嚥下機能低下ととろみ剤

-文献名-
ROBBINS, JoAnne, et al. Comparison of 2 Interventions for Liquid Aspiration on Pneumonia Incidence A Randomized Trial. Annals of internal medicine, 2008; 148(7): 509-518.

-この文献を選んだ背景-
・60歳代、80歳代の嚥下機能が低下した認知症患者に対しとろみ剤を使用する症例が最近あった。その内一例はムセが続いたためさらにとろみを
 足すか相談した。
・また脳梗塞後遺症で嚥下機能が低下した認知症のない80歳男性を嚥下造影検査(VF)など精査目的に紹介し、とろみ剤使用を指導されたが、
 本人が好まずとろみ剤は使用していない。とろみ剤は美味しくなくなると聞くし、仕方がないかな〜と感じた。その後そもそもどれほどの
 効果があるのか気になった。
・PubMedで「Thickened Fluid」「dysphagia」「aspiration」を組み合わせ検索するなかで見つけ読んでみた。

-要約-
【Introduction】
 誤嚥性肺炎は嚥下障害のある虚弱高齢者において良くあることで、多くの人が嚥下障害による栄養失調・脱水症・肺炎・QOL低下のためケアを必要としている。これらの患者の誤嚥防止のための介入は日常的に用いられているが、その介入の有効性についてはほとんど知られていない。

【Method】
 ランダム化並行群間比較試験。期間は1998年6月9日から2005年9月19日までのうちの3ヶ月間。
 47の急性期病院および79の亜急性期住居施設(subacute residential facilities)の515人で、スプーン3mlのサラサラな液体を嚥下するとき、あるいは、嚥下造影検査時や嚥下時に 特に介入なしに誤嚥をみとめられた際に研究へ登録された。誤嚥は、声帯下に観察されたバリウムとして定義された。顎を引いた姿勢でサラサラ液体、ニュートラルな頭位でネクター様の液体、ニュートラルな頭位でハチミツ様の液体の3群にラムダムに割り当つけられた。
貴島先生図1

Inclusion criteria:50歳〜95歳の認知症あるいはパーキンソン病患者。
Exclusion criteria:過去一年の喫煙、現在のアルコール乱用、頭頸部癌の既往、20年以上のインスリン依存性の糖尿病、経鼻胃管、
         進行性や感染性の神経疾患、6週以内の肺炎。

参加者は、誤嚥が疑われた場合、嚥下造影検査を受けた。

一時アウトカム:明らかな肺炎(胸部レントゲンによる診断、あるいは38度以上の持続する発熱、聴診所見、白血球を認める痰のグラム染色、
        呼吸器病原菌を認める痰培養の4つのうち3つ以上を満たすもの)
        疑わしい肺炎とは、上記の胸部レントゲンでの診断以外の4つのうち2つ満たすものと定義。
二次アウトカム:明らかな肺炎あるいは死亡

【Result】
 対象者:515人がランダム割り付けされ顎を引いた姿勢でサラサラ液体259名、とろみ液体は256名でその内訳はネクター様の液体133名、
     ハチミツ様の液体123名です。

貴島先生図2

貴島先生図3
Figure 2 顎を引いた姿勢ととろみ液体による肺炎の累積罹患率

貴島先生図4

一次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.098(24事例)、とろみ液体0.116(28事例)(hazard ratio [HR], 0.84 [95% CI, 0.49 to 1.45]; P = 0.53)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、
 ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)

二次アウトカム:カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 顎を引く姿勢0.180(46事例)、とろみ液体0.183(46事例)(HR, 0.98 [95%CI, 0.65 to 1.48]; P = 0.94)
とろみ液体のネクターとハチミツ様とでも比較しているが、カプランマイヤー曲線で三ヶ月間の肺炎あるいは死亡の累積罹患率は、
 ネクター様液体0.163(21事例)、ハチミツ様液体0.205(25事例)(HR, 0.76 [CI, 0.43 to 1.36]; P = 0.36)

貴島先生図5

貴島先生図6

貴島先生図7

Table2は 顎引き姿勢、とろみ(ネクター様・ハチミツ様)液体のそれぞれの群での有害事象、入院、死亡をまとめた表です。
少なくとも1回の脱水、尿路感染、発熱を発症した患者は、とろみ群で顎を引く群よりも多く9%対5%([CI, 0.3 to 9 %]; P = 0.055))であった。

【Discussion】
・老人ホームの脳卒中・認知症・パーキンソン病における罹患率は20〜40%ですが、登録患者全員の3ヶ月肺炎の累積罹患率は11%と低かった。
 無治療群のサンプルがないため、介入の結果が表しているこの低い比率か他のケアがもたらす変化かどうか判断できない。
・肺炎の罹患率ですが、ネクター様液体0.084(10事例)、ハチミツ様液体0.150(18事例)( [HR], 0.50 [95% CI, 0.23 to 1.09]; P = 0.083)
 ハチミツ様液体の患者の肺炎時入院期間の中央値がより長く、ネクター様液体はハチミツ様液体より気道からの除去が容易であるかもしれない。
 液体が粘性であればあるほどより安全に摂取するという前提はベッドサイドや嚥下造影検査に基づいている。(目の前で誤嚥を生じていないだけ。
 粘度が高ければ、目の前で誤嚥しないよね。しかし、ゆっくり誤嚥しているよね。ってことを言っている?)
・嚥下障害があっても、サラサラな液体で味や食感を楽しめる顎を引いた姿勢は選択肢になる。
 あるいは嚥下プロセスのトレーニングや監視を要さないネクター様の液体も合理的な選択である。

【開催日】
 2017年2月1日(水)