小児および成人におけるワクチン接種後のアナフィラキシー発生のリスク

-文献名-
McNeil, M. M., Weintraub, E. S., Duffy, J., Sukumaran, L., Jacobsen, S. J., Klein, N. P., Hambidge, S. J., Lee, G. M., Jackson, L. A., Irving, S. A., King, J. P., Kharbanda, E. O., Bednarczyk, R. A., & DeStefano, F. Risk of anaphylaxis after vaccination in children and adults. The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2016, 137(3), 868–878. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2015.07.048

-要約-
Introduction:アナフィラキシーは致死的になりうる急性の全身性の過敏反応だが、予防接種後のアナフィラキシーのリスクを定量化するにはデータが限られていた。アナフィラキシーの頻度は低いので、大規模な集団を調査しなくてはならず、ワクチン安全性データリンク(The Vaccine Safety Datalink ; VSD)がCDCなどと協働してそうしたデータを提供する組織である。過去にBohlkeらが1991−1997年のVSDのデータを分析して人口ベースのワクチン関連アナフィラキシーのリスクを調べたことはあるが、その後予防接種の推奨スケジュールの変更や、推奨年齢の拡大、新しいワクチンやワクチンの組み合わせもいくつか導入されたし、アナフィラキシーの症例定義やデータ収集、分析、組み入れを標準化するためのブライトン分類も開発された。さらに、VSD自体も合計9拠点に拡大し、より多くの集団におけるワクチンの安全性を監視できるようになった。そこで、(1)すべてのワクチンおよび個々のワクチンのアナフィラキシーの発生率を推定する、(2)アナフィラキシーの人口統計および臨床的特徴を説明する、の2点を目標に最新のVSDデータを調査し、ブライトン分類で分析した。

Method:9ヶ所のVSDサイトで2009年1月1日から2011年12月31日までの間にワクチン接種を受けた健康な小児および成人を組み入れた。ICD-9-CMに基づいてアナフィラキシーの可能性のある症例を特定し、2人の専門家がカルテレビューし、ブライトン分類に適合するかどうかを調べた。全ワクチン合計および個別ワクチンについて、アナフィラキシー発生件数および、ワクチンの数で調整した発生率を使って、ワクチン100万回あたりのアナフィラキシー発生率および95%信頼区間を計算した。

Results:2009年1月1日から2011年12月31日まで、2517万3965回(延べワクチン種類・回数ではなく接種回数にすると1760万6500回)のワクチン接種が行われた。ワクチン関連のアナフィラキシーは33件認められた(ワクチン100万回あたり1.31件;95%CI ,0.90-1.84、接種回数100万件あたり1.87件;95%CI,1.29-2.63)。1回の接種で複数のワクチンが投与されることが多いため、接種回数に基づくアナフィラキシー発生の割合は、延べ接種回数のそれより多かった。すべての症例がブライトン分類1か2だった。28例でアトピーの既往があり、そのうち3例はアナフィラキシーの既往、16例は喘息もあった。喘息ではないアトピーの10例中9例は、食物や抗菌薬へのアレルギーの既往があった。死亡例はなく、入院したのは1件だった。女性の方が男性より多かった(女性20名、男性13名)。年齢範囲は4−65歳だった。ほとんどのワクチンが他のワクチンと同時接種されたため、特定のワクチン接種後のリスクを定量化することは困難だった。アナフィラキシーの発症時間は30分以内が8例、30分以上120分未満が8例、2時間以上4時間未満が10例、4時間以上8時間未満が2例、翌日1件、記載なしが4件だった。

Discussion:今回の研究ではワクチン100万回あたり1.31例のアナフィラキシーを認めた。Bohlkeらの研究(100万回あたり0.65回)よりもわずかに高かったが、Bohlkeらの研究は小児と青少年に限定されていたし、多くの外来患者についてのデータが欠けていた。近年のアメリカでは、不活化3価インフルエンザワクチンが、桁違いに最も接種されているワクチンになっており、これを除くとアナフィラキシーの発生率が低いため、個別ワクチンのアナフィラキシー発生率を推定することができない。ワクチン接種後のアナフィラキシーの発症は稀だった。アナフィラキシーコードに加えてアレルギーコードでもデータ捕捉をしたが、それでもエピネフリンを使われなかったアナフィラキシー症例を見逃している可能性はある。アナフィラキシーを起こした33例中28例でアトピー性疾患の既往があり、特に喘息の既往はアナフィラキシーのリスクである。アナフィラキシーが生じた際にエピネフリンを使用されていたのは45%(15例)にとどまっていた。アナフィラキシーは稀ではあるが、数分以内に生じるし、起こすと生命を脅かす性質があるため、ワクチン接種者はアナフィラキシーのマネジメント手順を準備しておく必要がある。

【開催日】2023年10月4日(水)

早期アルツハイマー病におけるレカネマブ

-文献名-
C.H. van Dyck, C.J. Swanson, P. Aisen, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.

-要約-
【Abstract】
(背景)可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病における病理学的プロセスを開始または促進する可能性がある。レカネマブは、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者を対象に試験が行われている。
(方法)早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)で、ポジトロン断層撮影(PET)または脳脊髄液検査でアミロイドが認められた50~90歳の患者を対象に、18ヶ月間の多施設共同二重盲検第3相試験を実施した。参加者は、レカネマブ静脈内投与群(体重1kgあたり10mgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は、CDR-SB※注1(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;0~18点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヶ月時点におけるベースラインからの変化であった。主な副次評価項目は、PETによるアミロイド蓄積の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、0~90点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、0~1.97点;スコアが高いほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53点;スコアが低いほど障害が強いことを示す)のスコアである。
(結果)合計1795人が登録され、898人がレカネマブ投与群、897人がプラセボ投与群に割り付けられた。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2であった。18ヶ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(差-0.45;95%CI、-0.67~-0.23;P<0.001)。698人の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド蓄積の減少が大きかった(差-59.1センチロイド;95%CI、-62.6~-55.6 ※注2)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI、-2.27~-0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI、-0.074~-0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI、1.2~2.8、P<0.001)であった。レカネマブ投与により26.4%に急性注入反応(インフュージョンリアクション)が、12.6%にアミロイド関連画像異常;ARIA-E(頭部MRIでの浮腫性変化)が認められた。 (結論)レカネマブは、早期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月後の認知機能と機能の測定においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象と関連していた。早期アルツハイマー病におけるレカネマブの有効性と安全性を明らかにするために、より長期間の試験が必要である。(資金提供or研究協力:エーザイ(日)、バイオジェン(米)) ※注1:日本語版CDR(0.5点をMCI、1点以上を認知症として捉えることが多い。各スコアの合計=CDR-SB)
※注2:センチロイドはPETにおけるアミロイド集積量の評価法。若年正常陰性を0、軽度~中等度の典型的アルツハイマー型認知症の平均レベルを100として表現。50センチロイド以上がアルツハイマー型認知症確定診断病理例に相当すると推定されている。

【Introduction】
・アミロイドの除去が認知症の進行を遅らせることが示唆されている。
・抗アミロイド抗体の一つ(アデュカヌマブ、米国商品名:アデュヘルム)は、米国FDAから早期承認を受けている。
・レカネマブ(米国商品名:レケンビ)はヒト化モノクローナル抗体で、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合する。
・早期アルツハイマー病患者を対象に、レカネマブの安全性と有効性を検討する第3相試験を実施した。

