用の期間~

【文献】
 S.-J. Park and others: Duration of Dual Antiplatelet Therapy after Implantation of Drug-Eluting Stents. N Engl J Med 2010; 362:1374-82. 

【要約】
<背景>
 薬剤溶出性ステントを留置した患者に対して、抗血小板2剤併用療法を12か月を越えて行った場合の潜在的な利益とリスクは明らかでない。
<方法>
 Patient: 薬剤溶出性ステントを留置した虚血性心疾患の既往のある患者。
 Exposure: アスピリンに加えてクロピドグレルを併用投与する群。
 Comparison: アスピリンを単独投与する群。
 Outcome: 心筋梗塞または心臓が原因の死亡に差があるか?
  この研究はREAL-LATEとZEST-LATEというランダム多施設の二つの試験にエントリーされた患者を融合したもの。治療に関してはオープンラベ ルだが、データ集積と解析はブラインド化している。ITT解析にて、2剤併用群で99.4%、アスピリン単独群で99.3%がフォローされている。

<結果>
 追跡期間の中央値19.2カ月。2年後の主要転帰の累積リスクは2剤併用群で1.8%、アスピリン単独群で1.2%だった。(ハザード比1.65、95%CI0.80-3.36、P0.17) 
 心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、結構再建術の再施行の必要性、重大な出血、全死因死亡の各リスクには両群間で有意差は認められなかった。
  しかし2剤併用群ではアスピリン投与群と比べ心筋梗塞・脳卒中・全死因死亡の複合リスク(ハザード比1.73、95%CI0.99-3.00、 P0.051)と、心筋梗塞・脳卒中・心臓が原因の死亡の複合リスク(ハザード比1.84、95%CI0.99-3.45、P=0.006)について、有 意でないものの上昇がみられた。
<結論>
 薬剤性ステントを留置した患者に抗血小板2剤併用療法を12か月を超えて行っても、アスピリン単独療法を行った場合と比べて、心筋梗塞・心臓が原因の死亡の発生率の低下に有意な有効性は認められなかった。
 これらの結果については、より長期の追跡を行う大規模な無作為化試験にて、確認あるいは反証する必要がある。

【開催日】
 2010年5月19日

~ライフイベントの生活へのインパクト~

【文献】
Holmes TH, Rahe RH: The Social Readjustment Rating Scale. Journal of Psychosomatic Reseach,Vol.11,P213-218,1967

【要約】
<背景>
病 いillnessの発症は「life stress」「emotional stress」「object loss」など呼ばれ、新たに生活を適応させることを強いるものであるという先行研究がある。ただ今までインタビューや質問表が使われてきており統一した ものがなかった。今後の研究のためにもライフイベントの重要性を測定する量的ものさしを定義するのがこの論文の目的である。

<方法>
Table1の質問票をTable2ようなベースラインの394人に行った。
質問票に入る前に
(A)社会的な再適応readjustmentは適応までの量と期間が関係しています。イベントの望む望まないにかかわらず、適応するまでの大変さと必要な期間によって、readjustmentは測定されます。
(B)Valueの記載にはあなたのすべての経験を元にして下さい。つまり極端なケースに偏らずあなたの平均的な適応readjustmentを教えてください。
(C)具体的な方法は、結婚を500として、その適応に必要なエネルギーより多いか少ないかでValueに記載してください。

100531_1

100531_2

<結果>

100531_3

Table3参照。
各イベントの平均値を10で割り、上から並び変えたものである。
Table2より各グループで比較して相関係数はWhite対Negro以外は0.9以上と高い数値を示す。
Kendallの一致係数(※1参照)0.477は一致度はいまいち。
上位7位をあげると、配偶者の死100、離婚73、別居65、拘留63、ちかしい家族の死63、自分の怪我や病気53、結婚50であった。

<Discussion>
歴 史的にはAdolph Meyerのlife chartに挙げられている重大イベントと似たような結果であった。また最近ではHarold G.Wolff研究室の結果から、このようなストレスフルなライフイベントが、多くの疾患の重要な原因因子となっていることが分かっている。Table1 に挙げられたイベントリストも、この研究所の研究結果より導き出されたものである。ライフイベントには2パターンあり、個人が自分のライフスタイルへの適 応する問題と、個人が環境への適応に巻き込まれる問題である。大体は普遍的なイベントだが、そうでない場合もあり、大きな影響をもつ。家族構成、結婚、職 業、経済面、住居、職場内やグループ内の人間関係、教育、宗教、余暇活動、健康である。各イベントへの反応は、適応することだけでなく、その後も生活をし ていく上で必要な変化である。
この重要度の評価は、身体レベルの観察から推測されるだろう。(イベントの長さ、重症っぽさ、目の輝き、イベントの数など)また今回のリストもその推測に役立つ。ただこのリストに見合わない重要度をもつ集団もあるだろう。

