~Effectiveness of screening for CKD(CKDのスクリーニングの有効性)~

【文献名】

Braden Manns, et.al.:  Population based screening for chronic kidney disease: cost effectiveness study.BMJ 341:5869,2010.



【要約】
【Objective】

To determine the cost effectiveness of one-off population based screening for chronic kidney disease based on e-GFR. 

【Design】

Cost utility analysis of screening with e-GFR alone compared with no screening. Analyses were stratified by age, diabetes, and the presence or absence of proteinuria. 
Scenario and sensitivity analyses, including probabilistic sensitivity analysis, were performed. Costs were estimated in all adults and in subgroups defined by age, diabetes, and hypertension. 

【Setting】

Publicly funded Canadian healthcare system. 

【Participants】

Large population based laboratory cohort used to estimate mortality rates and incidence of end stage renal disease for patients with chronic kidney disease over a five year follow-up period. Patients had not previously undergone assessment of GFR. 

【Main outcome measures】

Lifetime costs, end stage renal disease, quality adjusted life years (QALYs) gained, and incremental cost per QALY gained. 

【Results】

Compared with no screening, population based screening for chronic kidney disease was associated with an incremental cost of $C463 (Canadian dollars in 2009; equivalent to about £275, €308, US $382) and a gain of 0.0044 QALYs per patient overall, representing a cost per QALY gained of $C104 900. 
In a cohort of 100 000 people, screening for chronic kidney disease would be expected to reduce the number of people who develop end stage renal disease over their lifetime from 675 to 657.
In subgroups of people with and without diabetes, the cost per QALY gained was $C22 600 and $C572 000, respectively. In a cohort of 100 000 people with diabetes, screening would be expected to reduce the number of people who develop end stage renal disease over their lifetime from 1796 to 1741. 
In people without diabetes with and without hypertension, the cost per QALY gained was $C334 000 and $C1 411 100, respectively.

【Conclusions】

Population based screening for chronic kidney disease with assessment of e-GRF is not cost effective overall or in subgroups of people with hypertension or older people.
 Targeted screening of people with diabetes is associated with a cost per QALY that is similar to that accepted in other interventions funded by public healthcare systems.



【開催日】
2011年1月19日(水)

~影響力の原理~

【文献名】

Donald A. Redelmeier, Robert B. Cialdini. Problems for clinical judgement: 5. Principles of influence in medical practice. CMAJ 2002;166(13):1680-1684

医療における「影響力」の7要素-人はなぜ動かされるのか?- 広島大学病院 佐伯俊成




【要約】

心理学における基礎科学は特異的な自動反応(ingrained responses=しみついた反応)を同定した。その反応というのは人の性質の根本的な要素であり、一般的な影響の戦略(influence strategies)を裏打ちするもので、医療の現場において適応できるかもしれない。・人は受けた恩義にこたえようとする義務感を感じる。・少しばかり受け入れがたいお願いを先にすると、(それより条件の良い)要求はより魅力的になる。・一貫性のある活動への意欲というのはたとえ要求が過剰になっても続く。・人は不確実な状態に直面した時、周囲からの圧力(Peer Pressure)は極めて強いものとなる。・要求する人のイメージが要求それ自体の魅力に影響を与える。・権威は専門家としての力量以上の力を持っている。・機会はそれらが得られにくように見える時ほど、より価値あるように見える。これらの7つの反応は何十年も前に心理学の研究により発見され、ビジネスの世界で直観的に理解されているようであるが、医療の文脈ではめったに議論がされていない。臨床家はこれらの原理を意識することで、患者が自分の行動を変える手助けをし、社会における他の人々が時に患者の選択をどの様に変えるのかということを理解するための、一つのフレームワークを提供することが出来る。

【Basic theory:基本的原理】

患者は圧倒的な情報の中で生活しているので、たとえ関係のある出来ごとでも「思慮深い決断」を下すことはほぼ不可能である。これらをうまく処理するためには、患者は自動反応(ingrained responses)と呼ばれる理にかなった近道が頼りになる。人の論理的思考過程において、自動反応というのは大半の影響の戦略の根底にある基本的な経路である。これらの経路を意識することが、患者が習慣を変える手助けを試みるためのフレームワークを臨床家に提供する。(Table1)

【Reciprocation:返報】

他人がその人に提供したものと同様のやり方で報いようとすることである。

<医療における返報性>

患者を心地よくさせることのできる臨床家は、アドバイスをした際により真摯に受け止められる傾向があるようである。これはただ単に医者がより熱心に見えるだけでなく、患者が感謝されているように感じるからだと言われている。患者の都合による突然の予約のリクエストに同意したり、小さな町において有名な地域社会の指導者をサポートしたりするといったような、ちょっとした頼みに便宜を図る臨床家は、生活習慣の変化を提案する際に何らかの優位性を有している。たとえ救急という匿名の状況においてさえ、わずかな思いやりでホームレスが少し違った(好ましい)振る舞いをする原因となり得る。

