孤独とパーキンソン病リスク

―文献名―
Antonio T,Martina L,Selin K,et al. Loneliness and Risk of Parkinson Disease. JAMA Neurology. 2023;80(11):1138-1144.

―要約―
Introduction
孤独感とは、本人が求める社会的な関係と実際に感じる関係に隔たりがあるために生じる、主観的な苦しみと定義されている。身体的な健康だけでなく脳の健康にも悪影響は及び、精神疾患や神経変性疾患を発症するリスクが増加する可能性もある。実際に、孤独感の強い人はアルツハイマー病などの認知症リスクが高いことが示されている。しかし、孤独感とパーキンソン病の関係について検討した研究はまだ報告されていない。そこで著者らは、パーキンソン病の発症リスクと孤独感の関係を明らかにするために、住民ベースの前向きコホート研究を実施することにした。
Method
対象は、2006年3月13日から2010年10月1日に、UK Biobankに登録された38~73歳の参加者のうち、ベースラインで「あなたはしばしば孤独を感じますか」という設問に回答していた人。ベースラインで既にパーキンソン病と診断されていた人や、設問に「分からない」「答えたくない」と回答した人は除外した。主要評価項目はパーキンソン病の発症とした。追跡は2021年10月9日まで継続し、英国National Health Serviceの電子健康記録を調べて発症を確認した。 共変数として、年齢、性別、学歴、Townsend貧困指数、喫煙状態、身体活動量、BMI、併存疾患(糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓発作、PHQのうつ病スコア、精神疾患など)、同居家族の人数、家族や友人との交流頻度、社会活動の参加頻度、ポリジェニック・リスク・スコア(ある個人が持つ、特定疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子バリアントをスコア化して、病気の発症や進展を予測する手法)なども調べた。
Results
50万2505人のUK Biobank参加者のうち、条件を満たした49万1603人を分析対象にした。平均年齢は56.54歳(標準偏差8.09歳)、54.4%が女性だった。設問に対して、孤独を感じると回答した人は9万1186人(18.5%)、孤独を感じていなかった人は40万417人(81.5%)だった。両群の特性を比べると、孤独を感じていた人は、やや年齢が若く、女性が多く、健康に好ましくない習慣(喫煙や不活発など)の人が多く、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など)の保有率が高く、精神的な健康状態も不良(抑うつあり/精神科医受診歴あり)だった。平均値で12.33年(1.80年)、延べ606万2197人・年の追跡期間中に、2822人がパーキンソン病を発症していた。発症率は10万人・年当たり47だった。内訳は、孤独感がなかった40万417人ではパーキンソン病発症者は2273人(10万人・年当たり46)で、孤独を感じていた9万1186人では、549人(10万人・年当たり49)だった。パーキンソン病発症者は、非発症者に比べ高齢で、男性が多く、過去の喫煙者が多く、BMIが高く、PDポリジェニック・リスク・スコアも高かった。さらに、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中も多く、精神科医受診歴を有する患者も多かった。 孤独を感じていた人のパーキンソン病発症リスクは有意に高く、ハザード比は1.37(95%信頼区間1.25-1.51)だった。人口統計学的要因、社会経済的地位、社会からの孤立(独居、家族や親族と会う頻度が月1回未満、余暇活動と/または社会活動の頻度が週1回未満)、PDポリジェニック・リスク・スコア、喫煙、身体活動、BMI、糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、抑うつ、精神科医受診歴で調整しても、ハザード比は1.25(1.12-1.39)と引き続き有意差を示した。孤独とパーキンソン病発症の関係は、性別(交互作用のハザード比0.98:0.81-1.18)、年齢(0.99:0.98-1.01)、PDポリジェニックリスクスコア(0.93:0.85-1.02)の影響を受けていなかった。 孤独とパーキンソン病発症の関係は、ベースラインから5年間は有意にならず(ハザード比1.15:0.91-1.45)、5~15年後に有意になった(1.32:1.19-1.46)。
