喫煙に依存している成人における薬物治療の開始。米国胸部学会の公式臨床実践ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Leone FT, Am J Respir Crit Care Med. 2020;202(2) :e5. 
Initiating Pharmacologic Treatment in Tobacco-Dependent Adults. An Official American Thoracic Society Clinical
Practice Guideline.

-要約-
Introduction:
現在の喫煙治療ガイドラインは禁煙への介入の有効性を確立しているが、臨床で多く直面する一般的な実施に関する質問に対して、詳細なガイダンスは提供していない。
治療チームが日常的に直面するいくつかの薬物療法開始の質問に対して、根拠に基づくガイドラインが作成された。

Method:
臨床医にとって重要な質問と結果に優先順位をつけるために禁煙に関する多様な専門家たちが参加した
。エビデンス 作成チームはシステマティックレビューを行い、これらの質問に回答し推奨を提示した
。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)アプローチを用いて、効果の確実性と推奨の強さを示した。

Results:
ガイドラインでは薬物選択に関する5つの強い推奨と2つの条件付き推奨を策定した。
強い推奨事項にはニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、ブプロピオン(日本未発売・抗うつ薬)ではなくバレニクリンの使用、精神疾患患者に対してニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、禁煙の準備ができていない成人でのバレニクリンの開始、12週を超える延長治療期間の利用がある。
条件付きの推奨事項には、バレニクリンを単独で使用するのではなく、ニコチンパッチをバレニクリンと組み合わせたり、電子タバコではなくバレニクリンを使用したりすることが含まれる。

Discussion:
ガイドラインの推奨の数に制限があったため、全ての可能な薬物治療に対応できなかった。将来のガイドラインではバレニクリンが以前に失敗した患者、または以前にバレニクリン治療を拒否した患者に対する、最適なコントローラー戦略を検討する必要がある。

【開催日】2020年12月2日(水)

虫垂炎に対する抗菌薬と虫垂切除術のランダム化比較試験

-文献名-
The CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. The New England Journal of Medicine 2020; 383:1907-1919

-要約-
INTRODUCTION
虫垂切除術は,60年以上前に代替療法として抗菌薬療法の成功が報告されていたにもかかわらず,長い間虫垂炎の標準治療だった.成人における虫垂炎に対する抗菌薬療法のいくつかのランダム化試験が行われているが,重要なサブグループ(特に合併症のリスクを高めるかもしれない虫垂石を伴う症例)の除外,小さなサンプルサイズ,および一般集団への適用性に関する疑問が,この治療法の使用を制限している.2014年には,米国の虫垂炎患者の95%以上が虫垂切除術を受けた.しかし,2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い,医療システムや米国外科学会などの専門団体は,虫垂炎の治療における抗菌薬の役割など,ケア提供の多くの側面の再検討を提案している.そこで,成人の虫垂炎に対する抗菌薬療法と虫垂切除術を比較するために,この比較試験(CODA)を行った.当初,参加者全員が少なくとも1年間のフォローアップを受けた後に結果を報告する予定だったが,虫垂炎の管理に関するCOVID-19関連の懸念を考慮して,ランダム化後の最初の90日間に基づいて結果を記述する.

METHODS
米国の25のセンターで虫垂炎患者を対象に,抗菌薬療法(10日間コース)と虫垂切除術を比較する実用的,非盲検,非劣性,ランダム化試験を実施した.一次アウトカムは,ヨーロッパのQOL-5次元(EQ-5D)質問票で評価した30日間の健康状態で行った(スコアは0~1の範囲で,スコアが高いほど健康状態が良好であることを示し,非劣性マージンは0.05ポイントとした).二次アウトカムには,抗菌薬群の虫垂切除術と90日間の合併症が含まれていた.その解析は,虫垂石の有無に応じて定義されたサブグループで事前に定義された.

RESULTS
合計で1,552人の成人(虫垂石を伴う414人)が,ランダム化された.776人は抗菌薬の投与を受け(47%はインデックス治療のために入院しなかった),776人は虫垂切除術を受けるように割り当てられた(96%は腹腔鏡下手術を受けた).抗菌薬は,30日間のEQ-5Dスコアに基づいて虫垂切除術に劣っていなかった(平均差,0.01ポイント;95%信頼区間[CI],-0.001〜0.03).抗菌薬群では,虫垂切除術を受けた人の41%と虫垂切除術のない人の25%を含めて,29%が90日までに虫垂切除術を受けていた.合併症は虫垂切除群よりも抗菌薬群でより一般的だった(100人の参加者あたり8.1対3.5;レート比2.28; 95%CI,1.30~3.98); 抗菌薬群のより高い割合は,虫垂石のある人(参加者100人あたり20.2対3.6;レート比5.69; 95%CI,2.11〜15.38),虫垂石のない人(3.7対3.5人100人の参加者;レート比1.05; 95%CI,0.45~2.43)に起因する可能性がある.重篤な有害事象の発生率は,抗菌薬群の参加者100人あたり4.0,虫垂切除群の参加者100人あたり3.0だった(発生率比1.29; 95%CI 0.67〜2.50).

DISCUSSION
30日でのEQ-5Dスコアは,虫垂炎治療に反応する全体的な健康状態の検証済みの尺度であり,主要な結果として選択された.虫垂切除からの回復には典型的な期間と考えられる.
別の関連する結果は,虫垂切除術を受けていない患者の悪性腫瘍を見逃す可能性が挙げられる.ほとんどすべての参加者がCT検査を受け,腫瘍性病変を示唆する所見がある参加者は除外されたが,9つの虫垂切除標本で悪性腫瘍が同定された.注目すべきことに抗菌薬群の参加者の間で発見された悪性腫瘍は少なく,早期発見が患者の転帰に影響を及ぼしたかどうかは不明である.
 今回のCODA試験の幅広い選択基準は,過去の最大のランダム化試験であるAPPAC試験(合計530人の参加者)との結果の違いを部分的に説明できるかもしれない.APPAC試験では,抗菌薬群の虫垂切除術の発生率は,90日で16%,1年で27%,5年で39%だった.虫垂切除術の術中に穿孔が認められた患者の割合は,APPAC試験では2%未満であり,CODA試験では,虫垂切除群で16%だった.CODA試験で特定された穿孔率は,虫垂炎の疫学研究で報告された割合と一致する.APPAC試験では開腹手術のみであったが,CODA試験は,ほとんど腹腔鏡下手術であったことから,APPAC試験でより入院期間が長かったことを説明していると考えられる.
5件のランダム化試験の最近のメタ解析では,虫垂切除術よりも抗菌薬治療の方が,合併症の発生率が低く,障害期間が短いことが示されている.
 今回の試験の限界としては,90日間の追跡データしか含まれていないため,再発と長期的な合併症を過小評価していることである.また,無作為化に同意した患者が約30%であり,センター間でその割合が異なり,選択バイアスをもたらした可能性がある.今回の試験は盲検化されておらず,抗菌薬群の治療レジメンは指定されていなかったことから,いくつかの結果に影響を及ぼした可能性もある.虫垂切除群の一部の患者は手術を拒否し,抗菌薬群の一部はプロトコルで指定された手術基準を満たさずに虫垂切除術を受けた.地域や患者の特性により予想される交絡を考慮して,外来または入院治療による結果を評価しなかった.そして,虫垂石の有無によるサブグループを定義したが,これらのサブグループで観察された結果は,少ないサンプル数の個別の合併症を考慮する必要がある.
 今回の試験で,虫垂炎に対する抗菌薬治療は,少なくとも短期的には,一般的な健康状態の標準化された測定の結果に基づき,虫垂切除術に劣っていないこと示した.

