~もの忘れを訴える患者へのアプローチ~

【文献名】
Lliffe S, Pealing L. Subjective memory problems. BMJ 2010; 340:703-6.

【要約】
1.物忘れは、軽い認知障害や認知症と比べて、老年期により多くみられる
・ 物忘れは65-74歳の43%、85歳以上の88%が訴える症状である
・ 60歳以上では16.8%が軽度の認知障害を示し、その多くが認知症を発症する。
2.物忘れは、高齢・女性・教育レベルの低さと同じく、うつ病とも関連する
・ 気分変調症や不安障害の場合、記憶喪失の自覚率は高まるが、うつ病では認知症と同様に自覚率は必ずしも高くない
3.うつ病は、それ自体が認知症のリスクファクターであり、診断を更に複雑にする
・ 認知症発症へのうつ病の危険率は2.69(95%CI 1.77-4.07)でDMと相乗効果
・ ただ、研究デザインの限界もあり、影響を否定する議論もあり
4.物忘れは認知症症候群(生活に障害を与える程度の記銘力障害と他の認知問題)に対する予測因子としての価値は乏しい
・ 認知症に対する物忘れの感度は43%で特異度は86%
・ 軽度認知障害に対する物忘れの感度は37%で特異度は87%
・ つまり、物忘れを訴える人の中で認知症または軽度認知障害を持つ者は20-30%
・ 逆に認知症・軽度認知障害を持つ者で物忘れを訴えるのは40%程度に過ぎない
・ 研究によっては、物忘れを持つ者がない者と比べて認知症発症のリスクがあがるというデータもある(尤度比2.7や4.5程度)が、関連を否定する研究もあり
5.物忘れは単なる「健康過敏な人」の訴えではなく、真摯に評価するべき問題である
・ 物忘れとQOLの低下は全ての研究で関連しており、たとえ、物忘れと認知症の相関がなくても、物忘れが重要な問題であることを示す
6.認知症の専門医受診については、症状や物忘れの程度と重みを評価した上で家庭医としての経験に基づいて判断する必要がある
・ 認知症キャンペーンの圧力の中、専門医受診の圧力は高まるが、軽度の認知障害に対する簡便で信頼性の高いテストがない以上、家庭医の経験則が重要となる
・ 著者はMIMICというツールを推奨
 M.記憶喪失のタイプの判断  I.周囲の情報提供者からの病歴聴取
 M.抑うつ気分の評価    I.個人特性(年齢、性別、教育、長期精神疾患)
 C.認知機能テストの結果(MMSE, 6CT, GPCog scoreなど)

【開催日】
2010年4月16日(金)

~7価肺炎球菌結合型ワクチンの効果~

【要約】
 侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、肺炎に対する肺炎球菌ワクチン(PCV)の効果、死亡率を評価する必要がある。
 HIV陰性の子供のワクチンに含まれる血清型の肺炎球菌によって引き起こされるIPD(VT-IPD)、レントゲンで診断される肺炎を予防するためのPCVの効果を更新するために今回の研究(systematic review)がおこなわれた。
 文献はCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (The Cochrane Library 2009, issue 1), MEDLINE (1990 toWeek 4 February 2009); and EMBASE(1974 to March 2009).から検索。IPDや臨床的に肺炎と診断されたり、画像で肺炎と診断された2歳以下の113,044の子供のPCVとプラセボ、他のワクチンとの比較を行ったRCTを選んでいる。

 ワクチンの有効性
  ・7つの文献から、VT-IPDに対して80%の有効性(95% CI 58% to 90%, P < 0.0001)   ・すべての血清型によるIPDに対して58%の有効性(95%CI 29%to 75%, P = 0.001)   ・WHOの基準でレントゲンで診断された肺炎に対して27%の有効性(95%CI 15%to 36%, P < 0.0001)   ・臨床的に肺炎と診断される肺炎に対して6%の有効性(95% CI 2% to 9%, P = 0.0006)   ・すべての原因の死亡率に対して11%の効果(95% CI -1% to 21%, P = 0.08)   ・HIV陽性の子供でも同様 【文献名】 Pneumococcal conjugate vaccines for preventing vaccine-type invasive pneumococcal disease and X-ray defined pneumonia in children less than two years of age (Review). The Cochrane Collaboration and published in The Cochrane library2009, Issue 4.