【Methods】
・早期アルツハイマー病患者を対象とした18ヶ月間の多施設共同・二重盲検・プラセボ比較試験。
・レカネマブ群(10mg/体重kgを2週ごと投与)とプラセボ群に1:1に無作為割り付けした。
層別化:アルツハイマー病による認知機能障害、抗認知症薬の使用、アポリポ蛋白Eε4キャリアの有無、地理的特性。
・アルツハイマー病および統計学の専門家によるモニタリング委員会が、盲検化されていない安全性データをレビューした。
独立した医療チーム(試験割り当てグループを知らない)がARIA、輸液関連反応、過敏性反応を検討した。
臨床評価者は、安全性評価および試験割り当てグループを知らなかった。
・適格基準:アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症を有する50~90歳。アミロイド陽性はPETまたは脳脊髄液によるAβ1-42測定により判定した。
・評価項目:省略(Abstract参照)
・統計解析:無益性や有効性に関する中間解析は計画されなかった。有効性の解析は修正ITT解析(レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与され、ベースライン評価およびCDR-SB測定を少なくとも1回実施)により実施した。安全性の解析は、レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与された参加者集団で評価された。ARIA(アミロイド関連画像異常)は9, 13, 27, 53, 79, 91週目のMRIでモニタリングされた。

【Result(参加者)】 (Figure 1、Table 1参照)
・スクリーニング5967人、無作為化1795人(レカネマブ群898人、プラセボ群897人)、北米・欧州・アジアの235施設にて。
・追跡完了はレカネマブ群729人(81.2%)、プラセボ群757人(84.4%)。修正ITT解析は1734人で実施。
・ベースライン時の参加者の特徴は2群で概ね類似(平均71歳、CDR-SB 3.2/18点、MMSE 25.5点)。非白人が20%強。
【Result(評価項目)】 (Figure 2、Table2参照)※Table2は本ファイルでは省略
・主要評価項目であるCDR-SBはベースラインで約3.2点、18ヶ月後の変化量の補正平均はレカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(-0.45、95%CI、-0.67~-0.23、p<0.001)。 ※「認知症の進行を27%抑制」の数的根拠と思われる。 ・副次評価項目に関して、18ヶ月後の平均変化量は以下の通りであった。  (1) PETでのアミロイド蓄積:レカネマブ群-55.48センチロイド、プラセボ群3.64センチロイド(95%CI:-62.64~-55.60、p<0.001)  (2) ADAS-cog14スコア:レカネマブ群4.14点、プラセボ群5.58点(95%CI:-2.27~-0.61、p<0.001)  (3) ADCOMS:レカネマブ群0.164点、プラセボ群0.214点(95%CI:-0.074~-0.027、p<0.001)  (4) ADCS-MCI-ADL Score:レカネマブ群-3.5点、プラセボ群-5.5点(95%CI:1.2~2.8、p<0.001)

【Result(安全性)】(Table 3参照)
・死亡:レカネマブ群0.7%、プラセボ群0.8%。研究担当医によりレカネマブに関連すると判断された死亡例はなし。
・重篤な有害事象:レカネマブ群14.0%、プラセボ群11.3%。
→急性注入反応(インフュージョンリアクション)(レカネマブ群1.2%/プラセボ群0%)、ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常)(同0.8%/0%)、心房細動(同0.7%/0.3%)、失神(同0.7%/0.1%)、狭心症(0.7%/0%)。
・全ての有害事象:両群で発生率は同程度であった。
・投与中止に至った有害事象:レカネマブ群で6.9%、プラセボ群で2.9%。
・レカネマブ群で多かった有害事象は以下の通り。
・急性注入反応(インフュージョンリアクション):レカネマブ群26.4%、プラセボ群7.4%。大部分は軽度~中等度で、初回投与時。
・ARIA-H(出血性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群17.3%、プラセボ群9.0%
・ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群12.6%、プラセボ群1.7%
・頭痛:レカネマブ群11.1%、プラセボ群8.1%
・転倒:レカネマブ群10.4%、プラセボ群9.6%
・ARIA-Eの91%は軽度~中等度で、78%は無症状で、81%は発見後4ヶ月以内に消失した。
ただし参加者の2.8%に症候性ARIA-Eが認められた(症状:頭痛、視覚障害、錯乱など)。

※急性注入反応(インフュージョンリアクション):分子標的薬などの点滴時に一過性の炎症・アレルギー反応が起こされる病態。サイトカイン放出によると考えられている。主な症状は発熱、悪寒、頭痛、発疹、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショックなど。
※ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities):頭部MRIでのアミロイド関連画像異常のこと。浮腫性変化を伴うものをARIA-E(edema/Effusion)、出血性変化を伴うものをARIA-H(Hemosiderin deposition)と呼ぶ。

【Discussion】
・主要評価項目であるCDR-SBの18ヶ月後の変化量はレカネマブ群でプラセボ群より有利であった。副次評価項目も同様であった。
・CDR-SBスコアの臨床意義については確立されていないが、プロスペクティブに定義された治療差の目標を上回っていた。
・認知症ステージの進行のハザード比についても、プラセボよりもレカネマブが有利であった。
・レカネマブ群におけるARIA-Eの発症率は12.6%、ARIA-Hの発症率は17.3%であった。
ARIA-Eは一般に最初の3ヶ月間に発生し、軽度で無症状であり、4ヶ月以内に消失することが多かった。
ARIA-E(症候性・全て)の発生率は、いずれもApoE ε4ホモ接合体で最も高かった。
・研究限界:18ヶ月間の治療データしか含まれていない。COVID-19流行に伴う介入不実施、評価の遅延、疾患の併発などがあり、脱落率は17.2%に上った。ARIAの発生に関して、参加者や治験担当医師が試験群の割り付けを認識していた可能性がある。
・現在、各種の追加試験が計画・実施されている。
・結論:早期アルツハイマー病患者において、レカネマブは脳アミロイド蓄積を減少させ、18ヶ月後の認知機能および各種の評価項目についてプラセボと比較して中等度の低下・抑制を示したが、有害事象を伴った。早期アルツハイマー病患者におけるレカネマブの有効性と安全性を決定するためには、より長期間の試験が必要である。

【開催日】2023年9月13日(水)

低用量アスピリンの連日投与による鉄欠乏と貧血

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Zoe K McQuilten, et al. Effect of Low-Dose Aspirin Versus Placebo on Incidence of Anemia in the Elderly : A Secondary Analysis of the Aspirin in Reducing Events in the Elderly Trial. Ann Intern Med. 2023; 176(7): 913-921.

-要約-
●Introduction
・高齢者の貧血(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))は重要な健康問題。
・75歳以上の人の貧血の割合:約30%(入院患者例)、約12%(コミュニティベース)。
・高齢者の貧血の原因としては、鉄欠乏・腎性・慢性炎症性が多いが、1/3は原因不明。
・貧血は、機能障害・病的状態・死亡率と関連。ただし因果関係は不明。因果関係があったとして、貧血が健康に及ぼす潜在的な影響が介入可能なものなのかどうかも不明確。

・米国では約50%の高齢者が予防的にアスピリン内服していたが、最近の非推奨に伴い減少中。
・アスピリンの害は大出血、とりわけ消化管出血で、出血イベントは高齢者に多い。
・顕性出血とアスピリンの関係は明らかだが、貧血との関係を研究した報告はほとんどない。
・不顕性出血により鉄欠乏を起こし貧血となる可能性、一方で炎症を抑える機序で貧血に抑制的に働くかも。

・The ASPREE (ASPirin in Reducing Events in the Elderly)試験は、二重盲検、無作為、プラセボ対照試験で、70歳以上(*米国の黒人・ヒスパニックにおいては65歳以上)の健常者において、アスピリン100 mg内服群がプラセボ群と比較して、無障害生存期間を延長するかどうかを主要評価項目に置いた研究。(*大田注:結論としては延長させなかった。N Engl J Med 2018; 379(16): 1519-1528.)
・全参加者は毎年Hb値測定し、一部は試験開始時と3年後に生化学採血も実施。
・ASPREE試験のpost hoc解析(事後解析)の
主な目的)健常高齢者において、低用量アスピリンの連日投与が貧血の発症率に及ぼす影響を評価する
副次的目的)Hb値、Fer、鉄欠乏の変化に対するアスピリンの影響を探索する