【開催日】2020年12月2日(水)

精神障害とその後の病状との関連

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
N.C. Momen, etc. Association between Mental Disorders and Subsequent Medical Conditions. N Engl J Med.2020;382(18):1721–1731.

-要約-
【背景】
 精神障害のある人は、精神障害の発症が無い人々よりも、他の精神障害や様々な疾患の発症リスクが高いと言われている。
【目的】
 精神障害と、精神障害発症後に発症した疾患との関連を包括的にまとめること。包括的な評価により、併存する精神障害と他疾患のスペクトル全体を比較することができる。また特定の期間にわたる精神障害の診断後のさまざまな疾患の相対的および絶対的リスクに関するデータは、臨床医および医療計画担当者が患者の主要な予防ニーズを特定するのに役立つ可能性がある(例えば、精神障害発症後の5~10年の間に循環器疾患が発症する可能性のある30歳のうつ病患者の割合など)。
【方法】
 1900年から2015年までにデンマークで生まれ、2000年から2016年に追跡された590万人以上のデータを含むデンマークの国家登録簿からの集団ベースのコホートを使用し、合計8390万人年の追跡を行なった。10タイプの精神障害と9種類の疾患(31個の特定の疾患を含む)を評価した。Cox回帰モデルを使用して、年齢、性別、暦時間、および精神障害の既往を調整した後、精神障害と疾患のペアの全体的なハザード比と時間依存ハザード比を計算した。絶対リスクは、競合リスク生存分析を使用して推定した。
【結果】
 5,940,299人(11.8%)のうち、698,874人が精神障害の診断を受けたことが確認された。全人口の年齢の中央値は、コホートへの参加時で32.1歳、最後のフォローアップ時で48.7歳だった。精神障害のある人は、90組の精神障害と疾患の組み合わせのうち、76組に関して精神障害がない人よりも疾患発症リスクが高かった。精神障害と疾患との関連のハザード比の中央値は1.37でした。最も低いハザード比は、器質性精神障害(身体疾患(ex.脳血管障害、甲状腺疾患、神経変性疾患、中枢性感染症既往)が原因で精神症状を来すもの)と多種類の癌で0.82(95%信頼区間[CI]、0.80から0.84)であり、最も高いハザード比は摂食障害と泌尿生殖器疾患で3.62であった(95%CI、3.11から4.22)。 いくつかの特定の精神障害と疾患の組み合わせでは、リスク低下を示した(ex.統合失調症と筋骨格系疾患)。精神障害の診断からの時間経過によってリスクは異なった(例えばFigure2に見られるように、いくつかの精神障害と疾患のペアではハザード比が精神障害の診断直後に高くその後数年にわたって低下したがそれでも上昇したままであったり、精神障害診断の最初の年にハザード比が高かったがその後急速に減少するなどのペアもあった)。精神障害の診断から15年以内の疾患の絶対リスクは、発達障害患者と泌尿生殖器疾患の組み合わせの0.6%から、器質性精神障害患者の循環器系疾患の組み合わせの54.1%まで変動した。
【ディスカッション】
 統合失調症患者は膠原病(ex関節リウマチ)のリスクが低いことを発見した。さらに癌の危険因子(喫煙、肥満、身体活動の低下など)は精神障害患者に多く見られる傾向があるが、精神障害によっては明らかに癌のリスクが低いという逆説的な発見があった。精神障害は、ライフスタイル、日常生活、社会経済的地位に影響を及ぼし、それがその後の疾患リスクを媒介する可能性がある。このレジストリベースの研究では、サンプルサイズが大きく、リコールまたは自己報告バイアスによって引き起こされる問題に対する感受性が限られていた。選択バイアスが最小限に抑えられた。またデンマーク国民は医療に自由で平等にアクセスできるため、民間保険を提供する能力または医療へのアクセスに関連する影響は減少した。
【結論】
 ほとんどの精神障害は、精神障害発症後の疾患発生リスク増加と関連していた。ハザード比は0.82から3.62の範囲であり、精神障害の診断からの経過時間によって変化した。
【限界】
 疾患を31種類に限定したが、事故・怪我・急性疾患は含まれていない。さらに精神障害と疾患の個々のペアを分析したが、患者が複数の精神障害と複数の病状を抱えている可能性があるため、共存する状態の全範囲を反映していないアプローチである。さらに、精神障害および疾患の完全な診断およびこれらの病状の正確な発症日に関して不確実性がある。発症日が精神障害および多くの疾患の実際の発症よりも遅い可能性があり、精神障害や疾患の誤った時間的順序につながった可能性がある。加えて精神障害の発生率は20~30代でピークに達するが、研究中の多くの非精神疾患のピークは人生の後半(高齢になり)に発生する。研究の絶対リスクの計算では入手可能なデータの制限があり、精神障害診断後の15年以内の疾患の診断が必要だった。この期間はすべての共存する精神障害と疾患の状態を把握する機関としては不十分だった可能性がある。また結果をデンマーク国外で一般化するには限界があり、共存する精神障害と疾患のパターンは、他国、特に医療や社会経済構造が異なる国では異なる場合がある。

補足付録(Figure S1~142.31の記載あり):
https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1915784/suppl_file/nejmoa1915784_appendix.pdf

Figure1:カテゴリ別の精神障害診断後の疾患リスク
各パネルは、精神障害(各パネルの上部)の診断後の疾患(グラフの左側)のペアワイズリスクを示している。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および調査中の精神障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。ハザード比は対数目盛で表示されます。????バーは信頼区間を示します。
JC202011髙石1