【開催日】
2010年5月12日(水)

~夜間頻尿になるほどの水分摂取は控えよう~

【文献】
特集 その患者指導、大丈夫?.日経メディカル4月号:p84,2010

【要約】
 夜間頻尿が主訴の患者の中に、1日2L以上の水分を摂取している人が少なくない。
 「脳梗塞や心筋梗塞予防に水分をいっぱい取るように」と医師からアドバイスされている。
 しかし、
(1) 大量に水分を摂取しても、脳梗塞や心筋梗塞予防になるというエビデンスはない(文献1)。
 高齢者において、脱水予防のために十分な水分摂取が必要なのは、介護を必要とする人や認知症などで喉の渇きが自覚できないような、脱水のリスクの高い人が対象。
(2) 夜間排尿の回数が多いほど転倒の危険性が高いことや、死亡率が高くなることが報告されている(文献2,3)。
 高齢者は膀胱に尿をためられる量が減るため、夜間1回トイレに起きる程度は仕方がないが、2回以上起きるケースは明らかに水分の取りすぎで、いいことはない。
 適切な水分摂取量は、まず、1日の尿量を計測してもらい、尿量の合計が「体重(kg)×20~30mL」程度になるように水分摂取量を調節するとよい。

文献1)
水分を多く摂取することで,脳梗塞や心筋梗塞を予防できるか? システマティックレビュー.岡村菊夫ら,日本老年医学会雑誌(0300-9173)42巻5号 Page557-563(2005.09).
文献2)
Usefulness of nocturia as a mortality risk factor for coronary heart disease among persons born in 1920 or 1921. Bursztyn M, Jacob J, Stessman J, Am J Cardiol. 2006 Nov 15;98(10):1311-5. Epub 2006 Sep 26.
文献3)
Mortality in the elderly in relation to nocturnal micturition. Asplund, R, BJU international 84, 297-301, 1999.

【開催日】
2010年5月12日(水)

~心筋梗塞の2次予防~

【文献】
Recent developments in secondary prevention and cardiac rehabilitation after acute myocardial infarction. BMJ Mar 2004; 328: 693 – 697; doi:10.1136/bmj.328.7441.693