●Method
・ASPREE試験について
2010年3月~2014年12月 市中在住の19114人組み入れ。オーストラリアのプライマリ・ケア提供者or 米国の臨床試験センターを通じて。*除外:貧血あり、出血の高リスク群(例:消化性潰瘍既往、食道静脈瘤)、アスピリンを二次予防で使用、他の抗血小板薬や抗凝固薬使用、心血管イベント歴、Af、予後5年以内が想定される疾患併存、認知症。*NSAIDs使用は必要最小限に限り許可された。
アスピリン群・プラセボ群を1:1に振り分け。年1回受診とカルテレビュー、定期的な電話での確認で補足。年1回採血。

・フェリチン:割付時と、3年後フォロー時の血液検体で可能な範囲で測定。

・アウトカムの定義
プライマリアウトカム:貧血の発症率(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))。
*毎年のHb値測定データを利用。
セカンダリエンドポイント:大出血(脳出血、有意な頭蓋外出血(輸血・入院・入院期間延長・手術を要した、死亡につながった))

・統計学的解析
-鉄欠乏の定義は、Fer <45 µg/Lを採用(米国消化器病学会)
-毎年Hb値測定し、貧血出現までの期間を分析するためにコックス比例ハザードモデルを使用。
-累積発症率の測定にはAalen-Johansen estimatorを使用(Kaplan–Meier estimatorのmulti-state (matrix) version)
-一次解析は調整なし、二次解析では貧血のリスクと関連し得る予後因子で調整(性別、年齢、人種、居住状況、喫煙、アルコール摂取量、eGFR、癌の既往(メラノーマ以外の皮膚腫瘍を除く))、糖尿病、CKD(尿Alb/Cr 30 mg/gCr以上 or eGFR 60未満で定義)、高血圧、NSAIDs使用、PPI使用)。
-ASPREE試験の一次結果では、プラセボ群と比較してアスピリン群では癌罹患およびステージIVの癌による死亡リスクが高かった→貧血リスクに対するアスピリンの効果が癌罹患とは独立しているかどうかを評価するために、試験期間中の癌イベントを競合リスクとして扱う感度分析を行った。
-アスピリンとHb値の経時的変化の関連を調べるために、予後因子で調整した多変量線形混合効果モデルを用いた。
-予後因子が欠損している参加者は、解析から除外した。
-アスピリンとFer値の関係を調べるために、線形回帰モデルを用いた。
-全解析はITTで。統計ソフトはR ver 4.0 or Stata/SE17を用いた。

●Results
・フォローアップ期間の中央値は各グループ、4.7年(四分位範囲(IQR):3.6-5.7年)。
・各群の特徴:大きな差はない(Table)

各群、平均74歳くらい、オーストラリア在住の白人種が8割強、癌の既往は2割、過去のアスピリン使用歴は1割、CKD 26%、ベースのHb値14.2 g/dl、高血圧74%、NSAIDs使用1割弱、PPI使用24%。

・貧血の発症率:アスピリン群では1000人年あたり51、プラセボ群では1000人年あたり43 と、アスピリン群で有意に高い
・5年以内に貧血を発症する可能性は、アスピリン群で23.5%(95%信頼区間:22.4%-24.6%)、プラセボ群で20.3%(19.3%-21.4%):HR 1.20 (1.12—1.29) ← 癌の発症に関する感度分析や、貧血リスクを上げる要素について調整後も有意なまま。(Fig. 2)

・Hb値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ5年当たり0.6 g/L低下(0.3-1.0 g/L)。(Fig. 3)
・Fer値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ3年目のFer値が45μg/L未満(31例)および100μg/L未満(32例)である可能性が高かった(それぞれ、465例[13%]対350例[9.8%]、1395例[39%]対1116例[31%])。(Fig. 4) (*大田注:Fer<45が、本研究での鉄欠乏の定義)
・試験期間中、465人(2.6%)が少なくとも1回の大出血を経験した: アスピリン群で273例(3.0%)、プラセボ群で192例(2.1%)であった。

●Discussion
・感度分析により、臨床的に重要な出血イベントの差は、貧血の発生やFer値の減少の全体的な差を説明するものではないことが示された。→アスピリン投与群における貧血リスク増加の原因としては、不顕性出血が考えられる。
・不顕性出血の機序としては、アスピリンによる血小板凝集低下作用のほか、COX-1阻害により消化管のプロスタグランジン産生を抑制し粘膜保護作用が低下することで、不顕性の消化管出血を起こすことが想定される。
・アスピリン内服は通常長期になることから、定期的な採血での貧血の評価が必要となるのではないか。

・本研究の限界
-貧血が年1回のレビューの間に試験外の医師によって発見され治療された可能性があり、貧血発生率の過小評価につながった可能性がある。
-臨床的に重大な出血の定義は、病院での治療例のみを含んでおり、外来で治療した重症の鼻出血のような他の出血事象は考慮していない。
-貧血の原因に関するデータはない。

【開催日】2023年9月6日(水)

デノスマブを使用することで成人骨粗鬆症患者の2型糖尿病発症率が下がるか

-文献名-
Houchen L,Sizheng SZ,Licheng Z,et al. Denosumab and incidence of type 2 diabetes among adults with osteoporosis: population based cohort study(デノスマブと成人骨粗鬆症患者の2型糖尿病発症率:集団コホート研究).2023;381.

