~Motivational Interviewing(動機づけ面接法)とは?(その1)~

【文献】
動機づけ面接法 基礎・実践編
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 著   松島義博、後藤恵 訳

【要約】
なぜ人はかわるのだろう?
・  「動機づけ」への関心は、「なぜ人は変わらないのだろう」と考えるときに始まる。これは、健康管理に携わる人々、教師、カウンセラー、両親および福祉行 政や司法組織で働く人々に共通する疑問である。明らかに、していることがうまくいっていない、あるいは自己破壊的で、第三者の立場から見れば他により良い 方法があるにもかかわらず、なお当事者が同じ行動を繰り返している。このような嗜癖行動は、破壊的であると本人がわかっていても、あえて続けているのが特 徴である。罰を重くしてもそれを防ぐことはできない。人間は、必ずしも賢明で、常識的であるとは限らない。
・ しかし、人が変わることも少なくない。そのため創造的で魅力的な問いは「なぜ人は変わることができるのか?」である。時とともに人は、新しい生き方に順応していく。
・  なぜ人は変わるのであろうか?援助職に携わる人は、援助・カウンセリング・治療・助言や啓蒙活動の結果、人が変わると考えがちである。しかし、変化は自 然におこる。以下のような多くの推定への疑問やいくつかの嗜癖行動の研究などから、「動機」を人が変化する基礎と捉えることができる。
① 正式な介入(カウンセリングや治療)によって生じる変化は、特殊な変化の形式というよりは、むしろ自然の変化を反映している。それにもかかわらず、どの程度の変化が起こるかは、治療者との人間関係に非常に強く影響される。
② 比較的短時間(新しい対処技術を習得したり、性格の変化を経験するには短すぎる時間)のカウンセリングでさえ、変化が起こりうる。
③ 行動の変化は、治療の初期の段階で起こり、平均的には治療の時間や回数はあまり関係がない。
④ どの臨床家に治療を受けるかは、治療の中断・継続・持続および治療結果に対する、重要な決定因子である。
⑤ 特に共感的なカウンセリングは変化を促進し、共感性がなければ変化を妨害される。
⑥ 自分が変化できると信じる人は回復してゆく。カウンセラーが変化を信じていると、実際に回復する。改善の見込みがないと言われた人たちは回復率が低い。
⑦ 「変化を語る」言葉は重要である。変化への動機を反映した言葉や決意の表明は、その人の回復を予見させる。一方、変化に反対する言葉は回復に支障をきたす。どちらの言葉も人間関係(カウンセリング)に深く影響される。
・ 「変化の動機づけは、基本的に不快の回避による」と信じている人たちがいる。十分に深い間んを与えれば、人が変わるというのである。この見方によれば、人が変わらないのはまだ十分に苦しんでいないから、ということになる。
・  人の建設的な行動の変化は、その人の内的価値、重要なこと、大切にしているものに触れた時におこる。人はしばしば行き詰まるものであるが、それは必ずし も、自分の状況の不利な価値を認めないからではなく、むしろ2つの方向を感じている(両価的感情)からである。人が、その迷いの森から抜け出すには、その 人の経験とその人自身の立場から見て、本当に大切なことに従って、道を探さなくてはならない。