【Concession:譲歩】

返報の特殊な形で、他の誰かが歩み寄りを申し出ると、その後に譲歩する義務を感じるというものである。

<医療における譲歩>

血圧コントロールに乗り気でない患者に対して、まず追加の物事を提案した後に、最初に血圧に集中すると同意が得られるかもしれない。大腸内視鏡のスクリーニングを拒否している患者はバリウム造影検査については議論してくれるかもしれない。ただし、患者の行動変容の段階に応じてカウンセリングをすることが必要不可欠である。

【Consistency:一貫性】

人はひとたび選び取ると、その制約を維持し続けようとする強い傾向を持つ。
一貫性とみなされる欲求はとても強い力をもっており、自分自身の興味に反しても行動し続ける結果となりうる。

<医療における一貫性>

臨床家は健康の選択を強化するため一貫性に関する患者の欲求をガイドすることが出来るかもしれない。強情な喫煙者に煙草の欠点を2つリストアップしてもらうよう頼むことが出来る。この小さな課題であれば受け入れてくれるだろう。リストを作ってしまうと、患者は次の受診までのもっとそのことについて話したくなっているかもしれない。そののちの受診では、患者は(喫煙を)止める議論をしたくなるかもしれない。

【Endorsement:保証、承認】

自分に関係している他人を真似することによって何が正しいかということを決める。何が正常な習慣を構成しているか決めようと試みている際には、順応に対する圧力というのは特に強く働く。

<医療における保証>

難しい医学的判断というのはしばしば規範へのアピールにより決められる、その中で患者は他人のあいだで何に人気があるかに注意がはらわれる。手術か放射線治療科を選ばなければならない肺癌の男性は、単純な「多くの患者が手術を受けます」という言葉がどんな医学的なデータよりも説得力があるかもしれない。新しい社会的な基盤を打ち立てることが出来るので、それゆえ臨床家は影響力をもっている。先手を打って思いやりを示すと、患者は気恥ずかしい情報を公開することに拍車がかかるのはなぜかということを、この「保証」が説明している。「多くの糖尿病の患者さんは性的不能になるのです、もしかしてあなたもそうじゃないですか?」

【Liking:好意】

自分が好意を持っている人から頼まれると人は了承しやすい。(ハロー効果)

<医療における好意>
 
開業医は尊敬される専門家のイメージがあるので、潜在的にビジネスマンより説得力がある存在になり得る。泣いている患者にティッシュを渡す開業医は人間味のある人に見えるだろう。親切で気さくな臨床家はより多くの患者の心遣いを扱うことが出来るかもしれない。血圧がよくなったことを褒める臨床家は患者がさらなる同意を得るのを力づけ、動機づけるだろう。人に好かれる臨床家は標準化された教材よりも同僚をより効果的に揺り動かすことができる。もちろん専門家は自身の魅力的なイメージを、患者の悪口を言うというような、間違った使用をしないようにしなければならない。

【Authority:権威】

人は権威者の命令に従うという深い義務感を持っている。

<医療における権威>

臨床家は権威であり、それにより権力を持っている。あるケースにおいては、その他の医者以外にはだれもその医者の判断を却下することはできない。アシスタントによるよりも医者によりアドバイスされた方がコンプライアンスは上昇する。具体的に患者の心配を尋ねることで、直接誤解を解消することが出来る。医者による一回の忠告だけで時に患者は禁煙をすることが出来ることがある。この権威への服従はエラーにつながる。たとえば看護師が医師の不適切なオーダーに疑問をさしはさまなかったり、政治的な力を持っている患者を不公平に優先したりする場合である。

【Scarcity:希少性】

まれという理由で機会が価値あるものと思える。

<医療における希少性>

臨床家は助言をより強力な物にするため希少性を思い起こさせるかもしれない。前置きのアドバイスにて「今日見た全ての患者の中であなたが一番心に残っています、なぜなら…」 このような差別化は、この後にどの様なアドバイスが来たとしても重みを与え、彼らの習慣を変えるよう動機づけられるかもしれない。色々な代替案を示されるより、一つの選択肢をしめされたとき、そのままの状態を差し控え、新たな選択を受け入れる傾向になぜあるかということを、この希少性の原理は説明する助けになる。特別な治療を受けているという認識が、なぜ心移植患者が従順であり続けるかということを説明しているかもしれない。

【まとめ】

自由社会において有能な大人の習慣を変えるにはコントロールするのではなく影響力を行使することが必要である。医学の全ての側面にいえることだが、影響力の戦略は狙ったケアによって良いものにも害にもなり得る。社会における力(forces in society)が既にこれらのテクニックを患者に対して使用しているのが現実である。患者が有益な選択をする手助けをするにはどのようにするかを意識することが、効果的なケアを提供するために臨床家に必要なスキルである。



【開催日】
2011年1月19日(水)

~重症認知症患者の肺炎治療の意義~

【文献名】

Givens JL, Jones RN, et al. Survival and Comfort After Treatment of Pneumonia in Advanced Dementia. Arch Intern Med 170 (13), 1107-9.





