超高齢心房細動患者に対する低用量エドキサバン

-文献名-
K.Okumura. Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation. NEJM. 2020; Oct 29; 383(18): 1735-1745.

-要約-
Introduction:
年齢とともに心房細動は増加し、年齢と心房細動はいずれも脳梗塞のリスクである。心房細動患者の脳梗塞予防ガイドラインでは、高齢者であっても抗凝固療法が推奨されるが、超高齢者には腎機能障害・過去の出血歴・過去の転倒歴・ポリファーマシー・フレイルなどの出血リスクを鑑みて、処方をためらう医師が多い。高齢化に伴い、ハイリスク・超高齢者の抗凝固療法のエビデンスが必要である。
 低用量エドキサバン(15-30mg)は脳梗塞予防には用量不足として認可外ではあるが、出血のハイリスク群である超高齢者にとっては有益であるかもしれない。
Method:
 今回のELDERCARE-AF試験は、非弁膜症性心房細動を有し、脳卒中予防に承認されている用量での経口抗凝固療法が適当ではないと判断された超高齢(80 歳以上)の日本人患者を対象に、エドキサバン15mgの1日1回投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験(主要評価項目の発現が定められた定数に達するまで継続する試験)である。COIとして第一三共からの資金提供あり。
Patient:80歳以上の非弁膜症性心房細動を有し、CHADs2スコアは2点以上。CCr15-30、出血の既往、BW45kg以下、NSAIDs内服中、抗血小板薬内服といった理由から抗凝固療法を見送られている。
Intervention:エドキサバン15mg内服
Comparison:プラセボ
Outcome:4-48週目までは4週毎、以降は8週毎にフォローアップを行い、有効性として脳卒中または全身性塞栓症の発症、安全性として国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血の発症を評価した。
Results:
2016年8月〜2019年11月に164の施設、1086名がエントリーし、984名がエドキサバン15 mg/日の投与を受ける群(492例)とプラセボ投与を受ける群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。除外された102名は20名が同意撤回、3名が死亡、79例が基準を満たさなかった。平均年齢は86.6(±4.2)歳、平均体重は50.6(±11.0)kg、平均CCr36.3(±14.4)であった。423名が過去に抗凝固療を受けていた。追跡期間は平均466日で、681例が試験を完了、303 例が中止となった。(同意の撤回158例・死亡135例・その他の理由10例)試験を中止した主な理由は出血と関係のない有害事象と試験継続の意志喪失・能力欠如であり、人数は2群で同程度であった。
66例の脳卒中または全身性塞栓症から59例が主要有効性評価項目として認定され、エドキサバン群で15例(2.3%/人年、プラセボ群で44例(6.7%/人年)であった。(ハザード比0.34, 95%CI 0.19~0.61, P<0.001)サブグループ解析でも概ね同様の結果であったが、NSAIDs内服群のみ結果のばらつきがあった。
安全性の評価としては、22例の大出血イベントがあり、エドキサバン群で20例(3.3%/人年)、プラセボ群で11例(1.8%/人年)であった。(ハザード比1.87, 95%CI 0.90~3.89,P=0.09)消化管出血に限ると、イベント発生数はエドキサバン群のほうがプラセボ群よりも多い結果となった。全死因死亡に大きな群間差はなかった。(エドキサバン群9.9%, プラセボ群10.2%,ハザード比0.97,95%CI 0.69~1.36)
Discussion:
 本試験はENGAGE AF-TIMI48試験のデータをもとにエドキサバンを15mgに減量して使用した。
脳卒中と出血の両方のリスクが高い超高齢者に対する確立された標準治療はなく、対照としてプラセボを使用した。先行研究ではアスピリンは心房細動の患者の脳卒中の予防に効果がなく、脳卒中のリスクが高い患者には推奨されなかったため、比較対照薬として抗血小板薬を使用しなかった。
先行研究で腎機能障害があり(CCr15-30)エドキサバン15mgを投与された人と、腎機能障害がなくエドキサバン30-60mgを投与された人の血中濃度は類似しており、今回の試験と先行研究での有効性・安全性の結果が同様であった一因かもしれない。
Limitation:
 脱落患者が多かったが、出血に関連した同意取り下げは6名のみであり、多くは出血とは関係のない有害事象が理由となった。
 日本人(東アジア人)は他の人種と比較して脳卒中や全身性血栓症の発生率が高く、出血の発生率も高いため、他の集団で適応できない可能性がある。

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【開催日】2020年12月9日(水)