尿管結石に対する薬物的排石促進療法

-文献名-
Robert Pickard et al. Medical expulsive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial . Lancet. 2015;386:341-349.

-この文献を選んだ背景-
 尿管結石患者を久しぶりに自分で診る機会があった。
 自然排石を期待する際、本疾患は疼痛が強いため効果が期待される薬剤は極力提案したい。ガイドラインでタムスロシン(ハルナール)やニフェジピン(アダラート)の推奨の記載もあるが、3〜4年ほど前に同薬剤は効果がなかったという論文を読んだ記憶があり、再度確認し直そうと思い選んだ。

-要約-
Introduction
以前のランダム化比較試験のメタ分析ではタムスロシン・ニフェジピンは自然排石の効果を報告していた。小規模・単施設であり、さらに低〜中等度の試験の質であった。また試験デザインのバラつきがあり、評価指標も異なっていた。にも関わらずガイドラインでもこれらの薬剤が推奨されていた。このため、質の高い研究が必要とされており、筆者らが検証した。

Method
多施設(英国の24の病院)、ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール、RCT
尿管疝痛を来した18歳〜65歳の、CTで10mm以下の1個の尿管結石を認めた患者。
ランダムにタムスロシン(400μg/日)、ニフェジピン(30mg/日)、およびプラセボに割り当て4週間内服してもらった(排石や処置を要した際にはその時点で中止)。
処置を要さなかった患者の割合で評価。

Result
・2011年1月11日〜2013年12月20日までに1167人が割り付けられ、1136人が分析された(17人:不的確・14人:追跡不能)。Figure 1論文参照
・処置不要であった割合はプラセボ群(379人)の80%に対しタムスロシン群(387人)は81%であった。
 プラセボ群との調整リスク差は1.3%(95%信頼区間-5.7から8.3、P=0.73)だった。
 ニフェジピン群(379人)も80%で、プラセボ群との調整リスク差は0.5%(95%信頼区間-5.6から6.5,P=0.88)であった。
 タムスロシン群とニフェジピン群を合わせてプラセボ群と比較したが、差は有意では無かった(P=0.78)。タムスロシン群とニフェジピン群の
 比較においても、有意差は見られなかった(P=0.77)Table 2
・性差、結石のサイズ、結石の位置によるサブグループ解析も行われたが同様の結果であった。Figure 2
・副次評価項目(鎮痛薬使用日数、排石までの期間)にも有意差なし。Table 3
・重大な副作用ニフェジピン群で「一例は右腰部痛・下痢・嘔吐、一例は不快感・頭痛・胸痛、一例は重度の胸痛・呼吸困難・左腕痛」の
 3例が報告された。またプラセボ群で「頭痛・めまい・ふらつき・慢性腹痛」の一例が報告された。

貴島先生図①

貴島先生図②

貴島先生図③

discussion

今回の結果ではタムスロシンとニフェジピンは排石に対し有効性を示せなかった。
他の試験では石のサイズの下限(3〜5mm)を設定されており、これらの患者群では、薬物的排石促進療法の恩恵を受ける可能性が高い事が考えられる。

-考察とディスカッション-
・ニフェジピンは有効性と副作用の観点から処方しないでよいのでは。
・他の論文では5mm以上の結石に対しタムスロシンの効果を報告しているものもある。今回の副作用との兼ね合いから処方検討してもよいのでは。
 (処方するにしての、そもそも日本ではタムスロシン200μg/日の用量で男性に)
・保存的治療が対応となる尿管結石の患者に対してタムスロシンやニフェジピンを処方していましたか?タムスロシンを処方しているなら
 その対象患者や用量はどうしていますか?
・この結果を受けて、あなたの処方に変化がありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)