【要約】

[目的]
重度認知症や老年期の患者において、肺炎の抗菌薬治療が「生命予後」や「生活の快適さ・安楽さ」を改善しうるかどうか明らかにする。



[研究デザイン]

前向きコホート研究(CASCADE)
(最大で18か月又は亡くなるまで追った。)



[セッティング]

2003~2009年のボストン、マサチューセッツの22ナーシングホーム入居者323人



[対象集団]

重度認知症の入居者で肺炎と確定診断された患者 Table1参照。

※これはCASCADEのベースラインと似通っている★代表的な集団が選ばれているか?

・60歳以上

・いずれのtypeの認知症と診断された

・Cognitive Performance Score 5^6点(重度の認知能低下)

・Global Deterioration Scale 7点(家族がわからない、最低限の会話、ADL全介助、便尿失禁)



[介入/要因]

抗菌薬治療を、しない群・経口治療のみ・筋注治療のみ・点滴治療(入院も含む)で分類。



[主要アウトカム]

生命予後:肺炎発症後~亡くなるまでの日数

快適さ(scored according to the Symptom Management at End-of-Life in Dementia scale:SM-EOLD)

測定前90日間の痛み・呼吸苦・抑うつ・恐れ・心配・いらいら・落ち着き・皮膚の損傷・介護への抵抗の項目に対して頻度(なし、月1回、月数回、週1回、週数回、毎日)を介護士?nursing caringが記載。点数が高いほど、快適度が高いスコア。

※90以内に亡くなった方は除外されるが、Comfort Assessment in Dying with Dementia scaleが死亡後2週間以内に測定された。



[統計手法]

生命予後:コックス比例ハザードモデル

快適さ:線形回帰モデル

多変数モデルを各治療群の差を調整するのに使用



[結果]

225の肺炎のエピソード(133人41%)があり、治療なし8.9%、経口治療のみ55.1%、筋注治療のみ15.6%、点滴・入院治療20.4%であった。

生命予後Table3/Figureは、治療しない人と比べて、すべての治療あり群は改善(経口群リスク比0.2 95%CI 0.10‐0.37)(筋注群リスク比0.26 95%CI 0.12‐0.57)(点滴・入院群リスク比0.2 95%CI 0.09‐0.42)であった。

快適さはTable4、治療前のSM-EOLDと比べ、いずれの抗菌薬治療をえた群でもscored according to the Symptom Management at End-of-Life in Dementia scaleは低かった。



[結論]

ナーシングホーム入居中の重度認知症の方において、肺炎の抗菌薬治療は、生命予後は改善するが、快適さは改善しない。





【開催日】

2011年1月12日(水)

~対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)~

【文献名】
水島広子. 臨床家のための対人関係療法入門ガイド.創元社,2009.

【要約】
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)とは
・「対人関係療法」は、KlermanやWeissmanによって1960年代末から開発され、1984年に定義づけられた。日本ではまだ認知度は低いが、現在、米国精神医学会などの治療ガイドラインにおいてもうつ病に対する治療法として位置づけられており、「認知行動療法」と双璧をなすエビデンスのある期間限定の短期精神療法として認識されている。

・対人関係療法は「対人関係が原因で病気が起こる」と一元的に考えられているわけではなく、従来のように遺伝的、人生経験、社会状況や個人的ストレスなどの「多源モデル」で考えられている。一方で、うつ病などの発症のきっかけとしてはほとんどが「対人関係上の状況」がある。「過労」であっても、一見対人関係とは無関係に見えるが、その人がなぜ過労に陥るほど仕事を抱え込んだのか、断ることはできなかったのか、などと考えると、これも1つの対人関係上の状況とみることができる。

・対人関係療法で目指すことは、抑うつ症状を減じることと対人関係機能・社会的機能を改善することである。つまり、「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を患者自身が見つけることによって、症状に対処できるスキルを身につけられることである。

