高齢者へのベンゾジアゼピン処方を減らす方法

―文献名-
Donovan T.Maust, Linda Takamine et al. Strategies Associated With Reducing Benzodiazepine Prescribing to Older Adults: A Mixed Methods Study. Ann Fam Med. 2022;20:328-335.

―要約-
【イントロダクションと研究の目的】
高齢者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)の安全性の問題は30年以上も前から知られている。 BZD処方を減らす様々な介入が行われてきたが、米国におけるBZDの使用量は横ばいが続いているが、米国のある退役軍人(VA)の団体の高齢者ではBZDの処方を2013年から2017年にかけて約1/2にまで減らしたという成功事例もある。この期間はVAPDSIという向精神薬の安全性と効果に関するQI活動が行われていた。その活動のフェーズ2(2015-2017)では1/3の医療機関が特に高齢者のBZD処方を減らすことを優先して取り組んだ。
この研究ではVAの医療機関内で適用された現実世界におけるBZD処方を減らす取り組みを調べるためにデザインされた。 第一に量的手法を用いてBZD処方減少というアウトカムにより各医療機関の順位付けを行った。BZD処方減に優先的に取り組む医療機関(priority facilities)がよりBZD処方の減少幅が大きいという仮説を立てた。 第二に量的研究の結果にある背景を知るために質的手法を用い、各医療機関で行われた具体的なBZD処方を減らすための方法を探った。

【方法】
量的手法の部
Veterans Health Administration Corporate Data Warehouseというデータベースを用いてVAPDSIのフェーズ2の期間BZDの長期使用者のコホートを作成した。各医療機関のBZD処方を患者1人、1日当たりのロラゼパム量に換算し経時的に計測。医療機関をBZD処方減に優先的に取り組むpriority facilitiesとnonpriority facilitiesに分類し後ほど結果の項で示すようなグラフに表した。
質的手法の部
量的手法の部で高い結果を得た医療機関(high-performing facilities)と低い結果にとどまった施設(low-performing facilities)複数をインタビュー調査の対象とした。医療機関選定には多様性を持たせるため施設規模や地理的な位置も考慮した。当初はpriority facilities から6施設、nonpriority facilitiesから6施設選定する意図があったが、その仮説に反して複数のnonpriority facilitiesが高順位を獲得しており、5施設加えてインタビューを行う事とした。各医療機関のPDSIの代表者に電話での半構造化インタビューを行い、BZD減量のためにどのような方法をとりそれはなぜ採用されたのか、障壁は何だったのかなどの情報をちょうしゅした.

【結果】
Table1:   患者の情報。
Table2:   全体の結果。
Figure1A: 医療機関毎のBZD処方の減少幅と順位をグラフ化したもの。
(Priority facility のみならず nonpriority facilityも上位にたくさん並んでいることが注目点)
Figure1B: インタビュー調査に選定された施設のみを表示したもの。
Table3:   インタビュー調査に選定された施設における取り組み。質的手法の部においてBZD処方減に積極的
に取り組んでいるかどうか、ではなく減量のためにどのような手法を選択しているのかで
high-performing facilitiesとなるかlow-performing facilitiesとなるかが分かれることが
示された。本研究ではそれを受動的手法(Passive Strategies)と能動的手法
(Active Strategies)とに分けた。

【ディスカッション】
本研究の限界
・ RCTではないため、特定の手法を用いることが医療機関の成果に帰する、という述べ方はできない。
・ 量的手法の部では地域の現場で観察されたBZDを計測したわけではないため、真に患者のBZD暴露が減ったかどうかを反映していない可能性がある。
・ 長期間のケアにおけるBZD処方を考慮していない。
・ 各医療機関のPDSI代表者にインタビューしたため、最前線の現場のスタッフが経験している手法を完全II反映していない可能性がある。
・ 退役軍人という集団で行った研究であり、この結果が非退役軍人のヘルスシステムや若い患者にまで一般化できるかは不明である。

【開催日】2022年11月2日(水)