患者中心性(人間中心性person-centredness)の教育 何が有効で何が失敗するのか

-文献名-
Bansal A, Greenley S, Mitchell C, Park S, Shearn K, Reeve J. Optimising planned medical education strategies to develop learners’ person-centredness: A realist review. Medical Education. 2022;56(5):489–503.

-要約-
背景 人間中心性(※1)は医学教育の目標として掲げられているが、既存の研究がこれが達成されていないことが示唆している。人間中心性を育成することを目的とした医学教育への介入は、どのように、なぜ、どのような状況で成功するのかについて、十分にわかっていない。
方法 リアリスト・レビュー(※2)の方法論に基づいて、「医学教育」「人間中心」および関連する同義語を用いてMedline、Embase、HMIC、ERICの各データベースと、未出版文献を検索した。医学教育における計画的な教育介入を含み、人間中心性に関連するアウトカムのデータがある研究を対象とした。分析は、さまざまな教育戦略が学習者の生物医学的な視点とどのように、そしてなぜ相互作用し、人間中心性の視点への変化につながる、あるいはつながらないメカニズムを引き起こすかに焦点を当てた。
結果 最終的に、53の介入を表す61の論文が含まれた。データ統合から生成された9つのContext-Intervention-Mechanism-Outcome configuration(CIMOc)についての記述から、修正されたプログラム理論が構成された。教育的介入が人間中心性の理論を用いずにコミュニケーションスキルの学習や経験に焦点を当てた場合、学習者は生物医学的視点との不協和を経験し、学習の重要性を最小限に抑えることで解決し、(生物医学的)視点の維持に終わっていた。教育的介入が人間中心性の理論を有意義な経験に適用し、意味づけのためのサポートを含む場合、学習者は人間中心性の切実さを理解し、(人間中心性の)学習に伴う自ら反応に対処できると感じ、人間中心性への視点の変容(※3)がもたらされた。
結論 本研究の結果は、なぜコミュニケーションスキルに基づく介入は、学習者の人間中心性を育成するのに不十分なのかについて、説明を与えるものである。人間中心性の経験学習と人間中心性がなぜ臨床実践において重要なのかを説明する理論を統合し、学習者が学習に際して生じる自分の反応を意味づけできるようにすることは、人間中心性への視点の変容を支援する可能性がある。私たちの知見は、人間中心性を支援することを目的とした医学教育戦略の開発に情報を提供する上で、プログラムや政策立案者に検証可能な理論を提供する。
※1:人間中心性:患者中心性の4つの概念的枠組み(BPS、patient-as-person、権力と責任の再分配、治療的関係の構築)に加えて、doctor-as-personを加えた5つの枠組みに基づいた、健康および臨床医の役割に対する視点
※2:リアリスト・レビュー:ある介入がなぜ、どのようなメカニズムで、どのような状況で有効なのか?(あるいは有効ではないのか)を研究するための文献レビューの研究方法論。はじめにprogram theory(介入がなぜどのようにして有効なのか?)についてのモデルを作り、それを踏まえて文献をレビュー、さまざまな介入のCIMO(Context=どのような状況で、Intervention:どのような介入をすれば、Mechanims:どのような過程を経て、Outcomes:どのような成果につながるのか)をレビューしていき、CIMOのセットを結果として提示する。
※3変容:原文ではTransformationと書かれているが、おそらくは変容的学習(メジロー)などで言われている世界に対する根本的なものの見方の変化を指している。(McWhinneyが家庭医療学で述べている「パラダイム・シフト」を起こす学習のこと)

【開催日】2022年8月10日(水)