Figure2:気分障害診断後の疾患発症リスク(気分障害診断時期別)
各パネルは、2つのモデルによる、気分障害診断後の病状の時間依存ハザード比を示しています。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および気分障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。横軸は、気分障害診断からの期間を示しています。精神障害と病状の間の他のすべてのペアワイズ比較は、図S23からS62に示されています
JC202011髙石2

Figure3.性別および診断からの時間経過に応じた、気分障害診断後の疾患発症リスク
示されているのは、性別および病状のカテゴリーに応じた、気分障害の診断後の疾患リスク(100人あたりの累積発生率で測定)です。
パネルAは気分障害の診断からの時間に応じた研究に参加したすべての人の推定値を示しています。
パネルBは気分障害診断時の年齢に応じた循環器疾患のリスクを示し、横軸に気分障害の診断からの経過時間を示しています。95%信頼区間(曲線の周りの灰色の影付き領域で示されている)は非常に小さいため、パネルAは推定曲線によって隠され、パネルBは右端のグラフ(>80 Yr of Age)にのみ表示されます。他のすべての絶対リスク精神障害と病状のペアを図S63からS142に示します。
JC202011髙石3

【開催日】2020年11月11日(水)

アタッチメント理論(愛着理論)と継続性(医師患者関係)

-文献名-
Frederiksen, Heidi Bøgelund, Jakob Kragstrup, and Birgitte Dehlholm-Lambertsen.
“Attachment in the doctor–patient relationship in general practice: A qualitative study.”
Scandinavian journal of primary health care 28.3 (2010): 185-190.

-要約-
【目的】なぜ主治医とのinterpersonal continuityは患者にとって有用なのかを探索する

【デザイン・セッティング・対象】
22名の患者にインタビューを用いた質的研究をした。そのうち12名は毎回同じGPに診てもらっており、10名は馴染みの薄いGP(専攻医)に診てもらっていた。診察を観察後にインタビュー対象者を選択し、主訴(受診理由)、年齢、性別によって合目的に対象者を抽出した。研究テーマは心理学的理論を用いて対応した。

質的分析の方法論:*解釈的現象学的分析
「主治医との関係性を患者はどのように経験しているか?」
インタビュー逐語録の読み込み、テーマを注釈し、各テーマを連結させ、最後に、それらのテーマと
主観的な記述の理論的な意味を解釈するための適切な社会心理学的理論を結びつけた。その過程で、Attachment理論が、役立つ枠組みとして立ち上がってきた。

*Attachment理論とは:John Bowlby,1907―1990
主に幼少期における養育者などとの関係性,ことにアタッチメントattachment(愛着)が,人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論。 愛着理論ともいう。

【結果】
患者のinterpersonal continuityの有用性の理解にとって中心的問題は、attachmentの必要性であった。患者はGPとの人間的な関係性の構築をより好み、大多数の患者は医師患者関係の中にある、ある程度の脆弱性を述べた。病気が重症だったり心配が強いほど、患者は脆弱であり、毎回同じGPをより必要としていた。更に、たとえ医師患者関係が好ましくない状況であっても、GPを変えることは困難であると述べていた。

【考察 *抜粋記載】
病気になると、自動的に医師はアタッチメントの対象となる。アタッチメント理論では、安全になることよりも、安心感を得ることへの関心が述べられているが、医師はケアを提供するためのより賢く強い個人として認識される。またアタッチメント理論は、合理的な判断が個人の関係性で説明つかないことも説明することができる。患者は弱い立場(脆弱性)なので、好ましくない医師患者関係の場合も医師を変えるに至らないのだ。

【結論】
Attachment理論は、毎回同じGPに診てもらいたい患者ニーズの原理の説明を提供するかもしれない。患者という弱い立場は、ケア提供者へのattachmentの必要性を作り出す。この欲求は根本的なものであり、病いや怖さを感じる時に活性化される。

【開催日】2020年11月11日(水)

2型糖尿病に対する血糖降下薬の有効性の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Apostols Tsapas, et al. Comparative Effectiveness of Glucose-Lowerinng Drugs for Type 2 Diabetes. Annals of Internal Medicine. Vol.173 No.4 18 August 2020.

-要約-
【背景】
 2型糖尿病の治療薬にはいくつかの選択肢がある。
【目的】
 成人の2型糖尿病における血糖降下薬の有益性と有害性を比較する。
【データソース】
 開始から2019年12月18日までの複数のデータベースと、2020年4月10日のClinicalTrials.gov。
【試験の選択】
 少なくとも24週間の介入が行われ、死亡率、血糖値、血管アウトカムに対する血糖降下薬の効果を評価した英語による無作為化試験。
【データ抽出】
 ペアのレビュアーがデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。
【データ統合】
 9つの薬物クラスから21の糖尿病治療介入を評価した453試験が含まれた。介入には、単剤療法(134試験)、メトホルミン療法への追加(296試験)、単剤療法とメトホルミン療法への追加の比較(23試験)が含まれた。
心血管リスクが低く薬物療法を受けていない患者では、治療法によって死亡率や血管アウトカムに有意な差は認めなかった。
インスリン療法とGLP -1受容体作動薬のメトホルミン療法への追加で、HbA1cが最も低下した。(Fig.2 B)
心血管リスクが低くメトホルミン療法を受けている患者(298試験)では、死亡率と血管アウトカムに関して治療法間に有意な差は認めなかった。(Fig.2 D)
心血管系リスクが高くメトホルミン療法を受けている患者(21試験)では、経口セマグルチド(リベルザス®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、リラグルチド(ビクトーザ®)、徐放性エキセナチド(ビデュリオン®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)が全死亡率を減少させた。(Fig.2 C)
経口セマグリチド、エンパグリフロジン、リラグルチドは心血管死を減少させた。脳卒中のオッズは、皮下セマグルチド(オゼンピック®)とデュラグルチド(トルリシティ®)で低かった。SGLT-2阻害薬は心不全による入院と末期腎不全を減少させた。皮下セマグリドとカナグリフロジン(カナグル®)はそれぞれ糖尿病網膜症と下肢切断を増加させた。
【限界】
 心血管リスクの定義に一貫性がなく、心血管リスクが低い患者の一部の推定値の信頼性が低い。
【結論】
 心血管リスクが低い糖尿病患者では、どの治療法もプラセボと血管アウトカムに差はなかった。心血管リスクが高い患者でメトホルミン療法を受けている場合、特定のGLP-1作動薬とSGLT-2阻害薬は特定の心血管アウトカムに対して良好な効果を示した。
【主要な資金源】
 欧州糖尿病研究財団(European Foundation for the Study of Diabetes)、アストラゼネカからの無制限教育助成金の支援を受けている。

JC202011今江1

JC202011今江2

JC202011今江3

【開催日】2020年11月4日(水)

ペニシリンアレルギーのリスクの層別化

-文献名-
Jason A. Trubiano, et al. Development and validation of a penicillin allergy clinical decision rule. JAMA Internal Medicine. 2020;180(5):745-752.