アンビバレンス(両価性)
・  両価性は一般的な人間的経験であり、変化の正常な過程の1段階である。この両価的葛藤を病的状態と誤って解釈し、その人の動機、判断力、知識、精神状態 に問題があると結論するのは、安易な方法である。なぜなら、その人を教育し、正しい行動をとるように説得するだけでよい、ということになるからである。実 際、人が変わっていく過程で、両価的状態を経験し行き詰まりの気持ちを経験するのは、普通のことである。
・ 両価性の中で身動きが取れないとき、 問題は持続し、重篤化する。人が変わるためには、この両価的葛藤を解決することが中心的課題であり、両価的状態を検討することは行き詰まりの核心に触れる ことである。これを解決するまでは、変化は遅々として進まず、たとえ変化しても長続きはしないであろう。
・ 「葛藤」は多くの心理学理論の重要な概念で、主に以下のように分類される。
① 「接近-接近葛藤」…同じくらい魅力的なものから1つだけを選ぶときに経験する葛藤
② 「回避-回避葛藤」…2つの嫌のことから1つを選ぶときに経験する葛藤
③ 「接近-回避葛藤」…この葛藤は人を身動きできない状態にさせる特別な性質をもち、強いストレスとなる。この状態では、人は1つの対象に引きつけられると同時に、抵抗感をもっている。(愛さずにいられない、でも愛したら生きてゆけない)
④  「二重接近-回避葛藤」…2つの対象のそれぞれに、心を奪われるほどの好意と同時に強烈な抵抗感を抱き、その間で引き裂かれる。対象Aに接近するとAの 短所が次第に見えてきて、逆に対象Bの長所がすばらしく思えてくる。そこで、方向転換して対象Bに接近し始めると、今度はBの欠点がはっきり見えてきて、 Aが魅力的に見えてくる。
・ 「接近-回避葛藤」を、自分ひとりの力で解決するのは至難の業であろう。人が変わるには、両価性の解決が鍵であり、 事実両価性が解決されれば、変化は容易に起こる。しかし、ある特定の解決法を強要する(直接的説得や、特定の行動に対して罰を与えるなど)と、逆説的反応 が引き起こされ、減らしたい行動をかえって増やすことさえある。

変化を促進する
・ 人間は「ものごとを正したい」という、本能的な願望をもっているようである。介護や医療、教育などの職業に携わっている我々は特に「ものごとを正したい」傾向が強く、この傾向が我々を自分の職業に引きつけたのかもしれない。
・  両価的状態にある人が両価性の板挟みにあるとき、「ものごとを正したい」反応をもっている人に一方の解決法を助言されると、自然に反対の立場を強く主張 する。そして自分の言葉を聞くことにより、さらに反対の行動が引き起こされてしまう。そのため両価的状態にある人に対しては「正したい」反応をなるべく控 えることが大切であることが分かる。これは氷の上で車を運転する場合に覚えなくてはならないことに似ている。 
・ 変化に対する「重要性の認識」 の根本には、矛盾がある。矛盾がなければ、動機も生じない。矛盾は、現在の状況と望んでいた状況の違いであり、現在起きていることとこうであってほしいと 希望していた目標との違いである。これは、2つの「認識」の違いと考えることもでき、この矛盾の度合いが大きければ、変化の重要性も大きくなる。
・  矛盾と両価性は、明らかに重なるところがある。矛盾がなければ両価性は生じない。そこである人たちにとって、変化への第一歩は「両価的状態になること」 である。矛盾が拡大すると、初めて両価性が強くなる。そこで矛盾が拡大し続ければ、変化の方向へと両価性が解決される可能性がある。このように理解すれ ば、現実には両価性は変化への障害物ではなく、むしろ変化を可能にするものである。
・ 抵抗や反発を招く言葉のやりとりがあるように、クライアン トが「変化を語り」初め、実際に変わっていくような対話もある。動機づけ面接法(Motivational Interviewing)とは、クライアント中心主義的であると同時に、両価性を探索し解決することによって、心の中にある「変化への動機」を拡大す る、指示的な方法である。
・ 動機づけ面接法は、ある状況で使えば効果があると立証されている。しかし今までの研究データでは、なぜ、どのように して、この方法が効果を現すのかという点は明らかにされていない。またこの方法は、すべての問題行動やカウンセリングに効果的な特効薬であるというわけで はない。他のカウンセリング技法とともに使える、1つの方法である。「この面接方法はどのような人たちには不向きか」という限界も明らかではないが、治療 を強いられ腹を立てている人には、動機づけ面接法が特に効果的で、治療初期で抵抗が少なく怒りのレベルが低い人には動機づけ面接法よりも認知行動療法など が効果的であると報告されている。
・ 基本的に動機づけ面接法は、変化を触発することを目的としている。ある人にとってはそれだけで十分である が、継続した援助が必要な場合には動機づけ面接法の後で、他の治療法を用いて治療を継続するのが自然である。しかし、驚くべきことに、後に続く治療法が動 機づけ面接法の原則と一致していなくても効果があると報告されている。したがって、最も効果的な統合的治療法は、初めの相談で動機づけ面接法を治療への導 入としてもちいることであろう。また、治療中に問題が生じた時などの「動機づけ」の課題が生じるたびに、背景にある動機づけ面接法を用いて新しい課題の解 決を図ると良い。

【開催日】
2010年8月4日(水)