Discussion
 説明のつかない交絡因子や、不正確に測定された共変量による残余交絡によるものかもしれない。遺伝的要因や精神的健康状態のような共有の危険因子による可能性もあるが、ポリジェニック・リスク・スコア(多遺伝子リスクスコア)が関連を減弱させなかったという所見は、観察された関連において共有遺伝因子が実質的な役割を果たしているとは考えにくいことを示唆している。またPDの神経病理学的病態が、PDの前臨床期または前駆期における孤独感の増加と関連している可能性がある(因果の逆転)。実際にPDの非運動症状(例えば、抑うつ、疲労、不安、無気力)はPD患者によくみられ、疾患の初期に出現することがある。しかし、孤独感の増大はPD患者にとって懸念事項であるが、1件の横断研究では、PDの有無による孤独感の差はみられなかった。さらに、われわれの結果は、この逆の因果関係の解釈では関連を完全に説明できない可能性が高いことを示唆している。例えば、この関連はうつ病を考慮した後も残っており、このことは、この前駆症状との重複によるものではないことを示唆している。さらに、逆の因果関係から予想されることとは逆に、孤独感は最初の5年間はPDの発症と関連していなかったが、その後の10年間はPDの発症と関連していた。孤独が様々な経路を通じてPDの危険因子となりうる。しかし本研究では、潜在的な媒介因子となりうる共変量を幅広く検証した。孤独感を経験した人は、運動不足などの有害な行動をとる傾向があるが、2つの顕著な健康行動を加えても孤独感とPDの関連が変わらなかったことから、この経路が主要な役割を果たす可能性は低いと思われる。糖尿病などの慢性疾患を考慮すると関連は13.1%減弱したことから、孤独感は代謝、炎症、神経内分泌経路を通じてPDリスクの上昇に関連する可能性が高いと思われる。孤独とPDとの関連は、メンタルヘルス変数をモデルに含めることで最も減弱した(24.1%)。縦断的な証拠から、孤独とうつ病の間には双方向の関連があることが示唆されており、これらはPDのリスク上昇と共起し、その経路を共有している可能性が高い。それでもなお、我々の所見では、メンタルヘルス変数を考慮した後も孤独感はPDと関連していた。孤独が神経病理学的マーカーと関連しているかどうかを調べることは有益であろう。孤独は神経病理学的リスクと直接関連する可能性があり、PDの発症に寄与する神経変性過程に対する回復力を侵すことによって、PDのリスク増加にも関連する可能性がある。
 この研究の主な長所は、サンプルサイズが大きく統計的検出力が高いこと、追跡期間が長いこと、関連する危険因子を説明するための共変量が幅広いこと、健康記録に基づく診断が独立して確認できることである。限界として、この観察研究では因果関係や因果の逆転が観察された関連を説明しうるかどうかを決定できなかった。孤独感は「はい」か「いいえ」の単一項目で評価した。この尺度は信頼性が高く妥当であるが、多項目尺度と比較すると、単一項目による評価は誤差の分散を増大させ、孤独感とPDの関連を過小評価する可能性が高い。もう一つの限界は、入退院記録や死亡記録を用いていることであり、これは初期段階のPDを見逃す可能性が高い。追跡期間中にPDと診断されたにもかかわらず入院しなかった参加者がいる可能性があり、このような参加者は我々の解析ではPDでないと誤って打ち切られるであろう。これは、孤独とPDリスクとの関連を過小評価する可能性がある。しかし健康記録による確認は研究参加から独立しており、縦断的研究に典型的な減少バイアスを避けることができる。サンプルは比較的若いが、孤独感との年齢的な交互作用はなく、若い参加者を除外しても推定された効果量に影響はなかった。また、UK Biobankは代表的なサンプルではなく、回答率は5.5%であった。しかし、UK Biobankにおける危険因子との関連は、代表的なサンプルで見られたものと同様である。

【開催日】2023年12月13日(水)