-要約-
■Importance:
ペニシリンアレルギーは、患者、抗菌薬管理プログラムおよび医療サービスにとって重要な問題である。専門家によるペニシリン皮膚検査を必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを特定するために、妥当性を評価されたclinical decision ruleが求められている。

■Objective:
患者から報告されたペニシリンアレルギーのpoint of care リスク評価を可能にするペニシリンアレルギーのclinical decision ruleを開発、検証する。

■Design, setting, and participants:
 この研究では、オーストラリアのメルボルンにある2つの三次医療機関(Austin Health and Peter MacCallum Cancer Centre)からの622人の患者(多施設、前向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)が参加して、ペニシリンアレルギー decision ruleの開発と内的妥当性の評価を行った。ロジスティック解析・変数減少法を使用してペニシリンアレルギーテストの陽性結果を予測する臨床変数を含むモデルを導き出した。最終モデルの内的妥当性の評価には、Bootstrapped sample(※1)と係数から導出されたモデルスコアリングを使用した。外的妥当性の評価は、オーストラリアのシドニーとパース、テネシー州のナッシュビルからの945人の患者(後向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)で実施された。ペニシリンアレルギーを報告した患者は、皮膚プリックテスト、皮内テスト、パッチテストと経口チャレンジ(直接または皮膚テスト後)を組み合わせたアレルギーテストを受けた。データは2008年6月26日から2019年6月3日まで収集され、2019年1月9日から12日まで分析が行われた。
※1:母集団となるデータがある時に、母集団から重複を許してランダムにいくらかデータを取り出して再標本化する手法。予測モデルの生成に使われる。

■Main outcomes and measures:
 Primary outcomeは、外来または入院患者のペニシリンアレルギーテスト陽性という結果。

■Results:
 モデルの開発および内的妥当性の評価に用いられたコホート622人(女性367人(59%)、年齢中央値60歳(四部位範囲48-71歳))、外的妥当性の評価に用いられたコホート945人(女性662人(70.1%)、年齢中央値55歳(四部位範囲38-68歳))から、多変量解析によりペニシリンアレルギーテスト陽性に関連する4つの特徴は、PEN-FAST(penicillin allergy, five or fewer years ago, anaphylaxis/angioedema, severe cutaneous adverse reaction(SCAR), and treatment required for allergy episode)という略語にまとめられた。大基準(major criteria)には、5年以内に発生したアレルギーイベント(2点)、アナフィラキシー/血管浮腫もしくはSCAR(2点)が、小基準(minor criterion)にはアレルギーに治療を要したというエピソード(1点)が含まれた。内的妥当性の評価では、AUC 0.805(※2)、minimal mean optimism(※3) 0.003だった。ペニシリンアレルギー低リスクの分類には、PEN-FAST 3点以下がカットオフと設定されました。この場合、460人の患者のうち17人(3.7%)のみがアレルギーテスト陽性となり、陰性予測値は96.3%(95%CI、94.1%-97.8%)だった。また、外的妥当性の評価でも同様の結果が得られました。
※2:AUCの診断精度の目安 0.7-0.8 fair, 0.8-0.9 good, 0.9-1.0 excellent
※3:optimismとは、モデルの予測精度の過大評価のバイアス

■Conclusion and relevance:
この研究で、PEN-FASTは、正式なアレルギーテストを必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを正確に特定できる簡便な基準であることと証明された。3点未満のPEN-FASTスコアは高い陰性予測値を有するという結果から、臨床医にとって、あるいは抗菌薬管理プログラムにおいて、ペニシリンアレルギー低リスクをpoint of careで特定するために役立つということが示唆された。

JC202010堀み1

JC202010堀み2

JC202010堀み3

JC202010堀み4

■Limitation:
・非ペニシリンβ-ラクタム系抗菌薬アレルギー、静脈内投与でのみ起こるペニシリンアレルギーが除外されている
・SCARのようなアレルギー表現型を持つ患者が少ない
・予測モデルの生成に際して、入院患者の割合が多かった
・成人患者のみしか適用できない
・ペニシリンアレルギーとアレルギー表現型の有病率が変化する可能性が高い、民族による違いの検証はネクストステップ

【開催日】2020年11月4日(水)

慢性腎臓病の進行に対するアロプリノールの効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Badve SV, Pascoe EM, et al. Effects of Allopurinol on the Progression of Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020;382(26):2504.

-要約-
【背景】
血清尿酸値の上昇は慢性腎臓病の進行と関連している.アロプリノールによる尿酸降下療法が,進行リスクのある慢性腎臓病患者における推定糸球体濾過率(eGFR)の低下を減衰させることができるかどうかは不明である。

【研究のデザインと方法】このRCTは,オーストラリアとニュージーランドの31施設で行われた,二重盲検化,隠蔽化された試験である.痛風の既往がない,ステージ 3 または 4(eGFE15-59) のCKD患者であり,尿中アルブミン/クレアチニン比が 265 mg/gCr以上、または過去 1 年間のeGFR の低下幅が 3.0 ml/min/1.73m2以上である成人集団をアロプリノール(100~300 mg/日)投与郡とプラセボ投与群に無作為に割り付けた.主要アウトカムは,104週目(2年間)までのeGFRの変化.副次アウトカムは,「40%のEGFR低下・末期腎疾患・全死亡の複合アウトカム」,「30%のEGFR低下・末期腎疾患・全死亡の複合アウトカム」,「腎臓アウトカム」「血圧」「アルブミン尿」「血清尿酸値」,「QOLのスコア」,「安全性アウトカム」.

