~痛風の診断精度を上げましょう~

【文献】
A Diagnostic Rule for Acute Gouty Arthritis in Primary Care Without Joint Fluid Analysis
Hein J. E. M. Janssens, MD; Jaap Fransen, PhD; Eloy H. van de Lisdonk, MD, PhD; Piet L. C. M. van Riel, MD, PhD; Chris van Weel, MD, PhD;Matthijs Janssen, MD, PhD
Arch Intern Med. 2010;170(13):1120-1126.

【要約】
背景と目的
 急性の痛風性関節炎の患者の多くは、プライマリケアで診断と治療を受けているが、診断時に関節滑液の分析が行われないことも少なくない。今回、家庭医の診断の精度を調べ、関節液採取なしに痛風を診断するための臨床スコア表を作成した。

方法
  2004年3月24日から2007年7月14日まで、オランダ東部の家庭医93人のもとを訪れた、単関節炎で急性痛風性関節炎の疑いが非常に強い患者 381人を、症状発現が初回かどうかにかかわらず登録した。医師の診断とは別に、全員を対象に受診から24時間以内に関節液を採取した。
 381 人の平均年齢は57.7歳、74.8%が男性だった。それらの中で、顕微鏡観察により関節液に尿酸ナトリウム結晶が認められ、痛風と確定したのは216人 (56.7%)。ただし、受診時に採取された標本が陽性と判断されたのは209人で、7人は追跡中に結晶陽性となったため、その時点で痛風と確定した。
 したがって、プライマリケアで関節液を採取し結晶を指標とする診断を行った場合の感度は0.97(受診時に結晶陽性の209人/結晶陽性の216人)、特異度は0.28(医師の診断が非痛風で結晶陰性の46人/追跡終了後も結晶陰性の165人)となった。
  家庭医が関節滑液の分析なしに痛風と診断した患者は328人(86.1%)。医師の診断の陽性予測値は0.64(受診時に結晶陽性の209人/医師の診断 が痛風だった328人)、陰性予測値は0.87(医師の診断が非痛風で結晶陰性の46人/医師の診断が非痛風だった53人)。これらから計算すると陽性尤 度比は1.3、陰性尤度比は0.1となった。したがって、プライマリケアでの痛風診断の精度は中程度と判断された。
 医師から痛風と告げられた 328人を結晶陽性患者と陰性患者に分けてベースラインの特性を比較したところ、有意な差が見られたのは、男性の割合(陽性群は89.5%、陰性群は 62.2%)、高血圧(52.6%、30.3%)、心血管疾患(30.6%、14.3%)など。これらの統計学的に有意な要因と、あらかじめ定義した変数 を組み込んで、多変量ロジスティック回帰モデルを作成、プライマリケアを訪れる単関節炎患者の尿酸ナトリウム結晶陽性の予測精度=診断精度を、ROC曲線 を描いて分析した。
 最適なモデルは以下の変数を含んでいた。性別が男性、自己申告による関節炎発作歴、24時間以内に症状が最も悪化、関節部の 発赤、第一中足指節関節に症状あり、高血圧または心血管疾患あり、血清尿酸値が5.88mg/dL超。このモデルのROC曲線下面積は0.85(95%信 頼区間0.81-0.90)となった。
 著者らは、日常診療において簡便なモデルにするために、回帰係数を簡単な臨床スコアに変換、以下のような診断用スコア表を作成した。

性別が男性⇒スコア2.0
自己申告による関節炎発作歴あり⇒スコア2.0
24時間以内に症状が最も悪化した⇒スコア0.5
関節部の発赤あり⇒スコア1.0
第一中足指節関節に症状あり⇒スコア2.5
高血圧または心血管疾患あり⇒スコア1.5
血清尿酸値が5.88mg/dL超⇒スコア3.5

 それぞれ該当しない場合はスコア0として合計を求めると、最大値は13.0になる。
 医師が痛風と診断した328人の患者をスコア合計が4以下、4超8未満、8以上の3群に患者を分けると、各グループの結晶陽性患者の割合は2.2%、31.2%、82.5%となった。
 さらに受診者381人全員を対象にこの方法でROC曲線下面積を求めると、0.87(0.84-0.91)になった。臨床スコア4以下、4超8未満、8以下の3群に患者を分けると、各群の結晶陽性患者の割合は2.8%、27.0%、80.4%となった。

結論
 したがって、スコアの合計が4以下であれば痛風の可能性はほとんどないと言える。一方、8以上なら痛風治療を開始してもよいだろう。スコアが4から8の間の患者については必要に応じて関節液の分析を行うべきだ、と著者らは述べている。

【開催日】
2010年8月11日(水)