-要約-
Introduction
骨粗鬆症の治療には抗骨吸収薬が最も広く用いられており、デノスマブは核因子κB受容体活性化因子(RANK)リガンドに対するヒト化モノクローナル抗体であり、骨吸収を抑制する強力な抗骨吸収薬である。最近の研究では、RANKL/RANKシグナル伝達経路とエネルギー代謝との関連が示唆されており、大規模な集団ベースの研究ではRANKLレベルが高いほど5年間の追跡調査期間中に2型糖尿病のリスクが4倍上昇することと関連していた。デノスマブで RANKL シグナル伝達を阻害すると、GLP-1濃度が上昇した。糖尿病患者を対象としたランダム化比較試験は実施されていないが、観察研究の結果からビスホスホネートまたはカルシウム+ビタミンDによる治療者と比較して、デノスマブによる治療を受けた参加者にでは、2型糖尿病または糖尿病予備群の参加者においてグルコースホメオスタシスが改善し、12ヵ月間の糖化ヘモグロビンの統計学的に有意な減少が示唆された。しかし、デノスマブ使用者における2型糖尿病の発症率に関するデータは乏しい。デノスマブが一般集団における2型糖尿病のリスクを減少させるのか、あるいは2型糖尿病の特定の危険因子を有する狭い集団におけるリスクを減少させるのかは、依然として不明である。実際の臨床では、デノスマブ使用者のほとんど(約80%)は、デノスマブに切り替える前に他の抗骨粗鬆症薬(例えば、経口ビスフォスフォネート薬)を使用していた。このような状況では、薬剤を開始した人ではなく、治療を切り替えた人に焦点を絞ったランダム化比較試験が望ましい。無作為化臨床試験がないため、本研究では、実際の臨床現場から得られた観察データを用いて、デノスマブへの切り替えとビスホスホネート経口剤の継続が2型糖尿病発症リスクに及ぼす影響を推定した。
Method
データソースとしてIQVIA Medical Research Data(IMRD)のUKプライマリケアデータベースを用いた。IMRDは、1987年から2021年まで、800以上の開業医から約1800万人分の英国プライマリケア記録を取得している。以前の研究では、臨床研究および疫学研究でのIMRDの有効性が示されている。1995年1月1日から2021年12月31日の間に抗骨粗鬆症薬の投与を受けたすべての患者を含む、対象となりうるコホートを選択した。このコホートから、2010年7月1日から2021年12月31日の間に、デノスマブ(60mg)を開始した人、または経口ビスホスホネート(アレンドロネート10mgまたは70mg(※日本では5㎎or35mg)、イバンドロネート150mg(※日本では100mg)、リセドロネート35mg(※日本では17.5㎎))を投与された人で構成される研究コホートを選択した。次に、デノスマブ使用者を2つのタイプに層別化した:経口ビスホスホネートからデノスマブに切り替えた者と、新規使用者である。切り替え日または使用開始日を指標日とみなした。デノスマブに切り替えた各個人について、経口ビスホスホネートを継続し、指標日の時点で同じ期間経口ビスホスホネートを使用していた最大5人をマッチさせた。新規罹患者については、各デノスマブ使用者を、治療歴のない集団における経口ビスホスホネートの新規罹患者最大5人とマッチさせた。45歳未満、登録日数365日未満、骨ページェット病と診断された人、1型または2型糖尿病の既往のある人、指標日以前に抗糖尿病薬を使用したことのある人は除外した。デノスマブに切り替えた、あるいはデノスマブを開始した患者と最も類似している経口ビスホスホネート使用者を同定するために、傾向スコアを用いた。潜在的交絡因子を選択する根拠は、現在の文献や専門的知識に基づき、対象薬剤とも関連する可能性のある2型糖尿病に関連する変数に焦点を当てた(supplemental Figure3参照)。一般的な健康状態を測定不能な交絡因子とみなし、一般的な併存疾患と関連する併用薬をプロキシとして用いた。また、入院回数や受診回数をプロキシとして、健康増進行動の指標も含めた。欠測カテゴリーを一次解析に含めるという欠測指標アプローチを採用した。次に、複数インピュテーションによる感度分析を行い、欠損情報の影響を検討した。主要アウトカムは2型糖尿病の発症とし、診断コードで定義した。2型糖尿病発症の別の定義では,2型糖尿病の診断コード,抗糖尿病薬の少なくとも2回の処方、空腹時血糖値≧7.0mmol/L(126㎎/dl),ランダム血糖値≧11.1mmol/L(200㎎/dl),糖負荷試験結果≧11.1mmol/L(200㎎/dl)、HbA1c≧6.5%のいずれか1つをエンドポイントとした。参加者は、試験結果の発生、対象薬剤の中止、死亡、プライマリケアクリニックからの転院、5年間の追跡、または試験期間の終了(2021年12月31日)のいずれか先に発生するまで追跡された。マッチさせたコホートのベースラインの特徴を要約するために記述統計を用いた。マッチさせたコホートにおいて、2型糖尿病の罹患率を算出した。Cox比例ハザードモデルを用いて2型糖尿病発症のハザード比と95%信頼区間を推定した。比例ハザードの仮定はKolmogorov supremum検定を用いて検証した。ロバスト推定量を用いて置換マッチングを実施した解析の分散を推定した。さらに、異なる患者特性における2群間の2型糖尿病リスクを検討するために、糖尿病予備軍と肥満で層別化したpost hocサブグループ解析を行った。
Results
デノスマブを開始した人は、経口ビスホスホネートを開始した人よりも若く(平均69対72歳)、女性が多かった(94%対81%)。主要な骨粗鬆症性骨折の既往がある参加者の割合は、デノスマブを開始した参加者の方が経口ビスホスホネートを開始した参加者よりも高かった(51%対30%)。マッチングされた集団において、デノスマブへの変更時あるいは開始時に測定された両群のベースライン特性は同等であり、標準化された差は0.1未満であった。5年間の追跡期間中、2型糖尿病の発生率は、デノスマブ使用者では1000人年あたり5.7(95%信頼区間4.3~7.3)、経口ビスホスホネート使用者では1000人年あたり8.3(7.4~9.2)であった;デノスマブの開始は2型糖尿病のリスク低下と関連していた(ハザード比0.68、95%信頼区間0.52~0.89)(table2およびFigure2)。2型糖尿病の別の定義を用いると、発生率はデノスマブ使用者で1000人年あたり8.5(95%信頼区間6.8~10.4)、経口ビスホスホネート使用者で1000人年あたり11.6(10.6~12.7)(ハザード比0.73、95%信頼区間0.58~0.91)であった。2型糖尿病のリスクが高い人が経口ビスホスホネートよりもデノスマブの方が有益かどうかを検討するために、2型糖尿病の危険因子で層別化したサブグループ解析を行った(Table 3)。糖尿病予備群のサブグループでは、デノスマブは経口ビスフォスフォネートと比較して2型糖尿病のリスク低下と関連していた(ハザード比0.54、95%信頼区間0.35~0.82)。肥満のサブグループでも結果は同様であった(0.65、0.40~1.06)。新規にデノスマブを開始した参加者は、新規に経口ビスフォスフォネートを開始した参加者と比較しても、2型糖尿病リスクが減少した(0.35、0.15~0.79)。
Discussion
デノスマブへの変更または開始は、経口ビスフォスフォネートと比較して2型糖尿病リスクを32%減少させることと関連していた。2型糖尿病のリスクが高い人(例えば、糖尿病予備軍や肥満のある人)がデノスマブを使用した場合、経口ビスフォスフォネートを使用した場合と比較して、糖尿病リスクがさらに低下する可能性がある。デノスマブとは異なり、ビスホスホネート系薬剤は骨に蓄積し、何年も残存することができるため、もしビスホスホネート系薬剤の糖代謝に対するベネフィットが存在するのであれば、ビスホスホネート系薬剤からデノスマブに切り替えた患者には、ビスホスホネート系薬剤に起因するキャリーオーバー効果が持続している可能性がある。デノスマブに切り替えた参加者のうち、以前にビスホスホネート製剤を長期間(3年以上)使用していたサブグループは、以前にビスホスホネート製剤を使用していた期間が短い(3年未満)参加者よりも統計学的に有意に大きな効果を示さなかった(supplemental Table6参照)。さらに、観察されたデノスマブの2型糖尿病リスクに対する効果は、1年から5年まで比較的安定していた(supplemental Table 18参照)。これらの結果は、この研究集団におけるビスホスホネートの強いキャリーオーバー効果を示唆するものではない。
研究の限界
①この観察研究においては、交絡バイアス(例えば、糖尿病の家族歴、骨粗鬆症の原因、適応バイアス)が残存する可能性がある。このようなバイアスを最小化するために、さまざまなアプローチを採用した。さらに薬物の使用は処方箋発行により定義されたが、これは実際の薬物使用を反映していない可能性がある。その結果、薬物使用の誤分類により、研究結果に偏りが生じる可能性がある。ただこのような偏りが生じたとしても、非差別的である可能性が高い。
②我々は治療を受けた参加者の平均治療効果を推定したが、これは仮説試験における平均治療効果と一致しない可能性がある。新規罹患者において、マッチさせた集団と全体集団との間で治療効果に明らかな異質性は観察されなかったが(補足表4参照)、今回の知見をより広い骨粗鬆症患者集団やマッチさせられなかった集団(研究集団の1.1%)に外挿する際には注意が必要であり、今後の研究で確認する必要がある。
③サブグループ解析は事前に規定されていないため、その結果を過度に解釈しないように注意する。
④他の薬剤群(ビスフォスフォネート静注への切り替え、ロモソズマブ、テリパラチド、SERM)も特定の臨床シナリオで使用可能であるため、今後の研究で検討する必要がある。
⑤ターゲットトライアルエミュレーションアプローチは、因果効果を推定し、観察研究の解析を強化することを目的としている。しかし、本研究は実験デザインではないため、結果の因果性の解釈には注意が必要である。
⑥デノスマブコホートにおける実際のイベント数は少なく(表2および補足表19)、平均追跡期間はわずか2年であったため、長期的なベネフィットと離脱効果は、実際のデータがさらに入手可能になるにつれて評価される必要がある。糖尿病患者を対象としたデノスマブの介入試験はまだ行われていないため、本研究は仮説の創出であり、ランダム化比較試験を行う動機付けとなるものと考えられる。
※Supplemental
https://www.bmj.com/content/bmj/suppl/2023/04/18/bmj-2022-073435.DC1/lyuh073435.ww.pdf

【開催日】2023年8月9日(水)

BA.4-5およびBA.1二価mRNA追加免疫ワクチンの安全性

-文献名-
Niklas Worm Andersson. Safety of BA.4-5 or BA.1 bivalent mRNA booster vaccines: nationwide cohort study. BMJ. 2023-075015 on 25 July 2023