JC202014黒岩1

【結果】
予定していた登録数は620例だったが,登録数が伸びなかったため,369例で募集を終了し,アロプリノール投与群(185例)またはプラセボ投与群(184例)に無作為に割り付けた.1群あたり3人の患者が割り付け後すぐに辞退した。残った363例で主要アウトカムを評価した。(平均eGFRは31.7 ml/min/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比中央値は716.9mg/gCr、平均血清尿酸値は8.2mg/dL)
主要アウトカムであるeGFRの変化はアロプリノール群とプラセボ群で有意差は認められなかった(アロプリノール群は-3.33 ml/min/1.73m2[95%信頼区間{CI},-4.11~-2.55],プラセボ群は-3.23 ml/min/1.73m2[95%CI,-3.98~-2.47],平均差は-0.10 ml/min/1.73m2[95%信頼区間{CI},−1.18 ~0.97;P=0.85]であった)(FIG1)。

JC202010黒岩2

JC202010黒岩3

副次アウトカムについては,
「eGFRの40%低下、末期腎疾患、全死亡の複合アウトカム」は,アロプリノール群では63例(35%)、プラセボ群では51例(28 %)に認められた.(リスク比、1.23;95%CI、0.90~1.67;ハザード比、1.34;95%CI、0.92~1.9)であった。「GFRの40%低下、末期腎疾患、全死亡の複合アウトカム」についても似たような結果であった.(TABLE2)

JC202010黒岩4

ベースライン値を調整した場合の血清尿酸値の平均差は, -2.7mg/dLであった(95%CI、-3.0~-2.5)(Fig2A)。尿中アルブミン/クレアチニン比には有意な群間差は認められなかった(fig2B).収縮期血圧(平均差、-1.79mmHg;95%CI、-4.69~1.11)または拡張期血圧(平均差、-3.21mmHg;95%CI、-6.82~3.40)、またはQOLスコア(36項目の短命健康調査QOLサマリースコアの平均差、-4.4;95%CI、-10.5~1.6)においても有意な群間差は認められなかった.

JC202010黒岩5

重篤な有害事象が報告されたのは,アロプリノール群で182例中84例(46%),プラセボ群では181例中79例(44%)であった(Table3).
重篤な有害事象は両群で同程度の頻度で発生した(アロプリノール群では84人[46%]の参加者で170件、プラセボ群では79人[44%]の参加者で167件)(表3および表S6)。発疹を含む非重篤な副作用のリスクには有意差はなかった。
JC202010黒岩6

【Discussion】
CKDで進行リスクの高い患者において,アロプリノールによる尿酸降下療法は,プラセボと比較してeGFRの低下を遅らせることはできなかった。
今回の結果は、血清尿酸値がCKDの進行に因果関係があるという見解を支持するものではないようである。観察研究から得られた証拠は、尿酸値と慢性腎臓病の進行との間に関連性があるだけで、因果関係はないことを示している。

【今回の研究の限界】
・登録が不完全であったために検出力が不十分であったこと
・試験レジメンを中止した患者の割合が高かったこと
・eGFRの計算に血清クレアチニンベースの式を使用していたこと
・代替アウトカムの使用

【開催日】2020年10月14日(水)

笑いの頻度と一般集団における全死亡率および心血管疾患の発症リスクとの関連

-文献名-
Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study.
J Epidemiol. 2020; 30(4): 188–193.

-要約-
背景
過去の研究では心理学的なポジティブ要因とネガティブ要因は死亡率や心血管疾患と関連していることが明らかにされてきた。笑いやユーモアが健康に対しポジティブな要因だという考えは医療従事者だけでなく一般人の間でも浸透してきている。
2013年の横断的データで、1日の笑いの頻度が高いほど、日本の高齢者における心疾患の有病率が低いことが示されていた。しかし、横断的な研究であるため笑いが心血管疾患の予防効果を明確に示すことはなかった。そこで今回、地域社会に根ざした集団において日常的な笑いの頻度と死亡率および心血管疾患との関連を前向きに調査した。

方法
山形県の年1回の健康診断を受けた40歳以上の17152人が対象
7市(山形市、酒田市、上山市、寒河江市、東根市、米沢市、天童市)の40歳以上の住民
除外基準なし
2009-2015年に、合計20969人(男性8558人、女性12411人)の被験者を登録
66人の被験者が他の地域に移動、ベースライン時のデータが不完全であったため3817人を除外
最大8年間(中央値、5.4年)追跡
男性7003人(40.8%)、女性10149人(59.2%)、平均年齢62.8歳
自己申告した1日の笑いの頻度を3つのカテゴリー(週1回以上、1か月以上1週間未満、月1回未満)に分類
毎日の笑いの頻度と全死因死亡率および心血管疾患発生率の増加との関連をCox比例ハザードモデルを用いて決定

「笑い」=「大声で笑う」と定義
ほぼ毎日、1~5回/週、1~3回/月、1回/月未満の4つの選択肢を提供し、自己申告で得られた回答から3つのカテゴリー(≧1/週、≧1/月だが<1/週、<1/月)にグループ分けした
・笑いの頻度別の有病率
週1回以上       :14096人(82.2%)
1か月以上1週間未満:2486人(14.5%)
月1回未満       :570人(3.3%)

JC202010大西1

笑いの頻度が低い群は、男性・現役喫煙者・糖尿病患者・独身者・身体的不活発者の割合が有意に高かった。

結果
追跡期間中(中央値、5.4年)、257人の被験者が死亡し、138人の被験者が心血管イベントを経験した。Kaplan-Meier解析の結果、笑いの頻度が低い被験者では全死因死亡率および心血管疾患発症率が有意に高かった(log-rank P<0.01)。年齢、性別、高血圧、喫煙、飲酒状況で調整したCox比例ハザードモデル解析では、全死因死亡のリスクは、月1回未満で笑う被験者の方が(週1回以上笑う被験者よりも)有意に高い(ハザード比1.95)。同様に、心血管イベントのリスクは月1回以上週1回未満で笑う被験者が(週1回以上笑う被験者よりも)月1回以上笑う被験者の方が高かった(ハザード比 1.62)。

JC202010大西2

<笑いの頻度に応じた全生存期間>
頻度が低い群で、全死因死亡率が有意に高い(P値=0.003)

JC202010大西3

<笑いの頻度に応じた心血管疾患の無病生存期間>
同様の曲線が心血管疾患についても観察された(P値<0.001)

JC202010大西4

<Cox比例分析を用いた、笑いの頻度と死亡率および心血管イベントとの関連性>
・無調整
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 2.38;95%CI、1.42-3.74)
心血管疾患発症リスク:1か月以上1週間未満の人が有意に高い(HR 2.06;95%CI、1.38-3.00)
・年齢・性別・高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒状況の調整後
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 1.95;1.16–3.09).
JC202010大西5

<笑いの頻度と全死亡率の関連性のサブグループ解析>
女性、非高血圧、糖尿病患者、肥満、知覚される精神的ストレスのレベルが中程度、大学卒業以上のサブグループにおいて、月1回未満の群では、全死因死亡率が有意に高い。
笑いの少ない群では、他の群(4.2~4.7%)に比べて精神的ストレスが低い有病率(7.8%)が高く、笑いの少ない群では精神的ストレスが高い=重度の有病率は他の群(70.3~72.9%)と同程度。

検討
笑いの頻度は、男性、現在の飲酒者、糖尿病、低身体活動、配偶者のいない生活の高い有病率と関連していた。年齢、性別、および喫煙、飲酒状況、高血圧、糖尿病などの複数のよく知られた危険因子を調整した後でも、笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の発症率と独立して関連していることが明らかになった。確立された危険因子とは無関係に、笑いそのものが長寿化や心血管疾患発症率の低下に寄与していることが示唆された。

