とらわれた過去から開放させるには、どのようにアプローチしたらよいのか?

―文献名―
ビル・オハンロン著・前田泰宏監訳.可能性のある未来につながる新しい4つのアプローチ トラウマ解消のクイック・ステップ,2013

―要約―
イントロダクション
トラウマを扱っている書籍の多くは、人に与えられたダメージに焦点を置いている。そして、こういった「ダメージを受けた」人々は長くて困難な回復への道のりに直面するよう導かれる。こういった伝統的なアプローチはしばしば治療に何年も要する。

近年の脳の可塑性に関する研究で、脳は生涯を通じて変化し、進化し続けることが示された。これは年齢がたっても脳は変化し適応するということであり、脳は継続的に繰り返されるパターンに適応し、ついにはそれを規範として受け入れるということを示している。これはトラウマ治療においてよい面でもあり悪い面でもある。つまり、トラウマ治療により症状が改善される可能性を示している一方で、治療のために何度も何度もトラウマに注意を向ければ、脳の回路のなかにより深くトラウマを焼き付けることになるかもしれないという可能性を示唆しているのである。

トラウマと治療に関する神話と誤認
『神話1:トラウマを経験した人は皆、PTSDを発症する』
アメリカにおいて60.7%の男性と51.2%の女性がDSM-Ⅳの項目を満たす外傷的な出来事を少なくとも1回は経験しているが、PTSDの一般的な生涯有病率は7.8%だった(Breslau.1998)
『神話2:PTSDを発症した人はセラピーでのみそれを解消できる』
PTSDの発症後、最初の12ヶ月で症状が大きく改善していき、その後の6年間ではゆるやかに改善していく。治療した人としなかった人を比較した場合には、治療をした群ではPTSDの罹患期間が約半分になった(Kessler et al.,1995))
『神話3:トラウマを追体験させて、それを同化させるような援助を行う、長期の除反応セラピーが最も効果的なアプローチである』
研究ではある一つのアプローチがすべての人に対して役に立つという考えは支持されていない。今回のアプローチ方法がその一つである。
『神話4:トラウマはネガティブな結果しかもたらさない』
DSM-Ⅳの診断基準に合致する外傷的な出来事の結果として、成長体験の報告の方が精神障害の報告の数よりもはるかに多く、また外傷的な出来事を体験していた人のほうが体験しなかった人よりもポジティブな変化を報告していた(Tedeschi & Calhoum,2004)

4つのアプローチ
① インクルーシブセラピー(Inclusive interventions)

我々は皆、可能性に満ちた未分化な状態で人生を始め、さまざまな経験から自分自身の中で「正しいもの」「正しくないもの」を区別し、「正しいもの」を取り入れ(例:『~であるべき』)、他者と自分を区別していき「統合された自己」(アイデンティティーの形成)に至る。そのプロセスの中で、トラウマ体験をすると自分自身の諸問題やそういったトラブルを体験した部分(感情、記憶、感覚等)を分離していくことがある(悲しみを感じない、など)。しばらくはそれで問題ないのだが、社会に出た際その分離された部分が突然戻ってくることがある(例:フラッシュバック、悲しみを感じない人が突然涙がとまらなくなる形等)。そもそも分離された部分は自分自身であるため、「~であるべき」「~しなければならない」などの制限的、強制的になっている部分を承認し、包含していくアプローチが必要となる。

② 未来による牽引(Future pull)
大抵のトラウマ治療は人々を過去に向かわせる。つまり失われた体験を取り戻すために以前に戻り、それを追体験することでトラウマを解消しようとするが、人はポジティブな未来と自分の中の変化に関する青写真をすでに持っている。そのため、過去を未来に方向転換させたり、望んでいない現状を望ましい未来に言い換える(例:今までは~だったんですね、本当は~を望んでいるんですね)。

③ パターンチェンジ(Pattern changing / breaking)
トラウマ体験後の問題の顕著な特徴の1つとして「体験や行動の繰り返し」がある。トラウマ体験後の経験の何らかの規則性を見つけ、小さなパターンの変化を起こす(例:ストレスが溜まったら紙に書く、リストカットしたくなったら人形を傷つける等)

④ 再結合(Reconnecting interventions)
大抵の外傷後の問題の中心的な鍵となる特徴の1つは、解離と断絶である。トラウマのサバイバーは自分自身の感覚全般から解離することが知られている。つまり、彼らは出来事が起こっているということを頭では理解しているが、防衛反応としてそういった出来事を直接的に深く体験したり、あるいは感じたりするということができない(例:離人症)。そのため、個人やコミュニティ、自然やアートなどと再び結びつけることが有効である。
地震の期間中に誰かと一緒にいることがPTSDの防止となる(Armenian, H. At.2000)
PTSDの患者の中で、集団的治療をした人たちは、個人で治療した人たち(31.3%)よりも有意に高い率で回復した(88.3%)。

【開催日】
2014年12月10日(水)