-要約-
Introduction:
2022年初秋に、ファイザーBioNTechワクチンコミナティ(BNT162b2、オリジナル株およびオミクロン変異体BA.4-5およびBA.1)、モデルナワクチンスパイクバックス(mRNA-1273、オリジナルおよびBA.1)のいずれかを使用した二価mRNAブースター投与が認可された。これらの二価オミクロンを適応させたmRNA 追加免疫ワクチンは、(元の)一価の最初の追加免疫(つまり、3回目のワクチン投与)の有無にかかわらず、一次ワクチン接種シリーズの完了後の単一の追加免疫として推奨されている。
デンマークでは、2022年9月15日に二価mRNAブースターの展開が開始され、50歳以上のすべての成人と重症の新型コロナウイルス感染症のリスクが高いと考えられる成人に推奨され、提供された。デンマークでは 3 回目の投与 (つまり、1 回目の追加免疫) のワクチン接種率が高いため (対象集団の >90%)、二価 mRNA追加免疫は主に 4 回目の投与 (つまり、2 回目の追加免疫) として投与されている。
適応された二価mRNA追加免疫ワクチンの安全性評価は、主に利用可能な事前承認臨床試験、一価mRNAワクチンの市販後安全性データ、二価 mRNA ワクチンの免疫原性と反応原性に関する臨床データに基づいている。米国疾病管理予防センター(CDC)からの最近の報告の 1 つは、v-safe および二価ワクチンのワクチン有害事象報告システムを通じて初期に報告された安全性所見(主に反応原性に関連する)に関するものとなっている。BA.4-5を含むブースター(3回以上の用量)は、一価ワクチンブースターで以前に観察されたものと類似していた。それにより、二価 mRNA ワクチンに関連する有害事象の潜在的なリスクについて適切に情報を提供するデータが保証されている。
全国コホート研究で、4回目の接種として二価mRNA追加免疫ワクチンを使用したワクチン接種と27件の有害事象のリスクとの関連を調査した。

Method:
デザイン:全国コホート研究(デンマーク)。
参加者:2021年1月1日から2022年12月10日までの期間中に3回のcovid-19ワクチン接種を受けた50歳以上の成人2,225,567人
主要アウトカム測定:二価オミクロン対応mRNA追加免疫ワクチンを4回目の投与としてワクチン接種した後の28日間の主要リスク期間における27の異なる有害事象による来院率を、3回目または4回目以降のワクチン接種から29日目以降の参照期間率と比較した。

Results:
成人1,740,417人(平均年齢67.8歳、標準偏差10.7歳)が4回目の接種として二価mRNAワクチンを受けた。二価mRNAワクチンによる4回目のワクチン接種は、28日以内の27件の有害転帰のいずれの統計的に有意な増加率とも関連しなかった(例:
虚血性心臓イベントの発生率比0.95、95%信頼区間0.87~1.04。比較された28日間と参照期間中で、それぞれ672対9,992のイベント)、年齢、性別、ワクチンの種類に従って分析された場合、または代替の分析アプローチを使用した場合。ただし、事後分析では心筋炎のシグナルが検出されました(女性参加者では統計的に有意)が、結果はまれであり、所見は少数の症例に基づいていた。脳梗塞のリスクは認められなかった(発生率比 0.95、95%信頼区間 0.87~1.05、644対9687)。


図1:研究デザインの概要。主なリスク期間は、4回目のワクチン接種として2価のcovid-19 mRNA追加接種後0日から28日。総参照期間は、3回目の投与後29日以上(4回目の投与の前日まで(つまり、0日から1日を引いた日))および4回目の投与(2回目の追加免疫)から構成された。


図2:2022年9月15日から2022年12月10日までの50歳以上のデンマーク人成人に対する4回目の接種として2価オミクロン適mRNA追加免疫ワクチンを接種してから28日以内の有害事象のリスク。


図3:2022年9月15日から2022年12月10日までの50歳以上のデンマーク人成人を対象とした、2価オミクロン適応mRNA追加免疫ワクチンの4回目接種後28日以内の有害事象のリスクを性別別に示した。


図4:2022年9月15日から2022年12月10日までの50歳以上のデンマーク人成人を対象とした、2価オミクロン適応mRNA追加免疫ワクチンの4回目接種後28日以内の有害事象のリスクを年齢サブグループ別に示した。


図5:2022年9月15日から2022年12月10日までに50歳以上のデンマーク人成人を対象に、2価のオミクロン適応mRNA追加免疫ワクチンを4回目として接種してから28日以内の有害事象のリスク(ワクチンの種類別)。

Discussion:
全国コホート分析において、デンマークの50歳以上の成人1,740,417人を対象に、4回目の接種として受けた二価オミクロン適応mRNA追加免疫ワクチンに関連する27件の有害事象の発生率を評価した。4回目の投与として二価mRNA追加免疫ワクチン接種後の有害事象のリスク増加についての裏付けは見つからなかった。
本研究の限界の1つは、比較した期間間の有害事象の確認における差異を排除できないことである。4回目のワクチン接種後28日間の割合をワクチン接種後29日目からの参照期間の割合と比較するという我々のデザインの積極的な比較特性により、ワクチン接種中の割合との比較とは対照的に、ワクチン接種を受けていない期間の転帰の確認における差異が軽減される可能性がある。しかし、確証バイアスを完全に排除することはできない。具体的には、ワクチン接種から長時間経過した基準期間と比較して、4回目のワクチン接種後の数週間で既知の有害事象(例、心筋炎)に関連する症状に対する意識が増加した。ただし、これにより、観察されたものとは対照的に、結果はリスクの増加に偏ることになる。最後に、評価および実施された分析の広範な結果を考慮すると、複数の検査を考慮していなかったため、偽陽性所見の確率は高かった。ただし、一貫してリスクが増加することは見つからなかった。

結論:
・4回目の接種として二価のオミクロン適応mRNA追加免疫ワクチンを受けた170万人以上の成人を対象としたこのデンマーク全国コホート研究の結果は、ワクチン接種後の重篤な有害事象のリスク増加を裏付けるものではない。
・どの性別、年齢、ワクチンの種類のサブグループでも脳梗塞との関連は認められなかった。
・これらの結果は、二価mRNAワクチンの使用の安全性を裏付けるものです。

【開催日】2023年8月9日(水)

前腕遠位端骨折が疑われる小児におけるポイントオブケア超音波検査とX線検査の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
P J.Snelling. Ultrasonography or Radiography for Suspected Pediatric Distal Forearm Fractures. NEJM. 2023; 388;22

-要約-
Introduction
● 小児の骨折で多いのが若木骨折であり、リストスプリントや整復、固定術等の処置が行われる
● Xp検査がルーチンで行われるが、見落としも多く、また、途上国では利用できないことも多い
● そんな中で骨折に対するPoint-of-care エコー(POCUS)の有用性が近年強調されている
● これまでNonrandomized trialで小児の前腕遠位骨折に対するエコーでの診断が正確かつタイムリーで、被爆の点からも有用であることは示されていた
● ただ、これまでは骨折の初期診断におけるエコーの活用が、Xpと比較し、アウトカムとしての腕の運動機能という点で非劣性であるかどうかは検討されていなかった
● 今回、救急の現場での小児・若年者の骨折の初期診断において、中期的な運動機能という観点でエコーがXpと比較して有用であるかについてrandomized trialを実施した結果を報告する

Method
<対象>
● オーストラリアの4施設共同で、open-label, noninferiority, randomized, controlled trialを実施。
● 施設は、large territory の小児病院、大学病院、混合病院が含まれた
● 救急外来を訪れた5~15歳の小児・若年者が対象
● 急性期の、診察上変形が明らかではない、前腕骨単独の外傷で、骨折が疑われ画像検査が必要な患者が含まれた
● 対象者は、1:1でエコー群、Xp群の2群にランダム化割付された