対人関係療法の特徴
(1)期間限定
 短期療法の場合も維持療法の場合も、もちろん必要がある場合には治療を継続して行うが、その場合も「期間限定の治療を再契約する」という形にする。期間限定にする利点としては以下のことがあげられる。
①目標を明確に取り組むことができる、②期限を意識することで治療の集中度が高まる、③決められた期間の中で計画的に治療を進めることによって、治療で得たものを振り返り本人のスキルとして定着させていくことができる、④終結があることが常に明確にされるため、依存や退行を防ぐことができる。

(2)焦点化
 患者が、対人関係の4つの問題領域:①悲哀(患者にとって重要な人の死)、②対人関係上の役割をめぐる不和・不一致、③役割の変化(生活上の変化)、④対人関係の欠如(社会的孤立)のうちどの領域に問題があるかを焦点化する。

(3)現在の対人関係に取り組む
 対人関係療法では、現在進行中の対人関係と症状の関連を扱う。過去の人間関係は、初期に聴取して認識するが、治療の焦点とはしない。

(4)精神内界ではなく対人関係が焦点
 精神分析など「治療者がそれをどう解釈したか」ということではなく、「実際に患者と相手との間で何が起こっているか」ということに焦点を当てる。相手は何と言ったのか、患者はそれについてどう感じたのか、その結果患者はどう行動したのか、それが相手にどう伝わったのか…ということに焦点を当てる。

(5)認知ではなく対人関係が焦点
 対人関係療法では、最終的には認知行動療法と同じように認知面への効果は大きいが、治療の焦点は患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てる。「どのような認知がそのような感情を引き起こしたか」と考えるのではなく、「誰が何を言ったからそのような感情が起こったのか」ということを直接みる。

(6)パーソナリティは認識するが、治療焦点とはしない
 「対人関係」というと、すぐに「パーソナリティの問題」として片付ける人が多いが、対人関係療法ではパーソナリティを変えることを治療焦点とはしない。これはⅠ軸障害(臨床的な疾患)があると、Ⅱ軸障害(パーソナリティ障害にみえるもの)がしょうじることが多いためである。

対人関係療法のエビデンス
・対人関係療法はうつ病に対して三環系抗うつ薬と同等の効果を示すが、異なる領域に効果を発揮するため、併用により効果は高まる。治療終結後1年間のフォローアップで、対人関係療法を受けた群の心理社会機能が優位に改善した(Weissman et al.1979)・重度のうつ病に対しては対人関係療法は認知行動療法よりもすぐれた効果を示す(NIMH研究:Elkin et al.1989)
・対人関係療法のみで寛解に至った患者は、対人関係療法のみで2年間の寛解を維持できる可能性が高い。維持治療の効果は、月1回、月2回、週1回の受診間隔で変化はなかった(Frank et al.2007)
・維持治療が対人関係に焦点化されていた方が、再発までの期間が有意に長かった(Frank et al.1991)
※国際IPT学会(International Society for Interpersonal Psychotherapy)のサイトを参照:http://www.interpersonalpsychotherapy.org/

【開催日】
2010年12月29日(水)

~意欲の低下した認知症患者にどう関わるか~

【文献名】
折茂賢一郎、安藤繁、新井健五 共著 廃用症候群とコミュニティケア  医歯薬出版株式会社 p187-195, 

【要約】
Tさん 82歳女性 認知症
・ADLは誘導と指示などの軽介助があればほぼ自立。
・意欲・活動性が低く放っておくとすぐに横になって居眠りする。→自宅で転倒し大腿骨頚部骨折で入院加療
・家族が話しかけても開眼すらしない。
・体を他動的に起こそうとしても、全身に全く力が入らない。

このように、認知症高齢者は「どうせ、何もできないから・・・」、「また、失敗するから・・・」、「何を言ってもわからないから・・・」、「聞こえないから・・・」と放置されやすい。また、問題点(できないこと)を探すとできないことだらけになってしまい、「これはよくなる見込みはない」と判断して放置してしまう。

そこで、「残存能力(できること)」を発見しようとする視点をもち、評価することが大切。
・過去の生活史や仕事、趣味などの「個人」の情報から残存能力を見つけ出す、「昔とった杵柄によるアプローチ」。
・Tさんは東京の女学校を優秀な成績で卒業、読書が趣味だったという話から「昔取った杵柄」は「読書」「活字」「文字」に関連する能力ではないかとアプローチして、「声を出して文章(活字)を読むことができる」という能力が残っていたことがわかった。
・Mさんは和裁の先生をしていたという生活史から、周囲の「危ない!」という反対の声もあったが、「針と糸とタオル」を渡したところ、みごとに雑巾を縫い上げた。

いずれのケースも、発見したアプローチを継続的に実施し、発展させていくことで着実に認知症状は改善をみせた。このように、認知症の高齢者に対するアプローチは、個別に行っていくことが大切である。

【開催日】
2010年12月29日(水)

~患者が考えるプライマリケアの近接性、継続性、協調性の特徴とは?~

【文献名】

Jeannie L. Haggerty, et al. Practice Features Associated With Patient-Reported Accessibility, Continuity, and Coordination of Primary Health Care. Ann Fam Med. 2008 March; 6(2): 116-123.


