軽度高血圧を有する、心血管リスクの低い患者に対する降圧薬投与の功罪

-文献名-
James P. Sheppard et al. Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension: JAMA Internal medicine. 2018; 178(12): 1626-1634.
-要約-
◎背景
心血管リスクを低い、軽度の高血圧患者の薬物療法を支持するエビデンスには決定的なものが存在しない。以前の論文は有効性を保証するに至っておらず、ガイドラインでも矛盾が指摘されていた。

◎目的
心血管リスクの低い、軽度の高血圧患者における降圧治療が、死亡や心血管疾患のリスクを下げるかを確認すること。

◎研究デザイン
後ろ向きコホート研究。1998年1月から2015年9月までの間に、未治療の軽度の高血圧(未治療下で140-159/90-99mmHg)を有する18歳から74歳までの患者が対象。既に心血管リスクを有しているものは除外し、途中で関心outcomeを発症したものは除外した。
※ 心血管リスクとは、心血管イベントの既往、左室肥大、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、若年での冠動脈疾患の家族歴、である。
Primary Outcomeは全死亡率、Secondary Outcomeは①心血管イベントによる入院もしくは死亡、②癌による死亡(Negative control)、③有害事象(低血圧、失神、徐脈、電解質異常、転倒、急性腎障害)である。

◎結果
▼ 19143人の治療群と未治療群に分け、追跡期間中央値は5.8年であった。降圧治療と死亡率の間に有意な証拠は診られなかった(HR=0.88~1.17)。心血管疾患との関連性にも有意差なし(HR=0.95~1.25)。
一方で、治療群では、低血圧(HR=1.30-2.20)、失神(HR=1.10-1.50)、電解質異常(HR=1.12-2.65)、急性腎障害(HR=1.00-1.88)のリスクと関連性を有した。
▼ 治療群における年齢、血圧、降圧薬の種類と、死亡率もしくは心血管イベントの発生率には有意差なし。

◎考察
▼ 過去、これらのoutcomeについて、(降圧による)有意な差を見いだせなかったとする研究や、ハイリスク群での研究はあったが、それに答える研究となっている。
▼ 新しいACC/AHAガイドラインにおける、低リスク群の軽症高血圧に対して降圧を促すことで、心血管イベントを減少させうるとするサジェストに異議を唱える結果となった。
▼ また、降圧薬の長期投与が各種の有害事象と関連していることにも言及できた。
▼ 一部有害事象は、電子媒体の不充分な記載によるところもありそうで、例えば入院まで至らなかったり主治医に報告がなされなかったりした転倒のイベントは拾えていない。
▼ 医療機関に報告がなされないようなイベントは患者個人が重要だと認識していなかったり、secondary outcomeは診断バイアスがかかっている可能性もある(治療中の患者は有害事象をより報告しやすくなるなど)。
▼ 残余交絡(residual confounders)に伴い、治療群をよりリスクの高い群とみなした可能性は否定できない
▼ propensity scoreを使用したマッチングを行っており、risk factorの記録の際にバイアスが生じている可能性もある
▼ サブグループ解析において、女性における心血管イベントの発生や、ACEi投与と心血管イベントの発生との間に関連性があるかもしれないと示されているが、重要な交互作用が考慮されていない点には注意が必要。
▼ 追跡期間の中央値が5.8年であり、より長く観察を続けた際に、薬剤投与を続けることの利点が示される可能性はある。

◎結論
測定が不可能な交絡による影響がある可能性を考える必要はあるものの、心血管リスクの低い、軽度の高血圧症の患者における治療を支持する結果は得られず、有害事象のリスクが増加しているという結果を得た。心血管リスクの高い患者で施行された試験の結果を、リスクの低い患者に一般化するガイドラインに従う場合、医師は注意すべきであることを示唆している。

(図1) 患者の特性について
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(表2) 結果
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(図1) 各群、イベントごとの発生割合
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(図2) 有害事象の発生割合
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(図3) サブ解析における治療の有効性の評価
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【開催日】2019年6月12日(水)