<プロトコル>
エコー群
● トレーニングされ認証を受けた救急部の医療従事者(Ns practitioner, PT, 救急医)によってエコーを実施(A modified six-view forearm ultrasonography protocol)。
● エコーのタイプはポータブルだったり様々
● エコー後には、骨折なし、若木骨折、その他の骨折の3つのタイプに分類され、その他の骨折には更にincomplete(unicortical or bicortical), complete, そしてSalter-Harris骨折(骨端軟骨板(成長板)の骨折)の3つへ分類された
● その他の骨折、に分類された場合には、エコー後にXpも実施、骨折なし・若木骨折に分類された場合には基本的にその後Xp検査は実施されなかった
Xp群
● 二方向撮影され、放射線技師によって撮影され、まずはその場で対応した医師によって読影された。(後日放射線科医によって読影)
● 画像は骨折なし、若木骨折、その他の骨折に分類された。

● 最終診断は小児放射線科医、小児整形外科医、小児科のフェローシップトレーニングを受けた救急医からなる専門家パネルによってなされた。
● Management principlesは両群間で統一され、初期治療はサイト間で標準化された。
● 骨折なしは医師の最良で保存的に加療され、若木骨折はwrist splintでの加療、その他の骨折は必要に応じて外科的な介入(マニピュレーション、手術)もしくはcast immobilizationを受けた。

<アウトカム>
● Primary outocomeはPROMIS(Patient0-Reported Outcomes Measurement Information System) toolをもとにした4週後の腕の運動機能
※PROMIS toolは、5歳から15歳の小児・若年者を対象に、8項目で腕の運動機能をスコアリングするツール、8~40点で、点数が高いほど良い。今回は5点以上の差を優位とした。
● Key secondary outcomeは、初期診断時に若木骨折であった患者(expert panelで確定)の4週後の腕の運動機能
● その他のsecondary outcomとしては、1週・8週後の運動機能、4週・8週後の満足度(5-point Likert scaleで評価)、1,4,8週後の疼痛(6-point Faces Pain Scale-Revised toolで評価)、合併症の頻度、Xp撮影の頻度、救急外来滞在時間を設定
● Primary analysisは線形回帰モデルを用いて分析された

Result
● 2020年9月から2021年11月まで、total 270名がランダム化割付された。135がエコー群、135がXp群へ。Primary outcome dataはエコー群130名、Xp群132名で評価できた
● ベースラインはTable1の通り

● 診断カテゴリー2群間で差はなし
● エコー群のうち40名がXpも実施した
● 救急外来でのマネジメントも2群間で大きな差はないものの、ギプス固定はエコー群でやや少ない(エコー群23%, Xp群32%)

<Primary outcome>

● 4週後のPROMIS scoreはエコー、Xp群でそれそれ36.4±5.9, 36.3±5.3点(mean difference, 0.1 point; 95% CI -1.3 to 1.4)
● ITT analysisでも同様の結果

<Secondary outcome>

● 1週・8週間後のPROMIS scoreで2群間で有意差なし
● 4週・8週間後の患者もしくはケアギバーの満足度はエコー群で優れる
● エコー群で救急外来滞在時間が短い
● 有害事象の頻度、予約外で(想定外で)救急外来へ帰ってくる割合は2群間で有意差なし

Discussion

● 救急外来での検討であり、施設も大病院に限られているため、今後はプライマリ・ケアのセッティングなどでの検討が臨まれる
● 本研究の限界として、初期診断方法とは別に、その後の治療的介入の違いがプライマリアウトカムに影響を与えることが考えられる。ただし、二群間で診断カテゴリーごとの初期治療等に差は見られなかった
● また、施設が少なく、少数の救急医によってトレーニングされた医療従事者が実施していることも限界の一つ。
● さらに、年齢が5歳から15歳に限定されており、例えば5歳以下で同様の結果かどうかは不明

【開催日】2023年8月2日(水)

保存期(非透析)慢性腎臓病におけるHIF-PH阻害剤とESA製剤の効果について

-文献名-
Junlan Yang, et al. Effects of hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase inhibitors vs.
erythropoiesis-stimulating agents on iron metabolism in non-dialysis-dependent anemic patients with CKD: A network meta-analysis.
Front Endocrinol (Lausanne). 2023; 14: 1131516.

-要約-
【背景】
貧血は慢性腎臓病 (CKD) 患者によく見られる合併症であり、CKD の進行および死亡リスクの増加と密接に関連しています。過去 20 年間、赤血球生成刺激薬 (ESA) と鉄分療法は常に腎性貧血治療の基礎でした。ESA はほとんどの患者の貧血を効果的に改善できますが、腫瘍、心血管イベント、脳血管イベントのリスク増加などの潜在的な副作用が懸念されています。したがって、鉄欠乏を補正し、同時に ESA の投与量を最小限に抑えるために鉄補給が使用されます。機能的鉄欠乏症の患者、つまり貯蔵鉄のレベルが比較的高い患者であっても、フェリチンレベルが 500 ng/ml、さらには 800 ng/ml 未満である限り、血液透析を受けている患者には静脈内鉄療法が行われています。しかし、この種の行為は患者を感染症、アレルギー、さらには鉄過剰症のリスクにさらす可能性があります。低酸素誘導因子プロリルヒドロキシラーゼドメイン阻害剤 (HIF-PHI) は、低酸素誘導因子 (HIF) の分解を阻害し、低酸素に対する体の自然な生理学的反応を活性化することで赤血球生成を促進できる新しいクラスの薬剤です。プロリルヒドロキシラーゼ (PH) 酵素の活性を阻害することにより、HIF-1 および HIF-2 の遺伝子発現を安定化および促進します。これらの遺伝子の作用には、内因性エリスロポエチン (EPO) ホルモンの産生の増加や鉄の恒常性の調節が含まれ、後者の能力は ESA にはない明確な利点であると思われます。いくつかの HIF-PHI が世界的な臨床開発の後期段階で開発されており、そのうちのいくつかは臨床応用が承認されています。複数の臨床研究では、HIF- PHIが ESA と同等のヘモグロビン (Hb) レベルを増加させる可能性があることが示されていますが、鉄代謝に対するその効果は明確には解明されていません。

【目的】
非透析依存性慢性腎臓病(NDD)を有する腎性貧血患者の鉄代謝に対する5種類の低酸素誘導因子プロリルヒドロキシラーゼドメイン阻害剤(HIF-PHI)、2種類の赤血球生成刺激薬(ESA)、およびプラセボの鉄代謝に対する効果を比較すること。

【方法】
研究のために 5 つの電子データベースが検索されました。NDD-CKD患者を対象にHIF-PHI、ESA、プラセボを比較したランダム化対照臨床試験が選択されました。ネットワーク メタ分析に使用された統計プログラムは Stata/SE 15.1 でした。主な結果は、ヘプシジンとヘモグロビン (Hb) レベルの変化でした。介入措置のメリットは累積順位曲線法により表面的に予測されました。

【結果】
選択された 1,589 のオリジナル タイトルのうち、データは 15 件の試験 (参加者 3,228 人) から抽出されました。すべての HIF-PHI および ESA は、プラセボよりも優れた Hb値の上昇能力を示しました。それらの中で、デジデュスタット(desidusat) は Hb を増加させる最も高い確率 (95.6%) を示しました。HIF-PHI と ESAで比較して、ヘプシジン (平均偏差:MD = -43.42, 95%CI: -47.08 ~ -39.76)、フェリチン (MD= -48.56, 95%CI: -55.21 ~ -41.96)、およびトランスフェリン飽和度 (MD = -4.73, 95%CI: -5.52 ~ -3.94)は減少を示し 、トランスフェリン (MD = 0.09、95%CI: 0.01 ~ 0.18) および総鉄結合能 (MD = 6.34、95%CI: 5.71 ~ 6.96) は増加しました。 さらに、この研究では、HIF-PHI のヘプシジンを減少させる能力の不均一性が観察されました。ダルベポエチンと比較して、ヘプシジンレベルを大幅に低下させることができたのはダプロデュスタット(daprodustat) (MD = –49.09、95% CI: –98.13 ~ –0.05) だけでした。