【要約】

(目的)

プライマリヘルスケアのリフォームが行われる前に、患者にとっての近接性、継続性、協調性を左右する診療組織、医師の診療に寄与しているものを同定するためのプライマリヘルスケアの多角的調査を行った。



(方法)

・プライマリヘルスケアクリニックをカナダケベック州において都市部、準都市部、へき地、remort locationにおいてそれぞれランダムに選んだ。

・それぞれのクリニックで4人までの家庭医、総合医を選び、研究者が4つのクリニックの待合室に詰め、20人の患者を連続サンプリングし、PCAT(Primary Care Assessment Tool;http://www.jhsph.edu/pcpc/pca_tools.html)を用いて、以下について調査した。



*first-contact accessibility: 初診の近接性(突然の発症に対して迅速にケアが得られているか)

*relational continuity: 関係性における継続性(患者それぞれの特徴を知っている医師との継続した関係性)

*coordination continuity: 協調性の継続(医師と専門医との間の協調性)

・医師は診療の側面を報告し、秘書やディレクターはクリニックの組織的な特徴について報告した。

・Hierarchical regression modelを用い、クリニックにおいて定期通院している患者の二次解析を行った。



(結果)

100か所のクリニックが参加し(61%の回答率)、221人の医師、2725人の患者(87%の回答、追跡終了率)に対して実施した。

PCAT score 1点:definitely not、2点:probably not、3点:probably(最低ラインと設定)、4点:delinitely
first-contact accessibility:初診の近接性…平均2.30(施設側の問題20.3%、医師側の問題3.2%)

これがもっとも問題があった。
急病に対して1日以内に診療を行うか、助言を行ったのは、たった10%であった。

平均24日(中央値19日)であった。

近接性は10人以下の医師(10人以上いると-0.21点)、看護師のいるクリニックで(+0.12点)、24時間毎日電話対応に応じるクリニック(+0.30点)、他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)、夕方の診療を行っていること(+0.07点)が良い結果となった。



relational continuity: 関係性における継続性…平均3.35(施設側の問題8.8%、医師側の問題6.7%)
他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.03点)や夕方診療(+0.05点)がこられにも有利に作用していた。継続性に価値を見出し(+0.09点)、コミュニティに対して親和性を感じている(+0.05点)医師はよりよい関係性の継続性を育んでいた。それゆえにaccessibility-oriented style(ウォークインが多く(ウォークインが50%未満に比較して70%以上だと-0.14点)、患者数が多くなる(1時間当たりの平均診察患者数が3.4人以上になると-0.03点))が継続性を妨げる要因にもなっていた。

coordination continuity協調性の継続…平均3.30(施設側の問題2.4%、医師側の問題6.3%)
これはさらに他のヘルスケア組織と正式な運営上の連携を得られている場合(+0.04点)や継続した電話対応(+0.16点)やPT/OTの存在(+0.12点)との関連があった。また、医師が病院にパートタイムで診療に行っている場合で50-70%程度を自クリニックにて診療を行っているケース(+0.09点)やクリニックにおいて幅広い手技(+0.02点)を実施している場合により良い結果となっていた。



(まとめ)

クリニックがどのように組織されるかで医師が近接性、継続性を達成できるかが決まってくる。両方を手にする特徴は夕方診療と電話対応、他のヘルスケア機関と正式な運営上の連携を得られていることであった。

(DISCUSSION)
理想的なfamily medicine groups(FMGs)モデルの特徴は、8~10人の医師がいて、看護師がいて、夕方診療を行い、nurse help lineとつながる情報リンク(電話対応可能という意味か?)があり、他の施設とのケアを正式な形態でシェアしていることである。
医師が一か所以上の施設で働くと、専門家との個人的な関係性強化につながるということも分かった。



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【開催日】
2010年12月22日(水)

~認知症高齢者の困った行動(BPSD)とどう接するべきか?「パーソンセンタードケア」②~

【文献名】
認知症の介護のために知っておきたい大切なこと パーソンセンタードケア入門 トム・キットウッド,キャスリーン・プレディン著 高橋誠一監訳 寺田真理子訳 筒井書房 より p69-90