笑いの頻度が全死亡率と心血管疾患に及ぼす影響は不明であるが、いくつかの可能性が示唆されている。
・笑いは健康を促進する行動と関連している可能性がある。この研究では、笑いの頻度が高い群では、現在の喫煙・飲酒者の割合が低く、身体活動が低いことが示されていた。
・過去の研究で、免疫系に関して、笑いは様々な免疫学的要因に影響を与えることが示されている。
・笑いは血管内皮を改善する:機能や動脈硬化を抑制、食後血糖値やストレスのバイオマーカーである唾液性クロモグラニンAの増加を抑制。

笑う頻度は女性では有意で、男性では有意でなかった。一般的に男性は感情を表に出さない傾向があり、今回の調査では女性よりも男性の方が大声で笑う頻度が低かった。
日常的に頻繁に笑うことの効果は、高齢者、肥満のある人、中等度のストレスレベルの人でより強く認められた。

・本研究の強み
前向き研究、大規模なサンプルサイズ
年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙状況、飲酒状況など、複数のよく知られた危険因子を用いて調整が行われた

<制限>
・笑いの定義に誤差あり
「大声で笑う」が笑いの定義だったので、無言で笑う、微笑む、などは笑いとしてカウントされていない→笑いの頻度が過小評価されている可能性あり。しかし、笑いの度合いには個人差あり→過大評価も過小評価も両方を引き起こしているかも。
・無症状の心血管イベントの症例があったかも
・健康意識の高い、選択バイアスがあったかも
調査対象者は地域の健康診断の参加者→健康意識が高く、社会活動のレベルが高かった可能性がある。

結論
毎日の笑いの頻度は、日本人一般集団における全死亡率と心血管疾患の独立した危険因子である
笑いの頻度を増やすことで、心血管疾患のリスクが減少し、寿命が延びる可能性があることを示唆している
笑い療法は、容易にアクセスでき、受け入れられやすく、費用もかからない
→一般の人々に笑い療法を広く普及させることを支持するものである。

【開催日】2020年10月14日(水)

75歳以上の成人にがん検診の中止について話し合うためのプライマリ・ケア医の準備戦略

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Mara AS, et al. A strategy to Prepare Primary Care Clinicians for Discussing Stopping Cancer Screening With Adults Older Than 75years. Innovation in Aging. 2020; Vol4(4): 1-12.

-要約-
【背景と目的】
75歳以上の高齢者,特に余命が10年未満の人ではがんが過剰にスクリーニングされている.本研究は、プライマリ・ケア・プロバイダー(PCP)にマンモグラフィや大腸がん(CRC)検診の中止について話し合うためのスクリプト(台本.参考文献18の研究で開発されたもの)を提供し、さらに患者の10年後の余命に関する情報を提供することが、患者のこれらのがん検診受診意向に与える影響を調べることを目的とした。

【研究のデザインと方法】
ボストン周辺の7箇所の施設(クリニック,地域の健康センター,大学病院など)に勤務するPCPを対象に実施した.PCPの予約記録から選定された参加者(患者)は受診前後にアンケートに記入した。PCPには、診察前にスクリーニングの中止について話し合うためのスクリプトと患者の10年後の平均余命に関する情報が提供され,研究終了時にアンケートに記入した。質問内容はがん検診の中止について話し合うことと患者の余命についてである。診察前後の患者のスクリーニングに対する意志(1-15のリッカート尺度;スコアが低いほど意図が低いことを示唆する)をWilcoxonの符号付き順位検定を使用して比較した。

【結果】
45のPCPから75歳以上の患者90人(電話で依頼した対象患者の47%)が参加した。 患者の平均年齢は80.0歳(SD = 2.9)、43人(48%)が女性、平均寿命は9.7年(SD = 2.4)であった。37人のPCP(12人が地域密着型)が質問票に記載した。PCP32人(89%)はスクリプトが有用であると考えており、29人(81%)が頻繁に使用すると考えていた。また,35人(97%)のPCPが患者の余命に関する情報が役立つと考えていた。しかし、患者の余命について話し合うことに安心感を感じていると答えたPCPは8人(22%)にとどまった。大腸癌のスクリーニングおよびマンモグラフィ検査を希望する意志を表す患者は受診前から受診後にかけて減少した(大腸癌: 9.0 [SD = 5.3]~6.5 [SD = 6.0]、p < 0.0001,マンモグラフィー: 12.9 [SD = 3.0]~11.7 [SD = 4.9]、p = 0.08,大腸癌で有意に減少)。診察前に患者の63%(54/86)がPCPと余命について話し合うことに興味を持っていたが,診察後では56%(47/84)であった。

【ディスカッション】
研究に参加したPCPはがん検診の中止について話し合うためのスクリプトや患者の余命に関する情報が有用であると考えた。結果として,75歳以上の患者はCRC検診を受けようとする意識が低かった可能性がある。
【Translational Significance(現場に適用できる本研究の意義)】
ガイドラインでは、平均余命が10年未満の高齢者にはがん検診を行わないことが推奨されているが、患者にとって有害性が有益性を著しく上回るためである。しかしながら、PCPが高齢者とがん検診の中止について話し合うことはほとんどない。この研究では、PCPが高齢患者の10年後の余命に関する情報およびがん検診の中止について話し合うためのスクリプト(台本)が有用であることが明らかになり、この介入を使用することで、余命が短く、有益な可能性がほとんどない高齢者ががん検診を受けようとすることが少なくなる可能性があることが明らかになった。さらに、本研究では、56%の高齢者が10年後の余命についてPCPと話し合うことに興味を持っていることが明らかになった;しかしながら、10年後の余命について高齢者と話し合うことに快感を感じているPCPはほとんどいなかった。

 

【開催日】2020年10月7日(水)

思春期の主観的心身症状の軽減に及ぼす学校ベースの家庭と連携した生活習慣教育の効果:クラスターランダム化比較試験

-文献名-
Junko Watanabe, Mariko Watanabe, et al.
Effect of School-Based Home-Collaborative Lifestyle Education on Reducing Subjective Psychosomatic Symptoms in Adolescents: A Cluster Randomised Controlled Trial. PLOS ONE. October 25, 2016. DOI: 10.1371/journal.pone.0165285