~ギプスとシーネの原則~

【要約】

外傷は固定することにより、治癒の促進、骨のアライメントの維持、痛みの軽減、創部の保護、外傷に伴う筋力低下の代償といった効果が得られる。
不適切な、または不要に長期間の固定は有害事象の危険を高める(表1)ため、皮膚、神経・血管、軟部組織、骨全てをしっかり評価した上で固定の必要性(表2)を決定し、さらにギプスかシーネを考慮する。


ギプスかシーネか?
ギプスかシーネ、どちらかを選択する際には外傷のステージや重症度、不安定性、固定による有害事象発生のリスク、患者の機能的要求を考慮する必要がある。
 家庭医の現場では急性期、その後治療においてもシーネの方が広く用いられる。
シーネは単純で安定した骨折、捻挫や腱損傷、その他の軟部組織損傷に対して広く用い、ギプスは複雑な骨折に対する治療に対してのみもちいる(表3,4)。
ギプスはシーネに比較して表1に示す有害事象が発生しやすい。


固定に用いる素材

伝統的な石膏、ファイバーグラスがある。前者は固まるのに時間がかかるため余裕がある、熱が発生しにくい(熱傷の危険が少ない)という利点がある反面、作成時に散らかる、重たいなどの不利な点もある。どちらも水を利用するが、水温が高い方が早く固まる。

表1. ギプス,シーネによる固定の有害事象

・ コンパートメント症候群

・ 虚血

・ 熱傷

・ 褥創や皮膚損傷

・ 感染

・ 皮膚炎

・ 関節の拘縮,

・ 神経障害


表2.固定の必要な状態

・ 骨折

・ 捻挫

・ 重度の軟部組織損傷,

・ 関節脱臼の整復後

・ 炎症(関節炎,腱鞘炎など)、

・ 関節に至る深い創縫合

・ 腱の縫合


表3.シーネの有利な点

・ 素早く簡単に装着することができる

・ 安定性を得られるのと同時に機能的である

・ 外傷初期の組織の腫脹に対して寛容である

・ 簡単に取り外せるため創部を観察しやすい


表4.シーネの不利な点

・ 患者のコンプライアンス

・ ギプスに比較して創部が動きやすい

・ 不安定な骨折(整復を要するもの、粉砕・らせん骨折、脱臼骨折)に対しては外傷初期に対してしか用いられない


【文献名】 Annne SB, et.al.: Principles of Casting and Splinting. Am Fam Physician 79(1): 16-22,2009.

Journal Club 開設!

平成22年度が始まりました。

医療法人 北海道家庭医療学センターは今年で独立3年目。

組織も大きくなり、北海道内6カ所の診療所を運営することになりました。

後期研修を終え、各診療所を支えるスタッフ医師、フェロー医師も合計13名!

これまでは各診療所レベルで学び、家庭医としての診療のレベルアップを図ってきましたが、今年度からは学びを共有し、互いに深め合う場を設け、センター全体で診療のレベルアップをして行こう、ということになりました。


そこで新規に設置されたのが「組織学習委員会」です。

委員長は私山田(更別村国民健康保険診療所)。


長年勤めてきた後期研修プログラムの責任者を離任し、新たなチャレンジであります。

企画第一弾は「Journal Club」です。

13名のスタッフ医師、フェロー医師が持ち回りで家庭医療に関する新たな知見を紹介、議論していく企画です。
週1回、1時間で2例。

このブログで内容を紹介して参ります。