虫垂炎に対する抗菌薬と虫垂切除術のランダム化比較試験

-文献名-
The CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. The New England Journal of Medicine 2020; 383:1907-1919

-要約-
INTRODUCTION
虫垂切除術は,60年以上前に代替療法として抗菌薬療法の成功が報告されていたにもかかわらず,長い間虫垂炎の標準治療だった.成人における虫垂炎に対する抗菌薬療法のいくつかのランダム化試験が行われているが,重要なサブグループ(特に合併症のリスクを高めるかもしれない虫垂石を伴う症例)の除外,小さなサンプルサイズ,および一般集団への適用性に関する疑問が,この治療法の使用を制限している.2014年には,米国の虫垂炎患者の95%以上が虫垂切除術を受けた.しかし,2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い,医療システムや米国外科学会などの専門団体は,虫垂炎の治療における抗菌薬の役割など,ケア提供の多くの側面の再検討を提案している.そこで,成人の虫垂炎に対する抗菌薬療法と虫垂切除術を比較するために,この比較試験(CODA)を行った.当初,参加者全員が少なくとも1年間のフォローアップを受けた後に結果を報告する予定だったが,虫垂炎の管理に関するCOVID-19関連の懸念を考慮して,ランダム化後の最初の90日間に基づいて結果を記述する.

METHODS
米国の25のセンターで虫垂炎患者を対象に,抗菌薬療法(10日間コース)と虫垂切除術を比較する実用的,非盲検,非劣性,ランダム化試験を実施した.一次アウトカムは,ヨーロッパのQOL-5次元(EQ-5D)質問票で評価した30日間の健康状態で行った(スコアは0~1の範囲で,スコアが高いほど健康状態が良好であることを示し,非劣性マージンは0.05ポイントとした).二次アウトカムには,抗菌薬群の虫垂切除術と90日間の合併症が含まれていた.その解析は,虫垂石の有無に応じて定義されたサブグループで事前に定義された.

RESULTS
合計で1,552人の成人(虫垂石を伴う414人)が,ランダム化された.776人は抗菌薬の投与を受け(47%はインデックス治療のために入院しなかった),776人は虫垂切除術を受けるように割り当てられた(96%は腹腔鏡下手術を受けた).抗菌薬は,30日間のEQ-5Dスコアに基づいて虫垂切除術に劣っていなかった(平均差,0.01ポイント;95%信頼区間[CI],-0.001〜0.03).抗菌薬群では,虫垂切除術を受けた人の41%と虫垂切除術のない人の25%を含めて,29%が90日までに虫垂切除術を受けていた.合併症は虫垂切除群よりも抗菌薬群でより一般的だった(100人の参加者あたり8.1対3.5;レート比2.28; 95%CI,1.30~3.98); 抗菌薬群のより高い割合は,虫垂石のある人(参加者100人あたり20.2対3.6;レート比5.69; 95%CI,2.11〜15.38),虫垂石のない人(3.7対3.5人100人の参加者;レート比1.05; 95%CI,0.45~2.43)に起因する可能性がある.重篤な有害事象の発生率は,抗菌薬群の参加者100人あたり4.0,虫垂切除群の参加者100人あたり3.0だった(発生率比1.29; 95%CI 0.67〜2.50).

DISCUSSION
30日でのEQ-5Dスコアは,虫垂炎治療に反応する全体的な健康状態の検証済みの尺度であり,主要な結果として選択された.虫垂切除からの回復には典型的な期間と考えられる.
別の関連する結果は,虫垂切除術を受けていない患者の悪性腫瘍を見逃す可能性が挙げられる.ほとんどすべての参加者がCT検査を受け,腫瘍性病変を示唆する所見がある参加者は除外されたが,9つの虫垂切除標本で悪性腫瘍が同定された.注目すべきことに抗菌薬群の参加者の間で発見された悪性腫瘍は少なく,早期発見が患者の転帰に影響を及ぼしたかどうかは不明である.
 今回のCODA試験の幅広い選択基準は,過去の最大のランダム化試験であるAPPAC試験(合計530人の参加者)との結果の違いを部分的に説明できるかもしれない.APPAC試験では,抗菌薬群の虫垂切除術の発生率は,90日で16%,1年で27%,5年で39%だった.虫垂切除術の術中に穿孔が認められた患者の割合は,APPAC試験では2%未満であり,CODA試験では,虫垂切除群で16%だった.CODA試験で特定された穿孔率は,虫垂炎の疫学研究で報告された割合と一致する.APPAC試験では開腹手術のみであったが,CODA試験は,ほとんど腹腔鏡下手術であったことから,APPAC試験でより入院期間が長かったことを説明していると考えられる.
5件のランダム化試験の最近のメタ解析では,虫垂切除術よりも抗菌薬治療の方が,合併症の発生率が低く,障害期間が短いことが示されている.
 今回の試験の限界としては,90日間の追跡データしか含まれていないため,再発と長期的な合併症を過小評価していることである.また,無作為化に同意した患者が約30%であり,センター間でその割合が異なり,選択バイアスをもたらした可能性がある.今回の試験は盲検化されておらず,抗菌薬群の治療レジメンは指定されていなかったことから,いくつかの結果に影響を及ぼした可能性もある.虫垂切除群の一部の患者は手術を拒否し,抗菌薬群の一部はプロトコルで指定された手術基準を満たさずに虫垂切除術を受けた.地域や患者の特性により予想される交絡を考慮して,外来または入院治療による結果を評価しなかった.そして,虫垂石の有無によるサブグループを定義したが,これらのサブグループで観察された結果は,少ないサンプル数の個別の合併症を考慮する必要がある.
 今回の試験で,虫垂炎に対する抗菌薬治療は,少なくとも短期的には,一般的な健康状態の標準化された測定の結果に基づき,虫垂切除術に劣っていないこと示した.

【開催日】2020年12月2日(水)