-要約-
背景 
 思春期は、思春期及それ以降の人生の、肥満[1-3]、メタボリックシンドローム[4]、および有害な心理学的(心身症または精神医学的)症状[5,6]などの潜在的な慢性的な健康問題を、改善または予防するためのいい機会であり、人生の重大なステージである[7]。肥満を予防するためのライフスタイルの改善方法に関する、学校ベースのクラスターランダム化比較試験が、西欧では数多く行われているが、アジアではほとんど行われていない。
 また、肥満だけでなく、精神衛生上の問題も、世界中の子どもおよび青年の10~20%に見られると報告されている[15]。思春期のライフスタイルと主観的心身症状(SPS)スコアとの関連が報告されているが [16,17]、思春期のライフスタイルを変えるための介入がSPSスコアの改善に有効かどうかを検証した研究はほとんどない [18,19]。日本で、SPSスコアの悪い人が急速に増加していることを考慮すると[20]、日本の思春期の青少年に広く用いることのできる、効果的な生活習慣と行動の介入プログラムを開発することが重要である。
そこで我々は、思春期の青少年の不良なSPSスコアを改善するために、学校ベースで家庭とも協働した生活習慣教育プログラム(Program for ADOlescent of lifestyle education in Kumamoto, PADOK)を開発した。PADOKの設計は、先行研究[9, 21-25]で述べられた戦略に基づいており、各食事時の栄養摂取量を評価することで習慣的な食事摂取量を評価するために開発されたFFQW82食物頻度調査票を用いた評価によって、自発的に思春期の生活習慣を変え、食習慣についてのフィードバックを提供することを目的とした[22,23]。家庭での協力支援を加えることで、好ましい効果が得られる可能性がある。

方法
 思春期の生徒を対象としたPADOKの主観的精神身体症状(SPS)の改善に対する有効性を検討した。

【研究デザイン】個々の中学校を配分単位とし、個々の参加者を分析単位とした2アーム型の学校ベースの2群並行クラスター比較対照試験。

【対象】熊本県の19の中学校から募集された、中学1〜2年生の生徒(12~14歳、n=1,565)を研究対象とした。体調不良などで登校していない生徒や、参加したくない生徒は除外した。

【ランダム化、盲検化など】
PADOKグループとコントロールグループには無作為化リストを用いてpermuted-block法で割り付けた。介入の特徴上、被験者への盲検化はできなかったが、評価者には盲検化していた。

【介入】介入は、2013年5月から2014年1月まで、保健の授業中に行われた。
<PADOKプログラム>:Figure 2参照。FFQW82を用いた食事摂取量の評価に基づき、思春期の生徒の不良なSPSを改善させる目的でPADOKプログラムが実施された。PADOKの介入は、6回の教室での授業、5回の生徒と保護者による対話型の宿題計画、授業と宿題のためのテイラーーメイドのテキストブック、そして6ヵ月に4回の学校通信で構成されていた。
<通常ケア>:通常の学校プログラム(対照群)の生徒は、通常のカリキュラムに従って学校が提供する健康教育セッションに参加した。セッションは、FFQW82を用いた食生活評価のために外部から招聘した講師によって提供された。通常のケアとは、参加している各学校で日常的に教えられている食事および/または運動に関する既存の健康カリキュラムであった。 Figure 1, 2

【栄養士・学習支援補助者の研修】
 栄養士である試験指導者によって行われた。研修は終日(8~10時間)、試験管理センターで行われた。研修期間中、介入の根拠が説明され、各レッスンと宿題が対話的に議論された。
訓練を受けた4人のファシリテーターが、登録栄養士と一緒に各セッションを指導した。ファシリテーターは、少なくとも関連分野の大学の学部卒、適切な専門職歴、または思春期の子どもたちとの関わりの経験を有していた。すべてのセッションにおいて、介入はファシリテーターの観察下で行われた。

【アウトカム測定】
質問紙をベースライン時と介入6ヶ月後の時点で、学生に記入してもらった。
<プライマリアウトカム>SPSスコア。SPS質問紙は9つの症状(疲労感、頭痛、倦怠感、イライラ、集中力低下、意欲低下、朝の目覚めの悪さ、胃腸の不調、肩こり)から構成されている。各症状の経験の有無については、「0 = 一度もない」、「1 = まれに」、「2 = 時々」、「3=よくある」、「4=いつもある」 をリッカート尺度で測定し、9 項目のカテゴリ値の合計として SPS スコア(0-36 点)を算出した。SPS、SPS-Dともに、スコアが高いほど症状が悪い。
<セカンダリーアウトカム>学校生活の楽しみ、BMI、食事摂取量などの生活習慣因子をFFQW82で評価した(Table1参照)。FFQW82 は 82 種類の食品リストから構成されており、各食事(朝食、昼食、夕食)ごと、食品群ごとに、過去 1 ヶ月間の食生活を算出することができる。

【解析】
ベースラインでの試験群間のバランスを評価するために記述統計を用いた。クラスター無作為化が成功していることを確認するために、介入群と対照群の差の有意性をカイ二乗検定とt検定を用いて検討した。一次効果は、PADOK群と対照群のSPSスコアのベースラインから6ヵ月間の変化の差を計算することで評価した。一次分析は、intention to treat(ITT)で実施された。解析には最尤法を用いた線形ランダム効果混合モデルを用いた。連続変数の分析には、制限付き最尤法を用いた一般的な線形ランダム効果混合モデルを用いた。介入の効果を調べるために、アウトカム尺度を粗モデル(モデル1)、ベースライン値で調整したモデル(モデル2)、多変量データで調整したモデル(ベースライン、性、年齢、BMIで調整した)(モデル3)を用いた。
セカンダリーアウトカムについては ITT/LOCF 法を用いて二次解析を行った。感度解析は、ITT/LOCF の SPS-D スコアの解析を含む事前に決定された基準に従って、全データセットから特定されたプロトコルセット(PPS)を用いて、一次アウトカムと二次アウトカムの感度解析を行った。二次アウトカムについては、一般化線形ランダム効果混合モデル(ロジスティックモデル)を解析に使用し、関連性をオッズ比とその95%信頼区間(CI)で示した。
結果
【ベースライン】
Figure1参照。
参加19校はPADOK群(10校)と対照群(9校)に無作為に割り付けられた。登録された生徒数は1,509名であった。6ヵ月後、1,420人の参加者が身長、体重、SPS、生活習慣因子、食事摂取量(FFQW82)の最終評価を完了した。
Table1は、PADOK群と対照群に割り付けられた参加者のベースライン特性を示している。
SPSスコアのクロンバッハα係数は0.88であった。ベースライン時のSPSスコアはPADOK群23.2(3.9),対照群22.8(6.6)であった。ベースライン時の各測定された生活習慣因子とエネルギー摂取量(kJ)を持つ参加者の割合は、両群間で大きな差はなかった。ベースライン時の「1回の断食あたりに消費された野菜」については、介入群と対照群の間に統計的に有意な差(P = 0.012)があった。対照群では、介入群よりも高い頻度で習慣化していた。