【要約】
心筋梗塞後の患者では、(1)抗血小板薬、(2)ACE阻害薬、(3)スタチン、(4)βブロッカー のルーチンの使用が大規模臨床試験にて推奨されている。
(1)抗血小板薬
・ 最近のある無作為試験において、アスピリン低用量(75-150mg/日)の使用は二次予防に有効であることが示された。500-1500mg/日の高用量使用はより有効というわけではなく、副作用である胃腸障害をきたす。
・ Clopidogrel 75mg/日はアスピリンアレルギーや胃腸障害のある患者の代替療法として有効であるが、高価である。
・ Clopidogrelをアスピリンに9ヶ月追加する治療は急性冠症候群の患者においてさらに心血管イベントを下げるが、出血のリスクが増加するためルーチンで用いるべきでない。
(2)ACE阻害薬
・ 心筋梗塞後のACE阻害薬使用は、心機能低下症状のある患者や左室機能障害をきたしている患者に推奨されているが、最近の2つの無作為試験では全ての患者において突然死や心血管イベントを優位に減らしたという結果であった。
(3)スタチン
・ スタチンは、心筋梗塞後の患者において心血管イベントや突然死のリスクを減少させる。これは女性や65歳以上の患者に適応となるが、ある無作為試験では性別、年齢、治療前のコレステロール値に無関係という結果であった。
(4)βブロッカー
・ βブロッカーは死亡率、心筋梗塞再発率を減少させる。2つの研究ではβブロッカーを使用することによって心機能を維持されることが確認されている。
・ 最近のある大規模なシステマティックレビューでは、うつ病のリスクを著明に増やすわけではなく、倦怠感や性機能障害のリスクを軽度上昇させるにとどまった。
・ コクランレビューでは軽症から中等度の呼吸器疾患をもつ患者において、短期間の治療の間は呼吸器状態を悪化させないと結論づけており、喘息やCOPD患者 におけるβブロッカーの禁忌について疑問がでてきている。そして、心不全や高血圧、不整脈の患者においてβブロッカーを使用する利点は欠点よりも大きいと 結論づけた。
・ ある研究では喘息やCOPDをもつ心筋梗塞後の患者において、βブロッカーを使用している患者では40%の死亡率の減少が報告され、心不全の患者や80歳以上の患者で有益であることが示された。
・ 最近のある研究では、重度の末梢動脈疾患をもつ患者にβブロッカーを使用すべきであるが、重度ではない末梢動脈疾患においてはあまり有効ではないと示している。
組織的ケア
・ 最近の研究では、心血管疾患の二次予防において組織的ケアが有効であるという結果がでている。プライマリケアと病院の良いコミュニケーション、多面的な業務が一般的に成功するテーマである。
・ 診療所での看護師による心筋梗塞の二次予防も予後の改善を認める可能性がある。
心臓リハビリテーション
・ 心臓リハビリテーションの目的は、患者の機能を適切なものにすることと生活の質を上げること、心血管イベントの再発を防ぐことである。
・ 包括的なリハビリテーションプログラムには、運動トレーニング、行動変容、精神的サポートが含まれる。
・ 最近のコクランレビューでは、心臓リハビリテーションを行った場合に致死率において27%の減少を認めた(オッズ比0.73)。
心理社会的介入
(1)禁煙
・  冠動脈疾患を持つ患者が禁煙した場合、心血管イベントの再発を50%減少されるという研究がなされているが、禁煙する利点のでるタイミングやリスク減少 の割合は、現在議論されているところである。最近のシステマティックレビューでは、冠血管疾患を持つ患者が禁煙した場合、致死率を0.64に減少させた。
・ 禁煙は、冠血管因子を持つ全ての患者において最優先事項である。プライマリケア医にとって、生活習慣の改善、とくに禁煙を成功させることは挑戦である。
(2) 心理学的プログラム
・ 心筋梗塞後、うつ病は一般に生じやすい。大うつ病は15-20%の患者で生じ、大うつ病にならなくとも同様のうつ症状をきたすことも多い。
・ 心筋梗塞後のうつ病や社会的サポートの欠如は致死率を上昇させるが、その正確なメカニズムは知られていない。
・ 最近の研究において冠血管疾患を持つ患者に対して認知行動療法や抗うつ薬を使用したが、29ヶ月後のfollow upにおいても心筋梗塞の2次予防に対して有意な改善を認めなかった。

【開催日】
2010年4月28日(水)

~ラクナ梗塞の2次予防に有効な薬剤は何か?~

【文献】
Gotoh F, et al.: Cilostazol stroke prevention study: a placebo-cintrolled double-blind trial for secondary prevention of cerebral infarction J Stroke Cerebrovasc Dis. 9 (4): 147-57, 2000.

【要約】
(この研究の目的)
本研究の目的は、多施設、無作為、プラセボ比較対照、二重盲検臨床試験を用いて、脳梗塞の再発におけるシロスタゾールの効果を検証することである。
(この文献のPECO)
P:脳梗塞発症後1~6か月以内の患者
E:シロスタゾール100mg1日2回投与
C:プラセボ
O:脳梗塞の再発を予防できるか?
(方法)
期間は1992年4月~1996年3月において脳梗塞発症後1~6ヶ月の患者を対象とした。
シロスタゾール100mg 1日2回投与群とプラセボ投与群に、無作為に割り付けた。
Primary endpointは脳梗塞の再発。最終的に、1095人の患者が登録。うち1052人が残り、シロスタゾール投与群526人、プラセボ投与群526人に割り振られた。
Base lineに有意な違いはなかった。脳梗塞の種類では、シロスタゾール投与群/プラセボ投与群で、ラクナ梗塞が75.0%/73.8%と最も多い割合を占め た。内服期間は632.2±467.7日/695.1±456.3日であった。最終的にプロトコール通り投薬を受けた続けた患者は、シロスタゾール投与群 で250人(追跡率250/544=46%)、プラセボ投与群では279人(追跡率279/548=50.9%)であった。
(結果)
(evaluable population評価可能な集団)1052人の中で121人が血管イベントを生じた。
非致死的なものは48人/69人、致死的なものは0人/4人であった。
シロスタゾール投与群でも脳出血のリスクを上昇させなかった。
脳 梗塞が再発(Primary endpoint)した患者は、シロスタゾール投与群では30人/889.6人年で(3.37%/年)あった。一方プラセボ群では57人/986.0人年 (5.78%/年)であり、RRR41.7% [CI],9.2% to 62.5%(P=.0150)、NNT41.5であった。
また、1067人のITT解析でもRRR42.3% [CI],10.3% to 62.9%(P=.0127)であった。
さ らに、subgroup解析で脳梗塞のタイプ別におけるラクナ梗塞の発生はシロスタゾール投与群で20人/673.8人年(2.97%/年)、プラセボ投 与群で39人/743.4人年(5.25%/年)であり、RRR43.4%[CI],3.0% to 67.0%(P=.0373)、NNT43.9であった。

