コロナ禍の診断エラーを減らすには?

-文献名-
“Reducing the Risk of Diagnostic Error in the COVID-19 Era” J Hosp Med. 2020 Jun;15(6):363-366.

-要約-
背景【担当者注】
“診断エラー”は, 「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと,もしくは,その説明が患者になされないこと」と定義される.(Improving Diagnosis in Health Care. National Academies Press. 2015.)
下記の3つの分類が存在, 併存する.(Arch Intern Med. 2005;1493-9.)
【①診断の見逃し, ②診断の間違い, ③診断の遅れ】
原因は, 個人の資質の問題(知識不足, 技術不足)ではなく, 「ヒューリスティクス, 認知バイアス」, 「システムの問題」であることが多い. 参考資料https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/182
<論文要旨>
COVID-19のパンデミックは, 診断エラーを高める可能性がある.疾患自体が新しく, 臨床知識やエビデンスが未だ発展途上であることや, 逼迫する医療体制などの状況による, 医療者のストレス, 疲労, 燃え尽きが背景にある.本稿では, COVID-19時代に懸念される診断エラーの新しい類型を提案する.これらのエラーは, システムに基づくものと認知的なものの両方の起源を持つ.いくつかのエラーは, パンデミックに特有のものもある.本研究は, 8つの診断エラーの概要と対策を提示する.

予測される診断エラーの種類(Table, 表)
“古典的”: COVID-19の検査が実施できなかったり, 偽陰性の結果によって診断が困難になる.
“変則的”: 非典型的な, 呼吸器症状を呈さない患者がいる. COVID-19の診断を困難になる可能性がある.
“アンカリング”: 細菌性肺炎などで呼吸器症状のある患者を、COVID-19と誤診する.十分な検査が行われていない場合に起こりえる.
“二次的”: COVID-19患者の続発症を見逃す可能性がある.例えば, COVID-19患者の増悪する呼吸不全の背景に, 凝固障害による肺塞栓症が新規発症している可能性があるが, 原因検索を行わず, COVID-19による肺機能障害として対処される可能性がある.知見が不十分な状況で, この診断エラーは増加する.
“急性に生じる巻き添え”: 新たな急性症状を呈した患者は, 感染リスクを理由に急性期医療の受診を控えることがある.急性心筋梗塞や脳卒中の患者が受診せず診断が遅延することが懸念される.
“慢性に生じる巻き添え”: 定期受診や待機的処置が延期, 自己中断された場合に, 重要な疾患の診断に遅れが生じる可能性がある.
“ひずみ”: 切迫した医療体制によりCOVID-19以外の診断が, 影響を受ける可能性がある.外科医, 小児科医, 放射線科医らが, 急性期医療に「再配置」される.新しい役割を担う臨床医が, 慣れない状況や疾患の症状に直面したときにこの診断エラーは増加する.これまでの経験が豊富であっても, 新しい役割でのスキルや経験が不十分であったり, 指導を求めることに抵抗感を抱くことがある.
“予想外の診断エラー”: 個人用防護具PPEや遠隔医療技術などを使用して患者の診療に当たることが増えている.これは医師と患者の双方にとって未経験なことであり, “予想外”の診断エラーを引き起こす可能性がある.遠隔医療や接触機会の制限の状況では、熟練の臨床医でも病歴聴取, 身体診察能力が低下する可能性がある.

診断エラーに対する戦略
<テクノロジーによる支援>
テクノロジーは, 新たなリスクに対処するためのプログラムやプロトコル作成, 実装に役立つ.例えば, 感染流行状況の把握、重症化リスクの予測アルゴリズムや, 医療機関同士の患者搬送プロトコル, 電子カルテデータから潜在的なリスクを割り出し待機的処置の日程調整を自動で行うプログラムなどが考案されている.
<業務フローとコミュニケーションの最適化>
対面での接触が限られている場合でも, 診療の工夫(例:患者へのiPadの提供, ジェスチャーなどの非言語コミュニケーション)を行うことで, 患者や家族と包括的な話し合いを持つことができる.慣れていない分野に再配置された医師は“バディシステム”を利用し, 経験豊富な臨床医とペアを組むことができ, 助けを求めやすくなる.
<“人”に焦点を当てた介入>
一人での診療に慣れている医師もいるが, 今は「診断ハドル(訳者注 huddle: アメリカンフットボールで, 次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議.)」を導入する時期であり, 異常や困難な症例について議論したり, 何か見逃していないかどうかを判断したりするべきである.
患者にデジタルツールを使った自己診断を奨励することに加えて, 急性心筋梗塞や脳卒中などの特定の重要な疾患については, 公衆衛生当局やメディアの助けを借りて医療支援を求めるよう一般市民に助言することも望ましい.
<組織, 所属機関での戦略>
スタッフの心理的安全性に配慮した組織環境、安全戦略を確保しなければならない.
リーダーは, チームの行動指針や規範について明確に伝える.
認知バイアスにつながる疲労, ストレス, 不安を最小限に抑えるために, ピアサポート, カウンセリング, 勤務時間調整,他の支援を実施する.院内外で, 診断上の課題, 最新の情報を継続的に共有し, 改善すべきである.
<国家レベルでの対応>
アクセス性, 正確性, 検査の性能に関する課題は, 国レベルで対処されるべきである.診断パフォーマンスとアウトカムをモニターし, COVID-19の診断エラーが異なる人口統計にどのように影響するかを評価するために, 標準化された測定基準が開発されるべきである.

結論
臨床医は患者の診断と治療に最善を尽くすように, 認知とシステムに基づいた診療を提供しなければならない.診断エラーと対策を共有し診療システムの再設計と強化を行うことで, 予防可能な診断エラーを防ぐべきである.

表. COVID-19 パンデミックで予想される診断エラー(原表を基に担当者作成)

【開催日】2021年1月13日(水)