【プライマリアウトカム】
ITT/LOCF解析で評価した6ヵ月後のSPSスコアのベースラインからの平均変化量は、粗平均差ではPADOK群が対照群に比べて有意に減少した(-0.95、95%CI-1.70~-0.20、P = 0.016)。SPSスコアの減少(すなわち、負の変化)は、対照群と比較して介入群のSPSの改善を示している。ベースライン調整値(-0.72、95%CI -1.48~0.04、P = 0.063)およびマルチバリアート調整値(-0.68、95%CI -1.58~0.22、P = 0.130)のベースラインからの平均変化は、同様の方向性を示したが、有意ではなかった(表2)。ITT/MI法で得られた結果もこれらと同様であった。SPS-Dスコアについては、粗値、ベースライン調整値、マルチバリアート調整値でベースラインからの平均変化が有意であった。また、感度分析では、各分析とも同様の結果が得られた。

【セカンダリーアウトカム】
PADOK群では、ITT/LOCF分析の結果に応じて、測定された生活習慣のいくつかが改善された。これらの改善(モデル2およびモデル3ではオッズ比[OR]<1)が会ったのは、「学校生活を楽しむ」(OR [95%CI]:0.55 [0.33~0.92]、P=0.022、0.52[0.33~0.84]、P=0.008)、「朝食1回あたりの主食消費量」(0.69[0.50~0.96]、P=0.028、0.68[0.48~0. 65])、「朝食あたりの主食消費量」(0.69[0.50~0.96]、P=0.025)、「朝食あたりの野菜消費量」(0.65[0.45~0.93]、P=0.018)であった。モデル3のものは、これと同様であった(表3)。 感度分析(PPS分析)で得られた結果は、上記とほぼ同様の結果が得られた(表3、表4参照)。また、FFWQ82で評価した食事摂取量については、PADOK群と対照群との間に有意な差は認められなかった。 ディスカッション  PADOKの介入プログラムは思春期のSPSスコアの改善に有効であることが示唆された。また、学校生活の主観的な楽しみ、主食、主菜、主菜、朝食時に消費される野菜の1日の摂取量の増加など、いくつかの生活習慣の改善も観察された。  私たちの調査結果は、定期的に朝食を食べた学生は、学校でより良い行動を取り、そうでない人よりも仲間とうまくやっていく可能性が高いことを報告した先行研究のものと一致していた [33]。瞑想、リラクゼーション、レクリエーション、自然の中での時間など、治療的なライフスタイルの変化の多くは楽しいものであり、それゆえに自立した健康的な習慣になる可能性がある [34]。  PADOK群の生徒の先生方が生活習慣教育の重要性についての考え方を変え、一般授業での改善を目指していた可能性は否定できない。そうであれば、それはPADOK介入の副次的効果と考えることができる。PADOKがSPSの低減と健康促進のための生活習慣行動の促進にどのような効果があるのか、その詳細なメカニズムを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。 強みと限界  我々は、介入に生徒の保護者を参加させることが重要であると考えた [38]。これを達成するために、生徒はPADOKプログラムから得た知識を保護者と話し合うように求められた。家庭での協力的な支援を含めることは、好ましい効果を得るのに役立つかもしれない。思春期の生徒の身体活動介入に関する以前のクラスター化RCTでは、親の支援を含む介入により、学校関連の身体活動の自己報告が増加した [12, 39]。我々の研究では、生徒、その保護者、登録栄養士の間の情報交換に教科書を使用した。教科書のノートを利用することで、3 者間での自由な情報交換が可能であった。このように、3者間での共通理解が生まれることが期待された。 本研究にはいくつかの限界があった。第一に、PADOKプログラムの成功は管理栄養士のスキルにある程度依存していることである。この問題に対処するために、我々は登録管理栄養士が無作為化試験開始前に行うトレーニングプロセスを開発した。また、SPSの自己申告による評価に依存し、診断的な相互評価は行っていない。したがって、SPSの状態に重要な変化があった可能性がある。  第三に、結果の一般化可能性については、熊本県の日本人中学生に限定した。また、当初 178 校に参加を依頼したところ、19 校が参加に同意し、残りの 159 校は参加を辞退した。その理由として最も多かったのは、「カリキュラムが既に決まっていて変更できない」というものであった。そのため、本試験に含まれるサンプルセットは、平均よりも革新的な学校を過剰に代表している可能性があり、バイアスのリスクがあると考えられる。しかし、無作為化を実施したので、リスクが存在することは否定できないが、バイアスのリスクは小さい。利用可能なデータ[20]によれば、熊本の生徒の健康状態や活動状況は日本の平均的な青年期と大差がなかったことを考えると、この結果は日本の他県の一般的な青年期にも当てはまる可能性がある。第四に、介入期間は6ヶ月であったが、より長期の介入は児童生徒の精神衛生を改善することが明らかにされている[40]。さらに、健康行動介入がメンタルヘルスのアウトカムに「波及効果」を持つ可能性があるという証拠も出てきており[41, 42]、これも考慮すべきである。PADOKプログラムの長期的な効果と費用対効果を評価するためにはさらなる研究が必要である。第5に、クラスタランダム化が成功したことを確認するために、介入群と対照群の間のベースライン値の差を調査した。いくつかの変数が有意な差を示したが、ランダム化の性質上、これらの差は偶然に生じたものである可能性があると考えられる。最後に、LOCF法を用いて欠落アウトカムを推定した。介入群と対照群のフォローアップまでの喪失率は同程度であった(それぞれ40[5.0%]、49[4.9%])。 結論   これまでのところ、日本の青年期に生活習慣の介入を行うことが不良なSPSスコアの改善に及ぼす効果については、クラスターRCTからのエビデンスが不足していた。我々の試験は、この文献のギャップを埋めるものである。その結果、熊本の中学校で実施された生活習慣介入プログラムは、青年のSPSスコアを改善し、朝食時に主食、主菜、野菜を毎日定期的に摂取し、学校生活の楽しみが増えたと報告する参加者の割合を増加させたことが示された。この試験集団はPADOKプログラムのアドヒアランス率が中程度に高いことを示しており、これは、より広範な学校ベースの家庭での共同実践においてPADOKプログラムが実現可能であることを示す重要な指標である。本研究は、熊本地域の児童生徒のみならず、日本の青少年全般を対象とした生活習慣教育介入を設計する上で有用な情報を提供するものである。 JC20201007柏﨑1

JC20201007柏﨑2

JC20201007柏﨑3

JC20201007柏﨑4

JC20201007柏﨑5

【開催日】2020年10月7日(水)