【開催日】
2010年4月21日(水)

~80歳以上の収縮期高血圧への降圧薬の使用にはメリットがある可能性がある~

【文献】

Treatment of Hypertension in Patients 80 Years of Age or Older.

N Engl J Med 2008;358:18 1887-98




【要約】

(この論文の背景)

●高血圧の自然経過と主な治療の根拠

・疫学的調査にて、115/75を超えると、増加とともに脳卒中の発症は増加。

●80歳以上の患者において、血圧を下げすぎてはいけない、という議論を以下に示す。

・高血圧のリスク自体が小さい;血圧上昇と脳卒中の相関は、高齢になればなるほど、弱くなる。

・高血圧の治療のリスクが示唆されている。

・80歳以上の高齢者の疫学調査;血圧と死亡率が逆相関。

・後ろ向き追跡調査
80歳以上の高血圧患者(80%が降圧薬内服中)において sBP140以下の場合に、生存期間が短いことが示唆。

・80歳以上における高血圧治療のメタ分析
1999年のランセットでのメタ分析[1] 7つのRCTから。脳梗塞や心血管イベントは減少したが、総死亡は有意でないものの増加、二重盲検のRCT5つに限定すると有意な増加となった。

(論文のPECO)

P;

80歳以上、sBPが160mmHg以上の高齢者
 
(Baseline;脳梗塞既往;6.7-6.9%、MI既往3.1%、CHF既往2.9%、喫煙6.5%、DM6.8-9%、T-cho平均値204mg/dl、HDL平均値52mg/dl、BMI平均24.7)

E;

利尿薬(Indapamide※1)、150/80に達しないなら、ACE(Perindopril※2)追加

C;

プラセボ

O;

Primary;脳梗塞(致死的・非致死的両方)

Secondary;あらゆる原因からの死亡、心血管系からの死亡、心疾患(=AMI、CHF、突然死)からの死亡、脳梗塞からの死亡

(妥当な文献か?)

二重盲検のRCTでITT分析されている。追跡期間の中央値は1.8年

(メリット・デメリットの程度は?)

(Table.2参照)

降圧療法によって致死的脳梗塞は有意に減少した。
脳梗塞全体は有意ではないが減少し、信頼区間は減少に寄っていた。
総死亡、心不全、心血管イベント全体についても有意に減少した。
                   Hazard Ratio    RRR   NNT※3
脳梗塞           0.70(0.49-1.01) 30%   94
致死的脳梗塞       0.61(0.38-0.99) 39%   62.5※4
あらゆる原因からの死亡   0.79(0.65-0.95)    21%   44



※1;サイアザイドに近いもの。商品名ナトリックス®、低KやDM増悪が少ないとされている。

※2;コバシル® 

※3ARRからの純粋な計算とはずれます。人年法の計算だからのようです。

※4;本文中に記載が無く、ARRから計算したものであるため、※3の理由で本当のNNTとは微妙に誤差ありです。
[1]Lancet 1999 Mar 6;353(9155):793(原著手に入りませんでした…。)


100421

【開催日】
2010年4月21日(水)

~家庭医療の教育者のキャリアについて~

【文献名】
Understanding the Careers of Physician Educators in Family Medicine . Academic Medicine Vol.76 No3 march 2001, 259-265.

