TPPと医療問題

― 文献名 ―
 池上彰の学べるニュース アベノミクス、TPP編
 池上彰 海竜社 2013.6

 ― この文献を選んだ背景 ―
  東区の医師会で、医療政策委員会の役員となった。毎月東区支部役員会に参加しているが、話題の一つとしてTPPへの参加の是非についてがある。日本医師会としては反対の声明を出しているが、正直TPPとは何か、TPPの反対論からの意見はあるが賛成側の意見にはどのようなものがあるかが見えなかったため、一度TPPとは何かについて勉強するべきと思い、あえて医療とは関係のないTPPの中立的な意見のありそうな本書を選んだ。

 ― 要約 ―
 
TPPとは?TPPの目的は?

・TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋パートナーシップ協定)とは、太平洋に面した国々で結ぶ貿易協定である。目的は、TPPに加盟する国々の中で自由貿易を進めてそれぞれ経済を発展させよう、ということ。具体的には、加盟する国々の間の関税をなくすことである。

FTA・EPAとTPP
・今までも関税をなくしたり減らしたりする話合いは当事者である2カ国間で行われてきた。FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)は主に物品を対象に、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)は物品に加えて、サービス、人の異動、投資、知的財産などもっと幅広い分野を対象に規制をなくす協定である。
・現時点で日本が結んでいるEPAは13カ国である。ちなみにチリ産ワインへの関税は欧州産ワインの約1/3となり(2012年)、インドネシアやフィリピンとEPAを結んだ結果、両国から日本に看護しや介護福祉士の資格をとりたいという人が来るようになった。日本はこうした2国間のEPAから、今度は多国間のEPAに参加しようとしている。それがTPPである。

世界の貿易の歴史
・第二次世界大戦後の1948年に23カ国で発足し、日本は1955年に加盟したGATT(関税と貿易に関する一般協定)は、戦争への反省から生まれた協定である。自由貿易をやめたことが間違いだったという反省が背景にある。
・1929年に大恐慌が起きると、どこの国も自分の国の産業を守ろうとして関税を引き上げた。これが保護貿易である。しかしこれで世界の物流がストップしてしまい、各国が資源を求めて争い、第二次世界大戦の一因になったと言われている。そこで戦後、自由な貿易を広げて世界経済が発展していけば、戦争を少しでも減らすことができるのではないか、という考え方から自由貿易を基礎とするGATTが生まれ、その後次々と参加する国が増え、1995年、GATTをもとにWTO(世界貿易機関)が設立された。
・しかしWTOには加盟国が増えすぎ(現在159カ国 ※国連加盟国193カ国)、各国の利害が対立し意見がまとまらなくなった。そのため合意までに時間がかかり、話がつく国同士で自由貿易をしようという動きがでてきた。それが2国間のFTAやEPA、さらには地域ごとの自由貿易協定である。
・自由貿易協定にはNAFTA(北米自由貿易協定:カナダ・アメリカ・メキシコ2)、AFTA(ASEAN自由貿易地域:ASEAN諸国10カ国)、EU(欧州連合:27カ国)などがあり、太平洋周辺の国々で作ろうとしているのがTPPである。

TPPの現状
・TPPは2006年、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国で始まり、2010年にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わった。日本でも当時の菅直人総理が2010年10月に交渉参加を検討すると表明したが、国内での反対が多く交渉参加には至らなかった。ところが日本の動きを知ったメキシコとカナダが、経済規模の大きな日本が入った場合、参加が遅れたら不利になると考え2012年に交渉参加開始。結果として日本は立ちおくれてしまった。
・2013年3月、安倍首相がTPP交渉参加を表明したが、後から入った国が決まったルールを覆すのは難しく、通常参加するまではそれまで決まっていることを教えてもらえないため、ふたを開けたら日本に不利なことが決まっていたという可能性も十分考えられる。
・TPPで議論される分野は21分野あるが、日本がTPPに参加するのはアメリカが入っているからである。アメリカは、どんどん経済力をつけている中国を牽制するためにも中国以外のアジア太平洋の国々が対抗したいという思惑があり、アメリカから参加希望があったことも大きいと言われている。

TPP参加のメリット・デメリット
・TPPで貿易が自由化されると、輸出産業には追い風になる。政府の試算によると、日本のGDPは今後10年間で3.2兆円増加する。消費者側としても、関税が低くなることから毛皮や革靴、果物なども安くなる。また、知的財産の権利保護で海賊版の取り締まりもできるようになる。
・しかし、一方で食の安全性としてアメリカでは遺伝子組み換え食品に表示義務がなく、食品添加物の安全性にも問題が残る(認められている食品添加物 日本:653種類、アメリカ:約1600種類)。

TPPと医療問題
・TPPでは混合診療がアメリカで行われているため、TPPに参加した場合には混合診療解禁が求められる可能性がある。日本医師会としては、海外で流通する新しい薬が使用できるようになることや混合診療によって高度な治療が受けられるかもしれないが、自由診療によって貧富の差による医療の偏在化がおこる可能性があるため猛反対している。また、資本力のある海外の病院が入ってきて小さな病院がつぶれる可能性があること、混合診療が入ってくることにより保険のきく治療範囲が狭くなる可能性もあり、国民皆保険制度が撤廃させられる懸念があることもあり、反対の立場をとっている。

TPP交渉の今後の3つの課題
・遅れて参加する日本には①過去の交渉内容が見られない、②残された交渉の機会がすくない、③決定事項を覆せない可能性 があり、日本政府は「聖域」を守り、3つの課題をクリアし国民に有利な条件をどれだけ他の国々に要求できるかが課題である。

開催日:平成25年11月20日