【考察】
この研究は、貧血と鉄調節異常の矯正に対する 5 つの HIF-PHI、2 つの ESA、およびプラセボの効果を比較する最大規模のネットワークメタ分析です。この研究に含まれる5つの HIF-PHI の貧血を補正する能力はすべてESA に劣りません。さらに、デシダスタットは最も強力な Hb 増加能力を示しました。この研究では、鉄代謝に対するさまざまな種類の薬物の調節効果を分析する際に、5つの HIF-PHI を1つのグループとして、2つの ESA をもう 1つのグループとして取り上げたため、結論がより推定的になりました。この研究の結果は、プラセボやESAと比較して、HIF-PHIはヘプシジン、TSAT、フェリチンを有意に減少させ、トランスフェリンとTIBCを増加させるが、血清鉄は変化させないことを示した。このネットワークメタ分析では、異なる HIF-PHI のヘプシジンを減少させる能力の不均一性も観察されました。
ESAは現在、腎性貧血の治療に最も広く使用されている薬です。潜在的な心血管イベントや脳血管イベントのリスクを考慮しなくても、ESA反応低下として知られる長期間炎症状態にある一部の患者は、ESAに反応せず、貧血を改善する能力が理想的ではありません。酸素の感知と適応のメカニズムは、生命の最も重要なメカニズムの1つです。30年前、HIFは EPO 産生を増加させ、低酸素状態の貧血を是正するための重要な要素であることが発見されました。酸素レベルが低下すると、HIF-α サブユニットが蓄積し、HIF-β と二量体化して機能的な転写因子 HIF-1 および HIF-2 を形成します。これらは、EPO 遺伝子および鉄吸収関連のコード化に関与するその他の遺伝子の発現を直接制御することができます。たんぱく質を摂取することで貧血を改善します。十分な酸素の存在下では、HIF は HIF-PH 酵素によって水酸化され、ユビキチン化によって分解されます。HIF-PHI は、低酸素に対する体の自然な生理学的反応をシミュレートすることによって HIF の分解を阻害する、新しい種類の貧血治療薬です。以前のネットワークメタ分析 (2,768 人の患者) において、HIF-PHIはESAと同様の貧血治療効果があり、ある程度安全であると報告しました。しかし、サンプルサイズが小さいことと、異なる HIF-PHI 間の直接の直接比較が欠如していることにより、その研究結果の精度と臨床的価値は限られていました。このネットワークメタ分析には、新しく発表された 4つの大規模研究 (これら 4つの研究には 1,783 人の NDD-CKD 腎性貧血患者が含まれていた) が登録され、結果の精度が向上し、結論のさらなる外挿が可能になりました。この研究では、含まれている 5つの HIF-PHI が貧血を改善する能力において ESA よりも劣っていないことが結果により示され、デシダスタットは ESA よりも強力な Hb レベル上昇能力さえ示しました。
このネットワークメタ分析にはいくつかの制限がありました。第一に、含まれた試験の一部は二重盲検法を使用していませんでしたが、この研究の含まれた結果には統一された基準があり、主観的な要因によって簡単に変更されにくいことを考慮して、非二重盲検試験は除外していません。第二に、対象となった試験間の追跡期間はまったく異なっていました。したがって、この研究では、さまざまな投与段階での患者の鉄代謝を正確に観察できませんでした。ただし、ほとんどの HIF-PHI がまだ臨床使用として承認されていないことを考慮すると、この研究には投与期間が短いいくつかの第 II 相試験が含まれています。最後に、対象となった試験の被験者のCKD状態には差があり、それが被験者の鉄代謝状態を異なるものにしている可能性があります。しかし、計算してみると、この差は不均一性に関する統計的基準を満たしていないことが判明しました。したがって、この研究では包含基準と除外基準を調整しませんでした。
結論として、この研究の結果は、機能的鉄欠乏症のNDD-CKD患者の治療においてHIF-PHIが第一選択となるべきであることを示唆していました。さらに、治療計画を立てる際には、鉄代謝を補正するための HIF-PHI の潜在的な不均一性を十分に考慮する必要があります。

【開催日】2023年8月2日(水)

心血管疾患リスクのある成人における地中海食の健康効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Karam G, et al.Comparison of seven popular structured dietary programmes and risk of mortality and major cardiovascular events in patients at increased cardiovascular risk: systematic review and network meta-analysis. BMJ. 2023;380:e072003.

-要約ー
【Introduction】
世界中で、成人死亡の22%、障害調整生存年の15%が食生活に起因すると推定されている。これが事実であれば、食事は死亡および重大な罹患の主要な原因である。医療者たちは、食事療法が主要な心血管イベントを減少させることを提唱している。これらの食事療法には、総脂肪または飽和脂肪の少ない食事療法(例えば、National Cholesterol Education Programの食事療法)、地中海式食事療法、およびDietary Approaches to Stop Hypertension(DASH)食事療法が含まれる。
食事療法のガイドラインは、多くの食事療法プログラムが主要な心血管イベントのリスクを低下させる可能性があることを示唆しているが、それらは一般的に、代替アウトカム、または非ランダム化試験デザインから得られた確信度の低い、または非常に低いエビデンスに依存している。
無作為化対照試験のペアワイズメタ解析では、いくつかの食事療法および食事療法プログラムが心血管イベントを減少させることが示唆されているが、死亡率への有益な影響は不明である。 現在までのところ、無作為化対照試験を系統的に要約し、構造化された食事療法プログラムが死亡率および主要な心血管イベント(例えば、脳卒中および心筋梗塞)に及ぼす影響を比較したネットワークメタ解析は不足している。ネットワークメタ解析の手法により、直接比較されていない介入を比較するための直接的エビデンス(積極的介入対直接比較)および間接的エビデンス(介入対非積極的対照)の使用が可能となり、より正確な要約推定値を得ることができる。したがって、死亡率および主要な心血管転帰の予防のための構造化された名前付き食事プログラムを比較するために、ランダム化対照試験の系統的レビューおよびネットワークメタ解析を実施した。

【Method】
DATA SOURCE:SAMED (Allied and Complementary Medicine Database), CENTRAL (Cochrane Central Register of Controlled Trials), Embase, Medline, CINAHL (Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature), and ClinicalTrials.gov were searched up to September 2021.

STUDY SELECTION:心血管疾患のリスクが高い患者を対象としたランダム化試験で、
食事プログラムと最小限の介入(例えば、健康的な食事のパンフレットをもとに指導)又は代替プログラムを、少なくとも9ヵ月追跡し死亡率または主要な心血管イベント(脳卒中または非致死的心筋梗塞など)について比較したもの。
食事介入に加えて、食事プログラムには運動、行動支援、薬物治療などの他の二次介入も含まれうる。

OUTCOMES AND MEASURES:全死因死亡率,心血管死亡率,個々の心血管イベント(脳卒中,非致死的心筋梗塞,計画外の心血管インターベンション)。

REVIEW METHODS:2人1組のレビュアーが独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。各結果のエビデンスの確実性を決定するために、頻出主義的アプローチとGRADE(grading of recommendations assessment, development and evaluation)法を用いてランダム効果ネットワークメタ解析を行った。
※ネットワークメタアナリシスhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/hct/9/3/9_20-002/_pdf

【Results】
7つの食事プログラム(低脂肪、18試験;地中海、12試験;超低脂肪、6試験;修正脂肪、4試験;低脂肪と低ナトリウムの併用、3試験;Ornish、3試験;Pritikin、1試験)において、35,548人の参加者を対象とした40の適格試験が同定された。
最後に報告された追跡調査において、中程度の確からしさで、地中海食プログラムは最小限の介入よりも 全死亡(5年間の追跡1000人当たりのリスク差は17人減少)、心血管系死亡(1000人当たり13人減少)、脳卒中(1000人当たり7人減少)、非致死的心筋梗塞(1000人当たり17人減少)の予防において優れていることが証明された。
中程度の確実性のエビデンスに基づくと、低脂肪プログラムは、全死因死亡(1,000人当たり9人減少)および非致死的心筋梗塞(1,000人当たり7人減少)の予防において、最小限の介入よりも優れていることが証明された。
両食事プログラムの絶対的効果は高リスク患者ほど顕著であった。死亡率または非致死的心筋梗塞については、地中海料理プログラムと低脂肪食プログラムとの間に説得力のある差はみられなかった。
残りの5つの食事療法プログラムは、通常、低~中程度の確実性のエビデンスに基づく最小限の介入と比較して、一般的にほとんど有益性がなかった。