【要約】
目的:
家庭医療の臨床-教育家(以下PE)のキャリアの変動についての質的研究。キャリアの決定に影響したもの、PEとしてのバイタリティの資源についての調査が目的。
方法:
STFM のメンバー500名に仕事への満足と教育への貢献を評価する葉書をランダムに送り、返信のあった399名から除外規定(仕事への満足度、家庭医療教育への 貢献度、教育に携わっている期間、教育に割く時間)を設けて24名に絞った。「どの様に仕事を決定したか」「教育者としてのバイタリティをどう維持してい るか」などの半構造化した電話インタビューを行った。録音記録からメモ用紙を使ってテーマを抽出し、カテゴリー分類した。
結果:
(PEのコアな価値観)
キャリアの決定と行動は”ヘルスケアの向上、研修の質と量の改善、未来への遺産を渡すことを通してよりよい世界にしたい”という価値観・信念に基づいていた。
(価値観と一致した地位やプロジェクトの選定)
挑戦的で多彩で刺激的な地位が、インパクトを持ち、彼らの価値観と調和しているときに選定していた
(キャリアパス)
13人はもとから教育に興味/価値を持っていた。15人は自分の挑戦や特質として教育に関わったと考えていた。5人はセレンディピティが鍵だった。1人はミッションステートメントで計画していた。
(教育者としてのバイタリティの資源)
人との関連に関する「学習者(11人)、同僚(メンターやロールモデルを含む:8人)、患者(4人)」という3つの主要なバイタリティの資源が同定された。その次の資源は「変化」であった。
(プロとして、と自分としての生活のバランスへの努力)
私的な生活と専門家としての生活とのバランスに持続的な努力を要していた。
(結語)
この研究は、時に脱線し時にサポートをされながら、教育指導に引き寄せられ、バイタリティを維持し、そして専門的かつ私的な挑戦についての鍵となる変動のハイライトである。この情報はリクルート、発展、成功しつつ生産的な家庭医療のPEの維持に利用できうる。
*この研究は満足度の高い人でインタビューに答えたい人だけで行ったという限界がある。

【日付】
2010年4月16日(金)

~もの忘れを訴える患者へのアプローチ~

【文献名】
Lliffe S, Pealing L. Subjective memory problems. BMJ 2010; 340:703-6.

【要約】
1.物忘れは、軽い認知障害や認知症と比べて、老年期により多くみられる
・ 物忘れは65-74歳の43%、85歳以上の88%が訴える症状である
・ 60歳以上では16.8%が軽度の認知障害を示し、その多くが認知症を発症する。
2.物忘れは、高齢・女性・教育レベルの低さと同じく、うつ病とも関連する
・ 気分変調症や不安障害の場合、記憶喪失の自覚率は高まるが、うつ病では認知症と同様に自覚率は必ずしも高くない
3.うつ病は、それ自体が認知症のリスクファクターであり、診断を更に複雑にする
・ 認知症発症へのうつ病の危険率は2.69(95%CI 1.77-4.07)でDMと相乗効果
・ ただ、研究デザインの限界もあり、影響を否定する議論もあり
4.物忘れは認知症症候群(生活に障害を与える程度の記銘力障害と他の認知問題)に対する予測因子としての価値は乏しい
・ 認知症に対する物忘れの感度は43%で特異度は86%
・ 軽度認知障害に対する物忘れの感度は37%で特異度は87%
・ つまり、物忘れを訴える人の中で認知症または軽度認知障害を持つ者は20-30%
・ 逆に認知症・軽度認知障害を持つ者で物忘れを訴えるのは40%程度に過ぎない
・ 研究によっては、物忘れを持つ者がない者と比べて認知症発症のリスクがあがるというデータもある(尤度比2.7や4.5程度)が、関連を否定する研究もあり
5.物忘れは単なる「健康過敏な人」の訴えではなく、真摯に評価するべき問題である
・ 物忘れとQOLの低下は全ての研究で関連しており、たとえ、物忘れと認知症の相関がなくても、物忘れが重要な問題であることを示す
6.認知症の専門医受診については、症状や物忘れの程度と重みを評価した上で家庭医としての経験に基づいて判断する必要がある
・ 認知症キャンペーンの圧力の中、専門医受診の圧力は高まるが、軽度の認知障害に対する簡便で信頼性の高いテストがない以上、家庭医の経験則が重要となる
・ 著者はMIMICというツールを推奨
 M.記憶喪失のタイプの判断  I.周囲の情報提供者からの病歴聴取
 M.抑うつ気分の評価    I.個人特性(年齢、性別、教育、長期精神疾患)
 C.認知機能テストの結果(MMSE, 6CT, GPCog scoreなど)