【要約】
(おさらい)パーソンセンタードケアとは?
おおもとは、イギリスの心理学者のT. キットウッドが提唱。
●パーソンセンタードケアのコンポーネント
•人間性が失われたのではなくて、見えなくなっているだけとみなす。
•全てのケアの場面で、その人の人間らしい側面を重視する。
•環境やケアを個別化したものとする
•意志決定の共有(Shared-decision making)を提案する
•認知症の方の行動を、その方の視点にたって解釈する
•ケアのルーチンタスク(清拭など)と同等に、認知症の方との関係性に重きを置く。

(この書籍について)
T.キットウッドが自らが介護者・家族向けに書いた、認知症患者との接し方の訳本。
上記の原則から始まって、日常の接し方、サポート、生きがい、薬との付き合い方、人権やグリーフまで網羅して接し方について具体的なことから心構えのようなところまで記してある。
その中から、今回は第7章『徘徊やおもらし、攻撃…認知症の「困った!」にどう対応すればいいの?』を紹介します。この章は、いわゆる認知症の問題行動(BPSD;Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」について総論と、よくあるもの7つ(徘徊、失禁、攻撃、物を隠す、同じことを繰り返す・叫ぶ、性的行動、妄想・幻覚)について個別に取り上げています。

(基本的な考え方)
●認知機能が衰えてくると、周りの世界は以前よりもおそろしい場所のように思える。周りの人がだれなのかわからなくなっていく。混乱は不安を生み、さらにこの年齢層に特有の病気や障害の多さが加わって、生活の中でのあらゆる問題によって、うちのめされてしまう。喪失や障害を抱えている彼らがうまくいかないということに共感することが重要である。
●問題行動を起こしているのは「彼ら」であるが、実際には私たちの思いやりや優しさ、注意が足りないために、「わたしたち」も問題の一部であることが往々にしてある。
●手っ取り早い解決策を取ろうとする代わりに、以下の5つを考えることが有用である。
①それは本当に問題なのか?どれくらいの頻度で起きているか?
②どうしてそれが問題なのか?
③だれにとって問題なのか?私たち介護者が変化や適応、受け入れを拒むことで問題にしたのではないか?
④「問題行動を」する人は、わたしたちに何かを伝えようとしているのではないか?
⑤どうすれば、その人の生活の質を高めるような方法でこの問題を解決できるでしょうか?

(各論)
全般的に、問題行動の裏にあるその人の不安が何かをくみ取り、その人が本当は必要としているもの、を考えるように促す内容が記されています。(「徘徊」の部分の内容を例に挙げてみます。)
●徘徊は、不安を感じた人が、なじみの場所や愛する人を探したり、仲間や安心を求めているため起こす行動かもしれない
●活気や十分な刺激がなくて、単に生きていることを実感したいだけかもしれない。
●夜に増えるのは、光や音がなくなり、人もいなくなり、感覚に訴えるものが少ないからで、仲間と一緒にいて安心する人は夜になると不安になってくるかもしれない。
●混乱が原因ではないこともある。トイレに行きたいかもしれない。痛む所があるのかもしれない。服が汚れて気持ちが悪いのかもしれない。退屈なだけかもしれない。運動不足が原因のこともある。

●徘徊をやめさせるための鎮静薬は、徘徊する人より混乱させてしまう可能性が高い。安全に徘徊できるようにする方がいい。もっと徘徊者を安心させる方法は、一緒に歩いてみること。腕や手をとったり、近くに一緒に居るというメッセージを送り、安心させる。
●急に家具の場所を変えたり、夜に物の位置を変えることは避ける。寝室の明かりをつける
●一人で外へ出る人なら、状況に応じて鍵をかける必要がある。馴染みのないドアの下の部分につける必要がある。身分証明書は持たせるようにする。

●万が一徘徊しても、パニックを起こさず、警察の力を借りて探すのを手伝ってもらう。
●再発をどうやれば防げるか考える。刑務所のように閉じ込めるよりは、少しのリスクを引き受ける方がよいでしょう。

【開催日】
2010年12月15日(水)

~新しいCSR(カルテを利用したケースレビュー・振り返り)のワークシート~

【文献名】
Shirley Schipper : Structured teaching and assessment; A new chart-stimulated recall worksheet for family medicine residents: Can Fam Physician 56(9) 958 – 959, 2010.

