早期教育と幼児の発達

―文献名―
須森りか、鈴木克明:早期教育が幼児の発達に与える影響と今後の在り方.東北学院大学教養学部総合研究論文:1999

―要約―
【研究方法】
 文献とインターネットを使った研究論文。国会図書館での雑誌検索、インターネットにて早期教育を検索し独自に書籍やインターネットからの情報をまとめた。
 この論文における早期教育の定義は「胎児から小学校以前の教育でできるだけ早い時期から開始するという志向性を持ち、知的な教育、主にIQを高めることを意図し、働きかけに対する子どもの期待される反応を強く期待して行われる幼稚園や保育園を除いた教育」と定義づける。ここではお稽古ごとや、スポーツ教室は除外する。

【早期教育側の考え】
 知的早期教育の特徴は大脳生理学の考えである「才能逓減の法則」と「右脳教育」という2点がある。
 大脳の発達を年齢で見ると、第1の段階が1歳頃まで、第2の段階が3歳頃まで、第3の段階が6歳から7歳まで、そして第4の段階がそれ以降となっている(三石、1990)。脳が急速に発達を遂げているのは第2の段階までで、3歳頃まで が環境から与えられる刺激により脳の働きの可能性を大きく左右してしまうといわれている。「才能逓減の法則」とは、教育は早く始めるほど 高い能力が育ち、才能が伸びる可能性は年齢とともに急速に減っていくというものである(村松・吉木、1990)。また、「右脳教育」では右脳の働きが活発なのは幼児期で、0歳に近ければ近いほど高度の能力があり、学習意欲も旺盛であると考えている。右脳にはたくさんの能力が隠されており、開発できるのも右脳優位である3歳までが決め手になるのだという(七田、1993)。脳が急速に発達する3歳までの間に外からの刺激を受け止め、パターン化し、記憶するという最も基本的で重要な情報処理の仕組みができる。そのため右脳の働きも3歳までの間がもっとも活発である。上記2つの視点から、早期に教育することで幼児の才能を最高にひきだせるとしている。
 早期教育の教育内容の一つは、パターン認識を利用した「パターン教育」がある。特徴は「理屈抜きに見せる」「繰り返す」「結果は忍耐強く待つ」の3つであり、遊びの形態にしやすく左脳教育と比較し脳の負担が少ない。具体的にはカードを使うことが最良で、カードの使い方は一枚一秒の間隔でパッパッとめくって見せていく。するとこの速さに左脳はついていけないので引っ込んでしまい、右脳に働きを任せる。すると子供たちが生来持っている右脳の働きが優位に働くと説明している。
 アメリカのギルフォードが発表した知能構造論においては、脳には120の知能因子があるという。この知能構造論に基づいての教育法は、言語中枢と密接な関係があるという指先を司る脳を発達させることである。つまり言葉や文字の暗記などのひとつのことに偏らず、指を使うことで脳のいろいろな部分に刺激が与えるので子供の知能が全脳的に開発されるといっている。
 また、親子関係も深まる。早期教育をすることは子供への働きかけの時間が多くなるので、以前よりも子供とのふれあい、スキンシップが増えて、親子関係が深まると主張している。

【早期教育反対派の意見】
 幼児教育には「子供は遊びの中で育つ」という。早期教育でもその遊びを中心とした教材を開発しているが、本来の遊びと早期教育の遊びを取り入れた教材をすることでは本質が違うという。幼児の遊びの世界は、意味や価値の世界と無関係なところで展開される世界である。それに対して早期教育の世界は、この社会がもっている価値や意味の世界を体系化・記号化して子供の中に入れて行くことで成立する世界である。遊び体験は、自分の感情や要求に従いながら、子供自身が「内的ルール」を作り上げることで成立する世界であるのに対して、早期教育の場合は、外部で準備された活動を受動的に受け入れることで成立する世界である(加藤1995)。
 遊びを体験しなかった幼児は、体力がつかず幼児同士のコミュニケーションがないので社会性や協調性も育たず他人の気持ちが理解出来なくなる。遊びに熱中した経験がないと、集中力も育たなくなる。
 また山口(1994)は、早期教育で受動的な学習をしている幼児は自発性、創造性の領域の発達が抑圧されるのではないかと懸念している。幼児は親からの評価を気にして親の期待に沿おうと努力し続けてしまうという「依存的」なパーソナリティーが育ってしまう (高良、1996)。自主性が無く依存的な性格では、自分で自分の道を切り開いて行くことは出来ない(小宮山、1995)。
 早期教育では子供の知能をIQで測定するが、本当の賢さとは子供たちはその年齢にふさわしい形で対象に主体的・能動的に働きかけていく存在にほかならない。自分が体験したさまざまな事実を自分なりの論理でつなげ、それらのあいだに共通性を見つけだし、自分なりの「主観的な概念の枠組み」を形成しながら知的能力を伸ばしていくのである。賢さの本質はこの点にある(加藤、1995)。
 早期教育機関が挙げている大脳生理学の「合理性」に対しては、3歳までの脳の重さが急激に重くなることは確かであるが、それは脳の「構造」ができるだけであって「機能」が発達するわけではないと反論している。乳幼児期には子供自身が興味をもって広義の学習活動を行うことで、その後の脳の発達に影響する。早期教育機関の教材の遊びでは、なんのために覚えなければならないのか本人の自覚がないものでは学習の効果は一時的なものになる(汐見、1996)。
 加藤(1995)は、現在進められつつある早期教育はもっとも現代的な形で組織された管理主義保育の典型であるといっている。早期教育には基本原則が存在し、しかもその原則には一定の方向と順序を認める。その原則は「もっと早く、もっと高く、もっと正確に」である。早期教育が考える「能力観」には、「人間観」が欠如している。

【開催日】
 2015年12月2日(水)












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