【開催日】
2010年4月16日(金)

~7価肺炎球菌結合型ワクチンの効果~

【要約】
 侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、肺炎に対する肺炎球菌ワクチン(PCV)の効果、死亡率を評価する必要がある。
 HIV陰性の子供のワクチンに含まれる血清型の肺炎球菌によって引き起こされるIPD(VT-IPD)、レントゲンで診断される肺炎を予防するためのPCVの効果を更新するために今回の研究(systematic review)がおこなわれた。
 文献はCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (The Cochrane Library 2009, issue 1), MEDLINE (1990 toWeek 4 February 2009); and EMBASE(1974 to March 2009).から検索。IPDや臨床的に肺炎と診断されたり、画像で肺炎と診断された2歳以下の113,044の子供のPCVとプラセボ、他のワクチンとの比較を行ったRCTを選んでいる。

 ワクチンの有効性
  ・7つの文献から、VT-IPDに対して80%の有効性(95% CI 58% to 90%, P < 0.0001)   ・すべての血清型によるIPDに対して58%の有効性(95%CI 29%to 75%, P = 0.001)   ・WHOの基準でレントゲンで診断された肺炎に対して27%の有効性(95%CI 15%to 36%, P < 0.0001)   ・臨床的に肺炎と診断される肺炎に対して6%の有効性(95% CI 2% to 9%, P = 0.0006)   ・すべての原因の死亡率に対して11%の効果(95% CI -1% to 21%, P = 0.08)   ・HIV陽性の子供でも同様 【文献名】 Pneumococcal conjugate vaccines for preventing vaccine-type invasive pneumococcal disease and X-ray defined pneumonia in children less than two years of age (Review). The Cochrane Collaboration and published in The Cochrane library2009, Issue 4.

~ギプスとシーネの原則~

【要約】

外傷は固定することにより、治癒の促進、骨のアライメントの維持、痛みの軽減、創部の保護、外傷に伴う筋力低下の代償といった効果が得られる。
不適切な、または不要に長期間の固定は有害事象の危険を高める(表1)ため、皮膚、神経・血管、軟部組織、骨全てをしっかり評価した上で固定の必要性(表2)を決定し、さらにギプスかシーネを考慮する。


ギプスかシーネか?
ギプスかシーネ、どちらかを選択する際には外傷のステージや重症度、不安定性、固定による有害事象発生のリスク、患者の機能的要求を考慮する必要がある。
 家庭医の現場では急性期、その後治療においてもシーネの方が広く用いられる。
シーネは単純で安定した骨折、捻挫や腱損傷、その他の軟部組織損傷に対して広く用い、ギプスは複雑な骨折に対する治療に対してのみもちいる(表3,4)。
ギプスはシーネに比較して表1に示す有害事象が発生しやすい。


固定に用いる素材

伝統的な石膏、ファイバーグラスがある。前者は固まるのに時間がかかるため余裕がある、熱が発生しにくい(熱傷の危険が少ない)という利点がある反面、作成時に散らかる、重たいなどの不利な点もある。どちらも水を利用するが、水温が高い方が早く固まる。

表1. ギプス,シーネによる固定の有害事象

・ コンパートメント症候群

・ 虚血

・ 熱傷

・ 褥創や皮膚損傷

・ 感染

・ 皮膚炎

・ 関節の拘縮,

・ 神経障害


表2.固定の必要な状態

・ 骨折

・ 捻挫

・ 重度の軟部組織損傷,

・ 関節脱臼の整復後

・ 炎症(関節炎,腱鞘炎など)、

・ 関節に至る深い創縫合

・ 腱の縫合


表3.シーネの有利な点

・ 素早く簡単に装着することができる

・ 安定性を得られるのと同時に機能的である

・ 外傷初期の組織の腫脹に対して寛容である

・ 簡単に取り外せるため創部を観察しやすい


表4.シーネの不利な点

・ 患者のコンプライアンス

・ ギプスに比較して創部が動きやすい

・ 不安定な骨折(整復を要するもの、粉砕・らせん骨折、脱臼骨折)に対しては外傷初期に対してしか用いられない


【文献名】 Annne SB, et.al.: Principles of Casting and Splinting. Am Fam Physician 79(1): 16-22,2009.