【要約】
Evidence and Best Practice
・CSRは、診療の強みと弱みを同定するツールとして効果があり信頼性がある。
・CSRの信頼性と妥当性は家庭医療学の分野とそのほかの専門家、リハビリの領域で発展してきた。
・CSRの最もよい利点はFeedbackをすぐにかけることができる評価ツールであることである。
・学習評価のためのレジデント教育へのCSRの適用は、論理的Stepがある。
・今までのCSRではPatient centered careの評価が弱かったため今回再作成した。またCanMEDS-FMの役割(2009年提唱のカナダの家庭医の役割)に則って質問を再構成した。
・新しいCSRの私たちの使用経験では全てのレベルの学習者に有用であり、特にハイレベルに機能していて外来でのFeedbackが少なくなりがちな優秀な学習者に役に立つことがわかった。また困難を抱えている学習者にとってもCSRワークシートは、知識のギャップを表面化し、臨床推論スキルを評価し、共通の理解基盤に立つための問題点を同定するために有効であった。

Using the CSR tools
・学習者は課題の準備をする。指導医は学習者にカルテをレビューし事例についてディスカッションを行うことを知らせる。
・学習者はこれが教育セッションであることを知らされ、学習者はカルテ記載やカルテレビューでFeedbackを受けることを知らされる。
・レビューのためのカルテが選定される。
・指導医、学習者でカルテ記載をみて、カルテ記載についてのFeedbackをワークシートのBoxAに書く。
・質問リストから、患者中心のケアや家庭医の役割について切実なものを選んで議論のガイドとする。
・議論に対するFeedbackをワークシートのBoxBに記入する。
・Feedbackを学習者に渡し、ポートフォリオにはさんでもらう。

Conclusion
・CSRは各プログラムや自身のニーズに合わせて使用される。
・コンピテンシーに基づくシステムの一部として、また困難を抱える学習者について、有用性を更に調査中である。

*CSRワークシートの使用説明書・質問集の和訳、CSRワークシートのVer1.0は添付文章参照。

【開催日】
2010年12月8日(水)

~SAHの早期診断~

【文献名】
Perry JJ, et al. High risk clinical characteristics for subarachnoid hemorrhage in patients with acute headache: prospective cohort study. BMJ 2010;ONLINE FIRST.

【要約】
(目的)
・ 頭痛を訴える神経学的異常所見のない患者において、SAHについてリスクの高い臨床特徴を同定する。

(研究デザイン)
・ 5年にわたる多施設前向きコホート研究

(セッティング)
・ 大学関連の3次救急対応教育病院6カ所にて2000.11~2005.11までデータ収集

(参加者)
・ 1時間以内にピークに達した非外傷性頭痛を訴えて、神経学的異常所見のない患者

(主要アウトカム)
・ 頭部CTでのくも膜下腔の出血像、脳脊髄液中の黄色症(キサントクロミー)、血管造影で陽性所見(動脈瘤)を示しかつ脳脊髄液中の赤血球像 のいずれかで確定されたクモ膜下出血

(結果)
・ 登録された1999名の患者の中で、130症例のSAHを認めた
・ 平均年齢は43.4歳(16-93歳)、1207名(60.4%)が女性、1546名(78.5%)が人生で最悪の頭痛だと訴えた。
・ 13の病歴情報と3の身体診察所見の信頼性が高く、SAHとの関連が見られた。
・ これらの変数を帰納的に群分離して、3つの臨床診断ルールを設定した。
・ 全てが100%の感度(95%信頼区間 97.1-100%)、28.4~38.8%の特異度を示した。
・ この3つの診断ルールのうちどれかを利用すれば、CT・腰椎穿刺・その両者の検査率を現在の82.9%から63.7~73.5%に低下させることができたであろう。
<ルール1> 感度100% 特異度 28.4%
 40歳以上、頚部痛やこわばりの訴え、意識消失の経験、運動に伴う発症
<ルール2> 感度100% 特異度 36.5%
 救急車での到着、45歳以上、少なくとも一度の嘔吐、拡張期血圧100以上
<ルール3> 感度100% 特異度 38.8%
 救急車での到着、収縮期血圧160以上、頚部痛やこわばりの訴え、45-55歳

(結論)
・ ある臨床的な特徴はSAHに対する予想因子となりうる。
・ 1時間以内にピークに達した頭痛を訴える患者には、実践的で感度の高い臨床診断ルールを利用することができる。
・ 前向きの検証も含めて、ここに提示した診断ルールに対する更なる研究を実施することで、頭痛の患者に対してより選択的で正確な検査を行うことができるようになるはずだ。

【開催日】
2010年12月8日(水)

~「更年期」の女性への対応~

【文献名】
D. ASHLEY HILL, SUSAN R. HILL: Counseling Patients About Hormone Therapy and Alternatives for Menopausal Symptoms. American Family Physician: 82(7):801-807, 2010