<中リスク患者で>

<高リスク患者で>

【Discussion】
主な所見
食事プログラムに関するネットワークメタ解析の結果、死亡アウトカム、非致死的心筋梗塞、脳卒中については、中程度の確実性のエビデンスに基づき、地中海食プログラムが最小限の介入よりも優れていた。低脂肪食プログラムはまた、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、および計画外の心血管インターベンションの予防に関して、低~中程度の確実性で最小限の介入よりも優れていた。互いに比較した場合、死亡率または非致死的心筋梗塞の予防において、地中海食プログラムが低脂肪食プログラムより優れているという説得力のあるエビデンスは認められなかった。その他の食事プログラム(超低脂肪、低脂肪と低ナトリウムの併用、修正脂肪、Ornish、Pritikin)は、高リスク患者における脳卒中予防のための低脂肪と低ナトリウムの併用プログラムを除いては、最小限の介入よりも優れているという説得力のある証拠を示さなかった(図1および図2)。

本研究の長所
・主要な心血管イベントの予防のための食事プログラムに関する系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。
・中リスクおよび高リスクの心血管患者の各アウトカムに対する各食事プログラムの比較性能の透明で明確なプレゼンテーションを提供した(図1および図2)。特に、我々の結果は、地中海料理と低脂肪の食事プログラムに起因する絶対的なリスク減少(5年間の追跡で1000人当たり9-36件のイベント減少)について、中程度の確実性のエビデンスを確立した。
・データ提示を伴うこれらの所見は、食事療法が望ましいかどうか懐疑的な患者にとって非常に重要である。

本研究の限界
・プロトコルで規定された食事プログラムの分類を修正し、脂肪を30%以下のカロリー摂取量に減らすことを目標とした標準的な低脂肪プログラムと、20%以下のカロリー摂取量を目標としたプログラムを区別した。
・薬物治療や禁煙などの併用療法を伴う食事療法プログラムを組み込んだことで、少なくとも部分的には併用療法による効果があった可能性がある。(いずれの係数も統計的に有意ではないとしている。)
・食事療法プログラムの解析にアドヒアランスを系統的に組み入れることができなかった

ベースラインリスクが高い患者において、地中海食プログラムが低脂肪食プログラムと比較してこれらの心血管アウトカムのそれぞれを減少させることがわかった。しかしながら、我々のネットワークメタ解析に基づくと、これらのアウトカムに関するエビデンスの確実性はそれぞれ、非常に低い、低い、中等度であり、全体として、低脂肪プログラムに対する地中海食の有益性に関する説得力のあるエビデンスはないという結論に至った。中程度の確実性のエビデンスに基づくと、脳卒中の転帰に関しては、低脂肪プログラムよりも地中海食プログラムの方が有益である可能性があることに留意しなければならない。

【開催日】2023年7月5日(水)

HFpEFに対するSGLT2阻害薬の効果(EMPEROR-Preserved試験)

-文献名-
S.D. Anker, J. et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction.
N Engl J Med 2021;385:1451-61.

-要約-
【背景】
SGLT2阻害薬は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者の心不全による入院リスクを低下させるが、駆出率が維持された心不全(HFpEF)患者における効果は不明である。
【方法】
23カ国622施設の多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、18歳以上の駆出率40%以上、NIHAクラスII~IV度、NTproBNP300pg/mL以上(AFがある場合は900pg/mL以上)の心不全患者5988例を、通常の治療に加えてエンパグリフロジン(10mgを1日1回投与)とプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要アウトカムは心血管死または心不全による入院の複合とした。

【結果】
中央値26.2ヵ月間で、主要評価項目はエンパグリフロジン群2997例中415例(13.8%)、プラセボ群2991例中511例(17.1%)に発現した(ハザード比、0.79;95%信頼区間[CI]、0.69~0.90;P<0.001)。この効果は主にエンパグリフロジン群における心不全による入院リスクの低下に関連していた。エンパグリフロジンの効果は糖尿病の有無にかかわらず一貫していた。心不全による入院の総数は、エンパグリフロジン群でプラセボ群より少なかった(エンパグリフロジン群407例、プラセボ群541例、ハザード比、0.73;95%CI、0.61~0.88;P<0.001)。合併症のない性器感染症および尿路感染症、低血圧はエンパグリフロジンで多く報告された。

【結論】
エンパグリフロジンは,糖尿病の有無にかかわらず,駆出率が維持された心不全患者において心血管死または心不全による入院の複合リスクを減少させた。(Boehringer Ingelheim社とEli Lilly社が資金提供)
【考察】
心血管死亡や全死亡では有意差が出なかった、死亡以外の治療中断例が全体の23%あった、などいくつか限界あり。

【開催日】2023年7月5日(水)

犯罪被害者の心理とその援助について

―文献名
前田真比子, and マエダマイコ. “犯罪被害者の心理とその援助について.” 大阪大学教育学年報 4 (1999): 115-126.

―要約
【要 旨 】
犯罪は、被害者に対して身体的、経済的、社会的に様々な被害を与え、とりわけ精神面での被害は極めて大きく、深刻な問題を生じている。更に周囲の不適切な対応で、被害者は事件後も二重三重の被害にさらされ続けることになる。このような犯罪被害者に対する援助、特に心理的援助を行なうための研究や実践は、欧米に比べて日本は立ち後れている。                                                                 本論文では、第一に犯罪被害者の心理について、被害者のこうむる二次的被害と被害後の心理的反応を中心に述べ、第二に犯罪被害者に対する心理的援助について、まず被害者の回復過程を説明した上で、心理的援助の方法や自助グループの役割について論じている。今後被害者を取り巻く司法、医療、報道などの機関や被害者支援のボランティア組織など、様々な機関において、二次的被害を防ぎ、被害者の回復を援助するための活動が、十分に展開されていくことが望まれる。        

【被害者の心理】
A被害者化-
第一次被害者化、
第二次被害者化(周囲の誤った対応で精神的、社会的に傷つけられること)
第三次被害者化(事件を契機に社会生活を送るのに精神的、物質的に支障をきたすこと)             
B精神的被害―
PTSD、恥、自責、服従(無力となり卑小になってしまった感覚)、加害者に対する病的な増悪、
逆説的な感謝(加害者に向けられる愛情・同一化)、汚れてしまった感じ、性的抑制、諦め、二次受傷、社会経済状況の低下     

【被害者の心理的援助】

A回復の過程 
・知的認識と喪失の説明 → 情緒的受容 → 新しいアイデンティティーの獲得
・安全(身体の統御、ついで環境の統御)→ 想起と服喪追悼(外傷ストーリーを十分語り、その作業によって外相記憶が形を変え、被害者の生活史に統合される段階) →  再結合   
・社会対処モデル:対処レパートリー、問題状況の定義、対処過程、結果、フィードバック過程

B心理的援助の方法
   *被害者の方のニーズによる:経済的援助、精神的援助、情報提供なのか・・・
   ・理不尽な出来事について、繰り返し繰り返し話すことができる(ただし、話したいという時と、触れられたくないという時がある)
   ・悲しみ、怒り、苦しみ、憤りなど、すべての感情を否定されることなく、受け入れてもらえること
    ・同じ境遇や苦痛を切り抜けてきた人と一緒に、心置きなく感情を分かち合い、話し合えること 

C自助グループの役割 

《開催日》2023年6月14日(水)