【要約】
最近の大規模臨床研究の結果から臨床家や患者は更年期のホルモン治療の安全性に疑問を持つようになった。過去には、健康全般を改善、心疾患を予防を試みるためにホルモン療法を行っていた。ホルモン療法は3-5年以上使用した場合、乳癌のリスクを高めるようである。従って、規制当局はホットフラッシュや膣乾燥といった更年期症状に対してのみ、最短期間、最少量での処方を行うよう助言している。ホットフラッシュにはエストロゲンが最も効果的ではあるが、venlafaxine(ベンラファクシン:SSNRI)やgabapentin(ガバペンチン:抗てんかん薬)といった代替療法も有効なことがある。dong quai(中国で古くから用いられたハーブ)、 朝鮮人参、kava(ポリネシア原産のハーブ)、食用大豆といったハーブ製剤はプラセボ以上の利益は得られないようである。子宮内膜保護目的のプロゲステロンの追加治療が必要ないので、外陰膣部の乾燥症状に対するエストロゲン局所療法は全身投与に比べて魅力的である。SERM:選択的エストロゲン受容体モジュレーターを閉経後骨粗鬆症の予防に対してホルモン療法の代替治療として支持している人もいる。どちらの治療も潜在的に健康に有害な効果があり、静脈血栓症のリスク増加と関連しているため、どちらを使用するかは臨床症状によって、またリスクとベネフィットを評価して決めるべきである。
Key Recommendations for Practice :(R8、B9)
 【Bioidentical and compounded formulations;人体と同一の、調合された製剤】
R:FDAおよび米国産婦人科学会は、配合ホルモン製剤の処方に関する安全性と有効性データの欠如に対して、警告を発している(エビデンスレベルC)。
 【Bone health;骨の健康】
B:エストロゲン補充療法は閉経後骨粗鬆症性骨折のリスクを減らす選択肢の一つ;FDAに認可された骨粗鬆症治療ではないものの、非ホルモン療法が使えない場合の選択肢の一つとなる(エビデンスレベルB)
 【Cancer risk;悪性腫瘍のリスク】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法を3~5年以上継続することにより乳癌のリスクが上昇する(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン単独療法では明らかな乳癌のリスク上昇は認められない(エビデンスレベルB)
B:エストロゲン・プロゲステロン併用療法は大腸癌のリスクを減少させる。エストロゲン単独療法におけるリスクの変化は明らかでない(エビデンスレベルB)
R:子宮のある女性でのエストロゲン単独療法は子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクを上昇させるため、完全な子宮の残った女性がエストロゲンを使用する場合は、プロゲステロン療法の併用が勧められる(エビデンスレベルC)
 【Dosage and duration;用量と期間】
B:更年期症状を訴える女性に対して、ホルモン補充療法は治療の選択肢の一つであり、最小有効量を最短の期間で用い、定期的に再評価を行う(エビデンスレベルC)
R:ホルモン補充療法を3~5年継続した後は、毎年治療の終了を試みるべき(エビデンスレベルC)
 【Heart disease;心疾患】
R:ホルモン補充療法は心疾患予防としてはいかなる年齢の女性に対しても勧められず、既存の心疾患治療にもならない(エビデンスレベルA)
B:早期ホルモン補充療法(閉経開始の時期)は、更年期症状を訴える、心疾患のリスクの低い女性に対しては妥当なものである(エビデンスレベルB)
R:60~70歳代の女性に対してホルモン補充療法を開始することは、冠動脈疾患のリスクを高める;この治療法はホルモン以外の薬物療法に耐えられない有症状の女性に対し、治療のリスクと有益性を医師と十分に議論した上でのみ行われるべき(エビデンスレベルA)
 【Stroke;脳梗塞】
R:エストロゲン・プロゲステロン併用療法とエストロゲン単独療法はいずれも虚血性脳卒中のリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い(エビデンスレベルA)
B:知見は一貫していないものの、50~59歳でホルモン補充療法を開始した女性では脳卒中リスクは上昇しないと思われる(エビデンスレベルB)
 【Vasomotor symptoms;血管作動性の症状】
B:更年期の血管運動症状に対して、エストロゲンは最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している(エビデンスレベルA)
 【VTE;静脈血栓症】
R:エストロゲン単独療法およびエストロゲン・プロゲステロン併用療法はVTEのリスクを上昇させる。特に治療開始後1~2年間はリスクが高い。60歳未満、あるいはエストロゲン単独療法の女性のリスクはやや低い(エビデンスレベルA)
B:観察研究のデータ(ランダム化比較試験ではない)によると、経皮エストロゲンは経口エストロゲンよりもVTEのリスクが少ない可能性がある(エビデンスレベルB)
 【Vulvovaginal symptoms;外陰膣部症状】
B:中等度から重度の外陰・膣萎縮に対しては、局所エストロゲン療法が最も有効な治療法であり、この適応に対してはFDAも認可している。プロゲステロンの追加は必要としない(エビデンスレベルA)

【開催日】
2010年12月1日